【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本実施例の複合振動装置の全体の構成を
図1に示す。
図1は曲げ振動半波長の共振型ホルダー1”にノード数5の細長い複合曲げ振動棒1’を接合した超音波複合曲げ振動工具1を、縦振動駆動源で一軸駆動する斜めスリットを用いた複合振動変換器7の円形または楕円軌跡で振動する先端部に締結ねじ2により設置している。重ね合わせた溶接試料5は静圧力印加制御装置11で大静加圧力および溶接が開始されない小振動振幅で予め安定な状態まで加圧・振動成形し、超音波複合振動溶接チップ4により最適な静加圧力を印加した状態で溶接に必要な振動振幅の複合振動を印加して溶接を行う。斜めスリット複合振動変換器7は段付きホーン8’およびボルト締めランジュバン形縦振動子8”からなる縦振動源8で駆動する。複合振動装置は共振型ホルダーまたは複合曲げ振動棒に非接触で設置した円形軌跡の振動速度のみを検出する複合振動検出器13,13’、または縦振動検出器14の出力電圧を用いた超音波帰還発振器で駆動する。駆動制御には溶接負荷により近い複合振動工具の振動速度に比例した検出器出力電圧を用いることが望ましい。また複合振動による溶接加工前後の溶接試料への印加静加圧力は静加圧力印加制御装置11を用いて最適に制御する。溶接時の静加圧力は複合振動による2次元振動応力により振動印加による溶接試料の変形が急速であり印加静圧力が減少し溶接性能が低下するので、金属ばねを用いた応答速度が速い溶接時静加圧力一定保持用のアクチュエーター11,11’が特に必要である。また溶接試料を安定させるために溶接前に大静加圧力および小振動振幅を用いて試料溶接面が直接接触し安定した状態にする必要がある。溶接後に溶接試料が溶接チップまたは作業台に凝着した場合には小静加圧力の下で振動を印加し剥離させる。
【0017】
図2は共振型円錐形ホルダーに複合曲げ振動棒をろう接または焼き填め等により接合した細長い複合振動加工工具1を円形から楕円軌跡で振動する複合振動変換器7にねじ接合2により設置する状態を示しており、ホルダー直径が大なため溶接工具を垂直に設置してねじ接合により容易に交換可能である。またねじ接合で設置するためホルダーおよび設置面の平面仕上げが容易である。
【0018】
図3は曲げ振動半波長の金型用鋼材SKD11製の基部直径15mm、先端部直径12mmの円錐形ホルダーに焼き填めで一体化した直径3.0mm、長さ79mmの超硬合金製の複合曲げ振動工具に沿った19.5kHzでの曲げ振動分布をレーザードップラー振動計を用いて実際に測定した結果である。先端部の振動軌跡は伝送特性が同一のレーザードップラー振動計2台を用いて測定している。測定時の振動振幅は温度上昇による共振周波数の変化を避けるため比較的小振動振幅で駆動している。縦振動方向および直角方向の振動分布はほぼ同一である。ホルダー長さは半波長よりわずかに短いが、複合曲げ振動棒長さを調整することにより駆動用複合振動変換器と同一の周波数で共振させることが出来る。また複合曲げ振動棒側に振動ループが存在し、振動振幅が増加していることがわかる。これにより共振型ホルダーは半波長および半波長の整数倍前後の長さでよく、曲げ振動棒長さの調整のみで複合振動工具全体を希望モードで共振させることが可能である。
【0019】
曲げ振動工具の材質は剛性が大で溶接時のたわみ変形が小で溶接部のずれが小であり、また音速が大で振動工具の必要長さに対してノード数が少ない方が長さ調整が比較的容易である材料が必要である。また超音波溶接時の先端チップ部の損耗が少ない必要がある。この目的では超硬合金、タングステン等が必要である。また密度が13.9,18.6前後で鉄鋼材等に比べて大なため振動棒の振動エネルギーが大になる。また振動工具の駆動系から見込んだ等価質量も大になるため振動工具共振周波数での振動帰還発振制御に有利となる。
ここで使用した超硬合金棒の音速の測定値は約6,409m/sである。
【0020】
図4は共振型ホルダーに複合曲げ振動棒を接合した複合曲げ振動工具を先端部に4カ所の設置部分を有する斜めスリット複合振動変換器7(特開2005−288351)に設置した例である。複合振動変換器は縦振動源で一軸構成で駆動し、斜めスリット部で縦−ねじり振動変換を行い、中央付近の凸部で変換器の縦振動およびねじり振動共振周波数が一致するように設計されている。縦振動のノード部が凸部中央付近に存在するように設計されており、この部分と駆動用縦振動系のノード部のフランジで加圧静圧力を受けている。
【0021】
図5は音速の異なる金属円環対を用いた縦ー曲げ振動変換器18を介して縦振動および曲げ振動共振周波数を一致させた複合振動変換対19により駆動する複合振動変換器を用いた複合曲げ振動加工装置の概略図である。変換器先端部で垂直成分が殆ど無い平面内で円形から楕円軌跡で振動する。金属円環対19は音速の異なる金属円環19’、19”を斜めに切断して組み合わせてあり縦振動8源で駆動することにより曲げ振動を励振する。特開2008−212916
【0022】
図6は金属円環対19を用いた複合振動変換器18の横方向に一様な円形軌跡で振動する先端部に複数の複合曲げ振動工具1を設置した例である。
【0023】
図7は静加圧力制御装置11の、超音波溶接の溶接前、溶接時、溶接後の静加圧力、溶接チップ振動振幅、溶接試料高さの時間的変化を示している。
溶接前の静加圧力印加と溶接時静加圧力印加の間は溶接チップと溶接試料を動かさなければ静加圧力が不連続でも問題は無い。
【0024】
図8は円形または楕円振動速度のみを検出する電磁型の複合曲げ振動検出器13の構成を示している。振動系に非接触で直接設置が可能な縦振動の電磁型振動検出器14は知られているが(註1)、複合振動のみを検出する非接触で直接設置が可能な検出器は存在していない。
【0025】
図7、24は振動検出の原理図で振動体の円形軌跡で振動する速度ベクトルVとこれに直交する円環状の磁石による振動体表面に垂直な磁界Φ、およびこれらに直交した電流Iを示している。これにより振動体表面に垂直な磁界に対してレンツの法則で決まる方向の渦電流が発生する。
【0026】
図7、25は複合振動検出器の構成である。複合曲げ振動系に非接触で厚さ方向にNSの極性を有する環状磁石29を設置して、両側に検出用環状コイル2個31を配置し検出器を構成している。環状磁石の両側では磁束の向き29’が反対なため磁束と振動速度28で発生する渦電流30の向きは逆極性になる。また通常の直線振動軌跡の曲げ振動では振動方向の両側で発生する渦電流の向きが逆極性になるため相殺され振動は検出されない。
【0027】
図7、26は検出器の接続図および並列共振用コンデンサの等価回路を示す。両側の同極性の渦電流検出用環状コイル31に誘起する電圧34E1、E2は逆極性となるので検出用コイルは逆極性に接続する。接続した両検出コイルに並列に振動系の共振周波数と同一になる値の共振用コンデンサ33を出力用ケーブルの静電容量を考慮して挿入することにより出力電圧35が増加し、かつ周波数選択度を有する検出器が得られる。
【0028】
前項の2個の検出コイル31は形状が同一で、インダクタンスもほぼ同一のコイルを逆極性に接続することにより外乱を相殺して安定な出力を得ることが出来る。また検出器全体は静電シールド36し、独立気泡スポンジ等で振動を絶縁し振動体に設置している。振動装置への振動検出器設置の影響はきわめて小で無視できる。電磁型の振動速度検出器の直線性は良好である。
【0029】
上記の各項目の機能を総合することにより狭く深い場所の超音波溶接が可能な効率的で安定な溶接部の強度が大で溶接試料の損傷が少ない超音波複合振動加工装置を実現できる。
【0030】
この超音波複合振動装置は超音波溶接のみならず切削加工、マイクロフライス加工等にも有効に適用できる。