特許第6397898号(P6397898)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6397898空間分割多重のための少モード光ファイバ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397898
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】空間分割多重のための少モード光ファイバ
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/036 20060101AFI20180913BHJP
   G02B 6/028 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   G02B6/036
   G02B6/028
【請求項の数】17
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-515542(P2016-515542)
(86)(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公表番号】特表2016-534376(P2016-534376A)
(43)【公表日】2016年11月4日
(86)【国際出願番号】IB2013002412
(87)【国際公開番号】WO2015040446
(87)【国際公開日】20150326
【審査請求日】2016年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】507112468
【氏名又は名称】ドラカ・コムテツク・ベー・ベー
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】シラール、ピエール
(72)【発明者】
【氏名】モリン、デニス
(72)【発明者】
【氏名】ビゴ−アストラツク、マリアンヌ
【審査官】 橿本 英吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/126254(WO,A1)
【文献】 特開昭59−232302(JP,A)
【文献】 特開2012−159836(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0328255(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/108467(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/158667(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/161810(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B6/02
G02B6/024 − 6/036
G02B6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバであって、光コアと、前記光コアを取り囲む光クラッドとを備え、
前記光コアは、α≧1の単一αの屈折率分布プロファイルを有し、
前記αは、光コアの屈折率プロファイル形状を決定する無次元のパラメータであり、
前記光コアは、半径がRで最大屈折率がnであり、
前記光クラッドは、外縁における屈折率がnclであり、
前記光クラッドは、トレンチと呼ばれる、光コアを取り囲む領域であって屈折率が陥没している領域を備え、
前記トレンチは、内径Rと、外径Rとを有し、
前記内径RはR≧Rで、外径RはR≧Rで、
前記光コア半径Rが、以下の方程式で定義される光通信の品質基準値Cを満足し、
【数11】
前記光コア半径Rの単位はμmであり、
前記DMGDは、前記光ファイバにおける二つの導波モード間のモードグループ遅延差であり、
前記Max|DMGDs|は、導波モードの任意の組み合わせに関する前記DMGDの絶対値の最大値であり、
前記DMGDsの単位はps/kmであり、
Dn=n−nclは、λ=λにおけるコア―クラッド間屈折率差であり、
前記λは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長であり
前記屈折率分布プロファイルの前記α値と前記光コア半径Rとは、R≧13.5μmかつC<18であるように選択され、
少なくとも4個のLPモードを導波することを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバであって、
前記光コア半径Rは、R≦20μmであることを特徴とする光ファイバ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光ファイバであって、
4個から16個のLPモードを導波することを特徴とする光ファイバ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の光ファイバであって、
少なくとも6個のLPモードを導波することを特徴とする光ファイバ。
【請求項5】
請求項4に記載の光ファイバであって、
6個から16個のLPモードを導波することを特徴とする光ファイバ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の光ファイバであって、
前記光コアは、最小屈折率n=nclを持ち、
前記光クラッドはまた、前記光コアを直接取り囲む、内径Rで外径R≧Rの内側クラッド層を備え、
前記内側クラッド層は、n≠nclかつn>ntrenchであるような一定の屈折率nを持つことを特徴とする光ファイバ。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の光ファイバであって、
前記光コアは、最小屈折率n≠nclを持ち、
前記光クラッドはまた、前記光コアを直接取り囲む、内径Rで外径R≧Rの内側クラッド層を備え、
前記内側クラッド層は、n=nかつn>ntrenchであるような一定の屈折率nを持つことを特徴とする光ファイバ。
【請求項8】
請求項1から5のいずれかに記載の光ファイバであって、
前記光コアは、nclに等しい最小屈折率を持ち、
前記光クラッドはまた、前記光コアを直接取り囲む、内径Rで外径R≧Rの内側クラッド層を備え、
前記内側クラッド層は、前記光コアの単一αの屈折率分布プロファイルの延長であり、
前記内側クラッド層は、最小屈折率n=ntrenchを持つことを特徴とする光ファイバ。
【請求項9】
請求項1、2、3、6、7又は8のいずれかに記載の光ファイバであって、
前記光ファイバは、4個のLP導波モードに対応し、
λ=λにおいて、Max|DMGDs|<20ps/kmでであり、
λ∈[λ−δλ;λ+δλ]に対し、Max|DMGDs|<30ps/kmであり、
前記λは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長であり、
前記2δλは、前記周波数帯の幅であることを特徴とする光ファイバ。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載の光ファイバであって、
前記光ファイバは、6個のLP導波モードに対応し、
λ=λにおいて、Max|DMGDs|<25ps/kmであり、
λ∈[λ−δλ;λ+δλ]に対し、Max|DMGDs|<50ps/kmであり、
前記λは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長であり、
前記2δλは、前記周波数帯の幅であることを特徴とする光ファイバ。
【請求項11】
請求項1から8のいずれかに記載の光ファイバであって、
前記光ファイバは、9個のLP導波モードに対応し、
λ=λにおいて、Max|DMGDs|<100ps/kmであり、
λ∈[λ−δλ;λ+δλ]に対し、Max|DMGDs|<200ps/kmあり、
前記λは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長であり、
前記2δλは、前記周波数帯の幅であることを特徴とする光ファイバ。
【請求項12】
請求項1から8のいずれかに記載の光ファイバであって、
前記光ファイバは、12個のLP導波モードに対応し、
λ=λにおいて、Max|DMGDs|<150ps/kmであり、
λ∈[λ−δλ;λ+δλ]に対し、Max|DMGDs|<300ps/kmであり、
前記λは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長であり、
前記2δλは、前記周波数帯の幅であることを特徴とする光ファイバ。
【請求項13】
請求項1から8のいずれかに記載の光ファイバであって、
前記光ファイバは、16個のLP導波モードに対応し、
λ=λにおいて、Max|DMGDs|<300ps/kmであり、
λ∈[λ−δλ;λ+δλ]に対し、Max|DMGDs|<600ps/kmであり、
前記λは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長であり、
前記2δλは、前記周波数帯の幅であることを特徴とする光ファイバ。
【請求項14】
請求項9から13のいずれかに記載の光ファイバであって、
λ=1550nmで、
δλ=20nmであることを特徴とする光ファイバ。
【請求項15】
請求項1から14のいずれかに記載の光ファイバであって、
前記光ファイバで導波されたLPモードは、Aeff<400μmの有効領域を持ち、
1550nmにおいて10mmの曲げに対して<100dB/ターンの曲げ損失を持ち、
LP漏えいモードは、λ=λにおいて、>0.1dB/mの漏えい損失を持つことを特徴とする光ファイバ。
【請求項16】
請求項1から15のいずれかに記載の光ファイバを少なくとも一つ備える光リンク。
【請求項17】
請求項1から15のいずれかに記載の光ファイバを少なくとも一つ備える光システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ファイバ伝送の分野、より具体的には、空間分割多重のために改良された少モード光ファイバの設計の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
通常光ファイバは、光信号を伝達するための光コアと、光信号を光コアに閉じ込めるための光クラッドから構成される。この目的のため、コアの屈折率nは、クラッドの屈折率nclより大きい。一般に光ファイバの特徴は、屈折率(n)とファイバの半径(r)とを関係付ける屈折率プロファイルによって決まる。すなわち、光ファイバからの中心からの距離rをx−軸上に表し、半径rにおける屈折率n(r)と、光クラッドにおける屈折率nclとの差Dnをy−軸上に表す。
【0003】
近年、光ファイバには二つの主要なカテゴリが存在する。すなわち、マルチモードファイバとシングルモードファイバである。マルチモードファイバでは、与えられた波長において、複数の光モードが光ファイバに沿って同時に伝搬する。これに対しシングルモードファイバでは、より高次のモード(以下、HOMs(Higher Order Modes)と呼ぶ)は遮断されるか又は強く減衰される。
【0004】
シングルモードファイバは通常、アクセスネットワークや都市規模ネットワークなどの長距離ネットワークに適用するために使われる。シングルモード光信号を伝送する光ファイバには、比較的直径の小さい(典型的には5μmと11μmの間)コアが要求される。高速又は高ビットレート(例えば10GbpS)に適用するための要求条件を満足するには、標準的なシングルモードファイバに対して、典型的には1550nmの波長で機能すべく変調されたシングルモードレーザ送信機を使用することが必要である。しかしながらシングルモードファイバは非線形問題に悩まされ、主にこれがファイバ伝送容量の制限となっている。
【0005】
マルチモードファイバは通常、広帯域が要求される短距離ネットワークに適用するために使われる。すなわちローカルエリアネットワーク(LANs)や集合住宅(MDUs)、より一般的にはビル内ネットワークとして知られている分野への適用である。マルチモードファイバのコア直径は、典型的には50μm又は62.5μmである。電気通信で最も普及しているマルチモードファイバは、屈折率分布プロファイル光ファイバ(the refractive graded−index profile optical fibers)である。そのような屈折率プロファイルは、モード間分散(すなわち、伝搬遅延時間の差、又は光ファイバに沿った光モードの群速度の差であって、DMGD(Differential Mode Group Delay)とも呼ばれる)を最小化することにより、与えられた波長において広いモード帯域を保証している。
【0006】
光ファイバネットワーク上のデータトラフィックは指数関数的に増え続けている。このため、ファイバ1本あたりのトラフィック(とりわけ長距離での)を増やすことへの要求が増している。この目的に対し、異なる複数のデータトラフィックが同一の光ファイバを共有することを可能とする多重化技術が発展してきた。これらの中で最も有望な方法の一つは空間分割多重(SDM(Space Division Multiplexing))である。この方法では、光ファイバで導波された複数の光信号モードのそれぞれにより、単一のファイバ内に複数のデータチャネルが与えられる。
【0007】
このような技術は、少モードファイバと呼ばれる新しいタイプの光ファイバの発展を要求してきた。少モードファイバは、複数の空間モードではあるが、マルチモードファイバよりは少ない空間モードに対応できる。このような少モードファイバは特にPCT出願WO2011/094400の特許文献で論じられているが、概ね2個から50個のモードに対応する。このファイバの構成により、マルチモードファイバに見られるモード分散問題を回避することができる。
【0008】
少モードファイバ(FMFs(Few−Mode Fibers))を用いた空間分割多重は、利用可能なモード数が複数あることでシングルモードの伝送容量が拡大できるというその潜在能力ゆえに、近年強い関心を惹いている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
少モードファイバを設計する際のアプローチの一つは、モードグループ遅延差(DMGDs(Differential Mode Group Dlays。すなわち、空間多重に使われる各導波モードの到着時間の差))を最小化することである。これにより、モードカップリング現象(これは長距離伝送にとって一つの制限要因となる)と関係なく、2N×2N(Nは空間モードの総数、すなわちLP(Linear Polarization)モード縮退を含む)の複合MIMO技術を用いて、全モードを同時に検出することができる。しかしLPモードの数が増えると、この最適化はますます困難となる。
【0010】
しかしながら、屈折率差の小さいLPモードをグループ化し、個別のLPモードでなくLPモードのグループを検出することにより、MIMO技術の複雑さを低減することができるという点に留意する必要がある。
【0011】
第1の既知の解決方法はUS2013/0071114の特許文献に開示され、モード分割多重光伝送システムに使うのに適した少モード光ファイバが記載されている。このような光ファイバは、半径R(開示された実施形態では、最大値は11.4μmである)の単一αの屈折率分布型コア(single alpha graded−index core)を持つ。ここで波長1550nmにおけるαの値は、概ね2.3以上2.7以下である。またクラッドに対する最大相対屈折率Δ1MAXは、概ね0.3%から0.6%である。この光ファイバはまた、概ね90μmより大きく160μmより小さい有効領域を持つ。クラッドの最大相対屈折率Δ4MAXは、Δ1MAX>Δ4MAXである。波長1550nmにおける、LP01モードとLP11モードとの間のグループ遅延差は、概ね0.5ns/kmより小さい。
【0012】
しかしながらこの第1の既知の解決方法によるコアとクラッドは、1550nmより長波長におけるLP01とLP11のモードにのみ対応する。このモード数は、ファイバ1本あたりの伝送容量に対してますます高まる要求に比べて小さすぎる。
【0013】
第2の既知の解決方法はUS2013/007115に開示され、少モードファイバの別のデザインが開示されている。しかしUS2013/0071114で開示された第1の解決方法と同様、この第2の解決方法もまた、2個の導波モードにのみ対応するFMFからなる。
【0014】
その他の既知のデザインは、最大4個又は6個に対応するFMFを与える。
【0015】
PCT特許文献WO2012/161809は、クラッドに囲まれたコアを有する光ファイバを開示する。このファイバは、求められる複数の信号搬送モードに対応する一方、求められないモードを抑圧するような構造の屈折率分布プロファイルを持つ。コアとクラッドは、求められないモードがクラッドに近いか又はクラッドより小さい有効屈折率を持つように、その結果これらの求められないモードが漏えいモードになるように構成されている。求められないモードの最低有効屈折率と、漏えいモードの最高有効屈折率との差が十分大きいことにより、両者の間のカップリングは事実上回避される。最大4モードに対応するFMFが例示されている。
【0016】
US2012/0328255の特許文献は、ガラスコアと、このガラスコアと直接接触してこれを取り囲むガラスクラッドと、を有する少モード光ファイバを開示する。ガラスコアは、概ね8μmから13μmの半径Rを有していてよい。更にこのコアは、波長1550nmにおけるα値が概ね1.9から2.1の間を取る屈折率分布プロファイルを有し、最大相対屈折率Δ1MAXはクラッドに対して概ね0.6%から0.95%である。1550nmにおけるLP01モードの有効領域は80μmと105μmとの間であり、1550nmでX個のLPモードの光信号伝搬又は伝送に対応する。ここでXは、1より大きく10より小さい整数である。ガラスクラッドは、Δ1MAX>Δ4MAXであるような最大相対屈折率Δ4MAXを有していてよい。最大6モードに対応するFMFが例示されている。
【0017】
このような設計は有望ではあるが、モードグループ遅延差を望むほどには低減せず、そのため伝送システムの性能が制限される。更にこれらのいずれの文献に開示されたプロファイルも、低い曲げ損失と高い漏えい損失を保証する最適化を行っていない。しかしこれらはFMFにとって重大な課題である。実際FMFに関するいかなる既知の文献にも、低い曲げ損失と高い漏えい損失を示して少モードファイバの設計を論じたものはない。
【0018】
従って、モードグループ遅延差が小さく、低曲げ損失と高漏えい損失特性を有し、4個又はそれ以上のLPモードを導波する少モード光ファイバの設計への要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のある特定の実施形態では、光ファイバであって、光コアと、前記光コアを取り囲む光クラッドとを備え、前記光コアはα≧1の単一αの屈折率分布プロファイルを有し、前記αは光コアの屈折率プロファイル形状を決定する無次元のパラメータであり、前記光コアは半径がRで最大屈折率がnであり、前記光クラッドは外縁における屈折率がnclであることを特徴とする光ファイバが与えられる。前記光クラッドは、トレンチと呼ばれる、光コアを取り囲む領域であって屈折率が陥没している領域を備える。前記トレンチは、内径R(ただし、R≧R)と、外径R(ただし、R≧R)とを有する。
【0020】
前記光ファイバは、前記光コア半径Rが、以下の方程式で定義される光通信の品質基準値Cを満足するようなものである。
【数1】
ここでDMGDは、前記光ファイバにおける二つの導波モード間のモードグループ遅延差である。またMax|DMGDs|は、導波モードの任意の組み合わせに関するDMGDの絶対値の最大値である。またDn=n−nclは、λ=λにおけるコア―クラッド間屈折率差である。ただしλは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長である。更に、前記屈折率分布プロファイルの前記α値と前記光コア半径Rとは、R≧13.5μmかつC<18であるように選択される。
【0021】
ここにいう「単一αの屈折率分布プロファイル」とは、別段の断りのない限り、以下で定義される屈折率分布プロファイルn(r)を持つ光コアのことをいう。
【数2】
ここで、
rは光ファイバの半径を表す変数であり、
は光コアの半径であり、
Δは以下で表される規格化屈折率差であり、
【数3】
は光コアの最小屈折率であり、
は光コアの最大屈折率であり、
αは光コアの屈折率プロファイル形状を決定する無次元のパラメータであり、
パラメータαは、α=2のとき逆パラボラに、α=1のとき三角形状に、α=∞のときステップ関数にそれぞれ対応する。
【0022】
各低損失コア導波モード間における群速度の不一致を低減するように、屈折率分布を調整することができる。
【0023】
このように本発明は、上記方程式で定義した品質基準値を満足するようなコア屈折率分布α値とコア径とを適用することにより、先行技術のFMFより多数のLPモードを導波することができ、モードグループ遅延差を最小とするような少モード光ファイバを提供する。このようにDMGD(モードグループ遅延差)が小さいことにより、モードカップリング現象と関係なく、2N×2N(Nは空間モードの総数、すなわちLP(Linear Polarization)モード縮退を含む)のMIMO(多入力多出力(Multiple Input Multiple Output))技術を用いて全モードを同時に検出することができる。このようにしてシステムの性能が向上し、先行技術の性能を超える。
【0024】
しかしながら、全てのモードを個別に検出するのではなく、屈折率差の小さいモードのグループを検出することにより、より複雑さを解消したMIMO技術も使用できる点に留意する必要がある。
【0025】
コア半径をR≧13.5μmとすることにより、US2012/0328255、US2013/0071114、US2013/0071115の特許文献等に開示された先行技術に比べて、より多数のモードを導波することができる。
【0026】
更に、陥没トレンチに補助された光ファイバは、光モードのコアへの閉じ込めを改善し、これがマクロな曲げ損失の低減につながる。このように、基準R≧13.5μmかつC<18を満足する少モードファイバのクラッドにトレンチを加えることで、DMGDと曲げロスとの間のトレードオフに著しい改善をもたらすことができる。このようなトレンチは、曲げ感度を低減するためにはよく知られた方法である。
【0027】
好ましくは、前記光コアの半径RはR≦20μmである。
【0028】
ある有利な特性として、前記トレンチは次の関係を満足するパラメータを持つ。
55≦1000・|(R−R)・Dn・(R・Dn)|≦150
ここで、Dn=ntrench−nclは、λ=λにおけるトレンチ―クラッド間屈折率差で、λは前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長である。
【0029】
好ましくは、Dn≦−3・10−3である。
【0030】
このような特性を持つトレンチは、曲げ損失と漏えい損失との間の良好なトレードオフを示す少モードファイバを与える。本発明による少モードファイバは、全ての導波モードに対して小さいDMGDと低い曲げ損失(1550nmにおいて、10mmの曲げに対して<100dB/ターン)を保証するとともに、先行技術のFMFより多数のLPモードに対応する結果、これらのモードを確実に伝搬することができる。また本発明による少モードファイバは、全ての漏えいモードに対して大きい漏えい損失(1550nmにおいて、>0.1dB/m)を保証する結果、これらの漏えいモードは高々10mオーダの距離を伝搬した後、遮断されかつ/又は強く減衰される。
【0031】
本発明のある実施形態によると、このような光ファイバは少なくとも4個のLPモード、好ましくは4個から16個のLPモードを導波する。
【0032】
本発明の別の実施形態によると、このような光ファイバは少なくとも6個のLPモード、好ましくは6個から16個のLPモードを導波する。
【0033】
このように多数のモードを導波できるため、ここに開示する少モード光ファイバを備える光システムの容量を増やすことが可能となり、長距離光伝送システムにおける更なる広帯域化への要求に応えることができる。
【0034】
このように本発明のある実施形態による少モード光ファイバは、空間分割多重伝送に効果的に使用できるLPモードを、先行技術のFMFより多く導波することができる。
【0035】
第1の実施形態によると、前記光コアは、最小屈折率n=nclを持つ。前記光クラッドはまた、前記光コアを直接取り囲む、内径Rで外径R≧Rの内側クラッド層を備える。前記内側クラッド層は、n≠nclかつn>ntrenchであるような一定の屈折率nを持つ。
【0036】
このようなトレンチ補助屈折率分布プロファイル(graded−index trench−assisted profile)は、本発明の実施例に示されるコアの基準とトレンチの基準を満足することができる。更にこのような少モードファイバは製造が容易で低コストである。内側クラッド層は、コアに対して負又は正の屈折率差を持つことができる。
【0037】
第2の実施形態によると、前記光コアは、最小屈折率n≠nclを持つ。前記光クラッドはまた、前記光コアを直接取り囲む、内径Rで外径R≧Rの内側クラッド層を備える。前記内側クラッド層は、n=nかつn>ntrenchであるような一定の屈折率nを持つ。
【0038】
このようなもう一つのトレンチ補助屈折率分布プロファイルは、本発明の実施例で示されるコアの基準とトレンチの基準を満足することができる。更にこのような少モードファイバは製造が容易で低コストである。内側クラッド層は、コアに対して負又は正の屈折率差を持つことができる。
【0039】
第3の実施形態によると、前記光コアは、nclに等しい最小屈折率を持つ。前記光クラッドはまた、前記光コアを直接取り囲む、内径Rで外径R≧Rの内側クラッド層を備える。前記内側クラッド層は、前記光コアの単一αの屈折率分布プロファイルの延長である。前記内側クラッド層は、最小屈折率n=ntrenchを持つ。
【0040】
第1と第2の実施形態のものと比べると、この少モードファイバの製造はいくらか難しいが、このようなトレンチ補助屈折率分布プロファイルは、屈折率分布プロファイルのα値をより良好に最適化することができる。
【0041】
本発明のある態様によると、このような光ファイバは4個のLP導波モードに対応する。このとき、λ=λ(例えばλ=1550nm)において、Max|DMGDs|<20ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<10ps/kmである。また、λ∈[λ−δλ;λ+δλ]に対し、Max|DMGDs|<30ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<20ps/kmである。ただしλは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長である。また2δλは、前記周波数帯の幅であり、好ましくはδλ=20nmである(例えばλ∈[1530nm;1570nm])。
【0042】
本明細書に記載したFMFは、少なくとも全ての「C−バンド」での使用に適するが、場合によってはS−、C−、U−、及びL−バンドでの使用にも適する点に注意しておく。
【0043】
本発明の別の態様によると、このような光ファイバは6個のLP導波モードに対応する。このとき、λ=λ(例えばλ=1550nm)において、Max|DMGDs|<25ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<15ps/kmである。また、λ∈[λ−δλ;λ+δλ]に対し、Max|DMGDs|<50ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<30ps/kmである。ただしλは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長である。また2δλは、前記周波数帯の幅であり、好ましくはδλ=20nmである(例えばλ∈[1530nm;1570nm])。
【0044】
従って、LPモードの数を6まで増やそうとする試みが達成される一方、全ての拡張C−バンドにおいてモードグループ遅延差は非常に小さい。
【0045】
本発明の別の態様によると、このような光ファイバは9個のLP導波モードに対応する。このとき、λ=λ(例えばλ=1550nm)において、Max|DMGDs|<100ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<60ps/kmである。また、λ∈[λ−δλ;λ+δλ]に対し、Max|DMGDs|<200ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<120ps/kmである。ただしλは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長である。また2δλは、前記周波数帯の幅であり、好ましくはδλ=20nmである(例えばλ∈[1530nm;1570nm])。
【0046】
従って、LPモードの数を9まで増やそうとする試みが達成される一方、全ての拡張C−バンドにおいて(更には、より一般的に、C−バンド、L−バンド、U−バンド、S−バンドなど、全ての標準的な波長バンドにおいて)モードグループ遅延差はかなり小さい。
【0047】
本発明の別の態様によると、このような光ファイバは12個のLP導波モードに対応する。このとき、λ=λ(例えばλ=1550nm)において、Max|DMGDs|<150ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<120ps/kmである。また、λ∈[λ−δλ;λ+δλ]に対し、Max|DMGDs|<300ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<250ps/kmである。ただしλは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長である。また2δλは、前記周波数帯の幅であり、好ましくはδλ=20nmである(例えばλ∈[1530nm;1570nm])。
【0048】
従って、LPモードの数を12まで増やそうとする試みが達成される一方(これは非常に興味深いファイバ容量の増大である)、全ての拡張C−バンドにおいて(更には、より一般的に、C−バンド、L−バンド、U−バンド、S−バンドなど、全ての標準的な波長バンドにおいて)モードグループ遅延差はやはり小さいままである。
【0049】
本発明の更に別の態様によると、このような光ファイバは16個のLP導波モードに対応する。このとき、λ=λ(例えばλ=1550nm)において、Max|DMGDs|<300ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<250ps/kmである。また、λ∈[λ−δλ;λ+δλ]に対し、Max|DMGDs|<600ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<500ps/kmである。ただしλは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長である。また2δλは、前記周波数帯の幅であり、好ましくはδλ=20nmである(例えばλ∈[1530nm;1570nm])。
【0050】
従って、LPモードの数が著しく大きな16という数まで増やされる一方、全ての拡張C−バンドにおいて(更には、より一般的に、C−バンド、L−バンド、U−バンド、S−バンドなど、全ての標準的な波長バンドにおいて)モードグループ遅延差は十分小さい。
【0051】
有用な特性として、前記光ファイバで導波されたLPモードは、Aeff<400μmの、好ましくはAeff<350μmの有効領域を持つとともに、1550nmにおいて10mmの曲げに対して<100dB/ターンの、好ましくは<50dB/ターンの曲げ損失を持つ。またLP漏えいモードは、λ=λにおいて、>0.1dB/mの、好ましくは>0.5dB/mの漏えい損失を持つ。
【0052】
このような少モードファイバは、曲げ損失と漏えい損失との間の非常に良好なトレードオフを示す。このような比較的大きな有効領域は、イントラモードの非線形性を制限する。
【0053】
本開示の別の態様は、ここで述べたいずれかの形態の光ファイバを少なくとも一つ備える光リンクに関する。
【0054】
このような光リンクは、光ファイバの中の少なくとも一つが本発明の示す特性に適合する限り、任意の数のファイバを連結したものを備えていてもよい。このような光リンクはまた、全ての光ファイバが本発明の示す特性に適合するような、複数のファイバを備えていてもよい。
【0055】
本開示の別の態様は、ここで述べたいずれかの形態の光ファイバを少なくとも一つ備える光システムに関する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
本発明の実施形態のその他の特徴と利点は、以下の記載において、具体的ではあるが完全に網羅的ではない実施例と下記添付図面とを用いて表される。
【0057】
図1図1は、ここに記載する一つ又は複数の実施形態による光ファイバの断面を概略的に示す。
図2A図2Aは、本発明の第一形態による光ファイバの屈折率プロファイルをグラフで示す。
図2B図2Bは、本発明の第二形態による光ファイバの屈折率プロファイルをグラフで示す。
図2C図2Cは、本発明の第三形態による光ファイバの屈折率プロファイルをグラフで示す。
図3図3は、LPモード導波数が6個から16個の、本発明によるトレンチ補助屈折率分布プロファイル構造の少モードファイバ関し、モードグループ遅延差がどのように減少するかをRの関数で示したものである。
図4図4は、LPモード導波数が6個から16個の、本発明によるトレンチ補助屈折率分布プロファイル構造の少モードファイバ関し、本発明で示される基準値CをRの関数で示したものである。
図5図5は、本発明のいくつかの実施形態に関し、Max|DMGD|を波長の関数としてグラフで示す。
図6図6は、本発明のいくつかの実施形態に関し、Max|DMGD|をαの関数としてグラフで示す。
図7図7は、本発明の実施態様に関し、光リンクを示す。
図8A-B】図8Aと8Bは、本発明に関し、光システムとしての実施態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本発明の一般原理は、モードグループ遅延差を低減し、先行技術のFMFより多数のLPモードに対応することにより、注意深く設計されたトレンチ補助屈折率分布型少モード光ファイバを提案する点にある。より正確にはこのような設計の目的は、モードグループ遅延差の低減と、曲げ損失の低減と、漏えい損失の増大との間のトレードオフを、先行技術のFMFに対して改善することにある。
【0059】
光ファイバを伝達する光は、実際にはハイブリッド型のモードを形成し、これは通常LP(Linear Polarization)モードと呼ばれる。LP0Pモードは2個の自由度の偏光を持ち、二重に縮退している。m≧1のLPmpモードは四重に縮退している。ファイバを伝搬するLPモードの数を指定するときはこの縮退度は数えない。従って、二つのLPモードを持つ少モード光ファイバは、全てのLP01モードとLP11モードの伝搬に対応する。あるいは、6個のLPモードを導波する少モードファイバは、全てのLP01、LP11、LP02、LP21、LP12及びLP31モードの伝搬に対応する。
【0060】
これから少モード光ファイバの形態を詳細に参照するが、その実例は添付図面で示される。全ての図面を通じて、可能であれば常に、同一または類似のものには同一の参照番号を使う。
【0061】
本発明の少モード光ファイバの一実施形態を、図1に断面図の形で概略的に示す。光ファイバ10は一般に、ガラスクラッドで取り囲まれたガラスコア20を持つ。ガラスコア20は一般に、13.5μmから20μmの半径Rを持つ。ガラスクラッドは一般に、内径Rと外径Rを持つ。ここに示される実施形態では、コア20とクラッドは一般にシリカ、特にシリカガラスを含む。光ファイバ10の断面は一般に、コア20の中心に対して円対称であってよい。ここで記述されるいくつかの実施形態では、半径R(すなわち光ファイバ10のガラス部分の半径)は概ね62.5μmである。しかしながらクラッドの寸法は、半径Rが62.5μmより大きくも小さくもできるよう、調整が可能であることに注意されたい。光ファイバ10はまた、内径がRで外径がRの被覆60を備える。このような被覆は複数の層を有していてよく、特に2層からなる被覆であってよい。ただし図1には、これらの異なる層は示されていない。被覆の中にいくつ層があろうと、RとRは被覆の下限と上限であることに留意する必要がある。ここで記述されるいくつかの実施形態では、半径Rは概ね122.5μmである(しかし122.5μmより大きくても小さくてもよい)。代替の実施形態では、R=40μmあるいはR=50μmで、更にR=62.5μmといった別の寸法もあり得る。
【0062】
図2Aは、本発明の第一形態による光ファイバ10の屈折率プロファイルn(r)を表す。これは、屈折率値nと光ファイバの中心からの距離rとの関係を記述する。x−軸は半径位置を表し、x=0はコア領域の中心を表す。y−軸は屈折率を表し、特段の断りのない限り屈折率差Dnで書かれる。
【0063】
第一形態において光ファイバ10は、下記で定義される屈折率プロファイルn(r)を持つ光コア20を有する。
【数4】
ここで、
rは光ファイバの半径を表す変数であり、
は光コアの半径であり、
Δは以下で表される規格化屈折率差であり、
【数5】
は光コアの最小屈折率であり、
は光コアの最大屈折率であり、
αは光コアの屈折率プロファイル形状を決定する無次元のパラメータである。
【0064】
光コア20のα屈折率分布プロファイルは、光ファイバ10のモード間分散を低減することができる。
【0065】
光コア20は光クラッドに直接取り囲まれている。この光クラッドは、トレンチと呼ばれる、内径がRで外径がRの陥没屈折率のリング40を少なくとも一つと、内径がRの外側クラッド50を備える。ある実施形態では、このような外側クラッド層50は純粋なシリカガラス(SiO)を備え、従ってその屈折率nclはシリカガラスの屈折率である。このトレンチ40は、外側クラッドの屈折率に対し負の屈折率差Dn=ntrench−nclを持ち、その位置とサイズはファイバの曲げ損失抵抗を改善するように設計される。
【0066】
トレンチ40は、好ましくは次の基準を満足するように設計される。
55≦1000・|(R−R)・Dn・(R・Dn)|≦150
ここで、Dn=ntrench−nclは、λ=λにおけるトレンチ―クラッド間屈折率差で、λは前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心波長である。このような基準は、ファイバの曲げ損失と漏えい損失との間に良好なトレードオフをもたらす。
【0067】
クラッドはまた選択的に、内径Rで外径Rの内側クラッド層30を備えていてよい。従ってトレンチ40は、内側クラッド層30により、コア20との間にスペースを設けられていてよい。選択的にトレンチ40は、コア20に直接接触してこれを取り囲んでいてよい。
【0068】
この第一形態において、内側クラッド30は、n>ntrenchであるような一定の屈折率nを持つ。nは外部クラッド層に対して、負又は正(図2Aで破線で示される)のいずれかの屈折率差Dn=n−nclを示してよい。
【0069】
クラッド中の異なる部分30、40、50は、純粋なシリカガラス(SiO)を備えるか、又は、クラッドの当該部分が「アップドープ」されるときは、屈折率を上げる単一若しくは複数のドーパント(例えばGeO)を備えるか、又は、クラッドの当該部分が「ダウンドープ」されるとき(例えばトレンチ40の場合)は、屈折率を下げるドーパント(例えばフッ素)を備えるか、してよい。
【0070】
図1には示されていないが、外側クラッド50はまた、r>Rの領域に、より低い又はより高い屈折率の別の部分又は層を備えていてよい。
【0071】
図2Aで示される第一形態では、コアの最小屈折率nは外側クラッドの屈折率nclと等しい。
【0072】
ダウンドープされたトレンチ40は、低い曲げ損失をもたらすことができる。
【0073】
図2Bは、本発明の第二形態による光ファイバ10の屈折率プロファイルn(r)を表す。このようなプロファイルの第一形態との違いは、コアの最小屈折率nが外側クラッドの屈折率nclと等しくないという点である。従ってnは、ファイバの外側クラッドに対して負又は正(図2Bで破線で示される)の屈折率差を示してよい。クラッドが内側クラッド30を備える場合、コアの最小屈折率nは内側クラッドの一定屈折率nと等しい。nもまた、ファイバの外側クラッドに対して負又は正(図2Bで破線で示される)の屈折率差Dn=n−nclを示してよい。
【0074】
第一形態と同様に、外側クラッド50はまた、r>Rの領域に、より低い屈折率又はより高い屈折率の、別の部分又は層を備えていてよい。
【0075】
第一形態と同様に、トレンチ40は、好ましくは次の基準を満足するように設計される。
55≦1000・|(R−R)・Dn・(R・Dn)|≦150
ここで、Dn=ntrench−nclは、λ=λにおけるトレンチ―クラッド間屈折率差で、λは前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心波長である。
【0076】
図2Cは、本発明の第三形態による光ファイバ10の屈折率プロファイルn(r)を表す。
【0077】
この第三形態において内側クラッド層30は、屈折率分布型コア20の延長である。光コア20と内側クラッド層30は、下記で定義される屈折率プロファイルn(r)を持つ光コア20を有する。
【数6】
ここで、
rは光ファイバの半径を表す変数であり、
は内側クラッド層30の外径であり、
Δは以下で表される規格化屈折率差であり、
【数7】
は内側クラッド層の最小屈折率(すなわち、半径Rにおける屈折率)であり、
は光コアの最大屈折率であり、
αは光コアと内側クラッドの屈折率プロファイル形状を決定する無次元のパラメータである。
【0078】
従ってこの第三形態においては、「単一αの屈折率分布プロファイル」は、先の二つの形態の場合と比べ少し異なる意味を持つ。なぜならこの屈折率分布は、光コアを超えて内側クラッドの外縁にまで達しているからである。
【0079】
光クラッドはまた、トレンチと呼ばれる、内径がRで外径がRの陥没屈折率のリング40を少なくとも一つと、内径がRの外側クラッド50を備える。ある実施形態では、このような外側クラッド層50は純粋なシリカガラス(SiO)を備え、従ってその屈折率nclはシリカガラスの屈折率である。このトレンチ40は、外側クラッドの屈折率に対して負の屈折率差Dn=ntrench−nclを持ち、その位置とサイズはファイバの曲げ損失抵抗を改善するように設計される。
【0080】
第一及び第二形態と同様に、外側クラッド50はまた、r>Rの領域に、より低い屈折率又はより高い屈折率の、別の部分又は層を備えていてよい。
【0081】
第一形態と同様に、トレンチ40は、好ましくは次の基準を満足するように設計される。
55≦1000・|(R−R)・Dn・(R・Dn)|≦150
ここで、Dn=ntrench−nclは、λ=λにおけるトレンチ―クラッド間屈折率差で、λは前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心波長である。
【0082】
図3は、図2A−2Cの形態の一つにおける導波数6、9、12及び16のFMFに関し、光ファイバで導波される任意の2つのLPモード間で、最大モードグループ遅延差Max|DMGD|がどのように減少するかを、コア半径Rの関数で示したものである。x−軸はファイバのコア半径Rを表し、その範囲は12μmから16μmである。y−軸は、Max|DMGD|をps/km単位で対数目盛を用いて表す。曲線31は6個のLPモードを導波するFMFに対応する。曲線32は9個のLPモードを導波するFMFに対応する。曲線33は12個のLPモードを導波するFMFに対応する。曲線34は16個のLPモードを導波するFMFに対応する。
【0083】
これと連携して図4は、図2A−2Cの形態の一つにおける導波数6、9、12及び16のFMFに関し、光ファイバで導波される任意の2つのLPモード間で、基準値
【数8】
がどのように減少するかを、これもまたコア半径Rの関数で示したものである。ここで、DMGDは前記ファイバにおける2つの導波モード間のモードグループ遅延差を表し、Dn=n−nclは、λ=λにおけるコア―クラッド間屈折率差で、λは前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心波長である。x−軸はファイバのコア半径Rを表し、その範囲は12μmから16μmである。y−軸は基準値Cを表し、その範囲は0から30である。曲線41は6個のLPモードを導波するFMFに対応する。曲線42は9個のLPモードを導波するFMFに対応する。曲線43は12個のLPモードを導波するFMFに対応する。曲線44は16個のLPモードを導波するFMFに対応する。
【0084】
両図から読み取れるように、コア半径をR≧13.5μmに設定することにより良好なトレードオフが得られる。これにより、光ファイバで導波されるLPモードの数がいくつであっても、低いMax|DMGD|に到達することができる。コア半径の最小値を13.5μmに設定することにより、FMFで多数のLPモードを導波することが可能となり、これによりファイバ1本あたりの容量を改善できる。またMax|DMGD|値が低いことにより、長距離伝送が可能となる。
【0085】
一旦コア半径の最小値が13.5μmに設定されると、図4から基準値Cの適正な上限は18と設定され、C<18となる。このような、本発明のFMFに許容される上限は、図4で水平な直線45を用いて示されている。
【0086】
図3と4から読み取れるように、6個のLP導波モードに対応するFMFに対し、規格化周波数
【数9】
(ここで、λは動作時の波長である)は、好ましくは7.8と9.8との間である。λがここで1550nmのとき(より一般的にはλ=λのとき(ただしλは前記光ファイバの任意の使用帯の中心波長))、Max|DMGD|は、好ましくは<25ps/kmであり、より好ましくは<15ps/kmである。またλが1530nmから1570nmのとき(より一般的には任意の使用帯[λ−δλ;λ+δλ]のとき(ただし2δλは、前記使用帯(例えばC−バンド、L−バンド、S−バンドあるいはU−バンドなど)の帯域幅であり、好ましくは、δλ=20nm))、Max|DMGD|は、好ましくは<50ps/kmであり、より好ましくは<30ps/kmである。
【0087】
9個のLP導波モードに対応するFMFに対し、Vは、好ましくは9.8と11.8との間である。λがここで1550nmのとき(より一般的にはλ=λのとき(ただしλは前記光ファイバの任意の使用帯の中心波長))、Max|DMGD|は、好ましくは<100ps/kmであり、より好ましくは<60ps/kmである。またλが1530nmから1570nmのとき(より一般的には任意の使用帯[λ−δλ;λ+δλ]のとき(ただし2δλは、前記使用帯(例えばC−バンド、L−バンド、S−バンドあるいはU−バンドなど)の帯域幅であり、好ましくは、δλ=20nm))、Max|DMGD|は、好ましくは<200ps/kmであり、より好ましくは<120ps/kmである。
【0088】
12個のLP導波モードに対応するFMFに対し、Vは、好ましくは11.8と13.8との間である。λがここで1550nmのとき(より一般的にはλ=λのとき(ただしλは前記光ファイバの任意の使用帯の中心波長))、Max|DMGD|は、好ましくは<150ps/kmであり、より好ましくは<120ps/kmである。またλが1530nmから1570nmのとき(より一般的には任意の使用帯[λ−δλ;λ+δλ]のとき(ただし2δλは、前記使用帯(例えばC−バンド、L−バンド、S−バンドあるいはU−バンドなど)の帯域幅であり、好ましくは、δλ=20nm))、Max|DMGD|は、好ましくは<300ps/kmであり、より好ましくは<250ps/kmである。
【0089】
16個のLP導波モードに対応するFMFに対し、Vは、好ましくは13.8と15.9との間である。λがここで1550nmのとき(より一般的にはλ=λのとき(ただしλは前記光ファイバの任意の使用帯の中心波長))、Max|DMGD|は、好ましくは<300ps/kmであり、より好ましくは<250ps/kmである。またλが1530nmから1570nmのとき(より一般的には任意の使用帯[λ−δλ;λ+δλ]のとき(ただし2δλは、前記使用帯(例えばC−バンド、L−バンド、S−バンドあるいはU−バンドなど)の帯域幅であり、好ましくは、δλ=20nm))、Max|DMGD|は、好ましくは<600ps/kmであり、より好ましくは<500ps/kmである。
【0090】
更に、4個のLP導波モードに対応するFMFに対し、規格化周波数Vは、好ましくは5.7と7.8との間である。λがここで1550nmのとき(より一般的にはλ=λのとき(ただしλは前記光ファイバの任意の使用帯の中心波長))、Max|DMGD|は、好ましくは<20ps/kmであり、より好ましくは<10ps/kmである。またλが1530nmから1570nmのとき(より一般的には任意の使用帯[λ−δλ;λ+δλ]のとき(ただし2δλは、前記使用帯(例えばC−バンド、L−バンド、S−バンドあるいはU−バンドなど)の帯域幅であり、好ましくは、δλ=20nm))、Max|DMGD|は、好ましくは<30ps/kmであり、より好ましくは<20ps/kmである。
【0091】
本発明のFMFの全てのLP導波モードは、Aeff<400μmの、好ましくはAeff<350μmの有効領域を持つとともに、1550nmにおいて10mmの曲げに対して<100dB/ターンの、好ましくは<50dB/ターンの曲げ損失を持つ。またLP漏えいモードは、1550nm(より一般的にはλ=λ(ただしλは前記光ファイバの任意の使用帯の中心波長))において、>0.1dB/mの、好ましくは>0.5dB/mの漏えい損失を持つ。その結果、これらの漏えいモードは高々10mオーダの距離を伝搬した後、遮断される(>19.3dB(漏えい損失))。ここにいう光ファイバの有効領域とは、別段の断りのない限り、光ファイバの中で光が伝搬する部分のことをいい、波長1550nmで特定のモード(例えばLP01)で定められる。
【0092】
図3と4には示されていないが、4個のLP導波モードに対応するFMFに対し、Vは、好ましくは5.7と7.8との間である。λがここで1550nmのとき(より一般的にはλ=λのとき(ただしλは前記光ファイバの任意の使用帯の中心波長))、Max|DMGD|は、好ましくは<20ps/kmであり、より好ましくは<10ps/kmである。またλが1530nmから1570nmのとき(より一般的には任意の使用帯[λ−δλ;λ+δλ]のとき(ただし2δλは、前記使用帯(例えばC−バンド、L−バンド、S−バンドあるいはU−バンドなど)の帯域幅であり、好ましくは、δλ=20nm))、Max|DMGD|は、好ましくは<30ps/kmであり、より好ましくは<20ps/kmである。
【0093】
表1は、図2Bの形態によるFMFの一例について、屈折率プロファイルのパラメータと、Max|DMGD|、コア基準値C及びトレンチ基準値Tなどの結果を示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1で、コア基準値はパラメータCとして次のように与えられる。
【数10】
トレンチ基準値Tは次のように与えられる。
T=1000・|(R−R)・Dn・(R・Dn)|
好ましい形態では、55≦T≦150である。読み取れるように、4個のLPモードを導波する例0では、C=15.3<18となるためCの基準は満足するが、T=37.8となるためTの基準は満足しない。しかしながら、このような「少ない」LPモードの数(例えば4)では、曲げ損失と漏えい損失とのトレードオフは、よりはるかに簡単に解決できる。
【0096】
表2は、4個のLP導波モード、すなわちLP01、LP11、LP21及びLP02の各モードに対応する表1の例について、各LPモードの特性を示す。
【0097】
【表2】
【0098】
表2において(以下の表3から6においても同様)、Dneffは有効屈折率差を表し、CDはps/nm−kmを単位とする波長分散(波長分散は、材料分散と導波路分散とモード間分散の和である)を表し、dB/ターンを単位とする曲げ損失は10mmの曲げ半径で与えられる。μmを単位とするAeffはLP導波モードの有効領域を表す。モードグループ遅延差は第1の導波モードLP01に関して測定され、ps/kmを単位として表される。LP12及びLP31は、漏えいモードである。
【0099】
表3は、6個のLP導波モードに対応する表1の例(すなわち、波長λ=1550nmにおける例1、2及び3)について、各LPモードの特性を示す。
【0100】
【表3】
【0101】
LP03、LP22及びLP41は、漏えいモードである。
【0102】
表4は、9個のLP導波モードに対応する表1の例(すなわち、波長λ=1550nmにおける例4及び5)について、各LPモードの特性を示す。読み取れるように、LP13、LP32及びLP51は、漏えいモードである。
【0103】
【表4】
【0104】
表5は、12個のLP導波モードに対応する表1の例(すなわち、波長λ=1550nmにおける例6及び7)について、各LPモードの特性を示す。LP04、LP23、LP42、及びLP61は、漏えいモードである。
【0105】
【表5】
【0106】
表6は、16個のLP導波モードに対応する表1の例(すなわち、波長λ=1550nmにおける例8、9及び10)について、各LPモードの特性を示す。LP14、LP33、LP52、及びLP71は、漏えいモードである。
【0107】
【表6-1】
【0108】
【表6-2】
【0109】
図5は、6個から16個のLP導波モードに対応する少モードファイバについて、Max|GMGD|が、波長の関数として発展する様子を示す。より具体的には、図5は、表1に列挙された例2、5、6及び9について、Max|GMGD|を波長の関数として示す。このような例は、図2Bで示した本発明の第2形態による少モードファイバに相当する。
【0110】
x−軸はファイバで導波された光の波長を表し、その範囲は1530nmから1570nmである。y−軸は、任意のLP導波モード間のMax|DMGD|をps/km単位で表し、その範囲は0から200である。曲線51は、例2の6個のLPモードを導波するFMFに対応する。曲線52は、例5の9個のLPモードを導波するFMFに対応する。曲線53は、例6の12個のLPモードを導波するFMFに対応する。曲線54は、例9の16個のLPモードを導波するFMFに対応する。
【0111】
読み取れるように、Max|DMGD|は、1530nmから1570nmの拡張C−バンド全体を通して小さいままである。この拡張C−バンドにおけるMax|DMGD|の傾きは、絶対値で<3ps/km/nm、好ましくは<2ps/km/nm、更に好ましくは<1ps/km/nmである。
【0112】
図6は、6個から16個のLP導波モードに対応するFMFについて、Max|GMGD|が、屈折率分布プロファイルのαパラメータの関数として発展する様子を示す。より具体的には、図6は、表1に列挙された例2、4、7及び8について、Max|GMGD|をαの関数として示す。このような例は、図2Bで示した本発明の第2形態による少モードファイバに相当する。
【0113】
x−軸はα(光コアの屈折率プロファイル形状を決定する無次元のパラメータ)を表し、その範囲は1.91から1.99である。y−軸は、任意のLP導波モード間のMax|DMGD|をps/km単位で表し、その範囲は0から200である。曲線61は、例2の6個のLPモードを導波するFMFに対応する。曲線62は、例4の9個のLPモードを導波するFMFに対応する。曲線63は、例7の12個のLPモードを導波するFMFに対応する。曲線64は、例8の16個のLPモードを導波するFMFに対応する。
【0114】
図6に示されるように、αの値には、Max|DMGD|が最小となるような最適値が存在する。この「最適α」より大きいか又は小さい値に対して、一般にDMGDは反対の符号を示す。
【0115】
αの値がなるべく最適値に近くなるように注意深く選ぶことにより、Max|DMGD|が最小となるような少モードファイバを設計することができる。本開示による少モード光ファイバ10は、低損失でグループ間遅延差が小さく、光伝送システム(特に空間分割多重を利用する長距離伝送用システム)に使用するのに好適である。
【0116】
図7は、本発明の実施態様としての光リンク70を示す。このような光リンクは、互いに連結された光ファイバのp個の区間(p≧2)を備える。図7は、光ファイバ701と光ファイバ70pだけを示し、光リンク中の他の潜在的な光ファイバは全て点線で象徴化している。光リンク70の光ファイバの少なくとも一つは、上記の形態の光ファイバである。換言すれば、光ファイバの中の少なくとも一つは、単一αの屈折率分布プロファイルとR≧13.5μmの半径を持つコアと、陥没トレンチを持つクラッドとを備え、基準値CがC≦18を満足する。しかし、光リンク70を構成する光ファイバの中の複数が又は全てが、本発明の形態の光ファイバであってもよい。光リンクはLkmの長さを持ち、これは数10km又は数100kmに達することができる。一例では、少なくとも2個のファイバの区間70と70とがある。別の例では、少なくとも少なくとも5個のファイバの区間70から70がある。更に別の例では、少なくとも少なくとも10個のファイバの区間70から7010がある。
【0117】
図8Aと8Bは、本発明の実施態様としての光システムを示す。
【0118】
図8Aの第1態様では、このような光システムは、少なくとも一つの区間を含む光ファイバリンク70により光学的に接続された送信装置81と受信装置85とを具備する。送信装置81は光源(例えばレーザ)を具備し、n個のLPモード(図8Aの光システムで使われているものを1,2、…、nで表す)を生成する。モード多重装置82は光リンク70と光学的に接続されており、n個のLPモードを多重化する。光リンク70は、N多重化されたLPモードを、光リンク70の末端と光学的に接続されたモード分割装置83まで導波する。
【0119】
モード分割装置83は、n多重されたLPモードを分割し、各LPモードを増幅装置84に入力する。増幅器84から出力されたLPモードは、受信機85に入力される。
【0120】
このような光システムは、M個の光リンク(又は光ファイバのM個の区間)を備えていてよい。一例ではM=1であり、別の例ではM=2であり、別の例ではM=5であり、更に別の例ではM=10である。光システムがM個の光リンク(又は光ファイバのM個の区間)を備えている場合、このシステムはまた、この光システムで導波される各LPモードのために、M個のモード多重装置82と、M個のモード分割装置83と、M個の増幅装置84とを備えていてよい。
【0121】
図8Bの態様は、増幅装置84が、光ファイバ70で導波された全てのLPモードを増幅するという点で、図8Aの第1態様と異なっている。すなわち、増幅装置84は、光リンク70の出口とモード分割装置の入口との中間に、光学的に接続されている。この第二態様では、光システムがM個の光リンク又は区間を備えている場合、やはりM個の増幅装置84を備えている。しかし、ただ一つのモード多重装置82が、送信装置81と光リンク70との中間に光学的に接続されている。同様に、ただ一つのモード分割装置83が、増幅装置84と受信装置85との中間に光学的に接続されている。
【0122】
図8Aと8Bの態様は単なる例として与えられており、本発明の光ファイバは当然、他のあらゆる種類の光システムに使用することができる。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B