(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の安全性への関心の高まりに伴い、低燃費性のみならず、操縦安定性についても要求が高まってきた。これに対応するため、タイヤ性能についても転がり抵抗を減らした低発熱性ならびに湿潤路面及び乾燥路面での操縦安定性、耐摩耗性を高度に満足するタイヤが求められてきている。また、このような要求に対して、補強用充填剤を改良すること及びゴム成分を改良することが行われている。
従来から、ゴム補強用充填剤としては、カーボンブラックが使用されている。これは、カーボンブラックがゴム組成物に高い耐摩耗性を付与し得るからであるが、カーボンブラックの単独使用でウェットグリップ性能、耐摩耗性、低燃費性が高いレベルでバランスしたゴム組成物を得ることは困難であり、その改良法としてカーボンブラックの代わりにシリカを配合することが行われている。しかしながら、シリカを充填剤として用いた場合、カーボンブラックの配合量が相対的に減少するため、ゴム組成物の破壊強度、耐摩耗性が低下することは免れないことが分かっている。また、シリカはゴムへの分散性が悪く、混練りを行う際のゴム組成物のムーニー粘度が高くなり、押出しなどの加工性に劣るという問題がある。
【0003】
特許文献1〜3には、耐摩耗性を低下させることなく低燃費性およびウェットグリップ性能に優れるゴム組成物を得る目的で、ゴム成分と充填剤としてカーボンブラック、シリカの外、無機化合物粉体を含むタイヤトレッド用ゴム組成物が提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に記載されるゴム組成物は、ウェットグリップ性能および燃費の改善効果を十分得るためには無機化合物粉体を比較的多く配合する必要があり、その場合、耐摩耗性が低下し易い傾向があるため、ウェットグリップ性能、耐摩耗性および低燃費性のバランスにさらに優れたタイヤ用ゴム組成物は得られていない。
【0005】
また、特許文献4には、ジエン系ゴム成分、シリカと共にアグリゲートの二次元投影画像解析から算出した特性やDBP、N
2SA等の性状を特定したカーボンブラックを使用することによってウェットグリップ性能、耐摩耗性を向上させたタイヤトレッド用ゴム組成物が提案されているが、ウェットグリップ性能、耐摩耗性に加えて低燃費性を十分に満足するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
本発明のゴム組成物は、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)又はスチレン−ブタジエンゴム(SBR)とブタジエンゴム(BR)からなるゴム成分に表面活性の高い微粒径のカーボンブラックをゴム成分100質量部に対して2〜200質量部配合してなることを特徴とするものである。
本発明に用いられるゴム成分としては、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)が挙げられ、ブタジエンゴム(BR)が40質量%以下のスチレン−ブタジエンゴム(SBR)とブタジエンゴム(BR)からなることが好ましい。さらに、ブタジエンゴムは分子内の活性部位にカーボンブラックとの反応性の高い官能基が導入された変性ブタジエンゴムであることがより好ましい。変性ブタジエンゴムとは、例えば重合活性末端、重合開始末端及び重合鎖中のいずれかにケイ素原子、スズ原子、硫黄原子、酸素原子及びチタン原子から選ばれる少なくとも1つを含む変性基及び/又は一級アミン、二級アミン、三級アミン及び環状アミンから選ばれる構造を含む変性基を有するブタジエンゴムである。
【0012】
本発明のゴム組成物では、特定の特性を有する新規のカーボンブラックを配合することにより、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を向上することができる。カーボンブラックの配合量は、ゴム成分100質量部に対し2〜200質量部、好ましくは5〜100質量部、さらに好ましくは5〜50質量部である。カーボンブラックの配合量が2質量部未満であると、耐摩耗性が悪化する。またカーボンブラックの配合量が200質量部を超えると、低燃費性が悪化する。
【0013】
本発明で使用するカーボンブラックは、次のような特性を有する新規のカーボンブラックである。
1.水素放出率が0.2質量%以上、または
2. N
2SA/CTABの比が1.2〜1.5
さらに好ましくは、次のような特性のうち少なくとも1つの特性を有する新規のカーボンブラックである。
3.窒素吸着比表面積(N
2SA)が160〜300m
2/g
4.ジブチルフタレート(DBP)吸収量は、100〜150ml/100g
5.沃素吸着比表面積(IA)は、180〜300m
g/g
6.比着色力が120〜150
7.トルエン着色透過度が90以上
【0014】
上記の水素放出率は、105℃の恒温乾燥器中で1時間乾燥したカーボンブラックをデシケータ中で室温まで冷却した後、スズ製のチューブ状のサンプル容器に入れて圧着、密栓し水素分析装置でアルゴン気流下、2000℃で15分加熱した時の水素ガス発生量を測定し、質量分率で表したものである。水素放出量が多いと耐摩耗性が向上する。
窒素吸着比表面積(N
2SA)は、JIS K6217−2に準拠して、測定する。
窒素吸着比表面積(N
2SA)は、160〜300m
2/gであることが好ましく、さらに180〜240m
2/gであることが好ましい。N
2SAが160m
2/g未満であると、耐摩耗性が悪化し、300m
2/gを超えると転がり抵抗が悪化する。
【0015】
CTAB吸着比表面積は、JIS K6217−3に準拠して、測定する。
N
2SA/CTAB比表面積の比は、1.2〜1.5が好ましく、N
2SA/CTAB比表面積の比が1.2未満では耐摩耗性が悪化し、1.5より大きいと転がり抵抗が悪化する。
【0016】
上記の水素放出率及び窒素吸着比表面積(N
2SA)とCTAB吸着比表面積の比N
2SA/CTABがカーボンブラックの表面活性特性を表す指標となる。本発明で使用するカーボンブラックは、これらの値が上記範囲のものである。
【0017】
さらに、DBP吸収量は、JIS K6217−4吸油量A法に準拠して、測定する。
DBP吸収量が、100〜150ml/100gであり、好ましくは110〜140ml/100gである。DBP吸収量が100ml/100g未満であると耐摩耗性が不足する。またゴム組成物の成形加工性が低下し、カーボンブラックの分散性が悪化するのでカーボンブラックの補強性能が十分に得られない。DBP吸収量が150ml/100gを超えると、粘度が高くなり加工性が悪化する。
【0018】
沃素吸着比表面積(IA)は、JIS K6217−1で測定する。
IAは、180〜300m
g/g、好ましくは200〜270m
g/gである。
また、本発明で使用するカーボンブラックの比着色力は、JIS K6217−5に記載のフォートクロン法で測定し、120〜150であり、好ましくは、130〜140である。
そして、トルエン着色透過度は、JIS K6218−4に記載の方法で測定し、90以上が好ましく、90未満の場合転がり抵抗が悪化する恐れがある。
【0019】
上述した特性を有するカーボンブラックは、通常のカーボンブラックの製造装置を用いて、原料供給箇所、原料供給量、原料供給温度、燃料油供給量、燃料霧化空気供給量、燃焼用空気供給量、燃焼用空気温度、反応停止箇所などの製造条件を調整して製造することができる。
【0020】
本発明のゴム組成物において、シリカを配合することによりウェットグリップ性能を改良する。シリカとしては、市販のあらゆるものが使用でき、なかでも湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカを用いるのが好ましく、湿式シリカを用いるのが特に好ましい。シリカのBET比表面積(ISO 5794/1に準拠して測定する)としては50〜300m
2/g、好ましくは100〜230m
2/gのものを使用する。シリカのBET比表面積が50m
2/g未満であると、充填剤としての補強性が不十分になり、耐摩耗性が低下する。また、シリカのBET比表面積が300m
2/gを超えると、シリカを良好に分散させるのが困難になり、ウェットグリップ性能を改良する効果が十分に得られない。
このようなシリカとしては東ソーシリカ社製、商品名「ニプシルAQ」(BET比表面積=190m
2/g)、デグサ社製商品名「ウルトラジルVN3」(BET比表面積=175m
2/g)等の市販品を用いることができる。シリカは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明のタイヤに使用されるゴム組成物において、低発熱性、耐摩耗性を満足させるためには、シリカの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し20〜130質量部、好ましくは50〜130質量部にする。シリカの配合量が20質量部未満では、ウェットグリップ性能を改良する効果が十分に得られない。またシリカの配合量が130質量部を超えると、耐摩耗性が低下する。
【0021】
また、シリカと共にシランカップリング剤を配合することにより、ジエン系ゴムに対するシリカの分散性を改良することができ、好ましい。シランカップリング剤の配合量は、シリカの配合量に対し、好ましくは3〜15質量%、より好ましくは4〜10質量%にする。シランカップリング剤の配合量が3質量%未満であると、シリカの分散性を十分に改良することができない。また、シランカップリング剤の配合量が15質量%を超えると、シランカップリング剤同士が凝集・縮合してしまい、所望の効果を得ることができなくなる。
【0022】
シランカップリング剤の種類としては、特に制限されるものではないが、硫黄含有シランカップリング剤が好ましい。硫黄含有シランカップリング剤としては、例えば、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。
【0023】
本発明では、シリカとカーボンブラックとを共に使用することにより、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を兼備する。シリカ及びカーボンブラックの配合量の合計は、ジエン系ゴム100質量部に対し60〜160質量部、好ましくは70〜140質量部にする。シリカ及びカーボンブラックの合計が60質量部未満であると、十分なウェットグリップ性能が得られない。またシリカ及びカーボンブラックの合計が160質量部を超えると、ウェットグリップ性能の持続性が悪化すると共に、耐摩耗性が悪化する。
【0024】
本発明のゴム組成物には、加硫剤又は架橋剤、加硫促進剤、各種無機充填剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができ、これらの添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
本発明のゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0025】
本発明のタイヤ用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、ウェットグリップ性能、耐摩耗性及び低燃費性を従来レベル以上に向上することができ、各種車両用の空気入りタイヤとして好適に使用することができる。
【実施例1】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0027】
製造例1〜6
カーボンブラックCB1〜6の製造
図1に示す上流部より、第一領域(図示せず):燃料導入部(内側直径680mm、長さ900mm)、第二領域:原料導入部(上流端内側直径435mm、下流端内側直径220mm、長さ1000mm、テーパー角6.1°)、狭小円筒部(内側直径220mm、長さ190mm)、第三領域:反応停止用急冷水圧噴霧装置を備えた反応継続兼冷却室(内側直径365mm、長さ1200mm)を有するカーボンブラック製造炉を用い、原料油として表1に示した重質油を使用し、表2に示した操作条件によりCB1〜6のカーボンブラックを製造した。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
製造例7
変性ブタジエンゴム(変性BR)の製造
乾燥し、窒素置換された800mLの耐圧ガラス容器に、1,3−ブタジエン60gのシクロヘキサン溶液(20質量%)、2,2−ジテトラヒドロフリルプロパン0.70mmolを加え、さらに、n−ブチルリチウム(BuLi)0.70mmolを加えた後、50℃の温水浴中で1.5時間重合反応を行った。この重合転化率はほぼ100%である。
その後、重合系に、四塩化スズ(SnCl
4)0.20mmolを加えて30分変性反応を行った。最後に重合反応系に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)のイソプロパノール5質量%溶液2mLを添加し、反応を停止させた。その後、真空乾燥して変性BRを得た。
得られた共重合体は、重量平均分子量10万である。
【0031】
実施例、比較例で使用したカーボンブラックCBの性状の測定及び得られたゴム組成物の特性の評価は下記の方法で行った。
CBの測定
1.沃素吸着比表面積
JIS K6217−1に準拠して測定し、カーボンブラック単位質量当たりのヨウ素の吸着量mg/gで表示する。
2.N
2SA吸着比表面積
JIS K6217−2に準拠して、測定し、カーボンブラック単位質量当たりの比表面積m
2/gで表示する。
3.CTAB吸着比表面積、
JIS K6217−3に準拠して、測定し、カーボンブラック単位質量当たりの比表面積m
2/gで表示する。
4.DBP吸収量
JIS K6217−4吸油量A法に準拠して、測定し、カーボンブラック100g当たりに吸収されるジブチルフタレート(DBP)の体積mlで表示する。
【0032】
5.比着色力
JIS K6217−5に記載のフォー
トクロン法で測定する。
6.トルエン着色透過度
JIS K6218−4に記載の方法で測定し、純粋なトルエンと比較した百分率で表される。
7.水素放出率
1)カーボンブラック試料を105℃の恒温乾燥器中で1時間乾燥し、デシケータ中で室温まで冷却する。
2)スズ製のチューブ状サンプル容器に約10mgを精秤し、圧着、密栓する。
3)水素分析装置(堀場製作所EMGA621W)でアルゴン気流下、2000℃で15分加熱した時の水素ガス発生量を測定し、質量分率を求める。
【0033】
耐摩耗性
実車にて、舗装路面を1万km走行後、残溝を測定し、トレッドが1mm摩耗するのに要する走行距離を相対比較し、比較例のタイヤを100(8000km/mmに相当)として、指数表示した。数値が大きい程、耐摩耗性が良好なことを示す。
【0034】
低燃費性
サイズ195/65R15のタイヤを作製し、回転ドラムにより、80km/hの速度で回転させ、荷重4.4kNとして、転がり抵抗を測定した。比較例のタイヤの転がり抵抗の逆数を100として、指数表示した。数値が大きい程、転がり抵抗が低く、低燃費性であることを示す。
【0035】
ウェットグリップ性能(0℃、tanδ)
粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を使用し、温度0℃、歪み1%、周波数15Hzで損失正接tanδを測定した。比較例の数値を100として指数表示した。数値が大きい程、ウェットグリップ性能が良好なことを示す。
【0036】
実施例、比較例で使用したカーボンブラックCB1〜6の性状を上記の測定方法により測定した結果を表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
実施例1〜4、比較例1〜2
表3に示す6種類のカーボンブラックを用いて、表4に従う配合処方でゴム成分としてSBRのみを使用したゴム組成物をバンバリーミキサーにて混練して調製した。
得られた各ゴム組成物を上記の評価方法により評価した。結果を表4に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
実施例5〜8、比較例3〜4
表3に示す6種類のカーボンブラックを用いて、表5に従う配合処方でゴム成分としてSBRと市販のブタジエンゴムを使用したゴム組成物をバンバリーミキサーにて混練して調製した。
得られた各ゴム組成物を上記の評価方法により評価した。結果を表5に示す。
【0041】
【表5】
【0042】
実施例9〜13、比較例5〜6
表3に示す6種類のカーボンブラックを用いて、表6に従う配合処方でゴム成分としてSBRと製造例7で製造した変性ブタジエンゴムを使用したゴム組成物をバンバリーミキサーにて混練して調製した。
得られた各ゴム組成物を上記の評価方法により評価した。結果を表6に示す。
【0043】
【表6】
【0044】
注(表4−6)
1:SBR#1500(JSR社製)
2:BR NF35R(旭化成社製)
3:製造例7で製造したもの
4:ニプシルAQ(東ソーシリカ社製)
5:Si69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、EVONIK Industries社製)
6:ノックラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N‘−フェニル−p−フェニレンジアミン、大内新興化学工業社製)
7:ノックセラーD(ジフェニルグアニジン、大内新興化学工業社製)
8:ノックセラーDM−P(ベンゾチアジルジスルフィド、大内新興化学工業社製)
9:ノックセラーNS−P(N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、大内新興化学工業社製)
【0045】
表4−6から明らかなように、水素放出率が本発明の範囲内のカーボンブラックを使用した本発明のゴム組成物は、従来のカーボンブラック又は水素放出率が本発明の範囲外のものを使用したゴム組成物に比べて低燃費性は若干低下するものの、耐摩耗性が向上することが分かる。特に、ゴム成分にBR、さらに変性BRをSBRと併用すると低燃費性も低下せず、耐摩耗性が大幅に向上している。