特許第6397702号(P6397702)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397702
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】副室付交流点火装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 3/01 20060101AFI20180913BHJP
   F02P 13/00 20060101ALI20180913BHJP
   H01T 13/20 20060101ALI20180913BHJP
   H01T 13/32 20060101ALI20180913BHJP
   H01T 13/54 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   F02P3/01 A
   F02P13/00 301J
   H01T13/20 B
   H01T13/32
   H01T13/54
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-180066(P2014-180066)
(22)【出願日】2014年9月4日
(65)【公開番号】特開2016-53335(P2016-53335A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2017年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小菅 英明
(72)【発明者】
【氏名】岡部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】木下 翔太
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 明光
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−026754(JP,A)
【文献】 特表2014−502692(JP,A)
【文献】 特開2014−107198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00−23/10
F02P 1/00− 3/12、 7/00−23/04
H01T 7/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(7)に設けられ、導体からなる軸状の中心電極(1)と、誘電体からなり前記中心電極の外周と先端とを覆う有底筒状の誘電体碍子(2)と、導体からなり前記誘電体碍子の外周を覆う筒状のハウジング(3)と、導体からなり前記ハウジングの先端に延設された環状の接地電極(30)と、導体からなり前記接地電極よりも先端側に延設され、内側に前記内燃機関の主燃焼室(70)と連通し、前記誘電体碍子の先端が前記ハウジングから露出した誘電体脚部(20)の周囲を取り囲むように副燃焼室(40)を区画する副室カバー(4)と、前記中心電極と前記接地電極との間に所定の周波数の交流電圧を供給する交流電源(5)とを具備し、
前記交流電源からの交流電圧の印加により、前記副燃焼室内にストリーマ放電を発生させ、前記副燃焼室内に取り込んだ前記主燃焼室に導入された燃料と空気との混合気の一部を、前記副燃焼室内で着火させ、高温高圧の燃焼ガスを主燃焼室内に噴出して、前記内燃機関の点火を行う副室付交流点火装置であって、
前記接地電極は、環状の内周縁部が前記副室カバーの基端部よりも内側に位置して前記誘電体脚部の外周表面と対向し、
前記副室カバーが、先端側に向かって徐々に縮径するように湾曲して、前記接地電極との間に前記副燃焼室を区画する周壁部(41)と、該周壁部に穿設され、前記主燃焼室と前記副燃焼室とを連通する複数の通気孔(42)と、前記周壁部の先端側に設けられ、前記誘電体脚部の外周表面から所定の間隙(GP2)を隔て開口する開口部(43)とを具備し、
前記誘電体脚部の下半部が前記開口部から前記主燃焼室に突出していることを特徴とする副室付交流点火装置(6、6a、6c〜6d)
【請求項2】
前記接地電極の内周面の一部を前記誘電体脚部の表面に向かって突出せしめた請求項1に記載の副室付交流点火装置
【請求項3】
前記通気孔と前記開口部とを繋いで一体的に形成した請求項1又は2に記載の副室付交流点火装置
【請求項4】
前記中心電極の先端を前記接地電極に対向する位置までの長さとし、前記誘電体脚部の内側に、空間部(15)を設けた請求項1ないし3のいずれかに記載の副室付交流点火装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電圧の印加により非平衡プラズマ放電を発生させ、主燃焼室に連通する副燃焼室内に導入した混合気を着火させて主燃焼室内に燃焼火炎を噴射して内燃機関の点火を行う副室付交流点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費向上、CO2低減を目的として、小型、高出力及び低NOを達成する高効率エンジンの開発が進められている。高効率エンジンは高過給、高圧縮に加え混合気の燃料濃度が希薄な場合もあり、火花点火では着火しにくい環境である。
このような難着火性の内燃機関を高効率で燃焼させるには、燃焼速度が早く着火性に優れた点火装置が望まれている。
【0003】
特許文献1には、非平衡プラズマ放電(ストリーマ放電ともいう。)によって燃料に点火する非平衡プラズマ放電式エンジンであって、燃料が導入される主燃焼室に連通する副燃焼室と導電体からなり、副燃焼室内に延設する第1電極と導電体からなり、延設した第1電極の側部と対向するように配置される第2電極と、第1電極と第2電極との間に電圧を印加して、電極間の非平衡プラズマ放電によって副燃焼室内の燃料に体積点火させる電圧印加手段とを備えた非平衡プラズマ放電式エンジンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−36123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、近年の点火プラグ小型化の要求に対して、誘電体碍子を薄肉化して対応した場合に、特許文献1にあるような非平衡プラズマ放電式エンジンでは、副燃焼室内に収容された誘電体碍子が高温の燃焼ガスに晒されるので、熱歪により誘電体碍子の破損に至る虞があることが判明した。
また、誘電体碍子の熱歪割れを抑制するために、特許文献1にあるように、誘電体碍子の先端を厚肉にすると、厚肉部分が蓄熱して、プレイグニション等の燃焼異常を招く虞もある。
【0006】
そこで、本発明は、かかる実情に鑑み、燃料の導入される主燃焼室に連通する副燃焼室を具備し、誘電体で覆われた中心電極と接地電極との間に所定の周波数の交流電圧を印加して、上記副燃焼室内に発生させた非平衡プラズマと混合気との直接的な反応により、燃焼火炎を副燃焼室から主燃焼室内に噴出させて内燃機関の点火を行う副室付交流点火装置において、燃焼期間の短縮による着火安定性の向上と、熱歪による誘電体碍子の破損を抑制した耐久性の高い副室付交流点火装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の副室付交流点火装置(6、6a、6c〜6d)は、内燃機関(7)に設けられ、導体からなる軸状の中心電極(1)と、誘電体からなり前記中心電極の外周と先端とを覆う有底筒状の誘電体碍子(2)と、導体からなり前記誘電体碍子の外周を覆う筒状のハウジング(3)と、導体からなり前記ハウジングの先端に延設された環状の接地電極(30)と、導体からなり前記接地電極よりも先端側に延設され、内側に前記内燃機関の主燃焼室(70)と連通し、前記誘電体碍子の先端が前記ハウジングから露出した誘電体脚部(20)の周囲を取り囲むように副燃焼室(40)を区画する副室カバー(4)と、前記中心電極と前記接地電極との間に所定の周波数の交流電圧を供給する交流電源(5)とを具備し、前記交流電源からの交流電圧の印加により、前記副燃焼室内にストリーマ放電を発生させ、前記副燃焼室内に取り込んだ前記主燃焼室に導入された燃料と空気との混合気の一部を、前記副燃焼室内で着火させ、高温高圧の燃焼ガスを主燃焼室内に噴出して、前記内燃機関の点火を行う副室付交流点火装置であって、
前記接地電極は、環状の内周縁部が前記副室カバーの基端部よりも内側に位置して前記誘電体脚部の外周表面と対向し、
前記副室カバーが、先端側に向かって徐々に縮径するように湾曲して、前記接地電極との間に前記副燃焼室を区画する周壁部(41)と、該周壁部に穿設され、前記主燃焼室と前記副燃焼室とを連通する複数の通気孔(42)と、前記周壁部の先端側に設けられ、前記誘電体脚部の外周表面から所定の間隙(GP2)を隔て開口する開口部(43)とを具備し、前記誘電体脚部の下半部が前記開口部から前記主燃焼室に突出していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記副燃焼室内に導入された混合気にストリーマ放電が作用し、高温高圧の燃焼ガスを発生して、前記通気路及び前記開口部と前記誘電体脚部との間に設けられた間隙から、主燃焼室70内に噴射させ、火炎伝播させることで、安定した着火を実現できる。
加えて、前記副燃焼室内で発生した高温高圧の燃焼ガスに前記誘電体脚部が晒されても、前記開口部から前記誘電体脚部の下半部が前記主燃焼室内に突出しているため、誘電体脚部の下半部への過剰な応力集中による亀裂の発生を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】本発明の第1の実施形態における副室付交流点火装置6の全体概要を示す半断面図
図1B図1Aの副室付交流点火装置6に用いられる副室カバー4の下面図
図1C】通気孔42の穿設位置に偏りを設けた副室カバー4の変形例を示す下面図
図1D】通気孔42の穿設方向を偏心させた副室カバー4の変形例を示す下面図
図2A図1の副室付交流点火装置6の効果を燃焼行程順に追って示す要部断面図
図2B図2Aに続く要部断面図
図3】本発明の第2の実施形態における副室付交流点火装置6aの概要を示す要部断面図
図4】本発明の第3の実施形態における副室付交流点火装置6bの概要を示す要部断面図
図5A】本発明の第4の実施形態における副室付交流点火装置6cの概要を示す要部断面図
図5B図5B中B−Bに沿った横断面図
図6A】本発明の第5の実施形態における副室付交流点火装置6dの概要を示す要部断面図
図6B図6Aの下面図
図7】本発明の第6の実施形態における副室付交流点火装置6eの概要を示す要部断面図
図8A】本発明の点火装置の要部である副室カバーの製造方法の一例を示す行程概要図
図8B】本発明の第5の実施形態における副室付交流点火装置6dの要部である副室カバー4dの製造方法の一例を示す工程図
図9】比較例と共に、本発明の燃焼速度向上に対する効果を示す特性図
図10A】比較例1と共に本発明のプレイグニション抑制に対する効果を示す特性図
図10B】比較例2と共に本発明の熱歪割れ抑制に対する効果を示す特性図
図11】比較例1として示す、副燃焼室のない交流点火装置6xの概要を示す要部断面図
図12】比較例2として示す、通常の直流火花点火装置6vの概要を示す要部断面図
図13】比較例3として示す、副室付直流火花点火装置6wの概要を示す要部断面図
図14】比較例4として示す、従来の副室付交流点火装置6yの概要を示す要部断面図
図15】比較例5として示す、誘電体碍子の肉厚を薄くした副室付交流点火装置6zの概要とその問題点を示す要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1A図1Bを参照して本発明の第1の実施形態における副室付交流点火装置6(以下、単に点火装置6と称す。他の実施形態においても同様である。)の概要について説明する。
点火装置6は、高過給、高圧縮、高EGR、リーン燃焼による高効率、低NOを達成するエンジン等の難着火性の内燃機関7に設けられており、軸状の中心電極1と、中心電極1の外周と先端側を覆う有底筒状の誘電体碍子2と、誘電体碍子2を内側に収容保持する筒状のハウジング3と、ハウジング3の先端側に延設され、誘電体碍子2の先端側に設けた誘電体脚部20の外周表面から所定の間隙GP1を隔てて対向する環状の接地電極30と、接地電極30の先端側において、内燃機関7の主燃焼室70と連通し、誘電体脚部20の周囲を取り囲む筒状の副燃焼室40を区画する副室カバー4と、誘電体碍子2で覆われた中心電極1と接地電極30との間に交流電界を作用させる交流電源5とで構成されている。
【0011】
本実施形態における点火装置6は、副室カバー4が、副燃焼室40を区画する周壁部41と、周壁部41に穿設され、主燃焼室70と副燃焼室40とを連通する複数の通気孔42と、周壁部41の先端側に設けられ、誘電体脚部20の外周表面から所定の間隙GP2を隔て開口する開口部43とを具備し、誘電体脚部20の下半部が開口部43から主燃焼室70に突出していることを特徴とするものである。
本発明の点火装置6の適用される内燃機関7は、いわゆるレシプロエンジンであり、エンジンヘッド71と図略のシリンダとのシリンダ内を昇降可能に収容したピストン72とによって主燃焼室70を区画し、主燃焼室70に空気を導入する図略の吸気筒と、吸気筒を開閉する図略の吸気バルブと、主燃焼室70から燃焼排気を排出する図略の排気筒と、排気筒を開閉する図略の排気バルブと、主燃焼室70内に燃料を噴射する図略の燃料噴射弁とを具備し、主燃焼室70内に導入した混合気の一部を副燃焼室40内で着火させ、副燃焼室40から噴出させた燃焼火炎によって、主燃焼室40内に導入した混合気を着火させて燃焼膨張力によりピストン72を押し下げることにより動力を発生する。
なお、本発明において、内燃機関7は、液体燃料と気体燃料とのいずれを用いるものであっても良い。
【0012】
中心電極1は、導体からなり、中心電極放電部10と、連結部11と、接着層12と、中軸部13と、端子部14とによって構成され、長軸状に形成されている。
なお、成形容易にすべく中心電極放電部10と中軸部13とは別体で設けられ、連結部11、接着層12を介して電気的導通が図られている。
中心電極放電部10は、Fe、Ni、これらの合金等、公知の耐熱性金属材料が用いられ、長軸状に形成されている。
中心電極放電部10の内側にCu等の公知の熱伝導率の高い金属材料を埋設しても良い。中心電極放電部10は、先端側が閉塞する有底筒状の誘電体脚部20の内側に設けた放電部挿通孔200に挿入されている。
【0013】
中心電極放電部10の基端には、径大となるように拡径された連結部11が形成され、誘電体脚部20の基端側に設けた連結部係止面211に係止されている。
なお、図1Aにおいて、中心電極1の先端側において斜線を施した部分が誘電体脚部20を介して接地電極41との間でストリーマ放電を起こし得る範囲であり、この範囲を中心電極放電部10と称している。
ただし、その基端側の斜線を施していない部分と別体のものではなく、中心電極放電部10の先端から連結部11に至る迄は一体的に形成されているものである。
【0014】
接着層12には、ガラス粉末と銅、鉄、若しくは、これらの合金等の金属粉末を混合したものが用いられ、誘電体碍子2内の所定位置に充填圧縮された後、加熱熔融されている。接着層12は、連結部11と、中軸部13の先端とを誘電体碍子2の内側に封止固定すると共に、連結部11と、中軸部13の先端との電気的導通を図っている。
中軸部13は、誘電体2の基端側に穿設した中軸挿入孔230内に収容され、先端の一部が接着層12内に埋め込まれている。
中軸部13の基端側には、誘電体頭部23から露出する位置に端子部14が設けられている。
端子部14は、編組シールド線等の公知の同軸ケーブルを介して交流電源5に接続されている。
【0015】
誘電体碍子2は、高純度アルミナ、ジルコニア等の公知の耐熱性絶縁セラミック材料からなり、先端側が閉塞し、基端側が開口する有底筒状に形成されている。
誘電体碍子2は、中心電極1の外周及び先端を覆い、中心電極1と、ハウジング3、ハウジング3に延設した接地電極30、及び、接地電極30に延設した副室カバー4との電気絶縁性を確保している。
誘電体碍子2の内側には、放電部挿通孔200と連結部係止面211と中軸挿通孔230とが設けられ、中心電極1を挿通保持している。
【0016】
誘電体碍子2は、有底筒状に形成された誘電体脚部20と、誘電体脚部20の基端側に設けられ、誘電体脚部20よりも径大となる筒状の誘電体胴部21と、誘電体胴部21の基端側に設けられ、誘電体胴部21より径大となるように拡径した鍔状の誘電体大径部22と、誘電体大径部22の基端側に設けられ、誘電体大径部22よりも径小となるように縮径した筒状の誘電体頭部23、放電部挿通孔200と、連結部係止面211と、中軸挿通孔230とによって構成されている。
【0017】
誘電体脚部20の基端側半部は、誘電体脚部20の表面と、誘電体胴部21の誘電体底部210と、接地電極30の内周面とで区画された放電空間300と、副室カバー4によって区画された筒状の副燃焼室40とによって取り囲まれており、誘電体脚部20の先端側半部は、副室カバー4に穿設された開口部43から露出し、主燃焼室70に接している。
誘電体脚部20の基端側には、誘電体脚部20よりも径大となるように拡径した筒状の誘電体胴部21が形成されている。
誘電体胴部21は、筒状に形成したハウジング3の筒状部31に収容保持されている。
【0018】
誘電体胴部21の基端側には、鍔状に拡径した誘電体大径部22が形成されている。
誘電体大径部22は、ハウジング3の胴部33に収容保持されつつ、ハウジング3に設けられ、基端側に向かって径大となるように拡径する径変部33と加締め部35とによって挟持され、円環状のシール部材37、39、タルク等の公知の粉末充填部材38を介して気密に保持されている。
【0019】
誘電体大径部22の基端側には誘電体頭部23が形成され、ハウジング3の基端側から露出している。
誘電体頭部23は、中心電極端子部14とハウジング3との間の放電を防止すべく絶縁性を確保している。
中心電極端子部14とハウジング3との間で沿面放電を一層起こり難くするため、誘電体頭部23の基端側を、凹凸面が交互に並んだコルゲート状に形成しても良い。
【0020】
ハウジング3は、導体からなり、接地電極30と、筒状部31と、ネジ部32と、径変部33と、胴部34と、加締部35と、六角部36とによって構成されている。
ハウジング3は、Fe、Ni、これらの合金、炭素鋼、ステンレス等公知の耐熱性金属材料が用いられ、筒状に形成され、内側に誘電体碍子2を収容・保持している。
【0021】
ハウジング3の基端には、加締め部35が設けられ、シール部材37、39、タルクなど粉末充填部材38等の公知の封止部材を介して、径変部33と共に、誘電体碍子2の誘電体大径部22に軸方向の圧縮力を作用させて、誘電体碍子2とハウジング3との間の気密性を確保している。
ハウジング3の先端側外周には、エンジンヘッド71に点火装置6を固定するためのネジ部32が形成され、基端側外周には、ネジ部32を締め付け固定するための六角部36が形成されている。
【0022】
ハウジング3の先端側には、環状の接地電極30が延設されている。
電気的には、接地電極30は、ネジ部32を介してエンジンヘッド71に接地状態となっている。
接地電極30の内周壁は、誘電体底部210と誘電体脚部20の外周面と共に、放電空間300を区画している。
本実施形態においては、接地電極30の内周壁の一部が誘電体脚部20の表面に向かって突出する突出部301が全周に亘って形成されている。
突出部301は、誘電体脚部20の表面との間に所定の間隙(第1の間隙)GP1を隔て対向している。
【0023】
接地電極30の先端側に延設して本発明の要部である副室カバー4が設けられている。
副室カバー4は、Fe、Ni、これらの合金、炭素鋼、ステンレス等公知の耐熱性金属材料が用いて、誘電体脚部20の上半部を取り囲むように筒状に形成されている。
本実施形態における副室カバー4は、先端側に向かって徐々に縮径するように湾曲している。
【0024】
副室カバー4は、電気的に接地電極30と接続されており、接地電極30と同様、エンジンヘッド71に接地された状態となっている。
副室カバー4の内周壁と、誘電体胴部21の誘電体底部210、と誘電体脚部20の表面とによって、誘電体脚部20の周囲を取り囲むように、筒状の副燃焼室40(副室ともいう。)が区画されている。
周壁部41には、複数の通気孔42が穿設されており、主燃焼室70と副燃焼室40とを連通している。
【0025】
通気孔42は、軸中心に対して末広がりとなる角度θを設けて穿設されている。
周壁部41の先端には、誘電体脚部20の表面から一定の間隙(第2の間隙)GP2を隔てて開口する開口部43が形成されている。
開口部43からは、誘電体脚部20の下半部が露出して、主燃焼室70内に突出している。
なお、接地電極30(突出部301が設けられている場合には、その先端)の内周面と誘電体脚部20の表面との間の第1の間隙GP1及び、開口部43と誘電体脚部20の表面との間の第2の間隙GP2は、以下の範囲に設定するのが望ましい。
GP1≧0.5mm、好ましくは、GP1≧0.8mm、
GP2≦0.5mm、好ましくは、GP2≦0.3mmとする。
【0026】
第1の間隙GP1は、放電空間300と副燃焼室40との間の混合気の入れ替わりを考慮して、一定以上の間隙とするのが望ましい。
また、副燃焼室40内に発生した高温高圧の燃焼ガスGEXが、通気孔42を介して噴出されるようにするのが望ましく、できるだけ第2の間隙GP2を小さくするのが望ましい。副燃焼室40内の燃焼圧力を高め、通気孔42から主燃焼室70へ勢い良く噴出させるためである。
【0027】
但し、誘電体脚部20と開口部43とが接触すると、放電が起こらなくなるため、第2の間隙GP2は、0mmより大きくなければならない。
第2の間隙GP2が狭いと、開口部43と誘電体脚部20との間に一定以上の電荷が溜まったときに、開口部と誘電体脚部20との間ではストリーマ放電が起こらなくなる場合があるが、副燃焼室40内において、周壁部41の内周面及び接地電極30の内周面と誘電体脚部20の表面との間のいずれかの場所でストリーマ放電が発生するので、副燃焼室40内に導入された混合気の着火が行われる。
【0028】
図1Bには、仮想円VC上において等間隔に通気孔42を4個並べた例を示してあるが、通気孔42の数を限定するものではなく、また、必ずしも等間隔に穿設する必要はない。なお、図1B図1C図1Dに示した通気孔42に引き出された矢印は。通気孔42の穿設方向を示すと共に、副燃焼室40内で混合気の着火が発生したときに副燃焼室40から主燃焼室70に噴射される燃焼ガスGEXの噴射方向を示すものである。
内燃機関7の燃焼特性に応じて、通気孔42の数、位置、方向を、適宜変更することができる。
【0029】
例えば、図1Cに示すように、通気孔42を周方向に対して、不均一に配置して、燃焼室70の吸気側と排気側とで副燃焼室40から噴射する燃焼火炎GEXの量を異ならせることで、ノッキングの抑制を図ることもできる。
また、図1Dに示すように、通気孔42の穿設方向を偏心させることにより、副燃焼室40から噴射される燃焼ガスを旋回させ、主燃焼室70内での混合気との反応性を高め、より一層の火炎成長速度の向上を図ることもできる。
【0030】
本発明の交流点火装置6に用いられる交流電源5は、中心電極1と接地電極30との間に、所定の周波数f(例えば、85kHz以上1MHz以下)の高電圧(例えば、尖頭値VPPで20kV以上50kV以下)を印加する。
交流電源5は、内燃機関7の運転状況に応じて、図略のエンジン制御装置によって開閉制御される。
【0031】
図2A図2Bを参照して、第1の実施形態における点火装置6の効果について説明する。
図2Aの中心線から左側半部には、圧縮行程において燃焼室70内に導入された混合気MXFが副燃焼室40内に導入される様子を模式的に示したものである。
図2Aの中心線から右側半部は、中心電極1と接地電極30との間に交流高電圧を印加したときのストリーマ放電行程を模式的に示すものである。
図2Bの中心線から左側半部は、副燃焼室40内に発生したストリーマ放電によって、同時多発的に体積着火が発生する様子を模式的に示し、図2Bの中心線から右側半部は、副燃焼室40から主燃焼室70に燃焼ガスGEXが噴射される様子を模式的に示すと共に、熱歪による誘電体脚部20の先端側への応力集中が抑制される効果を模式的に示すものである。
【0032】
図2Aの左側半部に示すように、内燃機関7の圧縮行程においては、ピストン72の上昇に伴って主燃焼室70内の筒内圧力PSYLが上昇する。
BTDC30°からATDC30°の範囲内であって、内燃機関7の運転状況に応じた所定のタイミングにおいて、図略の燃料噴射弁が開閉駆動され、主燃焼室70内に燃焼が噴射され、ピストン72の移動によって発生する筒内気流によって、主燃焼室70内の空気と燃料が混合され混合気MXFが形成される。
主燃焼室70内の混合気MXFは、ピストン72の上昇に伴って、開口部43及び通気孔42を介して副燃焼室40内に導入される。
【0033】
図2Aの右側半部に示すように、所定の点火時期に交流電源5から中心電極1と接地電極30との間に所定の周波数fで、所定の尖頭値Vppの交流電圧が印加されると、接地電極30及び開口部43と誘電体脚部20の表面との間にストリーマ放電STRが発生する。
このとき、図2Bの左側半部に示すように、副燃焼室40内に導入された混合気にストリーマ放電が作用し、副燃焼室40の内側と開口部43の近傍で初期火炎核FLKが発生し、副燃焼室40内の混合気が同時多発的に着火される体積着火が行われる。
【0034】
すると、図2Bの右側半部に示すように、副燃焼室40内の圧力が高くなり、通気孔42及び開口部43から、高温の燃焼ガスGEXが主燃焼室70内に噴出される。
このとき、副燃焼室40に囲まれた誘電体脚部20の上半部が高熱に晒され、熱膨張が大きくなるが、誘電体脚部20の下半部は、副燃焼室40内よりも温度の低い主燃焼室70に突出しているため、その分、軸方向と断面方向の熱膨張が抑制され、熱歪に弱い誘電体脚部20の側面と底部との交わる角部への応力集中が緩和される。
【0035】
一方、副燃焼室40から、勢いよく噴射された燃焼ガスGEXによって、主燃焼室70内に導入された混合気が着火され、早期に完爆に至ることができる。
第1の実施形態における点火装置6では、誘電体脚部20の先端を副室カバー4から主燃焼室70内に露出させるために、中心電極放電部10及びこれを覆う誘電体脚部20を長く形成してある。
このため、副燃焼室40内に発生するストリーマ放電は、中心電極放電部10の先端側に引き寄せられ、副燃焼室40において、開口部43に近い位置に偏って発生する虞がある。
【0036】
副燃焼室40内の既燃ガスの掃気及び新規の吸入を効果的に行うためには、通気孔42及び開口部43から離れた混合気の着火を確実に行うのが望ましい。
そこで、点火装置6では、接地電極30の一部を誘電体脚部20の表面に向かって環状に突出させた突出部301を設けて、開口部43に過剰に電界集中しないようにしてある。ここで、図3図7を参照して、本発明の他の実施形態における副室付交流点火装置6a〜6eについて説明する。
【0037】
なお、以下の説明において、前記実施形態と同じ構成については、同じ符号を付し、各実施形態における特徴的な部分については、アルファベットの枝番を付して区別したので、共通する部分についての説明を省略し、特徴的な部分を中心に説明する。
本発明においては、誘電体脚部20の熱歪による破損を避けるため、誘電体脚部20の一部を副室カバー4の先端から主燃焼室70内に突出させてあり、第1の実施形態においては、誘電体脚部20と、中心電極放電部10とを長く形成してある。
【0038】
このため、中心電極放電部10の先端への電界集中により副燃焼室40内に発生するストリーマ放電は、開口部43側に偏って発生する傾向となっている。
誘電体脚部20の一部を副室カバー4の先端側から露出させれば熱歪による破損を回避できるため、中心電極放電部10を必ずしも、誘電体脚部20の長さにあわせて長く形成する必要はない。
【0039】
そこで、図3に示す、第2の実施形態における点火装置6aでは、中心電極放電部10aの長さを接地電極30aに対向する位置又はそれよりも僅かに先端側となる位置とし、誘電体脚部20に設けた放電部挿通孔200との間に空間部15を設けている。
このような構成とすることによって、第1の実施形態と同様に、誘電体脚部20の熱歪割れを抑制する効果に加え、電界集中し易い中心電極放電部10の先端と接地電極30aとが誘電体脚部20を介して対向するため、中心電極放電部10aが存在して誘電体脚部20に設けた放電部挿通孔200が中実となった部分において、ストリーマ放電が起こりやすくなるため、開口部43付近だけでなく、放電空間300aから副燃焼室40の開口部43に至るまでの広範囲に亘ってストリーマ放電が発生する。
その結果、副燃焼室40内に導入された混合気を効率良く燃焼させ、更なる着火安定性を図ることができる。
【0040】
また、本実施形態においては、接地電極30aが中心電極放電部10aの先端に近い位置に対向し、ストリーマ放電が起こり易くなってているため、内周面301aには、誘電体脚部20の表面に向かって突出する突出部を設けなくとも良い。
このため、放電空間300aと副燃焼室40aとの間における気体の入れ替わりに妨げとならず、放電空間300a内に未燃ガスが残留するのを抑制することもできる。
【0041】
図4を参照して、本発明の参考形態である第3の形態における副室付交流点火装置6bについて説明する。
前記実施形態においては、副室カバー4、4aを先端側に向かって徐々に縮径する球面状に形成した例を示したが、本形態では図4に示すような、周壁部41bを一定の内径で軸方向に伸び、先端に開口部43を有する底面を設けた有底筒状に形成し、通気孔42bを周壁部41bの底面に穿設するようにしている
形態においても、第2の実施形態と同様、放電部挿通孔200に空間部15を設けて、接地電極30に対向する位置までの長さとした中心電極放電部10aを用いても良い。
【0042】
図5A図5Bを参照して、本発明の第4の実施形態における副室付交流点火装置6cの概要について説明する。
第1の実施形態においては、接地電極30の内周面の一部を誘電体脚部20の表面に向かって環状に突出せしめた突出部301を形成した例を示したが、本実施形態における点火装置6cでは、突出部301cがピン状に形成され、接地電極30cの内周面の複数箇所に設けられている。
このような構成とすることにより、突出部301cに電界集中を起こさせ、初期のストリーマ放電を通気孔42から離れた位置で発生させ、副燃焼室40c内の通気孔42から離れた位置にある混合気の着火を容易にすることができる。
【0043】
また、ピン状の突出部301cは、放電空間300cと副燃焼室40cとの間の気体の移動の妨げとならず、放電空間300c内に未燃ガスが残留するを抑制することもできる。また、突出部301cと誘電体脚部20の表面との距離を短くすることで、誘電体脚部20の表面を這うように発生する沿面ストリーマ放電を発生させることができ、放電開始電圧が低くなり、早期に副燃焼室40c内の混合気に着火させることができる。
【0044】
図6A図6Bを参照して、本発明の第の実施形態における副室付交流点火装置6dについて説明する。
本実施形態においては、基本的な構造は、第2の実施形態における点火装置6aと同様であるが、副室カバー4dを別体で形成し、接地電極30dに嵌着させるようにして構成した点が相違する。
このような構成とすることで、副室カバー4をプレス成形によって簡単に成形することが可能となり、製造コストの低減を図ることもできる。
さらに、本実施形態においては、本図に示すように通気孔42dと開口部43dとを繋げることにより、一回のプレス工程で、通気孔42dと開口部43dとを有する副室カバー4を打ち抜き加工することが可能となる。
【0045】
ここで、図8A図8Bを参照して、プレス加工によって副室カバー4dを形成する方法の具体例について説明する。
図8Aに示す、複数回に亘って加工する方法では、まず、図8A(a)に示すように、平板状の鋼板を金型を用いて打ち抜き加工することで、通気孔42及び開口部43となる貫通孔を設けた穴あきブランクを形成する。
次いで、図8A(b)、(c)に示すように、絞り加工用ダイDiとパンチPNCとからなる金型を用いて絞り加工することで、図8A(d)に示すよう副室カバー4dを加工することができる。
なお、加工時に耳部が形成される場合には、必要に応じて耳部のカットを行う。
孔無しのブランクを用いて絞り加工後の仕上げ加工時に、通気孔42と開口部43とを打ち抜くようにしても良い。
【0046】
一方、図8Bに示す方法は、一回の打ち抜きによって、通気孔42dと開口部43dとを有する副室カバー4dの加工を可能とするものである。
図8B(a)に示すように、ガイドポストGP、ダイホルダDH、ダイDi、ブランク押さえBH、第1のコアパンチCP1、第2のコアパンチCP2、パンチホルダPH等からなるダイセットに、ブランクBRKをセットする。
図8B(b)に示すように、第1のコアパンチCP1、第2のコアパンチCP2は、通気孔42dと開口部43dとが繋がった一体的に打ち抜きが可能な形状とあっている。
【0047】
図8B(c)に示すように、ブランクBRKをダイDIとブランク押さえBHとで挟持しながら、ダイDIが下降するこで、平板状のブランクBRKが、第1のコアパンチCP1、第2のコアパンチCP2の形状に沿って、有底筒状の外形に絞り込まれていく。
図8B(d)に示すように、ダイDIの内側に設けた突起部がワークWの底部を押し圧し、第1のコアパンチCP1が固定され、第2のコアパンチCP2が沈み込むことで、図8B(e)に示すように、通気孔42dと開口部43dとが繋がった形状の抜きカスDBSが打ち抜かれる。
【0048】
このような工程を経ることで、図8B(f)に示すような副室カバー4dを一回の打ち抜き加工によって形成することができる。
なお、成形過程で、いわゆる耳部やフランジ部と称される余剰部分が形成される場合には、必要に応じて除去すれば良い。
また、本実施形態に示した金型の構造は、本発明の点火装置を実現するための一例を示したに過ぎず、本発明において、製造方法を限定するものではない。
【0049】
図9を参照して、燃焼速度向上に対する本発明の効果について説明する。
本図は、燃焼行程において、燃料の化学エネルギが燃焼によって取り出される速度を示す熱発生率ROHR(J/deg)について、燃焼条件を同じにして、点火装置を変えた場合のる熱発生率の違いを示すものである。
本図中実線で示す実施例1は、第1の実施形態における点火装置6を用いた場合の熱発生率ROHRを示す。
なお、副燃焼室のない、従来の交流点火装置6xを用いた場合の熱発生率を比較例1として点線で示し、副燃焼室を設けていない通常の直流火花点火装置6vを用いた場合の熱発生率を比較例2として波線で示し、従来の副室付直流火花点火装置6wを用いた場合の熱発生率を比較例3として一点鎖線で示してある。
【0050】
通常の火花点火装置6vに比べ、副室付直流火花点火装置6wの方が燃焼速度が向上し、さらに、副燃焼室を設けていない交流点火装置6xの方が、副室付直流火花点火装置6wよりも燃焼速度が向上することが確認された。
さらに、本発明の副室付交流点火装置6では、初期の熱発生は、従来の副燃焼室を備えていない点火装置6xより遅いものの、中期以降の熱発生が速くなっており、全体では点火装置6xをさらに上回り、例示した中では最も速い燃焼速度を達成していることが確認された。
【0051】
図10Aを参照して、比較例と共に、本発明のプレイグニション抑制に対する効果について説明する。
比較例4として、後述する点火装置6yを用い、本発明の第1の実施形態に示した点火装置6を、内燃機関の燃焼室を模した高圧容器に取り付け、副燃焼室内に高温の気体を導入したときの誘電体脚部表面の温度の違いを測定した。
その結果比較例4では、誘電体脚部20yの表面温度が、プレイグニションを発生させる温度以上に昇温され、実施例においては、プレイグニション発生温度よりも低い表面温度を維持できた。
【0052】
図10Bを参照して、比較例と共に、本発明の耐久性向上に対する効果について説明する。
比較例5として、後述する点火装置6zを用い、本発明の第1の実施形態に示した点火装置6を、内燃機関の燃焼室を模した圧力容器に取り付け、一定時間、交流電源5から交流二次電圧の印加と停止を繰り返す耐久試験を行った。
比較例5として示す、点火装置6zでは、試料(n=3)の全てにおいて、所定の耐久時間に到達する前に誘電体脚部20zに亀裂が生じ、本発明の実施例として示す、点火装置6では、所定の耐久試験後においても、誘電体脚部20に損傷はなく、正常な状態を維持できた。
【0053】
図11を参照して、比較例1として示す、従来の副燃焼室を備えていない交流点火装置6xについて説明する。
点火装置6xは、軸状の中心電極1xと、中心電極1xを覆う有底筒状の誘電体碍子2xと、誘電体碍子2xを収容保持するハウジング3xと、ハウジング3xの先端に延設され、誘電体碍子2xの先端に設けた誘電体脚部20xの表面と所定の放電距離GPを隔てて対向する環状の接地電極30xと、中心電極1xと接地電極30xとの間に、所定周波数で、所定の二次電圧を有する交流電源5によって構成されている。
交流電源5からの交流電圧の印加により、点火装置6xの誘電体脚部20xの表面と接地電極30xとの間にストリーマ放電が生成され、ストリーマ放電と燃焼室70内の混合気との直接的な反応により、従来の火花点火装置6vや副室付直流火花点火装置6wよりも、早期の着火安定化を図ることができる。
【0054】
図12を参照して、比較例2として示す従来の直流火花点火装置6vについて説明する。点火装置6vは、公知の火花式点火装置で、長軸状の中心電極1vと、筒状の絶縁碍子2vと筒状のハウジング3vと、ハウジング3の先端側からL字形に伸びるように延設され、中心電極1の先端に設けた中心電極放電部10vと所定の放電距離GPを隔てて対向する接地電極30vとによって構成されている。
点火装置6vは、直流電源から供給された一次電圧を図略の点火コイルによって昇圧した二次電圧を供給する直流高圧電源5wを具備し、中心電極1vと接地電極30vとの間に印加し、中心電極放電部10vと接地電極30との間に所定の放電距離GPを隔てて設けられた放電空間40vに火花放電を発生し、その周辺の混合気を着火する。
また、直流高圧電源5wは、放電開始後から、二次電流の供給を続けることで、放電アークの吹き消え防止を図るものもある。
【0055】
図13を参照して、比較例3として示す、従来の副室付直流火花点火装置6wについて説明する。
点火装置6wは、比較例2として示した、火花点火装置6vの先端側を覆う半球型の周壁部41vを設けて、内側に副燃焼室40vを区画し、周壁部41vには、副燃焼室40vと主燃焼室70と連通する通気孔42vが穿設されている。
副燃焼室40vを設けることで、副燃焼室40v内に導入された混合気が火花放電によって着火され、高温高圧の燃焼ガスとなり、通気孔42vを介して主燃焼室70内に噴射され、主燃焼室70内の混合気に火炎伝播し、通常の火花点火装置6wよりも、燃焼速度が向上する。
【0056】
図14を参照して、比較例4として示す、従来の副室付交流点火装置6yの概要と問題点について説明する。
点火装置6yでは、中心電極放電部10yを覆う有底筒状の誘電体脚部20yの先端を肉厚の半球面状に形成することで、熱歪に耐久性確保している。
副室カバー4yは、一定の間隙を隔てて誘電体脚部20yの先端側を覆う半球型の周壁部41yを設けて、内側に副燃焼室40yを区画し、周壁部41yには、副燃焼室40yと主燃焼室70と連通する通気孔42yが穿設されている。
【0057】
圧縮行程で副燃焼室42yの内側に導入された混合気は、中心電極1と接地電極30yとの間に交流電圧の印加によって、発生したストリーマ放電によって、燃焼を始める。
副燃焼室40y内の混合気は燃焼により高温高圧の燃焼ガスとなり、通気孔42yを通過して主燃焼室70に噴出し、主燃焼室70内の混合気に火炎伝播する。
【0058】
このとき主燃焼室70内の燃焼は、燃焼ガスの噴出による乱れをともなって進行するため、副燃焼室40yを設けていない比較例1として示した交流点火装置6wよりも燃焼期間を短縮し、燃焼を安定させることができと期待されていた。
ところが、比較例4の点火装置6yでは、副燃焼室40yの高温に対抗するため、中心電極放電部10yを覆う誘電体脚部20yの肉厚が厚く、熱容量が大きくなる。
このため、誘電体脚部20yの蓄熱により、プレイグニション等の燃焼異常を招く虞がある。
【0059】
また、誘電体脚部20yの先端が肉厚の半球状に形成されているため、ストリーマ放電は、専ら、誘電体脚部20yの側面と筒状に形成された側面電極31y及び側面電極31yに延設された環状の接地電極30yとの間で生じることとなり、副燃焼室40yを区画する半球状の周壁部41yとの間にはストリーマ放電が生じ難くなっている。
このため、通気孔42yの近傍にはストリーマ放電が発生しないため、副燃焼室40y内で燃焼が開始されたときに、燃焼ガスに先んじて低温の未燃ガスが噴出されることになる。
その結果、燃焼速度向上効果が十分に発揮できない虞があった。
さらに、誘電体脚部20yの先端を肉厚に形成する都合上、誘電体2yの細径化に限界があり、近年の点火プラグの細径化に対する要求にも対応が困難であった。
【0060】
図15を参照して、比較例5として示す、従来の副室付交流点火装置において、誘電体脚部20zの肉厚を薄くして細径化した点火装置6zの概要と問題点について説明する。
点火装置6zでは、ハウジング3zのネジ部32zを例えば、従来、呼び径M14であったものをM12以下の呼び径にするため、誘電体脚部20zを薄肉に形成してあり、誘電体脚部20zは、比較例4として示した点火装置6yと同様、副室カバー4zの内側に収容されている。
このため、中心電極1zと接地電極30zとの間に所定の周波数の交流電圧を印加し、ストリーマ放電を発生させて、副燃焼室40z内に導入された混合気の着火を行うと、誘電体脚部20zが全面的に加熱される。
このとき、高温に晒された誘電体脚部20zの筒状の側面の軸方向の熱膨張と底面の断面方向の熱膨張とが互いに干渉し、側面部と底部とが直交する角部に応力集中を招くことになり、亀裂を生じる虞がある。
【符号の説明】
【0061】
6、6a〜6d 副室付交流点火装置
1 中心電極
10 放電部
11 連結部
12 接着層
13 中軸部
14 端子部
15 空間部
2 誘電体碍子
20 誘電体脚部
200 中心電極放電部挿通孔
21 誘電体胴部
211 係止部
22 誘電体大径部
23 誘電体頭部
230 中軸挿通孔
3 ハウジング
30 接地電極
300 放電空間
301 突出部
31 筒状部
32 ネジ部
33 径変部
34 胴部
35 加締め部
36 六角部
37、39 シール部材
38 粉末充填部材
4 副室カバー
40 副燃焼室
41 周壁部
42 通気孔
43 開口部
5 交流電源
7 内燃機関
70 主燃焼室
71 エンジンヘッド
72 ピストン
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15