特許第6397794号(P6397794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397794
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/00 20060101AFI20180913BHJP
   F02D 11/02 20060101ALI20180913BHJP
   F02D 11/10 20060101ALI20180913BHJP
   A01D 67/00 20060101ALI20180913BHJP
   A01D 69/00 20060101ALI20180913BHJP
   A01D 41/12 20060101ALI20180913BHJP
   B62D 49/00 20060101ALI20180913BHJP
   B60K 26/02 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   F02D29/00 B
   F02D11/02 T
   F02D11/10 E
   A01D67/00 G
   A01D69/00 302L
   A01D41/12 D
   B62D49/00 E
   B60K26/02
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-98310(P2015-98310)
(22)【出願日】2015年5月13日
(65)【公開番号】特開2016-211513(P2016-211513A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2017年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】田部 彩
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−000639(JP,A)
【文献】 特開2015−000640(JP,A)
【文献】 特開平08−074643(JP,A)
【文献】 実開昭60−028240(JP,U)
【文献】 特開2008−185009(JP,A)
【文献】 特開2015−019640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/00 〜 29/04
F02D 11/00 〜 11/02
F02D 11/10
A01D 67/00
A01D 69/00
A01D 41/12
B62D 49/00
B60K 26/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
エンジン回転数を設定するハンド操作具と、
前記ハンド操作具の操作状態を検出する第1検出器と、
前記エンジン回転数を設定するフット操作具と、
前記フット操作具の操作状態を検出する第2検出器と、
作業走行と路上走行とを判別する走行判別部と、
前記第1検出器の検出結果と前記第2検出器の検出結果と前記走行判別部の判別結果とを入力として、前記エンジン回転数を制御する回転数制御信号を生成する回転数制御信号生成部と、を備え
前記回転数制御信号生成部は、前記作業走行が判別されている場合には、前記第2検出器の検出結果を無視して、前記第1検出器の検出結果に基づいて前記回転数制御信号を生成し、前記路上走行が判別されている場合には、前記第1検出器の検出結果と前記第2検出器の検出結果とを比較してより大きいエンジン回転数を作り出す検出結果を採用して、前記回転数制御信号を生成する作業車。
【請求項2】
エンジンと、
エンジン回転数を設定するハンド操作具と、
前記ハンド操作具の操作状態を検出する第1検出器と、
前記エンジン回転数を設定するフット操作具と、
前記フット操作具の操作状態を検出する第2検出器と、
作業走行と路上走行とを判別する走行判別部と、
前記第1検出器の検出結果と前記第2検出器の検出結果と前記走行判別部の判別結果とを入力として、前記エンジン回転数を制御する回転数制御信号を生成する回転数制御信号生成部と、を備え
前記回転数制御信号生成部は、前記作業走行が判別されている場合には、前記第1検出器の検出結果と前記第2検出器の検出結果とを比較してより大きいエンジン回転数を作り出す検出結果を採用して、前記回転数制御信号を生成し、前記路上走行が判別されている場合には、前記第1検出器の検出結果を無視して、前記第2検出器の検出結果に基づいて前記回転数制御信号を生成する作業車。
【請求項3】
前記ハンド操作具は前記ハンド操作具の操作状態を保持する機能を有する請求項1または2のいずれか一項に記載の作業車。
【請求項4】
前記フット操作具によって作り出される最大のエンジン回転数は、前記ハンド操作具によって作り出される最大のエンジン回転数よりも小さくなるように設定されている請求項1から3のいずれか一項に記載の作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン回転数を設定するためのハンド操作具とフット操作具とを備えた作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車輪駆動式のトウモロコシ収穫機が開示されている。この収穫機のキャビン内部には、運転座席が設けられ、運転座席の前方にはハンドルポスト、運転座席の横側にはサイドパネルが設けられている。サイドパネルの上面には、ハンド操作具としてのアクセルレバーが配置され、ハンドルポストの横側に、フット操作具としてのアクセルペダルが配置されている。アクセルレバー及びアクセルペダルは、エンジンのアクセル装置の操作部に連係されており、アクセルレバー及びアクセルペダルを操作することで、エンジン回転数が調整され、結果的に車速が変更される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−19640
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
収穫機などのような作業車では、収穫作業などの作業を行いながら走行している時と、作業を行わずに道路などを走行している時とでは、運転者が望むエンジン回転数の調整方法が異なる。例えば、路上走行では、乗用車のようなエンジン回転数の調整が好ましい。これに対して、収穫作業走行では、エンジン動力は走行のためだけでなく作業装置のためにも利用されるので、エンジン負荷やエンジン効率を考慮するため操作位置を確認しながらのエンジン回転数を調整することが望まれる。特許文献1による収穫機では、ハンド操作具とフット操作具の両方で、エンジン回転数を調整することができるが、エンジン回転数調整においてハンド操作具とフット操作具との特徴の違いは実質的には考慮されていない。
したがって、走行の状態に応じてハンド操作具とフット操作具との使い方が適正なものとなる作業車が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による作業車は、エンジンと、エンジン回転数を設定するハンド操作具と、前記ハンド操作具の操作状態を検出する第1検出器と、前記エンジン回転数を設定するフット操作具と、前記フット操作具の操作状態を検出する第2検出器と、作業走行と路上走行とを判別する走行判別部と、前記第1検出器検出結果と前記第2検出器の検出結果と前記走行判別部の判別結果とを入力として、前記エンジン回転数を制御する回転数制御信号を生成する回転数制御信号生成部とを備え
前記回転数制御信号生成部は、前記作業走行が判別されている場合には、前記第2検出器の検出結果を無視して、前記第1検出器の検出結果に基づいて前記回転数制御信号を生成し、前記路上走行が判別されている場合には、前記第1検出器の検出結果と前記第2検出器の検出結果とを比較してより大きいエンジン回転数を作り出す検出結果を採用して、前記回転数制御信号を生成する。
【0006】
この構成では、作業車が収穫作業のような作業を行いながら走行している作業走行中であるか、あるいは作業車が作業を行わずに単に道路を走行している路行走行中であるかを判別する走行判別部が備えられている。したがって、作業走行時と路上走行中時とでは、ハンド操作具またはフット操作具が同じように操作されても、異なった目標エンジン回転数をエンジン(詳しくはエンジン制御部)に与えることができる。これにより、作業走行時と路上走行時とのそれぞれに適したエンジン回転数調整が、ハンド操作具またはフット操作具の操作に基づいて、行われる。
【0007】
ハンド操作具及びフット操作具の操作と、この操作に基づくエンジン回転数調整との好適な関係は、作業車の走行種類(作業走行または路上走行)によって異なる。そのため本発明では、前記回転数制御信号生成部は、前記作業走行が判別されている場合には、前記第2検出器の検出結果を無視して、前記第1検出器の検出結果に基づいて前記回転数制御信号を生成する。この構成では、作業車が作業走行している場合には、第2検出器の検出結果が無視され、第1検出器の検出結果に基づいてエンジン回転数が調整される。つまり、フット操作具による操作は無効となる。これは、作業車が、一定のエンジン回転数で走行する場合に適している。収穫作業では、エンジンを効率のよい定格回転数で回転させながら、作業車は一定の車速で走行するのが好ましいので、この発明は利点がある。
【0009】
さらに本発明では、前記回転数制御信号生成部は、前記路上走行が判別されている場合には、前記第1検出器の検出結果と前記第2検出器の検出結果とを比較してより大きいエンジン回転数を作り出す検出結果を採用して、前記回転数制御信号を生成する。この形態では、ハンド操作具を用いて設定されたエンジン回転数で走行中において、フット操作具に対する大きな操作量をもって、突発的に作業車を増速することができる。逆に、ハンド操作具に対する操作量を上回る大きな操作量をもってフット操作具を操作しながら走行している際に、フット操作具に対する操作量を小さくまたは中止すると、ハンド操作具を用いて設定されているエンジン回転数で走行する。つまり、ハンド操作具とフット操作具の2つの操作具の操作の組み合わせで特徴のある運転が実現できる。
【0010】
ハンド操作具及びフット操作具の操作と、この操作に基づくエンジン回転数調整との上述関係を組み合わせることができる。そのような組み合わせに基づく発明では、前記回転数制御信号生成部は、前記作業走行が判別されている場合には、前記第1検出器の検出結果と前記第2検出器の検出結果とを比較してより大きいエンジン回転数を作り出す検出結果を採用して前記回転数制御信号を生成し、前記路上走行が判別されている場合には、前記第1検出器の検出結果を無視して、前記第2検出器の検出結果に基づいて前記回転数制御信号を生成する。これにより、2つの操作具を用いた、作業走行と路上走行とに応じて異なるエンジン回転数の調整が可能となる。
【0011】
前記ハンド操作具が前記ハンド操作具の操作状態を保持する機能を備えた場合、ハンド操作具を用いて、所望のエンジン回転数でエンジンを回転させて作業車を等速走行(クルージングとも呼ばれる)させることが容易となる。
【0012】
好適な実施形態の1つでは、前記フット操作具によって作り出される最大のエンジン回転数は、前記ハンド操作具によって作り出される最大のエンジン回転数よりも小さくなるように設定されている。この構成によれば、フット操作具によって実現するエンジン回転速度がハンド操作具によって実現可能な最大エンジン回転数より、つまりエンジンの最大回転数よりは低くなるように制限されることになる。したがって、フット操作具が踏込み式のアクセルペダルとして構成されている場合において、アクセルペダルをいっぱいに踏み込む運転が行われても、エンジン回転数が最大になって、収穫装置などの作業装置の駆動音が過大になることが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】2つの異なる操作具を用いてエンジン回転数を調整する際のデータの流れとデータ処理とを示す模式図である。
図2】作業車の実施形態の1つであるホイール式トウモロコシ収穫機の側面図である。
図3】ホイール式トウモロコシ収穫機の平面図である。
図4】ホイール式トウモロコシ収穫機の運転部の平面図である。
図5】ホイール式トウモロコシ収穫機のエンジン動力伝達経路を示す模式図である。
図6】制御系の機能ブロック図である。
図7】エンジン回転数を設定する制御を示す模式図である。
図8】(a)ハンド操作具の操作によるエンジン回転数の設定と、(b)フット操作具の操作によるエンジン回転数の設定とを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による作業車の具体的な実施形態を説明する前に、図1を用いて、本発明を特徴付けているエンジン回転数制御の基本原理を説明する。図1は、作業車に搭載されたエンジン3の回転数を、2つの異なる操作具を用いて設定(調整)する際のデータの流れとデータ処理とを示す模式図である。ここでは、エンジン3の回転数を設定するために用いられる2つの異なる操作具として、ハンド操作具81とフット操作具82とが装備されている。ハンド操作具81の操作状態としての操作変位は、第1検出器801によって検出される。フット操作具82の操作状態としての操作変位は、第2検出器802によって検出される。作業車の走行は、農地などの作業地を走行しながら農作物の収穫作業や農地の整備作業などを行う作業走行と、作業を行わずに農道や道路を走行する路上走行とに区別することができる。この作業車の制御系には、そのような路上走行と作業走行とを判別する走行判別部51が構築されている。走行判別部51は、作業車における走行動力伝動系や作業動力伝動系、さらには運転者による指令が入力される操縦系を構成する各機器の状態を、入力パラメータとして、走行種類を判別する機能を有する。図1では、走行種類はαで示されており、入力パラメータをk1・・・knとし、走行種類の判別式を、
α=G(k1,・・・,kn)
で表現している。ここで、Gは入力パラメータから走行種類を導出するテーブルないしは関数である。例えば、α=1は作業走行を示し、α=2は路上走行を示す。
【0015】
さらに制御系には、エンジン3の回転数を制御する回転数制御信号を生成する回転数制御信号生成部50が構築されている。回転数制御信号生成部50は、第1検出器の検出結果と前記第2検出器の検出結果と前記走行判別部の判別結果とを入力とし、回転数制御信号を出力する。回転数制御信号は、エンジン3に対して要求するエンジン回転数に対応しているので、回転数制御信号は、目標回転数(図1ではRで表されている)と言い換えることができる。したがって、第1検出器801の検出結果をS1とし、第2検出器802の検出結果をS2とすれば、目標回転数:Rは、
R=F(S1,S2,α)
で表現することができる。ここで、Fは第1検出器801の検出結果と第2検出器802の検出結果と走行判別部51の判別結果とから目標回転数(回転数制御信号):Rを導出するテーブルないしは関数である。
【0016】
回転数制御信号生成部50において、上述のようなテーブルないしは関数、あるいは制御条件式を用いて、回転数制御信号(目標回転数)を生成する際に採用することができる制御モードの例を以下に列挙する。
(1)制御モード1
作業走行が判別されている場合(α=1)には、第2検出器802の検出結果を無視して、第1検出器801の検出結果に基づいて回転数制御信号(目標回転数)が生成される。言い換えると、目標回転数:Rは、第1検出器801の検出結果:S1のみをパラメータとして導出される。したがって、この制御モードでは、回転数制御信号生成部50は、第1検出器801の検出結果:S1と目標回転数:Rとからなるテーブル(図1ではf1で示されている)を用いて、回転数制御信号を生成する。つまり、作業車が作業走行している時には、エンジン回転数制御(車速調整)はフット操作具82によって行われずに、ハンド操作具81によって行われる。これは、作業走行は、通常エンジン3を出力効率のよい回転数で駆動させながら行われるのが好適であり、フット操作具82による不要なエンジン回転数の変更は避けることが好ましいからである。
【0017】
(2)制御モード2
路上走行が判別されている場合(α=2)には、第1検出器801の検出結果を無視して、第2検出器802の検出結果に基づいて回転数制御信号が生成される。言い換えると、目標回転数:Rは、第2検出器802の検出結果:S2のみをパラメータとして導出される。したがって、この制御モードでは、回転数制御信号生成部50は、第2検出器802の検出結果:S2と目標回転数:Rとからなるテーブル(図1ではf2で示されている)を用いて、回転数制御信号を生成する。つまり、作業車が路上走行している時には、運転者は乗用車で一般道路を走っているような運転感覚を望むので、この作業車においてもアクセルペダルであるフット操作具82の操作でエンジン回転数制御(車速調整)が行われる。
【0018】
(3)制御モード3
路上走行が判別されている場合には、第1検出器801の検出結果と第2検出器802の検出結果とを比較してより大きいエンジン回転数を作り出す検出結果を採用して、回転数制御信号が生成される。この制御モードでは、回転数制御信号生成部50は、上述した(1)(2)とは異なり、第1検出器801の検出結果と第2検出器802の検出結果との両方を入力して評価する。ただし、回転数制御信号の生成のために用いられるのは、より大きなエンジン回転数を作り出す方の検出結果である。つまり、回転数制御信号生成部50は、第1検出器801の検出結果に基づくエンジン回転数と第2検出器802の検出結果に基づくエンジン回転数とを比較して、大きい方の検出結果:S1またはS2と目標回転数:Rとからなるテーブル(図1ではf0で示されている)を用いて、回転数制御信号を生成する。この制御モードでは、ハンド操作具81によって設定した車速でクルージング路上走行中において、突発的にアクセルペダルであるフット操作具82を踏み込むことで作業車を加速するようなことが可能である。
【0019】
(4)制御モード4
作業走行が判別されている場合には、第1検出器801の検出結果と第2検出器802の検出結果とを比較してより大きいエンジン回転数を作り出す検出結果を採用して回転数制御信号が生成される。また、路上走行が判別されている場合には、第1検出器801の検出結果を無視して、第2検出器802の検出結果を採用して回転数制御信号が生成される。この制御モードでは、一方では、ハンド操作具81によって設定した車速で作業走行している際に加速したい状況が生じた場合、アクセルペダルであるフット操作具82を踏み込むことで作業車を加速することが可能である。また、他方では、路上走行している際には、一般の乗用車のようにアクセルペダルであるフット操作具82だけを用いて作業車を運転することができる。
【0020】
運転者の操作に基づくエンジン回転数の設定の基本原理は、最初に述べたように目標回転数:Rが、F(S1,S2,α)で算定されることである。その際、ハンド操作具81が運転者の手によって操作され、フット操作具82が運転者の足によって操作されるという操作上の特性が考慮されることで走行状況に応じたエンジン回転数の設定が実現する。特に、ハンド操作具81は、作業車のクルージング走行時の車速、つまりエンジン回転数を設定するために用いられるので、ハンド操作具81にハンド操作具81の操作状態を保持する機能が備えられていることが好ましい。
【0021】
次に、図面を用いて、本発明による作業機の具体的な実施形態の1つであるトウモロコシの収穫を行うホイール式トウモロコシ収穫機を説明する。図2は、ホイール式トウモロコシ収穫機の側面図であり、図3はホイール式トウモロコシ収穫機の平面図である。なお、以下の説明では、ホイール式収穫機の前進方向を前方向、後進方向を後方向とし、「前側」、「後側」も同様に定義される。したがって、機体は前後方向に延びており、その機体前後中心軸に直交して水平に延び方向が機体横方向(または単に横方向)と定義される。このことを図で説明するために、図3において十字の矢印と「R」、「L」、「F」、「B」を用いて示されている。ここで、「R」は右、「L」は左、「F」は前、「B」は後を示す。このホイール式トウモロコシ収穫機(以下単に収穫機と称する)には、左右一対の駆動輪である前輪1及び左右一対の操向輪である後輪2により走行可能な走行機体4が備えられている。収穫機は、エンジン3の動力に基づいて左右一対の前輪1を駆動し、走行機体4の走行を行うように構成されている。
【0022】
走行機体4には、操縦者が運転操作を行う運転部11、圃場のトウモロコシを引きちぎって収穫する収穫装置6、収穫装置6で収穫されたトウモロコシを後方に搬送するフィーダ7、フィーダ7により搬送されてきたトウモロコシの皮を剥く皮剥き装置8、皮剥き後のトウモロコシを貯留する貯留タンク9、トウモロコシの収穫後に圃場に残っている残稈を破砕処理する残稈処理装置10等が備えられている。
【0023】
図4に示すように、運転部11には、運転座席12、後輪2の操向操作を行うステアリングホイール13、エンジン回転数の設定のための操作指令を与えるためのハンド操作具81、エンジン回転数の設定のための操作指令を与えるためのフット操作具82、メータパネル90が備えられている。この実施形態では、ハンド操作具81は、運転者の手によって操作されるレバーであり、アクセルレバーとも呼ばれる。さらに、フット操作具82は、運転者の足によって操作されるペダルであり、アクセルペダルとも呼ばれる。なお、ハンド操作具81は、それ自体は公知であるが、操作後の操作位置に摩擦力で位置保持可能に構成されている。フット操作具82は、初期位置(上方揺動位置)に復帰するようにバネ付勢されている。ハンド操作具81の横には変速レバー83が備えられ、フット操作具82の横にはブレーキペダル84が備えられている。
【0024】
図5を用いて、エンジン動力の伝達経路システムについて説明する。
エンジン3からの動力は、第1ベルト伝動機構31を通じて作業系動力伝達ライン3Aに伝達され、第2ベルト伝動機構32を通じて走行系動力伝達ライン3Bに伝達される。作業系動力伝達ライン3Aは、収穫装置6、フィーダ7、残稈処理装置10などに動力を伝達する。作業系動力伝達ライン3Aへのエンジン動力の伝達を入り切りするために、第1ベルト伝動機構31には、作業クラッチ40が備えられている。作業を行わない場合には、作業クラッチ40を切り操作することで、作業系動力伝達ライン3Aへの動力伝達が遮断される。走行系動力伝達ライン3Bには、変速レバー83により変速操作される静油圧式無段変速装置34が介装されている。
【0025】
次に、図6図7とを用いてこの収穫機の制御系を説明する。図6は、制御系における、エンジン回転数の設定に関係する機能要素を示す機能ブロック図である。図7は、運転者によって操作されるハンド操作具81及びフット操作具82と、エンジン回転数の設定を行う中核要素である回転数制御信号生成部50との関係を示す機能ブロック図である。ここでのエンジン回転数の設定に関する制御構成は、図1を用いて説明した基本原理を流用している。
【0026】
図6で示されている制御ユニット5には、制御機能部として、回転数制御信号生成部50、走行判別部51以外に、入力信号処理部52、走行制御部53、作業制御部54、報知制御部55などが含まれている。各制御機能部は、信号伝送ライン、車載LAN、その他のデータ伝送ラインで相互接続されている。
【0027】
入力信号処理部52には、ステアリングホイール13、変速レバー83、ハンド操作具81、フット操作具82などの、運転者によって操作される操作具の操作状態を示す信号が入力される。具体的には、図7に示すように、ハンド操作具81の近傍には、ハンド操作具81の操作位置を検出するポテンショメータからなる第1検出器801が備えられている。フット操作具82の近傍には、フット操作具82の操作位置を検出するポテンショメータからなる第2検出器802が備えられている。つまり、ハンド操作具81の操作量は第1検出器801の検出結果としての検出信号に変換され、フット操作具82の操作量は第2検出器802の検出結果としての検出信号に変換され、入力信号処理部52を介して、回転数制御信号生成部50に送られる。ハンド操作具81の操作位置を初期位置から最大位置に向けて操作するにつれて第1検出器801から出力される検出信号は、アイドル回転数の近傍から最大回転数へのエンジン回転数の変化に対応する。同様に、フット操作具82の操作位置を初期位置から最大位置に向けて操作するにつれて、第2検出器802から出力される検出信号は、アイドル回転数の近傍から最大回転数へのエンジン回転数変化に対応する。
【0028】
入力信号処理部52には、さらに運転状態検出センサ群91からの検出信号が入力する。運転状態検出センサ群91には、例えば、収穫機の車速検出する速度センサ、静油圧式無段変速装置34の変速状態を検出する変速センサ、作業クラッチ40の状態を検出する作業クラッチセンサなどが含まれている。
【0029】
走行制御部53は、入力信号処理部52を介して受け取った変速操作指令に基づいて、走行系動力伝達ライン3Bにおける動作機器、例えば、静油圧式無段変速装置34や制動機器を制御する。作業制御部54は、入力信号処理部52を介して受け取った作業装置操作指令に基づいて、作業系動力伝達ライン3Aにおける動作機器、例えば、作業クラッチ40などを制御する。
【0030】
報知制御部55は、収穫機の走行状態、収穫機の作業状態、エンジン回転数、水温、油圧、燃料残量などをメータパネル90に表示する機能や、運転者に視覚情報及び聴覚情報を与える機能を有する。
【0031】
回転数制御信号生成部50と走行判別部51とは、図1を用いて説明した基本原理を採用している。走行判別部51は、収穫機の作業走行と路上走行とを判別する。走行判別部51における作業走行と路上走行の判別には、種々の方法を用いることができる。この実施形態における回転数制御信号生成部50は、走行系動力伝達ライン3Bの静油圧式無段変速装置34の変速状態、作業系動力伝達ライン3Aの作業クラッチ40の状態、伝動軸の回転速度などを特定し、その特定された状態から作業走行と路上走行とを判別する。その他の判別方法として、収穫機にGPSモジュールなどが搭載されている場合には、GPSモジュールを通じて得られた位置情報に地図情報を照らし合わせて、道路以外を走行しているとみなされると作業走行中であると判別し、道路を走行しているとみなされると路上走行であると判別することも可能である。
【0032】
この実施形態における回転数制御信号生成部50には、モード選択部501、マップ選択部502、検出値比較部503が含まれている。この回転数制御信号生成部50は、図1を用いて説明した制御モード1から4及びそれらの制御モードを組み合わせた制御モードなどのうちの任意の制御モードを使用が可能である。複数の制御モードから使用するモードの選択はモード選択部501によって行われる。検出値比較部503は、第1検出器801(ハンド操作具81の操作位置)から出力される検出信号に対応するエンジン回転数と、第1検出器801(ハンド操作具81の操作位置)から出力される検出信号に対応するエンジン回転数とを比較するために用いられる。
【0033】
マップ選択部502は、選択された制御モードのルールに基づいて決定された回転数制御信号の生成のために利用される検出信号(検出結果)を入力パラメータとして目標回転数(図7においてRで示されている)を導出するテーブルを設定する。回転数制御信号生成部50で生成された回転数制御信号はエンジン制御部30に送られ、エンジン制御部30でエンジン制御信号に変換され、これによりエンジン3の回転数が制御される。
【0034】
なお、この実施形態では、エンジン3は、コモンレール方式のディーゼルエンジンであり、コモンレール接続される電子制御式の複数のインジェクタによる燃料の噴射量及び燃料の噴射タイミング等により、エンジン回転数が変更される。エンジン3には、実際のエンジン回転数を検出して、エンジン制御部30に送る回転数検出センサ20が備えられている。回転数検出センサ20で検出されたエンジン回転数は、制御ユニット5にも転送される。
【0035】
図8には、ハンド操作具81の操作に応じた第1検出器801の検出信号及びフット操作具82の操作量に応じた第2検出器802の検出信号に基づいて、エンジン回転数を制御する際に用いられるテーブル(検量線)が示されている。図8の(a)はハンド操作具81のためのテーブルを示しており、図8の(b)はフット操作具82のためのテーブルを示している。いずれのテーブルも、検出結果である検出値を入力パラメータとしてエンジン3に対する目標回転数を導出するものであり、図8の例では、横軸に検出値、縦軸に目標回転数がとられている。
【0036】
図8の(a)から理解できるように、ハンド操作具81の最小操作変位位置(ゼロ位置)において最小検出値がテーブルに与えられ、アイドリング回転数が導出される。ハンド操作具81の最大操作変位位置において最大回転数または略最大回転数が導出される。エンジン3が最も効率よく駆動する回転数で最大回転数より低い定格回転数は、最大操作変位位置より小さい変位位置で導出される。その際、図に示されているように、テーブルの計量線は定格回転数付近でその傾斜がなだらかとなっており、運転者がエンジン回転数を正確に定格回転数に設定するのを容易にしている。ハンド操作具81は摩擦力によって自己位置保持が可能に構成されているので、運転者が一旦定格回転数に合わせると、次に操作するまで、エンジン3の回転を所望回転数(例えば定格回転数)で維持することができるので、クルージング走行などに好都合である。つまり、この実施形態では、ハンド操作具81を用いた操作によって、エンジン3を最大回転数または略最大回転数まで上げることができる。
【0037】
図8の(b)から理解できるように、フット操作具82の最小操作変位位置(踏込みなし)において最小検出値がテーブルに与えられ、アイドリング回転数が導出される。フット操作具82の最大操作変位位置(限界踏込み)において、定格回転数を超えているが最大回転数よりはかなり低いエンジン回転数が導出される。つまり、フット操作具82を用いた操作では、エンジン3を最大回転数に上昇させることができない。言い換えると、フット操作具82によって作り出される最大のエンジン回転数は、ハンド操作具81によって作り出される最大のエンジン回転数よりも小さくなるように設定されている。ただし、ハンド操作具81によって設定されたエンジン回転数が定格回転数の場合、フット操作具82を限界まで踏込むことで、エンジン3を定格回転数以上に上昇させることが可能である。
【0038】
なお、テーブルを構成する計量線は、図8の(a)では回転数が低い領域において、及び図8の(b)では回転数の全領域において、実質的に直線で示されているが、これを曲線、つまり検出値と目標回転数との関係を2次関係あるいはさらなる高次関係にしてもよい。
【0039】
この実施形態では、第1検出器801及び第2検出器802のうち少なくともいずれかからの検出信号の入力がない異常状態であることを判定すると、正常状態である方の検出信号を用いてエンジン回転数を制御するように構成されている。これにより、ハンド操作具81及びフット操作具82のいずれか一方の操作が制御ユニット5に伝わらなくとも、収穫機は、他方の操作を通じて作業走行の続行が可能となる。さらに、第1検出器801及び第2検出器802の両方からの検出信号の入力がない異常状態であることが判定されると、エンジン回転数をアイドル回転数で制御するように構成されている。これにより、ハンド操作具81及びフット操作具82の両方の操作が制御ユニット5に伝わらなくとも、収穫機はアイドリング回転数でゆっくりと走行することは可能となる。また、これとは異なる他の実施形態として、第1検出器801及び第2検出器802のうち少なくともいずれかからの検出信号の入力がない異常状態であることを判定されるだけで、エンジン回転数をアイドル回転数で制御するように構成してもよい。
【0040】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、コモンレール式のディーゼルエンジンであるエンジン3が例示されているが、コモンレール式でないディーゼルエンジンやガソリンエンジン等の他のエンジンであってもよい。
(2)上述した実施形態では、モード選択部501で使用する制御モードが選択可能であったが、制御モードを固定してもよい。その場合、モード選択部501は省略される。そのような固定された制御モードの例を以下に列挙する。
(2−1)上述した制御モード1と制御モード2の組み合わせ:
この固定制御モードでは、作業走行時には、フット操作具82は無視され、エンジン回転数の設定はハンド操作具81によってのみ行われる。これに対して、路上走行時には、ハンド操作具81は無視され、エンジン回転数の設定はフット操作具82によってのみ行われる。
(2−2)上述した制御モード1と制御モード3の組み合わせ:
この固定制御モードでは、作業走行時には、フット操作具82は無視され、エンジン回転数の設定はハンド操作具81によってのみ行われる。これに対して、路上走行時には、ハンド操作具81が作り出すエンジン回転数とフット操作具82が作り出すエンジン回転数とを比較して、大きい方のエンジン回転数がエンジン3の回転数制御に採用される。
(2−3)上述した制御モード4:
この固定制御モードでは、作業走行時には、ハンド操作具81が作り出すエンジン回転数とフット操作具82が作り出すエンジン回転数とを比較して、大きい方のエンジン回転数がエンジン3の回転数制御に採用される。これに対して、路上走行時には、ハンド操作具81は無視され、エンジン回転数の設定はフット操作具82によってのみ行われる。
なお、上記3つの固定制御モードにおける、作業走行時のハンド操作具81とフット操作具82との取扱いと、路上走行時のハンド操作具81とフット操作具82との取扱いとを相互に入れ替えたものを新たな固定制御モードとして採用してもよい。
(3)上述した実施形態では、ハンド操作具81は、アクセルレバーとも呼ばれるレバータイプであったが、ダイヤルやボタンなどのタイプであってもよい。また、フット操作具82は、アクセルペダルであったが、その他のタイプであってもよい。
(4)本発明におけるエンジン3は、広義に解釈されるべきものであり、内燃機関のみならず、電気モータ、あるいはそれらを複合化したハイブリッドエンジンも含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、上記ホイール式トウモロコシ収穫機の他、イネ、麦、大豆等を収穫するホイール式コンバイン等の種々のホイール式収穫機、さらにはトラクタなどにも利用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 :前輪
2 :後輪
3 :エンジン
6 :収穫装置
11 :運転部
12 :運転座席
13 :ステアリングホイール
20 :回転数検出センサ
30 :エンジン制御部
40 :作業クラッチ
5 :制御ユニット
50 :回転数制御信号生成部
501 :モード選択部
502 :マップ選択部
503 :検出値比較部
51 :走行判別部
52 :入力信号処理部
53 :走行制御部
54 :作業制御部
55 :報知制御部
81 :ハンド操作具
801 :第1検出器
82 :フット操作具
802 :第2検出器
83 :変速レバー
84 :ブレーキペダル
90 :メータパネル
91 :運転状態検出センサ群
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8