(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397666
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】排障器
(51)【国際特許分類】
B61F 19/02 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
B61F19/02
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-132039(P2014-132039)
(22)【出願日】2014年6月27日
(65)【公開番号】特開2016-10985(P2016-10985A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000196587
【氏名又は名称】西日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113712
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和馬
(72)【発明者】
【氏名】田邊 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】柏木 啓太
(72)【発明者】
【氏名】楠本 千年
(72)【発明者】
【氏名】河野 勉
(72)【発明者】
【氏名】藤本 二生
【審査官】
諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−293238(JP,A)
【文献】
特開2000−006806(JP,A)
【文献】
実開平06−027420(JP,U)
【文献】
特開平09−104301(JP,A)
【文献】
特開2013−123951(JP,A)
【文献】
特開2011−105227(JP,A)
【文献】
特開2006−056404(JP,A)
【文献】
特開平06−227393(JP,A)
【文献】
特開平09−315240(JP,A)
【文献】
特開2000−120037(JP,A)
【文献】
特開平06−119048(JP,A)
【文献】
実開昭61−071570(JP,U)
【文献】
国際公開第2008/060220(WO,A1)
【文献】
米国特許第02114721(US,A)
【文献】
米国特許第01345916(US,A)
【文献】
米国特許第01397825(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 19/00−19/06
B60R 19/54−19/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道におけるレール上の障害物を排除するための排障器であって、
レール上の障害物に当てるための排障部と、前記排障部を台車に支持する支持部とを備え、
前記排障部は、レール頭部の上方における軌道中心側に偏倚した位置に設けられ、障害物に当たる打面が、レール中心線より軌道中心側に偏在することを特徴とする排障器。
【請求項2】
前記排障部は、障害物に当たる打面が、軌道中心線に対して斜め外側を向いていることを特徴とする請求項1に記載の排障器。
【請求項3】
前記排障部は、障害物に当たる打面が、該排障部の前端であり、軌道中心線に対して垂直であることを特徴とする請求項1に記載の排障器。
【請求項4】
前記排障部は、可撓性材料から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の排障器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道におけるレール上の障害物を排除するための排障器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、排障器を有する鉄道車両がある(例えば、特許文献1参照)。排障器は、鉄道車両の台車に設けられ、レール上に石等の障害物がある場合、障害物を排除し、車輪が障害物を踏まないようにするものである。例えば、在来線において、
図11及び
図12に示されるように、排障器101として、鉄板111を、車両進行方向に平行、かつ、レール2の上方におけるレール中心線C上に配置したものが用いられている。このような排障器101は、鉄板111の前端で障害物を撥ね飛ばし、車輪3が障害物を踏まないようにする。
【0003】
レール上の障害物のほとんどは、レール2に置かれた石、すなわち置石である。置石は、鉄道の安全性を阻害するだけでなく、排障器101で撥ね飛ばされた場合、飛距離や飛ぶ方向によって線路外まで飛ぶおそれがあり、軌道外側方向の飛距離が大きいと、沿線における安全上の問題も生じる。
【0004】
レール頭部からの排障器101の離隔距離Sは、台車が上下振動しても鉄板111がレール2に当たらないように、例えば、75mm〜100mm程度に設定される。この離隔距離Sを短縮すると、より小さい障害物を排障器101で排除することができる。しかしながら、小さい障害物は、軽いので、排障器101で撥ね飛ばされた場合、飛距離が大きくなる。
【0005】
なお、先頭の車体下部に設けられる排障装置も排障器と呼ばれることがある(例えば、特許文献2参照)。このため、上述したような台車に設けられる排障器101は、先頭の車体下部に設けられる排障器と区別するために、補助排障器とも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−227393号公報
【特許文献2】特開平9−315240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決するものであり、排除する障害物の軌道外側方向の飛距離が低減される排障器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の排障器は、鉄道におけるレール上の障害物を排除するためのものであって、レール上の障害物に当てるための排障部と、前記排障部を台車に支持する支持部とを備え、前記排障部は、レール頭部の上方における軌道中心側に偏倚した位置に設けられ
、障害物に当たる打面が、レール中心線より軌道中心側に偏在することを特徴とする。
【0009】
この排障器において、前記排障部は、障害物に当たる打面が、
軌道中心線に対して斜め外側を向いていることが好ましい。
【0010】
この排障器において、前記排障部は、障害物に当たる打面が、
該排障部の前端であり、軌道中心線に対して
垂直であってもよい。
【0011】
この排障器において、前記排障部は、可撓性材料から成ることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の排障器によれば、排障部は、レール頭部の上方における軌道中心側に偏倚した位置に設けられるので、障害物の重心よりも軌道中心側に当たる。このため、障害物に与えられる運動エネルギーは、一部が回転運動エネルギーになり、並進運動エネルギーが小さくなり、軌道外側方向の速度成分も小さくなり、軌道外側方向の飛距離が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る排障器を示す側面図。
【
図4】同排障器による障害物の排除を説明する平面図。
【
図5】同排障器で排除される障害物の速度成分の目標値を例示する図。
【
図6】同排障器の試験における測定データを示すグラフ(速度100km/h、θ=15°)。
【
図7】同試験における測定データを示すグラフ(速度100km/h、θ=30°)。
【
図8】同試験における測定データを示すグラフ(速度100km/h、θ=0°)。
【
図9】同試験における測定データを示すグラフ(速度130km/h、θ=0°)。
【
図10】同試験における測定データを示すグラフ(速度130km/h、θ=15°)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る排障器を
図1乃至
図4を参照して説明する。
図1に示されるように、排障器1は、鉄道におけるレール2上の障害物を排除するためのものである。排障器1は、排障部11と、支持部12とを備える。排障部11は、レール2上の障害物に当てるためのものである。支持部12は、排障部11を台車(図示せず)に支持する。
図2及び
図3に示されるように、排障部11は、レール頭部21の上方における軌道中心側(−Y方向)に偏倚した位置に設けられる。
【0015】
排障部11は、障害物に当たる打面11aが、レール中心線Cより軌道中心側(−Y方向)に偏在する。
【0016】
排障部11は、障害物に当たる打面11aが、軌道中心線に対して斜め外側を向いている。
【0018】
排障器1の各構成をさらに詳述する。排障部11は、本実施形態では、可撓性材料であるゴムを板状に成形した板ゴムである。排障部11は、可撓性プラスチックを成形したものであってもよい。
【0019】
支持部12は、金属製の腕状部材であり、基端部が台車の台車枠に固定され(図示せず)、先端側で排障部11を保持することにより、排障部11を台車に支持する。支持部12の形状及び大きさは、台車の形状等に応じて設定される。
【0020】
排障部11は、車輪3が障害物4を踏まないようにするため、先頭の車輪3よりも前方(X方向)に設けられる(
図1参照)。なお、車両の進行方向は、X方向である。
【0021】
排障部11は、支持部12で台車に支持されることによって、レール2に対して、上下方向(Z方向)及びマクラギ方向(レールの長手方向に直交するY方向)の位置が決まる(
図3参照)。レール2上の障害物は、レール頭部21に載った石等であるので、排障部11は、レール2に対する上下方向(Z方向)において、レール頭部21の上方に位置する。排障部11は、マクラギ方向(Y方向)において、軌道中心側(−Y方向)に偏倚して設けられる。鉄道における軌道は、一対のレールを有する。軌道中心とは、両側のレールの中心である。
【0022】
排障部11の打面11aは、本実施形態では平面である。打面11aは、平面視で、レール中心線Cに対して斜めであり、成す角度θ(ヨー角)は、例えば15°である(
図2参照)。軌道中心線とレール中心線Cとは平行であるので、打面11aは、平面視で、軌道中心線に対して斜めになる。軌道中心線とは、両側のレールの中心を結んだ線である。打面11aの向きは、軌道中心線に対して斜め外側である。
【0023】
上記のように構成された排障器1による障害物の排除について、
図4を参照して説明する。排障器1の排障部11は、鉄道車両の走行によって、前方(X方向)に移動する。排障部11は、レール上の障害物4に当たる。障害物4は、排障部11から運動エネルギーが与えられる。排障部11は、レール頭部の上方における軌道中心側に偏倚した位置に設けられるので、障害物4の重心よりも軌道中心側(−Y方向)に当たる。このため、障害物4に与えられる運動エネルギーは、並進運動エネルギーと回転運動エネルギーとの和になり、障害物4の並進運動は、前方向速度成分Vxと、軌道外側方向の速度成分Vyとを有する。障害物4は、前方の軌道外側に飛ばされ、レール上から排除される。排除される障害物4は、与えられる運動エネルギーの一部が回転運動エネルギーになり、並進運動エネルギーが小さくなり、軌道外側方向(+Y方向)の速度成分Vyも小さくなり、軌道外側方向の飛距離が低減される。
【0024】
なお、レール上の障害物4は、大きさ、形状、及びレール上の姿勢が様々であるので、障害物4における排障部11が当たる部分と重心との位置関係には、ばらつきが生じる。このため、上述した力学的な作用は、統計的に成り立つことになる。
【0025】
排障部11は、打面11aがレール中心線Cより軌道中心側に偏在するので、障害物4の重心よりも軌道中心側に当たり、障害物4は、回転しながら前方の軌道外側に飛ばされ、レール上から排除される。障害物4は、与えられる運動エネルギーの一部が回転運動エネルギーになり、並進運動エネルギーが小さくなり、軌道外側方向(+Y方向)の速度成分Vyも小さくなり、軌道外側方向の飛距離が低減される。
【0026】
排障部11は、打面11aが軌道中心線に対して斜め外側を向いているので、障害物4に対してかすめるように当たり、障害物4は、回転しながら前方の軌道外側に飛ばされ、レール上から排除される。障害物4は、与えられる運動エネルギーの一部が回転運動エネルギーになり、並進運動エネルギーが小さくなり、軌道外側方向(+Y方向)の速度成分Vyも小さくなり、軌道外側方向の飛距離が低減される。
【0027】
排障部11は、可撓性材料から成るので、もしレール2に当たっても、弾性変形し、台車の走行安全性に影響を与えない(
図3参照)。このため、レール頭部21からの排障部11の離隔距離Sを小さくすることができ、より小さい障害物4を排障器で排除することができる。本実施形態では、離隔距離Sは、例えば、30mmであり、台車の上下変位を考慮して、通常は排障部11がレール頭部21に当たらない距離である。このような離隔距離Sの設定により、100g〜150g程度の質量を有する石が排障器1によって排除される。100g程度の石は、飛びやすい。排障部11は、軌道中心側に偏倚した位置に設けられるので、小さい障害物4が排除されるときの軌道外側方向の飛距離の増大が抑制される。
【0028】
本発明の排障器1について、障害物を排除する試験を行った。この試験は、雪害防止実験所(公益財団法人鉄道総合技術研究所塩沢雪害防止実験所)で行い、スノープラウの排雪力を測定するための試験装置を、排障器1による障害物の排除試験に利用した。排障器1を試験装置で直線運動させ、排障部11を所定の速度で障害物に当てた。排障器1の速度は、100km/h及び130km/hとした。レール頭部からの排障部11の離隔距離は、30mmとした。障害物は、質量100gのバラストとした。排障部11は、平らな板ゴム1枚とした。ゴムには、硬度Hs90のクロロプレンゴム(CR90)を用いた。排障部11の板ゴムの厚さt、及びレール中心線Cに対する角度θを変えて試験した(
図2参照)。板ゴムの厚さtは、10mm、12mm、15mm、20mmとした。角度θは、0°、15°、30°、45°とした。なお、板ゴムのレール中心線Cに対する角度θが15°、30°、45°の場合、軌道中心線に対して斜め外側を向いている打面11aが障害物に当たる(
図4参照)。板ゴムのレール中心線Cに対する角度θが0°の場合、排障部11の前端が障害物に当たるので、打面は軌道中心線に対して垂直になる。
【0029】
排障部11の板ゴムの硬度、厚さt、及び角度θは、排障器1で排除される障害物4の前方向速度成分Vx及び軌道外側方向の速度成分Vyが適切な範囲となるように設定することが望ましい。前方向速度成分Vxが大き過ぎると、障害物4が勢いよく前方に飛び、マクラギに当たって跳ね上がり、車両に当たることがある。前方向速度成分Vx及び軌道外側方向の速度成分Vyが小さ過ぎると、車輪が障害物4に追い付いて障害物4を踏む。軌道外側方向の速度成分Vyが大き過ぎると、軌道外側方向の障害物4の飛距離が大きくなり、障害物4が軌道外に出ることがある。障害物4の前方向速度成分Vx及び軌道外側方向の速度成分Vyの目標値を、排障器1の速度(列車速度と同じ)が100km/hの場合を例に、
図5を参照して説明する。矢印A1で示される領域は、障害物がマクラギに当たって跳ね上がらないための目標値である。矢印A2で示される領域は、車輪が障害物を踏まないための目標値である。矢印A3で示される領域は、障害物が軌道外に出ないための目標値である。これら全ての目標値を同時に完全に満たすことは難しいので、測定データがこれらの目標値に近いかどうかを総合的に評価した。なお、本試験では、前方向速度成分Vx及び軌道外側方向の速度成分Vyの初速をカメラ撮影により測定した。
【0030】
測定データの代表例として、排障器1の速度が100km/h、排障部11の板ゴムのレール中心線Cに対する角度θが15°の場合の前方向速度成分Vx及び軌道外側方向の速度成分Vyの測定データを
図6に示す。板ゴムの厚さtが15mmのとき、速度成分Vx及びVyが目標値に近かった。板ゴムの厚さtが20mmのとき、軌道外側方向の速度成分Vyが大きかった。
【0031】
図7に示されるように、排障器1の速度が100km/h、角度θが30°の場合も、板ゴムの厚さtが15mmのとき、速度成分Vx及びVyが目標値に近かった。板ゴムの厚さtが20mmの場合、軌道外側方向の速度成分Vyが大きかった。角度θが45°の場合も同様の傾向であった(図示せず)。板ゴムの厚さtが20mmの場合、15mmの場合と比べて排障部11の剛性が高くなり、障害物に与えられる並進運動の運動エネルギーが大きくなると考えられる。
【0032】
図8に示されるように、排障器1の速度が100km/h、角度θが0°の場合、角度θが0°でない場合と比べて、前方向速度成分Vxが大きかった。板ゴムの前端で障害物を前方に飛ばしたためと考えられる。
【0033】
図9に示されるように、排障器1の速度が130km/h、角度θが0°の場合、軌道外側方向の速度成分Vyのばらつきが大きかった。板ゴムの前端が障害物と当たる時の板ゴムの変形によって、測定データがばらついたと考えられる。
【0034】
図10に示されるように、排障器1の速度が130km/h、角度θが15°の場合、角度θが0°の場合と比べて、軌道外側方向の速度成分Vyのばらつきが小さかった。板ゴムが障害物4に対してかすめるように当たるので、板ゴムの打面11aが障害物と当たる時の板ゴムの変形が少ないためと考えられる。
【0035】
この試験の結果、排障部11の板ゴムの硬度がHs90の場合、厚さtは15mm程度、板ゴムのレール中心線Cに対する角度θは15°〜45°程度が好ましいことがわかった。
【0036】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、排障部11の硬度、厚さ、レール中心線Cに対する角度θは、上記の試験で得られた値に限定されず、排障器1の使用速度(列車速度)、障害物の速度の目標値等に応じて、適宜に設定すればよい。また、排障部11の打面11aは、曲面であってもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 排障器
11 排障部
11a 打面
12 支持部
2 レール
21 レール頭部
C レール中心線