【発明が解決しようとする課題】
【0009】
少モードファイバを設計する際のアプローチの一つは、モードグループ遅延差(DMGDs(Differential Mode Group Dlays。すなわち、空間多重に使われる各導波モードの到着時間の差))を最小化することである。これにより、モードカップリング現象(これは長距離伝送にとって一つの制限要因となる)と関係なく、2N×2N(Nは空間モードの総数、すなわちLP(Linear Polarization)モード縮退を含む)の複合MIMO技術を用いて、全モードを同時に検出することができる。しかしLPモードの数が増えると、この最適化はますます困難となる。
【0010】
しかしながら、屈折率差の小さいLPモードをグループ化し、個別のLPモードでなくLPモードのグループを検出することにより、MIMO技術の複雑さを低減することができるという点に留意する必要がある。
【0011】
第1の既知の解決方法はUS2013/0071114の特許文献に開示され、モード分割多重光伝送システムに使うのに適した少モード光ファイバが記載されている。このような光ファイバは、半径R
1(開示された実施形態では、最大値は11.4μmである)の単一αの屈折率分布型コア(single alpha graded−index core)を持つ。ここで波長1550nmにおけるαの値は、概ね2.3以上2.7以下である。またクラッドに対する最大相対屈折率Δ
1MAXは、概ね0.3%から0.6%である。この光ファイバはまた、概ね90μm
2より大きく160μm
2より小さい有効領域を持つ。クラッドの最大相対屈折率Δ
4MAXは、Δ
1MAX>Δ
4MAXである。波長1550nmにおける、LP01モードとLP11モードとの間のグループ遅延差は、概ね0.5ns/kmより小さい。
【0012】
しかしながらこの第1の既知の解決方法によるコアとクラッドは、1550nmより長波長におけるLP01とLP11のモードにのみ対応する。このモード数は、ファイバ1本あたりの伝送容量に対してますます高まる要求に比べて小さすぎる。
【0013】
第2の既知の解決方法はUS2013/007115に開示され、少モードファイバの別のデザインが開示されている。しかしUS2013/0071114で開示された第1の解決方法と同様、この第2の解決方法もまた、2個の導波モードにのみ対応するFMFからなる。
【0014】
その他の既知のデザインは、最大4個又は6個に対応するFMFを与える。
【0015】
PCT特許文献WO2012/161809は、クラッドに囲まれたコアを有する光ファイバを開示する。このファイバは、求められる複数の信号搬送モードに対応する一方、求められないモードを抑圧するような構造の屈折率分布プロファイルを持つ。コアとクラッドは、求められないモードがクラッドに近いか又はクラッドより小さい有効屈折率を持つように、その結果これらの求められないモードが漏えいモードになるように構成されている。求められないモードの最低有効屈折率と、漏えいモードの最高有効屈折率との差が十分大きいことにより、両者の間のカップリングは事実上回避される。最大4モードに対応するFMFが例示されている。
【0016】
US2012/0328255の特許文献は、ガラスコアと、このガラスコアと直接接触してこれを取り囲むガラスクラッドと、を有する少モード光ファイバを開示する。ガラスコアは、概ね8μmから13μmの半径R
1を有していてよい。更にこのコアは、波長1550nmにおけるα値が概ね1.9から2.1の間を取る屈折率分布プロファイルを有し、最大相対屈折率Δ
1MAXはクラッドに対して概ね0.6%から0.95%である。1550nmにおけるLP01モードの有効領域は80μm
2と105μm
2との間であり、1550nmでX個のLPモードの光信号伝搬又は伝送に対応する。ここでXは、1より大きく10より小さい整数である。ガラスクラッドは、Δ
1MAX>Δ
4MAXであるような最大相対屈折率Δ
4MAXを有していてよい。最大6モードに対応するFMFが例示されている。
【0017】
このような設計は有望ではあるが、モードグループ遅延差を望むほどには低減せず、そのため伝送システムの性能が制限される。更にこれらのいずれの文献に開示されたプロファイルも、低い曲げ損失と高い漏えい損失を保証する最適化を行っていない。しかしこれらはFMFにとって重大な課題である。実際FMFに関するいかなる既知の文献にも、低い曲げ損失と高い漏えい損失を示して少モードファイバの設計を論じたものはない。
【0018】
従って、モードグループ遅延差が小さく、低曲げ損失と高漏えい損失特性を有し、4個又はそれ以上のLPモードを導波する少モード光ファイバの設計への要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のある特定の実施形態では、光ファイバであって、光コアと、前記光コアを取り囲む光クラッドとを備え、前記光コアはα≧1の単一αの屈折率分布プロファイルを有し、前記αは光コアの屈折率プロファイル形状を決定する無次元のパラメータであり、前記光コアは半径がR
1で最大屈折率がn
0であり、前記光クラッドは外縁における屈折率がn
clであることを特徴とする光ファイバが与えられる。前記光クラッドは、トレンチと呼ばれる、光コアを取り囲む領域であって屈折率が陥没している領域を備える。前記トレンチは、内径R
2(ただし、R
2≧R
1)と、外径R
3(ただし、R
3≧R
2)とを有する。
【0020】
前記光ファイバは、前記光コア半径R
1が、以下の方程式で定義される光通信の品質基準値Cを満足するようなものである。
【数1】
ここでDMGDは、前記光ファイバにおける二つの導波モード間のモードグループ遅延差である。またMax|DMGDs|は、導波モードの任意の組み合わせに関するDMGDの絶対値の最大値である。またDn
1=n
0−n
clは、λ=λ
Cにおけるコア―クラッド間屈折率差である。ただしλ
Cは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長である。更に、前記屈折率分布プロファイルの前記α値と前記光コア半径R
1とは、R
1≧13.5μmかつC<18であるように選択される。
【0021】
ここにいう「単一αの屈折率分布プロファイル」とは、別段の断りのない限り、以下で定義される屈折率分布プロファイルn(r)を持つ光コアのことをいう。
【数2】
ここで、
rは光ファイバの半径を表す変数であり、
R
1は光コアの半径であり、
Δは以下で表される規格化屈折率差であり、
【数3】
n
1は光コアの最小屈折率であり、
n
0は光コアの最大屈折率であり、
αは光コアの屈折率プロファイル形状を決定する無次元のパラメータであり、
パラメータαは、α=2のとき逆パラボラに、α=1のとき三角形状に、α=∞のときステップ関数にそれぞれ対応する。
【0022】
各低損失コア導波モード間における群速度の不一致を低減するように、屈折率分布を調整することができる。
【0023】
このように本発明は、上記方程式で定義した品質基準値を満足するようなコア屈折率分布α値とコア径とを適用することにより、先行技術のFMFより多数のLPモードを導波することができ、モードグループ遅延差を最小とするような少モード光ファイバを提供する。このようにDMGD(モードグループ遅延差)が小さいことにより、モードカップリング現象と関係なく、2N×2N(Nは空間モードの総数、すなわちLP(Linear Polarization)モード縮退を含む)のMIMO(多入力多出力(Multiple Input Multiple Output))技術を用いて全モードを同時に検出することができる。このようにしてシステムの性能が向上し、先行技術の性能を超える。
【0024】
しかしながら、全てのモードを個別に検出するのではなく、屈折率差の小さいモードのグループを検出することにより、より複雑さを解消したMIMO技術も使用できる点に留意する必要がある。
【0025】
コア半径をR
1≧13.5μmとすることにより、US2012/0328255、US2013/0071114、US2013/0071115の特許文献等に開示された先行技術に比べて、より多数のモードを導波することができる。
【0026】
更に、陥没トレンチに補助された光ファイバは、光モードのコアへの閉じ込めを改善し、これがマクロな曲げ損失の低減につながる。このように、基準R
1≧13.5μmかつC<18を満足する少モードファイバのクラッドにトレンチを加えることで、DMGDと曲げロスとの間のトレードオフに著しい改善をもたらすことができる。このようなトレンチは、曲げ感度を低減するためにはよく知られた方法である。
【0027】
好ましくは、前記光コアの半径R
1はR
1≦20μmである。
【0028】
ある有利な特性として、前記トレンチは次の関係を満足するパラメータを持つ。
55≦1000・|(R
3−R
2)・Dn
3・(R
12・Dn
1)|≦150
ここで、Dn
3=n
trench−n
clは、λ=λ
Cにおけるトレンチ―クラッド間屈折率差で、λ
Cは前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長である。
【0029】
好ましくは、Dn
3≦−3・10
−3である。
【0030】
このような特性を持つトレンチは、曲げ損失と漏えい損失との間の良好なトレードオフを示す少モードファイバを与える。本発明による少モードファイバは、全ての導波モードに対して小さいDMGDと低い曲げ損失(1550nmにおいて、10mmの曲げに対して<100dB/ターン)を保証するとともに、先行技術のFMFより多数のLPモードに対応する結果、これらのモードを確実に伝搬することができる。また本発明による少モードファイバは、全ての漏えいモードに対して大きい漏えい損失(1550nmにおいて、>0.1dB/m)を保証する結果、これらの漏えいモードは高々10mオーダの距離を伝搬した後、遮断されかつ/又は強く減衰される。
【0031】
本発明のある実施形態によると、このような光ファイバは少なくとも4個のLPモード、好ましくは4個から16個のLPモードを導波する。
【0032】
本発明の別の実施形態によると、このような光ファイバは少なくとも6個のLPモード、好ましくは6個から16個のLPモードを導波する。
【0033】
このように多数のモードを導波できるため、ここに開示する少モード光ファイバを備える光システムの容量を増やすことが可能となり、長距離光伝送システムにおける更なる広帯域化への要求に応えることができる。
【0034】
このように本発明のある実施形態による少モード光ファイバは、空間分割多重伝送に効果的に使用できるLPモードを、先行技術のFMFより多く導波することができる。
【0035】
第1の実施形態によると、前記光コアは、最小屈折率n
1=n
clを持つ。前記光クラッドはまた、前記光コアを直接取り囲む、内径R
1で外径R
2≧R
1の内側クラッド層を備える。前記内側クラッド層は、n
2≠n
clかつn
2>n
trenchであるような一定の屈折率n
2を持つ。
【0036】
このようなトレンチ補助屈折率分布プロファイル(graded−index trench−assisted profile)は、本発明の実施例に示されるコアの基準とトレンチの基準を満足することができる。更にこのような少モードファイバは製造が容易で低コストである。内側クラッド層は、コアに対して負又は正の屈折率差を持つことができる。
【0037】
第2の実施形態によると、前記光コアは、最小屈折率n
1≠n
clを持つ。前記光クラッドはまた、前記光コアを直接取り囲む、内径R
1で外径R
2≧R
1の内側クラッド層を備える。前記内側クラッド層は、n
2=n
1かつn
2>n
trenchであるような一定の屈折率n
2を持つ。
【0038】
このようなもう一つのトレンチ補助屈折率分布プロファイルは、本発明の実施例で示されるコアの基準とトレンチの基準を満足することができる。更にこのような少モードファイバは製造が容易で低コストである。内側クラッド層は、コアに対して負又は正の屈折率差を持つことができる。
【0039】
第3の実施形態によると、前記光コアは、n
clに等しい最小屈折率を持つ。前記光クラッドはまた、前記光コアを直接取り囲む、内径R
1で外径R
2≧R
1の内側クラッド層を備える。前記内側クラッド層は、前記光コアの単一αの屈折率分布プロファイルの延長である。前記内側クラッド層は、最小屈折率n
1=n
trenchを持つ。
【0040】
第1と第2の実施形態のものと比べると、この少モードファイバの製造はいくらか難しいが、このようなトレンチ補助屈折率分布プロファイルは、屈折率分布プロファイルのα値をより良好に最適化することができる。
【0041】
本発明のある態様によると、このような光ファイバは4個のLP導波モードに対応する。このとき、λ=λ
C(例えばλ
C=1550nm)において、Max|DMGDs|<20ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<10ps/kmである。また、λ∈[λ
C−δλ;λ
C+δλ]に対し、Max|DMGDs|<30ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<20ps/kmである。ただしλ
Cは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長である。また2δλは、前記周波数帯の幅であり、好ましくはδλ=20nmである(例えばλ∈[1530nm;1570nm])。
【0042】
本明細書に記載したFMFは、少なくとも全ての「C−バンド」での使用に適するが、場合によってはS−、C−、U−、及びL−バンドでの使用にも適する点に注意しておく。
【0043】
本発明の別の態様によると、このような光ファイバは6個のLP導波モードに対応する。このとき、λ=λ
C(例えばλ
C=1550nm)において、Max|DMGDs|<25ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<15ps/kmである。また、λ∈[λ
C−δλ;λ
C+δλ]に対し、Max|DMGDs|<50ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<30ps/kmである。ただしλ
Cは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長である。また2δλは、前記周波数帯の幅であり、好ましくはδλ=20nmである(例えばλ∈[1530nm;1570nm])。
【0044】
従って、LPモードの数を6まで増やそうとする試みが達成される一方、全ての拡張C−バンドにおいてモードグループ遅延差は非常に小さい。
【0045】
本発明の別の態様によると、このような光ファイバは9個のLP導波モードに対応する。このとき、λ=λ
C(例えばλ
C=1550nm)において、Max|DMGDs|<100ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<60ps/kmである。また、λ∈[λ
C−δλ;λ
C+δλ]に対し、Max|DMGDs|<200ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<120ps/kmである。ただしλ
Cは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長である。また2δλは、前記周波数帯の幅であり、好ましくはδλ=20nmである(例えばλ∈[1530nm;1570nm])。
【0046】
従って、LPモードの数を9まで増やそうとする試みが達成される一方、全ての拡張C−バンドにおいて(更には、より一般的に、C−バンド、L−バンド、U−バンド、S−バンドなど、全ての標準的な波長バンドにおいて)モードグループ遅延差はかなり小さい。
【0047】
本発明の別の態様によると、このような光ファイバは12個のLP導波モードに対応する。このとき、λ=λ
C(例えばλ
C=1550nm)において、Max|DMGDs|<150ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<120ps/kmである。また、λ∈[λ
C−δλ;λ
C+δλ]に対し、Max|DMGDs|<300ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<250ps/kmである。ただしλ
Cは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長である。また2δλは、前記周波数帯の幅であり、好ましくはδλ=20nmである(例えばλ∈[1530nm;1570nm])。
【0048】
従って、LPモードの数を12まで増やそうとする試みが達成される一方(これは非常に興味深いファイバ容量の増大である)、全ての拡張C−バンドにおいて(更には、より一般的に、C−バンド、L−バンド、U−バンド、S−バンドなど、全ての標準的な波長バンドにおいて)モードグループ遅延差はやはり小さいままである。
【0049】
本発明の更に別の態様によると、このような光ファイバは16個のLP導波モードに対応する。このとき、λ=λ
C(例えばλ
C=1550nm)において、Max|DMGDs|<300ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<250ps/kmである。また、λ∈[λ
C−δλ;λ
C+δλ]に対し、Max|DMGDs|<600ps/kmで、好ましくはMax|DMGDs|<500ps/kmである。ただしλ
Cは、前記光ファイバが使われるときの作動周波数帯の中心伝達波長である。また2δλは、前記周波数帯の幅であり、好ましくはδλ=20nmである(例えばλ∈[1530nm;1570nm])。
【0050】
従って、LPモードの数が著しく大きな16という数まで増やされる一方、全ての拡張C−バンドにおいて(更には、より一般的に、C−バンド、L−バンド、U−バンド、S−バンドなど、全ての標準的な波長バンドにおいて)モードグループ遅延差は十分小さい。
【0051】
有用な特性として、前記光ファイバで導波されたLPモードは、A
eff<400μm
2の、好ましくはA
eff<350μm
2の有効領域を持つとともに、1550nmにおいて10mmの曲げに対して<100dB/ターンの、好ましくは<50dB/ターンの曲げ損失を持つ。またLP漏えいモードは、λ=λ
Cにおいて、>0.1dB/mの、好ましくは>0.5dB/mの漏えい損失を持つ。
【0052】
このような少モードファイバは、曲げ損失と漏えい損失との間の非常に良好なトレードオフを示す。このような比較的大きな有効領域は、イントラモードの非線形性を制限する。
【0053】
本開示の別の態様は、ここで述べたいずれかの形態の光ファイバを少なくとも一つ備える光リンクに関する。
【0054】
このような光リンクは、光ファイバの中の少なくとも一つが本発明の示す特性に適合する限り、任意の数のファイバを連結したものを備えていてもよい。このような光リンクはまた、全ての光ファイバが本発明の示す特性に適合するような、複数のファイバを備えていてもよい。
【0055】
本開示の別の態様は、ここで述べたいずれかの形態の光ファイバを少なくとも一つ備える光システムに関する。