(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関(11)に設けられ、柱状の中心電極(7)と、該中心電極の側面を覆う筒状の誘電体(8)と、該誘電体を収容保持する筒状のハウジング(9)と、該ハウジングの先端に延設され前記内燃機関の燃焼室に臨む環状の接地電極(90)とを有する点火プラグ(6、6b、6c、6d)と、
前記中心電極と前記接地電極との間に所定の周波数の交流電圧を発生する交流電源(10)と、
前記交流電源の電圧を昇圧する点火コイル(2、2a)とを具備し、
前記交流電源からの交流電圧の印加により、前記誘電体で覆われた前記中心電極と前記接地電極との間に高周波電界を作用させて、前記誘電体の表面を這うように形成される沿面ストリーマ放電を発生させることにより、又は、前記沿面ストリーマ放電を前駆として交流アーク放電を発生させることにより、
上記内燃機関に設けた燃焼室(110)の内側に導入した混合気の点火を行う交流点火装置であって、
前記点火コイルが、前記交流電源からの一次電圧を入力する一次コイル(24)と該一次コイルに対して所定の巻回比で巻回した二次コイル(22)と、磁気コア(20、20a)とからなり、前記点火コイルと前記点火プラグとの間をつなぐ伝送線(44)を具備すると共に、
前記点火コイルと前記点火プラグとの間で直列に接続され、
前記点火コイルと電磁的に独立したインダクタンス(L1、L2)を付与する複数のインダクタ(4、4a、4e、5、5b、5d、5e)を設け、前記複数のインダクタが、前記伝送線の一方の端であって、前記点火コイルに接続する側に直列したコイル側インダクタ(4、4a、4e)を有しており、かつ、
前記二次コイルと前記コイル側インダクタとを電磁的に独立させる磁気遮蔽手段(3、3a)を具備することを特徴とする交流点火装置(1、1a〜1e)
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照して、本発明の第1の実施形態における交流点火装置1の概要について説明する。
本実施形態における交流点火装置1は、交流電源10と、点火コイル2と、電磁シールド3と、コイル側インダクタ4と、プラグ側インダクタ5と、点火プラグ6とによって構成されている。
点火プラグ6は、内燃機関11の気筒毎に設けられている。
【0012】
点火コイル2は、交流電源10から入力された交流電圧を昇圧して所定の周波数fと尖頭値V
PPを有する交流高電圧V
2を点火プラグに印加する。
交流点火装置1は、点火プラグ6の誘電体8で覆われた中心電極7と接地電極30との間に高周波電界を作用させて、誘電体8の表面を這うように形成される沿面ストリーマ放電を発生させることにより、又は、沿面ストリーマ放電を前駆として交流アーク放電を発生させることにより、内燃機関11の運転状況に応じて沿面ストリーマ放電又は交流アーク放電を発生して内燃機関11の点火を行う。
【0013】
交流点火装置1は、点火コイル2と点火プラグ6との間に、点火コイル2から電磁的に分離された、第1段のインダクタンスL
1を構成するプラグ側インダクタ5と第2段のインダクタンスL
2を構成するコイル側インダクタ4とを配設したことを特徴とし、沿面ストリーマ放電から交流アーク放電に遷移する際に発生するサージ電流を吸収しつつ、電力消費を抑制した交流点火装置である。
【0014】
本発明の交流点火装置1の適用される内燃機関11は、いわゆるレシプロエンジンであり、エンジンヘッド111と図略のシリンダとのシリンダ内を昇降可能に収容したピストンとによって燃焼室110を区画し、燃焼室110内に導入した混合気の燃焼膨張力によりピストンを押し下げ動力を発生する。
なお、内燃機関11は、液体燃料と気体燃料とのいずれを用いるものであっても良い。
【0015】
交流電源10は、所定の周波数fを有する正弦波交流を発生するもので、図略の制御回路から発せられた点火信号にしたがって、所定の期間だけ点火プラグ6に交流電圧を供給するものである。
なお、内燃機関11が車両用エンジンであり、電源がバッテリ等の直流電源である場合には、交流電源10は、直流電源から供給された直流を交流に変換する公知のインバータ回路によって実現できる。
【0016】
交流電源10から供給された一次電圧V
1は、点火コイル2によって、所定の尖頭値電圧V
PP(例えば、15kV)を有する二次電圧V
2に昇圧して、点火プラグ6に供給する。
なお、交流電源10は、図略のエンジン制御装置から、内燃機関11の運転状況に応じて発信された点火信号IGtにしたがって点火プラグ6への電力供給を制御する図略の点火制御装置(イグナイタとも称する。)によって駆動制御され、運転状況によって出力周波数fを適宜変更し得るように構成するのが望ましい。
【0017】
また、点火制御装置の一部又は全部は、交流電源10と一体的に構成しても良いし、点火コイル2と一体的に構成しても良い。
複数の気筒からなる内燃機関11の気筒毎に設けた点火プラグ6に対して交流電圧を印加する場合、一般的に高周波電源回路は、高周波部品が高額となるため、コストを優先する場合には、一つにまとめた交流電源10からそれぞれの点火プラグ6に接続した伝送線路を介して分配する手法が有効である。
なお、各伝送線路での損失が問題となる場合には、気筒毎に高周波交流電源10を具備するようにし、伝送線路における損失の低減を図ることもできる。
【0018】
なお、内燃機関11の燃焼条件がリッチ燃焼領域や低負荷領域においては、混合気の着火が容易となる条件であるため、沿面ストリーマ放電のみによって混合気の点火を行うことで、点火プラグ6の電極消耗を抑制することができ、リーン燃焼時や高負荷時においては、高エネルギの交流アーク放電を発生させることで、難着火性の条件でも安定した着火を実現することができる。
具体的には、例えば、二次電圧V
2を尖頭値V
PPで、5kV以上15kV以下とすることで、沿面ストリーマ放電を維持することが可能となり、二次電圧V
2を尖頭値V
PPで15kV以上となるように設定することで、沿面ストリーマ放電から交流アーク放電へと遷移させることができ、交流アーク放電の発生後は、放電空間のインピーダンス低下によって、尖頭値V
PPが5kV程度で、交流アーク放電の維持が可能となる。
【0019】
また、出力周波数fを制御することによって、沿面ストリーマ放電と交流アーク放電との使い分けをすることもできる。
例えば、沿面ストリーマ放電を維持する場合には、出力周波数fを400kHz未満の周波数に設定し、交流アーク放電に移行する場合には、出力周波数fを、400kHz以上1MHz以下に設定するようにしても良い。
【0020】
出力周波数fが高いほど、交流アーク放電に移行し易くなるが、一定の周波数を超えると、ストリーマ放電からアーク放電に移行する前に電流が交番するため、アーク放電への移行が抑制されることになる。
但し、純粋に出力周波数fのみによってアーク放電への移行を抑制しようとすると数MHz以上の高周波を印加する必要がある。
【0021】
アーク放電抑制の境界は1MHz程度となり、その際LPFの遮断閾値は2MHz等となるので、外部への高周波ノイズの輻射を抑制できる。
さらに、交流電源10が共振型である場合、共振点から周波数をずらすことによって増幅率を調整し、電圧波高値を低減させることも可能である。
例えば、交流アーク放電が生起する周波数から例えば10kHz以上ずらすことでストリーマ放電の維持を図ることもできる。
【0022】
本実施形態における点火コイル2は、軸状に伸びる中心コア20と、中心コア20と同心に配設した筒状の二次側スプール21と、二次スプール21に二次巻線を所定の二次巻回数N
2だけ巻回した二次コイル22と、二次コイル22と同心に配設した筒状の一次側スプール23と、一次側スプール23に一次巻線を所定の一次巻回数N
1だけ巻回した一次コイル24と、これらを収容する点火コイルハウジング25とによって構成されている。
点火コイル2は、交流電源10から供給された一次電圧V
1を一次コイル24と二次コイル22との巻回比N
2/N
1倍の二次電圧V
2に昇圧することができる。
【0023】
中心コア20は、磁性材料からなる平板状の鋼板の表面に絶縁被覆を施した珪素鋼板を所定の形状に打ち抜いたものを積層した積層コアや、磁性材料の表面に絶縁被覆を施した磁性粉末を圧縮成形し加熱処理した圧粉コア等の公知の磁性材料を用いて、円柱状又は角柱状に形成されている。
中心コア20は、磁気コアを構成している。
また、電磁鋼板や圧粉コアによって断面C字型筒状に形成した外周コアを一次コイル24の外周を覆うように配設して、閉磁路を構成しても良い。
一次巻線及び二次巻線には、銅線やアルミニウム線等の導線にホルマル樹脂、ウレタン樹脂等の絶縁性被覆を施した公知の絶縁被覆導線が用いられている。
本図においては、一次巻線及び二次巻線を断面円形に表現してあるが、断面矩形の巻線を使用しても良いことはいうまでもなく、模式的な表現であり、具体的な巻回数を示すものでもない。
【0024】
さらに、本実施形態においては、磁気遮蔽手段として、磁気シールド3が設けられており、点火コイル2と第2段のインダクタンスL
2を形成するコイル側インダクタ4とを磁気的に分離している。
磁気シールド3には、金属メッシュ、発砲金属、鉄ニッケル合金(パーマロイ)、珪素鋼板、軟磁性金属材料、ソフトフェライト等の公知の磁気シールド材料を用いることができる。
【0025】
本実施形態におけるコイル側インダクタ4は、軸状の中心コア40とその周囲を覆うように設けた筒状のスプール41とスプール41に巻回した巻線42とこれらを覆うインダクタハウジング43と、巻線42に接続された伝送線44とによって構成されている。
中心コア40には、公知の積層鋼板、圧粉コア等の磁性材料を用いることができる。
スプール41は、エポキシ樹脂等公知の絶縁材料からなり、筒状に形成されている。
本実施形態においては、複数の鍔部を設けた構成を示してあるがこれに限定するものではない。
【0026】
巻線42は、一方の端が点火コイル2の二次コイル22の出力端に接続され、他方の端が伝送線44の芯線に接続されている。
本実施形態において、巻線42は、公知のコイル巻線をスプール41に巻回した構成を示しているが、これに限定するものではない。
例えば、コイル巻線をスプールなしで巻回した後、絶縁被覆を互いに融着固化させた、いわゆる自己融着型のインダクタでも良い。
【0027】
伝送線44には、銅線等からなる芯線をフッ素樹脂、シリコーン樹脂等の耐熱樹脂からなる筒状の絶縁体で覆い、その外周に編組線等のシールドで覆い、さらにその外周をフッ素樹脂、シリコーン樹脂等の耐熱樹脂からなる筒状の絶縁被覆で覆った公知の耐熱性同軸ケーブルを用いることができる。
また。高周波によるコロナ放電の虞もあるので耐熱性に加え耐コロナ性を考慮して芯線と絶縁体の間にカーボンテープ等半導体系の電界緩和層を設けた同軸ケーブルを用いることもできる。
【0028】
第2段のインダクタンスL
2は、直列に接続された伝送線44の芯線の抵抗値R
2と、並列に接続された状態となる伝送線44等に寄生する静電容量C
2とによって、第2段のLRCローパスフィルタ(LPF
2)を構成することになる。
なお、同軸ケーブル44の寄生容量としては、nFオーダとなると考えられる。
また、本実施形態においては、コイル側インダクタ4は、点火コイル2と一体的に収容され、二次コイル22と巻線42との配線距離が短く、サージ電流の伝播距離が短いので、より一層、ノイズ輻射が抑制されることになる。
【0029】
本実施形態における第1段のインダクタンスL
1として設けられたプラグ側インダクタ5は、伝送線44のプラグ側の端部において直列に接続されている。
プラグ側インダクタ5は、軸状の中心コア50と、その周囲を覆うように設けた筒状のスプール51と、スプール51に巻回した巻線52と、これらを覆うインダクタハウジング53と、巻線52に接続されたバネ端子54と、バネ端子54に接続され点火プラグ6の中心電極端子部75に嵌着されるターミナルキャップ55とによって構成されている。
【0030】
インダクタハウジング53の全部又は一部は、耐熱性ゴム等の弾性部材によって筒状に形成され、少なくとも先端側がプラグキャップ(ブーツとも称する。)を構成し、点火プラグ6の誘電体頭部83を覆うように嵌着されている。
なお、第1段のインダクタンスL
1は、本実施形態に限定するものではなく、第2段のインダクタンスL
2と同様、コアレスとしたり、スプールレスとしたり、適宜変更可能である。
第1段のインダクタンスL
1を所定の比抵抗を有する公知の抵抗巻線によって形成してもよい。
【0031】
本実施形態における第1段のインダクタンスL
1は、第1段のインダクタンスL
1と、直列に接続された点火プラグ6の中心電極7によって形成される抵抗値R
1と、点火プラグ6の中心電極7とハウジング8との間に形成される浮遊容量C
1とによって、第1段のLRCローパスフィルタ(LPF
1)を構成することになる。
【0032】
点火コイル2と点火プラグ6との間に形成された分布定数回路において、第1段のインダクタンスL
1として設けたプラグ側インダクタ5よって構成された第1段のLRCローパスフィルタLPF
1と第2段のインダクタンスL
2として設けたコイル側インダクタ4とによって構成されたLRCローパスフィルタLPF
2とによって2段のローパスフィルタが構成されるため、高周波のサージ電流を効果的に遮断することができる。
なお、本発明の具体的な効果については、
図7〜
図11を参照して詳述する。
【0033】
点火プラグ6は、柱状に伸びる中心電極7と、中心電極7の外周を覆う筒状の誘電体8と、誘電体8を収容保持する筒状のハウジング9と、ハウジング9に延設した環状の接地電極90と、接地電極90と誘電体8との間に区画した環溝状の放電空間100と、によって構成されている。
【0034】
中心電極7は、鉄、ニッケルや、これらの合金等の、耐熱性、導電性に優れた金属材料からなり柱状に形成されている。
中心電極7は、中心電極放電部70、中心電極高熱伝導部71、中心電極連結部72、中心電極埋込部73中心電極中軸部74、中心電極端子部75によって構成されている。
【0035】
中心電極放電部70には、イリジウム、Pt、Pt合金等の高耐熱性貴金属やその合金を用いることができる。
中心電極放電部70の先端は、筒状の誘電体8の先端側から露出している。
中心電極高熱伝導部71には、鉄、ニッケル、これらの合金等の耐熱性金属材料に銅、アルミニウム等の高熱伝導性材料が埋設されて構成されている。
【0036】
中心電極連結部72において、銅等の導電性材料を、ガラス中に分散させた導電性接着剤を用いて中心電極高熱伝導部71と中心電極埋込部72との電気的な接続を図ると共に、中心電極埋込部72を誘電体8内で気密に固定している。
中心電極放電部70、中心電極高熱伝導部71、中心電極連結部72、中心電極埋込部73中心電極中軸部74、中心電極端子部75は、電気的に接続されており、中心電極端子部75が、誘電体8の基端側から露出し、プラグ側インダクタ5に接続されている。
【0037】
中心電極7を構成する各伝導性部材(70〜75)の合成抵抗(R
1)と第1段のインダクタンスL
1とが直列に接続された状態となっている。
なお、本実施例においては、製造が容易となるように、中心電極放電部70、中心電極高熱伝導部71、中心電極連結部72、中心電極埋込部73、中心電極中軸部74、中心電極端子部75を別体で構成しているが、これに限定するものではない。
【0038】
誘電体8(絶縁碍子とも称する。)は、アルミナ、ジルコニア等の高耐熱性の絶縁セラミック材料を用いて、筒状に形成されている。
誘電体8は、中心電極7の外周を覆い、中心電極7とハウジング9及び接地電極90との電気絶縁性を確保している。
【0039】
誘電体8の基端側からは、中心電極端子部75が露出し、プラグ側インダクタ4に接続されている。
誘電体8の内周表面が中心電極7の外周表面と接する位置には、中心電極7の表面との間でストリーマ放電が起こらないよう、図略の金属膜を形成し、誘電体8の外周表面と中心電極17内周表面とが弾性的に当接して密着状態となっている。
【0040】
誘電体8は、誘電体脚部80と、誘電体胴部81と、誘電大径部82と、誘電体頭部83によって構成されている。
誘電体脚部80は、誘電体胴部81よりも細径に形成され、その一部が接地電極90の先端から燃焼室110内に突出している。
【0041】
誘電体胴部81の基端側は、径大となるように拡径され、鍔状に張り出した誘電体大径部82が形成され、タルク等の粉末充填剤及びメタルシール等の公知の封止部材97を介してハウジング9によって加締め固定されている。
誘電大径部82の基端側には、ハウジング9から露出する誘電体頭部83が形成されている。
【0042】
誘電体頭部83の一部をコルゲート状に形成して沿面距離を長くして、中心電極端子部75とハウジング9との間での沿面放電の発生を防止するようにしても良い。
接地電極90の内周面と誘電体脚部70の内周面と誘電胴部81の内周面とで環状の放電空間100が区画されており、放電空間100は燃焼室110に連通している。
【0043】
ハウジング9は、鉄、ニッケル、これらの合金、ステンレス等の公知の耐熱性金属材料が用いられ、筒状に形成されている。
本実施形態におけるハウジング9は、接地電極90と、筒状部91と、ネジ部92と、径変部93と、胴部94と、加締部95と、六角部96とによって構成されている。
ハウジング9は、誘電体8に保持された中心電極7の先端を燃焼室110の所定位置に保持するとともに、ハウジング9の先端に延設した環状の接地電極90をエンジンヘッド111に接地状態としている。
【0044】
接地電極90は、ハウジング9の先端において内燃機関11の燃焼室110に臨むように設けられ、環状に形成されている。
接地電極90は、一定の間隙を隔てて誘電体脚部80の外周表面を取り囲んでいる。
【0045】
接地電極90の基端側に延設して筒状の側面電極91が形成されている。
なお、接地電極90の先端側内周面の一部又は全部を誘電体脚部80に向かって突出させて、誘電体脚部80の表面との距離を短くした電界集中部を設けても良い。
【0046】
側面電極91の内側には、誘電体胴部81が収容されている。
側面電極91の外周には、点火プラグ6を内燃機関11のエンジンヘッド111に螺旋締め固定するためのネジ部92が形成されている。
側面電極91の基端側に延設して、先端側に向かって縮径する径変部93と筒状の胴部94が設けられている。
【0047】
胴部94に内側には、誘電体拡径部83が収容されている。
誘電体拡径部83は、径変部93と加締部95とによって挟持され封止部材97を介した状態で加締め固定している。
【0048】
封止部材97には、タルク等の粉末充填部材や金属製パッキン等のシール部材等からなる公知の封止部材を用いることができ、加締部95によって、誘電体拡径部83に軸力を作用させ、誘電体8をハウジング9内に気密に保持している。
胴部94の外周には、ネジ部92をエンジンヘッド111に螺結するための六角部96が形成されている。
【0049】
図2を参照して、本発明の第2の実施形態における交流点火装置1aの概要について説明する。
なお、以下の実施形態において、前記実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、相違する部分について各実施形態に対応してアルファベットの枝番を付したので、共通する部分については説明を省略し、各実施形態の特徴的な部分を中心に説明する。
【0050】
前記実施形態においては、点火コイル2と第2段のインダクタンスL2を付与するコイル側インダクタ4が、磁気シールド3によって分離された構成を示したが、本実施形態における交流点火装置1aでは、第二段のインダクタンスL
2を付与するコイル側インダクタ4aが点火コイル2aを構成する二次コイル22と一体的に形成されている点が相違する。
点火コイル2aでは、二次巻線を巻回する二次スプール21aに沿設して、コイル側インダクタ4aを構成するスプール41aが一体的に形成されており、二次コイル22aと巻線42aとが連続的に巻回されている。
【0051】
また、前記実施形態においては、磁気シールド3を設けて、点火コイル2と、 コイル側インダクタ4とを磁気的に分離した例を示したが、本実施形態では、二次コイル22aと巻線42aとが、スプールを共有し連続的に巻回されつつも、中心コア20aは、点火コイル2a内に留まり、コイル側インダクタ4aには、磁気遮蔽手段として、中心コアを廃して空気層3aが設けられている。
本実施形態では、巻線42aを二次コイル22aと一体的に形成することができるので、製造コストの削減も図ることができる。
【0052】
但し、本実施形態においては、コイル側インダクタ4aに中心コアが設けられていない分、得られるインダクタンスL
2が小さくなるので、プラグ側インダクタ5によってインダクタンスの低下分を補う必要がある。
また、空気層3aだけでは、点火コイル2aとコイル側インダクタ4aとを磁気的に完全分離することが困難となり、弱いながらも点火コイル2aとコイル側インダクタ4aとの磁気的な結合を生じるため自己誘導によるダンパ作用が弱くなる虞がある。
しかし、コアレスとすることによる、インダクタンス低下のデメリットに対する措置として、スプール41aを細くし、その分、巻線42aの巻回数を増やすことで、インダクタンス4aの低下を抑制することも可能である。
【0053】
一般に、コイルのインダクタンスは長岡の式よりコイル径と巻き数の2乗に比例することが知られており、スプール径の減少よりも巻き数増加効果が大きければインダクタンス向上が見込まれる。
L(インダクタンス)=k×μ
0×π×a
2×n
2/b
k:長岡係数
μ
0:真空の透磁率
a:コイル径
b:コイル長さ
n:コイル巻き数
【0054】
図3を参照して、本発明の第3の実施形態における交流点火装置1bの概要について説明する。
前記実施形態においては、同軸コイル44の端部において、点火プラグ6の誘電体頭部83に嵌着されるインダクタハウジング53内に第1段のインダクタンスL1を付与する巻線52を配置した例を示したが、本実施形態においては、プラグ側インダクタ5bとして、点火プラグ6bの誘電体7b内に中心コア50b、スプール51b、巻線52bを配設した点が相違する。
【0055】
点火プラグ6bにインダクタ5bを内蔵させることで、点火プラグ6bの放電部70からインダクタ5bに至るまでに形成される寄生容量C
1を小さくし、サージ電流を更に小さくすることができる。
なお、寄生容量C
1は、10〜100pF程度と考えられる。
また、点火プラグ6b内にインダクタ5bを配設することで、前記実施形態のように点火プラグ6に外付けした場合に比べ、装置全体の体格を小さくできる。
【0056】
特に、中心電極端子部75とハウジング9との間の絶縁性を確保する必要性から、誘電体頭部83の長さを短くして装置の小型化に対応するのには限界がある。
しかし、本実施形態にでは、中心電極中軸74b、73bを挿入するために誘電体2bの内側に穿設した貫通孔を第1段のインダクタンス5bを収容するスペースとして利用できるため、誘電体頭部83にプラグ側インダクタンス5を外付けする場合に比べ、容易に装置全体の小型化を図ることができる。
【0057】
但し、搭載スペースが限られているので、十分なインダクタンスを確保できない虞があり、その場合、点火プラグ6bに外付けしたインダクタンスと内蔵したインダクタンスとを併用することになる。
このような場合であっても、単独でプラグ側インダクタンス5を点火プラグ6に外付けする場合に比べ、外付けされるインダクタンスを小さくできるので装置全体の体格を小さくできる。
さらに、体格を問題としない場合には、プラグ側インダクタンス5bとして、点火プラグ6bの内外にインダクタンスを設けることで第1段のインダクタンスL
1を大きくし、ノイズ低減効果を高めることもできる。
【0058】
図4を参照して、本発明の第4の実施形態における交流点火装置1cの概要について説明する。
本実施形態においては、点火プラグ6cにおいて、中心電極連結部72と中心電極中軸74との間に、導電性接着剤にアルミナ等の絶縁粒子を分散させて、抵抗値を高くした雑音防止抵抗体73cを形成した点が相違する。
【0059】
この場合、インダクタンスに比べ、サージ吸収能力の高い抵抗体を併用することで、サージ電流の吸収効果を高めることができる。
しかも、従来の抵抗体のみによってサージ吸収を図ろうとした場合には、必要となる抵抗値(例えば、5kΩ)が高く、ジュール損失が大きくなり無駄な消費電力を生じていたが、プラグ側インダクタ5と抵抗体73cとの併用により、抵抗体73cに要求される抵抗値(例えば、0.5kΩ)を低くすることが可能となり、消費電力の抑制を図ることもできる。
【0060】
また、本実施形態と前記実施形態とを適宜組み合わせて構成することも可能である。
なお、抵抗体73cは第1段のインダクタンスL
1と併用する場合には抵抗値を10Ω以上とすることで、本発明の効果を発揮できる。
【0061】
図5を参照して、本発明の第5の実施形態における交流点火装置1dの概要について説明する。
交流点火装置1dでは、プラグ側インダクタ5dとして、点火プラグ6d内において、中心電極7dの中軸74dと埋込部73dとの間に金属抵抗線等からなる巻線52dを配設した点が相違する。
【0062】
本実施形態においても、前記実施形態と同様、点火コイル2と点火プラグ6dとの間にコイル側とプラグ側とに振り分けて複数のインダクタンスL
1、L2を設けることで、2段のローパスフィルタを構成して、高周波ノイズを除去する効果が発揮される。
加えて、本実施形態によれば、プラグ側インダクタ5と抵抗体73cとを別体で配設する場合に比べ、体格を小さくできる。
【0063】
図6を参照して、本発明の第6の実施形態における交流点火装置1eの概要について説明する。
前記実施形態においては、内燃機関11の気筒に設けた点火プラグ6に対して、それぞれ独立に交流電源10、点火コイル2、電磁遮断手段3、第2段のインダクタンスL
2、第1段のインダクタンスL
1を設けた例を示したが、本実施形態においては、複数の気筒を有する多気筒エンジンに対し、気筒毎に設けられた点火プラグ6への電力供給を一つの交流電源10と点火コイル2eとから分配して行うように構成した点が相違する。
【0064】
本図中、点火信号IG
1〜IGnとして示すように、各気筒の点火時期が異なるため、点火時期に合わせて点火コイル2eと各気筒に設けた点火プラグ6との接続を切換えるスイッチング手段45を設けることで、1つの交流電源を共用することが可能となり、製造コストの削減、装置全体の小型化を図ることが可能となる。
本実施形態においては、第1段のインダクタンスL15eは、それぞれの点火プラグ6に設けられており、それぞれが伝送線44eを介してスイッチング手段45と接続されている。
なお、第1の実施形態〜第5の実施形態に示した構成と本実施形態と組み合わせて適用することも可能である。
【0065】
図7を参照して、本発明の交流点火装置1に交流電圧を印加したときの二次電圧V
2の変化について説明する。
内燃機関11の点火時期に合わせて、図略のエンジン制御装置から点火信号IGtが発信されると、点火信号IGtがオンとなっている間、交流電源10からの交流電圧の供給が開始される。
交流電源10から印加された交流電圧が、昇圧トランスを構成する点火コイル2によって所定の尖頭値V
PPに昇圧され、尖頭値V
PPが所定の電圧(例えば、V
PP=15kV)を超えると、中心電極放電部70と接地電極90との間に区画された放電空間100において誘電体80の表面を這うようにして沿面ストリーマ放電が開始される。
【0066】
その後、誘電体80の表面を這うように沿面ストリーマ放電が形成されると、比較的低い電圧で、速やかに、放電空間100の絶縁破壊が起こる。
これにより、沿面ストリーマ放電から交流アーク放電に移行する。
このとき、放電空間100のインピーダンスが低下するため、沿面ストリーマ放電の発生時よりも低い電圧(例えば、V
PP=5kV))で交流アーク放電は安定的に維持される。
点火信号IGtがオンされ、交流電源10から電流供給されている間は、交流アーク放電が途切れることなく継続され、放電空間100内の混合気の着火を安定して引き起こすことができる。
【0067】
図8を参照して、本発明に係る第1段のインダクタンス5及び第2段のインダクタンス4を設けていない場合に発生するサージ電流について説明する。
図7に示したように、点火プラグ6に交流電流を投入し、一定期間経過すると、沿面ストリーマ放電から交流アーク放電への遷移が起こる。
このとき、点火プラグ6の放電部におけるインピーダンス変化により、印加電圧V
2が大きく減少し、点火コイル2や点火プラグ6に形成された浮遊容量C
2に蓄積されたエネルギが一気に放出される。
このため、
図8に示すように、交流点火装置に大きな電流波高を有するサージ電流が生じることになる。
本発明によれば、このようなサージ電流を効果的に遮断して、外部への輻射を防止することができる。
【0068】
図9を参照して、本発明の消費電力低減効果について説明する。
図9において、比較例1は、プラグ側にのみ、820μHのインダクタンスを設けた場合の消費電力を示し、比較例2は、コイル側にのみ、820μHのインダンスを設けた場合の消費電力を示し、比較例3は、0.5kΩの抵抗体のみを点火プラグに設けた場合の消費電力を示し、実施例1では、コイル側インダクタ4として20μHのインダクタを配設すると共に、プラグ側インダクタンスとして800μHのインダクタを配設した場合の消費電力を示し、実施例2は、実施例1に0.5kΩの抵抗体を加えた場合の消費電力を示す。
なお、実験は、点火プラグ同一、印加電圧一定の条件で行っている。
【0069】
各消費電力は、比較例3の消費電力を100とする相対値で示している。
比較例3として示す、抵抗のみによって、ノイズ吸収を図った場合にくらべ、本発明の実施例1、2のように、インダクタンスを設けることで、消費電力を抑制できることが分かる。
また、インダクタンスによってエネルギは消費されず、コイル側とプラグ側とに振り分けて複数段のインダクタを配設しても、消費電力に対する影響は変わらない。
【0070】
実施例2のように、コイル側インダクタ5又はプラグ側インダクタ4のいずれか一方又は両方に抵抗分を含ませることで、消費電力の抑制を図りつつ、インダクタンスによる高周波ノイズの遮断効果の向上を図ることもできる。
なお、一般的なスパーク放電型の直流交流点火装置では、雑音防止抵抗として5kΩ程度の抵抗体が用いられており、比較例3よりも消費電力は遙かに大きい。
また、比較例3と実施例2は共に0.5kΩの抵抗を有するが、インダクタの挿入により回路のQ値が向上し消費電力が低減されたものと考えられる。
【0071】
図10を参照して、本発明のサージ電流低減効果について説明する。
比較例1、比較例2、比較例3、実施例1、実施例2は、
図9に示した条件と同等である。
なお、本図においては、比較例1のサージ電流波高値を1とする相対値によって、他の比較例2、3及び実施例1、2におけるサージ電流波高値を示している。
本図に示すように、インダクタンスをコイル側とプラグ側のいずれか一方にのみ配設した場合にくらべ、実施例1、2に示すように、インダクタンスをコイル側とプラグ側とに振り分けることで、抵抗体によってノイズ吸収を図った場合と遜色のないサージ電流の吸収効果を発揮できることが判明した。
【0072】
図9、
図10に示したように、本発明の実施例1、2では、通電経路における抵抗ジュール熱による消費電力を比較例3の半分以下とすることを実現しつつ、1つのインダクタのみを配設した比較例1、2に比べて遜色のないサージ電流遮断効果を発揮することができることが判明した。
【0073】
図11を参照して、本発明の交流点火装置の周波数特性について説明する。
放電破壊時に生じるサージ電流は、点火プラグ6や伝送線44に蓄積されていた容量エネルギによる過渡振動現象に起因するものと考えられる。
そこで、本発明においては、点火コイル2と点火プラグ6との間にコイル側インダクタ4及びプラグ側インダクタ5を直列に配設することで、過渡振動に対してローパスフィルタを設けた効果を発揮することになる。
従来の交流点火装置のように、一つのインダクタンスを点火コイル側か点火プラグ側の一方に配設したインダクタによって形成した場合、フィルタ段数は1段となるが、本発明においては、コイル側とプラグ側とに分割してインダクタを設けることで、複数段のインダクタンスを構成し、通電経路のレジスタンス及びキャパシタンスと共に複数段のフィルタを構成するので、重畳的に高周波ノイズの減衰能の向上を図ることができる。
抵抗分をR、インダクタンス分をL、キャパシタンス分をCとすると、フィルタの1段分の伝達関数G(s)は、下記数式で表すことができる。
【数1】
【0074】
本発明の第1の実施形態における交流点火装置1の場合、第1段のフィルタLPF
1は、主にプラグ側インダクタ5のインダクタンスL
1、点火プラグ6に内蔵した抵抗体76のプラグ抵抗R
1、中心電極7とハウジング9との間に配設した誘電体2により形成されたプラグ容量C
1によって構成され、第2段のフィルタLPF
2は、主にコイル側インダクタ4のインダクタンスL
2、伝送線44の配線抵抗R
2、配線容量C
2によって構成されている。
フィルタの2段分の伝達関数G(s)は、1段目の伝達関数G
1(s)と2段目の伝達関数G
2(s)との積によって求めることができる。
ここに、各容量成分の典型的な値を例示する。
プラグ容量C
1:10〜100pF(プラグ径、誘電体2の材質等に依存して変化する。)
配線容量C
2:nFオーダ(但し、実際の配線条件等により大きく変わる。)
単純な同軸線路では、0.1〜1nF/m程度
理想的には、第1段のインダクタンスL
1と第2段のインダクタンスL
2の重畳的効果により、従来の1のインダクタンスが設けられた場合に比べ、フィルタの減衰傾度は2倍となるが、実際には、その他の浮遊容量や、インダクタの線間容量等の様々な要素が直並列につながり、より複雑となる。
その場合、2段フィルタの減衰傾度が2倍になるには至らないもの、主要サージ領域の遮断には十分な効果が発揮される。
【0075】
点火コイル2と点火プラグ6との間に設けるインダクタンスは、できるだけ大きくした方が高周波の減衰能が向上するが、フィルタの共振周波数においては、LC共振による電圧の増幅を生じるため、過剰な電圧増幅による素子破壊等の問題を生じる虞もある。
そこで、過剰な電圧増幅を防ぎつつ、共振周波数が主要サージ域から外れるように各段のインダクタンスを設定するのが望ましい。
また、共振周波数が印加周波数と一致し、遮断領域において利得が単調減少するようにするようにインダクタンスを設定するのが望ましい。
【0076】
本図に示すように、比較例においては、カットオフ周波数が主要サージ域内に存在するため、高周波ノイズが遮断されることなく伝播される虞があるのに対し、本発明の実施例においては、カットオフ周波数が主要サージ領域か低周波側に外れており、高周波ノイズを効率良く遮断することができる。
例えば、交流電源10から点火プラグ6に印加される交流電圧の印加周波数fを1MHzとした場合、主要サージ域が共振周波数よりも1桁以上高い周波数域となるため、サージ電流を効果的に遮断することができる。
【0077】
なお、前記実施形態においては、点火コイル2を点火プラグ6の中心軸と中心軸を一致させて筒状に形成した、いわゆるスティックコイル型の例を示してあるが、本発明において、点火コイル2の形状を筒状に限定する必要はない。
例えば、中心コアが点火プラグの軸方向に対して、直交する方向に向かって延びるように配設された、いわゆる矩形型コイルにおいても、本発明を適宜採用し得る。