(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397776
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】キャリブレーション治具及びキャリブレーション方法並びにレーザ加工機
(51)【国際特許分類】
B23K 26/02 20140101AFI20180913BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20180913BHJP
【FI】
B23K26/02 A
B23K26/00 M
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-24928(P2015-24928)
(22)【出願日】2015年2月12日
(65)【公開番号】特開2016-147282(P2016-147282A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 潤
(72)【発明者】
【氏名】星野 郁生
【審査官】
岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−149159(JP,A)
【文献】
特開2013−146734(JP,A)
【文献】
特開2010−214413(JP,A)
【文献】
特開平11−123573(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0089956(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工機におけるキャリブレーション治具であって、レーザ加工機におけるレーザ加工ヘッドのノズル先端部に付着した付着物を貫通自在な微少な尖鋭突起を備えたキャリブレーションの補正位置と、前記ノズル先端部と接触自在な上面を有するデータ取得位置とを治具本体に備えていることを特徴とするキャリブレーション治具。
【請求項2】
請求項1に記載のキャリブレーション治具において、前記補正位置と前記データ取得位置は、前記治具本体の上面において近接して備えられていることを特徴とするキャリブレーション治具。
【請求項3】
請求項2に記載のキャリブレーション治具において、前記補正位置の上面と前記データ取得位置の上面は同一平面であることを特徴とするキャリブレーション治具。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載のキャリブレーション治具を用いたレーザ加工機におけるキャリブレーション方法であって、
(a)キャリブレーション治具の治具本体に備えた補正位置の上方位置にレーザ加工ヘッドを相対的に移動位置決めする行程、
(b)レーザ加工ヘッドを下降して、前記補正位置に備えた尖鋭突起とレーザ加工ヘッドに備えたノズル先端部とが接触したときの、レーザ加工ヘッドの高さ位置を検出する行程、
(c)前記治具本体に備えたデータ取得位置の上方位置にレーザ加工ヘッドを相対的に位置決めし、レーザ加工ヘッドを下降して前記データ取得位置の上面に前記ノズル先端部が接触したときの、レーザ加工ヘッドの高さ位置を検出する行程、
(d)前記補正位置でのレーザ加工ヘッドの高さ位置検出値と、前記データ取得位置でのレーザ加工ヘッドの高さ位置検出値とに基づいて高低差を演算する行程、
(e)前記高低差の演算結果に基づいて前記データ取得位置でのキャリブレーションの取得データの較正を行う行程、
の各工程を備えていることを特徴とするレーザ加工機におけるキャリブレーション方法。
【請求項5】
ワークテーブル上のワークに対してX、Y、Z軸方向へ相対的に移動位置決め自在なレーザ加工ヘッドを備え、このレーザ加工ヘッドに備えたノズルの先端部とワークとの間のギャップを検出するギャップセンサを前記ノズルに備えると共に、前記ノズル先端部とワークとの間のギャップを制御するためのギャップ制御装置を備えたレーザ加工機であって、
前記ギャップ制御装置は、前記ノズル先端部に付着した付着物を貫通自在な微少な尖鋭突起を備えたギャップの補正位置と前記ノズル先端部と接触自在な上面を有するデータ取得位置とを備えた治具本体における前記尖鋭突起に前記ノズル先端部が接触したときの、前記レーザ加工ヘッドの高さ位置検出値と、前記データ取得位置にノズル先端部が接触したときの、前記レーザ加工ヘッドの高さ位置検出値とに基づいて高低差を演算する演算手段と、
前記データ取得位置でのキャリブレーションの取得データを、前記高低差の演算データに基づいて較正を行う較正手段と、
を備えていることを特徴とするレーザ加工機。
【請求項6】
ワークテーブル上のワークに対してX、Y、Z軸方向へ相対的に移動位置決め自在なレーザ加工ヘッドを備え、このレーザ加工ヘッドに備えたノズルの先端部とワークとの間のギャップを検出するギャップセンサを前記ノズルに備えると共に、前記ノズルの先端部とワークとの間のギャップを制御するためのギャップ制御装置を備えたレーザ加工機であって、前記ノズルの先端部に付着した付着物を貫通自在な微少な尖鋭突起を備えたキャリブレーションの補正位置と、前記ノズルの先端部と接触自在な上面を備えたデータ取得位置とを備えた治具本体を、前記レーザ加工ヘッドに対してX、Y軸方向へ相対的に移動自在な位置に備え、前記治具本体を、前記レーザ加工ヘッドの下方位置へ相対的に移動位置決め自在に備えていることを特徴とするレーザ加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工ヘッドに備えたギャップセンサによって検出したワークと加工ヘッドとの間の間隙(ギャップ)の検出値のキャリブレーションを正確に行うことができるキャリブレーション治具及びキャリブレーション方法並びにレーザ加工機に係り、さらに詳細には、前記レーザ加工ヘッドに備えたノズルの先端部に、例えばビニールなどの保護フィルムの小片が付着しているような場合であっても、ノズルに備えたギャップセンサのキャリブレーションを正確に行うことができるキャリブレーション治具及びキャリブレーション方法並びにレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工機によって、例えば板状のワークのレーザ切断加工を行う場合、上記ワークの表面にビニールなどの保護フィルムを貼った状態でレーザ切断加工を行うことがある。この場合、前記保護フィルムなどの絶縁物の破片(小片)がレーザ加工ヘッドに備えたノズルの先端部に付着することがある。この場合、前記小片はほとんど融着して付着した状態にあり、容易に取れないことがある。したがって、キャリブレーション動作の異常原因となることがある。
【0003】
なお、レーザ加工機におけるギャップセンサのキャリブレーションを行う先行文献として特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−123573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1には、レーザ加工ヘッドに備えたノズルの先端部がスパッタ等によって汚れると、前記ノズルに備えたギャップセンサの静電容量が変化し、キャリブレーション調整値のノズルギャップと電圧の相関関係が変化して、ノズルギャップを正確に保つことが難しくなる旨の記載がある。すなわち、レーザ加工ヘッドにおけるノズル先端部の形状が変化したり、ノズル先端部に付着物があると、ノズルギャップを正確に制御してレーザ切断加工を行うことが難しくなるものであり、また接触検出の妨げにもなり、ギャップセンサーのキャリブレーション動作の不具合も発生することとなる。
【0006】
ところで、レーザ加工機においては、
図1に概念的に示すように、レーザ加工機(
図1においては図示省略)にX、Y、Z軸方向へ移動位置決め自在に備えたレーザ加工ヘッド1を、サーボモータ3によって上下方向(Z軸方向)に移動位置決めして、レーザ加工ヘッド1に備えたノズル5の先端部(下端部)とワークWとの間の間隔(ギャップ)を所望の間隔に保持してレーザ切断加工を行うのが一般的である。
【0007】
この場合、前記サーボモータ3によってレーザ加工ヘッド1の上下方向の位置決めを行い、ノズル5の先端部がワークWの表面に接触した状態にあるとき、レーザ加工ヘッド1の高さをZ=0に設定してある。この際、レーザ加工ヘッド1の上下動位置を検出するロータリーエンコーダなどのごとき上下位置検出器7の検出値は、例えば零に設定してある。そして、前記ノズル5に備えたギャップセンサ(図示省略)の検出値は、ノズル5の先端部とワークWとの間の間隔寸法(ギャップ)に対応して零に設定してある。すなわち、レーザ加工ヘッド1の上下位置を検出する上下位置検出器7の零点位置とギャップセンサの零点位置は相対的に一致した状態に設定してある。
【0008】
したがって、前記サーボモータ3によってレーザ加工ヘッド1を、ワークWの上面から例えば0.2mm上昇すると、前記上下検出器7の検出値は0.2mmであり、ギャップセンサによるギャップの検出値は0.2mmに対応した検出値になる。すなわち、レーザ加工機に備えた制御装置(図示省略)の制御の下に前記サーボモータ3を正逆回転してレーザ加工ヘッド1の上下動位置を制御すると、ワークWとノズル5との間のギャップは、制御装置の指令値のとおりに正確に位置決めできるものである。すなわち、フィードバック制御が正確に行われ得るものである。
【0009】
ところが、
図2に示すように、ノズル5の先端部に、例えばビニールなどの保護フィルムの小片(破片)9が付着物として付着すると、ノズル5の先端部に融着し、除去しがたいものとなる。したがって、制御装置の制御の下にサーボモータ3を回転し、Z=0の高さ位置を設定するためにノズル5の先端部をワークWの表面に接触させようとすると、
図2(A)に示すように、ノズル5の先端部でもってワークWを押し下げる。そして、前記小片9が破損し、ノズル5とワークWが接触すると、この接触を検出し停止することで、この間違った停止位置をZ=0の位置と認識することになる。
【0010】
したがって、制御装置の指令値どおりにサーボモータ3を駆動してノズル5の上下動位置の位置決めを行った場合、
図2(B)〜(D)に示すように、指令値(Z=0.2、Z=1.5、Z=2.8)に対して、ノズル5の先端部とワークWの表面との間の実ギャップは指令値によるギャップより小さくなる。よって、ノズル5の先端部に小片9が付着した場合、小片9を除去する必要がある。しかし、小片9の除去が難しい場合には、ノズル5の先端部に小片が付着した状態においてキャリブレーションを行う必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前述のごとき問題に鑑みてなされたもので、レーザ加工機におけるキャリブレーション治具であって、レーザ加工機におけるレーザ加工ヘッドのノズル先端部に付着した付着物を貫通自在な微少な尖鋭突起を備えたキャリブレーションの補正位置と、前記ノズル先端部と接触自在な上面を有するデータ取得位置とを治具本体に備えていることを特徴とするものである。
【0012】
また、前記キャリブレーション治具において、前記補正位置と前記データ取得位置は、前記治具本体の上面において近接して備えられていることを特徴とするものである。
【0013】
また、前記キャリブレーション治具において、前記補正位置の上面と前記データ取得位置の上面は同一平面であることを特徴とするものである。
【0014】
また、前記キャリブレーション治具を用いたレーザ加工機におけるキャリブレーション方法であって、
(a)キャリブレーション治具の治具本体に備えた補正位置の上方位置にレーザ加工ヘッドを相対的に移動位置決めする行程、
(b)レーザ加工ヘッドを下降して、前記補正位置に備えた尖鋭突起とレーザ加工ヘッドに備えたノズル先端部とが接触したときの、レーザ加工ヘッドの高さ位置を検出する行程、
(c)前記治具本体に備えたデータ取得位置の上方位置にレーザ加工ヘッドを相対的に位置決めし、レーザ加工ヘッドを下降して前記データ取得位置の上面に前記ノズル先端部が接触したときの、レーザ加工ヘッドの高さ位置を検出する行程、
(d)前記補正位置でのレーザ加工ヘッドの高さ位置検出値と、前記データ取得位置でのレーザ加工ヘッドの高さ位置検出値とに基づいて高低差を演算する行程、
(e)高低差の演算結果に基づいて前記データ取得位置でのキャリブレーションの取得データの較正を行う行程、
の各工程を備えていることを特徴とするものである。
【0015】
また、ワークテーブル上のワークに対してX、Y、Z軸方向へ相対的に移動位置決め自在なレーザ加工ヘッドを備え、このレーザ加工ヘッドに備えたノズルの先端部とワークとの間のギャップを検出するギャップセンサを前記ノズルに備えると共に、前記ノズル先端部とワークとの間のギャップを制御するためのギャップ制御装置を備えたレーザ加工機であって、
前記ギャップ制御装置は、前記ノズル先端部に付着した付着物を貫通自在な微少な尖鋭突起を備えたギャップの補正位置と前記ノズル先端部と接触自在な上面を有するデータ取得位置とを備えた治具本体における前記尖鋭突起に前記ノズル先端部が接触したときの、前記レーザ加工ヘッドの高さ位置検出値と、前記データ取得位置にノズル先端部が接触したときの、前記レーザ加工ヘッドの高さ位置検出値とに基づいて、高低差を演算する演算手段と、
前記データ取得位置でのキャリブレーションの取得データを、前記高低差の演算データに基づいて較正を行う較正手段と、
を備えていることを特徴とするものである。
【0016】
また、ワークテーブル上のワークに対してX、Y、Z軸方向へ相対的に移動位置決め自在なレーザ加工ヘッドを備え、このレーザ加工ヘッドに備えたノズルの先端部とワークとの間のギャップを検出するギャップセンサを前記ノズルに備えると共に、前記ノズルの先端部とワークとの間のギャップを制御するためのギャップ制御装置を備えたレーザ加工機であって、前記ノズルの先端部に付着した付着物を貫通自在な微少な尖鋭突起を備えたキャリブレーションの補正位置と、前記ノズルの先端部と接触自在な上面を備えたデータ取得位置とを備えた治具本体を、前記レーザ加工ヘッドに対してX、Y軸方向へ相対的に移動自在な位置に備え、前記治具本体を、前記レーザ加工ヘッドの下方位置へ相対的に移動位置決め自在に備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、レーザ加工ヘッドにおけるノズル先端部に付着物が付着しているような場合であっても、ギャップセンサのキャリブレーションを正確に行うことができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】レーザ加工ヘッドのノズル先端部に付着物が付着することなく、キャリブレーションが正確に行われ得る場合の説明図である。
【
図2】レーザ加工ヘッドのノズル先端部に付着物が付着すると、キャリブレーションが不正確になる場合の説明図である。
【
図3】レーザ加工機の全体的構成を示す説明図である。
【
図4】キャリブレーション治具の構成を示す説明図である。
【
図6】キャリブレーション治具を使用してキャリブレーションを行う場合の作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明するに、理解を容易にするために、本発明の実施形態に係るレーザ加工機の全体的構成について概念的、概略的に説明する。
【0020】
図3に示すように、本発明の実施形態に係るレーザ加工機11は、フレーム13を備えており、このフレーム13には、板状のワークWにプレス加工を行うためのパンチP、ダイDを備えた上下のタレット15U,15Lが上下に対向して水平に回転自在に備えられている。また、前記フレーム13には、パンチ加工位置に割出し位置決めされたパンチPを打圧するストライカ17が上下動自在に備えられている共に、前記ワークWを支持するワークテーブル19が備えられている。
【0021】
また、前記フレーム13における上部フレーム13Uには、前記ワークWのレーザ加工を行うレーザ加工ヘッド21を上下動自在に備えたスライダ23がY軸方向(
図3において左右方向)へ移動自在に備えられている。前記レーザ加工ヘッド21は、前記レーザ加工ヘッド1に相当するもので、このレーザ加工ヘッド21の下部には、前記ノズル5に相当するノズル25が着脱交換自在に備えられている。このノズル25には、このノズル25の先端部(下端部)とワークWの表面(上面)との間隙(ギャップ)を検出するためのギャップセンサ(図示省略)が備えられている。そして、前記レーザ加工ヘッド21を上下方向に位置調節するために、前記スライダ23には前記サーボモータ3に相当するサーボモータ27が備えられており、このサーボモータ27には、前記ノズル25の上下位置を検出するための前記上下位置検出器7に相当する上下位置検出手段としてのロータリーエンコーダ29が備えられている。
【0022】
また、前記パンチ加工位置及び前記レーザ加工ヘッド21によるレーザ加工位置に対してワークWの移動位置決めを行うために、前記フレーム13には、ワーク移動位置決め装置31が備えられている。すなわち、前記フレーム13には、X軸方向(
図3において紙面に垂直な方向)に長いキャリッジベース33がY軸方向(
図3において左右方向)へ移動位置決め自在に備えられており、このキャリッジベース33には、ワークWをクランプ自在な複数のワーククランプ35を備えたキャリッジ37がX軸方向へ移動位置決め自在に備えられている。
【0023】
したがって、前記ワーククランプ35によってワークWをクランプした状態でもってキャリッジベース33をY軸方向に移動し、キャリッジ37をX軸方向に移動することにより、前記パンチ加工位置及びレーザ加工ヘッド21によるレーザ加工位置に対して、ワークWをX、Y軸方向へ移動位置決めすることができるものである。すなわち、本実施形態においては、レーザ加工とパンチ加工とを複合化したレーザ加工機でもって例示してある。なお、この種のレーザ加工機は既によく知られた構成であるから、上記レーザ加工機の構成についてのより詳細な説明は省略する。
【0024】
さて、前述したように、レーザ加工ヘッド21に備えたノズル25の先端部(下端部)に、例えばビニール等の小片9が付着すると、ノズル25の先端部とワークWの表面との直接的な接触を妨げることになる。したがって、レーザ加工ヘッド21又はノズル25に備えたギャップセンサのキャリブレーションを行う際、
図2(A)に示すように、小片9が付着したノズル5に相当するノズル25の先端でもってワークWを押圧し、前記小片9が破損してワークWに接触すると、ワークWを押し下げて傾斜した状態になってはじめてノズルの先端とワークWが接触することになり、この位置を上下方向の基準位置(Z=0の位置)と認識することになる。よって、ワークWの表面(上面)とノズル25の先端部との間のギャップを、制御装置39の指令値どおりに制御することが難しくなるものである。
【0025】
そこで、本実施形態においては、ノズル25の先端部に小片9が付着している場合であっても、レーザ加工ヘッド21に備えたギャップセンサのキャリブレーションを正確に行うことができるキャリブレーション治具41(
図4参照)を備えている。このキャリブレーション治具41は、前記レーザ加工ヘッド21の下方位置へ相対的に位置決めすることができれば、レーザ加工機11の所望位置に備えることができるものである。
【0026】
本実施形態においては、前記ワーク移動位置決め装置31における前記キャリッジ37の適宜一端側であって、前記ワーククランプ35によってワークWをクランプしたときに、ワークWと干渉しない位置に備えられている。前記キャリブレーション治具41は、板状の治具本体43を備えており、この治具本体41の上面には、キャリブレーションの補正位置45と、キャリブレーションのデータを取得するためのデータ取得位置47とを備えている。
【0027】
前記補正位置45の上面とデータ取得位置47の上面は段違いであってもよいが、本実施形態においては同一平面であって、補正位置45の上面には、
図4(B)に示すように、前記小片9などの付着物を貫通自在な微少な尖鋭突起49が備えられている。この尖鋭突起49は、前記補正位置45の上面に、例えば十字形状の罫書き線45Aを、レーザ光や適宜の罫書工具等により形成するときに、バリとして突出するものであり、約0.1mm程度である。なお、バリなどの微小の尖鋭突起49を形成する加工としては、例えばパンチP、ダイDによって治具本体43の打抜き加工を行い、打抜き加工穴の周縁部にバリを形成する構成とすることも可能である。すなわち、前記尖鋭突起49は、例えばビニールなどの付着物を貫通する機能を有すればよいものである。ところで、前記データ取得位置47は前記補正位置45に近接して同一面に備えられている。そして、前記データ取得位置47の上面は、前記ノズル25の先端部が接触自在な平面に形成してある。
【0028】
以上のごとき構成において、レーザ加工ヘッド21におけるノズル25の先端部に、例えば小片9が付着した状態でもってギャップセンサのキャリブレーションを行うには、前記レーザ加工機11の動作を制御する前記制御装置39の制御の下に行うものである。前記制御装置39はコンピュータから構成してあって、
図5に示すように、CPU51、RAM53、ROM55を備えると共に、入力手段57、出力手段59を備えている。
【0029】
さらに、前記制御装置39には、キャリブレーション動作を行うためのキャリブレーションプログラムを格納したプログラムメモリ61が備えられている。また、前記制御装置39には、前記プログラムメモリ61に格納されたキャリブレーションプログラムを解析するプログラム解析手段63が備えられていると共に、このプログラム解析手段63の解析結果に基づいて前記ワーク移動位置決め装置31の移動動作を制御する第1の動作制御手段65が備えられている。また前記プログラム解析手段63の解析結果に基づいて前記レーザ加工ヘッド21の移動動作を制御する第2の動作制御手段67が備えられている。
【0030】
また、前記制御装置39には、前記レーザ加工ヘッド21を下降したとき、前記尖鋭突起49がノズル25の先端に接触したことを検出するための接触検出手段69が接続してある。なお、接触検出手段69は、尖鋭突起49とノズル25の先端との接触を電気的に検出する構成やサーボモータ27の負荷変動を検出する構成、ロータリーエンコーダ29の停止を検出する構成など、所望の構成とすることができるものである。そして、前記接触検出手段69が接触を検出したときに、前記ロータリーエンコーダ29により検出したノズル25の高さ位置H1(
図6参照)、例えば治具本体43の上面(基準位置S)からの上下動位置のデータを格納する第1メモリ71が前記制御装置39に備えられている。
【0031】
また、前記制御装置39には、前記データ取得位置47の上面に、小片9が付着していない状態のノズル25の先端部が接触したことを前記接触検出手段69によって検出したときに、前記ロータリーエンコーダ29によって検出したノズル25の基準位置Sからの上下動位置のデータH2(符号省略:一般的にはH2=0になる)を格納する第2メモリ75が前記制御装置39に備えられている。
【0032】
さらに、前記制御装置39には演算手段77が備えられている。この演算手段77は、前記第1、第2のメモリ71,75に格納されたデータH1,H2に基づいて、前記補正位置45におけるノズル25の高さ位置と、前記データ取得位置47におけるノズル25の高さ位置との高低差D、すなわち基準位置Sからの尖鋭突起49の高さを演算し、この高低差Dのデータを第3メモリ81に格納する。
【0033】
さらに、前記ギャップ制御装置39には、較正手段79が備えられている。この較正手段79は、前記データ取得位置47において取得したキャリブレーションデータを、前記第3メモリ81に格納された高低差Dに相当するギャップセンサの検出値に基づいて較正を行う機能を有するものである。
【0034】
さて、以上のごとき構成において、キャリブレーションデータの較正を行うには、先ず、ノズル25の先端部を補正位置45の上方位置に位置決めし、ノズル25を下降すると、ノズル25に小片9が付着している場合には、
図6(A)に模式的に図示するように、尖鋭突起49は小片9を貫通して、また、ノズル25に小片9が付着していない場合には、そのまま尖鋭突起49がノズル25の先端部に接触する。この際、接触検出手段69によって接触が検出されると、接触検知された高さ位置のデータH1は第1メモリ71に格納される。
【0035】
ところで、
図6の図示においては、補正位置45とデータ取得位置47との上面は基準位置Sと同一平面に備えた場合について例示してある。小片9が付着していない状態で予め演算手段77により演算された高低差Dが第3メモリ81に格納されているので、尖鋭突起49に当接した高さ位置から、この予め第3メモリ81に格納された尖鋭突起49の高さ寸法に相当する高低差Dだけ下降した位置が基準位置Sであると知ることができる。よって、尖鋭突起49に当接した位置から高低差Dだけ下降した位置におけるキャップセンサの検出値を、ギャップ零に設定する。
【0036】
すなわち、データ取得位置47の上面にノズル25が接触したときにおけるギャップセンサの検出値を、前記高低差Dに相当するギャップセンサの検出値でもって較正することにより、ノズル25に小片9が付着しているような場合であっても、ギャップセンサの検出値を正確に較正できることになる。
【0037】
既に理解されるように、本実施形態によれば、キャリブレーション動作の際に、ノズル25の先端に小片9が付着していなくても、またノズル25の先端部に小片9が付着していても尖鋭突起49との接触をまったく同じ動作で検知できるものである。よって、データ取得位置47でノズル25の先端部を接触した状態におけるギャップセンサ(図示省略)の検出値を、較正手段79によって較正することにより、ギャップセンサの較正を正しく行うことができ、ノズル25の先端に小片9が付着していても、ノズル25の先端部のキャリブレーションを正しく行うことができることとなる。したがって、基準位置Sとの間のギャップを正確に制御できることになるものである。
【0038】
すなわち、データ取得位置47において、プログラムメモリ61に格納されたキャリブレーションプログラムに従って、各ギャップポジション毎にキャリブレーションデータを取得する。上記各キャリブレーションデータを、第2メモリ75に一時的に格納する。そして、較正手段79において前記高低差Dに相当するギャップセンサの検出値でもって較正を行い、この較正を行ったキャリブレーションデータによって第2メモリ75のデータを更新することにより、正確なギャップの制御を行い得るものである。
【0039】
以上のごとき説明より理解されるように、本実施形態によれば、レーザ加工ヘッド21に備えたノズル25の先端部に付着物が付着した場合であっても、上記ノズル25に備えたギャップセンサのキャリブレーションを正確に行うことができ、ノズル25の先端部とワークとの間のギャップを常に正確に制御可能になるものである。したがって、レーザ加工機によるレーザ切断加工を精度よく行い得るものである。
【0040】
なお、前記説明においては、補正位置45とデータ取得位置47を同一平面に備えている場合について説明した。しかし、補正位置45とデータ取得位置47を予め既知の段違いに備えることも可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 レーザ加工ヘッド
5 ノズル
21 レーザ加工ヘッド
25 ノズル
29 ロータリーエンコーダ(上下位置検出手段)
39 制御装置
41 キャリブレーション治具
43 治具本体
45 キャリブレーションの補正位置
47 データ取得位置
49 尖鋭突起
69 接触検出手段
71 第1メモリ
75 第2メモリ
77 演算手段