特許第6397791号(P6397791)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝テック株式会社の特許一覧

特許6397791液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法
<>
  • 特許6397791-液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法 図000002
  • 特許6397791-液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法 図000003
  • 特許6397791-液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法 図000004
  • 特許6397791-液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法 図000005
  • 特許6397791-液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法 図000006
  • 特許6397791-液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法 図000007
  • 特許6397791-液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法 図000008
  • 特許6397791-液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法 図000009
  • 特許6397791-液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法 図000010
  • 特許6397791-液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法 図000011
  • 特許6397791-液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法 図000012
  • 特許6397791-液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法 図000013
  • 特許6397791-液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397791
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/175 20060101AFI20180913BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20180913BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   B41J2/175 171
   B41J2/18
   B41J2/01 451
   B41J2/01 401
   B41J2/175 121
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-76790(P2015-76790)
(22)【出願日】2015年4月3日
(65)【公開番号】特開2016-196124(P2016-196124A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2017年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】石川 浩由
(72)【発明者】
【氏名】大津 和彦
【審査官】 村石 桂一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−152931(JP,A)
【文献】 特開2011−051317(JP,A)
【文献】 特開2015−054416(JP,A)
【文献】 特開2014−087983(JP,A)
【文献】 特開2011−189701(JP,A)
【文献】 特開2010−228099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する液体吐出部に接続され、前記液体を保有可能に構成された液室と、
前記液室と前記液体吐出部とを含む流路で前記液体を循環させる循環部と、
前記液室に液体を供給する液体供給部と、
前記液室の気体を加圧または減圧することにより前記液体吐出部の圧力を調整する圧力調整部と、
前記圧力の変動速度に基づき、検出された前記圧力が所定圧力値以下で、前記圧力の変動速度が所定速度よりも速い場合、前記液体供給部により液体を補充し、検出された前記圧力が前記所定圧力値以下で、かつ圧力変動速度が前記所定速度よりも遅い場合、前記圧力調整部により、気体で前記液体吐出部の圧力を調整する制御部と、備える液体循環装置。
【請求項2】
液体を吐出する液体吐出部に接続され、前記液体を保有可能に構成された液室と、
前記液室と前記液体吐出部とを含む流路で前記液体を循環させる循環部と、
前記液室に液体を補充する液体供給部と、
前記液室の気体を加圧または減圧することにより前液体吐出部の圧力を調整する圧力調整部と、
前記液体吐出部における液体吐出信号を検出する吐出信号検出部と、
液体吐出信号に基づき、検出された前記圧力が所定圧力値以下で、液体吐出信号を検出した場合には、前記液体供給部により液体を補充し、検出された前記圧力が所定圧力値以下で、かつ液体吐出信号を検出しなかった場合、前記圧力調整部により、気体で前記液体吐出部の圧力を調整する、制御部と、を備える液体循環装置。
【請求項3】
前記液室は、前記液体吐出部に供給される液体を保有する供給室と、前記液体吐出部から回収される液体を保有する回収室と、を備え、
前記圧力調整部は前記回収室または前記供給室に連通する気体室の容積を増減させることにより、前記回収室または前記供給室を加圧または減圧することを特徴とする請求項1または2記載の液体循環装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の液体循環装置と、
液体を吐出するノズルを備える液体吐出部と、
前記ノズルから前記液体が吐出される位置に記録媒体を搬送する搬送部と、を備えることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項5】
前記液体循環装置は、前記液体吐出部の上に一体に設けられる、請求項4記載の液体吐出装置。
【請求項6】
液体を吐出する液体吐出部と、前記液体吐出部に接続され前記液体を保有可能に構成された液室と、を含む流路で前記液体を循環させ、
検出された前記液体吐出部の圧力が所定圧力値以下で、前記圧力の変動速度が所定速度よりも速い場合、液体供給部によって前記液室に液体を補充し、検出された前記圧力が前記所定圧力値以下で、かつ圧力変動速度が前記所定速度よりも遅い場合、前記液室の気体を加圧または減圧することにより前記液体吐出部の圧力を調整する圧力調整部によって気体で圧力を調整することを特徴とする液体吐出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体タンクからノズルを有する液体吐出ヘッドに液体を供給し、ノズルから液体を吐出する液体吐出装置が提供されている。この液体吐出装置において、液体タンクと液体吐出ヘッドとの間で液体を循環させ、循環型の液体吐出装置がある。この種の液体吐出装置では、液体吐出ヘッドのノズル内に生じる気泡や、当該ノズルに混入した異物を当該ノズル近傍から除去することで吐出性能を得る。例えばヘッドノズルの圧力低下を検知した場合に、液体吐出性能の低下を防止するために、液体を供給して圧力を上昇させ、圧力を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−189701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態が解決しようとする課題は、液体吐出部の液体が溢れることを防止できる液体循環装置、液体吐出装置、および液体吐出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態にかかる液体循環装置は、液体を吐出する液体吐出部に接続され、前記液体を保有可能に構成された液室と、前記液室と前記液体吐出部とを含む流路で前記液体を循環させる循環部と、前記液室に液体を供給する液体供給部と、前記液室の気体を加圧または減圧することにより前記液体吐出部の圧力を調整する圧力調整部と、前記圧力の変動速度に基づき、検出された前記圧力が所定圧力値以下で、前記圧力の変動速度が所定速度よりも速い場合、前記液体供給部により液体を補充し、検出された前記圧力が前記所定圧力値以下で、かつ圧力変動速度が前記所定速度よりも遅い場合、前記圧力調整部により、気体で前記液体吐出部の圧力を調整する制御部と、備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】一実施形態に係るインクジェット記録装置の側面図。
図2】同インクジェット記録装置の平面図。
図3】同実施形態に係るインクジェットヘッドユニットの外観を示す斜視図。
図4】同インクジェットヘッドユニットの外観を示す斜視図。
図5】同インクジェット記録装置の液体の流れを示す説明図。
図6】同インクジェットヘッドの内部構造を示す断面図。
図7】同インクジェットヘッドのノズルにインクが留まる状態を示す説明図。
図8】同実施形態のインクジェットヘッドのノズルからインク滴が吐出する状態を示す説明図。
図9】同インクジェットヘッドの圧力調整機構の構成及び動作を示す説明図。
図10】実施形態のインクジェット記録装置の制御系を示すブロック図。
図11】同インクジェット記録装置の圧力調整処理を示すフローチャート。
図12】同インクジェット記録装置の圧力調整における圧力値のグラフ。
図13】他の実施形態に係るインクジェット記録装置の圧力調整処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、一実施形態にかかるインクジェット記録装置1について図1乃至図10を参照して説明する。各図において説明のため、適宜構成を拡大、縮小または省略して示している。
図1はインクジェット記録装置1の側面図であり、図2はインクジェット記録装置1の平面図である。図3はインクジェットヘッドユニットの説明図であり、図4,5はインクジェットヘッドユニットの外観を示す斜視図である。図6は、インクジェットヘッドの内部構造を示す断面図である。図7及び図8は、インクジェットヘッドのノズルの部分の動作を示す説明図である。図9は圧力調整部36の構成及び動作を示す説明図である。図10は、インクジェット記録装置の制御系を示すブロック図である。
図1および図2に示すように、液体吐出装置であるインクジェット記録装置1は、液体吐出部である複数のインクジェットヘッド2及びインク循環装置3を一体に備えるインクジェットヘッドユニット4と、インクジェットヘッドユニットに供給されるインクを保有するインクカートリッジ5と、インクジェットヘッドユニットを移動可能に支持するヘッド支持部6と、記録媒体を移動可能に支持する搬送部としての記録媒体移動部7と、メンテナンスユニット8と、を備える。
【0008】
図3乃至図5に示すインクジェットヘッドユニット4は、インクジェットヘッド2と、インクジェットヘッド2の上部に一体に設けられた液体循環装置としてのインク循環装置3と、を備えている。複数のインクジェットヘッドユニット4は、例えばシアンインク、マゼンダインク、イエロインク、ブラックインク、ホワイトインクが、液体として循環され、それぞれ媒体に吐出されて、所望の画像を形成する。なお、各インクジェットヘッドユニット4に使用するインクの色あるいは特性は限定されない。たとえばホワイトインクに換えて、透明光沢インク、赤外線または紫外線を照射したときに発色する特殊インク等を吐出可能である。複数のインクジェットヘッド2は、それぞれ使用するインクが異なるものの同じ構成である。したがってインクジェットヘッド2は共通の符号を用いて説明する。
図6に示すように、インクジェットヘッド2は、複数のノズルを有するノズルプレート21と、ノズルプレート21に対向配置されるとともにアクチュエータ24を備える基板22と、基板22に接合されたマニフォルド23と、を備える。
ノズルプレート21は、例えばそれぞれ300個のノズルを有する第1のノズル列及び第2のノズル列を備える。ノズルプレート21と、基板22と、マニフォルド23とによって、インクジェットヘッドの内部に所定のインク流路28を構成する。
基板22は、ノズルプレート21に対向して接合され、ノズルプレート21との間に複数のインク圧力室25を含む所定のインク流路28を形成する所定形状に構成されている。基板22は、各インク圧力室25に面する部位に、アクチュエータ24を備えている。基板22は、同じ列の複数のインク圧力室25の間に配される隔壁29を備える。アクチュエータ24は、ノズル孔21aに対向配置されており、アクチュエータ24とノズル孔21aとの間にインク圧力室25が形成される。
【0009】
マニフォルド23は、基板22の上部に接合されている。マニフォルド23は、インク循環装置3に連通する供給口26a及びインク排出口27aを有するとともに、基板22及びノズルプレート21に組み付けた状態で所定のインク流路28を形成する所定形状に構成されている。
インク流路28は、マニフォルド23に形成された供給口26aから共通流路を通ってノズル孔21aに連通する複数のインク圧力室25に至るとともに、各インク圧力室25から共通流路を通ってインク排出口27aに至る。
【0010】
図6乃至図8に示されるアクチュエータ24は、例えば圧電素子24aと振動板24bを積層したユニモルフ式の圧電振動板で構成される。圧電素子は例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電セラミック材料等で構成される。振動板は例えばSiN(窒化ケイ素)等で形成される。図7に示すように、圧電素子24aは上下に電極24c,24dを備える。
【0011】
電極24c,24dに電圧がかからない場合は、圧電素子55が変形しないことから、アクチュエータ24は変形しない。アクチュエータ24が変形しない場合、インクの表面張力によって、ノズル孔21a内にはインクIと空気の界面であるメニスカスMeが形成される。メニスカスMeによりインク圧力室25内のインクIは、ノズル孔21a内に留まる。
【0012】
図8に示すように、電極24c,24dに電圧(V)がかかると、圧電素子24aが変形して、アクチュエータ24は変形する。アクチュエータ24の変形により、メニスカスMeにかかる圧力が空気圧より高くなり(陽圧)、インクIはインク滴IDとなりノズル孔21aから吐出する。なお、大気圧をゼロとし、負圧は大気圧よりも低い圧力、陽圧は大気圧以上の圧力である。
インクジェットヘッド2は、ノズル21aのメニスカスMeにかかる圧力が大気圧以上の(陽圧)場合に、ノズル21aからインクIが漏れ出る。メニスカスMeにかかる圧力が大気圧より低ければ(負圧)場合に、インクIはメニスカスMeを維持しノズル21a内に留まる。
【0013】
例えばインクIが重力方向(下向き)に吐出するようにノズル21aが配置されていると、インク圧力室25内の圧力が大気圧以上の(陽圧側)場合に、インクIはノズル21aから漏れ出る。また、インク圧力室25内の圧力が−4.0kPa以下の場合には、ノズル21aから気泡を吸引する場合がある。この気泡の混入はインクの吐出不良を生じる原因となり得る。
【0014】
インク循環装置3は、インクジェットヘッド2の供給口26aに連通する供給室31と、インク排出口27aに連通する回収室32と、を内部に備えるインクケーシング33と、供給ポンプ34と、循環ポンプ35と、圧力調整部36と、を備える。
【0015】
インクケーシング33は、インクIを保有可能であり、インクジェットヘッド2にインクIを供給する液室としての供給室31と、インクIを保有可能であり、インクジェットヘッド2からのインクIを回収する液室としての回収室32と、回収室32と供給室31との間に介在する共通壁37と、を備える。インクケーシング33は、外気に対して密閉される。
【0016】
供給室31はインク供給管26を介してインクジェットヘッド2の供給口26aに連通する。供給室31には、循環路41に連通するインクの通路である流入孔31bが形成される。また供給室31には、第1の圧力調整機構47の連通管路107に連通する連通孔31cが形成されている。
【0017】
回収室32は、インク戻し管27を介してインクジェットヘッド2のインク排出口27aに連通する。回収室32に送液孔32cが形成されている。回収室32は、圧力調整部36の第1の圧力調整部47に連通する第1の連通孔32dを備える。回収室32はチューブを介してインクカートリッジ51に接続されている。また回収室32には、第2の圧力調整機構48の連通経路109に連通する連通孔32dが形成されている。
【0018】
供給ポンプ34は、インクカートリッジ内に保有されたインクを回収室32に供給する。
また、供給ポンプ34は供給室31にインクを供給してもよい。
供給ポンプ34は、例えば圧電ポンプである。供給ポンプ34は、圧電素子と金属板を貼り合わせた圧電振動板がたわむことでポンプ内の容積(ポンプ室の容積)を周期的に変化させる。供給ポンプ34は、ポンプ室の容積の変化によりインクカートリッジ51からポンプ室にインクを搬送する。なお、供給ポンプ34は、インクの搬送方向をインクカートリッジ51から回収室32への一方向のみに規制する逆止弁を備える。供給ポンプ34は、ポンプ室の拡張と収縮を繰り返してインクカートリッジ51から回収室32にインクを送液する。
【0019】
インク循環装置3は循環部40を備える。循環部40は、図5に示すように回収室32の送液孔32cから供給室31の流入孔31bに達する循環路41と、循環路41上に配置された循環ポンプ35と、フィルタ43と、を備える。循環路41は、回収室32の送液孔32cから供給室31の流入孔31bに達する。
【0020】
循環ポンプ35は、隣接する回収室32と供給室31に跨って設けられる。循環ポンプ35は、インクIを回収室32から供給室31及びインクジェットヘッド2を経て回収室32に循環する。循環ポンプ35として、例えばチューブポンプ、ダイヤフラムポンプ、或いはピストンポンプ等を利用する。循環ポンプ35は、送液孔32cからインクを吸引し、流入孔31bを通して供給室31へインクIを送液する。
【0021】
フィルタ43は、例えば循環路41の循環ポンプ35よりも循環方向の下流にあり、インクIに混入した異物を除去する。フィルタ43として、例えばポリプロピレン、ナイロン、ポリフェニレンサルファルド、或いはステンレス等のメッシュフィルタを利用する。
【0022】
循環部40により回収室32から供給室31にインクを循環する間にインクI中の気泡は浮力によって重力方向と逆向き(上方向)に上昇する。浮力により上昇した気泡は回収室32の液面あるいは供給室31の液面より上方の空気室に移動してインクから除去される。
【0023】
インク循環装置3は、図5に示すように、回収室32のインク量を計測する第1のインク量センサ(液面センサ)44aと、供給室31のインク量を計測する第2のインク量センサ(液面センサ)44bを備える。第1のインク量センサ(液面センサ)44aおよび第2のインク量センサ(液面センサ)44bは、例えば圧電振動板を交流電圧で振動させて、回収室32や供給室31を伝わるインクの振動をそれぞれ検出して、インク量を計測する。インク量センサの構造は限定されず、第1の液面α1や第2の液面α2の高さを計測する構造であっても良い。
【0024】
インク循環装置3は、圧力検出部として、回収室32内の圧力を検出する圧力検知部としての第1の圧力センサ45aと供給室31の圧力を検出する圧力検知部としての第2の圧力センサ45bと、を備える。圧力センサ45a、45bは、例えば半導体ピエゾ抵抗圧力センサを利用して圧力を電気信号として出力する。半導体ピエゾ抵抗圧力センサは、外部からの圧力を受けるダイヤフラムと、このダイヤフラムの表面に形成された半導体歪ゲージとを備え、外部からの圧力によるダイヤフラムの変形に伴い歪ゲージに生じるピエゾ抵抗効果による電気抵抗の変化を電気信号に変換して圧力を検出する。
【0025】
図9に示すように、圧力調整部36は、気体補充部である第1の圧力調整機構47と、気体補充部である第2の圧力調整機構48と、を備える。
【0026】
第1の圧力調整部47は、供給室31に連通可能に接続される第1気体室であるシリンダ101と、シリンダ101内で往復動作するピストン103と、ピストン103を上下(H方向)に往復移動させシリンダ101の容積を変化させる第1容積可変部としてのパルスモータ105と、を備えている。
シリンダ101は供給室31と連通する連通管路107を有している。連通管路107の内部には、連通管路107を開閉する第1開閉部108が設けられている。第1開閉部108は開閉弁108aと、開閉弁108aを付勢するばね108bと、を備える。
開閉弁108aは、ばね108bの付勢によりシリンダ101と供給室31を連通させる連通管路107を閉じ、ピストン103の圧力によって連通管路107を開放可能に構成されている。
第1の圧力調整部47のピストン103は、ホーム位置を基準として、上方向にシリンダ101の天井113に到達しない(I)上限位置が設定されている。また、ホーム位置を基準として下方向には第1開閉部108を開け供給室31と連通する(II)連通位置が設定される。マイコン510が所定のパルス数とパルスモータの回転方向を指示することでピストン103が(I)、(II)の位置に移動できる。
第2の圧力調整部48は、回収室32と連通可能な第2気体室を構成するシリンダ102と、シリンダ102内に配されたピストン104と、ピストン104を上下(H方向)に移動させシリンダ102の容積を変化させる第2容積可変部としてのパルスモータ106と、を備えている。シリンダ102は、回収室32と連通する連通経路109と、シリンダ102内を大気に連通させる連通管路110を有している。連通管路110の内部には、回収室32とシリンダ102内の連通状態を切り替える第2開閉部111が設けられている。第2開閉部111は、開閉弁111aと、開閉弁111aを付勢するばね111bとを備える。開閉弁111aは、ばね111bの付勢により大気との連通孔を閉じ、ピストン104の圧力によって大気との連通孔を開放可能に構成されている。また、第2の圧力調整部48は、ピストン104がシリンダ102の下限にある場合、回収室32とシリンダ102の連通経路109の上端をピストン104が塞ぐことが可能に構成されている。
さらに、第1の圧力調整部47のシリンダ101と第2の圧力調整部48のシリンダ102の間にはシリンダ101及びシリンダ102を常時連通させる連通経路112が設けられている。
【0027】
第2の圧力調整部48のピストン104は、ホーム位置を基準として、上方にシリンダ102の天井114に到達しない(III)上限位置が設定され、下方に第2開閉部111を開ける(IV)大気開放位置と、回収室32との連通孔を閉じる(V)下限位置とが、設定されている。マイコン510が所定のパルス数とパルスモータの回転方向を指示することでピストン104が(III)、(IV)、(V)の位置に移動できる。
圧力調整部36は、第1の圧力調整部47のシリンダ101内のピストン103と、第2の圧力調整部48のシリンダ102内のピストン104をそれぞれH方向に往復移動させる。このピストン103,104の移動により、シリンダ101、102の空気の容積を変化させることと、大気との連通流路や両シリンダ101,102の連通流路の開閉を制御することが可能である。圧力調整部36は、この空気の容積変化と流路の開閉により、回収室32の気体を加圧または減圧させることで、インクジェットヘッド2を加圧または減圧可能に構成されている。
ここで、圧力調整部36におけるピストンの移動範囲と位置について説明する。まず、ホーム位置を設定する初期動作について説明する。電源が投入されると、両方のピストン103、104が上方に向かって所定時間移動する。電源投入前にピストン103、104がシリンダ101、103内のどのような位置で終了したかによって、電源が投入された時点でのピストン103、104の位置は変化する。そのため、電源投入時にシリンダ101、102内でのピストン103,104の位置は不定である。ピストン103、104位置が不定なので、一旦ピストン103、104をシリンダ101、102の最上部113、114(天井)に移動させる。ピストンを移動させる時間は、ピストン103、104がシリンダ101、102内の最も下方の位置から、天井113、114に衝突するまでに要する時間(初期移動時間)とする。なお、ピストン103、104が上方に移動している初期移動時間中に天井113、114に衝突した場合には、パルスモータ105、106が脱調して停止するように構成されている。
【0028】
次に、天井113、114に衝突した位置から、所定の位置までピストン103、104を下方に移動させ、その位置をホーム位置として記憶する。そして、ピストン103,104が移動した場合には、移動したパルス数をカウントして上下方向の位置を認識する。
【0029】
図9の<状態1>のピストン103,104の位置における圧力調整部36の機能について説明する。状態1において、第2の圧力調整部48のピストン104が(IV)大気放位置で、第1の圧力調整部47のピストン103は(II)連通位置である。この状態では、図中の破線矢印の経路で連通しているので、供給室31、回収室32の両方が大気開放状態で、内部の圧力は大気圧となる。例えばインクジェット装置の使用開始時に空のインクケーシング33にインクカートリッジ51からインクを初期充填する場合には<状態1>に設定する。
図9の<状態2>のピストン103,104の位置における圧力調整部36の機能について説明する。状態2では、第2の圧力調整部48のピストン104を大気と連通しない位置、例えばホーム位置とし、ピストン103は、第1開閉部108を開け供給室31と連通する(II)連通位置とする。この状態2では、回収室32と第1の圧力調整部47が図中の破線矢印の経路で連通し、かつ、密閉した状態となる。状態2において、第1の圧力調整部47のピストン103を矢印H方向上下することで、回収室32内部の圧力を調整する。すなわち、ピストン103を上方に(I)の上限位置までの範囲で移動させるとシリンダ101の空気の容積が増加して回収室32内の圧力は減少する。逆に、第1の圧力調整部47のピストン103を下方に(II)の連通位置まで到達しない範囲で移動させるとシリンダ101の容積が減少して回収室32の圧力は増加する。
図9の<状態3>のピストン103,104の位置における圧力調整部36の機能について説明する。状態3では、第2の圧力調整部48のピストン104が(V)下限位置で、ピストン103は、第1開閉部108を開け供給室31と連通する(II)連通位置とする。回収室32の圧力を一定に維持するために第1の圧力調整部47のピストン103を上下方向に移動させる場合に、上向き方向ではピストン103がシリンダ101の天井部に衝突する位置、下向き方向では第1開閉部108に接触する位置が圧力調整のための移動可能範囲となる。
【0030】
圧力調整を開始する前のピストン103の位置によっては圧力を調整する方向に移動すると、移動可能範囲を超えてしまう場合が発生する。この場合には、第2の圧力調整部48のピストン104を(V)下限位置に移動させ、回収室32は密閉で、第1の圧力調整部47は大気放になった状態にし、第1の圧力調整部47のピストン103を調整するための方向とは逆の移動可能範囲の限界位置に移動させる。第2の圧力調整部48は図中破線矢印の経路で大気と連通し、供給室31、回収室32の両方とも密閉状態なので、ピストン103の動きは両インク室の圧力に影響しない。
【0031】
次に、第2の圧力調整部48のピストン104をホーム位置に移動させ、図9<状態2>に示すように、回収室32を密閉状態にし、第1の圧力調整部47のピストン103を調整する方向に移動させて所定の圧力を得る。
以上に示すように、第1の圧力調整部47及び第2の圧力調整部48は、シリンダ101,102内におけるピストン103,104の動作によって、回収室32内の圧力を増減し、循環流路内の圧力を加圧または減圧調整することが可能である。
インク循環装置3は、循環部40においてインクを循環してインクジェットヘッド2に供給し、インクIに含まれる気泡を吸収し、あるいは異物を除去する。また、インク循環装置3は、圧力調整部36においてインク圧力室25の圧力を調整して、ノズル孔21aのメニスカスMeの圧力を調整する。例えば、インクジェット記録装置1では、空気制御及びインク補充制御による圧力調整により、メニスカスMeの圧力を−4.0kPa〜大気圧の範囲に維持して、不要なインク漏れあるいは気泡の吸引を防止する。
図2に示すインクカートリッジ51は、チューブ52を介してインクジェットヘッドユニット4のインク循環装置3に連通する。インクカートリッジ51は、重力方向においてインク循環装置3より相対的に下方に配置されている。本実施形態では、インクカートリッジ51を、重力方向においてインク循環装置3より相対的に下方に配置することで、インクカートリッジ51内のインクの水頭圧が、回収室32の設定圧力より低く保たれる。インクカートリッジ51を、インク循環装置3より下方に配置することにより、供給ポンプ34が駆動している時だけインクカートリッジ51から回収室32へ新たなインクを供給する。
図1に示すように、ヘッド支持部6は、インクジェットヘッドユニット4を支持するキャリッジ61、キャリッジ61を矢印A方向に往復移動させる搬送ベルト62、及び搬送ベルト62を駆動するキャリッジモータ63を備える。
記録媒体移動部7は、記録媒体Sを吸着固定するテーブル71を備える。テーブル71は、スライドレール装置72上に取り付けられて矢印B方向に往復移動する。
メンテナンスユニット8は、インクジェットヘッドユニット4の矢印A方向の走査範囲であって、テーブル71の移動範囲より外側の位置に配置される。メンテナンスユニット8は上方が開放したケースであって、上下(図1矢印C、D方向)に移動可能に設けられる。
【0032】
メンテナンスユニット8は、ゴム製のブレード81及び廃インク受け部82を備える。ゴム製のブレード81は、インクジェットヘッド2のノズルプレート21に付着したインク、ほこり、紙粉などを除去する。廃インク受け部82は、メンテナンス動作を行う間に発生する廃インク、ほこり、紙粉などを受ける。メンテナンスユニット8は、ブレード81を矢印B方向へ移動させる機構を備え、ブレード81でノズルプレート21表面を払拭する。
【0033】
図10に示すブロック図を参照して、インクジェット記録装置1の動作を制御する制御系について説明する。制御基板500は、制御部でありインクジェット記録装置1全体を制御するマイクロコンピュータ(マイコン)510と、インク循環装置3を駆動する循環装置駆動回路540と、増幅回路541と、記録媒体移動部7を駆動する移動部駆動回路542と、インクジェットヘッド2を駆動するヘッド駆動回路543、を備える。インクジェットヘッドユニット4はインク循環装置3とインクジェットヘッド2から成る。マイコン510は、プログラムあるいは各種データ等を格納するメモリ520と、インクジェットヘッドユニット4インク循環装置からの出力電圧を取り込むAD変換部530を備える。
マイコン510は、第1の圧力センサ45a、第2の圧力センサ45bにて検知した圧力値をAD変換部530にて変換する機能を有する。また、マイコン510は、設定された任意のサンプリング時間Δt間にて変動した圧力変動値ΔPより圧力変動速度V(ΔP÷Δt)を算出可能に構成される。
【0034】
制御基板500は、電源550、インクジェット記録装置1の状況を表示する表示装置560、入力装置であるキーボード570に接続される。制御基板500は、インクジェットヘッドユニット4の各種ポンプの駆動部や各種センサに接続される。制御基板500は、記録媒体移動部7のテーブル71、スライドレール装置72、メンテナンスユニット8の駆動部、および搬送ベルト62のキャリッジモータ63、に接続される。
【0035】
以下、インクジェット記録装置1の液体吐出方法について説明する。インクジェット記録装置1を最初に印刷動作させる場合に、インクカートリッジ51からインクジェットヘッドユニット4にインクIを充填する。
インクIを充填するためにマイコン510は、インクジェットヘッドユニット4を待機位置に戻し、メンテナンスユニット8を矢印D方向に上昇してノズルプレート21を覆う。マイコン510は、供給ポンプ34を駆動し、インクカートリッジ51から回収室32にインクを送液する。回収室32でインクIが送液孔32cに達すると、マイコン510は、圧力調整部36でインクケーシング33の供給室31及び回収室32の圧力を調整し、循環ポンプ35を駆動する。
インクジェット記録装置1は、複数のインクカートリッジ51のシアンインク、マゼンダインク、イエロインク、ブラックインク、ホワイトインクを複数のインクジェットヘッドユニット4にそれぞれ初期充填する。
回収室32の送液孔32cと供給室31の流入孔31bにインクIが到達するとマイコン510はインクIの初期充填を完了する。
【0036】
インクIの初期充填を完了した場合に、インクケーシング33内の圧力は、インクジェットヘッド2のノズル孔21aからインクIが漏れず、且つノズル孔21aから気泡を吸引しない程度の、負圧を維持する。インクケーシング33の負圧により、ノズル孔21aは負圧形状のメニスカスMeを維持する。インクIの初期充填を完了した状態でインクジェット記録装置1の電源550を切った場合もインクケーシング33は密閉状態であり、ノズル孔21a内のメニスカスMeは負圧形状に維持され、インクの漏れを防止する。
【0037】
インク吐出の指示を検出すると、マイコン510は、記録媒体移動部7を制御して、記録媒体Sをテーブル71に吸着固定して、テーブル71を矢印B方向に往復移動する。マイコン510は、メンテナンスユニット8を矢印C方向に移動する。またマイコン510は、キャリッジモータ63を制御してキャリッジ61を記録媒体Sの方向に搬送し、矢印A方向に往復移動する。
【0038】
インクジェットヘッドユニット4が搬送ベルト62に沿って矢印A方向に往復移動する間、インクジェットヘッド2のノズルプレート21と記録媒体Sとの距離hは一定に維持される。
【0039】
記録媒体Sの搬送方向に対して直交する方向にインクジェットヘッド2を往復移動させながら、記録媒体Sに画像を形成する。インクジェットヘッド2は、画像形成信号に合わせてノズルプレート21に設けたノズル孔21aからインクIを吐出して、記録媒体Sに画像を形成する。
【0040】
マイコン510は、例えばメモリ520が記憶する画像データに応じた画像信号により、インクジェットヘッド2のアクチュエータ24を選択的に駆動して、ノズル孔21aから記録媒体Sにインク滴IDを吐出する。マイコン510は、循環ポンプ35を駆動する。インクジェットヘッド2から還流されたインクIは、回収室32、フィルタ43、供給室31を経て循環し、インクジェットヘッド2に供給される。
インクジェット記録装置1は、インクIを循環することにより、インクIに混入した気泡や異物を除去して、インク吐出性能を良好に保持する。したがって、インクジェットヘッドユニット4によるプリント画質が向上する。
【0041】
ノズル孔21aからのインク滴IDの吐出、あるいは循環ポンプ35の駆動等によりインクケーシング33の圧力は変動する。インクケーシング33の圧力を、ノズル孔21aからのインク漏れあるいはノズル孔21aから気泡を吸引しない安定域に維持するために、マイコン510は、圧力調整部36のピストン103,104や供給ポンプ34の駆動を切り替えて、インクケーシング33の圧力を調整する。
【0042】
例えばプリント時にノズル孔21aからインク滴IDを吐出すると、インクケーシング33のインク量が瞬間的に減少し、回収室32の圧力が低下する。第1の圧力センサ45aが回収室32の圧力の低下を検知すると、マイコン510は、第1の圧力センサ45a、第2の圧力センサ45b、第1のインク量センサ(液面センサ)44aおよび第2のインク量センサ(液面センサ)44bの検知結果から、圧力調整部36や供給ポンプ34を駆動する。
【0043】
ノズル孔21aにかかる圧力を調整する圧力調整方法について図11及び図12を参照して説明する。図11は圧力調整方法を示すフローチャートであり、図12は圧力調整を示すタイミングチャートと、空気制御及びインク補充制御による圧力調整を行う場合の圧力値のグラフである。
インクジェットヘッドユニット4にて、ノズル孔21aからのインク漏れあるいはノズル孔21aから気泡を吸引しない、ノズル孔21aの圧力値Pの安定域の下限値を例えばPt1とし、上限値を例えばPt2とする。
【0044】
図11および図12に示すように、時間t1で電源550を投入後、第1の圧力センサ45aで検出した回収室32の圧力値及び、第2の圧力センサ45bで検出した供給室31の圧力値に基づいて、ノズル孔21aの圧力値Pを算出する(Act1)。
次にマイコン510にて設定された任意のサンプリング時間Δt間にて変動した圧力変動値ΔPを演算し、さらにΔPとΔtの商を演算し、圧力変動速度Vを算出する。(Act2)。
そして、圧力値Pが安定域であるか否か、すなわちPt1≦P≦Pt2を満たすかどうかを判定する(Act3)。圧力値PがPt1≦P≦Pt2を満たさない場合には、圧力値Pが安定域の上限値を超えるか否か、すなわちP>Pt2を満たすかどうかを判定する(Act4)。Pt1≦P≦Pt2を満たさず(Act3のNo)かつP>Pt2を満たさない(Act4のNo)場合、すなわち圧力値Pが下限値Pt1より低い場合には、マイコン510は、Act2にて算出した圧力変動速度Vと任意に設定した圧力変動速度閾値Vtが、V≧Vtを満たすか否かを判定する。(Act6)。たとえば、Pt1は0.8kPa、Pt2は1.2kPaに設定される。
Vtは液体を吐出した時の圧力変動値P1と温度が変動した時の圧力変動値P2によって決定される。たとえば、液体を吐出した時の圧力変動値P1について、インクケーシング33の大きさを100mlとし、液体が50ml入っていたとする。その時のインクケーシング内の圧力値は−1.0kPaとする。1秒間に1mlの液体が吐出されるとすると、ボイルの法則 p1V1=p2V2(p1:吐出前の圧力値、V1:吐出前の空気量、p2:吐出後の圧力値、V2:吐出後の空気量)よりP1=−1.02kPaとなる。
一方、温度が変動した時の圧力変動値P2については、たとえば、液体の比熱を水と同等の4.217J/Kとし、1分間に50mlの液体を1℃上昇させる熱量210.85J/Kを与えたとする。その時の圧力変動値P2をボイル・シャルルの法則 pV=nRT(p:圧力値、V:空気量、T:温度、n:物質量、R:気体定数)より、導くと、P2=0.00067kPaとなる。よって、上記条件において、1秒間の圧力変動値が、P1>P2を成立させるVtであればよい。たとえば、Vt=0.01kPaである。
V>Vtを満たさない場合、すなわち圧力変動速度Vが任意に設定した圧力変動速度閾値Vtより小さい場合には、(Act6のNo)マイコン510は、圧力調整部36を駆動し、加圧調整する(Act8)。
一方、V>Vtを満たす場合、すなわち圧力変動速度Vが任意に設定した圧力変動速度閾値Vtより大きい場合には、(Act6のYes)マイコン510は供給ポンプ34を駆動し、インクケーシング33に新しいインクを補充する液体補充動作を行うことでインクケーシング33を加圧調整する(Act7)。
すなわちインクジェットヘッドユニット4の圧力調整手段は、第1の圧力調整部47及び第2の圧力調整部48と供給ポンプ34による手段とを、圧力変動速度Vと圧力変動速度閾値Vtの関係より切り替える。ここで、インクジェットヘッドの圧力変動の原因として、インク吐出による圧力変動の他、温度変化等、種々の原因がある。このため、本実施形態においては圧力変動速度を考慮して液体の補充と気体の補充を切り替える。このため、特にインク吐出による圧力低下の場合に液体を補充することができ、インク吐出を伴わない温度変化等に起因する圧力低下の場合には液体を補充しないように制御することで、液体が容器外へ漏れることを回避する。
例えば図12の時間t2のように、ノズル孔21aの圧力値Pが下限値Pt1から上限値Pt2の範囲であり、Pt1≦P≦Pt2を満たすと(Ac3のYes)、マイコン510は、減圧調整を停止する。
【0045】
例えば任意に設定されたΔtのサンプリング時間で変動した圧力値ΔPより圧力変動速度V(ΔP/Δt)を算出する(Act2)。図12の時間t3のように、吐出開始信号がマイコン510からヘッド駆動回路543に入力されノズル孔21aからインク吐出される等、圧力値Pが急激に変化する。したがって、時間t4・t5間のように圧力変動速度Vが任意に決められた圧力変動速度閾値Vtより大きい場合(Act6のYes)、時間t5のように、マイコン510は、供給ポンプ34を駆動し、インクケーシング33に新しいインクを補充することでインクケーシング33を加圧調整する。(Act7)。
時間t6のように、ノズル孔21aの圧力値Pが下限値Pt1から上限値Pt2の範囲に達すると(Act3のYes)、マイコン510は、加圧調整を停止する。
【0046】
例えば、時間t7のように、雰囲気温度が低下すると、空気が縮小することにより、圧力値Pが滑らかに変化する。したがって、時間t7・t8間のように圧力変動速度V(ΔP/Δtが任意に決められた圧力変動速度閾値Vtより小さい場合(Act6のNo)、時間t8のようにマイコン510は、圧力調整部36によりインクケーシング33内を加圧することで、ノズル孔21aを加圧調整する(Act8)。
例えば電源オフなどにより終了するまで(Act9のYes)、以上の動作(Act1〜Act8)を繰り返す。
【0047】
実施形態によれば、圧力変動速度Vが圧力変動速度閾値Vtより大きい場合、マイコン510は、供給ポンプ34を駆動し、インクケーシング33に新しいインクを補充することでインクケーシング33を加圧調整する。圧力変動速度閾値Vtをノズル孔21aから任意のインク量が吐出された時の圧力変動速度値にすることにより、ある一定以上のインクが吐出された場合のみ、インクを補充する。すなわち、負圧変動速度が任意の閾値以上の場合は液体が吐出されたと判断し、液体を供給することにより、圧力を上昇させる。負圧変動速度が任意の閾値以下の場合は、雰囲気温度等、液体吐出以外が起因していると判断し、空気を供給することにより加圧調整を行う。すなわち、液体吐出の有無により液体供給と空気供給を切り替えることにより、雰囲気温度の変化等、インク吐出以外のことで、圧力が低下した場合にインクを補充する確率が低くなる。したがって、インク吐出以外の原因で圧力が低下した場合の圧力調整において、インクジェットヘッド2中の液体が溢れかえることを防止できる。
【0048】
また、インクジェットヘッドユニット4は、インク循環装置3によりインクIを循環して、インクIに含まれる気泡或いは異物等を除去することで、インクジェットヘッド2のインク吐出性能を良好に保持して、インクジェットヘッドユニット4のプリント画質を向上できる。
【0049】
また、インクジェットヘッドユニット4は、プリント動作中の圧力調整中であってもインクケーシング33内にインクカートリッジ51から新しいインクIを補充できる。したがって、インクジェットヘッドユニット4は、プリント動作を停止することなく、ノズル孔21aの圧力Pを調整する間にインクケーシング33内にインクIを補充出来、インクジェット記録装置1のプリント生産効率が低下するのを防止できる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば図11では、圧力変動速度Vと圧力変動速度閾値Vtの関係により、インク吐出の有無を判断し、圧力調整部36と供給ポンプ34による手段を切り替えていたがこれに限られない。例えば、他の実施形態にかかるインクジェット記録装置1は、図13に示すように、マイコン510はインクジェット記録装置1における液体吐出信号を検知する。本実施形態にかかるインクジェット記録装置1では、図13に示すAct10のように、マイコン510が出力するインク吐出信号により、インク吐出の有無を判断し、圧力調整部36と、供給ポンプ34を切り替える。この場合、インクジェット記録装置に設けられたマイコン510が、吐出信号検知部として機能する。
以上説明した実施形態の液体循環装置の構成は限定されない。例えば液室に液体を補充しつつ液体を循環出来れば液室と液体吐出部とは一体に形成されていなくても良い。また液体循環装置は、インク以外の液体を吐出することもできる。インク以外を吐出する液体吐出装置としては、例えばプリント配線基板の配線パターンを形成するための導電性粒子を含む液体を吐出する装置等であっても良い。
【0050】
インクジェットヘッドは、インク圧力室25内のインクに圧力変動を生じるものであるが、構造は限定されない。インクジェットヘッドは、例えば静電気で振動板を変形してインク滴を吐出する構造、あるいはヒータ等の熱エネルギーを利用してノズルからインク滴を吐出する構造等でもよい。またインクは温度により粘性が変わり、ノズルからの吐出特性が変わることから、インク吐出を良好に制御するために、インクジェットヘッドに温度センサを備えても良い。
なお、回収室32および供給室31の構造は限定されない。例えばインクの温度を所定範囲に保持するように、インクを加熱するヒータを備えても良い。
インクカートリッジ51の配置や位置は限定されない。例えばインクカートリッジ51をインク循環装置3より高い位置に配置した場合は、インクカートリッジ51内のインクの水頭圧が、回収室32の設定圧力より高くなる。インクカートリッジ51を、インク循環装置3より高い位置に配置した場合は、水頭差を利用して電磁弁を開閉することにより、インクカートリッジ51から供給室31にインクを供給可能である。
なお、圧力調整部の構造は、上述したピストン機構に限られず、他に例えばチューブポンプあるいは蛇腹ポンプ等を利用できる。この場合圧力調整部は液室となる供給室や回収室に気体を供給し、あるいは供給室または回収室から気体を放出させることにより、圧力を増減する圧力調整を行う。
【0051】
この発明の実施形態を説明したが、実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことが出来る。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
(1)
液体を吐出する液体吐出部に接続され、前記液体を保有可能に構成された液室と、
前記液室と前記液体吐出部とを含む流路で前記液体を循環させる循環部と、
前記液室に液体を供給する液体供給部と、
前記液室の気体を加圧または減圧することにより前記液体吐出部の圧力を調整する圧力調整部と、
前記圧力の変動速度に基づき、検出された前記圧力が所定圧力値以下あるいは前記所定圧力値より低く、前記圧力の変動速度が所定速度以上あるいは前記所定速度よりも速い場合、前記液体供給部により液体を補充し、検出された前記圧力が前記所定圧力値以下あるいは前記所定圧力値より低く、かつ圧力変動速度が前記所定速度よりも遅いあるいは前記所定速度以下である場合、前記圧力調整部により、前記液体吐出部の圧力を調整する制御部と、備える液体循環装置。
(2)
液体を吐出する液体吐出部に接続され、前記液体を保有可能に構成された液室と、
前記液室と前記液体吐出部とを含む流路で前記液体を循環させる循環部と、
前記液室に液体を補充する液体供給部と、
前記液室の気体を加圧または減圧することにより前液体吐出部の圧力を調整する圧力調整部と、
前記液体吐出部における液体吐出信号を検出する吐出信号検出部と、
液体吐出信号に基づき、検出された前記圧力が所定圧力値以下あるいは前記所定圧力値より低く、液体吐出信号を検出した場合には、前記液体供給部により液体を補充し、検出された前記圧力が所定圧力値以下あるいは前記所定圧力値より低く、かつ液体吐出信号を検出しなかった場合には、前記圧力調整部により、前記液体吐出部の圧力を調整する、制御部と、を備える液体循環装置。
(3)
前記液室は、前記液体吐出部に供給される液体を保有する供給室と、前記液体吐出部から回収される液体を保有する回収室と、を備え、
前記圧力調整部は前記回収室または前記供給室に連通する気体室の容積を増減させることにより、前記回収室または前記供給室を加圧または減圧することを特徴とする(1)または(2)記載の液体循環装置。
(4)
(1)乃至(3)のいずれかに記載の液体循環装置と、
液体を吐出するノズルを備える液体吐出部と、
前記ノズルから前記液体が吐出される位置に記録媒体を搬送する搬送部と、を備えることを特徴とする液体吐出装置。
(5)
前記液体循環装置は、前記液体吐出部の上に一体に設けられる、(4)記載の液体吐出装置。
(6)
液体を吐出する液体吐出部と、前記液体吐出部に接続され前記液体を保有可能に構成された液室と、を含む流路で前記液体を循環させ、
前記液室の圧力が所定圧力値以下あるいは前記所定圧力値より低い場合に、前記圧力の変動速度または液体吐出信号に基づき、前記液体供給部により前記液室に液体を供給する液体供給動作と、前記液室内の気体を加圧または減圧させることにより前記液体吐出部の圧力を調整する圧力調整動作と、のいずれかの動作を選択的に行うことを特徴とする液体吐出方法。
【符号の説明】
【0052】
1…インクジェット記録装置、2…インクジェットヘッド、3…インク循環装置(循環部)、4…インクジェットヘッドユニット、6…ヘッド支持部、7…記録媒体移動部、21…ノズルプレート、21a…ノズル孔、31…供給室、32…回収室、33…インクケーシング、34…供給ポンプ(液体補充部)、35…循環ポンプ、36…圧力調整部、51…インクカートリッジ、45a…圧力センサ(圧力検知部)、45b…圧力センサ(圧力検知部)、47…圧力調整機構、48…圧力調整機構、25…圧力室、28…インク流路、500…制御基板、510…マイコン(制御部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13