(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品あるいは電子基板材料のコストダウン化が顕著であり、そのためにより安価な樹脂を材料とした部材設計が進められている。必然的に部材の耐熱性は劣るようになり、より低温で硬化する部品接合剤の要求が高まっている。また、プロセスタクトタイムの短縮要求も強く、より短時間での硬化も同時に求められている。
エポキシ樹脂系の熱硬化を低温で行う技術として、カチオン重合を用いることは広く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、六フッ化アンチモン、六フッ化リンなどを対アニオンとして使用したスルホニウム塩がエポキシ樹脂のカチオン硬化触媒として有用であることを開示されている。特に六フッ化アンチモンを使用したスルホニウム塩は低温硬化触媒として市販されている。
また、特許文献2には、六フッ化アンチモンと同等の活性を有するテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンを使用したカチオン硬化触媒が開示されている。
これらのカチオン硬化触媒は低温硬化の活性を有するものの、そのままではエポキシ樹脂と配合した場合の保存安定性は極めて不十分であるという問題がある。
【0004】
通常、オニウム塩型の熱カチオン重合触媒は低温硬化活性を上げるために、カチオン解離性を上げる構造設計がなされるが、このことは極性場における自然解離を招くことになり、保存安定性との両立が困難となる。
この点において、カチオン解離を別な方法で促す技術として、ラジカルにより酸発生させる技術が開示されている。例えば、非特許文献1には以下の構造によるラジカルを開始種としたオニウム塩解離及びシクロヘキセンオキシド(CHO)の重合方法について記載されている。かかる技術では、確かにラジカル種を併用することによりオキシラン化合物の重合促進効果が得られるようである。
しかし、かかる技術では、低温硬化活性が充分とはいえず、改良の余地があった。
【化1】
【0005】
また、特許文献3〜5には、硬化促進などの目的で、熱硬化性樹脂組成物にアンモニウム塩系化合物を含有しうることが開示されている。しかしながら、これらの技術でも、低温硬化性と、保存安定性とを両立することはできない。
したがって、低温かつ短時間で硬化が可能で、かつ硬化前の保存安定性が確保できる熱硬化性樹脂組成物、及び熱硬化性シートの提供が求められているのが現状である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(熱硬化性樹脂組成物)
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、カチオン硬化成分と、特定の構造のアンモニウム塩と、ラジカル発生剤とを少なくとも含有し、好ましくは膜形成樹脂を含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
上記要件を満たす、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、低温短時間硬化性及び保存安定性の両方に優れたものとなる。
【0012】
本発明者は、前記非特許文献1に記載の構造を有するアンモニウム塩を含有させて熱硬化シートを作製したところ、かかる非特許文献1に記載のアンモニウム塩では、低温硬化活性が不十分であることがわかった(後述する実施例において、比較化合物例2(非特許文献1中の、上記EADAに相当するアンモニウム塩)を含有する比較例2の結果参照)。
そこで、本発明者は、種々の実験を行い、熱硬化性樹脂組成物の含有成分について研究を重ねた結果、特定のアンモニウム塩と熱によりラジカルを発生するラジカル発生剤とを組み合わせて含有させ、カチオン系硬化剤としての特定のアンモニウム塩を活性化させることにより、保存安定性を確保しつつ、かつ低温短時間硬化性に優れた熱硬化樹脂組成物が得られることを見出した。
本発明で規定する一般式(1)で表される化合物が非特許文献1に記載の化合物に対して低温短時間硬化性が優れる理由は明らかではないが、ラジカル発生剤から発生したラジカルが本発明のアンモニウム塩に付加した後に生成するアミンのカチオンラジカルの生成速度は非特許文献1に記載の構造のものよりも高く、その後のプロトン放出を迅速に行っている結果、より低温でカチオン硬化が進行するものと考えている。
【0013】
<カチオン硬化成分>
前記カチオン硬化成分としては、カチオン系硬化剤としての特定のアンモニウム塩の作用により硬化する成分であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物、及び環状エーテル化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
前記エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ポリグリシジルエーテル、ポリグリシジルエステル、芳香族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、グリシジルアミン系エポキシ化合物、グリシジルエステル系エポキシ化合物、ビフェニルジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、ポリグリシジルメタクリレート、グリシジルメタクリレートと前記グリシジルメタクリレートと共重合可能なビニル単量体との共重合体などが挙げられる。
【0015】
前記脂環式エポキシ化合物としては、例えば、シクロヘキセンオキシド含有化合物、シクロペンテンオキシド含有化合物などが挙げられる。
【0016】
前記ビニルエーテル化合物としては、例えば、アルキルビニルエーテル化合物、アルケニルビニルエーテル化合物、アルキニルビニルエーテル化合物、アリールビニルエーテル化合物などが挙げられる。
【0017】
前記オキセタン化合物としては、オキセタンアルコール、脂肪族オキセタン化合物、芳香族オキセタン化合物などが挙げられる。
【0018】
前記熱硬化性樹脂組成物における前記カチオン硬化成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記熱硬化性樹脂組成物の不揮発分に対して、10質量%〜98質量%が好ましく、20質量%〜90質量%がより好ましい。
【0019】
<一般式(1)で表されるアンモニウム塩>
本発明では、カチオン系硬化剤として、下記一般式(1)で表されるアンモニウム塩化合物を含有する。
【化3】
ただし、前記一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、炭素数1〜2のアルキル基を表す。R
3は、水素原子、アルキル基、アルコキシカルボニル基、及びアリールオキシカルボニル基のいずれかを表す。Yは、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルメチル基、アルコキシカルボニルメチル基、アリールカルボニル基、アリールカルボニルメチル基、N−アルキルカルバモイル基、及びN−フェニルカルバモイル基のいずれかを表す。Z
−は、SbF
6−、B(C
6F
5)
4−、C(CF
3SO
2)
3−、及び[P(R
8)
a(F)
6−a]
−(式中、R
8は、それぞれ独立して、水素原子の少なくとも一部がフッ素で置換されてもよいアルキル基を示し、aは0〜5の整数を示す。)のいずれかを表す。
【0020】
前記R
1及びR
2の炭素数1〜2のアルキル基としては、メチル基、及びエチル基が挙げられる。
前記R
3のアルキル基としては、例えば炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。
前記R
3のアルコキシカルボニル基としては、例えば炭素数1〜8のアルコキシカルボニル基が挙げられ、具体的には、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基等が挙げられる。
前記R
3のアリールオキシカルボニル基としては、例えば置換、無置換のフェノキシカルボニル基、トリロキシカルボニル基、キシリロキシカルボニル基、ナフトキシカルボニル基等が挙げられ、置換基としては、例えばヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0021】
前記Yのアルキルカルボニル基としては、例えば炭素数2〜8のアルキルカルボニル基が挙げられる。
前記Yのアルコキシカルボニル基としては、例えば炭素数2〜8のアルコキシカルボニル基が挙げられる。
前記Yのアルキルカルボニルメチル基としては、例えば炭素数3〜10のアルキルカルボニルメチル基が挙げられる。
前記Yのアルコキシカルボニルメチル基としては、例えば炭素数3〜10のアルコキシカルボニルメチル基が挙げられる。
前記Yのアリールカルボニル基としては、例えば置換、無置換のフェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基が挙げられ、置換基としては、例えばアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基等が挙げられる。
前記Yのアリールカルボニルメチル基としては、例えば置換、無置換のフェニルカルボニルメチル基、ナフチルカルボニルメチル基が挙げられ、置換基としては、例えばアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基等が挙げられる。
前記YのN−アルキルカルバモイル基としては、例えば炭素数2〜10のN−アルキルカルバモイル基が挙げられる。
前記YのN−フェニルカルバモイル基としては、例えば炭素数7〜12のN−フェニルカルバモイル基が挙げられる。N−フェニルカルバモイル基におけるフェニル基は、置換基を有してもよい。
【0022】
前記一般式(1)で表されるアンモニウム塩のカチオン部の具体的な構造としては、例えば、以下の構造が挙げられる。
【化4】
【化5】
【0023】
前記一般式(1)におけるX
−は、アニオンであり、具体的には、SbF
6−、B(C
6F
5)
4−、C(CF
3SO
2)
3−、及び[P(R
8)
a(F)
6−a]
−(式中、R
8は、それぞれ独立して、水素原子の少なくとも一部がフッ素で置換されてもよいアルキル基を示し、aは0〜5の整数を示す。)である。
【0024】
前記R
8のアルキル基としては、例えば、炭素数1〜10のアルキル基が挙げられ、特に炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基が好ましい。具体的には、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基が挙げられる。
この中で、より低温硬化性が得られる点で、SbF
6−、B(C
6F
5)
4−、及びC(CF
3SO
2)
3−が好ましい。
【0025】
前記熱硬化性樹脂組成物における前記一般式(1)で表されるアンモニウム塩の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記熱硬化性樹脂組成物の不揮発分に対して、0.5質量%〜20質量%が好ましく、2質量%〜15質量%がより好ましい。
【0026】
<ラジカル発生剤>
前記ラジカル発生剤としては、熱によりラジカルを発生するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アゾ系化合物、有機及び無機過酸化物などが挙げられる。これらの中でも、保存安定性が得やすい点で、有機過酸化物が好ましい。
前記有機過酸化物としては、例えば、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、シリルパーオキサイドが挙げられる。これらのうち、低温活性が得やすい点で、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、パーオキシケタールが好ましい。
また、これら熱によりラジカルを発生する化合物は複数を併用して用いることができる。
【0027】
前記熱硬化性樹脂組成物における前記ラジカル発生剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記熱硬化性樹脂組成物の不揮発分に対して、0.3質量%〜20質量%が好ましく、0.5質量%〜15質量%がより好ましい。
【0028】
<膜形成樹脂>
前記膜形成樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、製膜性、加工性の点からフェノキシ樹脂が特に好ましい。
【0029】
前記フェノキシ樹脂としては、例えば、2官能フェノール類とエピクロルヒドリンとを反応させ高分子量化したもの、あるいは2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール類とを重付加することにより得られる樹脂などが挙げられる。
使用される2官能エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニルジグリシジルエーテル、メチル置換ビフェニルジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
また、2官能フェノール類としては、例えば、ハイドロキノン類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、ビスフェノールフルオレン、メチル置換ビスフェノールフルオレン、ジヒドロキシビフェニル、メチル置換ジヒドロキシビフェニル等のビスフェノール類などが挙げられる。
【0030】
前記熱硬化性樹脂組成物における前記膜形成樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記熱硬化性樹脂組成物の不揮発分に対して、10質量%〜90質量%が好ましく、20質量%〜80質量%がより好ましく、30質量%〜60質量%が特に好ましい。
【0031】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、チキソトロピー剤、充填剤、レベリング剤、酸化防止剤、重合禁止剤、光安定剤、着色剤、導電性付与剤、接着付与剤などが挙げられる。
特に、重合禁止剤、あるいは酸化防止剤を含有することは、本発明の熱硬化性樹脂組成物の保存中のラジカルトラップとして機能し、保存安定性を向上させる場合があり好ましい。
【0032】
前記重合禁止剤あるいは前記酸化防止剤としては、ラジカル重合の重合禁止剤である限り特に限定はなく、例として、フェノール系重合禁止剤、アミン系重合禁止剤、スピントラップ剤などが挙げられる。
前記フェノール系重合禁止剤の例としては、ハイドロキノン、2−t−ブチルハイドロキノン、2−t−ブチル−4−メトキシフェノール、2,3−ジ−t−ブチル−4−メトキシフェノール、p−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4−アリル−2−メトキシフェノール、4−t−ブチルカテコール、4,4’チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−t−アミルヒドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−〔β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト〕メタン、ビス〔3,3’−ビス(4’−ヒドロキシ−3’−ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−2−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、α−トコフェノール等が挙げられる。
【0033】
前記アミン系重合禁止剤の例としては、2−フェニルインドール、N,N’−ジフェニルエチレンジアミン、N,N’−ジサリシラールプロピレンジアミン、フェノチアジン等が挙げられる。
前記スピントラップ剤の例としては、ジフェニルピクリルヒドラジルラジカル、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル、1,1,3,3−テトラメチルイソインドール−2−オキシラジカル等が挙げられる。
【0034】
これらのうち、酸性環境でも機能するという観点でフェノール系重合禁止剤が好ましい。
前記重合禁止剤あるいは前記酸化防止剤の熱硬化性樹脂組成物への含有量としては、前記一般式(1)の化合物に対して、0.1mol%から3mol%が好ましい。
【0035】
(熱硬化性シート)
本発明の前記熱硬化性シートは、本発明の前記熱硬化性樹脂組成物を含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0036】
前記熱硬化性シートは、例えば、基材フィルム(剥離基材)上に前記熱硬化性樹脂組成物からなる熱硬化性接着層が形成されてなるものである。前記基材フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルムなどが挙げられる。
前記熱硬化性シートは、保管性、使用時のハンドリング性などの観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム等に必要に応じてシリコーン等で剥離処理した基材フィルムに、前記熱硬化性樹脂組成物からなる熱硬化性接着層が10μm〜50μmの平均厚みで形成されていることが好ましい。
【0037】
前記熱硬化性樹脂組成物、及び前記熱硬化性シートは、電子部品分野に好ましく適用できる。特に、前記熱硬化性シートは、フレキシブルプリント配線板の端子部等と、その裏打ちするためのポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ガラスエポキシ、ステンレス、アルミニウム等の厚み50μm〜2mmの補強用シートとを接着固定するために好ましく適用でき、その適用により、フレキシブルプリント配線板の端子部と補強用シートとが、本発明の熱硬化性シートの基材フィルムを除いた熱硬化性接着層の熱硬化物で接着固定されてなる補強フレキシブルプリント配線板が得られる。
【0038】
熱硬化性シートを接着シートとして使用する場合、組成中には熱可塑性樹脂が含有されていることが好ましい。使用される熱可塑性樹脂としては、前記<膜形成樹脂>の欄でも記載のポリアクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、及びエポキシ樹脂等が挙げられる。この中でも、上述したように成膜性、相溶性、耐熱性の観点でフェノキシ樹脂が含有されていることが好ましい。
金属を接着する接着シートとして使用される場合、組成中にシランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばエポキシ系シランカップリング剤、アクリル系シランカップリング剤、チオール系シランカップリング剤、アミン系シランカップリング剤などが挙げられる。
導電性を付与する接着シートとして使用される場合、組成中に導電性粒子を含有することが好ましい。導電粒子の種類は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば金、銀、銅、スズ、ニッケル等の金属粒子、金属酸化物あるいはシリカ等の無機粒子に金属メッキあるいは蒸着等により金属を被覆した粒子、樹脂粒子に金属メッキあるいは蒸着等により金属を被覆した粒子などが挙げられる。粒子の形状も特に制限はなく、球状、針状、不定形、細かい突起を有する形状等が挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
(合成例p−1)
<化合物p−1の合成>
攪拌器、冷却管、窒素導入管を設置した200mL三口フラスコに3−(ジメチルアミノ)フェノール5.00g(0.0364mol)、脱水アセトニトリル50mL、トリエチルアミン4.42g(0.0437mol)を入れ、毎分100mLの窒素ガスを導入しながらそこにアセチルクロライド3.14g(0.0400mol)を20分かけて滴下し、その後さらに2時間攪拌した。攪拌終了後、濾過を行い、析出したトリエチルアミンの塩酸塩を除去し、濾液を減圧濃縮後、酢酸エチルと純水にて分液を行い、さらに酢酸エチル相の水洗を3回行った。その後、酢酸エチル相を減圧濃縮し、さらに24時間減圧乾燥することで、下記構造式(p−1)で表される化合物p−1の液状物5.64g(収率86.4%)を得た。
【化6】
【0041】
(合成例p−2)
<化合物p−2の合成>
攪拌器、冷却管、窒素導入管を設置した200mL三口フラスコに3−(ジメチルアミノ)フェノール5.00g(0.0364mol)、脱水アセトニトリル50mL、トリエチルアミン4.42g(0.0437mol)を入れ、10℃に冷却後、毎分100mLの窒素ガスを導入しながらそこにクロロ蟻酸メチル3.78g(0.0400mol)を20分かけて滴下し、その後さらに4時間攪拌した。攪拌終了後、濾過を行い、析出したトリエチルアミンの塩酸塩を除去し、濾液を減圧濃縮後、酢酸エチルと純水にて分液を行い、さらに酢酸エチル相の水洗を3回行った。その後、酢酸エチル相を減圧濃縮し、さらに24時間減圧乾燥することで、下記構造式(p−2)で表される化合物p−2の液状物6.37g(収率89.7%)を得た。
【化7】
【0042】
(合成例p−3)
<化合物p−3の合成>
攪拌器、冷却管、窒素導入管を設置した200mL三口フラスコに3−(ジメチルアミノ)フェノール5.00g(0.0364mol)、脱水アセトニトリル30mL、炭酸カリウム6.03g(0.0437mol)を入れ、70℃に昇温して30分攪拌した。毎分100mLの窒素ガスを導入しながらそこにクロロ酢酸メチル4.34g(0.0400mol)を10分かけて滴下し、その後さらに4時間攪拌した。攪拌終了後、濾過を行い、濾液を減圧濃縮後、酢酸エチルと純水にて分液を行い、さらに酢酸エチル相の水洗を3回行った。その後、酢酸エチル相を減圧濃縮し、さらに24時間減圧乾燥することで、下記構造式(p−3)で表される化合物p−3の液状物6.66g(収率87.5%)を得た。
【化8】
【0043】
(合成例p−4)
<化合物p−4の合成>
攪拌器、冷却管、窒素導入管を設置した200mL三口フラスコに3−(ジメチルアミノ)フェノール5.00g(0.0364mol)、脱水アセトニトリル30mL、炭酸カリウム6.03g(0.0437mol)を入れ、70℃に昇温して30分攪拌した。毎分100mLの窒素ガスを導入しながらそこに1−クロロピナコリン5.42g(0.0400mol)を10分かけて滴下し、その後さらに4時間攪拌した。攪拌終了後、濾過を行い、さらに残渣をアセトニトリルで洗浄し、濾液を減圧濃縮後、酢酸エチルと純水にて分液を行い、さらに酢酸エチル相の水洗を3回行った。その後、酢酸エチル相を減圧濃縮し、さらに24時間減圧乾燥することで、下記構造式(p−4)で表される化合物p−4の赤色結晶物7.16g(収率83.2%)を得た。
【化9】
【0044】
(合成例p−5)
<化合物p−5の合成>
攪拌器、冷却管、窒素導入管を設置した200mL三口フラスコに3−(ジメチルアミノ)フェノール5.00g(0.0364mol)、メチルエチルケトン40mL、トリエチルアミン0.05gを入れ60℃に昇温した。毎分100mLの窒素ガスを導入しながらそこにイソシアン酸フェニル3.78g(0.0437mol)を30分かけて滴下し、その後さらに2時間攪拌した。
攪拌終了後冷却したのち、減圧濃縮後、トルエンで洗浄し、24時間減圧乾燥することで、下記構造式(p−5)で表される化合物p−5の赤色結晶物7.30g(収率78.2%)を得た。
【化10】
【0045】
(合成例1−A)
<アンモニウム塩1−Aの合成>
攪拌器を設置した100mL三口フラスコに合成例p−1で合成した化合物p−1 3.000g(0.0167mol)、アセトニトリル10gを入れ室温で攪拌し均一溶液とした。そこに、2−(ブロモメチル)アクリル酸エチル3.87g(0.0200mol)を10分かけて滴下し、さらに24時間攪拌した。攪拌後、減圧濃縮を行った後、酢酸エチル50g/蒸留水100gで分液をし、水相を取り出した。
その後、水相を1Lのフラスコに移し、室温にて攪拌しながら、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートのナトリウム塩の3質量%水溶液351.7g(0.0167mol)を10分かけてゆっくりと添加した。添加直後より赤色の結晶が析出した。
添加後さらに1時間攪拌を行った後、濾過・水洗・減圧乾燥を行い、構造式(1−A)で表されるアンモニウム塩の化合物1−Aの赤色結晶6.86g(収率42.3%)を得た。
【化11】
【0046】
(合成例2−A)
<アンモニウム塩2−Aの合成>
合成例1−Aでの化合物p−1を、化合物p−2 3.26g(0.0167mol)に代えた以外は、合成例1−Aと同様にして、構造式(2−A)で表されるアンモニウム塩の化合物2−Aの赤色結晶6.44g(収率39.1%)を得た。
【化12】
【0047】
(合成例3−A)
<アンモニウム塩3−Aの合成>
合成例1−Aでの化合物p−1を、化合物p−3 3.49g(0.0167mol)に代えた以外は、合成例1−Aと同様にして、構造式(3−A)で表されるアンモニウム塩の化合物3−Aの赤色結晶8.61g(収率51.5%)を得た。
【化13】
【0048】
(合成例4−A)
<アンモニウム塩4−Aの合成>
合成例1−Aでの化合物p−1を、化合物p−4 3.95g(0.0167mol)に代えた以外は、合成例1−Aと同様にして、構造式(4−A)で表されるアンモニウム塩の化合物4−Aの赤色結晶10.5g(収率61.2%)を得た。
【化14】
【0049】
(合成例5−A)
<アンモニウム塩5−Aの合成>
合成例1−Aでの化合物p−1を、化合物p−5 4.28g(0.0167mol)に代え、さらにアセトニトリルを、アセトニトリル10gとアセトン10gの混合溶媒に代えた以外は、合成例1−Aと同様にして、構造式(5−A)で表されるアンモニウム塩の化合物5−Aの赤褐色結晶5.18g(収率29.3%)を得た。
【化15】
【0050】
(合成例1−B)
<アンモニウム塩1−Bの合成>
合成例1−Aでのテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートをヘキサフルオロアンチモン酸ナトリウム3質量%水溶液144.1g(0.0167mol)に代えた以外は、合成例1−Aと同様にして、構造式(1−B)で表されるアンモニウム塩の化合物1−Bの赤色結晶3.31g(収率37.5%)を得た。
【化16】
【0051】
(合成例6−A)
<アンモニウム塩6−Aの合成>
合成例1−Aでの2−(ブロモメチル)アクリル酸エチルを3−ブロモ−2−メチル−1−プロペン2.7g(0.0200mol)に代えた以外は、合成例1−Aと同様にして、構造式(6−A)で表されるアンモニウム塩の化合物6−Aの赤色結晶9.52g(収率62.4%)を得た。
【化17】
【0052】
(合成例7−A)
<アンモニウム塩7−Aの合成>
合成例1−Aでの2−(ブロモメチル)アクリル酸エチルをアリルブロミド2.42g(0.0200mol)に代えた以外は、合成例1−Aと同様にして、構造式(7−A)で表されるアンモニウム塩の化合物7−Aの赤色結晶9.93g(収率66.1%)を得た。
【化18】
【0053】
(比較化合物例1(合成例8−A))
<アンモニウム塩8−Aの合成>
合成例1−Aにおいて、化合物p−1を、N,N−ジメチルアニリン2.02g(0.0167mol)に代えた以外は、合成例1−Aと同様にして、構造式(8−A)で表されるアンモニウム塩8−Aの白色結晶10.39g(収率68.1%)を得た。
【化19】
【0054】
(比較化合物例2(合成例8−B))
<アンモニウム塩8−Bの合成>
合成例8−Aにおいて、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートのナトリウム塩3質量%水溶液をヘキサフルオロアンチモン酸ナトリウム3質量%水溶液144.1g(0.0167mol)に代えた以外は、合成例8−Aと同様にして、構造式(8−B)で表されるアンモニウム塩8−Bの白色結晶4.80g(収率61.1%)を得た。
【化20】
【0055】
(比較化合物例3(合成例9−A))
<アンモニウム塩9−Aの合成>
合成例8−Aにおいて、2−(ブロモメチル)アクリル酸エチルを、3−ブロモ−2−メチル−1−プロペン2.7g(0.0200mol)に代えた以外は、合成例8−Aと同様にして、アンモニウム塩9−Aの白色結晶9.73g(収率68.1%)を得た。
【化21】
【0056】
(比較化合物例4(合成例10−A))
<アンモニウム塩10−Aの合成>
合成例8−Aにおいて、2−(ブロモメチル)アクリル酸エチルを、アリルブロミド2.42g(0.0200mol)に代えた以外は、合成例8−Aと同様にして、アンモニウム塩10−Aの白色結晶10.0g(収率71.5%)を得た。
【化22】
【0057】
(実施例1〜10及び比較例1〜17)
表1−1から表1−5に示す配合にしたがって熱硬化性樹脂組成物を作製した。
作製した熱硬化性樹脂組成物をシリコーン系離型処理された剥離PET(ポリエチレンテレフタレート)にコーティングし、60℃に設定された熱風循環オーブン中で5分間乾燥することにより、平均厚み15μmの熱硬化性シートを作製した。
【0058】
【表1-1】
【0059】
【表1-2】
【0060】
【表1-3】
【0061】
【表1-4】
【0062】
【表1-5】
【0063】
表1−1から表1−5における数値は、溶剤分を除いた配合量であり、単位は、質量部である。
なお、表1−1から表1−5における各材料は、以下のとおりである。
YP−70:新日鐵住金化学株式会社製、ビスフェノールA/ビスフェノールF共重合型フェノキシ樹脂
FX−316:新日鐵住金化学株式会社製、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂
YL980:三菱化学株式会社製、ビスフェノールAタイプエポキシ樹脂
YL983U:三菱化学株式会社製、ビスフェノールFタイプエポキシ樹脂
パーロイルL:日油株式会社製、ジラウロイルパーオキサイド
【0064】
なお、配合する際、YP−70及びFX−316は、メチルエチルケトンの45質量%固形分溶液を用い、YL980、及びYL983Uは、原液を用いた。パーロイルLは、トルエンの30質量%固形分溶液を用いた。各アンモニウム塩は、メチルエチルケトンの30質量%固形分溶液を用いた。
【0065】
(実施例1〜10及び比較例1〜17の熱硬化性シートの低温短時間硬化性及び保存安定性評価)
作製した実施例1〜10及び比較例1〜17の熱硬化性シート(平均厚み15μm)の低温短時間硬化性及び保存安定性を、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の示差走査熱量測定装置DSC6200を用いて評価した。
【0066】
<低温短時間硬化性の評価>
各熱硬化性シート1.5mgをDSC6200用の直径5mmのアルミ容器に入れ、クランプカバーをして、評価用サンプルを作製した。本サンプルをヒーター板に各々5秒間押し付けた後、示差走査熱量測定を行い、その発熱量と押し付ける前の発熱量から反応率を算出した。ヒーター板の温度は120℃及び130℃とした。
示差走査熱量測定による発熱挙動はエポキシ樹脂の硬化反応挙動を反映していることが当業界ではよく知られている。よって、ヒーター板による加熱前後の発熱量の比率は熱硬化性シート中のエポキシ樹脂の反応率を反映していると言える。
実用的な観点では、低温短時間硬化性としては、130℃で65%を超えていることが目安となる。
結果を表2−1から表2−5に示す。
−測定条件−
昇温速度 10℃/min(25℃〜300℃)
N
2ガス 100mL/min
サンプル重量 約1.5mg
【0067】
<保存安定性の評価>
保存安定性は、25℃/65%RHの暗所環境下にて2週間放置前後の示差走査熱量測定における発熱量変化から減少率を算出することで評価した。先に記載した通り、示差走査熱量測定による発熱挙動はエポキシ樹脂の硬化反応挙動を反映しているので、放置前後の発熱量の変化量は放置中でのエポキシの反応進行量を反映する。放置前後で発熱量の変化が少ないほど保存安定性が高いと言える。実用的な観点では、具体的には、10%以下の減少に抑えることで熱硬化性シートとしての機能は維持できる。保存安定性の評価結果を表2−1〜表2−5に示す。
−測定条件−
昇温速度 10℃/min(25℃〜300℃)
N
2ガス 100mL/min
サンプル重量 約5mg
【0068】
【表2-1】
【0069】
【表2-2】
【0070】
【表2-3】
【0071】
【表2-4】
【0072】
【表2-5】
【0073】
表2−1〜表2−5の結果より、本発明の一般式(1)で表される特定の構造を有するアンモニウム塩化合物はラジカル発生剤を含有させることにより顕著に低温短時間硬化性を発現することができる(実施例1から8と比較例5から12より)。
一方、一般式(1)以外のアンモニウム塩化合物は、ラジカル発生剤を含有させても、保存安定性はよいものの顕著な低温硬化性の発現は見られなかった(比較例1から4と比較例13から16より)。
従って、低温硬化性と保存安定性の両立を図るうえで、本発明の一般式(1)で表される特定の構造を有するアンモニウム塩化合物、及びラジカル発生剤を含有させることが有効であることがわかった。