特許第6397893号(P6397893)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397893
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】送液ポンプ
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/168 20060101AFI20180913BHJP
   A61M 5/142 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   A61M5/168 500
   A61M5/168 510
   A61M5/142 530
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-508688(P2016-508688)
(86)(22)【出願日】2015年3月12日
(86)【国際出願番号】JP2015057383
(87)【国際公開番号】WO2015141563
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2018年1月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-58596(P2014-58596)
(32)【優先日】2014年3月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大澤 裕子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 英司
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−520373(JP,A)
【文献】 特表2013−542414(JP,A)
【文献】 特表2010−514502(JP,A)
【文献】 特表2005−529638(JP,A)
【文献】 特表2008−546435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/168
A61M 5/142
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送液した薬剤の生体内における濃度をシミュレートしながら、前記薬剤を送液する送液ポンプであって、
送液された前記薬剤の量に基づいて、前記薬剤の生体内における濃度を演算する演算部と、
前記演算部により演算された前記薬剤の血中濃度、または、前記薬剤の効果部位濃度が所定の目標濃度に達しているか否かを判定する判定部と、
前記薬剤の上限導入流量と、前記薬剤の上限維持流量と、前記目標濃度と、を記憶する記憶部と、
前記目標濃度の入力を受け付ける受付部と、
前記判定部の判定結果に応じて、前記薬剤の送液量の上限値を前記上限導入流量または前記上限維持流量に切り替える上限値切り替え部と、
前記上限値を超えない範囲で前記薬剤の送液量を調整する調整部と、を有する送液ポンプ。
【請求項2】
前記上限値切り替え部は、前記上限値として前記上限導入流量が設定されている場合において、前記判定部により前記血中濃度または前記効果部位濃度が前記目標濃度に達していると判定された際は、前記上限値を前記上限維持流量に切り替える、請求項1に記載の送液ポンプ。
【請求項3】
前記上限値切り替え部は、前記上限値として前記上限維持流量が設定されている場合において、前記判定部により前記血中濃度または前記効果部位濃度が前記目標濃度に達していないと判定された際は、前記上限値を前記上限導入流量に切り替える、請求項1または請求項2に記載の送液ポンプ。
【請求項4】
前記調整部は、前記上限値を超えず、かつ、前記血中濃度が前記目標濃度に維持されるように前記薬剤の送液量を調整する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の送液ポンプ。
【請求項5】
前記調整部は、前記上限値を超えず、かつ、前記効果部位濃度が前記目標濃度に維持されるように前記薬剤の送液量を調整する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の送液ポンプ。
【請求項6】
前記受付部は、さらに前記上限導入流量と前記上限維持流量の入力を受け付け、前記上限維持流量が前記上限導入流量を超える入力の受け付けを制限する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の送液ポンプ。
【請求項7】
前記受付部は、送液中において前記目標濃度の入力を受け付ける、請求項1〜6のいずれか1項に記載の送液ポンプ。
【請求項8】
前記判定部は、前記血中濃度または前記効果部位濃度が前記目標濃度を基準とする所定の許容範囲の範囲内に含まれるときに、前記血中濃度または前記効果部位濃度が前記目標濃度に達したものと判定する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の送液ポンプ。
【請求項9】
前記上限値が切り替えられたことをユーザーに知らせる報知部を有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の送液ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を患者の体内に送液するために医療分野で用いられる送液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
集中治療室等の医療現場において、静脈麻酔薬等の薬剤を患者の体内に送液する場合、適用する手技や患者の症状等に応じて、送液量を適切に調節しながら長時間に亘って送液を行う必要がある。設定された送液量で長時間に亘って正確に薬剤を送液する装置として、輸液ポンプやシリンジポンプがある。送液量の設定は、輸液ポンプやシリンジポンプを使用する医療従事者によって行われる。一般的に、薬剤を患者の体内に送液する際の送液量には、薬剤の種類に応じて定められた上限値がある。そして、薬剤の効能が発現されるまでの生体内への導入において許容される送液量の上限値と、生体の特定の部位において薬剤の効能が発現された後に効能を維持するために許容される送液量の上限値は異なる。従って、薬剤を送液する際には、薬剤の効能が発現されているか否かに応じて、薬剤の種類ごとに定められている上限値を超えないように送液量を適切に調節する必要がある。従来、この送液量の調節は、医療従事者によって手動で行われてきた。そのため、薬剤の効能が発現されているか否かに応じた送液量の調節が、必ずしも適切なタイミングで行われないという問題があった。
【0003】
このような問題に対して、近年、送液された薬剤の血中濃度に応じて送液量の調節を自動で行うTCI(Target Controlled Infusion)と呼ばれる機能を備えたポンプ(以下、TCIポンプ)が開発されている(例えば、特許文献1参照)。TCIポンプを使用した薬剤の送液では、送液量の代わりに、目標とする血中濃度を設定する。TCIポンプは、送液された薬剤の血中濃度が目標濃度に到達して維持されるように送液量を自動で調節する。薬剤の血中濃度は、薬剤の送液量からシミュレーションに基づいて計算される。TCIポンプを使用することで、手動による送液量の調節を行うことなく、薬剤の血中濃度が目標濃度に維持されるように薬剤を長時間に亘って送液することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−546435号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、TCIポンプを使用した場合、薬剤の種類に応じて定められている送液量の上限値を超えた送液量で送液されてしまう可能性がある。例えば、薬剤の送液開始時において、目標血中濃度が許容される血中濃度よりも高く設定された場合、血中濃度を目標血中濃度に速やかに到達させるために、上限値を超えた送液量で薬剤が送液される可能性がある。TCIポンプによっては、上限値を超えた送液量での薬剤の送液を防止するために、送液量の上限値を設定可能なものもある。しかし、薬剤の効能が発現されているか否かに応じて送液量の上限値を切り替えて送液する機能は有しておらず、適切な送液量で送液されるとは限らない。また、送液量の上限値が誤って設定されるという問題もあった。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、薬剤の送液時において、薬剤の種類ごとに定められている所定の上限値を超えない適切な送液量で薬剤を送液することが可能な送液ポンプの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための送液ポンプは、送液した薬剤の生体内における濃度をシミュレートしながら、前記薬剤を送液する送液ポンプであって、送液された前記薬剤の量に基づいて、前記薬剤の生体内における濃度を演算する演算部と、前記演算部により演算された前記薬剤の血中濃度、または、前記薬剤の効果部位濃度が所定の目標濃度に達しているか否かを判定する判定部と、前記薬剤の上限導入流量と、前記薬剤の上限維持流量と、前記目標濃度と、を記憶する記憶部と、前記目標濃度の入力を受け付ける受付部と、前記判定部の判定結果に応じて、前記薬剤の送液量の上限値を前記上限導入流量または前記上限維持流量に切り替える上限値切り替え部と、前記上限値を超えない範囲で前記薬剤の送液量を調整する調整部と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、薬剤の送液量に基づいて薬剤の生体内における濃度を演算することができる。そして、演算された薬剤の生体内における濃度が所定の目標濃度に達しているか否かを判定することができる。さらに、薬剤の生体内における濃度が所定の目標濃度に達しているか否かの判定結果に応じて、薬剤の送液量の上限値を切り替えることができる。よって、本発明によれば、薬剤の送液時において、薬剤の種類ごとに薬剤の効能が発現されているか否かに応じて定められている所定の上限値を超えない適切な送液量で薬剤を送液することが可能である。
【0009】
また、上限値として上限導入流量が設定されている場合に、効果部位濃度または血中濃度が目標濃度に達したときに、薬剤を送液する際の送液量の上限値を上限導入流量から上限維持流量に切り替えるように上限値切り替え部を構成できる。当該構成により、生体の特定の部位において薬剤の効能が発現されている状態において、許容される送液量の上限値を超えない送液量で薬剤を送液することができる。
【0010】
また、上限値として上限維持流量が設定されている場合に、目標濃度の変更によって効果部位濃度または血中濃度が目標濃度を満たさなくなったときに、薬剤を送液する際の送液量の上限値を上限維持流量から上限導入流量に切り替えるように上限値切り替え部を構成できる。当該構成により、効果部位濃度または血中濃度を変更された目標濃度に速やかに到達させることができるため、薬剤の効能を速やかに発現させることができる。
【0011】
また、血中濃度を目標濃度に維持するように薬剤を送液する際の送液量を調整するように調整部を構成できる。当該構成により、血中濃度が所定の目標濃度を超えることなく一定に維持されるため安全性が向上する。
【0012】
また、効果部位濃度を目標濃度に維持するように薬剤を送液する際の送液量を調整するように調整部を構成できる。当該構成により、効果部位濃度を目標濃度に速やかに到達させることができるため、薬剤の効能をより速やかに発現させることができる。
【0013】
また、上限導入流量及び上限維持流量を記憶する際に、上限導入流量を超える上限維持流量の入力の受け付けを制限するように受付部を構成できる。当該構成により、上限導入流量を超える上限維持流量が誤って記憶されるのを防ぐことができるため安全性が向上する。
【0014】
また、目標濃度の入力を送液中に受け付けるように受付部を構成できる。当該構成により、状況に応じて目標濃度を変更できるため安全性及び利便性がさらに向上する。
【0015】
また、目標濃度を基準とした所定の許容範囲の範囲内に効果部位濃度または血中濃度が含まれる場合に、送液量の上限値を切り替えるように上限値切り替え部を構成できる。当該構成により、送液量の上限値を切り替えるタイミングを状況に応じて柔軟に設定できるため利便性がさらに向上する。
【0016】
また、薬剤の送液量の上限値が切り替わったことを知らせる報知部を有するように構成できる。当該構成により、薬剤の送液量の上限値が切り替わったことを適時に把握できるため安全性がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係るシリンジポンプを説明するための概観斜視図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るシリンジポンプを説明するための概観正面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係るシリンジポンプの表示部を説明するための概観正面図である。
図4】本発明の第1実施形態に係るシリンジポンプの表示部を説明するための概観正面図であって、薬剤が送液される患者の情報を入力する際の表示例を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態に係るシリンジポンプの表示部を説明するための概観正面図であって、送液する薬剤の種類を入力する際の表示例を示す図である。
図6】本発明の第1実施形態に係るシリンジポンプの表示部を説明するための概観正面図であって、目標濃度を入力する際の表示例を示す図である。
図7】本発明の第1実施形態に係るシリンジポンプに適用するシリンジを説明するための概観斜視図である。
図8】本発明の第1実施形態に係るシリンジポンプの電気的な構成を説明するための概略図である。
図9】本発明の第1実施形態に係るシリンジポンプの制御部の動作を説明するための図であって、送液量の上限値の切り替え及び送液量の調整に関する動作を説明するためのフローチャートである。
図10】送液された薬剤の血中濃度及び効果部位濃度の変化を示す図であって、本発明の第1実施形態に係るシリンジポンプを使用して送液した場合の図である。
図11】本発明の第1実施形態に係るシリンジポンプの表示部を説明するための外観正面図であって、シリンジポンプを使用して送液をしている際中の図である。
図12】本発明の第1実施形態の変形例に係る表示部の表示例を説明するための外観正面図であって、目標濃度と、その許容範囲を入力する際の表示例を示す図である。
図13】本発明の第2実施形態に係るシリンジポンプの制御部の動作を説明するための図であって、送液量の上限値の切り替え及び送液量の調整に関する動作を説明するためのフローチャートである。
図14】送液された薬剤の血中濃度及び効果部位濃度の変化を示す図であって、本発明の第2実施形態に係るシリンジポンプを使用して送液した場合の図である。
図15】本発明の実施形態に係る変形例の表示部の表示例を説明するための外観正面図であって、上限値を切り替える基準として使用する濃度と目標濃度に維持する対象の濃度を選択する際の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0019】
図1及び図2に示す本発明の第1実施形態に係るシリンジポンプ1は、例えば、ICU、CCU、及び、NICU等の集中治療室等において、長時間に亘って患者の体内に薬剤を送液するために使用される送液ポンプである。
【0020】
シリンジポンプ1は、静脈麻酔薬等を含む種々の薬剤を患者の体内に送液することができる。適用可能な静脈麻酔薬の例として、プロポフォール、ミタゾラム、及び、レミフェンタニル等がある。
【0021】
一般的に、薬剤を患者の体内に送液する際の送液量には、薬剤の種類ごとに上限値が定められている。送液量とは流速を意味し、単位には、例えば、ml/kg/秒や、ml/kg/時などが用いられる。そして、送液された薬剤の効能が発現されるまでの導入における送液量の上限値(以下、上限導入流量)と、薬剤の効能が発現された後において薬剤の効能を維持する送液量の上限値(以下、上限維持流量)は異なる。通常、上限維持流量は、上限導入流量よりも小さい。薬剤の効能が発現されているにも関わらず、上限維持流量を上回る送液量で薬剤を送液するのは危険だからである。薬剤には、薬剤の使用方法や注意事項等を記載した文書(以下、薬剤添付文書)が、薬剤ごとに添付されている。そして、上限導入流量及び上限維持流量は、薬剤添付文書に記載されている。薬剤によって、送液量の上限値という表現ではなく、送液量の適正値などの表現で記載されている場合があるが実質的に同じである。薬剤の送液は、薬剤の効能が発現しているか否かに応じて、上限導入流量又は上限維持流量を超えない適切な送液量で行われなければならない。
【0022】
そこで、シリンジポンプ1は、薬剤の効能が発現しているか否かに応じて送液量の上限値を薬剤の種類ごとに定められている上限導入流量又は上限維持流量に切り替えて、適切な送液量で薬剤を送液する。
【0023】
以下に、シリンジポンプ1の装置構成を詳細に説明する。
【0024】
図1及び図2に示すように、シリンジポンプ1は、薬剤を充填した、薬剤収納容器としてのシリンジ200のシリンジ押子202をT方向に押圧して、シリンジ本体201内の薬剤を、チューブ203と留置針204を介して、患者に対して正確に送液する。このとき、シリンジ200のシリンジ本体201は、クランプ5によって動かないようにシリンジポンプ1にセットされている。
【0025】
シリンジポンプ1は、本体カバー2を有する。
【0026】
本体カバー2は、耐薬品性を有する成型樹脂材料により一体成型されている。これにより、本体カバー2は防沫処理構造を有する。防沫処理構造により、仮に薬剤等がかかってもシリンジポンプ1の内部に侵入するのを防ぐことができる。防沫処理構造を有するのは、シリンジ本体201内の薬剤がこぼれたり、上方に配置されている点滴液がこぼれ落ちたり、周辺で用いる消毒液等が飛散して付着することがあるためである。
【0027】
図1及び図2に示すように、本体カバー2は、上部分2A及び下部分2Bを有する。
【0028】
上部分2Aには、表示部3と、操作パネル部4が配置されている。
【0029】
下部分2Bには、シリンジ設定部6と、シリンジ押子202を押すためのシリンジ押子駆動部7が配置されている。
【0030】
表示部3は、カラー表示することができる画像表示装置である。表示部3は、例えば、カラー液晶表示装置により構成することができる。表示部3は、日本語表記による情報表記だけでなく、必要に応じて複数の外国語による情報の表示を行うことができる。表示部3は、本体カバー2の上部分2Aの左上位置であって、シリンジ設定部6とシリンジ押子駆動部7の上側に配置されている。
【0031】
操作パネル部4は、本体カバー2の上部分において表示部3の右側に配置されている。操作パネル部4には、電源ON/OFFボタン4A、動作インジケータ4F、及び、操作ボタンが配置されている。図1及び図2には、操作ボタンとして、必要最小限の、早送りスイッチボタン4B、開始スイッチボタン4C、停止スイッチボタン4D、メニュー選択ボタン4Eが4ケ配置されている例を示している。
【0032】
図1及び図2に示すように、シリンジ設定部6とシリンジ押子駆動部7は、X方向に沿って並べて配置されている。シリンジ設定部6は、図7を用いて後で説明する複数種類の大きさの異なるシリンジ200,300,400を、選択して着脱可能にはめ込んで固定することができる。
【0033】
図1及び図2に示すように、シリンジ設定部6は、シリンジ本体201を収容する収容部8と、クランプ5を有している。収容部8は、シリンジ本体201を収容するために、ほぼ断面半円形形状の凹部であり、X方向に沿って形成されている。収容部8の端部の壁部分には、チューブ203を着脱可能に挟み込むためのチューブ固定部9が形成されている。
【0034】
クランプ5を操作してシリンジ200をシリンジ設定部6から取り外す際には、クランプ5を図示しないスプリングの力に抗してY1方向(手前方向)に引っ張って、しかもR1方向に90度回すことで、シリンジ本体201はクランプ5による固定を解除して、収容部8から取り外すことができる。また、クランプ5を操作してシリンジ200をシリンジ設定部6に取り付ける際には、クランプ5を図示しないスプリングの力に抗してY1方向に引っ張ってR2方向に90度回して、スプリングの力によりY2方向に戻すことで、シリンジ本体201は収容部8に収容してクランプ5により固定することができる。クランプ5により、2.5mL,5mL,10mL,20mL,30mL,50mLの収容量のシリンジを固定することができるように、シリンジ設定部6の収容部8の右端部8Eは一部が切欠部となっている。
【0035】
シリンジ本体201が収容部8内に収容されて固定されると、シリンジ押子202がシリンジ押子駆動部7内に配置される。このシリンジ押子駆動部7は、スライダ10を有している。このスライダ10は、図2及び図8に示す制御部100からの指令により、シリンジ押子202の押子フランジ205を、シリンジ本体201に対して相対的にT方向に沿って少しずつ押す。
【0036】
なお、図1及び図2におけるX方向、Y方向、Z方向は互いに直交しており、Z方向は上下方向である。
【0037】
図3は、表示部3の表示内容例を示す。この表示部3の表示例は、一例であるので、特に限定されない。
【0038】
図7は、上述した複数種類の大きさのシリンジの例を示す斜視図である。
【0039】
図1及び図2では、最も薬剤の収容量が大きいシリンジ200が固定されている例を示している。
【0040】
図7(A)に示すように、最も薬剤の収容量が大きいシリンジ200は、シリンジ本体201と、シリンジ押子202を有しており、シリンジ本体201は本体フランジ209を有し、シリンジ押子202は押子フランジ205を有している。シリンジ本体201には、薬剤の目盛210が形成されている。シリンジ本体201の出口部211には、フレキシブルなチューブ203の一端部が着脱可能に接続される。
【0041】
図7(B)に示すように、薬剤の収容量が中くらいのシリンジ300は、シリンジ本体301と、シリンジ押子302を有しており、シリンジ本体301は本体フランジ309を有し、シリンジ押子302は押子フランジ305を有している。シリンジ本体301には、薬剤の目盛310が形成されている。シリンジ本体301の出口部311には、フレキシブルなチューブ203の一端部が着脱可能に接続される。
【0042】
図7(C)に示すように、最も薬剤の収容量が小さいシリンジ400は、シリンジ本体401と、シリンジ押子402を有しており、シリンジ本体401は本体フランジ409を有し、シリンジ押子402は押子フランジ405を有している。シリンジ本体401には、薬剤の目盛410が形成されている。シリンジ本体401の出口部411には、フレキシブルなチューブ203の一端部が着脱可能に接続される。
【0043】
図7(A)に示すシリンジ200は、例えば薬剤の収容量が50mLであり、図7(B)に示すシリンジ300は、例えば薬剤の収容量が10mL、20mL、30mLであり、図7(C)に示すシリンジ400は、例えば薬剤の収容量が2.5mL、5mLである。シリンジ300,400は、図1及び図2に示すシリンジ200と同様にして、収容部8内に収容して固定して用いることができる。
【0044】
次に、図8を参照して、図1及び図2に示すシリンジポンプ1の電気的な構成例を詳細に説明する。
【0045】
図8において、シリンジポンプ1は、全体的な動作の判断、制御を行う制御部(コンピュータ)100を有している。この制御部100は、例えばワンチップのマイクロコンピュータであり、ROM(読み出し専用メモリ)101,RAM(ランダムアクセスメモリ)102、不揮発性メモリ103、そしてクロック104を有する。
【0046】
クロック104は、所定の操作により現在時刻の修正ができ、現在時刻の取得や、所定の送液作業の経過時間の計測、送液の速度制御の基準時間の計測等ができる。
【0047】
図8に示す制御部100は、電源ON/OFFボタン4Aと、スイッチ111が接続されている。
【0048】
スイッチ111は、電源コンバータ部112と例えばリチウムイオン電池のような充電池113を切り換えることで、電源コンバータ部112と充電池113のいずれかから制御部100に電源供給する。
【0049】
電源コンバータ部112は、コンセント114を介して商用交流電源115に接続されている。
【0050】
図8において、収容部8内には、一対の検出スイッチ120,121が配置されている。検出スイッチ120,121は、シリンジ200のシリンジ本体201が、収容部8に正しく配置されているかどうかを検知して、制御部100に通知する。
【0051】
クランプセンサ122は、クランプ5の位置状態を検知することで、シリンジ本体201がクランプ5により確実にクランプされているかどうかを、制御部100に通知する。
【0052】
シリンジ押子駆動部7のモータ133は、制御部100の指令によりモータドライバ134により駆動されると、送りネジ135を回転させてスライダ10をT方向に移動させる。これにより、スライダ10は、シリンジ押子202をT方向に押圧して、図2に示すシリンジ本体201内の薬剤を、チューブ203を通じて患者Pに対して留置針204を介して正確に送液する。
【0053】
図8において、早送りスイッチボタン4B、開始スイッチボタン4C、停止スイッチボタン4D、メニュー選択ボタン4Eは、制御部100に電気的に接続されている。開始スイッチボタン4Cが押下されると送液開始の制御信号が制御部100に入力される。また、停止スイッチボタン4Dが押下されると送液停止の制御信号が制御部100に入力される。
【0054】
図8において、表示部ドライバ130は、制御部100に電気的に接続されている。表示部ドライバ130は、制御部100の指令により表示部3を駆動して種々の情報を表示部3に表示する。
【0055】
図8において、スピーカ131は、制御部100に電気的に接続されている。スピーカ131は、制御部100の指令により各種の警報内容を音声により告知する。
【0056】
制御部100は、送液開始からそれまでに生体内に送液された薬剤の量に基づいて、薬剤の生体内における濃度を演算する演算部としての機能を有する。
【0057】
送液開始から生体内に送液された薬剤の量は、例えば、シリンジ200のシリンジ本体201の内径と、送りネジ135によってT方向に移動されるスライダ10の送液開始からの移動量とを掛け合わせることで計算できる。
【0058】
薬剤の生体内における濃度は、シミュレーションによって演算される。
【0059】
シミュレーションは、薬物動態学に基づいて3−コンパートメントモデルを用いて行われるが、これに限定されない。
【0060】
3−コンパートメントモデルを用いたシミュレーションは、体内を3つの部分(以下、コンパートメント)に分けて濃度の計算を行う。3つのコンパートメントのうちの1つは、血液をモデル化したコンパートメントである。他の2つのコンパートメントは、生体内における筋肉などの血流が豊富な組織と脂肪などの血流が粗な組織をそれぞれモデル化したものである。薬剤は、血液をモデル化したコンパートメントに投与される。そして、血液をモデル化したコンパートメントと、他の2つのコンパートメントとの間で、薬物が所定の移行速度で移動する。また、薬剤は、血液をモデル化したコンパートメントを介して所定の排泄速度で体外に排泄される。薬剤が送液される患者の情報と、送液された薬剤の量、移行速度、及び、排泄速度等の関係から、血中濃度を含む各コンパートメントにおける送液された薬剤の濃度を計算することができる。コンパートメントに、薬剤が適用される部位をモデル化したコンパートメントを含めることで、薬剤が適用される部位の濃度である効果部位濃度を演算することもできる。たとえば、効果部位として、鎮静薬(プロポフォールなど)の場合は脳、筋弛緩薬(ミタゾラムなど)の場合は神経筋接合部が考えられる。送液量は、このように計算された薬剤の血中濃度または効果部位濃度と設定された目標濃度との差分に基づいて計算され、上限値を超えた場合には、送液量は上限値に設定される。
【0061】
不揮発性メモリ103は、上限導入流量及び上限維持流量を薬剤の種類ごとに記憶する。また、不揮発性メモリ103は、目標濃度を記憶する。目標濃度は、例えば、mcg/ml単位で記憶する。また、不揮発性メモリ103は、送液される患者の情報、及び、送液する薬剤の種類を記憶する。記憶する患者の情報は、例えば、性別、年齢、身長、及び、体重などである。さらに、不揮発性メモリ103は、後述するように制御部100によって切り替えられる送液量の上限値を記憶する。
【0062】
制御部100は、不揮発性メモリ103に記憶する上限導入流量、上限維持流量、目標濃度、患者の情報、及び、送液する薬剤の種類といった情報の入力を受け付ける受付部としての機能を有する。
【0063】
制御部100は、入力を受け付けた情報を、不揮発性メモリ103に記憶する。
【0064】
制御部100は、薬剤の送液中においても入力を受け付ける。よって、不揮発性メモリ103に記憶された目標濃度は、薬剤の送液中において変更されることが可能である。
【0065】
制御部100は、入力された上限導入流量及び上限維持流量をチェックして、不正な入力の受け付けを制限する。具体的には、制御部100は、上限導入流量と上限維持流量の大小関係をチェックする。そして、上限維持流量が上限導入流量を上回る場合には、入力された上限導入流量及び上限維持流量を不揮発性メモリ103に記憶しない。
【0066】
制御部100への上限導入流量及び上限維持流量に関する情報の入力は、種々の方法で行うことができる。
【0067】
例えば、制御部100に接続された操作パネル部4の操作ボタンを操作することで、薬剤の種類ごとに上限導入流量及び上限維持流量を入力することができる。
【0068】
また、通信ポート140を介して入力することもできる。例えば、図8に示すように、通信ポート140を介してデスクトップコンピュータのようなコンピュータ141と制御部100を接続する。そして、コンピュータ141を操作することで、上限導入流量及び上限維持流量を、薬剤の種類ごとに通信ポート140を介して制御部100に入力することができる。
【0069】
この場合、図8に示すように、コンピュータ141を薬剤データベース150に接続してもよい。薬剤データベース150には、上限導入流量及び上限維持流量を薬剤の種類ごとに薬剤ライブラリとしてまとめて保存しておくことができる。コンピュータ141を操作することで、薬剤データベース150に薬剤の種類ごとに保存された上限導入流量及び上限維持流量を、通信ポート140を介して制御部100に入力することができる。薬剤ライブラリは、上限導入流量及び上限維持流量以外の薬剤に関する情報を記録していてもよい。例えば、薬剤メーカー、及び、禁忌情報などを薬剤の種類ごとに記録していてもよい。それらの情報も、上限導入流量及び上限維持流量とともに、通信ポート140を介して制御部100に入力することができる。薬剤ライブラリは、病院全体や病棟ごとにまとめて生成して、薬剤データベース150に保存しておくことができる。
【0070】
送液される患者の情報、送液する薬剤の種類、及び、目標濃度は、表示部3の表示内容に従って操作パネル部4の操作ボタンを操作することで制御部100に入力することができる。
【0071】
図4(A)(B)は、送液される患者の情報を入力する際の表示部3の表示内容例を示す。図4に示した表示内容例に従って操作パネル部4の操作ボタンを操作することで、送液される患者の性別、年齢、身長、及び、体重といった情報を入力することができる。
【0072】
図5は、送液する薬剤の種類を入力する際の表示部3の表示内容例を示す。図5に示した表示内容例に従って操作パネル部4の操作ボタンを操作することで、送液する薬剤の種類を入力することができる。
【0073】
図6は、目標濃度を入力する際の表示部3の表示内容例を示す。図6に示した表示内容例に従って操作パネル部4の操作ボタンを操作することで、目標濃度を入力することができる。
【0074】
制御部100は、開始スイッチボタン4Cが押下されて送液開始の制御信号が入力されると送液を開始する。また、制御部100は、停止スイッチボタン4Dが押下されて送液停止の制御信号が入力されると送液を停止する。
【0075】
制御部100は、送液された薬剤の効果部位濃度が目標濃度に達しているか否かの判定を行う判定部としての機能、送液量の上限値の切り替えを行う上限値切り替え部としての機能、及び、送液量の調整を行う調整部としての機能を有する。図9に示すフローチャートを参照して、以下にそれらの動作を詳細に説明する。
【0076】
まず、ステップS101で、不揮発性メモリ103に記憶されている送液する薬剤の種類に応じて、不揮発性メモリ103に記憶されている上限導入流量を薬剤の送液量の上限値として不揮発性メモリ103に記憶する。
【0077】
次に、ステップS102で、送液終了条件を満たすか否かを判定する。送液終了条件が満たされた場合には、送液を終了する。少なくとも、停止スイッチボタン4Dが押下されて送液終了の制御信号の入力を受け付けた場合には、送液終了条件が満たされる。
【0078】
次に、ステップS103で、不揮発性メモリ103に記憶された上限値を超えず、かつ、送液後の薬剤の血中濃度が、不揮発性メモリ103に記憶されている目標濃度に維持される送液量で送液を行う。送液後の薬剤の血中濃度は、送液される薬剤の量と、不揮発性メモリ103に記憶されている患者の情報及び送液する薬剤の種類などに基づいて、シミュレーションにより演算することができる。薬剤の送液は、スライダ10がシリンジ押子202をT方向に押圧することで行われる(図1及び図2参照)。スライダ10は、シリンジ押子駆動部7のモータドライバ134を駆動することによって移動される(図8参照)。
【0079】
次に、ステップS104で、ステップS103で送液された薬剤の量と、不揮発性メモリ103に記憶されている患者の情報及び送液する薬剤の種類などに基づいて、送液された薬剤の効果部位濃度をシミュレーションにより演算する。
【0080】
次に、ステップS105で、ステップS104で演算された効果部位濃度が、不揮発性メモリ103に記憶されている目標濃度に達しているか否かを判定する。目標濃度に達していないと判定された場合は、ステップS102に戻る。目標濃度に達していると判定された場合は、ステップS106に進む。
【0081】
ステップS106で、送液量の上限値を上限導入流量から上限維持流量に切り替える。上限値の切り替えは、不揮発性メモリ103に記憶されている上限値を書き換えることで行われる。すなわち、不揮発性メモリ103に記憶されている送液する薬剤の種類に応じて、不揮発性メモリ103に記憶されている上限維持流量を薬剤の送液量の上限値として不揮発性メモリ103に記憶することで上限値の切り替えを行う。
【0082】
制御部100は、上限値の切り替え後、上限値が切り替えられたことを報知する。報知する方法は種々の方法が考えられる。例えば、スピーカ131に指令を出してブザー音を発することにより、上限値が切り替えられたことを報知することができる。また、表示部ドライバ130に指令を出して、上限値が切り替えられたことを示すテキストや映像などを表示部3に表示して報知することもできる。
【0083】
次に、ステップS107で、ステップS102と同様に、送液終了条件を満たすか否かを判定する。送液終了条件が満たされた場合には、送液を終了する。
【0084】
次に、ステップS108で、不揮発性メモリ103に記憶された上限値を超えず、かつ、送液後の薬剤の血中濃度が、不揮発性メモリ103に記憶されている目標濃度に維持される送液量で送液を行う。送液後の薬剤の血中濃度は、ステップS104と同様にシミュレーションにより演算することができる。また、薬剤の送液は、ステップS104と同様にシリンジ押子202を押圧することで行われる。
【0085】
次に、ステップS109で、ステップS108で送液された薬剤の量と、不揮発性メモリ103に記憶されている患者の情報及び送液する薬剤の種類などに基づいて、送液された薬剤の効果部位濃度をシミュレーションにより演算する。
【0086】
次に、ステップS110で、ステップS109で演算された効果部位濃度が、不揮発性メモリ103に記憶されている目標濃度に達しているか否かを判定する。目標濃度に達していると判定された場合は、ステップS107に戻る。目標濃度に達していないと判定された場合は、ステップS111に進む。
【0087】
ステップS111で、送液量の上限値を上限維持流量から上限導入流量に切り替える。すなわち、不揮発性メモリ103に記憶されている送液する薬剤の種類に応じて、不揮発性メモリ103に記憶されている上限導入流量を薬剤の送液量の上限値として不揮発性メモリ103に記憶する。制御部100は、上限値の切り替え後、上限値が切り替えられたことを報知し、ステップS102に戻る。
【0088】
以降、上述したステップを繰り返し、送液終了条件が満たされるまで送液を行う。
【0089】
図10は、シリンジポンプ1を使用して薬剤を送液した際の生体内における薬剤の濃度の変化の例を示すグラフである。d0は血中濃度を示し、d1は効果部位濃度を示し、D1は目標濃度を示す。T0は送液開始時刻を示し、T1は血中濃度が目標濃度D1に達した時刻を示し、T2は効果部位濃度が目標濃度D1に達した時刻を示す。
【0090】
シリンジポンプ1は、時刻T0において上限導入流量を送液量の上限値として薬剤の送液を開始する。送液開始後、時刻T1において、血中濃度d0が目標濃度D1に達する。時刻T1以降、血中濃度d0は目標濃度に維持される。さらに、送液を続けると、効果部位濃度d1が目標濃度D1に達する。このとき、送液量の上限値が、上限導入流量から上限維持流量に切り替えられる。
【0091】
図11(A)〜(C)は、薬剤を送液している際中の表示部3の表示内容の遷移の例を示した図である。図11(A)は、送液開始直後の表示部3の表示例を示す。図11(B)は、効果部位濃度d1が目標濃度に達したときの表示部3の表示例を示す。図11(C)は、効果部位濃度d1が目標濃度に達した後の表示部3の表示例を示す。
【0092】
図11に示すように、表示部3は、薬剤を送液している際中において、シミュレーションに基づいて計算される薬剤の血中濃度d0の予測線及び効果部位濃度d1の予測線を表示する。軸Tは時刻を示し、軸Dは濃度を示す。黒色で塗りつぶされた領域d1´は、送液開始から現時点までの効果部位濃度d1の遷移の履歴を表している。
【0093】
次に、シリンジポンプ1の使用例を説明する。
【0094】
まず、図8に示すように、通信ポート140を介して、制御部100とコンピュータ141を接続する。
【0095】
次に、コンピュータ141を操作して、薬剤データベース150に保存されている薬剤ライブラリの情報を、通信ポート140を介して制御部100に入力する。この操作によって、薬剤ライブラリに記録されている上限導入流量及び上限維持流量が、不揮発性メモリ103に薬剤の種類ごとに記憶される。
【0096】
次に、図1及び図2に示すように、シリンジ200を、シリンジポンプ1にセットする。シリンジポンプ1のセットは、クランプ5を使用して上述した方法で行う。そして、患者にチューブ203が接続された留置針204を挿入する。
【0097】
次に、図4図6に示すように、表示部3と操作パネル部4を使用して各種情報の入力を行う。まず、患者の情報として、性別、年齢、身長、及び、体重を入力する。次に、送液する薬剤の種類を入力する。そして、目標濃度を入力する。
【0098】
次に、開始スイッチボタン4Cを押下して、患者の体内への薬剤の送液を開始する。送液量の上限値の切り替え及び送液量の調整は、図9に示したフローチャートに従って制御部100によって行われる。送液は、上述した送液終了条件が満たされるまで行われる。
【0099】
送液量の上限値が切り替わった際に、スピーカ131によって、上限値が切り替えられたことを知らせるブザー音が発せられる。
【0100】
また、目標濃度を送液中に変更することができる。すなわち、効果部位濃度が目標濃度に達しているにも関わらず、薬剤の効能の発現が認められない場合において、目標濃度を変更することができる。あるいは、効果部位濃度が目標濃度に達する前に薬剤の効能の発現が認められる場合に、目標濃度を変更してもよい。目標濃度は、上述したように、表示部3の表示に従って操作パネル部4を操作することで変更することができる。
【0101】
本実施形態によれば、薬剤の送液量に基づいて薬剤の生体内における濃度を演算することができる。そして、演算された薬剤の生体内における濃度が所定の目標濃度に達しているか否かを判定することができる。さらに、薬剤の生体内における濃度が所定の目標濃度に達しているか否かの判定結果に応じて、薬剤の送液量の上限値を切り替えることができる。よって、本実施形態によれば、薬剤の送液時において、薬剤の種類ごとに定められている所定の上限値を超えない適切な送液量で薬剤を送液することが可能である。
【0102】
また、本実施形態によれば、上限値として上限導入流量が設定されている場合に、シミュレーションによって演算された効果部位濃度が目標濃度に達したときに、薬剤を送液する際の送液量の上限値を上限導入流量から上限維持流量に切り替えることができる。これにより、生体の特定の部位において薬剤の効能が発現されている状態において、上限維持流量を超えない送液量で薬剤を送液することができる。
【0103】
また、本実施形態によれば、上限値として上限維持流量が設定されている場合に、目標濃度の変更によって効果部位濃度が目標濃度を満たさなくなったときに、薬剤を送液する際の送液量の上限値を上限維持流量から上限導入流量に切り替えることができる。これにより、効果部位濃度または血中濃度を変更された目標濃度に速やかに到達させることができるため、薬剤の効能を速やかに発現させることができる。
【0104】
また、本実施形態によれば、血中濃度を目標濃度に維持するように薬剤を送液する際の送液量を調整することができる。これにより、血中濃度が所定の目標濃度を超えることなく一定に維持されるため安全性が向上する。
【0105】
また、本実施形態によれば、上限導入流量及び上限維持流量を記憶する際に、上限導入流量を超える上限維持流量の入力の受け付けを制限する。これにより、上限導入流量を超える上限維持流量が誤って記憶されるのを防ぐことができるため安全性が向上する。
【0106】
また、本実施形態によれば、目標濃度の入力を送液中に受け付けることができる。これにより、状況に応じて目標濃度を変更できるため安全性及び利便性がさらに向上する。
【0107】
また、本実施形態によれば、薬剤の送液量の上限値が切り替わったことを知らせることができる。これにより、薬剤の送液量の上限値が切り替わったことを適時に把握できるため安全性がさらに向上する。
【0108】
<変形例>
上述した実施形態では、制御部100は、シミュレーションされた効果部位濃度が目標濃度に達しているか否かに応じて上限値を切り替えたが、上限値を切り替える効果部位濃度を目標濃度と異ならせてもよい。本変形例では、効果部位濃度が目標濃度を基準とする所定の許容範囲の範囲内に含まれるか否かに応じて上限値を切り替えるシリンジポンプについて説明する。
【0109】
本変形例に係るシリンジポンプの制御部100は、例えば、目標濃度が3.00mcg/ml、許容範囲が±5.00%の場合、効果部位濃度が(3.00−3.00×0.05)mcg/ml以上、(3.00+3.00×0.05)mcg/ml未満の範囲内に含まれるか否かに応じて送液量の上限値を切り替える。
【0110】
許容範囲は、目標濃度と同様に、表示部3の表示内容に従って操作パネル部4の操作ボタンを操作することで制御部100に入力することができる。入力された許容範囲は、不揮発性メモリ103に記憶される。
【0111】
図12は、目標濃度と合わせて許容範囲を入力する場合の表示部3の表示例を示す。図12では、1例として、目標濃度として3.00mcg/mlを入力、許容範囲として±5.00%を入力する場合を示している。
【0112】
制御部100を上述したように構成することにより、目標濃度を基準とした許容範囲の範囲内に効果部位濃度が含まれる場合に、送液量の上限値を切り替えることができる。これにより、送液量の上限値を切り替えるタイミングを状況に応じて柔軟に設定できるため利便性がさらに向上する。
【0113】
なお、上述した実施形態及び変形例では、制御部100は、シミュレーションされた効果部位濃度が目標濃度に達したときに上限値を切り替えたが、これに限定されない。例えば、シミュレーションされた血中濃度が目標濃度に達したときに上限値を切り替えるように制御部100を構成してもよい。このように制御部100を構成することにより、適用する手技や薬剤の種類などに応じて、より適切に送液量を調整しながら薬剤を送液できる。
【0114】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係るシリンジポンプを説明する。
【0115】
第2実施形態に係るシリンジポンプは、制御部が行う送液量の上限値の切り替え、及び、送液量の調整に関する動作が、第1実施形態に係るシリンジポンプの制御部100の動作と異なる。第1実施形態に係るシリンジポンプ1の制御部100は、血中濃度が目標濃度に維持されるように送液量を調整していた。一方、第2実施形態に係るシリンジポンプの制御部は、効果部位濃度が目標濃度に維持されるように送液量を調整する点が制御部100と相違する。制御部以外の本体カバー2、表示部3、及び、操作パネル部4等の構成は第1実施形態と同じであるため、説明を省略する。また、第2実施形態に係るシリンジポンプの制御部の動作のうち、モータドライバ134の駆動や目標濃度等の入力の受け付けなどの動作は、第1実施形態と同じであるため説明を省略する。
【0116】
図13は、第2実施形態に係るシリンジポンプの制御部が行う送液量の上限値の切り替え、及び、送液量の調整に関する動作を説明するフローチャートである。
【0117】
図13に示す第2実施形態に係るシリンジポンプの制御部の動作の一部は、第1実施形態に係るシリンジポンプ1の制御部100の動作の一部と同じである。具体的には、上限導入流量を設定するステップS201は、ステップS101と同じである。また、送液終了条件を満たすか否かを判定するステップS202及びステップS207は、ステップS102及びS107と同じである。また、上限値を切り替えるステップS206及びS211は、ステップS106及びステップS111と同じである。これらのステップについては説明を省略して、相違するステップのみを以下に説明する。
【0118】
まず、ステップS203では、不揮発性メモリ103に記憶された上限値を超えず、かつ、送液後の薬剤の効果部位濃度が、不揮発性メモリ103に記憶されている目標濃度に維持される送液量で送液を行う。送液後の薬剤の効果部位濃度は、送液される薬剤の量と、不揮発性メモリ103に記憶されている患者の情報及び送液する薬剤の種類などに基づいて、シミュレーションにより演算することができる。薬剤の送液は、ステップS103と同様にシリンジ押子202を押圧することで行われる。
【0119】
ステップS204では、ステップS203で送液された薬剤の量と、不揮発性メモリ103に記憶されている患者情報などに基づいて、送液された薬剤の効果部位濃度をシミュレーションにより演算する。
【0120】
ステップS205では、ステップS204で演算された効果部位濃度が、不揮発性メモリ103に記憶されている目標濃度に達しているか否かを判断する。目標濃度に達していないと判定された場合は、ステップS202に戻る。目標濃度に達していると判定された場合は、ステップS206に進む。
【0121】
ステップS208では、不揮発性メモリ103に記憶された上限値を超えず、かつ、送液後の薬剤の効果部位濃度が、不揮発性メモリ103に記憶されている目標濃度に維持される送液量で送液を行う。送液後の薬剤の効果部位濃度は、ステップS204と同様にシミュレーションにより演算することができる。薬剤の送液は、ステップS103と同様にシリンジ押子202を押圧することで行われる。
【0122】
ステップS209では、ステップS208で送液された薬剤の量と、不揮発性メモリ103に記憶されている患者情報などに基づいて、送液された薬剤の効果部位濃度をシミュレーションにより演算する。
【0123】
ステップS210では、ステップS209で演算された効果部位濃度が、不揮発性メモリ103に記憶されている目標濃度に達しているか否かを判定する。目標濃度に達していると判定された場合は、ステップS207に戻る。目標濃度に達していないと判定された場合は、ステップS211に進む。
【0124】
図14は、第2実施形態に係るシリンジポンプを使用して薬剤を送液した際の生体内における薬剤の濃度の変化の例を示すグラフである。d0は血中濃度を示し、d1は効果部位濃度を示し、D1は目標濃度を示す。T0は送液開始時刻を示し、T1は血中濃度が目標濃度D1に達した時刻を示し、T2は効果部位濃度が目標濃度D1に達した時刻を示す。
【0125】
第2実施形態に係るシリンジポンプは、時刻T0において上限導入流量を送液量の上限値として薬剤の送液を開始する。送液開始後、時刻T1において、血中濃度d0が目標濃度D1に達する。さらに、送液を続けると、効果部位濃度d1が目標濃度D1に達する。このとき、送液量の上限値が、上限導入流量から上限維持流量に切り替えられる。時刻T2以降、効果部位濃度は目標濃度に維持される。
【0126】
第1実施形態の場合と異なり、時刻T1から時刻T2の間において、血中濃度d0は目標濃度に維持されない。第1実施形態では血中濃度を目標濃度に維持するように送液量を調整していたが、第2実施形態では効果部位濃度d1を目標濃度に維持するように送液量を調整するためである。その結果、時刻T1から時刻T2の間における送液量は、第1実施形態の場合よりも第2実施形態の場合の方が相対的に大きくなる。従って、効果部位濃度が目標濃度に達するまでに要する時間を、第1実施形態と比較して相対的に短くすることができる。
【0127】
本実施形態によれば、効果部位濃度が目標濃度に維持されるように薬剤を送液する際の送液量が調整される。これにより、効果部位濃度を目標濃度に速やかに到達させることができるため、薬剤の効能をより速やかに発現させることができる。
【0128】
なお、上述した第2実施形態では、制御部は、シミュレーションされた効果部位濃度が目標濃度に達したときに上限値を切り替えたが、これに限定されない。例えば、シミュレーションされた血中濃度が目標濃度に達したときに上限値を切り替えるように第2実施形態に係るシリンジポンプの制御部を構成してもよい。このように第2実施形態に係るシリンジポンプの制御部を構成することにより、適用する手技や薬剤の種類などに応じて、より適切に送液量を調整しながら薬剤を送液できる。
【0129】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係るシリンジポンプを説明する。
【0130】
第3実施形態に係るシリンジポンプは、制御部が行う送液量の上限値の切り替え、及び、送液量の調整に関する動作が、第1実施形態及びその変形例に係るシリンジポンプの制御部100、及び、第2実施形態に係るシリンジポンプの制御部の動作と異なる。第1実施形態及びその変形例に係るシリンジポンプの制御部100、及び、第2実施形態に係るシリンジポンプの制御部では、送液量の上限値を切り替える基準とする濃度と目標濃度に維持する対象の濃度は既定されていた。一方、第3実施形態に係るシリンジポンプの制御部は、送液量の上限値を切り替える基準とする濃度と目標濃度に維持する対象の濃度を指定できる点が、第1実施形態及びその変形例に係るシリンジポンプの制御部100、及び、第2実施形態に係るシリンジポンプの制御部と異なる。
【0131】
制御部以外の本体カバー2、表示部3、及び、操作パネル部4等の構成は第1実施形態と同じであるため説明を省略する。また、第3実施形態に係るシリンジポンプの制御部の動作のうち、モータドライバ134の駆動や目標濃度等の入力の受け付けなどの動作は、第1実施形態と同じであるため説明を省略する。
【0132】
以下に、第3実施形態に係るシリンジポンプの制御部が行う送液量の上限値の切り替え、及び、送液量の調整に関する動作を説明する。ただし、送液条件を満たすか否かの判定をする動作や、上限値を超えない送液量で送液する動作などは、第1実施形態及びその変形例に係るシリンジポンプの制御部100、及び、第2実施形態に係るシリンジポンプの制御部における動作と同じであるため説明を省略する。
【0133】
第3実施形態に係るシリンジポンプの制御部は、送液量の上限値の切り替えの基準とする濃度として指定された濃度が目標濃度に達しているか否かによって、送液量の上限値を切り替える。
【0134】
具体的には、第3実施形態に係るシリンジポンプの制御部は、送液量の上限値の切り替えの基準とする濃度として効果部位濃度が指定された場合、シミュレーションされた効果部位濃度が目標濃度に達しているか否かに応じて送液量の上限値を切り替える。また、第3実施形態に係るシリンジポンプの制御部は、送液量の上限値の切り替えの基準とする濃度として血中濃度が指定された場合、シミュレーションされた血中濃度が目標濃度に達しているか否かに応じて送液量の上限値を切り替える。
【0135】
また、第3実施形態に係るシリンジポンプの制御部は、目標濃度に維持する対象として指定された濃度を目標濃度に維持するように送液量を調整する。
【0136】
具体的には、第3実施形態に係るシリンジポンプの制御部は、目標濃度に維持する対象として効果部位濃度が指定された場合、シミュレーションされた効果部位濃度が目標濃度に維持されるように送液量を調整する。また、第3実施形態に係るシリンジポンプの制御部は、目標濃度に維持する対象として血中濃度が指定された場合、シミュレーションされた血中濃度が目標濃度に維持されるように送液量を調整する。
【0137】
送液量の上限値の切り替えの基準とする濃度と目標濃度に維持する対象の濃度は、種々の方法で制御部100に指定することができる。
【0138】
例えば、図15(A)(B)に示す表示部3の表示内容例に従って、操作パネル部4の操作ボタンを操作することで、送液量の上限値の切り替えの基準とする濃度と、目標濃度に維持する対象の濃度を制御部100に指定することができる。
【0139】
本実施形態によれば、適用する手技や薬剤の種類などに応じて、送液量の上限値を切り替えるタイミングと目標濃度に維持する濃度を適切に設定することが容易になるため安全性や利便性がさらに向上する。
【0140】
以上、本願発明に係るシリンジポンプを実施形態及び各変形例を通じて説明したが、本願発明に係るシリンジポンプはこれらの構成のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々改変することが可能である。
【0141】
上述した実施形態及び変形例では、シリンジポンプに本願発明を適用した場合を説明したが、それに限定されない。本願発明は、薬剤の送液量を調整可能な輸液ポンプなどの医療用の送液ポンプに広く適用することが可能である。
【0142】
本出願は、2014年3月20日に出願された日本特許出願番号2014−058596号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【符号の説明】
【0143】
1 シリンジポンプ、
2 本体カバー、
2A 本体カバーの上部分、
2B 本体カバーの下部分、
3 表示部、
4 操作パネル部、
5 クランプ、
6 シリンジ設定部、
7 シリンジ押子駆動部、
8 収容部、
9 チューブ固定部、
100 制御部、
103 不揮発性メモリ、
200、300、400 シリンジ、
201、301、401 シリンジ本体、
202、302、402 シリンジ押子。
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