特許第6397710号(P6397710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397710
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】車両の衝撃吸収構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/10 20060101AFI20180913BHJP
   F02M 35/16 20060101ALI20180913BHJP
   B60K 13/02 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   B62D25/10 E
   F02M35/16 E
   B60K13/02 C
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-198581(P2014-198581)
(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公開番号】特開2016-68686(P2016-68686A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 琢馬
(72)【発明者】
【氏名】小山田 義明
(72)【発明者】
【氏名】松下 敏之
【審査官】 畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−331607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/10
B60K 13/02
F02M 35/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員室の前方に形成される前室において固定配置される車体構成部材と、
車体構成部材に取付けられ、内燃機関の燃焼空気を取り入れる吸気ダクトと、
車体構成部材及び吸気ダクトの車両上下方向における上方に配置され、前室の上部を覆蓋可能なフードと、
フードの内面に取り付けられ、車両幅方向に延在すると共に車両前後方向における後方でかつ下方に向かって延在して、吸気ダクトとフードとの間に設けられ、フードに対して入力される衝突荷重を、車両前後方向における後方でかつ下方への衝突荷重として吸気ダクトに伝達し、伝達する衝突荷重により吸気ダクトを押圧して、吸気ダクトの車体構成部材に対する取付状態を解除する押圧部材と、
吸気ダクトの上面に凸状に設けられると共に押圧部材の下端縁よりも車両前後方向における後方に配置され、フードに対して衝突荷重が入力されると押圧部材の下端縁に対して当接して係合するストッパと、
を備える、
車両の衝撃吸収構造。
【請求項2】
押圧部材の下端縁は、フードに対して衝突荷重の入力が無い状態において、吸気ダクトのストッパに近接又は当接して配置される、
請求項に記載の車両の衝撃吸収構造。
【請求項3】
押圧部材は、車両幅方向に延在する板状部材、又は、車両幅方向に沿って列設される複数の棒状部材若しくは筒状部材である、
請求項1又は2に記載の車両の衝撃吸収構造。
【請求項4】
吸気ダクトは、車体構成部材に対する取付部位において、車両前後方向の前側に切欠部又は脆弱部が形成された貫通孔を有し、該貫通孔を介したピン止め又はネジ止めによって車体構成部材に固定され、押圧部材から衝突荷重が伝達されると、ピン又はネジが貫通孔の切欠部又は脆弱部を通って取付状態が解除される、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両の衝撃吸収構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝撃吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2は、自動車の前室における吸気ダクトの構造を開示している。
これらの文献では、衝突時にフードに対して上方から衝突荷重が入力された場合に、フードの下方に配設される吸気ダクトを積極的に変形させることにより、フードが下方に押し込まれる領域を確保する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−208506号公報
【特許文献2】特開2009−293535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実際には、衝突時以外にも荷重が吸気ダクトに作用することがある。例えば車両の整備時には、吸気ダクトに上方から整備作業者が手をつく等して荷重が加わることが多い。特許文献1及び2に記載の発明は、整備時に上方からの荷重が加わった場合に、吸気ダクトが変形してしまう可能性があった。
よって、特許文献1及び2に記載の発明は、衝突安全性は高いが、整備性が低下していた。
【0005】
よって、本発明が解決しようとする課題は、衝突安全性及び整備性の両立を図ることのできる車両の衝撃吸収構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として、本発明に係る車両の衝撃吸収構造は、車両の乗員室の前方に形成される前室において固定配置される車体構成部材と、車体構成部材に取付けられ、内燃機関の燃焼空気を取り入れる吸気ダクトと、車体構成部材及び吸気ダクトの車両上下方向における上方に配置され、前室の上部を覆蓋可能なフードと、フードの内面に取り付けられ、車両幅方向に延在すると共に車両前後方向における後方でかつ下方に向かって延在して、吸気ダクトとフードとの間に設けられ、フードに対して入力される衝突荷重を、車両前後方向における後方でかつ下方への衝突荷重として吸気ダクトに伝達し、伝達する衝突荷重により吸気ダクトを押圧して、吸気ダクトの車体構成部材に対する取付状態を解除する押圧部材と、吸気ダクトの上面に凸状に設けられると共に押圧部材の下端縁よりも車両前後方向における後方に配置され、フードに対して衝突荷重が入力されると押圧部材の下端縁に対して当接して係合するストッパと、を備える。
【0008】
本発明に係る車両の衝撃吸収構造において、押圧部材の下端縁は、フードに対して衝突荷重の入力が無い状態において、吸気ダクトのストッパに近接又は当接して配置されることが好ましい。
【0011】
本発明に係る車両の衝撃吸収構造において、押圧部材は、車両幅方向に延在する板状部材、又は、車両幅方向に沿って列設される複数の棒状部材若しくは筒状部材であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る車両の衝撃吸収構造において、吸気ダクトは、車体構成部材に対する取付部位において、車両前後方向の前側に切欠部又は脆弱部が形成された貫通孔を有し、該貫通孔を介したピン止め又はネジ止めによって車体構成部材に固定され、押圧部材から衝突荷重が伝達されると、ピン又はネジが貫通孔の切欠部又は脆弱部を通って取付状態が解除されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、例えば整備時等に作用し易い上方からの荷重ではなく、伝達部によって後方でかつ下方への衝突荷重が作用することにより、吸気ダクトの取付状態が解除される。これにより、吸気ダクトは前室内で押圧される方向に移動可能となるので、フードの下方において、衝突時にフードの変形を阻害する部材が無くなる。また、衝突時にのみ吸気ダクトの取付状態が解除されるので、整備時に加わる荷重に耐え得るように適宜の剛性を有する吸気ダクトが使用可能になる。したがって、衝突安全性及び整備性の両立を図ることのできる車両の衝撃吸収構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明が適用された自動車の前室の一部を示す斜視図である。
図2図2は、図1に示すフード、吸気ダクト、及びラジエータコアサポートの一部を側面視した場合の断面概略図である。
図3図3は、図1に示すラジエータコアサポートと吸気ダクトとの連結部位の一部拡大概略図である。
図4図4は、図2に示した各部材に衝突荷重が入力された場合の説明図である。
図5図5は、本発明に係る車両の衝撃吸収構造の別の実施形態を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る車両の衝撃吸収構造の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1には、本発明を採用し得る自動車の前室の一部を示した。図1は、車両の前室1を示す斜視図である。図1は、車両の前室1の右前部を一部拡大図示しており、図面下方がフロント側であり、図面上方がリヤ側である。
図1に示す車両の前室1には、エンジン2、エアクリーナ3、ラジエータ4、ラジエータコアサポート5及び吸気ダクト6を備える。なお、図1に示す車両の前室1は、整備等を行う際と同様にフードを開けた状態であり、図1にフードは図示していない。フードは、図2を参照しつつ後述する。
【0017】
車両の前室1は、乗員室(図示せず)の前方に形成される領域であり、例えばエンジン等の駆動系部材が配設される領域である。図1に示すように、車両の前室1には、エンジン2が配設されている。エンジン2は、本願発明における内燃機関の一例であり、一般的なガソリンエンジン車に搭載されるガソリンエンジンとして図示している。
【0018】
エアクリーナ3は、フィルタを内部に有する濾材の一種である。エアクリーナ3には、後述の吸気ダクト6とエンジン2とに接続される。吸気ダクト6から取り入れられた外気は、エアクリーナ3のフィルタを通過することによりゴミ、粉塵等を除去された上で、エンジン2に流入する。
【0019】
ラジエータ4は、車両の前室1内において、車両の走行中に風が当たり易い部位である前方に、車両の進行方向に対して略垂直となるように配置される。ラジエータ4は、駆動によって上昇するエンジン2の温度を降下させるための冷却水を冷やすことができる限り、一般的な乗用車に搭載されるラジエータであれば良い。
【0020】
ラジエータコアサポート5は、ラジエータ4を保持する枠体である。ラジエータコアサポート5は、車両の前室1の前方に設けられ、ラジエータ4を固定的に保持可能なフレーム状部材、棒状部材、又は断面コの字状部材として形成される。ラジエータ4は、ラジエータコアサポート5に対して、ネジ止め、係合、又は嵌合等によって固定的な保持状態となる。
なお、ラジエータコアサポート5は、車両の前室1において固定配置される部材であり、本発明における車体構成部材の一例である。
【0021】
図1に示す吸気ダクト6は、車両前後方向に沿って、かつ車両左右方向における右側に向かって延在する略筒体である。吸気ダクト6は、車両の前室1内でラジエータコアサポート5に取付けられる。吸気ダクト6は、エンジン2の燃焼用空気を取り入れ、該空気をエアクリーナ3まで案内する気体の流通路である。
なお、吸気ダクト6は、本発明における吸気ダクトの一例である。吸気ダクト6は、ラジエータコアサポート5に取付けられているが、本発明に係る車両の衝撃吸収構造においては前室内に固定配置される適宜の車体構成部材に取付けられていれば良い。
【0022】
ここで、図2を参照しつつ、本発明に係る車両の衝撃吸収構造の一実施形態について更に説明する。
図2は、フード、吸気ダクト、及びラジエータコアサポートの一部を側面視した場合の断面概略図である。車両の前室1の一部を示した図1にはフードを図示していなかったが、図2には閉じた状態のフードを図示している。
【0023】
図2に示すように、ラジエータコアサポート5及び吸気ダクト6の上方には、フード7が設けられている。フード7は、閉じることによって前室1の上部を覆蓋することができる。
フード7は、複数の板状部材を有する。該板状部材のうち、前室1の外側、つまりフード7を閉じた状態で上側に位置する板状部材がアウターフード71であり、前室1の内側、つまりフード7を閉じた状態で下側に位置する板状部材がインナーフード72である。
【0024】
図2に示す実施形態においては、アウターフード71とインナーフード72との間に間隙が形成されている。該間隙は、前室1内の種々の部材の大きさ、配置、エンジン駆動時の要求される前室1内の環境等に応じて、小さくしても良い。つまり、インナーフード72をアウターフード71により近接させて配置することにより、前室1内の形状及び容積等を適宜に変更することもできる。
【0025】
アウターフード71は外側に露出しているので、車両の衝突時に衝突荷重が直接入力される部材である。また、衝突時にアウターフード71が前室1の内側に向かって変形した場合に、インナーフード72はアウターフード71の内面に押圧されることにより衝突荷重を受ける。
【0026】
吸気ダクト6は、その筒状部分が、ダクト上面部61及びダクト下面部62により形成されている。ダクト上面部61及びダクト下面部62は、吸気ダクト6の周辺部材の形状、及び隙間の形状に合わせて適宜の形状に湾曲又は屈曲させた板状部材として、合成樹脂の射出成形等によりそれぞれ成形される。成形されたダクト上面部61及びダクト下面部62は、接着、溶着、係合、嵌合又はネジ止め等によって一体的に接合され、筒状体の吸気ダクト6となる。
ダクト上面部61は、その上面に凸状のストッパ8を有する。ストッパ8は、後述の押圧部材10よりも車両前後方向における後方に配置され、衝突時に押圧部材10の下縁部に対して係合する部材である。
【0027】
また、ダクト下面部62は、ダクト上面部61よりも前方に突出する板状部位である突出部9を有する。ダクト上面部61とダクト下面部62とが一体的に接合されると、ダクト上面部61の前端縁部及びダクト下面部62が吸気ダクト6の開口部63を形成すると共に、開口部63の下方から前側に突出部9が突出する。
【0028】
突出部9はラジエータコアサポート5に対してボルト及びナットから成る固定手段11によって取付けられる。固定手段11による突出部9とラジエータコアサポート5との固定については図3を参照しつつ後述する。
【0029】
フード7におけるインナーフード72と、吸気ダクト6におけるダクト上面部61との間には押圧部材10が設けられている。押圧部材10は、その上端縁がインナーフード72の内面に取付けられ、車両前後方向における後方でかつ下方に向かって延在し、下端縁がダクト上面部61及びストッパ8に近接している。
なお、押圧部材10は、本発明に係る車両の衝撃吸収構造における伝達部、及び押圧部材の一例である。
【0030】
押圧部材10は、車両幅方向に延在する板状部材である。また、押圧部材10は、フード7に対して上方から入力される衝突荷重を、後方でかつ下方への衝突荷重として吸気ダクト6に伝達することによって、吸気ダクト6のラジエータコアサポート5に対する取付状態を解除する。衝突荷重の伝達形態等については、図4を参照しつつ後述する。
【0031】
図2において、白抜きの矢印A及びBは、それぞれ異なる状況下でフード7又は吸気ダクト6に対して作用する荷重の方向を示している。
矢印Aは、フード7に対して衝突荷重が入力される方向の一例を示している。フード7に入力される衝突荷重としては、例えば歩行者との衝突が生じた場合、歩行者の頭部等の身体の一部がフード7に衝突することに起因して生じる応力が挙げられる。
また、矢印Bは、吸気ダクト6に対して整備作業者から加えられる荷重の方向を示している。整備作業者から加えられる荷重としては、例えば車両の整備においてフード7を開けて前室1内に配設される部材の整備をする場合、前室1内の後方に配置される部材を整備するときに、吸気ダクト6のダクト上面部61の上面に整備作業者が手をつく、又は整備用品等を載置することによって、整備作業者の体重、又は整備用品の重量等に起因して生じる荷重が挙げられる。
なお、矢印Aの方向は、歩行者に対する衝突角度に応じて変動することはある。矢印Bの方向は、前室1の整備において、吸気ダクト6に手をつく方向、又は、物を載置したときの重量の作用する方向が略一定であるので、変動し難い。
【0032】
ここで、図3を参照しつつ、吸気ダクト6のラジエータコアサポート5への取付態様について説明する。
図3は、ラジエータコアサポート5と吸気ダクト6との連結部位の一部拡大概略図である。
【0033】
図3に示すように、吸気ダクト6は、ラジエータコアサポート5に対する取付部位である突出部9において、貫通孔12を有する。更に、貫通孔12は、保持部121と切欠部122とから形成されている。保持部121は、略円形の孔であり、固定手段11におけるボルトの軸部分及びラジエータコアサポート5のネジ穴13の径よりも若干大きく形成される。切欠部122は、保持部121の前側に形成されるスリット状の切欠である。
【0034】
ラジエータコアサポート5と吸気ダクト6とは、貫通孔12の保持部121を介した固定手段11のネジ止めによって固定される。ネジ止めされると、固定手段11におけるボルトの頭部分は保持部121の孔径よりも太径に形成されているので、保持部121から固定手段11が自然と抜け落ちてしまうことはなく、保持部121が固定手段11を保持することができる。これにより、車両の通常の使用環境下においては、吸気ダクト6は、ラジエータコアサポート5に対する固定取付状態が維持される。
【0035】
また、押圧部材10から吸気ダクト6に後方への衝突荷重が伝達されると、吸気ダクト6が後方に移動しようとする。これにより、固定手段11におけるボルトの軸部分が貫通孔12の切欠部122を通ることによって、保持部121による固定手段11の保持が解除され、結果として固定手段11による吸気ダクト6の固定取付状態が解除される。
【0036】
本発明に係る車両の衝撃吸収構造において、上記貫通孔12の切欠部122に代えて、衝突荷重によって破断し易い脆弱部を設けることとしても良い。具体的には、切欠部122の形成されている部位を、吸気ダクト6を形成する合成樹脂とは別種の強度の低い合成樹脂を用いた二色成形等によって、脆弱部として形成することができる。脆弱部を採用したとしても、固定の解除形態は上記切欠部122を用いた場合と同様である。すなわち、押圧部材10から吸気ダクト6に対して後方への衝突荷重が伝達されると、固定手段11におけるボルトの軸部分が該脆弱部を破断させつつ通過し、吸気ダクト6の固定取付状態が解除される。
【0037】
図1及び2に示すように、吸気ダクト6は、前後方向に適宜の長さを有する。上述したように、吸気ダクト6の前側は、突出部9が固定手段11により固定されている。これに対して、吸気ダクト6の後側は、図1に示したエアクリーナ3に対して固定されずに接続していることが多い。例えば吸気ダクト6の筒形状を有する後端が、エアクリーナ3の外気取入れ用の開口部(図示せず)に挿入されているだけの接続形態であることが多い。
【0038】
従来の吸気ダクトは前側がラジエータコアサポート等の車体構成部材に単に固定的に取付けられていただけであった。よって、衝突荷重が吸気ダクトに対してどのような方向に入力されたとしても、該固定取付状態は解除されなかった又はされ難かった。
【0039】
上記貫通孔12を備える吸気ダクト6は、押圧部材10から吸気ダクト6に対して後方への衝突荷重が伝達されると、固定取付状態が解除されるので、吸気ダクト6の固定されていない後方、つまりエアクリーナ3側への移動が可能となる。
なお、本発明が適用可能な吸気ダクトは、図1〜3に示すような実施形態における吸気ダクト6のように扁平な筒体だけではなく、例えば断面略円形状又は矩形状等を有する筒体であっても良い。本発明は、後方でかつ下方への衝突荷重が伝達されると吸気ダクトの取付状態が解除可能であれば、種々の断面形状、全体形状及び配置を有する吸気ダクトに適用することができる。
【0040】
次に、図2に示した本発明に係る車両の衝撃吸収構造の一実施形態が、衝突したときの各部材の動作、作用及び効果等について、図4を参照しつつ説明する。
図4は、図2に示した各部材に衝突荷重が入力された場合の説明図である。なお、図4には、図2に示したフード7におけるアウターフード71は図示していない。図4は、図2に示した白抜き矢印Aの方向に沿ってアウターフード71に対して衝突荷重が入力されることにより、該衝突荷重の方向に沿ってアウターフード71が変形し、更にインナーフード72に対して押し込まれた場合の、インナーフード72及び吸気ダクト6の変形及び移動について図示している。
なお、図4においては、フード7及び吸気ダクト6に対して衝突荷重の入力が無い状態、つまり図2に示した初期状態を破線で示し、吸気ダクト6が後方に移動した状態を一点鎖線で示し、吸気ダクト6が更に下方に移動した状態を実線で示している。
【0041】
従来において、例えば吸気ダクトを衝突荷重により上下方向に積極的に変形させることにより、フードが下方へ押し込まれる領域を確保する車両の衝撃吸収構造があった。しかしながら、従来では衝突荷重以外であっても吸気ダクトに荷重が作用すると変形してしまう可能性があった。
【0042】
例えば、車両の保守管理の一つとして、整備作業を挙げることができる。前室内の吸気ダクトよりも後方に配設される種々の部材を整備する場合、整備作業者は吸気ダクトの上面に手をついて、吸気ダクトに体重をかけつつ整備することがある。また、吸気ダクトの上にある程度の重量のある整備用品等を載置することもある。したがって、上方からの応力又は荷重であれば変形し得る吸気ダクトを備える従来の車両の衝撃吸収構造は、衝突荷重だけでなく、整備作業者又は整備用品等により作用する上方からの荷重によっても吸気ダクトが変形する可能性があった。
【0043】
以上により、従来においては、整備作業によって作用する荷重と、衝突荷重とが、区別無く吸気ダクトを変形させてしまう可能性があった。これによって、整備時に吸気ダクトを変形させないために手をつかずに作業する必要性が生じるので、良好な整備性を確保することが困難であった。また、衝突時に吸気ダクトが車体構成部材に固定されたままであると、フードの下方への大きな変形を固定取付状態の吸気ダクトが阻害する可能性があった。
よって、衝突安全性と整備性との両立を図ることのできる車両の衝撃吸収構造が求められていた。
【0044】
図1〜3に示した実施形態に係るフード7に上方からの衝突荷重が入力されると、先ずフード7が衝突荷重の入力方向である矢印Aに沿って、下方に押し込まれる。フード7におけるインナーフード72が、破線で示す初期状態から一点鎖線で示す状態へと下方に押し込まれると、先ず押圧部材10が吸気ダクト6のダクト上面部61に当接する。押圧部材10は、初期状態において車両前後方向における後方でかつ下方に向かって配設されていたので、ダクト上面部61に当接した状態から更に押し込まれる押圧部材10は、ダクト上面部61の上面を後方に向かって摺動し、ストッパ8に当接して係合する。
【0045】
ストッパ8に係合した状態から更に押し込まれる押圧部材10は、吸気ダクト6全体を後方に押圧する。後方に押圧された吸気ダクト6は、図3に示したように、固定手段11におけるボルトの軸部分が、ダクト下面部62の突出部9における貫通孔12の保持部121から切欠部122を通ることによって、ラジエータコアサポート5から脱離状態となる。これにより、吸気ダクト6は、図4の一点鎖線で示す状態まで押圧されて後方に移動する。なお、吸気ダクト6の後側は、上述したようにエアクリーナ3の開口部に挿入されているに過ぎない。よって、吸気ダクト6が後方に移動しても問題は無く、吸気ダクト6の後側がエアクリーナ3に対して大きく挿入された状態になる程度で済む。
【0046】
後方に移動した吸気ダクト6は、押圧部材10を介してインナーフード72により更に押圧される。このとき、吸気ダクト6は、ラジエータコアサポート5に対する固定取付状態が解除されているので、下方に移動可能となっている。よって、インナーフード72が下方に押し込まれると、吸気ダクト6は押圧部材10によって下方に押圧される。これにより、吸気ダクト6は、図4の実線で示す状態まで押圧されて下方に移動する。
なお、吸気ダクト6の内部には、フィン等の流入外気の整流用部材(図1〜4には図示せず。)が、吸気ダクト6の延在方向でかつ車両上下方向に沿って設けられていることが多い。これにより、押圧部材10がダクト上面部61を押圧すると、整流用部材を介してダクト下面部62も押圧されるので、結果として押圧部材10が吸気ダクト6全体を押圧することになる。
【0047】
図1〜4に示す実施形態において、吸気ダクト6が整備作業者等から作用する矢印Bに沿った下方への荷重では、吸気ダクト6の固定取付状態が解除されず、歩行者等より入力される矢印Aに沿った後方でかつ下方への衝突荷重では、吸気ダクト6の固定取付状態が解除される。
【0048】
仮に、吸気ダクト6がラジエータコアサポート5に対してどの方向への荷重を受けても解除されない固定取付状態である場合、衝突荷重によりフード7が下方に大きく変形したときに、固定取付状態の吸気ダクト6がフード7の変形を阻害する。
【0049】
図1〜4に示す実施形態は、衝突荷重の入力前の初期状態では、押圧部材10が吸気ダクト6のダクト上面部61に近接して配置されている。これにより、インナーフード72が下方に押し込まれることと略同時に、ダクト上面部61は押圧部材10を介して後方でかつ下方へ押圧され始める。つまり、フード7の下方への変形開始と小さい時間差で吸気ダクト6の固定を解除し、吸気ダクト6を自由に移動可能にする。これにより、フード7の変形を阻害することによって衝突荷重に対する抗力と成り得る部材を、フード7の下方において衝突時にのみ実質的に除くことができる。以上により、本実施形態は、フード7における衝突荷重の吸収が吸気ダクト6によって阻害されなくなるので、高い衝突安全性を発揮することができる。
【0050】
更に、本実施形態においては、後方でかつ下方への荷重が加わったときに吸気ダクト6の固定が解除される限り、吸気ダクト6は剛性を高く設定することができる。つまり、吸気ダクト6に対して整備時等に上方から作用する荷重に対して、吸気ダクト6が変形しない程度の剛性を持たせることができる。また、例えば整備時等のように衝突時以外の方向に荷重が作用しても、吸気ダクト6の固定取付状態が不意に解除されることもない。
以上により、本実施形態は高い整備性を発揮することができる。したがって、本実施形態は、衝突安全性と整備性との両立を図ることができる。
【0051】
また、押圧部材10をインナーフード72に取付けているので、整備作業時にフード7を開けると、吸気ダクト6の上面には押圧部材10等の大きな突出部位が無いことによって、整備作業者が吸気ダクト6の上面に手をつき易く、整備用品を載置し易いので、整備性が良好である。
【0052】
図1〜4に示す実施形態は、押圧部材10が後方でかつ下方に向かって延在している。押圧部材10の該延在方向は、例えば押圧部材10が鉛直又は前方等に向かって延在する場合と比べると、吸気ダクト6の固定取付状態を解除し易い方向である。これにより、衝突荷重の吸気ダクト6への伝達が効率的となり、吸気ダクト6の固定取付状態を解除するときに生じる抗力が小さくなるので、結果として衝突安全性が向上する。なお、押圧部材10の延在方向の決定方法としては、例えば衝突荷重が歩行者等からフード7に対して最も入力され易い方向に合わせて決定する方法を挙げることができる。
【0053】
また、図1〜4に示す実施形態は、押圧部材10が車両幅方向に延在するので、車両幅方向のどの部分に衝突荷重が入力されたとしても、フード7から吸気ダクト6に対して衝突荷重が正確に伝達可能である。
【0054】
続いて示す図5は、本発明に係る車両の衝撃吸収構造の他の実施形態を示す断面概略図である。
図5に示す実施形態と、図1〜4に示した実施形態との相違点は、伝達部材の形態、ストッパの有無、及び押圧形態である。この相違点以外は、同一の部材を用いているので、同一の参照符号を付し、同一部材の詳細な説明は省略する。
なお、図5においては、各部材に対して衝突荷重が入力される前の初期状態を実線で示し、入力された後の状態を一点鎖線で示している。
【0055】
図5に示す実施形態においては、押圧部材101がインナーフード72の下面に取り付けられている。押圧部材101と上記押圧部材10との相違点は、ダクト上面部61への取付位置、及び、車両前後方向における後方でかつ下方への延在距離である。押圧部材101は、上記押圧部材10よりもダクト上面部61の前方に取付けられている。また、押圧部材101は、上記押圧部材10よりも後方でかつ下方への延在距離が大きい。押圧部材101は、その下端部が前方でかつ上方から開口部63を介して吸気ダクト6内に挿入され、ダクト下面部62の上面に近接して配置されている。
【0056】
図5に示す実施形態において、フード7に対して矢印Aに沿って衝突荷重が入力されると、フード7が下方に移動し、押圧部材101がダクト下面部62を後方でかつ下方に押圧する。
なお、図5に示す実施形態においては上記ストッパ8は設けていない。しかしながら、押圧部材101の下端部がダクト下面部62の上面を摺動し始めたとしても、押圧部材101の後方面がダクト上面部61の前端部に当接して係合状態となるので、押圧部材101は衝突荷重をダクト下面部62の押圧にのみ利用することができるようになる。
【0057】
インナーフード72による押圧部材101を介したダクト下面部62の押圧により、吸気ダクト6は固定取付状態が解除されてラジエータコアサポート5から脱離状態となる。更に押圧されると、吸気ダクト6は後方に移動する。
【0058】
後方に移動した吸気ダクト6は、押圧部材101を介してインナーフード72により更に押圧される。吸気ダクト6は、ラジエータコアサポート5に対する固定取付状態が解除されているので、下方に移動可能となっている。よって、インナーフード72が下方に押し込まれると、吸気ダクト6は押圧部材101によって下方に押圧される。これにより、吸気ダクト6は、図5の一点鎖線で示す状態まで押圧されて下方に移動する。
【0059】
本発明においては、フード7による押圧部材101を介した押圧形態として、図5に示すように吸気ダクト6を破断させつつ後方及び下方に押圧するようになっていても良い。押圧により吸気ダクト6が破断したとしても、吸気ダクト6自体は固定取付状態が解除されて自由に移動可能となっているので、フード7の下方への変形を阻害しない。換言すると、フード7に入力される衝突荷重への抗力と成り得る部材が、フード7の下方において実質的に除かれている。以上により、図5に示す実施形態は、フード7における衝突荷重の吸収が吸気ダクト6によって阻害されないので、高い衝突安全性を発揮することができる。
【0060】
更に、図5に示す実施形態においては、押圧部材101を介して後方でかつ下方への荷重が加わったときに吸気ダクト6の固定が解除される限り、吸気ダクト6は剛性を高く設定することができる。つまり、吸気ダクト6に対して整備時等に上方から作用する荷重に対して、吸気ダクト6が変形しない程度の剛性を持たせることができる。また、例えば整備時等のように衝突時以外の方向に荷重が作用しても、吸気ダクト6の固定取付状態が不意に解除されることもない。以上により、図5に示す実施形態は高い整備性を発揮することができる。
したがって、図5に示す実施形態は、衝突安全性と整備性との両立を図ることができる。
【0061】
なお、図1〜5に示す吸気ダクト6は全体形状として扁平形状を有しているが、本発明においては断面円形状等を有する種々の一般的な吸気ダクトを用いることができる。また、吸気ダクトの取付位置として、上記吸気ダクト6はラジエータコアサポート5の上方でかつ後方に取付けられているが、本発明においては、本発明の課題を解決することができる限り特に制限されず、例えばラジエータコアサポートと同じ高さでかつ後方であっても良く、又は、車両幅方向の略中央部で他の車体構成部材に取付けられていても良い。
【0062】
上述した実施形態において、押圧部材10及び101は吸気ダクト6の一部に近接して配置されている。本発明においては、衝突安全性と整備性との両立が可能な限り、伝達部材は吸気ダクト及びフードの少なくともいずれか一方に近接又は当接して配置されれば良い。
【0063】
上述した押圧部材10及び101は車両幅方向に延在する板状部材である。本発明においては、車両幅方向においてどの部分に衝突荷重の入力があっても吸気ダクトに衝突荷重が伝達される限り、伝達部材が棒状部材又は筒状部材として形成され、車両幅方向に沿って複数本列設されていても良い。
【0064】
本発明において、伝達部材が衝突荷重を吸気ダクトに伝達する際に、上記ストッパ8等の伝達部材の移動範囲を規制する部材を設けない形態を採用しても良い。該形態としては、例えば伝達部材の下端部、及び吸気ダクトの伝達部材が当接する部位の少なくともいずれか一方に、板状のエラストマー等を貼付しておくことにより、伝達部材を吸気ダクトに係合させ、衝突荷重の大部分を吸気ダクトに直接入力することができる。
【0065】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により、本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【符号の説明】
【0066】
1:前室、2:エンジン、3:エアクリーナ、4:ラジエータ、5:ラジエータコアサポート、6:吸気ダクト、61:ダクト上面部、62:ダクト下面部、63:開口部、7:フード、71:アウターフード、72:インナーフード、8:ストッパ、9:突出部、10及び101:押圧部材、11:固定手段、12:貫通孔、121:保持部、122:切欠部、13:ネジ穴
図1
図2
図3
図4
図5