特許第6397787号(P6397787)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397787
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20180913BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20180913BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20180913BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20180913BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20180913BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   C08L63/00 A
   C08L33/14
   C08L67/00
   C08L67/04
   C08L67/02
   C08K5/098
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-58216(P2015-58216)
(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公開番号】特開2016-176025(P2016-176025A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2017年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000505
【氏名又は名称】アロン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】古田 円
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−109818(JP,A)
【文献】 特開平05−025374(JP,A)
【文献】 特開平09−221536(JP,A)
【文献】 特開2000−290483(JP,A)
【文献】 特開2007−254649(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/108836(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
C08K 3/00 − 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分A:エポキシ基を有する(メタ)アクリルゴム、
成分B:融点が160〜300℃のポリエステルエラストマー、及び
成分C:ポリカプロラクトン
を含有してなり、
前記成分Aと前記成分Bの質量比(成分A/成分B)が60/40〜90/10であり、前記成分Cの含有量が、成分Aと成分Bの合計100質量部に対して、2〜20質量部である、熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
成分Aのエポキシ基を有する(メタ)アクリルゴムを構成する(メタ)アクリル単量体が、アクリル酸エチルを40モル%以上含み、成分Bのポリエステルエラストマーがポリエステル型ポリマーブロックからなるソフトセグメントを含むブロック共重合体である、請求項1記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
成分Bのポリエステルエラストマーが、融点が160℃を超える結晶性ポリエステルブロックからなるハードセグメントとガラス転移温度が0℃未満のポリエステル型ポリマーブロックからなるソフトセグメントを含むブロック共重合体である、請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
さらに、成分D:エポキシ基と反応性を有するゴム架橋剤を、成分Aと成分Bの合計100質量部に対して、0.1〜20質量部含有する、請求項1〜3いずれか記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
さらに、成分E:結晶性ポリエステル可塑剤を、成分Aと成分Bの合計100質量部に対して、0.1〜30質量部含有する、請求項1〜4いずれか記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
さらに、成分F:有機酸金属塩を、成分Aと成分Bの合計100質量部に対して、0.01〜5質量部含有する、請求項1〜5いずれか記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載の熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気電子用部品、自動車用部品、シール材、パッキン、制振部材、チューブ等に用いられる熱可塑性エラストマー組成物、及び該熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られる成形体に関する。さらに詳しくは、特に耐熱性が求められる自動車エンジン周辺や高温機器のシール材、パッキン、チューブ等に好適な熱可塑性エラストマー組成物、及び該熱可塑性エラストマー組成物を用いて得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、優れた耐熱性や機械的強度及び柔軟性に優れた熱可塑性エラストマー組成物として、ジカルボン酸成分が、テレフタル酸又はそのエステル形成誘導体(a1)と、イソフタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ダイマー酸の中から少なくとも1種以上のジカルボン酸又はそのエステル形成誘導体(a2)から形成され、(a1)に対する(a2)のモル比範囲((a1)/(a2))が0.2〜7.0であり、さらにジオール又はそのエステル形成誘導体とから形成される結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a3)と脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(a4)を構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)と、ジカルボン酸成分が、テレフタル酸又はそのエステル形成誘導体とジオール又はそのエステル形成誘導体から形成される結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(b1)と、脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(b2)とを構成成分とするポリエステルブロック共重合体(B)を含有する熱可塑性エラストマー組成物に対して、グリシジル基変性ポリオレフィン樹脂(C)、ポリアミド樹脂(D)を含有する耐熱熱可塑性エラストマー樹脂組成物が開示されている。
【0003】
特許文献2には、優れた柔軟性と耐圧縮永久ひずみ性を有する熱可塑性エラストマー組成物として、(a)密度が0.860〜0.890g/cm3であり、エチレンを主体とする結晶性の重合体ブロック(ハードセグメント)と、炭素数3〜30のα−オレフィンから選ばれる少なくとも1種のα−オレフィン及びエチレンを主体とする非晶性の重合体ブロック(ソフトセグメント)とを含むオレフィンブロック共重合体を5〜95質量部、及び(b)芳香族ビニル化合物から主として作られる少なくとも2つの重合体ブロックAと、共役ジエン化合物から主として作られる少なくとも1つの重合体ブロックBとからなるブロック共重合体、及び/又は、これを水素添加して得られるブロック共重合体を含有し、さらに、(d)非芳香族系ゴム用軟化剤を含むことを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。
【0004】
特許文献3には、柔軟に優れた耐熱性、耐圧縮永久ひずみ性を与える高応力の熱可塑性エラストマー組成物として、(A)熱可塑性コポリエステルエラストマー又は熱可塑性コポリアミドエラストマーと(B)エポキシ基含有(メタ)アクリレート共重合体ゴム及び(B)成分が分子中に少なくとも2個のカルボキシル基及び/又は分子中に少なくとも1個のカルボン酸無水物基を有する化合物により架橋されて分散されてなる熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−177566号公報
【特許文献2】特開2013−28653号公報
【特許文献3】特開平05−25374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の熱可塑性エラストマー組成物は、ポリエステルエラストマーが主成分であるため、耐熱性及び機械的強度に優れるものの柔軟性や耐圧縮永久ひずみが不十分である。
また、特許文献2に記載の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性と、70〜100℃での耐圧縮永久ひずみには優れるものの、スチレン系エラストマーを主成分とするため、より高温下での耐圧縮永久ひずみや耐熱老化性、及び機械的強度が劣るという欠点を有する。
特許文献3に記載の熱可塑性エラストマー組成物は、耐熱性に優れるものの柔軟性が不十分であり、また柔軟性を付与するためにゴム成分を増加させると成形性が悪くなる欠点を有する。
【0007】
本発明の課題は、柔軟性、高温下での耐圧縮永久ひずみ、機械的強度、及び成形性に優れる熱可塑性エラストマー組成物、及び該熱可塑性エラストマー組成物を用いて得られる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
〔1〕 成分A:エポキシ基を有する(メタ)アクリルゴム、
成分B:融点が160〜300℃のポリエステルエラストマー、及び
成分C:ポリカプロラクトン
を含有してなり、
前記成分Aと前記成分Bの質量比(成分A/成分B)が60/40〜90/10であり、前記成分Cの含有量が、成分Aと成分Bの合計100質量部に対して、2〜20質量部である、熱可塑性エラストマー組成物、並びに
〔2〕 前記〔1〕記載の熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られる成形体
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成形体の材料として、柔軟性、高温下での耐圧縮永久ひずみ、機械的強度、及び成形性に優れるという効果を奏するものである。また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分Aのエポキシ基を有する(メタ)アクリルゴムを構成する(メタ)アクリル単量体の所定量以上がアクリル酸エチルであり、成分Bのポリエステルエラストマーがポリエステル型ポリマーブロックからなるソフトセグメントを含む場合に、さらに耐熱老化性にも優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物(以下、本発明の組成物ともいう)において、成分Aのエポキシ基が成分Bの分子末端のカルボキシ基や水酸基と溶融混練時に反応し、(メタ)アクリルゴムにポリエステルエラストマーが結合したグラフト共重合体を形成する。このグラフト共重合体部分が成分Aと成分Bとの界面を補強する相溶化剤として機能し、熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性、高温下での耐圧縮永久ひずみ(以下、「耐熱性」ともいう)、及び機械的強度が向上するものと考えられる。また、成分Aを構成する(メタ)アクリル単量体の40モル%以上がアクリル酸エチルであり、成分Bを構成するソフトセグメントがポリエステル型ポリマーブロックであるとき、耐熱老化性がより優れたものとなる。さらに、本発明の組成物は、ポリカプロラクトンを含有しているため、溶融粘度が低く、溶融流動性が高くなり、成形性が向上する。
【0011】
成分Aの(メタ)アクリルゴムは、エポキシ基を有していない(メタ)アクリル単量体とエポキシ基を有する(メタ)アクリル単量体とから構成され、その他に、(メタ)アクリル単量体と共重合可能なビニルモノマー等の単量体を本発明の効果を損なわない範囲で含んでもよい。
【0012】
エポキシ基を有していない(メタ)アクリル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等が挙げられ、これらの中では、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸ブトキシエチル、及びアクリル酸フェノキシエチルが好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、及びアクリル酸メトキシエチルがより好ましく、耐熱老化性の観点から、アクリル酸エチルがさらに好ましい。なお、本明細書において、添え字のないアルキル基名は、特に記載のない限り、n-、iso-、sec-、tert-等の異性体を含み、(メタ)アクリルと示される場合、メタクリル及びアクリルの両者を意味する。
【0013】
アクリル酸エチルの含有量は、耐熱老化性の観点から、成分Aのエポキシ基を有する(メタ)アクリルゴムを構成する(メタ)アクリル単量体中、好ましくは40モル%以上、より好ましくは45〜99.5モル%、さらに好ましくは50〜99モル%である。
【0014】
エポキシ基を有する(メタ)アクリル単量体としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリル酸グリシジルエーテル等が挙げられる。
【0015】
エポキシ基を有する(メタ)アクリル単量体の含有量は、機械的強度や耐熱性の観点から、全単量体単位中、好ましくは0.5モル%以上、より好ましくは1〜10モル%、さらに好ましくは1〜5モル%である。
【0016】
エポキシ基を有していない(メタ)アクリル単量体とエポキシ基を有する(メタ)アクリル単量体の合計含有量は、耐油性の観点から、成分Aを構成する全単量体単位中、好ましくは50モル%以上、より好ましく80モル%以上、さらに好ましく90モル%以上、さらに好ましく95モル%以上である。
【0017】
(メタ)アクリル単量体と共重合可能なビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、アクリロニトリル等が挙げられ、これらの中では、スチレン、α−メチルスチレン及びエチレンが好ましい。
【0018】
(メタ)アクリルゴムを得るための単量体の重合方法として、ラジカル重合法、リビングアニオン重合法、リビングラジカル重合法等が挙げられる。また、重合の形態として、溶液重合法、エマルジョン重合法、懸濁重合法、塊状重合法等が挙げられる。
【0019】
(メタ)アクリルゴムのガラス転移温度は、柔軟性の観点から、好ましくは-100〜10℃、より好ましくは-90〜5℃、さらに好ましくは-80〜0℃である。
【0020】
(メタ)アクリルゴムの利用可能な市販品としては、日本ゼオン(株)製のNipolシリーズ、NOK(株)製のノックスタイトシリーズ、(株)トウペ製のトアアクロンシリーズ、JSR(株)製のAREXシリーズ等が挙げられる。
【0021】
成分Bのポリエステルエラストマーは、本発明の組成物に耐熱性を付与する観点から、融点が高いポリエステル樹脂であることが好ましい。かかる観点から、ポリエステルエラストマーの融点は、160〜300℃であり、好ましくは170〜290℃、より好ましくは180〜280℃である。ポリエステルエラストマーの融点は、(メタ)アクリルエラストマーの熱分解を防止する観点から、300℃以下である。
【0022】
本発明の組成物に柔軟性を付与する観点から、成分Bは、柔軟なポリエステルエラストマーであることが好ましい。かかる観点から、ポリエステルエラストマーの曲げ弾性率は、好ましくは1000MPa以下であり、柔軟性の観点から、10MPa以上が好ましい。これらの観点から、ポリエステルエラストマーの曲げ弾性率は、好ましくは10〜1000MPa、より好ましくは50〜900MPa、さらに好ましくは80〜800MPaである。
【0023】
ポリエステルエラストマーを構成するハードセグメントとしては、結晶性ポリエステルブロックが好ましく、芳香族ジカルボン酸化合物と炭素数2〜6のアルキレングリコールの縮合反応により形成された結晶性ポリエステルブロックが好ましい。芳香族ジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、これらの酸のアルキルエステル、無水物等が挙げられる。炭素数2〜6のアルキレングリコールとしては、1,2-エタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール等が挙げられる。
【0024】
ポリエステルエラストマーを構成するソフトセグメントとしては、ポリエステル型ポリマーブロック、ポリエーテル型ポリマーブロック、ポリカーボネート型ポリマーブロック等が挙げられ、これらの中では、耐熱老化性の観点から、ポリエステル型ポリマーブロックが好ましい。
【0025】
ポリエステル型ポリマーブロックとしては、ポリカプロラクトン、ポリエナンラクトン、ポリカプリロラクトン、脂肪族ジカルボン酸化合物と脂肪族ジオールの縮合反応等より形成されたポリアルキレンエステル等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸化合物と脂肪族ジオールの縮合反応等より形成されたポリアルキレンエステルとしては、ポリブチレンアジペート等が挙げられる。
【0026】
ソフトセグメントを構成するブロックの数平均分子量は、柔軟性の観点から、好ましくは400〜6000、より好ましくは500〜4000である。
【0027】
ハードセグメントを構成するブロックの融点は、耐熱性の観点から、160℃を超えることが好ましく、より好ましくは160〜300℃、さらに好ましくは170〜290℃である。
【0028】
一方、ソフトセグメントを構成するブロックのガラス転移温度は、柔軟性の観点から、0℃未満であることが好ましく、より好ましくは-100〜-5℃、さらに好ましくは-80〜-10℃である。
【0029】
以上より、ポリエステルエラストマーは、融点が160℃を超える結晶性ポリエステルブロックからなるハードセグメントとガラス転移温度が0℃未満のポリエステル型ポリマーブロックからなるソフトセグメントを含むブロック共重合体であることが好ましい。
【0030】
ポリエステルエラストマーにおけるハードセグメントとソフトセグメントの質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)は、柔軟性の観点から、好ましくは90/10〜10/90、より好ましくは80/20〜20/80である。
【0031】
ポリエステルエラストマーの利用可能な市販品としては、東洋紡(株)製のペルプレンPシリーズやSシリーズ、東レ・デュポン(株)製のハイトレルシリーズ等が挙げられる。
【0032】
本発明の組成物において、成分Aと成分Bの質量比(成分A/成分B)は、柔軟性の観点から、60/40〜90/10であり、好ましくは65/35〜90/10である。
【0033】
成分Aと成分Bの合計含有量は、本発明の組成物中、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70〜99質量%、さらに好ましくは75〜97質量%である。
【0034】
成分Cは、ポリカプロラクトンである。
【0035】
一方、ポリカプロラクトンは、組成物の溶融粘度を下げ、成形性を向上させる一方で、一般的なポリエステル系可塑剤とは異なり、加熱環境下においても熱安定性に優れ、かつ揮発しがたい特徴を有し、耐熱老化性にも優れる。また、構造的に成分Bのポリエステルエラストマーのソフトセグメントと類似の構造を有するため、相溶性に優れている。
【0036】
上記観点から、ポリカプロラクトンはε−カプロラクトンを開環重合して得られた、脂肪族ポリエステルが好ましい。また、ポリカプロラクトンの重量平均分子量は、耐水性の観点から、300以上が好ましく、機械的強度の向上の観点から、50000以下が好ましい。これらの観点から、ポリカプロラクトンの重量平均分子量は、好ましくは300〜50000、より好ましくは500〜30000、さらに好ましくは1000〜20000である。
【0037】
ポリカプロラクトンの利用可能な市販品としては、(株)ダイセル製のプラクセルシリーズ等が挙げられる。
【0038】
成分Cの含有量は、成分Aと成分Bの合計100質量部に対して、成形性の観点から、2質量部以上であり、柔軟性の観点から、20質量部以下である。これらの観点から、成分Cの含有量は、成分Aと成分Bの合計100質量部に対して、2〜20質量部であり、好ましくは3〜15質量部、より好ましくは3〜10質量部である。
【0039】
本発明の組成物において、該組成物の強度や耐油性を向上させる観点から、成分Aの(メタ)アクリルゴムを架橋させることが好ましく、従って、本発明の組成物は、成分D:(メタ)アクリルゴムが有するエポキシ基と反応性を有するゴム架橋剤を含有していることが好ましい。成分Aの架橋により、組成物の成形性は低下するが、本発明の組成物は、ポリカプロラクトンを含んでいるため、成形性を維持したまま強度が向上する。
【0040】
ゴム架橋剤が有するエポキシ基と反応性を有する官能基としては、カルボキシ基、酸無水物基、フェノール基、アミノ基等が挙げられる。
【0041】
カルボキシ基を有するゴム架橋剤としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等が挙げられる。
【0042】
酸無水物基を有するゴム架橋剤としては、ヘキサヒドロ無水フタル酸(リカシッドHH、新日本理化(株)製)、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート(リカシッドTMEG-100、新日本理化(株)製)、グリセリンビスアンヒドロトリメリテートモノアセテート(リカシッドTMTA-C、新日本理化(株)製)、無水コハク酸、無水アジピン酸、無水トリメリット酸等が挙げられる。
【0043】
フェノール基を有するゴム架橋剤としては、ヒドロキノン、オルシノール、モノヒドロキシ安息香酸、没食子酸等が挙げられる。
【0044】
アミノ基を有するゴム架橋剤としては、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート等が挙げられる。
【0045】
また、ゴム架橋剤は、前記ゴム架橋剤の重合体型架橋剤であってもよい。重合体型架橋剤は、本発明の組成物の製造温度範囲において、熱分解や気散が起こり難く、好ましい。重合体型架橋剤としては、アクリル酸、マレイン酸等を共重合又はグラフト重合したポリオレフィン系重合体、ポリスチレン系重合体、ポリビニルフェノール重合体、アクリル系重合体等や、オレフィン系単量体、スチレン系単量体、アクリル系単量体等を用いた共重合体、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド縮合体、ポリアミド重合体等が挙げられ、これらのなかではポリビニルフェノール重合体及びアルキルフェノール・ホルムアルデヒド縮合体が好ましい。
【0046】
前記重合体型架橋剤の一般的に入手可能な市販品としては、以下のものが挙げられる。カルボキシ基及び/又は酸無水物基を有するポリオレフィン重合体としては、スミフィット(住化ケムテックス(株)製)、アドマー(三井化学(株)製)、ユーメックス(三洋化成工業(株)製)等が挙げられる。カルボキシ基を有するスチレン-アクリル共重合体及びアクリル重合体としては、アルフォンUCシリーズ(東亞合成(株)製)、ブレンマー(日油(株)製)、アクトフロー(綜研化学(株)製)等が挙げられる。ポリビニルフェノール重合体としては、マルカリンカー(丸善石油化学(株)製)等が挙げられる。アルキルフェノール・ホルムアルデヒド縮合体としては、タッキロール(田岡化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0047】
成分Dの含有量は、成分Aと成分Bの合計100質量部に対して、強度の観点から、0.1質量部以上が好ましく、柔軟性の観点から、20質量部以下が好ましい。これらの観点から、成分Dの含有量は、成分Aと成分Bの合計100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.2〜15質量部、さらに好ましくは0.3〜10質量部である。
【0048】
本発明の組成物は、さらに成分E:結晶性ポリエステル可塑剤を含有していることが好ましい。結晶性ポリエステル可塑剤の融点を超える温度で成形加工を行う際には、結晶性ポリエステル可塑剤が液状可塑剤として該組成物の溶融粘度を下げるため、成分Bに対して、成分Aのゴム成分が多量に含まれているにも関わらず、機械的強度に大きな影響を与えることなく、溶融流動性が高くなり、成形性が向上する。
【0049】
結晶性ポリエステル可塑剤の融点は、本発明の組成物の機械的強度を低い温度でも維持する観点から、130℃以上が好ましく、成分Aの(メタ)アクリルゴムの熱分解による機械的強度の低下を防止する観点から、300℃以下が好ましい。これらの観点から、ポリエステル可塑剤の融点は、好ましくは130〜300℃、より好ましくは140〜290℃、さらに好ましくは150〜280℃である。
【0050】
結晶性ポリエステル可塑剤は、芳香族ジカルボン酸化合物を含むカルボン酸成分と、脂肪族ジオールを含むアルコール成分との縮合反応により得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、これらの酸のアルキルエステル、無水物等が挙げられる。脂肪族ジオールとしては、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の炭素数4〜18の脂肪族ジオール等が挙げられる。
【0051】
結晶性ポリエステル可塑剤の利用可能な市販品としては、ディーアイシー(株)製のポリサイザーA51(融点:199℃、数平均分子量:470、重量平均分子量:1300、分子量分布Mw/Mn:2.7)、ポリサイザーA55(融点:212℃、数平均分子量:900、重量平均分子量:2400、分子量分布Mw/Mn:2.7)等が挙げられる。
【0052】
結晶性ポリエステル可塑剤の数平均分子量は、揮発性を抑える観点から、300以上が好ましく、溶融粘度の観点から、5000以下が好ましい。これらの観点から、結晶性ポリエステル可塑剤の数平均分子量は、好ましくは300〜5000、より好ましくは400〜3000、さらに好ましくは450〜2000である。
【0053】
成分Eの含有量は、成分Aと成分Bの合計100質量部に対して、成形性の観点から、0.1質量部以上が好ましく、柔軟性の観点から、30質量部以下が好ましい。これらの観点から、成分Eの含有量は、成分Aと成分Bの合計100質量部に対して、好ましくは0.1〜30質量部であり、より好ましくは0.3〜25質量部、さらに好ましくは0.5〜20質量部、さらに好ましくは0.5〜7質量部である。
【0054】
また、成分Cと成分Eの合計含有量は、成分Aと成分Bの合計100質量部に対して、好ましくは2〜30質量部、より好ましくは2〜20質量部、さらに好ましくは3〜15質量部、さらに好ましくは3〜10質量部である。
【0055】
本発明の組成物は、成分Aの(メタ)アクリルゴムのエポキシ基と成分Bのポリエステルエラストマーの分子末端のカルボキシ基や水酸基との反応により、成分Aと成分Bとの界面を強化する観点から、該組成物の製造段階での成分Aと成分Bとの反応効率や反応速度を制御することが重要である。従って、本発明の組成物は、その反応の制御を行うための触媒として、成分F:有機酸金属塩を含有していることが好ましい。有機酸の滑性効果により該組成物の溶融粘度を低下させ、成形性を向上することもできる。
【0056】
有機酸金属塩の有機酸成分としては、脂肪族有機酸、芳香族有機酸等が挙げられる。
脂肪族有機酸としては、フマル酸、カプリル酸、ラウリン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、モンタン酸等が挙げられ、脂肪族有機酸の炭素数は、好ましくは4〜30、より好ましくは6〜28である。芳香族有機酸としては、安息香酸、トリメチル安息香酸等が挙げられる。これらの中では、成形性と強度の観点から、炭素数8〜20の脂肪族有機酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。
【0057】
有機酸金属塩の金属成分としては、リチウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、亜鉛、錫、鉛等が挙げられ、これらの中では、成形性の観点から、ナトリウム、カルシウム及び亜鉛が好ましく、ナトリウム及びカルシウムがより好ましい。
【0058】
成分Fの含有量は、成分Aと成分Bの合計100質量部に対して、本発明の組成物の溶融粘度を下げ、成形性を向上する観点から、0.01質量部以上が好ましく、本発明の組成物の機械的強度を向上する観点から、5質量部以下が好ましい。これらの観点から、成分Eの含有量は、成分Aと成分Bの合計100質量部に対して、好ましくは0.01〜5質量部、より好ましくは0.02〜4質量部であり、さらに好ましくは0.03〜3質量部である。
【0059】
本発明の組成物は、加熱条件下での本発明の組成物の特性の変化が抑制される観点から、さらに、熱安定剤を含有していることが好ましい。
【0060】
熱安定剤としては、フェノール系酸化防止剤、有機リン系酸化防止剤、有機イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0061】
フェノール系酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(ノクラック200、大内新興化学工業(株)製)、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)(スミライザーWX-R、住友化学(株)製)n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェノル)プロピオネート(イルガノックス1076、BASF社製)、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノル)プロピオネート]メタン(イルガノックス1010、BASF社製)等が挙げられる。
【0062】
有機リン系酸化防止剤としては、トリス(ノニル・フェニル)ホスファイト(ノクラックTNP、大内新興化学工業(株)製)、ジフェニル・モノ(2-エチルヘキシル)ホスファイト(JPM-308、城北化学工業(株)製)、トリフェニルホスファイト(アデカスタブ3010、(株)アデカ製)、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニルペンタエリスリトールジホスファイト)(アデカスタブPEP-36、(株)アデカ製)テトラ(炭素数12〜15のアルキル)-4,4’-イソプロピリデンジフェニルホスファイト(アデカスタブ1500、(株)アデカ製)等が挙げられる。
【0063】
有機イオウ系酸化防止剤としては、ジラウリル3,3’-チオジプロピオネート(スミライザーTRL-R、住友化学(株)製)、ジステアリル3,3’-チオジプロピオネート(スミライザーTPS、住友化学(株)製)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)(スミライザーTP-D、住友化学(株)製)、2-メルカプトベンズイミダゾール(スミライザーMD、住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0064】
アミン系酸化防止剤としては、N,N-ジフェニルエチレンジアミン、N,N-ジフェニルアセトアミジン、N,N-ジフェニルフルムアミジン、N-フェニルピペリジン、ジベンジルエチレンジアミン、トリエタノールアミン、フェノチアジン、N,N’-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミン、4,4’-テトラメチル-ジアミノジフェニルメタン、P,P’-ジオクチル−ジフェニルアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチル-ペンチル)-p-フェニレンジアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン、4,4’-ビス(4−α,α-ジメチル-ベンジル)ジフェニルアミン等のアミン類及びその誘導体やアミンとアルデヒドの反応生成物、アミンとケトンの反応生成物等が挙げられる。
【0065】
その他の酸化防止剤として、フェノールと不飽和結合とを併せ持つ、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-ターシャリー-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-ターシャリー-ペンチルフェニルアクリレート(スミライザーGS、住友化学(株)製)、2-ターシャリー-ブチル-6-(3-ターシャリー-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート(スミライザーGM、住友化学(株)製)等や、フェノールと有機リン構造を併せ持つ6-[3-(3-ターシャリー-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-ターシャリー-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスペピン(スミライザーGP、住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0066】
熱安定剤の含有量は、成分Aと成分Bの合計100質量部に対して、耐熱老化性の観点から、0.01質量部以上が好ましく、機械的強度の観点から、15質量部以下が好ましい。これらの観点から、熱安定剤の含有量は、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、好ましくは0.01〜15質量部、より好ましくは0.05〜10質量部である。
【0067】
他の添加剤としては、脂肪酸エステル等の滑剤;ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾエート化合物やヒンダードフェノール系化合物等の光安定剤;カルボジイミド化合物やオキサゾリン化合物等の加水分解防止剤;フタル酸エステル系化合物、ポリエステル化合物、(メタ)アクリルオリゴマー、プロセスオイル等の可塑剤;重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム等の無機系発泡剤;ニトロ化合物、アゾ化合物、スルホニルヒドラジド等の有機系発泡剤;カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、ガラス繊維等の充填剤;テトラブロモフェノール、ポリリン酸アンモニウム、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の難燃剤;シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤や酸変性ポリオレフィン樹脂等の相溶化剤;顔料、染料等が挙げられる。
【0068】
本発明の組成物は、少なくとも、成分A、成分B、及び成分C、さらに必要に応じて、成分D、成分E、成分F等の添加剤を含有する原料混合物を、押出機又はニーダーにより加熱混練する方法により得ることが好ましい。
【0069】
加熱混練の温度は、成分Aのエポキシ基と成分Bの分子末端官能基との反応を促進し、機械的強度を向上させる観点から、好ましくは成分Bの融点以上の温度、より好ましくは成分Bの融点+10℃以上の温度、さらに好ましくは成分Bの融点+20℃以上の温度であり、成分Aの熱分解による機械的物性の低下を防止する観点から、好ましくは350℃以下、より好ましくは320℃以下、さらに好ましくは300℃以下である。
【0070】
押出機としては、例えば、単軸押出機、平行スクリュー二軸押出機、コニカルスクリュー二軸押出機等が挙げられる。
【0071】
ニーダーとは、温度制御が可能なバッチ式ミキサーを意味し、バンバリーミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ラボプラストミル等が挙げられる。
【0072】
各成分は、押出機又はニーダーに、一括で投入しても、別々に投入しても、また、分割して投入してもよい。
【0073】
本発明の組成物は、用途に応じて、ペレット、粉体、シート等の形状とすることができる。例えば、押出機によって溶融混練してストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによって円柱状や米粒状等のペレットに切断される。得られたペレットは、通常、射出成形、押出成形によって所定のシート状成形品や金型成形品とする。また、溶融混練物をルーダー等でペレットにし成形加工原料とすることもできる。シート状の熱可塑性エラストマー組成物に、台紙等を貼付した中間製品としてもよい。
【0074】
本発明の組成物は、特に限定されることなく、一般的なスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アクリル系エラストマーやポリエステル系エラストマー等が用いられる分野に用いることができるが、本発明の組成物は、柔軟性、耐熱性、機械的強度、及び成形性に優れており、自動車エンジン周辺等の高温環境下で使用されるホースやパッキン等に用いることができる。また、優れた成形加工性を有するため従来使用されている架橋ゴム等とは異なり、生産性やリサイクル性に優れるものである。
【0075】
本発明の組成物のA硬さは、柔軟性の観点から、好ましくは10〜95、より好ましくは20〜90、さらに好ましくは40〜90である。
【0076】
また、本発明の組成物のD硬さは、柔軟性の観点から、好ましくは30未満、より好ましくは10以上30未満である。
【0077】
本発明の組成物を、常法に従って、適宜加熱成形することにより、成形体が得られる。
【0078】
加熱成形時の温度は、組成物の流動性及びそれに起因する成形加工性の観点から、180℃以上が好ましく、組成物中の成分Aの(メタ)アクリルゴムの熱分解を防止する観点から、350℃以下が好ましい。これらの観点から、加熱成形時の温度は、180〜350℃が好ましく、200〜320℃がより好ましい。
【0079】
本発明の組成物を用いた成形体の製造に用いられる装置には、組成物を溶融成形することができる任意の成形機を用いることができる。例えば、ニーダー、押出成形機、射出成形機、プレス成形機、ブロー成形機、ミキシングロール等が挙げられる。
【0080】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られる成形体は、耐熱性が優れるため、例えば100℃以上(設計によっては120℃以上、150℃以上等)の耐熱性を必要とする用途にも好適に使用することができる。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。実施例及び比較例で使用した原料の各種物性は、以下の方法により測定した。
【0082】
<成分A>
〔単量体組成〕
ガスクロマトグラフ質量分析計(アジレントテクノロジー(株)製ガスクロマトグラフ 7890A、日本電子(株)製質量分析計Jms-Q1000GC K9)を用い、550℃で試料を加熱分解し、熱分解物の質量分析を行うことで単量体組成を解析する。
〔ガラス転移温度〕
示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、JIS K 7121で規定される方法に準拠して25℃から280℃まで10℃/minで昇温して得られるチャートからガラス転移温度を決定する。
【0083】
<成分B>
〔融点〕
示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、JIS K 7121で規定される方法に準拠して10℃/minで昇温して得られる融解ピークの温度を融点とする。融解ピークが複数表れる場合は、より低い温度で表れる融解ピークを融点とする。
〔曲げ弾性率〕
ASTM D790規格に従い、射出成形で得られた127mm×12.7mm 厚さ3.2mmの試験片を、温度23℃、相対湿度50%で40時間置いた後、オートグラフを用いて1.4mm/minの速度で垂直の変位を加え、荷重−たわみ曲線から曲げ弾性率を算出する。
【0084】
<成分C>
〔重量平均分子量(Mw)〕
ヘキサフルオロイソプロパノールを溶離液として、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC)の測定を行い、ポリメチルメタクリレート(PMMA)分子量標準の測定結果によって重量平均分子量を算出する。
【0085】
<成分E>
〔融点(Tm)〕
示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、JIS K 7121で規定される方法に準拠して25℃から280℃まで10℃/minで昇温して得られる融解ピークの温度を融点とする。融解ピークが複数表れる場合は、より低い温度で表れる融解ピークを融点とする。
〔数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)〕
ヘキサフルオロイソプロパノールを溶離液として、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC)の測定を行い、ポリメチルメタクリレート(PMMA)分子量標準の測定結果によって数平均分子量と重量平均分子量を算出する。
【0086】
実施例1〜17及び比較例1〜15
(1) 熱可塑性エラストマー組成物(プレスシート)の作製
240℃に加熱されたバッチ式ニーダー「プラストグラフEC50型」(ブラベンダー社製)に表6、7に示す組成比(質量比)の原料成分を合計で54g投入し、100r/minの回転数で混合物を240〜290℃で溶融混練した。混練時間10分で、溶融状態の混練物を全量取り出し、室温で冷却して、組成物を得た。
各組成物を240℃に加熱された熱プレス装置「TB-50-2」(東邦マシナリー(株)製、50t油圧プレス)を用い、厚さ2mm×幅12cm×長さ15cmの型枠内で、5MPaで2分間加熱し、5MPaで3分間冷却プレス加工を施し、プレスシートを作製した。
【0087】
実施例及び比較例で使用した原料成分の詳細を表1〜5に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
【表5】
【0093】
実施例及び比較例で得られた組成物について、下記の評価を行った。なお、結果を表6〜9に示す。
【0094】
(1) 柔軟性
〔A硬さ〕
プレスシートを恒温恒湿室(温度23℃、相対湿度50%)に24時間以上静置し、シートの状態を安定させた。2mm厚さのプレスシートを3枚重ね、JIS K7215「プラスチックのデュロメータ硬さ試験法」に準じて、A硬さを測定した。
【0095】
〔D硬さ〕
A硬さと同様に、JIS K7215「プラスチックのデュロメータ硬さ試験法」に準じて、D硬さを測定する。
【0096】
(2) 機械的強度〔引張破断強度〕
プレスシートから、型抜機を用いてJIS K7113に記載の3号試験片を作製し、(株)島津製作所製の引張試験機(オートグラフ AG-50kND型)を用いて、23℃の温度環境下、200mm/minの速度で試験片を引っ張った。試験片破断時の応力(MPa)を破断強度として記録した。破断強度が大きいほど、機械的強度が良好である。
【0097】
(3) 耐熱性〔圧縮永久ひずみ率〕
プレスシートから、型抜機を用いて29mmの円盤シートを7枚作製し、圧縮永久ひずみ試験片用金型を用いて200℃で10分間、5MPaの加熱及び5MPaで10分間冷却の条件下で熱プレス加工を施し、直径29mm、高さ12.5mmの円柱状の試験片を作製した。JIS K6262「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−常温、高温及び低温における圧縮永久ひずみの求め方」に準じて、120℃、24時間の条件下で、圧縮永久ひずみ率(%)を測定した。圧縮永久ひずみ率が小さいほど、耐熱性が良好である。
【0098】
(4) 成形性〔見かけ粘度〕
キャピラリーレオメータ((株)東洋精機製作所、キャピログラフグラフ1D)により、試料17gの設定温度を240℃に設定し、直径1mm×10mm長のダイを用いて剪断速度3648/secで、見かけ粘度(Pa・s)を測定した。見かけ粘度が低いほど、成形性が良好である。
【0099】
(5) 耐熱老化性(実施例2〜4のみ)
プレスシートから、型抜機を用いてJIS K7113に記載の3号試験片を作製し、ギヤーオーブン((株)東洋精機製作所、CTD-45P)を用いて150℃で500時間加熱後、23℃の恒温室に24時間放置後、上記(2)の機械的強度〔引張破断強度〕と同じ方法で引張試験を行い、引張強度及び引張破断伸びの保持率(加熱処理後の測定値/加熱処理前の測定値×100、%)を求めた。保持率が高いほど、耐熱老化性が良好である。
【0100】
(6) 質量減少率(実施例2、13、14及び比較例13〜15のみ)
2mm厚のプレスシートを、30mm四方に切断し、ギヤーオーブン((株)東洋精機製作所、CTD-45P)を用いて150℃で168時間加熱し、加熱前後での質量減少率(加熱後に減少した質量/加熱前の質量×100、%)を測定した。
【0101】
【表6】
【0102】
【表7】
【0103】
【表8】
【0104】
【表9】
【0105】
表6、7の結果より、実施例1〜17の組成物は、柔軟性、機械的強度、耐圧縮永久歪性及び成形性のいずれも良好であることが分かる。
例えば、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2の対比から、ポリカプロラクトンの配合により、械的強度等を損なうことなく、成形性が向上していることが分かる。
また、耐熱老化性は、成分Aの(メタ)アクリルゴムとしてアクリル酸エチルを単量体単位中40モル%以上含むものを使用し、成分Bのポリエステルエラストマーとしてソフトセグメントがポリエステル型ポリマーブロックであるものを使用した場合に顕著に向上するが、表8に示すように、成分Aを構成するアクリル酸エチルが単量体単位中40モル%未満である実施例3及び成分Bのソフトセグメントがポリエーテル型ブロックである実施例4と比べて、これらの要件を充足する実施例2では、150℃で500時間加熱という極めて過酷な条件下でも、引張強度や引張破断伸びの低下が顕著に抑制されていることが分かる。
比較例6は、実施例2と対比して、ポリエステルエラストマーに対するエポキシ基を有するアクリルゴムの量が少ないため、柔軟性、機械的強度、及び耐熱性が低下している。
比較例7は、実施例2と対比して、エポキシ基を有するアクリルゴムではなくカルボキシ基を有するアクリルゴムを配合しているために、耐熱性が低下している。
比較例9は、実施例2と対比して、ポリエステルエラストマーではなく硬質ポリエステル樹脂を配合しているために、柔軟性、機械的強度、耐熱性、及び成形性に著しく欠けている。
比較例13〜15では、液状ポリエステル可塑剤を使用しているため、機械的強度、耐熱性、及び成形性が低下している。また、液状のポリエステル可塑剤を使用した場合には、表9に示す高温下での質量減少率が大きいことからも明らかなように、高温下での使用により可塑剤自体が揮散しやすいという欠点を有する。
また、比較例2と比較例10の対比により、ゴム架橋剤の配合により、機械的強度は向上しているものの成形性が著しく低下しているのに対し、実施例11と比較例10の対比により、ゴム架橋剤を配合していても、ポリカプロラクトンの配合により、機械的強度を損なうことなく、成形性が向上していることが分かる。
【0106】
参考例A1〜A2及びB1〜B2
表10に示す、エポキシ基含有アクリルゴム又はカルボキシ基含有アクリルゴム、ポリエステルエラストマー(ペルプレン S1002(東洋紡(株)製))、及び架橋剤(ケミノックス AC-6(ユニマテック(株)製)、ヘキサメチレンジアミンカーバメート)を、ニーダーにより混練し、冷却して、組成物を得た。得られた組成物の物性を表10に示す。A硬さ、D硬さ、引張破断強度、及び圧縮永久ひずみ率の測定方法は、前記と同じである。ただし、圧縮永久ひずみ率は、120℃、24時間ではなく、70℃、24時間の条件下で測定した。混練トルクは、組成物製造過程でのニーダーの混練トルクを混練開始後10分の時点で計測した。
【0107】
【表10】
【0108】
表10の結果より、アクリルゴムを用いた参考例A1〜A2の引張強度や耐圧縮永久ひずみが参考例B1〜B2に比べ、顕著に優れていることが分かるが、混練トルクが高い。混練トルクの上昇は、アクリルゴム中のエポキシ基とポリエステルエラストマーの分子末端官能基との反応が、ゴムとポリエステルの界面を強化しているためと推測される。
この結果から、エポキシ基を有する参考例A1〜A2の組成物はカルボキシ基を有する参考例B1〜B2の組成物に比べて、引張強度や耐圧縮永久ひずみ性が優れているものの、成形性が劣るという課題があることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、自動車、電子材料、家電、電気機器、医療用具、包装資材、文具・雑貨用品等の各種成形品に有用であり、さらにはグリップ、チューブ、パッキン、ガスケット、クッション体、フィルム、シート等の各種部材に用いられる。