(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
幅方向に長くスラリーを溜める空間からなる第1のマニホールドと、当該幅方向に広いスリットを経由して当該第1のマニホールドと繋がり、スラリーを基材に対して吐出する吐出口とが形成されたダイと、
前記第1のマニホールドに連通している流入部から前記第1のマニホールドにスラリーを供給する供給手段と、
前記スリットの前記第1のマニホールドと前記吐出口との間に設けられ、前記幅方向に長く前記第1のマニホールドよりも容積が小さい第2のマニホールドと、
前記第2のマニホールドと繋がり、スラリーを流出させ、もしくは流入させることにより前記吐出口からのスラリーの吐出量を調整する調整部と、
を有し、
前記ダイは、前記スリットの延びる方向が鉛直方向を除く方向であるように設けられ、
前記スリットの延びる方向を基準として、前記第2のマニホールドは、下部は前記スリットを形成する面と面一の平坦面であり、また、前記スリットとの接続部より上の部分は角部を有しないことを特徴とする、電池用極板の製造装置。
前記第2のマニホールドの前記スリットとの接続部より上の部分が有する前記幅方向の断面の輪郭は、半円であることを特徴とする、請求項1に記載の電池用極板の製造装置。
前記第2のマニホールドの前記スリットとの接続部より上の部分が有する前記幅方向の断面の輪郭は、中心角が180度未満の円弧であることを特徴とする、請求項1に記載の電池用極板の製造装置。
前記スリットは水平方向に延び、前記第1のマニホールドから前記吐出口まで水平方向にスラリーを送ることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の電池用極板の製造装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のとおり、スラリーには活物質等が含まれており、活物質等は混合され分散されているが、スラリーの処方の仕方や組成等により特性が異なり、長時間にわたって分散された状態が続くスラリーもあれば、短時間で固形成分が沈殿したり凝集したりする不安定なスラリーもある。
【0005】
このようなスラリーを基材に塗布するためのダイには、前記特許文献1に開示されているように、幅方向に長いマニホールド(液溜め部)と、このマニホールドに繋がるスリットとが形成されており、スラリーは、マニホールドに供給され、マニホールドからスリットを通じて基材に対して吐出される。スリットは、基材の幅方向に沿って均一な量でスラリーが吐出されるように均一な隙間寸法で形成されているが、前記のような不安定なスラリーの場合、吐出作業を連続して行っていると、やがて、マニホールドの一部でスラリーの固形成分の沈殿や凝集が発生し、固形成分が滞留することがある。
【0006】
スラリーは、ダイの中央部に形成されている流入口からマニホールドへ供給され、マニホールドの全体に広がるが、上記の通りマニホールドの一部で固形成分が滞留すると、ダイの幅方向にわたってスリットから吐出されるスラリーの量にばらつきが生じ、基材上に形成される塗膜層の厚みにばらつきが生じるようになる。
【0007】
ここで、前記の通り、基材上に形成される活物質を含む層の厚さは、電池の充放電量に直接影響を与えることから、塗膜層の厚みにばらつきがある状態で電気用極板が製造されると、その極板を用いた電池の品質を低下させてしまう。そこで、従来はこのようにスラリーの吐出量にばらつきが生じた場合にはその都度ダイを分解して清掃を行ったりスリットの幅を調整したりして再び吐出量が所定の量になるようにしていたが、作業に時間を要したり作業者の熟練度によって調整の成否が変わってくるといった問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、スラリーの吐出作業を長時間継続して行っていても、基材上に形成される塗膜層の厚さを均一にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電池用極板の製造装置は、幅方向に長くスラリーを溜める空間からなる第1のマニホールドと、当該幅方向に広いスリットを経由して当該第1のマニホールドと繋がり、スラリーを基材に対して吐出する吐出口とが形成されたダイと、前記第1のマニホールドに連通している流入部から前記第1のマニホールドにスラリーを供給する供給手段と、前記スリットの前記第1のマニホールドと前記吐出口との間に設けられ、前記幅方向に長く前記第1のマニホールドよりも容積が小さい第2のマニホールドと、前記第2のマニホールドと繋がり、スラリーを流出させ、もしくは流入させることにより前記吐出口からのスラリーの吐出量を調整する調整部と、を有し、
前記ダイは、前記スリットの延びる方向が鉛直方向を除く方向であるように設けられ、前記スリットの延びる方向を基準として、前記第2のマニホールドは、下部は前記スリットを形成する面と面一の平坦面であり、また、前記スリットとの接続部より上の部分は角部を有しないことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、スリットの第1のマニホールドと吐出口との間に調整部を有していることから、幅方向にわたって吐出口へ流れるスラリーの量を調整部において調整することができ、吐出口からのスラリーの吐出量を幅方向にわたって所定の量に維持して塗膜層の厚みを均一にすることができる。また、この調整部が繋がる第2のマニホールドは、下部はスリットを形成する面と面一の平坦面であり、スリットとの接続部より上の部分は角部を有しないことにより、第2のマニホールドにおいてスラリーが滞留することを防ぎ、調整部における膜厚調整機能を維持することが可能である。
【0011】
また、前記第2のマニホールドの前記スリットとの接続部より上の部分が有する前記幅方向の断面の輪郭は、半円であっても良い。
【0012】
この場合、第2のマニホールドの容積を比較的大きく設定でき、1つの調整部で幅方向に関して広範囲の吐出量の調整を行うことができる。
【0013】
また、前記第2のマニホールドの前記スリットとの接続部より上の部分が有する前記幅方向の断面の輪郭は、中心角が180度未満の円弧であっても良い。
【0014】
この場合、第2のマニホールドの容積を比較的小さく設定でき、調整部近傍を流れるスラリーに対し、応答良く吐出量の調整を行うことができる。
【0015】
また、前記スリットは水平方向に延び、前記第1のマニホールドから前記吐出口まで水平方向にスラリーを送ることが好ましい。
【0016】
この場合、第2のマニホールドの下部がスリットと面一の平坦面であることによるスラリー滞留防止の効果を顕著に得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スラリーの吐出作業を長時間継続して行っていても、基材上に形成される塗膜層の厚さを均一にすることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、電池用極板の製造装置の概略構成を示す説明図である。この製造装置1は、ロールツーロールで送られる金属箔からなる基材2に、活物質、バインダー、導電助剤及び溶媒を含むスラリー3を塗布するための装置である。この製造装置によれば、塗布したスラリー3を乾燥させることで基材2上に活物質を含む層が形成され、この基材2が所定形状に切断され電池用極板となる。基材2上に形成される活物質を含む層の厚さは、電池の充放電量に直接影響を与えることから、基材2に塗布するスラリー3によって形成される塗膜層の膜厚管理は非常に重要であり、この製造装置1によれば、以下の実施形態において説明するように、スラリー3は、基材2の送り方向に沿って均一な厚さ(均一な塗膜量)で塗布される。なお、基材2の幅方向は、基材2の送り方向に直交する方向であり、
図1におけるY軸方向がこれに相当する。
【0021】
製造装置1は、基材2の幅方向に沿って長く構成されたダイ10と、このダイ10にスラリー3を供給する供給手段20とを備えている。ダイ10において、その長手方向(
図1におけるY軸方向)を幅方向という。この製造装置1では、ダイ10に対向するローラ5が設置されており、ダイ10の幅方向とローラ5の回転中心線の方向とは平行である。基材2は、このローラ5に案内され、基材2とダイ10(後述のスリット12の先端)との間隔(隙間)が一定に保たれ、この状態でスラリー3の塗布が行われる。
【0022】
本実施形態のダイ10は、先細り形状である第一リップ13aを有する第一分割体13と、先細り形状である第二リップ14aを有する第二分割体14とを、これらの間にシム板15を挟んで、組み合わせた構成からなる。
図2は、
図1のa矢視の断面図である。ダイ10は、その内部に、幅方向に長い空間からなる第1のマニホールド11と、この第1のマニホールド11と繋がるスリット12とが形成され、また、第一リップ13aと第二リップ14aとの間には、スリット12の解放端である吐出口18が形成されている。すなわち、第1のマニホールド11と吐出口18とは、スリット12を経由して繋がっている。
【0023】
この構成により、供給手段20により供給されたスラリー3は、先ず第1のマニホールド11に溜められ、次に、スリット12を経由して吐出口18から吐出される。
【0024】
スリット12は、第1のマニホールド11と同様に幅方向に長く形成されており、スリット12の幅方向寸法は、シム板15の内寸Wによって決定され、スリット12の幅方向寸法と略同一の幅方向寸法のスラリー3を、基材2上に塗布することができる。スリット12の隙間寸法(高さ寸法)は、例えば0.4〜1.5mmである。
【0025】
また、本実施形態では、スリット12の隙間方向が上下方向であり、幅方向が水平方向(Y軸方向)となる姿勢でダイ10は設置されている。すなわち、スリット12は水平方向(X軸方向)に延び、第1のマニホールド11から吐出口18まで水平方向(X軸方向)にスラリーを送る形態をとっている。
【0026】
なお、シム板15の厚さを変更することにより、第1のマニホールド11内部の圧力(塗工圧力)を調整することができ、この調整によって、様々な特性を有するスラリー3で均一な膜厚の塗工を行うことが可能となる。
【0027】
ダイ10の幅方向の中央部には、流入部16が設けられており、この流入部16は、ダイ10の外部から第1のマニホールド11へ繋がる貫通孔(流入口)からなる。供給手段20は、この流入部16に一端部が接続されている流入パイプ21と、スラリー3を貯留しているタンク22と、このタンク22内のスラリー3を、パイプ21を通じてダイ10へ供給するためのポンプ23とを有している。以上より、供給手段20は、第1のマニホールド11に流入部16からスラリー3を供給することができる。なお、本実施形態では、
図1に示すように、流入部16は、第1のマニホールド11の底部17と繋がっており、この底部17からスラリー3を流入させる構成としている。
【0028】
そして、第1のマニホールド11は、供給手段20から供給されたスラリー3を溜めることができ、第1のマニホールド11に溜められているスラリー3を、スリット12を通って吐出口18からロールツーロールで送られる基材2に対して吐出し、この基材2に対してスラリー3を連続的に塗布することができる。スリット12の隙間寸法はその幅方向に一定であり、基材2上に塗布されるスラリー3の厚さは幅方向に一定となる。
【0029】
また、ダイ10には圧力センサ(図示せず)が設けられており、この圧力センサは、第1のマニホールド11のスラリー3の内圧を計測する。そして、この計測結果に基づいて供給手段20によるスラリー3の供給が制御され、第1のマニホールド11のスラリー3の内圧を一定に保つ。第1のマニホールド11で内圧が一定とされるスラリー3は、スリット12から幅方向全長にわたって均等の量で吐出され、また、前記圧力センサの計測結果に基づいて、スリット12から吐出されるスラリー3の量が変動しないように制御され、基材2上に塗布されるスラリー3の送り方向の厚さを一定とする。また、図示しないが、パイプ21の途中にはスラリー3用のフィルタが設けられている。
【0030】
そして、スリット12の途中には、第1のマニホールド11よりも幅方向の断面積が小さい、すなわち、第1のマニホールド11よりも容積が小さい第2のマニホールド24が設けられ、この第2のマニホールド24には第1のマニホールド11のスラリー3を吐出口18以外からダイ10の外部へ流出させたり、第1のマニホールド11の流入部16からスラリー3を流入させる調整部31,32,33,34が繋がっている。本実施形態では、第2のマニホールド24の幅方向の両端部24a,24bに、第1と第2の調整部31,32が設けられ、この両端部24a,24bの間の途中部24c,24dに、第3と第4の調整部33,34が設けられている。
【0031】
調整部31,32,33,34は、第2のマニホールド24とダイ10の外部とを繋ぐ貫通孔と、貫通孔に接続されているパイプ51,52,53,54とからなる。本実施形態では、パイプ51,52,53,54の一端はタンク22に繋がれており、タンク22に貯留されるスラリー3が流入部16から第1のマニホールド11に流入するのとは別に、調整部31,32,33,34からスリット12に流入する。もしくは、これら調整部31,32,33,34から流出したスラリー3は、タンク22へ戻される。なお、パイプ51,52,53,54の途中に、図示しないがフィルタが設けられているのが好ましい。
【0032】
このように、ダイ10のスリット12には、第1のマニホールド11のスラリー3を流入部16以外から流入、もしくは吐出口18以外からダイ10の外部へ流出させる調整部31,32,33,34が、第2のマニホールド24の幅方向に設けられていることから、たとえばマニホールド11の両端部においてスラリー3が流れ難くなる(滞留する)ことによってマニホールド11からスリット12に流入するスラリー3の量が幅方向に不均一になったとしても、調整部31,32,33,34によって吐出口18へ流出するスラリー3の量を調節することにより、吐出口18から吐出されるスラリー3の量が幅方向に不均一になることを防ぐことができる。
【0033】
なお、第1のマニホールド11の両端部において、スラリー3の固形成分が沈殿や凝集し易くなる理由は、これら両端部には、第1のマニホールド11の幅方向端面を構成する壁が存在していることから、第1のマニホールド11の中央部から供給され幅方向両側へ広がるスラリー3は、両端部において流速が低下しやすく、スラリー3が滞留しやすいためである。特に、スラリー3は粘度(粘性)が高いため、両端部において滞留しやすく固形成分が沈殿や凝集しやすい。
【0034】
また、本実施形態の製造装置1のダイ10から吐出されるスラリー3として、粘度が数千から数万cP(剪断速度=1の場合)のものを採用することができる。
【0035】
ここで、本発明では、調整部31,32,33,34は第1のマニホールド11ではなく、第2のマニホールド24に設けられている。これは、第1のマニホールド11は流入部16から流入したスラリー3を第1のマニホールド11全体に行き渡らせるために幅方向の断面積を大きく、すなわち容積を大きく形成されているためであり、仮に第1にマニホールドに調整部31,32,33,34を設けた場合、各調整部による局所的なスラリー量の調整を行っても、感度が悪く十分に調整の効果が得られにくい。
【0036】
これに対し、第1のマニホールド11よりも幅方向の断面積が十分に小さい第2のマニホールド24に調整部31,32,33,34を設けることにより、各調整部における調整を感度良く吐出口18からの吐出量に反映させることが可能である。
【0037】
また、各調整部が第2のマニホールド24に設けられていることにより、第2のマニホールド24がスラリーの流量を幅方向に平準化させる効果が働き、各調整部によるスラリーの流量の調整の効果が、幅方向に関して各調整部の直近だけでなく所定の幅をもって働くことが可能となる。
【0038】
さらに、本実施形態では、この調整部31,32,33,34それぞれには、スリット12に流入もしくはスリット12から流出させるスラリー3の量の調整を行う制御装置が設けられている。具体的に説明すると、
図2に示すように、流出パイプ51,52,53,54それぞれに、前記制御装置としてバルブ61,62,63,64が接続されている。これらバルブ61,62,63,64それぞれは、調整部31,32,33,34それぞれから流出するスラリー3の流量を調整する機能を有している。なお、バルブ61,62,63,64それぞれは、調整部31,32,33,34それぞれから流入もしくは流出するスラリー3の圧力を調整してもよい。または、調整部31,32,33,34とタンク22とを繋ぐパイプ51,52,53,54の途中に、スラリー3の流量管理(流出量調整)を行う機器(例えば、ポンプ)が設けられていてもよく、この場合、この機器が、スリット12に流入もしくはスリット12から流出させるスラリー3の排出調整を行う制御装置として機能する。
【0039】
なお、調整部31,32,33,34で行うスラリー3の流入、流出は、幅方向に均一な厚みで塗布できるようになるための補助的な動作であり、これら調整部による流入量もしくは流出量は、流入部16からのスラリー3の流入量に比べて十分に小さい。
【0040】
また、この製造装置1は、基材2上へ塗布したスラリー3の膜厚を測定するセンサ36を備えている(
図1参照)。センサ36は、幅方向に沿って複数設けられていてもよい。センサ36は、非接触式であり、基材2上のスラリー3の膜厚を、幅方向に沿って複数カ所、又は、幅方向の全長にわたって計測可能であり、計測結果は、製造装置1が備えている制御装置(コンピュータ)37に出力される。制御装置37はセンサ36からの計測結果に基づくフィードバック制御を行い、バルブ61,62,63,64の開度を調整する。つまり、スラリー3の膜厚の計測結果に応じて、制御装置37は、バルブ61,62,63,64それぞれに対して制御信号を出力し、バルブ61,62,63,64それぞれの開度を調整する。これにより、スラリー3の膜厚を幅方向に一定に保つことが可能となる。
【0041】
なお、センサ36の代わりに制御装置37が有するタイマ機能により、バルブ61,62,63,64の開度を制御してもよい。つまり、塗布開始からある時間が経過するとスラリー3の固形成分の沈殿や凝集が問題となることから、この時間が経過する前の所定時間をタイマで計測し、その所定時間が経過すると、制御装置37はバルブ61,62,63,64の開度を大きくする制御を行ってもよい。
【0042】
次に、第2のマニホールド24の断面形状を
図3に示す。
【0043】
本発明における第2のマニホールド24は、その下部はスリット12を形成する面と面一の平坦面となっている。また、スリット12との接続部より上の部分は角部を有しない形態を有する。その一例として、
図3(a)に示す第2のマニホールド24は、スリット12との接続部より上の部分が有する幅方向(Y軸方向)の断面の輪郭が半円となっている。
【0044】
ここで仮に、
図4のようにスリット12を形成する面より落ち込んだ部分を第2のマニホールド24が有していた場合、スリット12を形成する面より下の部分でスラリー3が閉塞されることにより滞留物25が生じるおそれがある。このように滞留物25が生じた場合、第2のマニホールド24内でのスラリー3の流れが一部阻害され、各調整部によるスラリー3の流量調整を行ったとしても、基材2に塗布されたスラリー3の厚みが幅方向にわたって均一にならないおそれがある。また、第2のマニホールド24に角部が存在していた場合、その角部の近傍ではスラリー3の粘性抵抗が高くなり、その結果滞留物25が生じやすくなる。
【0045】
そこで、本発明では第2のマニホールド24の下部をスリット12を形成する面と面一の平坦面とすることによって、下部に常に流れを生じさせ、スラリー3の滞留を防いでいる。また、スリット12との接続部より上の部分は角部を有しないようにすることにより、粘性抵抗が低くなる部分をなくし、スラリー3の滞留を防いでいる。これにより、各調整部における膜厚調整機能を維持することを可能としている。
【0046】
また、上記の通り、
図3(a)の例では、第2のマニホールド24のスリット12との接続部より上の部分が有する幅方向の断面の輪郭が半円となっている。
【0047】
この場合、図中に幅wで示すようにスラリー3の流れ方向の幅(X軸方向)が一定の条件で第2のマニホールド24を形成したときに、第2のマニホールド24の容積を比較的大きく設定できる。
【0048】
先述の通り、第2のマニホールド24では、第1のマニホールド11から流入するスラリー3だけでなく、各調整部から流入もしくは流出するスラリー3に対しても、流量が幅方向(Y軸方向)に平準化させる働きを有する。そこで、第2のマニホールド24の容積が大きい場合、スラリー3が再びスリット12に流入して吐出口18へ向かうまでに第2のマニホールド24で幅方向に平準化される時間が長くなる。そのため、1つの調整部で幅方向に関して広範囲の吐出量の調整を行うことができる。すなわち、幅方向に並べる調整部の数を少なくすることができる。
【0049】
これに対し、
図3(b)は、第2のマニホールド24のスリット12との接続部より上の部分が有する幅方向の断面の輪郭が、中心角が180度未満の円弧である例である。
【0050】
この場合、
図3(a)の例と比較すると分かりやすいが、スラリー3の流れ方向の幅を一定としたときに第2のマニホールドの容積を比較的小さく設定できる。これにより、各調整部から流入、流出するスラリー3は、第2のマニホールド24で幅方向に平準化される時間は短く、すぐに再びスリット12に流入する挙動を示す。そのため、1つの調整部により流量を調整できる幅方向の領域は狭いものの、各調整部近傍を流れるスラリー3に対して即座に作用し、応答良くスラリー3の吐出量の調整を行うことができる。
【0051】
また、第2のマニホールド24の上部の形状は、
図3(a)の半円状、
図3(b)の円弧状だけでなく、角部を有しない形状なら他の形状であっても良く、たとえば
図3(c)のような流線型であっても本発明の効果を有することができる。
【0052】
また、平坦面と曲面からなる本発明の第2のマニホールド24に対し、
図1では調整部31を下側に設けてスラリー3の供給を行うようにしているが、
図3に示すように上側に調整部31を設けるようにしても構わない。この場合、パイプ51はダイ10の上方に配置されるが、第1のマニホールド11と繋がる供給手段20を構成する配管と比べてパイプ51は流量が少ないため径も細く、メンテナンスを困難にすることはない。また、パイプ51内にエアがたまった場合でも、パイプ51の径が細いため容積も小さく、容易にエア抜きすることができる。
【0053】
一方、
図1の調整部31のように平坦面側からスラリー3の供給などを行った場合、第2のマニホールド24の内部でのスラリー3の流れに若干乱れが生じるおそれがある。ただし、第2のマニホールド24の幅方向の断面積は第1のマニホールド11の断面積より十分小さく、第1のマニホールド11から吐出口18までのスラリー3の流れは第1のマニホールド11によってほぼ決定するため、第2のマニホールド24の平坦面側からスラリー3の供給を行ったことによる流れの乱れは無視できる程度である。
【0054】
なお、第1のマニホールド11に繋がる流入部16に関して、送液配管がダイ10の上方に位置するとメンテナンスが困難となるという事情があるため、送液配管がダイ10の下方に設けられることに併せて、流入部16もダイ10のマニホールド11の上端には設けられず、一般的にマニホールド11の下端に設けられる。そのため、第1のマニホールド11では、下面が平面となる形態はスラリー3の流れの乱れを生じさせるおそれがあり、適用されにくいため、たとえば幅方向の断面が円形のものがよく用いられる。
【0055】
また、本実施形態では前述の通り、第1のマニホールド11のスラリー3をスリット12を通じて吐出口18から基材2へと流す方向が水平方向となるようにダイ10が設置されている場合について説明したが、ダイ10の設置姿勢はこれ以外であってもよい。たとえば、
図1におけるX−Z平面上でのスリット12の傾きが45度などの斜め方向であったり、鉛直上向きもしくは鉛直下向きとして水平方向以外の方向にスラリー3を流すようにダイ10が設置されても構わない。ただし、スリット12が水平方向に延びている場合に、特に第2のマニホールド24の下部においてスラリー3の滞留が生じやすいため、第2のマニホールド24の形状を
図3に示すような形状にすることによって第2のマニホールド内でのスラリー3の滞留を防止する効果は、スリット12が水平方向に延びている場合に顕著となる。
【0056】
図5は、基材2の両面にスラリーを塗工する実施例である。基材2の一方の面に対向するようにダイ10を配置し、反対側の面に対向するようにダイ10’を配置しており、ダイ10からスラリー3を、ダイ10’からスラリー3’を基材2に塗工する。
【0057】
この
図5において、ダイ10はスリット12が水平方向に延びているため、本発明の通り第2のマニホールド24の下部をスリット12を形成する面と面一とすることにより、第2のマニホールド24においてスラリー3が滞留するのを防ぐことができる。これに対し、ダイ10’はスリット12’が鉛直方向に延びているため、第2のマニホールド24’をスリット12’を形成する面と面一になるようにしてもスラリー3’の滞留を抑制する効果は薄いが、第2のマニホールド24と第2のマニホールド24’とで形状が異なる場合、それぞれが有する調整部によるスラリーの流入(流出)量の調整の具合が違ってくるため、第2のマニホールド24’も第2のマニホールド24と同様の形状にする方がそれぞれのダイの制御を容易にすることができるため、好ましい。
【0058】
以上より、スラリー3の吐出作業を長時間継続して行っていても、基材2上に形成される塗膜層の厚さを均一にすることが可能となる。
【0059】
また、本発明の製造装置1は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。例えば、本実施形態(
図1参照)では、流入部16は、第1のマニホールド11の底部17と繋がっており、この底部17からスラリー3を流入させる構成としているが、流入部16は、第1のマニホールド11の側部(高さ方向の中間部)と繋がった構成であってもよい。
【0060】
なお、本発明の製造装置1は、塗布する塗布液が粘度の高いスラリーである場合に有効であり、粘度の高いスラリーを塗布して製品(例えば、光学フィルム)を製造する場合に適用してもよい。
【0061】
また、上記の説明では、吐出口18からの吐出量が幅方向にわたって均一になるようにすることで基材2に形成される塗膜層の厚みが幅方向にわたって均一にするようにしているが、吐出口18の吐出量は幅方向にわたって均一に限らない。たとえば
図6(a)に示すように基材2に形成された塗膜層の厚みが時間経過によって端部の厚みが減少するように変化する場合、各調整部によってスリット12の両端部におけるスラリー3の流量を多くすると良い。これにより、
図6(b)に示すように塗膜層の形状は、吐出直後は幅方向の端部が厚くなるものの、時間経過によって端部の厚みが減少し、結果的に幅方向に厚みが均一な塗膜層を得ることができる。