特許第6397708号(P6397708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397708
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02F 5/00 20060101AFI20180913BHJP
   F02F 3/00 20060101ALI20180913BHJP
   F16J 9/20 20060101ALI20180913BHJP
   F16J 9/26 20060101ALI20180913BHJP
   F16J 9/16 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   F02F5/00 C
   F02F5/00 E
   F02F3/00 D
   F02F5/00 K
   F16J9/20
   F16J9/26 Z
   F16J9/16
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-198035(P2014-198035)
(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公開番号】特開2016-70117(P2016-70117A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2016年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 諭
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 学
(72)【発明者】
【氏名】後藤 英之
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 直也
(72)【発明者】
【氏名】尾曽 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】鍬崎 寛
(72)【発明者】
【氏名】小山 秀行
【審査官】 木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】 特表平04−504463(JP,A)
【文献】 特開2002−317695(JP,A)
【文献】 特開2008−267516(JP,A)
【文献】 特開平06−185619(JP,A)
【文献】 特開2004−353577(JP,A)
【文献】 特表2003−501594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 5/00
F02F 3/00
F16J 9/16
F16J 9/20
F16J 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンヘッド(1)のリング溝(2)に圧力リング(3)が内嵌され、圧力リング(3)が、相互に重なった上死点側リング(4)と下死点側リング(5)で構成され、上死点側リング(4)と下死点側リング(5)の相互の接触面(4a)(5a)がシリンダ中心軸線(6)と平行な向きに対して傾斜するように構成された、エンジンにおいて、
上死点側リング(4)と下死点側リング(5)の相互の接触面(4a)(5a)が、シリンダ壁(7)に近づくにつれて、下死点側に近づくように傾斜され、上死点側リング(4)の外周面(4b)がシリンダ壁(7)に接し、
上死点側リング(4)の下死点側に前記接触面(4a)からシリンダ壁(7)に向けて延長された下死点側延長面(4e)を備え、上死点側リング(4)の外周面(4b)と下死点側延長面(4e)の隅角部に下死点側に向かう鋭角のエッジ部(4d)が形成されている、ことを特徴とするエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載されたエンジンにおいて、
下死点側リング(5)の外周面(5b)がシリンダ壁(7)から離間されている、ことを特徴とするエンジン。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたエンジンにおいて、
上死点側リング(4)が下死点側リング(5)よりも熱伝導性の高い素材で構成されている、ことを特徴とするエンジン。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載されたエンジンにおいて、
前記圧力リング(3)が最も上死点側のリング溝(2)に内嵌されている、ことを特徴とするエンジン。
【請求項5】
請求項4に記載されたエンジンにおいて、
前記リング溝(2)とオイルリング溝(8)との間がリング溝のないランド部(9)とされている、ことを特徴とするエンジン。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載されたエンジンにおいて、
上死点側リング(4)と下死点側リング(5)の各合い口隙間(4c)(5c)は、相互に圧力リング(3)の周方向にずらして配置されている、ことを特徴とするエンジン。
【請求項7】
請求項6に記載されたエンジンにおいて、
上死点側リング(4)と下死点側リング(5)の各合い口隙間(4c)(5c)は、ピストンヘッド(1)の径方向の相互反対側に配置されている、ことを特徴とするエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに関し、詳しくは、ピストンヘッドの冷却効率を高めることができるエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンとして、ピストンヘッドのリング溝に圧力リングが内嵌され、圧力リングが相互に重なった上死点側リングと下死点側リングで構成され、上死点側リングと下死点側リングの相互の接触面がシリンダ軸線と平行な向きに対して傾斜するように構成されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種のエンジンによれば、燃焼室で発生したガス圧で圧力リングがシリンダ壁に圧接され、圧力リングの密封性を高めることができる利点がある。
【0004】
しかし、この特許文献1のものでは、上死点側リングと下死点側リングの相互の接触面が、シリンダ壁に近づくにつれて、上死点側に近づくように傾斜され、下死点側リングの外周面がシリンダ壁に接し、上死点側リングの外周面がシリンダ壁から離間されているため、問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公昭43−23202号公報(第2,3図参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
《問題点》 ピストンヘッドの冷却効率が低い。
この特許文献1のものでは、下死点側リングの外周面がシリンダ壁に接し、上死点側リングの外周面がシリンダ壁から離間されているため、ピストンヘッドの熱が高温のピストン頂面から遠い下死点側リングを介してシリンダ壁に伝導され、ピストンヘッドの冷却効率が低い。
【0007】
本発明の課題は、ピストンヘッドの冷却効率を高めることができるエンジンを提供することにある。
【0008】
本発明の発明者らは、研究の結果、上死点側リングの外周面がシリンダ壁に接している場合には、ピストンヘッドの冷却効率が高まることに着目し、この発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明の発明特定事項は、次の通りである。
図1(B)に例示するように、ピストンヘッド(1)のリング溝(2)に圧力リング(3)が内嵌され、圧力リング(3)が、相互に重なった上死点側リング(4)と下死点側リング(5)で構成され、上死点側リング(4)と下死点側リング(5)の相互の接触面(4a)(5a)がシリンダ中心軸線(6)と平行な向きに対して傾斜するように構成された、エンジンにおいて、
図1(B)に例示するように、上死点側リング(4)と下死点側リング(5)の相互の接触面(4a)(5a)が、シリンダ壁(7)に近づくにつれて、下死点側に近づくように傾斜され、上死点側リング(4)の外周面(4b)がシリンダ壁(7)に接し、
図1(B)に例示するように、上死点側リング(4)の下死点側に前記接触面(4a)からシリンダ壁(7)に向けて延長された下死点側延長面(4e)を備え、上死点側リング(4)の外周面(4b)と下死点側延長面(4e)の隅角部に下死点側に向かう鋭角のエッジ部(4d)が形成されている、ことを特徴とするエンジン。
【発明の効果】
【0010】
(請求項1に係る発明)
請求項1に係る発明は、次の効果を奏する。
《効果》 ピストンヘッドの冷却効率を高めることができる。
図1(B)に例示するように、上死点側リング(4)の外周面(4b)がシリンダ壁(7)に接しているため、ピストンヘッド(1)の熱が高温のピストン頂面(1a)から近い上死点側リング(4)を介してシリンダ壁(7)に伝導され、ピストンヘッド(1)の冷却効率を高めることができる。
【0011】
《効果》 圧力リングの密封性を高めることができる。
図1(B)に例示するように、上死点側リング(4)と下死点側リング(5)の相互の接触面(4a)(5a)が、シリンダ壁(7)に近づくにつれて、下死点側に近づくように傾斜され、上死点側リング(4)の外周面(4b)がシリンダ壁(7)に接しているため、燃焼室(10)で発生したガス圧で下死点側に押された上死点側リング(4)が下点側リング(5)の接触面(5)に沿ってシリンダ壁(7)側に摺動し、上死点側リング(4)がシリンダ壁(7)に圧接され、圧力リング(3)の密封性を高めることができる。
【0012】
(請求項2に係る発明)
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 シリンダ壁に対する圧力リングの摩擦抵抗を低減することができる。
図1(B)に例示するように、下死点側リング(5)の外周面(5b)がシリンダ壁(7)から離間されているため、圧力リング(3)とシリンダ壁(7)との接触面積が減少し、シリンダ壁(6)に対する圧力リング(3)の摩擦抵抗を低減することができる。
【0013】
(請求項3に係る発明)
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 ピストンヘッドの冷却効率を高めることができる。
上死点側リング(4)が下死点側リング(5)よりも熱伝導性の高い素材で構成されているため、ピストンヘッド(1)の熱が熱伝導性の高い上死点側リング(4)を介してシリンダ壁(7)に伝達され、ピストンヘッド(1)の冷却効率を高めることができる。
【0014】
(請求項4に係る発明)
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 ピストンヘッドの冷却効率を高めることができる。
図1(B)に例示するように、前記圧力リング(3)が最も上死点側のリング溝(2)に内嵌されているため、ピストンヘッド(1)の熱が高温のピストン頂面(1a)に最も近い上死点側リング(4)を介してシリンダ壁(7)に伝導され、ピストンヘッド(1)の冷却効率を高めることができる。
【0015】
《効果》 圧力リングの密封性を高めることができる。
図1(B)に例示するように、前記圧力リング(3)が最も上死点側のリング溝(2)に内嵌されているため、燃焼室(10)で発生したガス圧が上死点側リング(4)で直接に受け止められ、上死点側リング(4)がシリンダ壁(7)に強く圧接され、圧力リング(3)の密封性が高まる。
【0016】
(請求項5に係る発明)
請求項5に係る発明は、請求項4に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 簡単な構造のピストンを用いることができる。
図1(B)に例示するように、前記リング溝(2)とオイルリング溝(8)との間がリング溝のないランド部(9)とされているため、セカンドリング等の中間リング溝のない簡単な構造のピストン(11)を用いることができる。
【0017】
(請求項6に係る発明)
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 圧力リングの密封性を高めることができる。
図2に例示するように、上死点側リング(4)と下死点側リング(5)の各合い口隙間(4c)(5c)は、相互に圧力リング(3)の周方向にずらして配置されているため、各合い口隙間(4c)(5c)に重なった下死点側リング(5)または上死点側リング(4)で、各合い口隙間(4c)(5c)からのブローバイガスの吹き抜けを抑制することができ、圧力リング(3)の密封性を高めることができる。
【0018】
(請求項7に係る発明)
請求項7に係る発明は、請求項6に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 圧力リングの密封性を高めることができる。
図2に例示するように、上死点側リング(4)と下死点側リング(5)の各合い口隙間(4c)(5c)は、ピストンヘッド(1)の径方向の相互反対側に配置されているため、上死点側リング(4)の合い口隙間(4c)を通過したブローバイガスは、リング溝(2)を経由してシリンダヘッド(1)の径方向の反対側まで到達しなければ、下死点側リング(5)の合い口隙間(5c)に届かず、リング溝(2)を経由するブローバイガスの吹き抜けを抑制することができ、圧力リング(3)の密封性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態にかかるディーゼルエンジンを説明する図で、図1(A)は要部の模式図、図1(B)はピストンとシリンダ壁の拡大縦断面図である。
図2図1(A)のII−II線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1図2は本発明の実施形態に係るエンジンを説明する図であり、この実施形態では、直接噴射式の立形ディーゼルエンジンについて説明する。
【0021】
このエンジンの概要は、次の通りである。
図1(A)に示すように、このエンジンは、シリンダ壁(7)の上部にシリンダヘッド(12)が組み付けられ、シリンダボア内にピストン(11)が内嵌されている。ピストン(11)はコンロッド(13)を介してクランク軸(14)に連結されている。
シリンダヘッド(12)には、吸気ポート(15)と排気ポート(16)が設けられ、燃料インジェクタ(17)が取り付けられている。
燃料インジェクタ(17)の噴射口は、シリンダヘッド(12)とシリンダ壁(7)とピストン(11)とで囲まれた燃焼室(10)に向けられている。
【0022】
図1(B)に示すように、このエンジンでは、ピストンヘッド(1)のリング溝(2)に圧力リング(3)が内嵌され、圧力リング(3)が、相互に重なった上死点側リング(4)と下死点側リング(5)で構成され、上死点側リング(4)と下死点側リング(5)の相互の接触面(4a)(5a)がシリンダ中心軸線(6)と平行な向きに対して傾斜するように構成されている。
【0023】
図1(B)に示すように、このエンジンでは、上死点側リング(4)と下死点側リング(5)の相互の接触面(4a)(5a)が、シリンダ壁(7)に近づくにつれて、下死点側に近づくように傾斜され、上死点側リング(4)の外周面(4b)がシリンダ壁(7)に接している。
図1(B)に示すように、このエンジンでは、下死点側リング(5)の外周面(5b)がシリンダ壁(7)から離間されている。
図1(B)に示すように、このエンジンは、上死点側リング(4)の下死点側に前記接触面(4a)からシリンダ壁(7)に向けて延長された下死点側延長面(4e)を備え、上死点側リング(4)の外周面(4b)と下死点側延長面(4e)の隅角部に下死点側に向かう鋭角のエッジ部(4d)が形成されている。
【0024】
このエンジンでは、上死点側リング(4)が下死点側リング(5)よりも熱伝導性の高い素材で構成されている。
下死点側リング(5)には安価な鋳鉄が用いられている。
上死点側リング(4)には、下死点側リング(5)よりも熱伝導性の高い合金鋼が用いられている。合金鋼の表面には熱伝導性の高い硬質クロムめっきを施してもよい。
【0025】
図1(B)に示すように、このエンジンでは、前記圧力リング(3)が最も上死点側のリング溝(2)に内嵌されている。
【0026】
図1(B)に示すように、このエンジンでは、前記リング溝(2)とオイルリング溝(8)との間がリング溝のないランド部(9)とされている。
オイルリング溝(8)にはオイルリング(18)が内嵌されている。
【0027】
図2に示すように、このエンジンでは、上死点側リング(4)と下死点側リング(5)の各合い口隙間(4c)(5c)は、相互に圧力リング(3)の周方向にずらして配置されている。
【0028】
図2に示すように、このエンジンでは、上死点側リング(4)と下死点側リング(5)の各合い口隙間(4c)(5c)は、リング溝(2)の径方向の相互反対側に配置されている。
【符号の説明】
【0029】
(1) ピストンヘッド
(2) リング溝
(3) 圧力リング
(4) 上死点側リング
(4a) 接触面
(4b) 外周面
(4c) 合い口隙間
(5) 下死点側リング
(5a) 接触面
(5b) 外周面
(5c) 合い口隙間
(6) シリンダ中心軸線
(7) シリンダ壁
(8) オイルリング溝
(9) ランド部
図1
図2