特許第6397844号(P6397844)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤンマー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6397844-船舶 図000002
  • 特許6397844-船舶 図000003
  • 特許6397844-船舶 図000004
  • 特許6397844-船舶 図000005
  • 特許6397844-船舶 図000006
  • 特許6397844-船舶 図000007
  • 特許6397844-船舶 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397844
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 20/00 20060101AFI20180913BHJP
   B63H 25/42 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   B63H20/00 803
   B63H25/42 G
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-62860(P2016-62860)
(22)【出願日】2016年3月25日
(65)【公開番号】特開2017-171262(P2017-171262A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】特許業務法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 学司
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 淳
【審査官】 畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−234494(JP,A)
【文献】 特開2009−243590(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0352476(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 20/00
B63H 25/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力により船体に推進力を発生させる推進装置と、
前記船体の現在位置、船首方向及び移動速度を検出する検出手段と、
前記推進装置の出力の大きさ及び方向を変更するためのシフトレバーと、
前記シフトレバーの操作位置を検出するレバーセンサと、
前記推進装置、前記検出手段、及び、前記レバーセンサと接続され、前記推進装置の運転状態及び前記検出手段とレバーセンサによる検出結果を取得するとともに、当該検出結果に基づいて前記推進装置を制御する制御装置と、を備え、
前記シフトレバーの操作位置は、少なくとも前進、中立、後進、ポジショニングの四つを含み、
前記制御装置は、前記レバーセンサによって検出された前記シフトレバーの操作位置がポジショニングの場合、定点保持制御を実行することを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記エンジンの回転数を制御するアクセルペダルと、
前記アクセルペダルの操作量を検出するとともに、前記制御装置に当該検出したアクセルペダルの操作量を送信するアクセルセンサと、をさらに備え、
前記制御装置は、前記レバーセンサによって検出された前記シフトレバーの操作位置と前記アクセルセンサによって検出された前記アクセルペダルの操作量とに基づいて前記推進装置の出力を制御する請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記制御装置は、前記レバーセンサによって検出された前記シフトレバーの操作位置に応じて、前記推進装置の最大出力を制御する請求項1又は2に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に関し、特に船舶を車両感覚で操作可能とする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、保持スイッチをオンにすることで船舶の定点保持制御を開始する技術が開示されている。また、一般的な船舶には、前進位置、中立位置、後進位置でシフトチェンジする機構が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−243590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
船舶の操船操作は特有のものであり、陸上の車両の操作方法とは大きく異なっている部分が多いため、初心者は操船操作に慣れるまでに時間を要する。本発明は、このような状況を鑑み、船舶を車両感覚で操作するための技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
エンジンからの動力により船体に推進力を発生させる推進装置と、前記船体の現在位置、船首方向及び移動速度を検出する検出手段と、前記推進装置の出力の大きさ及び方向を変更するためのシフトレバーと、前記シフトレバーの操作位置を検出するレバーセンサと、前記推進装置、前記検出手段、及び、前記レバーセンサと接続され、前記推進装置の運転状態及び前記検出手段とレバーセンサによる検出結果を取得するとともに、当該検出結果に基づいて前記推進装置を制御する制御装置と、を備え、前記シフトレバーの操作位置は、少なくとも前進、中立、後進、ポジショニングの四つを含み、前記制御装置は、前記レバーセンサによって検出された前記シフトレバーの操作位置がポジショニングの場合、定点保持制御を実行する。
【0006】
前記エンジンの回転数を制御するアクセルペダルと、前記アクセルペダルの操作量を検出するとともに、前記制御装置に当該検出したアクセルペダルの操作量を送信するアクセルセンサと、をさらに備え、前記制御装置は、前記レバーセンサによって検出された前記シフトレバーの操作位置と前記アクセルセンサによって検出された前記アクセルペダルの操作量とに基づいて前記推進装置の出力を制御する。
【0007】
前記制御装置は、前記レバーセンサによって検出された前記シフトレバーの操作位置に応じて、前記推進装置の最大出力を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、船舶を車両感覚で操作するための技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】船舶の基本構成を示す図
図2】エンジンとアウトドライブ装置を示す図
図3】操船制御のブロック図
図4】シフトレバーの構成を示す図
図5】車両感覚操船のフローを示す図
図6】車両感覚操船のフローを示す図
図7】車両感覚操船のフローを示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1及び図2を用いて船舶100について説明する。本実施形態の船舶100は、いわゆる二軸推進方式の船舶を示しているが、推進軸の数はこれに限定されるものではなく、複数の軸を有するものであればよい。
【0011】
船舶100は、船体1に二機のエンジン10及び二台のアウトドライブ装置20を備える。推進装置である各アウトドライブ装置20はエンジン10によって駆動され、アウトドライブ装置20の推進用プロペラ25を回転させることで船体1に推進力を発生させる。船体1には、船舶100を操作するための操作具としてアクセルペダル2、ステアリング3、ジョイスティックレバー4、シフトレバー41、及び、ブレーキペダル42等が具備される。これらの操作具の操作に応じて、エンジン10の運転状態、及び、アウトドライブ装置20による推進力及びその作用方向が制御される。
【0012】
なお、本実施形態において、船舶100は二機のエンジン10及び二台のアウトドライブ装置20を具備するスタンドライブ船としているがこれに限定されるものではなく、例えば、複数の推進軸を有するシャフト船やPOD式の推進機を有する船舶でもよい。
【0013】
船体1のステアリング3又はジョイスティックレバー4を操作することによってアウトドライブ装置20の出力方向を変更して船舶100の進路変更を行うことが可能である。そして、船体1には、船舶100の操船制御を行うための操船制御装置30が備えられている。
【0014】
船体1には、アウトドライブ装置20を制御して操船するための操作手段として、ステアリング3、ジョイスティックレバー4、シフトレバー41及びブレーキペダル42、並びに、船体1の現在位置、船首方向及び移動速度を検出する検出手段5として、船体1の現在位置及び移動速度を検出するGNSS装置5a、船首方向を検出するヘディングセンサ5bが具備される。GNSS装置5aは、衛星測位システムによって所定時間毎の船体1の現在位置を取得することで、船体1の現在位置に加えて、位置移動に基づいた移動速度及び移動方向を検出する。また、ヘディングセンサ5bによって検出される船首方向の時間あたりの変化量に基づいて回頭速度が検出される。さらに、船体1には、ステアリング3等の近傍に操作具の操作状況や検出手段5による検出結果等を表示するモニタ6が設置される。
【0015】
なお、本実施形態において、GNSS装置5aとヘディングセンサ5bからなる検出手段5によって船体1の現在位置、船首方向、移動速度等を検出しているがこれに限定されるものではない。例えば、船体の現在位置を検出するためのGNSS装置と、船体の船首方向を検出するジャイロセンサと、船体の対水速度を検出する電磁式ログと、を用いて別々に検出する構成としてもよいし、GNSS装置のみで現在位置、船首方向、移動速度等の全てを検出する構成としてもよい。
【0016】
ECU15は、エンジン10を制御するものであり、各エンジン10に設けられる。ECU15には、エンジン10の制御を行うための種々のプログラムやデータが格納される。ECU15は、CPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であってもよく、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であってもよい。
【0017】
ECU15は、エンジン10の図示しない燃料供給ポンプの燃料調量弁、燃料噴射弁、及び、各種機器の運転状況を検出する各種センサと電気的に接続される。ECU15は、燃料調量弁の供給量、燃料噴射弁の開閉を制御するとともに、各種センサが検出した情報を取得する。
【0018】
アウトドライブ装置20は、推進用プロペラ25を回転させることによって船体1に推進力を発生させるものである。アウトドライブ装置20は、入力軸21、切換クラッチ22、駆動軸23、出力軸24及び推進用プロペラ25を具備する。本実施形態では、一機のエンジン10に対して一台のアウトドライブ装置20が連動連結されている。なお、エンジン10に対するアウトドライブ装置20の台数は、本実施形態に限定されるものではない。また、ドライブ装置は、本実施形態のアウトドライブ装置20に限定されるものではなく、エンジンによって直接的又は間接的にプロペラが駆動されるものやPOD式のものでもよい。
【0019】
入力軸21は、エンジン10の回転動力を切換クラッチ22に伝達する。入力軸21の一端部は、エンジン10の出力軸10aに取り付けられたユニバーサルジョイントと連結され、その他端部は、アッパーハウジング20Uの内部に配置された切換クラッチ22と連結される。
【0020】
切換クラッチ22は、入力軸21等を介して伝達されたエンジン10の回転動力を正回転方向又は逆回転方向に切り換え可能である。切換クラッチ22は、ディスクプレートを備えるインナードラムと連結された正回転用ベベルギア、及び、逆回転用ベベルギアを有する。切換クラッチ22は、入力軸21に連結されたアウタードラムのプレッシャープレートをいずれかのディスクプレートに押し付けて動力を伝達する。また、切換クラッチ22は、プレッシャープレートをいずれかのディスクプレートに不完全に押し付ける半クラッチ状態とすることで、エンジン10の回転動力の一部を推進用プロペラ25に伝達可能に構成されるとともに、プレッシャープレートをいずれのディスクプレートにも押し付けない中立位置とすることでエンジン10の回転動力を推進用プロペラ25に伝達不能に構成される。
【0021】
駆動軸23は、切換クラッチ22等を介して伝達されたエンジン10の回転動力を出力軸24に伝達する。駆動軸23の一端に設けられたベベルギアは、切換クラッチ22の正回転用ベベルギア及び逆回転用ベベルギアと歯合し、他端に設けられたベベルギアは、ロアハウジング20Rの内部に配置された出力軸24のベベルギアと歯合する。
【0022】
出力軸24は、駆動軸23等を介して伝達されたエンジン10の回転動力を推進用プロペラ25に伝達する。出力軸24の一端に設けられたベベルギアは、上述したように駆動軸23のベベルギアと歯合し、他端には推進用プロペラ25が取り付けられている。
【0023】
推進用プロペラ25は、回転することによって推進力を発生させる。推進用プロペラ25は、出力軸24等を介して伝達されたエンジン10の回転動力によって駆動され、回転軸25a周りに配置された複数枚のブレード25bが周囲の水をかくことによって推進力を発生させる。
【0024】
アウトドライブ装置20は、船体1の船尾板(トランサムボード)に取り付けられたジンバルハウジング1aに支持されている。具体的には、アウトドライブ装置20は、その回動支点軸であるジンバルリング26が喫水線wlから略垂直方向となるようにジンバルハウジング1aに支持されている。
【0025】
ジンバルリング26の上部は、ジンバルハウジング1a(船体1)の内部に延設され、その上端に操舵アーム29が取り付けられている。そして、操舵アーム29を回動させることでジンバルリング26が回動し、ジンバルリング26を中心にアウトドライブ装置20が回動する。操舵アーム29は、ステアリング3やジョイスティックレバー4の操作に連動して作動する油圧アクチュエータ27によって駆動される。油圧アクチュエータ27は、ステアリング3やジョイスティックレバー4の操作に応じて作動油の流れ方向を切り換える電磁比例制御弁28によって制御されている。
【0026】
以下、図3から図7を用いて、操船制御装置による船舶の操船制御構成について説明する。図3に示すように、操船制御装置30は、アクセルペダル2、ステアリング3、ジョイスティックレバー4、シフトレバー41及びブレーキペダル42等の操作具からの検出信号に基づいてエンジン10及びアウトドライブ装置20を制御する。また、操船制御装置30は、検出手段5(GNSS装置5a・ヘディングセンサ5b)から船体1の現在位置、移動速度、移動方向、船首方向及び回頭量に関する情報を取得する。そして、操船制御装置30は、検出手段5による検出結果と各操作具の操作とに基づいて船舶100を操船制御する。
【0027】
操船制御装置30は、エンジン10及びアウトドライブ装置20の制御を行うための種々のプログラムやデータが格納される。操船制御装置30は、CPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であってもよく、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であってもよい。
【0028】
操船制御装置30は、アクセルペダル2、ステアリング3、ジョイスティックレバー4、シフトレバー41及びブレーキペダル42等と接続され、これらの操作具を操作した際に各種センサによって生成される検出信号を取得する。
【0029】
具体的には、図3に示すように、操船制御装置30は、アクセルペダル2の操作量である踏み込み量を検出するアクセルセンサ51、ステアリング3の操作量である回動角を検出するステアリングセンサ52、ジョイスティックレバー4の操作角度・操作量等を検出するセンサ、シフトレバー41の操作位置を検出するレバーセンサ53、及び、ブレーキペダル42の操作量である踏み込み量を検出するブレーキセンサ54と電気的に接続されており、これらのセンサから送信される検出信号に基づいた検出値をそれぞれの操作量として取得している。
【0030】
操船制御装置30は、各エンジン10のECU15と電気的に接続され、ECU15が取得するエンジン10の運転状況に関する各種検出信号を取得する。他方、操船制御装置30は、ECU15に各エンジン10(ECU15)の電源の入り切りするための信号、燃料供給ポンプの燃料調量弁、及び、その他エンジン10の各種機器を制御するための制御信号を送信する。操船制御装置30は、各アウトドライブ装置20の電磁比例制御弁28と電気的に接続され、各操作具からの制御信号に基づいて電磁比例制御弁28を制御して、操舵する。
【0031】
次に、図4を用いて、シフトレバー41の構成について説明する。図4に示すように、シフトレバー41の周囲には、その操作をガイドするためのレバーガイド43が設けられる。このレバーガイド43では、前進(S,1,2,3)、中立(N)、後進(R)が直線上に配置され、中立(N)の側方にポジショニング(P)が配置されており、それぞれの位置でシフトレバー41を保持可能に構成されるとともに、レバーセンサ53によって、シフトレバー41が保持されているシフト位置が検出される。シフトレバー41は、レバーガイド43に沿って、中立(N)位置から前進(S,1,2,3)位置、後進(R)位置までは一方向に沿って操作され、中立(N)位置からポジショニング(P)位置まではそれと直交する方向に沿って操作される。
【0032】
このように、本実施形態のシフトレバー41の操作位置は、四種の前進、中立、後進、ポジショニングの計七つの位置を含んでいる。前進位置においては、複数段の速度位置が設けられており、前進(S)ではトローリング(超低速)、前進(1)では低速、前進(2)では中速、前進(3)では高速と、それぞれ速度域別に設定されている。なお、シフトレバー41のポジションは本実施形態に限定されるものではなく少なくとも前進、中立、後進、ポジショニングの四つの位置を含むものであればよい。また、レバーガイド43の形状は本実施形態のものに限定されるものではないが、ポジショニング位置への操作方向は、中立位置から前進位置又は後進位置への操作方向と異なる方向になるように構成することが好ましい。
【0033】
そして、シフトレバー41をポジショニング(P)位置に操作することで定点保持制御が実行される。定点保持制御とは、船舶100の位置と船体1の船首の方位を保持する制御である。定点保持制御においては、風力や潮力などの外力に対して、二つのアウトドライブ装置20による推進力が釣り合うように、各エンジン10のECU15及び各アウトドライブ装置20が制御される。
【0034】
具体的には、シフトレバー41の操作位置がポジショニング位置であることをレバーセンサ53によって検出し、その検出結果を操船制御装置30が取得したときに、操船制御装置30は、検出手段5から取得した船体1の現在位置、移動速度、移動方向、船首方向及び回頭量に関する情報に基づいて目標移動量、目標移動方向、目標回頭量を算出し、その算出結果に従って各エンジン10の運転状況と各アウトドライブ装置20の推進力の出力及び方向を制御する。このような操船制御装置30の定点保持制御により、水上の設定位置及び設定方位に船舶100を自動的に保持することができる。
【0035】
また、シフトレバー41は、その操作位置に応じてエンジン10の最大回転数が設定されており、その結果として、アウトドライブ装置20による最大出力(船体1の最大移動速度)と、アクセルペダル2を最大に踏み込むと設定された最大出力となるよう、最大出力に至るまでのアクセルペダル2の踏み込み量と出力の割り付けが制御されている。つまり、シフトレバー41を操作することによって擬似的にギアチェンジし、アウトドライブ装置20によって出力可能な速度域を操作位置毎に設定している。シフトレバー41によって設定された速度域内での実際のアウトドライブ装置20の出力(船舶100の航行速度)は、次に示すアクセルペダル2によって操作される。
【0036】
アクセルペダル2は、二機のエンジン10の回転数を制御するものであり、船体1に一つ設けられている。アクセルペダル2の踏み込み量は、アクセルセンサ51によって検出され、操船制御装置30は、検出されたアクセルペダル2の踏み込み量に応じて、ECU15に制御信号を送信し、エンジン10の回転数を変更する。
【0037】
つまり、シフトレバー41の操作位置とアクセルペダル2の踏み込み量(踏み強さ)によってアウトドライブ装置20の出力が制御され、船舶100の航行速度が決定される。また、シフトレバー41を低速前進(S)位置に操作し、前進の低速速度域に設定した場合において、アクセルペダル2の踏み込み量を切換クラッチ22の半クラッチ状態のスリップ率(トローリング率)として割り付けることで、低速速度域内での細やかな操作が可能となる。
【0038】
以上のように、本実施形態では、少なくとも前進、中立、後進、ポジショニングの四つの操作位置を含むシフトレバー41を設け、その操作位置に応じてアウトドライブ装置20の最大出力を制御することで船舶100の航行速度を抑制している。これにより、船舶100が所望の航行速度となるようにシフトレバー41の操作位置を変更する、というような車両におけるシフトチェンジを擬似的に船舶100に持たせることができ、車両感覚での操船を実現することができる。また、シフトレバー41をポジショニング位置に操作すると、船舶100の定点保持制御を実行することで、車両におけるパーキング制御を擬似的に行っている。つまり、車両感覚での操船(停船操作)を実現できる。さらに、シフトレバー41によって設定される速度域内でのアウトドライブ装置20の出力をアクセルペダル2の操作によって制御している。これは車両における走行制御操作そのものに相当し、車両感覚での操船を実現するものである。
【0039】
湾内で逐一速度を確認しないで済むよう、GNSS装置5aで船舶100の現在位置と航行速度を検出し、船舶100の現在位置から航行速度の制限区域内か否かを判断し、制限区域内であれば設定された速度を超えないよう、航行速度を制限するようにすることもできる。これにより、制限速度を超える速度を含む速度域にシフトレバー41を操作している場合でも、自動的に設定速度を超過しないようにすることができる。また、アクセルペダル2の踏み込み量に対して発生するアウトドライブ装置20の出力の割り付けを調整する、若しくは、アウトドライブ装置20の出力自体、例えばエンジン負荷やエンジン回転数によって決定される燃料噴射量制御の適合値を変更することで、低速側のトルクを強くするように設定することもできる。
【0040】
ブレーキペダル42は、二台のアウトドライブ装置20の出力及び方向を制御することで船体1の移動速度を制限するものであり、船体1に一つ設けられている。ブレーキペダル42の踏み込み量はブレーキセンサ54によって検出され、操船制御装置30は、検出されたブレーキペダル42の踏み込み量に応じてエンジン10の回転数、アウトドライブ装置20の推進力の出力及び方向を変更する。つまり、ブレーキペダル42の踏み込み量(踏み強さ)によってアウトドライブ装置20による推進力の大きさと方向が制御され、船舶100の航行速度が制限される。
【0041】
具体的には、ブレーキペダル42の操作量をブレーキセンサ53で検出し、操船制御装置30は、その検出値に基づいて、アウトドライブ装置20による推進力の出力及び作用方向を決定することで船体1の減速量を決定する。
【0042】
例えば、ブレーキペダル42を弱く踏み続けた場合は、アウトドライブ装置20の出力方向を変更せずに、出力を小さくしていく、又は、アウトドライブ装置20の出力を小さくした後出力方向を逆向きにすることで、船舶100を徐々に減速させて停船させる。そして、ブレーキペダル42を強く踏み込んだ場合は、アウトドライブ装置20の出力方向を逆向きにすることで、船舶100の速度を早く落として停船させる。ブレーキペダル42をさらに強く踏み込んだ場合は、アウトドライブ装置20の出力方向を逆向きにして出力を大きくするアスターン操作を行い、船舶100を急停止させる。また、アスターン操作時のショック緩和のためのディレイ処理を短くすることで急停船に対応している。そして、ブレーキペダル42を踏み続けることで、最終的に船舶100の移動速度がゼロとなるまでアウトドライブ装置20の推進力を制御する。なお、ブレーキペダル42の踏み込み量とアウトドライブ装置20による推進力の割り付けは適宜行われている。また、ブレーキペダル42の操作による強弱は、ブレーキペダル42の踏み込み量だけでなく、エンジン10の出力とブレーキペダル42の踏み込み量の両方で判別してもよい。
【0043】
また、ブレーキペダル42を操作して船体1の移動速度を制限するときには、GNSS装置5aによって船体1の現在位置及び移動速度が検出されている。そこで、船体1の移動速度がゼロである状態で、ブレーキペダル42が操作されたことを検出した場合、操船制御装置30は、定点保持制御を実行するようにしている。つまり、船体1が停止した状態でブレーキペダル42を操作すると、船舶100がその停船位置と停船方位に留まるように、アウトドライブ装置20による推進力の出力及びその方向が制御される。
【0044】
ブレーキペダル42の具体的な操作は次の通りである。航行中の船舶100を減速させる場合は、所望の減速具合に応じてブレーキペダル42を踏み込み、そのまま停船させる場合は、移動速度がゼロになるまでブレーキペダル42を踏み続ける。また、船舶100を所定位置に停船させて、その位置に保持する場合は、まずブレーキペダル42を踏み込んで船体1を減速させ、移動速度がゼロになるまでブレーキペダル42の操作を継続し、停船した状態で、さらにブレーキペダル42を踏み続ける。この操作により、定点保持制御が行われ、船舶100を所定位置に停船保持することができる。
【0045】
以上のように、船体1に備えられるブレーキペダル2を操作することで、船体1の移動速度を制限することが可能であり、さらに、停船状態でブレーキペダル42を操作することで停船位置での定点保持が可能である。これは、車両における減速・停止操作そのものに相当し、車両感覚での操船を実現することができる。
【0046】
ステアリング3は、アウトドライブ装置20の方向を変更し、船体1の進行方向を変更するものである。ステアリング3の操作量となる回動角は、ステアリングセンサ52によって検出される。ここで、船舶100では、車両と異なり、アウトドライブ装置20の出力方向を互い違いにすることで回頭のみを実行する「その場旋回」と呼ばれる特有の操作がある。本実施形態では、ステアリング3の操作によって、回頭操作、いわゆる「その場旋回」を実行する。
【0047】
操船制御装置30は、検出手段5によって検出される船体1の移動速度(船舶100の航行速度)に応じて、ステアリング3によって回頭のみを行う操作を許可又は禁止する。そして、操船制御装置30は、船舶100の航行速度が所定値以下、かつ、ステアリングセンサ52によって検出される回動角が所定のしきい値(例えば360度)を超えている場合、アウトドライブ装置20・20の出力方向を互い違いにし、ステアリング3の操作方向に向けた回頭を実行する。
【0048】
図3に示すように、操船制御装置30には、報知手段60が電気的に接続されている。報知手段60は、ステアリング3の近傍に設けられる。報知手段60は、音、光等によって操作者に回頭のみを行う旨を報知するものであり、操船制御装置30が回頭操作を実行する際に報知する。
【0049】
以上のように、ステアリング3の操作のみによって、その場で回頭のみを行う「その場旋回」を実行することで、車両感覚での操船操作を実現するとともに、操作者の利便性を向上することができる。また、「その場旋回」を実行する条件として、船舶100の航行速度の制限を設けることで、急旋回を避けることができる。そして、「その場旋回」を実行する際に報知手段60による報知を行うことで、操作者の操船性を確保している。
【0050】
より車両感覚での操船を実現する手段として、ステアリング3の操作量と船舶100の航行速度から船舶100が航行する航行軌跡を予測し、船舶100の現在位置と、予測された航行軌跡とが一定値以上の距離離れた場合は、アウトドライブ装置20の出力を補正して、船舶100の現在位置が予測された航行軌跡に沿うように補正することができる。このような補正により、潮流や波の影響を受けにくいステアリング制御となり、より車両感覚の強い操船を実現することができる。
【0051】
なお、ジョイスティックレバー4の操作によって「その場旋回」を行うように制御することも可能である。また、ジョイスティックレバー4によって操船を行う場合には、ステアリング3による操船操作は無効としている。
【0052】
図3に示すように、操船制御装置30には、船体1を横移動させるための左スイッチ70及び右スイッチ71が接続されている。これらの横移動スイッチ70・71の配置は限定されないが、例えばステアリング3の中心部(ハブ部分)、モニタ6等、横移動の操作を行う際に利便性の高い位置に設けることが好ましい。ここで、船舶100では、車両と異なり、アウトドライブ装置20の出力方向を互い違いにしつつ、出力を調整して推進力の合成ベクトルを左舷方向又は右舷方向とすることで、船体1を横移動させるという特有の操作がある。本実施形態では、スイッチ70・71の操作によって、横移動を実行する。
【0053】
なお、ジョイスティックレバー4の操作によって「横移動」を行うように制御することも可能である。また、ジョイスティックレバー4によって操船を行う場合には、横移動スイッチ70・71による操船操作は無効としている。
【0054】
図3に示すように、操船制御装置30には、船舶100を車両感覚で操船操作する制御を開始/停止するための車両感覚操船スイッチ45が接続されている。車両感覚操船スイッチ45は、例えばステアリング3の近傍に配置される。車両感覚操船スイッチ45がONの場合、操船制御装置30によって上述の車両感覚操船制御が実行され、車両感覚操船スイッチ45がOFFの場合、操船制御装置30によって通常の操船制御が実行される。通常の操船制御とは、従来の操船制御であり、本実施形態において説明したステアリングハンドル3による「その場旋回」、シフトレバー41とアクセルペダル2、ブレーキペダル42による操船制御の一部若しくは全部が無効となることを意味する。
【0055】
次に、図5から図7を用いて、車両感覚操船スイッチ45がONの状態において、それぞれの車両感覚での操船操作の制御フローについて説明する。
【0056】
図5はシフトレバーとアクセルペダルの操作に関する制御ステップS10を示している。まず、ステップS11において、車両感覚操船スイッチ45がONであることを取得する。ステップS12において、操船状態(検出手段5によって検出される現在位置、移動速度、移動方向、船首方向、回頭量に関する情報)を取得する。ステップS13において、操作状態(各種センサによって検出される操作具の操作量に関する情報)を取得する。
【0057】
次に、ステップS14において、レバーセンサ53によって検出されるシフトレバー41のシフト位置がポジション(P)位置か否かの判定を行う。シフト位置がPの場合(S14:Y)、ステップS15において、定点保持制御を実行する。シフト位置がP以外の場合(S14:N)は、ステップS16において、シフト位置に応じた速度域及び出力方向を設定し、ステップS17において、アクセルセンサ51によって検出されるアクセルペダル2のアクセル位置に応じたエンジン回転数を設定する。
【0058】
図6はブレーキペダルの操作に関する制御ステップS20を示している。まず、ステップS21において、車両感覚操船スイッチ45がONであることを取得する。ステップS22において、操船状態(検出手段5によって検出される現在位置、移動速度、移動方向、船首方向、回頭量に関する情報)を取得する。ステップS23において、操作状態(各種センサによって検出される操作具の操作量に関する情報)を取得する。
【0059】
次に、ステップS24において、検出手段5によって検出される船体1の移動速度がゼロか否かの判定を行う。移動速度がゼロの場合(S24:Y)、ステップS25において、定点保持制御を実行する。移動速度がゼロでない場合(S24:N)、ステップS26において、ブレーキセンサ54によって検出されるブレーキペダル42のペダル位置に応じてアウトドライブ装置20による推進力の出力及び方向を変更する。
【0060】
図7はステアリングの操作に関する制御ステップS30を示している。まず、ステップS31において、車両感覚操船スイッチ45がONであることを取得する。ステップS32において、操船状態(検出手段5によって検出される現在位置、移動速度、移動方向、船首方向、回頭量に関する情報)を取得する。ステップS33において、操作状態(各種センサによって検出される操作具の操作量に関する情報)を取得する。
【0061】
次に、ステップS34において、検出手段5によって検出される船体1の移動速度が所定置以下か否かの判定を行う。移動速度が所定値以下の場合(S34:Y)、ステップS35において、ステアリングセンサ52によって検出されるステアリング3の切れ角がしきい値を超えているか否かの判定を行う。切れ角がしきい値を超えている場合(S35:Y)は、ステップS36において、その場旋回を実行する。移動速度が所定値よりも小さい場合(S34:N)又は切れ角がしきい値以下の場合(S35:N)は、ステップS37に移行して通常の操船制御を継続する。
【符号の説明】
【0062】
1:船体、2:アクセルペダル、3:ステアリング、5:検出手段、5a:GNSS装置、5b:ヘディングセンサ、10:エンジン、20:アウトドライブ装置、30:操船制御装置、41:シフトレバー、42:ブレーキペダル、45:車両感覚操船スイッチ、51:アクセルセンサ、52:ステアリングセンサ、53:レバーセンサ、54:ブレーキセンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7