(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記分離膜に使用する基材は、ポリスルホン系、エチレンビニルアルコール系、セルロースアセテート系、ポリエチレン系、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、ポリメチルメタクリレート系(PMMA)、又はポリアクリロニトリル系である、請求項1〜4のいずれかに記載の濃縮器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、腹水などから濾過され生成された蛋白質水溶液は、粘度が高く、蛋白質の付着性が高いため、1L程度の少量の濃縮でも、蛋白質が分離膜に付着し、分離膜に目詰まりが起こり始める場合が多い。目詰まりが起こり始めると、分離膜の空孔を水分が通過しにくくなるので、蛋白質水溶液から水分が十分に除去されず、5倍程度の高倍率の濃縮を実現するのが難しくなる。ここで、濃縮倍率とは、濃縮前の蛋白質水溶液量を濃縮液量で除した値を指す。一方で、目詰まりを抑制しようと、分離膜の空隙率を上げると、今度は水分と共に蛋白質も分離膜の空孔を通じて漏出してしまう。この結果、濃縮された蛋白質溶液(濃縮液)における蛋白質の回収率が低くなる。
【0006】
本出願はかかる点に鑑みてなされたものであり、腹水などの体腔液を濾過して生成された蛋白質水溶液を濃縮する濃縮器において、高倍率の濃縮を実現しつつ、蛋白質の高い回収率を確保することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、濃縮器の分離膜の空隙率と親水性度を所定の範囲に調整することにより、高倍率の濃縮を実現しつつ、高い蛋白質の回収率を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の態様は以下を含む。
(a)体腔液が濾過され生成された蛋白質水溶液を分離膜により濃縮する濃縮器であって、前記分離膜は、60%以上80%以下の空隙率及び毛細管上昇法で測定した前記分離膜の液面上昇値が内径200μmの中空糸膜に換算すると60mm〜150mmであり、濃度3g/dLの蛋白質水溶液原液を流速50mL/minで通液させ、蛋白質水溶液の濃縮液を得る濃縮工程を実施した場合に、下記条件(1)、(2)を満たすように構成されている、濃縮器。
(1)蛋白質水溶液原液を5L濃縮した際の最大膜間圧力差が500mmHg以下であり、
(2)蛋白質水溶液原液を2L濃縮した時の膜間圧力差をA、蛋白質水溶液原液を5L濃縮した時の膜間圧力差をBとした場合に、B/A≦1.6となる。
(b)前記分離膜は、前記濃縮工程を実施した場合に、さらに下記条件(3)、(4)を満たすように構成されている、(a)に記載の濃縮器。
(3)蛋白質水溶液原液を2L濃縮した際に得られる濃縮液の蛋白質回収率が40%以上であり、
(4)蛋白質水溶液原液を5L濃縮した際に得られる濃縮液の蛋白質回収率が70%以上である。
(c)前記条件(4)において蛋白質水溶液原液を5L濃縮した際に得られる濃縮液のアルブミンの回収率が80%以上である、(b)に記載の濃縮器。
(d)前記分離膜は、前記濃縮工程を実施した場合に、さらに下記(5)を満たすように構成されている、(a)〜(c)のいずれかに記載の濃縮器。
(5)蛋白質水溶液原液を2L濃縮した時の膜間圧力差をA、蛋白質水溶液原液を10L濃縮した時の膜間圧力差をCとした場合に、C/A≦1.5となる。
(e)前記分離膜に使用する基材は、ポリスルホン系、エチレンビニルアルコール系、セルロースアセテート系、ポリエチレン系、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、ポリメチルメタクリレート系(PMMA)、又はポリアクリロニトリル系である、(a)〜(d)のいずれかに記載の濃縮器。
(f)前記分離膜は、中空糸膜である、(a)〜(e)のいずれかに記載の濃縮器。
(g)前記分離膜は、ポリスルホン系の中空糸膜である、(f)に記載の濃縮器。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、体腔液を濾過して生成された蛋白質水溶液を濃縮する濃縮器において、高倍率の濃縮を実現しつつ、蛋白質の高い回収率を確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。なお、図面の上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。さらに、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0011】
図1は、本実施の形態に係る濃縮器22を備えた体腔液処理システムとしての腹水処理システム1の構成の概略を示す説明図である。
【0012】
図1に示すように腹水処理システム1は、例えば液体回路としての腹水処理回路10を備えている。腹水処理回路10は、体腔液貯留部としての腹水バッグ20と、濾過器21と、濃縮器22と、濃縮液貯留部としての濃縮腹水バッグ23と、腹水バッグ20と濾過器21を接続する第1の流路24と、濾過器21と濃縮器22を接続する第2の流路25と、濃縮器22と濃縮腹水バッグ23を接続する第3の流路26とを有している。
【0013】
腹水バッグ20は、例えばポリ塩化ビニルなど軟質性の樹脂からなる容器であり、患者から採取された体腔液としての腹水を収容できる。
【0014】
濾過器21は、腹水から癌細胞、細菌などの所定の病因物質を除去し、それ以外のアルブミンなどの蛋白質を含む蛋白質水溶液(濾過液)を通過させる中空糸膜からなる濾過膜30を有している。濾過器21では、例えば腹水が濾過膜30の一次側(中空糸膜の内側)の入口から供給され、当該腹水が濾過膜30を通過して濾過膜30の二次側(中空糸膜の外側)に排出されることにより、腹水を濾過することができる。濾過器21の濾過膜30の一次側の出口は、濾過膜30を通過しない成分が排液される図示しない排液部に連通している。また、例えば腹水が濾過膜30の二次側(中空糸膜の外側)の入口から供給され、当該腹水が濾過膜30を通過して濾過膜30の一次側(中空糸膜内外側)に排出されることにより、腹水を濾過することもできる。
【0015】
第1の流路24は、例えばポリ塩化ビニルなど軟質性のチューブであり、腹水バッグ20の出口から濾過器21の濾過膜30の一次側の入口に接続されている。第1の流路24には、例えばチューブポンプ40が設けられ、腹水バッグ20の腹水を濾過器21に送ることができる。なお、チューブポンプ40を設けずに、腹水バッグ20の腹水を重力落下により濾過器21に供給するようにしてもよい。
【0016】
濃縮器22は、濾過器21を通過した濾過液中の水分を除去して濃縮する中空糸膜からなる分離膜60を有している。濃縮器22は、筒状容器50を有し、筒状容器50の内部に、その長手方向に沿って分離膜60が配置されている。筒状容器50の上部及び下部には、分離膜60の内側(空間)に通じるポート51、52が設けられ、筒状容器50の側面部には、分離膜60の外側(空間)に通じる2つのポート53、54が設けられている。濃縮器22の上部のポート51は、第2の流路25を介して濾過器21に通じている。濃縮器22の下部のポート52は、第3の流路26を介して濃縮腹水バッグ23に通じている。濃縮器22の側面部のポート53は、除去された水分が排液される図示しない排液部に連通している。また、濾過器22のポート54は、例えば閉鎖されている。濃縮器22では、例えば蛋白質水溶液が分離膜60の一次側(中空糸膜の内側)の入口から供給され、当該蛋白質水溶液に含まれる水分が、分離膜60を通じて分離膜60の二次側(中空糸膜の外側)に抜けることにより、蛋白質水溶液を濃縮できる。濃縮器22の構成の詳細については後述する。
【0017】
第2の流路25は、例えばポリ塩化ビニルなど軟質性チューブであり、濾過器21の濾過膜30の二次側の出口から濃縮器22の分離膜60の一次側のポート51に接続されている。第2の流路25には、例えばチューブポンプ70が設けられ、濾過器21で濾過された濾過液を濃縮器22に送ることができる。
【0018】
第3の流路26は、例えばポリ塩化ビニルなど軟質性チューブであり、濃縮器22の分離膜60の一次側のポート52から濃縮腹水バッグ23に接続されている。
【0019】
濃縮腹水バッグ23は、例えばポリ塩化ビニルなど軟質性の樹脂からなる容器であり、濃縮器22で濃縮された蛋白質を含む濃縮液を収容できる。
【0020】
次に、濃縮器22の構成について説明する。
図2は、濃縮器22の構成の概略を示す縦断面の説明図である。
【0021】
濃縮器22は、上述のように筒状容器50を有し、筒状容器50の内部にその長手方向に沿って中空糸膜である分離膜60が配置されている。筒状容器50は、円筒状の容器胴部50aと、容器胴部50aの両端開口を閉鎖するヘッダー50bにより構成されている。ポート51、52は、ヘッダー50bに形成され、ポート53、54は、容器胴部50aに形成されている。
【0022】
分離膜60の両端部は、筒状容器50の両端部において硬化性樹脂のポッティング材80によりポッティング加工されている。これにより、分離膜60の両端部は、筒状容器50に固定され、筒状容器50の両端部には、分離膜60の各中空糸膜の内側が開口する開口端面81が形成される。筒状容器50の内部の分離膜60の中空糸膜の外側空間は、筒状容器50の側面部のポート53、54に連通している。分離膜60の中空糸膜の内側空間は、開口端面81を通じて、ポート51、52に連通している。かかる構成により、濾過液である蛋白質水溶液が、ポート51から分離膜60の内側空間に流入し、その蛋白質水溶液の水分が、分離膜60を介して分離膜60の外側空間に流出して、蛋白質水溶液から水分を除去して濃縮できる。分離膜60の外側空間に流入した水分は、ポート53から排出できる。また、分離膜60の内側空間を通過し水分が除去された蛋白質水溶液は、ポート52から濃縮腹水バッグ23に濃縮液として排出される。
【0023】
分離膜60は、60%以上80%以下の空隙率及び毛細管上昇法で測定した前記分離膜の液面上昇値が内径200μmの中空糸膜に換算すると60mm〜150mmであり、濃度3g/dLの蛋白質水溶液原液を流速50mL/minで通液させ、蛋白質水溶液の濃縮液を得る濃縮工程Pを実施した場合に、下記条件(1)、(2)を満たすように構成されている。
(1)蛋白質水溶液原液を5L濃縮した際の最大膜間圧力差が500mmHg以下である。
(2)蛋白質水溶液原液を2L濃縮した時の膜間圧力差をA、蛋白質水溶液原液を5L濃縮した時の膜間圧力差をBとした場合に、B/A≦1.6となる。
【0024】
すなわち、
図3に示すように分離膜60は、当該分離膜60に濃度3g/dLの蛋白質水溶液原液を流速50mL/minで通液させ、濃縮した場合に、蛋白質水溶液原液5Lを濃縮した際の最大膜間圧力差(分離膜60の一次側の圧力と二次側の圧力の差の最大値)が500mmHg以下であって、B(蛋白質水溶液を5L濃縮した時の膜間圧力差)/A(蛋白質水溶液原液を2L濃縮した時の膜間圧力差)が1.6以下になるように、空隙率と親水性度が調整されている。
図3における曲線S1、S2、S3は、上記条件(1)、(2)を満たす分離膜を示し、曲線S4、S5は、条件(1)、(2)を満たさない分離膜を示す。
【0025】
なお、空隙率は、次式により定義される。
空隙率=(Y-X)×100/Y
X:一定量の膜の重量
Y:Xの一定量の膜が基材で満たされていると仮定したとき(空隙がないとき)の重量。
本発明において、空隙率は60%以上80%以下であることが必要である。より好ましくは、65%以上80%以下であり、65%以上75%以下であればさらに好ましい。60%より小さい場合、濃縮時に目詰まりが起こりやすくなる為好ましくない。また、80%より大きい場合は、濃縮時の蛋白質漏出量が大きくなり好ましくない。分離膜が中空糸膜状ではなく平膜状である場合も上記式で空隙率を算出する。
【0026】
本発明において、親水性度は、毛細管上昇法によって測定される。本発明でいう毛細管上昇法とは、中空糸膜の中空開口部の一端(平膜の場合は平膜の一辺)を水溶液に浸し、一定時間後に毛細管現象で上昇した液面の水面からの高さを測定する方法のことをいう。具体的には、以下の前処理(P)、(Q)、すなわち分離膜を注射用蒸留水で洗浄する(P)、分離膜を十分に乾燥させる(Q)、の後、乾燥させた分離膜の一端を水溶液に浸し、一定時間後に毛細管現象で上昇した液面の水面からの高さを測定する方法のことをいう。
管状構造の分離膜の場合、毛管上昇に関しては、一般的に、以下の関係式があることが知られている。
h=2γcosθ/rρg
h:液体面からの上昇位
γ:液体の表面張力
θ:接触角(固体と液体の接触面から液体と気体の接触面への角度)
r:管半径
ρ:液体の密度
g:重力加速度
すなわち、r(管半径)、ρ(液体密度)、h(液体面からの上昇位)を測定することによって液体の表面張力を測定することができ、この関係式から、管状構造体内表面の液体に対する濡れ易さ、すなわち、親水性、疎水性の度合いは、毛細管中の液面上昇の度合いによって評価することが可能である。
したがって、分離膜の場合も上記の毛細管上昇法により、中空糸内表面の水溶液に対する濡れ易さ、すなわち、親水性(疎水性)の度合いを測定することができる。また、内径の異なる分離膜であっても、各々の毛細管中の液面上昇値と内径を測定し、上式の関係から基準とする分離膜の内径に換算する補正をすることによって、各々の親水性(疎水性)の度合いを、基準とする内径の分離膜の液面上昇値として絶対比較することが可能になる。本発明では液面上昇値として中空糸膜の内径を200μmに換算した補正値を使用する。 分離膜の毛管上昇値を測定するに際しては、分離膜の水分率や内径が測定値に影響を与えるので、水分率と内径を測定しておく必要がある。分離膜の水分率としては5%以下である必要があり、水分率が5%より大きいと、分離膜が本質的に有している内表面の疎水性の性質が現れにくくなり、その毛管上昇値は、大きな測定値を示すようになり、正確な測定ができなくなってしまう。
毛細管現象による水溶液の液面上昇値を測定するに際しては、その測定時間も重要である。分離膜がより親水性である場合は、上昇していく水溶液のスピードが速くなり、短時間での測定では測定値にばらつきがでてしまう。また、多くのサンプルを一度に測定することが難しくなる。実用的な測定時間は、分離膜を水溶液に浸してから5秒以上経過した時点が好ましく、より実用的には3分以内の適当な時間に設定することが好ましい。本発明では1分後の値を示す。
分離膜が平膜の場合、親水性度は、接触角(化学便覧等)で調べるか、もしくは、同一材質・同一組成を用いた内径200μmの中空糸膜における毛細管上昇法による液面上昇値とする。
本発明において、毛細管上昇法により測定される水溶液の上昇値の、中空糸膜の内径を200μmに換算した補正値は60mm以上150mm以下であることが必要である。より好ましくは、65mm以上145mm以下であり、70mm以上140mm以下であればさらに好ましい。後述するように、60mmより低い、つまり親水性が低すぎる場合においても、また、150mmより高い、つまり親水性が高すぎる場合においても、分離膜表面の束縛蛋白質層F1が厚くなりすぎてしまい、濃縮倍率が低下するため好ましくない。
【0027】
図4に示すように、例えば分離膜60に蛋白質水溶液を通液した場合、60a部分の総体積つまり空隙率が高いと、分離時に目詰まりが起こりにくくなり、高倍率の濃縮が可能となるが、反面、水分と共に蛋白質も通過してしまい、蛋白質の回収率が低下する。空隙率を適切な範囲に調整することによって、透水量を確保しつつ、なおかつ蛋白質を通過させないことが可能になると考えた。
さらに、分離膜60の表面に蛋白質水溶液の蛋白質が不可逆的に堆積した束縛蛋白質層F1と蛋白質が可逆的に堆積した自由蛋白質層F2が形成されると一般的に考えられている。この束縛蛋白質層F1と自由蛋白質層F2が堆積し厚みが増すと分離膜60の目詰まりが生じ、分離膜60を透過する透水量が減少し、濃縮率が低下する。ここで、本願発明者らは、束縛蛋白層F1の厚みを薄く調整して目詰まりを抑制することを考えた。
【0028】
束縛蛋白質層F1の厚みが分離膜60の親水性度に依存することを見出すに至った。すなわち、膜全体の疎水性が強すぎる場合と、逆に膜全体の親水性が強すぎる場合の両方において、蛋白質が分離膜60に付着しやすくくなり束縛蛋白質層F1が厚くなることを発見した。よって、本発明は、分離膜60の空隙率と親水性度を適切な値に調整することで、束縛蛋白質層F1の厚みを適正な範囲に調整し、もって、分離膜60の透水量を確保し高い濃縮率を実現しつつ、分離膜60からの蛋白質の漏れを抑制し蛋白質の高い回収率を確保するものである。
【0029】
分離膜60に使用する基材は、ポリスルホン系、エバールなどのエチレンビニルアルコール系、セルロースアセテート系、ポリエチレン系、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、ポリメチルメタクリレート系(PMMA)、又はポリアクリロニトリル系であり、特にポリスルホン系の基材が好ましい。また、親水性度は、基材に親水化剤を添加する親水化処理を施すことによって調整し、親水化剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリプロピレングリコール、エバールなどのエチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリヒドロキシエチルアクリレート、等が挙げられる。分離膜60の親水性度の調整は、例えば基材の種類、親水化剤の量や種類を調整することによって行う。
また、分離膜60の空隙率は、例えば、熱延伸によって開口する分離膜の場合は延伸温度、延伸速度、延伸ロール径を調整することによって行う。また、二重紡口などを用いて湿式紡糸する場合は、ポリマー原液の吐出速度、内液の組成、紡糸温度を調整することによって行う。
【0030】
本実施の形態によれば、最大膜間圧力差の値が大きくならず(所定条件の濃縮工程Pにおいては5L濃縮しても500mmHg以下に維持される)、また、膜間圧力差の上昇率が小さいもの(濃縮工程PにおいてはB/A≦1.6以下)であるので、分離膜60の空隙率と親水性度を特定の値の範囲に設定した結果、束縛蛋白質層F1の厚みが適切な値の範囲に調整されていると考えらえる。よって、腹水を濾過して生成された蛋白質水溶液を濃縮する濃縮器において、分離膜60の透水量が確保され、分離膜60から蛋白質の漏出が抑えられるので、高倍率の濃縮を実現しつつ、蛋白質の高い回収率を実現できる。
【0031】
上記実施の形態において、分離膜60は、60%以上80%以下の空隙率及び毛細管上昇法で測定した前記分離膜の液面上昇値が内径200μmの中空糸膜に換算すると60mm〜150mmであり、濃度3g/dLの蛋白質水溶液原液を流速50mL/minで通液させ、蛋白質水溶液の濃縮液を得る濃縮工程Pを実施した場合に、さらに下記条件(3)、(4)を満たすように構成されていてもよい。
(3)蛋白質水溶液原液を2L濃縮した際に得られる濃縮液の蛋白質回収率が40%以上である。
(4)蛋白質水溶液原液を5L濃縮した際に得られる濃縮液の蛋白質回収率が70%以上である。
【0032】
かかる場合、分離膜60は、空隙率及び親水性度を適切な値の範囲に設定することによって、分離膜60における蛋白質の漏出を低減し、蛋白質の高い回収率を実現できる。
【0033】
また、分離膜60は、さらに上記条件(4)において蛋白質水溶液原液を5L濃縮した際に得られる濃縮液のアルブミンの回収率が80%以上になるように、空隙率及び親水性度を設定してもよい。
【0034】
また、上記実施の形態において、分離膜60は、60%以上80%以下の空隙率及び毛細管上昇法で測定した前記分離膜の液面上昇値が内径200μmの中空糸膜に換算すると60mm〜150mmであり、濃度3g/dLの蛋白質水溶液原液を流速50mL/minで通液させ、蛋白質水溶液の濃縮液を得る濃縮工程Pを実施した場合に、さらに下記(5)を満たすように構成されていてもよい。
(5)蛋白質水溶液原液を2L濃縮した時の膜間圧力差をA、蛋白質水溶液原液を10L濃縮した時の膜間圧力差をCとした場合に、C/A≦1.5となる。
【0035】
すなわち、分離膜60は、濃縮工程Pを実施した場合の、C(蛋白質水溶液を10L濃縮した時の膜間圧力差)/A(蛋白質水溶液原液を2L濃縮した時の膜間圧力差)が1.5以下になるように、空隙率と親水性度が調整されている。
【0036】
かかる場合、濃縮工程Pにおいて10L濃縮したときの膜間圧力差の上昇率が小さく抑えられるので、より多くの蛋白質水溶液を長時間濃縮しても膜間圧力差が上昇せず、緻密層F1の厚みが適切な値に維持されていると考えられる。よって、腹水を濾過して生成された蛋白質水溶液を濃縮する濃縮器において、分離膜60の透水量が確保され、分離膜60からの蛋白質の漏出が抑えられるので、高倍率の濃縮を実現しつつ、蛋白質の高い回収率を実現できる。
【0037】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0038】
例えば上記実施の形態における濃縮器22の構成はこれに限られない。また、濃縮器22を有する腹水処理システム1の構成もこれに限られない。濃縮器22の分離膜60が中空糸膜であったが、蛋白質水溶液の水分を分離できれば他の種類の膜、例えば平膜であってもよい。
【0039】
また、腹水以外の他の体腔液、例えば胸水や心嚢液を濃縮する濃縮器にも本発明は適用できる。
【実施例】
【0040】
以下の実施例において、本発明における腹水濃縮倍率および最終的な蛋白質回収率について検証した実験結果を示す。本実施例においては、濃縮前の蛋白質水溶液を模擬した液を「元液」と称する。
【0041】
図5に示すように、元液貯留部100、濃縮器101、濃縮液貯留部102、圧力計103、104、105およびポンプ106、107を配置し、回路で接続した。圧力計として、マノメーター(コパル電子社製、PG-200-102GP-P)を用いた。ポンプはEYELA社製のローラーポンプ(RP−1000)を使用し、ポンプ106は流速が50mL/minになるように設定し、ポンプ107は流速が40mL/minになるように設定した。
【0042】
<元液の作製方法>
ウシの血液を用いた血球成分を含む疑似腹水を作製した。まず、抗凝固剤としてヘパリンナトリウム注(1万単位/牛血液1L)を添加した牛血液を遠心分離し、血漿層、赤血球層およびバフィーコート層の各溶液を得て、これらを別々に回収することで血漿を得た。次に血漿を濾過器(旭化成メディカル(株)社製 腹水濾過器AHF−MO−W)で濾過させた後、生理食塩液を混和して蛋白質濃度3.0(g/dL)、アルブミン濃度を1.5(g/dL)に調製した元液を10L作製した。
【0043】
<蛋白質濃度の測定方法および蛋白質回収率の算出方法>
蛋白質濃度は、ビューレット法により測定した。自動分析装置(東京貿易メディカルシステム(株)社製、Biolis24i)、測定用試薬としてイアトロTPII((株)L
SIメディエンス社製)を用いた。
元液中の蛋白質量をTP1、濃縮液の蛋白質量をTP2とした場合、蛋白質回収率は以下の式を用いて算出した。
蛋白質回収率=TP2/TP1×100(%)
【0044】
<アルブミン濃度の測定方法およびアルブミン回収率の算出方法>
アルブミン濃度は、BCG法により測定した。自動分析装置(東京貿易メディカルシステム(株)社製、Biolis24i)、測定用試薬としてイアトロファインALBII(
(株)LSIメディエンス社製)を用いた。
元液中のアルブミン量をALB1、濃縮液中のアルブミン量をALB2とした場合、アルブミン回収率は以下の式を用いて算出した。
アルブミン回収率=ALB2/ALB1×100(%)
【0045】
<膜間圧力差の測定方法>
圧力計103、圧力計104、圧力計105で示す圧力をそれぞれP1、P2、P3とすると、膜間差圧は以下の式で算出した。
膜間差圧=(P1+P2)/2−P3 (mmHg)
【0046】
<膜間圧力差の比(B/A、C/A)の算出方法>
元液2L処理時の膜間圧力差をA(mmHg)、元液5L処理時の膜間圧力差をB(mmHg)、元液2L処理時の膜間圧力差をC(mmHg)とする。膜間圧力差の比は、上記BおよびCをAで除し、小数点第2位を四捨五入した値とした。
【0047】
<濃縮倍率>
元液量を10Lを、濃縮液量Xで除した値を濃縮倍率とし、以下のように判定した。
濃縮倍率が5倍・・・〇
濃縮倍率が5倍未満・・・×
本実施例においては、ポンプ106の流量が50mL/minであるのに対し、ポンプ107の流量が40mL/minであるので、目詰まりすることなく全量濃縮できれば、濃縮液量は2Lとなり、濃縮倍率は5倍となる。
【0048】
<最終蛋白質回収率>
元液中の蛋白質量をTP1、最終的に得られた濃縮液中の蛋白質量をTP3とした場合、最終蛋白質回収率は以下の式を用いて算出した。
最終蛋白質回収率=TP3/TP1×100(%)
また、最終蛋白回収率を以下のように判定した。
最終蛋白回収率が50%以上・・・〇
最終蛋白回収率が50%未満・・・×
【0049】
(実施例1)
濃縮器として、内径200μm、膜厚45μm、長さ330mm、空隙率78%、毛細管上昇法による液面上昇値110mmのポリスルホン/ポリビニルピロリドン中空糸9000本からなる中空糸膜型濃縮器を用いた。結果を表1に示す。
【0050】
(実施例2)
濃縮器として、内径185μm、膜厚45μm、長さ330mm、空隙率73%、毛細管上昇法による液面上昇値120mm(内径200μmとして換算した値)のポリスルホン/ポリビニルピロリドン中空糸10600本からなる中空糸膜型濃縮器を用いたこと以外は実施例1と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0051】
(実施例3)
濃縮器として、内径185μm、膜厚45μm、長さ330mm、空隙率60%、毛細管上昇法による液面上昇値120mm(内径200μmとして換算した値)のポリスルホン/ポリビニルピロリドン中空糸10600本からなる中空糸膜型濃縮器を用いたこと以外は実施例1と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0052】
(実施例4)
濃縮器として、内径185μm、膜厚45μm、長さ330mm、空隙率72%、毛細管上昇法による液面上昇値150mm(内径200μmとして換算した値)のエチレン−ビニルアルコール共重合体(エバール)中空糸10600本からなる中空糸膜型濃縮器を用いたこと以外は実施例1と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例5)
濃縮器として、内径200μm、膜厚45μm、長さ330mm、空隙率80%、毛細管上昇法による液面上昇値110mmのポリスルホン/ポリビニルピロリドン中空糸9000本からなる中空糸膜型濃縮器を用いたこと以外は実施例1と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例6)
濃縮器として、内径200μm、膜厚45μm、長さ330mm、空隙率63%、毛細管上昇法による液面上昇値70mmのポリエーテルスルホン/ポリビニルピロリドン中空糸9000本からなる中空糸膜型濃縮器を用いたこと以外は実施例1と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0055】
(実施例7)
濃縮器として、内径200μm、膜厚45μm、長さ330mm、空隙率70%、毛細管上昇法による液面上昇値60mmのセルローストリアセテート中空糸9000本からなる中空糸膜型濃縮器を用いたこと以外は実施例1と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0056】
(比較例1)
濃縮器として、内径200μm、膜厚45μm、長さ330mm、空隙率52%、毛細管上昇法による液面上昇値180mmのエチレン−ビニルアルコール共重合体(エバール)中空糸9000本からなる中空糸膜型濃縮器を用いたこと以外は実施例1と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0057】
(比較例2)
濃縮器として、内径185μm、膜厚45μm、長さ330mm、空隙率55%、毛細管上昇法による液面上昇値110mm(内径200μmとして換算した値)のポリスルホン/ポリビニルピロリドン中空糸10600本からなる中空糸膜型濃縮器を用いたこと以外は実施例1と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】