【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、使用者がバスボードを利用して立位の状態で浴槽の側壁を跨ぐ際の使用態様、使用者がバスボードへ自己の体重の一部を預ける部分の位置、形状及び構造、使用者が座位の状態でバスボードを使用する際の障害などについて鋭意研究を重ねた結果、バスボードの一部を回動可能とし、回動部分の上面には使用者の手の平を支持するために略平坦な支持面が形成されているノブを配置することにより上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、浴槽側壁の上面に載置される支持基材と、前記支持基材に回動自在に取り付けられている板状の回動部材と、そして前記回動部材の上面に取り付けられているノブとからなるバスボードにおいて、前記ノブの上面には、使用者の手の平を支持するための略平坦な支持面が形成されていることを特徴とするバスボードが提供される。
【0013】
ここで、本願明細書で使用する用語について説明する。本願明細書では、「前方」とはバスボードの回動部材の自由端側に相当し、「後方」とはバスボードの回動部材の支持端側に相当する。したがって、「左方」とは回動部材の前方と後方とを結ぶ方向と直交する方向の一の端部側に相当し、「右方」とは左方の反対側に位置する他の端部側に相当する。本発明のバスボードは基本的に浴槽の片隅に寄せて固定されるため、バスボードの前方は浴槽の内側方向に相当し、バスボードの後方は浴槽の外側方向に相当する。また、バスボードの左方は浴槽の洗い場側または浴室の側壁側に相当し、バスボードの左方は浴室の側壁側または浴槽の洗い場側に相当する。
【0014】
本発明のバスボードに使用される材料は、各部品に求められる強度を有するものであれば特に制限されるものではなく、プラスチック材料、金属材料、木製材料、繊維材料又はそれらを組み合わせた複合材料などを使用することができる。ただし、浴室内は高温多湿の過酷な腐食環境であるので、耐腐食性が高く、しかも軽量であるプラスチック材料を主要材料としてバスボードへ用いることが好ましい。
【0015】
支持基材は、バスボードの腰掛け部分の一部を形成すると共に、バスボードを浴槽の側壁に固定し、そして後述する回動部材を回動自在に支持するために機能する。このため、支持基材は浴槽側壁の上面に載置できるものであれば、板状、棒状またはそれらを組み合わせた形状を有するものを使用することができる。ただし、バスボードを浴槽側壁に設置した際の安定性、浴槽側壁の上面へのダメージ回避、使用者の利便性などを考慮すると、支持基材は板状であることが好ましく、さらに浴槽側壁の上面に載置した時、平面視において浴槽側壁の上面を隠すように完全に覆うことができる幅を有していることが好ましい。
【0016】
支持基材には、板状の回動部材が回動自在に取り付けられる。回動部材は前方縁部を有しており、その前方縁部の左右端部には中央部よりも後方へ湾曲した凹部が形成されていることが好ましい。さらに、回動部材の前方縁部に形成された凹部は、それぞれの外側に配置された支持基材の前方端部よりも後方へ湾曲していてもよい。本発明のバスボードは、浴槽の開口部に配置される回動部材を跳ね上げることができるので、入浴中の使用者の邪魔になることがない。
【0017】
また、回動部材の前方縁部が、その左右端部において中央部よりも後方へ湾曲した凹部を有していると、使用者は腰を屈めたり或いは身体を後ろ向きに捻って目視することなく、手の平の感触等によって回動部材の左右端部の位置(凹部)を確認することができる。また、凹部が、使用者の手の平が納まる大きさに切り欠かれていると、使用者は、回動部材を開閉する時、手の平が自然と回動部材の凹部へ誘導されるので、回動部材と浴槽側壁との間または回動部材と支持基材との間に手を挟まれることなく安全に回動部材を開閉することができる。
【0018】
このため、バスボードの左方側基材および右方側基材の内側には、回動部材を閉じた時に下方から支持するための左方棚部および右方棚部が内側に向けて突設されている。また、左方棚部の前方縁部は、回動部材を閉じた時、回動部材の凹部における前方縁部と面一となるか又は後方に位置するように配置されており、そして右方側基材の前方縁部は、回動部材を閉じた時、回動部材の凹部における前方縁部と面一となるか又は後方に位置するように配置される。
【0019】
特に回動部材を閉じた時、左方棚部の前方縁部および右方棚部の前方縁部が、それぞれに回動部材の凹部よりも後方に位置するように配置されていると、回動部材を掴む使用者の手が、凹部において回動部材の裏面へまで回りこんでいる場合であっても、使用者の手が回動部材と左方棚部との間、回動部材と右方棚部との間に挟み込まれるのを効果的に防止することができる。
【0020】
本発明のバスボードでは、回動部材の上面に、使用者の手の平を支持するための略平坦な支持面が形成されているノブが取り付けられている。
【0021】
バスボードは、本来、浴槽の開口部の一部に掛け渡しておき、高齢者や要介護者などの身体の不自由な人がバスボードへ腰を掛けたままの状態で浴槽の外から中へ又は中から外へ移動するために使用される。しかしながら、使用者の身体の不自由さの程度は区々であり、使用者の中にはバスボードを手摺りのように使用して浴槽の側壁を立位の状態で跨ぐ場合もある。この場合、使用者はバスボードと向き合い、バスボードの上面に手を置いて浴槽の側壁を跨ぐことになる。このため、バスボードの上面にノブを設けておくと、使用者はノブに手を添えることで自己の体重の一部を確実にバスボードへ預けることができるようになるので、安全且つ容易に立位の状態で浴槽の側壁を跨ぐことができるようになる。
【0022】
このため、ノブの上面には略平坦な支持面が形成されていることが好ましい。高齢者や要介護者などは十分な握力を有していない場合が多いので、ノブの上面に略平坦な支持面を設けておくと、使用者はノブの支持面に手の平、手の甲または握り拳を置いて或いはノブを軽く握るだけで、手を滑らせることなく自己の体重の一部をバスボードへ預けることができるようになる。この結果、使用者はより安全且つより簡単に立位の状態で浴槽の側壁を跨ぐことができるようになる。このため、ノブは平面視において略円形であることが好ましい。ノブの上面の形状やノブ全体の形状を平面視において略円形とすることにより、使用者はどの方向からも簡単にノブへアクセスすることができるようになり、場所を選ばず、自己の体重の一部をバスボードへ預けることができるようになる。
【0023】
また、ノブの支持面には、使用者の手の平、手の甲または握り拳を安定して支え易くするために、側面から中央に掛けて凹んだ凹部が形成されていてもよい。また、ノブの支持面に水分が溜まるのを嫌う場合は、側面から中央へ向けて膨らんだ凸部が形成されていてもよい。
【0024】
ノブの支持面を、側面から中央付近へ向けて凹んだ形状とした場合は、ノブの支持面に水分が溜まるのを防止するための排水孔や排水溝を設けることが好ましい。特にノブの支持面に排水溝を設けた場合は、側面から中央付近へ向けて膨らんだ底面を有する溝部を少なくとも1つ設けることが好ましい。この場合、ノブの支持面に溜まった水分は溝部へ誘導され、そして支持面に溜まった水分は溝部を介してノブの中央付近から側面の開口へ排水される。また、溝部は、使用者がノブの支持面に手の平、手の甲または握り拳を置いた時、それらが支持面上で滑るのを防止するためにも機能する。このため、溝部はノブの支持面に格子状または放射状等に複数設けてもよい。
【0025】
ノブは、使用者の手によりアクセスされるグリップ部と、グリップ部を回動部材の上面に取り付けるための支柱部とから構成されており、そしてグリップ部における水平断面の最大断面積は、支柱部における水平断面の最大断面積よりも大きいことが好ましい。この場合、上述のノブの上面に形成された支持面は、グリップ部の上面と一致している。
【0026】
ノブをグリップ部と支柱部から構成し、そしてグリップにおける水平断面の最大断面積を支柱部における水平断面の最大断面積よりも大きくすると、握力の十分でない使用者であってもグリップ部の裏面に簡単に指を引っ掛けることができるので、より安定した状態で自己の体重の一部をグリップ部へ預けることができるようになる。
【0027】
また、本発明のバスボードでは、グリップ部は1つの支柱部を介してバスボードの上面に取り付けられていることが好ましい。グリップ部を1つの支柱部で支えると、使用者はグリップ部へアクセスする位置を選ぶことなく、どの方向からもより簡単にグリップ部を掴んだり或いはグリップ部の上に握り拳などを置いて、自己の体重の一部をグリップ部へ預けることができると共に、ノブ全体の強度も向上し、使用者による安全な使用が保証される。
【0028】
また、グリップ部の外周部には、使用者が指を掛けるための略同一幅の側面を設け、そしてグリップ部の側面は連続した曲面によって支持面と連結させることが好ましい。グリップ部の外周部に略同一幅の側面が形成されていると、使用者はどの方向からでもグリップ部を容易に掴むことができるようになり、また、グリップ部の側面が連続した曲面によって支持面と連結されていると、使用者の手の平に対するグリップ部のフィット性も向上する。このため、グリップ部の側面は略同一幅を有していれば、側面視において略平坦な形状を有していても又は外側へやや膨らんだ形状を有していてもよい。
【0029】
ノブは、バスボードの回動部材の前方縁部寄りの位置であって、且つ回動部材の左方端部寄りの位置および/または右方端部寄りの位置に取り付けられていることが好ましい。例えば使用者がバスボードを主に座位の状態で移動するために使用するのであれば、ノブは回動部材の前方縁部寄りの位置であって洗い場側とは反対側の位置に取り付けられているのが好ましく、例えば使用者がバスボードを主に手を置いて立位の状態で使用するのであれば、ノブは回動部材の前方縁部寄りの位置であって洗い場側とは反対側の位置または前方縁部寄りの位置であって洗い場側の位置とその反対側の位置に取り付けられているのが好ましい。
【0030】
使用者がバスボードを使って立位の状態で浴槽の側壁を跨ぐ時は、使用者はバスボードと向き合い、バスボードのノブに手を置いて浴槽の側壁を跨ぐことになる。このため、ノブが、バスボードの回動部材の前方縁部寄りの位置であって、且つ回動部材の左方端部寄りの位置および/または右方端部寄りの位置に取り付けられていると、使用者は簡単にノブへアクセスすることができ、自己の身体を支えることができるようになる。また、使用者がバスボードへ腰を掛けたままの状態で浴槽へ出入りしようとする際も、使用者はノブを利用して自己の身体を簡単に移動することができるようになる。
【0031】
さらに、ノブが回動部材の前方縁部寄りの位置に配置されていると、ノブが洗い場側に取り付けられている場合においても、バスボード上に腰をかけた使用者は膝を少し持ち上げるだけで浴槽の側壁と一緒にノブの上を乗り越えることができるので、ノブは、使用者が座位の状態で浴槽へ出入りしようとする際の障害となることもない。また、ノブは支持基材ではなく、回動部材へ取り付けられるので、ノブを利用することにより回動部材の開閉が容易となる。また、回動部材の前方縁部は回動軸から離れているので、使用者はノブが回動軸付近に取り付けられている場合に比べて小さな力で回動部材を開閉することができるようになる。
【0032】
本発明のバスボードでは、使用者の体格等に合わせて、バスボード上でのノブの取り付け位置を変更/移動できるようにしておくことが好ましい。このため、ノブには、例えば雄ネジのような第1の係合手段を設け、回動部材の上面には、例えば雌ネジ(ネジ孔)のような第2の係合手段を複数個配設し、そして第1の係合手段と係合させる第2の係合手段を選択することにより、ノブの取り付け位置を変更/移動できるようすることができる。
【0033】
また、ノブは、回動部材の上面にスライド可能に取り付けることによって、ノブの取り付け位置を無段階で連続的に変更/移動できるようすることもできる。この場合、ノブのスライド機構は、回動部材の上面においてノブをスライド自在に移動させることができ、所定の位置で固定できるものであれば、その構造は特に限定されるものではない。例えば、特許文献1〜3に記載されているストッパーのスライド機構をノブのスライド機構として転用することも可能である。
【0034】
本発明において、上述したような特殊なノブが取り付けられた回動部材を回動自在に支持し、そしてバスボードを浴槽の開口部の一部に固定するために機能する支持基材は、浴槽側壁の上面形状に沿うように配置できる形状を有していることが好ましく、そのため支持基材は、少なくとも浴槽の左方側壁に載置される左方側基材と、右方側壁に載置される右方側基材とを備えていてもよい。この場合、左方側基材および右方側基材は、浴槽側壁の上面に載置した時、平面視において浴槽の左方側壁の上面および右方側壁の上面を隠すように完全に覆うことができる幅を有していることが好ましい。
【0035】
一般に浴室の側壁に設けられた手摺りは、浴槽の蓋の取り付け/取り外し或いは開け閉めを容易にするため、浴槽側壁の上面を越えて浴室の側壁から浴槽側壁の内側まで突出させて設置されることが殆どない。このため、バスボードを浴槽側壁の上面に載置した時、支持基材、または左方側基材と右方側基材が平面視において浴槽側壁の上面を隠すように完全に覆うことができる幅を有していると、その内側に配置されるバスボードの回動部材は、浴槽側壁に隣接する浴室側壁に取り付けられた手摺りと干渉することなく、自由に開閉することができるようになる。また、支持基材、または左方側基材と右方側基材が浴槽側壁の上面を覆うことができる幅を有していると、回動部材は浴槽側壁の上面と当接することがなくなるので、繰り返し開閉しても浴槽側壁の上面を傷付けることもなくなる。
【0036】
左方側基材と右方側基材は、バスボードを浴槽へ取り付けた時の剛性を向上させるため、後方側基材によって相互に連結されていることが好ましい。すなわち、浴槽側壁の片隅の上面は、通常、コの字形又はU字形の形状を有しているため、左方側基材および右方側基材も浴槽側壁の上面形状に合わせて、後方側基材によって略コの字形または略U字形を形成するように連結されることが好ましい。
【0037】
また、左方側基材と右方側基材を後方支持基材を介して連結した場合、左方側基材、右方側基材および後方側基材の各基材は、浴槽側壁の上面に載置できるものであれば、それぞれに板状、棒状またはそれらを組み合わせた形状を有するものを選択することができる。例えば、プラスチック材料からなる板状の左方側基材と右方側基材を、金属材料からなる棒状の後方側基材によって連結して支持基材を構成することができる。例えば、板状の左方側基材と右方側基材を板状の後方側基材によって連結することで、同じプラスチック材料からなる支持基材として一体成形することもできる。
【0038】
なお、後方側基材は左方側基材および右方側基材とは異なり、主に左方側基材と右方側基材を連結することによって支持基材の強度を向上させるために機能するものであるので、平面視において、必ずしも浴槽の後方側壁の上面を隠すように完全に覆うことができる幅を有している必要はない。
【0039】
一方、支持基材に回動自在に取り付けられる回動部材は、前方縁部の他、さらに前方縁部と略直行する向きに、互いに対向する略直線状の左方縁部と右方縁部を備えていることが好ましい。バスボードの支持基材、または左方側基材と右方側基材が浴槽側壁の上面を覆うことができる幅を有していると、回動部材の左方縁部および右方縁部は支持基材の内縁に沿うように形成されるので、回動部材を閉じた時、回動部材の左方縁部および右方縁部が支持基材の内側に配置されるように取り付けられる。このため、回動部材の左方縁部および右方縁部は、浴槽側壁に隣接する浴室側壁に取り付けられた手摺りと干渉することなく、回動部材を自由に開閉することができるようになる。
【0040】
また、バスボードの回動部材は、バスボードを浴槽側壁の上面に取り付けた時、平面視において浴槽側壁の左方側壁の上面及び/又は右方側壁の上面と重なり合わない位置に配置することもできる。一般に浴室の側壁に設けられた手摺りは、蓋の開け閉めを容易にするため、浴槽側壁の上面を越えて浴室の側壁から浴槽側壁の内側まで突出させて設置されることが殆どない。このため、バスボードを浴槽側壁の上面に取り付けた時、回動部材を平面視において浴槽側壁の左方側壁の上面及び/又は右方側壁の上面と重なり合わない位置に配置すると、回動部材は、浴槽側壁に隣接する浴室側壁に取り付けられた手摺りと干渉することなく、自由に開閉することができるようになる。また、回動部材は浴槽側壁の上面と当接することがなくなるので、繰り返し開閉しても浴槽側壁の上面を傷付けることもなくなる。
【0041】
回動部材の回動手段は蝶番、ボールジョイントなど周知技術を採用することができ、特に制限はない。また、回動部材は支持基材の中の後方側基材へ取り付けてもよく、或いは回動部材をその両側から左方側基材と右方側基材によって挟み込むように左方側基材と右方側基材へ回動可能に支持させてもよい。
【0042】
本発明のバスボードは、左方側基材の下面に、左方側基材の横幅方向にスライド自在であり、且つ浴槽側壁の内面に当接させることができる左方ストッパーと、そして右方側基材の下面に、右方側基材の横幅方向にスライド自在であり、且つ浴槽側壁の内面に当接させることができる右方ストッパーを備えていることが好ましい。
【0043】
ストッパーは、左方側基材の下面または右方側基材の下面において横幅方向にスライド自在に移動させることができ、所定の位置で固定できるものであれば、その構造は特に限定されるものではない。例えば、特許文献1〜3に記載されているストッパーを本発明のバスボードのストッパーとして転用することができる。本発明のバスボードでは、左方ストッパーおよび右方ストッパーを浴槽側壁の内面に当接させることにより、両ストッパーの摩擦力によってバスボードの支持基材を浴槽の側壁へ簡単且つ強固に取り付けることができる。
【0044】
本発明のバスボードでは、回動部材の上面は、回動部材を閉じた時、支持基材の上面と略面一となるように形成されていることが好ましい。
【0045】
回動部材を閉じた時、支持基材の上面と回動部材の上面が略面一となるように形成されていること、使用者は臀部をバスボードの上面から離間させることなく、浴槽の外から中へ又は中から外へスムーズに移動することができるので、浴槽への出入りがより安全且つ容易になる。