特許第6397929号(P6397929)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6397929有機モノリスゲル用のゲル化組成物、その使用及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397929
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】有機モノリスゲル用のゲル化組成物、その使用及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 8/22 20060101AFI20180913BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20180913BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   C08G8/22
   C01B32/05
   C08J9/28CEZ
【請求項の数】18
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-552624(P2016-552624)
(86)(22)【出願日】2014年3月4日
(65)【公表番号】特表2017-508838(P2017-508838A)
(43)【公表日】2017年3月30日
(86)【国際出願番号】FR2014050477
(87)【国際公開番号】WO2015132475
(87)【国際公開日】20150911
【審査請求日】2017年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】591136931
【氏名又は名称】ハッチンソン
【氏名又は名称原語表記】HUTCHINSON
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デュフォー ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】ドリー ヒューゴ
(72)【発明者】
【氏名】ソンタグ フィリップ
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 BRUNO M M; COTELLA N G; MIRAS M C; BARBERO C A,A NOVEL WAY TO MAINTAIN RESORCINOL-FORMALDEHYDE POROSITY DURING DRYING: STABILIZATION OF 以下備考,COLLOIDS AND SURFACES A: PHYSIOCHEMICAL AND ENGINEERING ASPECTS,NL,ELSEVIER,2010年 6月 5日,VOL:362, NR:1-3,PAGE(S):28 - 32,THE SOL-GEL NANOSTRUCTURE USING A CATIONIC POLYELECTROLYTE
【文献】 ANNA-LIISA PEIKOLAINEN; KOEL MIHKEL,PREPARATION OF LOW-DENSITY AEROGELS FROM TECHNICAL MIXTURE OF DIPHENOLIC COMPOUNDS,[ONLINE],2008年 1月 1日,URL,http://www.isasf.net/fileadmin/files/Docs/Barcelona/ISASF 2008/PDF/Posters/Materials/P_M_13.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−28
C08J 9/00−42
C08G 4/00−16/06
C01B 32/00−991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥によってエアロゲルを形成し、また該エアロゲルの熱分解によって多孔質炭素モノリスを形成することができる、有機ポリマー性モノリスゲルを形成するゲル化炭素系組成物であって、前記ゲル化炭素系組成物は、ポリヒドロキシベンゼン及び1つ又は複数のホルムアルデヒドに少なくとも一部由来する樹脂を含み、該ポリヒドロキシベンゼンが、少なくとも1つの非置換ポリヒドロキシベンゼン及び1つ又は複数のアルキル基で置換される少なくとも1つのポリヒドロキシベンゼンを含む、ゲル化炭素系組成物において、
前記ポリヒドロキシベンゼンが幾つかの前記非置換ポリヒドロキシベンゼンを含み、前記幾つかの前記非置換ポリヒドロキシベンゼンが同一又は異なり、かつ
前記ゲル化炭素系組成物が水溶性カチオン性高分子電解質Pを含む
ことを特徴とする、ゲル化炭素系組成物。
【請求項2】
40mW・m-1・K-1以下の熱伝導率を有することを特徴とする、請求項1に記載のゲル化炭素系組成物。
【請求項3】
水性溶媒中における、
第1の前記非置換ポリヒドロキシベンゼンRと、
より少ない質量の、前記第1の非置換ポリヒドロキシベンゼンと同一の又は異なる第2の前記非置換ポリヒドロキシベンゼンR’と、
より多くの質量の、前記少なくとも1つの置換ポリヒドロキシベンゼンとを含む、プリミックスHと
の混合反応の生成物を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のゲル化炭素系組成物。
【請求項4】
前記混合反応の生成物中、前記プリミックスHが、前記第1の非置換ポリヒドロキシベンゼンR以上のモル量で存在することを特徴とする、請求項3に記載のゲル化炭素系組成物。
【請求項5】
前記プリミックスHが、前記第2の非置換ポリヒドロキシベンゼンR’を10%未満の質量分率で含み、幾つかの前記置換ポリヒドロキシベンゼンを80%より大きい質量分率で含むことを特徴とする、請求項4に記載のゲル化炭素系組成物。
【請求項6】
前記第1及び第2の非置換ポリヒドロキシベンゼンR及びR’が各々、レゾルシノールであり、且つ前記ゲル化炭素系組成物が、より多くの質量のメチルレゾルシノールと、より少ない質量のジメチルレゾルシノール及びエチルレゾルシノールとを含む幾つかの前記置換ポリヒドロキシベンゼンを含むことを特徴とする、請求項3〜5のいずれか一項に記載のゲル化炭素系組成物。
【請求項7】
前記メチルレゾルシノールが、より多くの質量の5−メチルレゾルシノールと、より少ない質量の4−メチルレゾルシノール及び2−メチルレゾルシノールとを含み、且つ前記ジメチルレゾルシノールが、2,5−ジメチルレゾルシノールと、4,5−ジメチルレゾルシノールとを含み、且つ前記エチルレゾルシノールが5−エチルレゾルシノールであることを特徴とする、請求項6に記載のゲル化炭素系組成物。
【請求項8】
前記ゲル化炭素系組成物が、前記エアロゲルに関して、0.20以下の密度、及び、厚みを9mmとした該厚みを50%にしたときの、前記エアロゲルから形成される板の圧縮について規定される、0.15MPa以上の圧縮強度を有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のゲル化炭素系組成物。
【請求項9】
前記ゲル化炭素組成物が、水性溶媒W中における、該溶媒に溶解させた前記カチオン性高分子電解質P、及び酸触媒Cの存在下における、前記ポリヒドロキシベンゼンと、ホルムアルデヒド(複数の場合もある)との重合反応の生成物を含み、該重合反応の生成物が、前記カチオン性高分子電解質を0.2%〜2%の質量分率で含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載のゲル化炭素系組成物。
【請求項10】
前記水溶性カチオン性高分子電解質Pが、第四級アンモニウム塩、ポリ(ビニルピリジニウムクロライド)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(アリルアミンヒドロクロライド)、ポリ(トリメチルアンモニウムエチルメタクリレートクロライド)、ポリ(アクリルアミド−co−ジメチルアンモニウムクロライド)、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる有機ポリマーであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載のゲル化炭素系組成物。
【請求項11】
前記水溶性カチオン性高分子電解質Pが、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムハライド)から選ばれる第四級アンモニウムに由来の単位を含む塩であることを特徴とする、請求項10に記載のゲル化炭素系組成物。
【請求項12】
建築物の断熱のための、又はスーパーキャパシタの炭素系電極前駆体を形成するための、請求項1〜11のいずれか一項に記載のゲル化炭素系組成物の使用。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の、エアロゲルを形成するゲル化炭素系組成物の製造方法であって、
a)水性溶媒W中において、該溶媒に溶解させた前記カチオン性高分子電解質P、及び酸触媒Cの存在下で、前記ポリヒドロキシベンゼンと、ホルムアルデヒド(複数の場合もある)とを室温で重合して、前記樹脂を含む溶液を得ることと、
b)a)で得られた溶液をゲル化して、前記樹脂のヒドロゲルを得ることと、
c)b)で得られたヒドロゲルを乾燥させて、前記エアロゲルを得ることと、
を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項14】
工程a)を、
a1)水からなる前記水性溶媒中に、前記ゲル化炭素系組成物中0.2%〜2%の質量分率で用いられる、前記ポリヒドロキシベンゼン及び前記カチオン性高分子電解質Pを溶解させることによって、その後、
a2)得られる溶液に、前記ホルムアルデヒド(複数の場合もある)、その後、前記酸性触媒Cを添加することによって行うことを特徴とする、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
工程a)前に、第1の前記非置換ポリヒドロキシベンゼンRと、プリミックスHとの混合を含む工程a0)を含み、
前記プリミックスHが、より少ない質量の、前記第1の非置換ポリヒドロキシベンゼンと同一の又は異なる第2の前記非置換ポリヒドロキシベンゼンR’と、より多くの質量の前記少なくとも1つの置換ポリヒドロキシベンゼンとを含み、且つ、
工程a0)において、前記プリミックスHを、前記第1の非置換ポリヒドロキシベンゼンR以上の質量で用いることを特徴とする、請求項13又は14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記プリミックスHが、10%未満の質量分率の前記第2の非置換ポリヒドロキシベンゼンR’と、80%より大きい質量分率の幾つかの前記置換ポリヒドロキシベンゼンとを含むことを特徴とする、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記第1及び第2の非置換ポリヒドロキシベンゼンR及びR’が各々、レゾルシノールであり、且つ前記プリミックスHが、
60%〜70%の質量分率で、より多くの質量の5−メチルレゾルシノールと、より少ない質量の4−メチルレゾルシノール及び2−メチルレゾルシノールとを含むメチルレゾルシノールと、
20%〜30%の質量分率で、
2,5−ジメチルレゾルシノール及び4,5−ジメチルレゾルシノールを含む、ジメチルレゾルシノール、及び、
5−エチルレゾルシノールであるエチルレゾルシノールと、
を含む幾つかの前記置換ポリヒドロキシベンゼンを含むことを特徴とする、請求項15又は16に記載の製造方法。
【請求項18】
工程c)を、前記エアロゲルを得るように、溶媒交換又は超臨界流体による乾燥を伴うことなく湿った空気中で乾燥させることによって行うことを特徴とする、請求項13〜17のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥によってエアロゲルを形成し、また該エアロゲルの熱分解によって多孔質炭素モノリスを形成することができる、有機ポリマー性モノリスゲルを形成するゲル化炭素系組成物、該ゲル化炭素系組成物の使用、及び該ゲル化炭素系組成物の製造方法に関する。本発明は、超断熱材(すなわち、熱伝導率が通常約40mW・m-1・K-1以下)として又はスーパーキャパシタ炭素系電極の前駆体として使用するための、特に、極めて小さい熱伝導率及び密度を有するとともに、対照的に、極めて大きい比表面積及び十分な圧縮強度を有する、かかる有機ゲル又はかかる炭素モノリスの製造に適用されるが、これに限定されない。
【背景技術】
【0002】
エアロゲルは、ゲル化及びそれに次ぐゲルの乾燥後に得られる多孔質材料であり、溶媒として作用する液体が、気体又は気体の混合物に置き換えられたものである。極めて小さい密度(又は高い細孔容積)では、これらの材料が、断熱材としての使用に極めて有望である。具体的には、それらのナノ多孔性により、細孔内に含まれる空気の対流作用を制限することが可能となる。
【0003】
しかしながら、極めて低密度のエアロゲルの製造は、限られた機械的特性から、現在のところ炉内における標準的な乾燥が可能でなく、特に、この炉乾燥中において溶媒が気化することによって、材料において内部拘束が起こり、そのナノ構造が破壊され、そこに大きな亀裂(macrofissures)が入ることから複雑となる。こうした理由から、従来、これらの低密度エアロゲルの製造のために超臨界CO2を用いた乾燥が利用されている。この方法は、ナノ構造の安定性に関しては良好な結果がもたらすものの、エアロゲルの製造コストを不利にするという欠点も有する。
【0004】
超断熱材としての用途のために最も広範に研究されてきたものであるシリカエアロゲル(これらのエアロゲルは、0.015W・m-1・K-1〜0.020W・m-1・K-1程度の熱伝導率を有することができる)も、これらの見解の例外ではない。このため、標準的な炉乾燥を行うと、これらのシリカゲルは、かなりの高密度化して、そのナノ構造の損失を受ける。さらに、これらのゲルの亀裂は、シリカナノ粒子の粉末による放出に起因して、毒性の問題を有する微粉が生じることとなる。このため、シリカエアロゲルの表面の化学的性質の改質後におけるスプリングバック効果、及び、非反応性基によるシラノール基の置換に重点をおいて研究努力がなされ、蒸発乾燥後の高密度化を可逆的なものとすることが可能になっている。
【0005】
この原理により、超断熱性ナノ構造化エアロゲルの形態の低密度シリカ粉末の工業生産は可能となったものの、大きい比表面積の有機エアロゲル自体が超断熱材としての使用に有望であるのとは対照的に、安定なモノリス材料の合成は可能にならなかった。
【0006】
既知のように、これらの有機エアロゲルは通常、レゾルシノール−ホルムアルデヒド(RF)樹脂から製造されており、それは安価で、且つ水中で使用されるゲルをもたらすことができ、(例えば試薬R及びF並びに触媒の比率に応じて)製造条件の関数として様々な多孔度値及び密度値を有し得るという利点を有する。さらに、これらの有機エアロゲルは、赤外線を吸収するため、高温で小さい熱伝導率を有するという利点がある、大きい比表面積を有する炭素の形態で熱分解することができる。しかしながら、前駆体の重縮合によって得られるこれらの化学ゲルは、不可逆的なものであるため、再利用することができない。さらに、変換率が高いとこれらのゲルは疎水性となって析出することにより、これらの材料内に機械的な制約がもたらされ、それらの脆性が増大する。
【0007】
そのため、シリカエアロゲルについては、極めて小さい密度の有機モノリスエアロゲルを得るために、これらのエアロゲルに関するナノ構造の破砕又は収縮、及び比表面積の損失が起こらないように十分に穏やかな乾燥法を使用することが必要である。こうした乾燥は従来、アルコールによる溶媒交換、及びそれに次ぐ超臨界CO2を用いた乾燥を介して行われている。
【0008】
例えば、溶媒交換及びそれに次ぐ超臨界流体による乾燥を使用する、レゾルシノール−ホルムアルデヒド樹脂をベースとしたこのような有機モノリスエアロゲルを製造する方法の記載に関しては、特許文献1を挙げることができる。
【0009】
上述したように、この乾燥法の主な欠点は、実施が複雑であり、且つ極めて費用がかかることである。
【0010】
その上、留意すべきは、断熱材としてのこのようなエアロゲルの使用が、このエアロゲルの大きい圧縮強度を必ず必要とすることである。具体的には、変形可能な又は脆弱なエアロゲルに衝撃を与えると、破断及び/又は多孔性の損失が起こるおそれがあり、これは断熱の損失を伴う。それ故、単純な乾燥方法を介して得ることができるとともに、良好な圧縮強度も有する、大きい比表面積を有する有機エアロゲルを開発することが、大いに望まれている。
【0011】
特許文献2として本特許出願人により出願された特許出願は、溶媒交換又は超臨界流体による乾燥を用いることなく、溶媒に溶解させたカチオン性高分子電解質及び触媒の存在下における、前駆体の水性溶媒中での重合による、例えば、レゾルシノール前駆体とホルムアルデヒド前駆体とに由来する超断熱性有機エアロゲルを得る方法を提示している。
【0012】
特許文献2に記載されている方法により得られるエアロゲルは、十分な結果をもたらす。しかしながら、本出願人は、その最近の研究において、エアロゲルの圧縮強度を更に改善しようとした。圧縮強度は、特に、レゾルシノールの値段が比較的高いことから、これらのエアロゲルの製造コストを低減させると同時に、或る特定の用途にとって、特に、高い機械的応力に曝される材料にとっては大きくなければならない。
【0013】
非特許文献1は、メタノール及び「Honeyol(商標)」混合物(アルキルレゾルシノール及びレゾルシノールをベースとした)中で、塩基性触媒(KOH)を用いてホルムアルデヒドを60℃で重縮合して、超臨界CO2による乾燥後に低密度エアロゲルを得ることを教示している。
【0014】
上記塩基性触媒を用いて非水溶媒中で加熱することにより実施される、非特許文献1に記載されている方法の1つの欠点は、得られるエアロゲルが、超断熱材に十分な極めて小さい熱伝導率及び圧縮強度の上述の条件を満たさないことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第4997804号
【特許文献2】国際出願PCT/IB2013/059208号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】A. L. Peikolainen et al.による「ジフェノール化合物の高機能混合物からの低密度エアロゲルの製造(Preparation of Low-density Aerogels From Technical Mixture of Diphenolic Compounds)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の1つの目的は、乾燥によってエアロゲルを形成し、また該エアロゲルの熱分解によって多孔質炭素モノリスを形成することができる、有機ポリマー性モノリスゲルを形成するゲル化炭素系組成物を提供することであり、該ゲル化炭素系組成物は、上述の欠点を克服することができる超断熱材である(すなわち、40mW・m-1・K-1以下の熱伝導率を有する)。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的は、驚くべきことに、本出願人が、水性相中において、非置換ポリヒドロキシベンゼンR及びR’、並びに1つ又は複数のアルキル基で置換されるポリヒドロキシベンゼン(複数の場合もある)等の前駆体、並びにホルムアルデヒドタイプの前駆体に、特に水溶性カチオン性高分子電解質からなる添加剤を添加することにより、樹脂を含む溶液を得て、それをゲル化しヒドロゲルを得て乾燥させた後に、超断熱性エアロゲルをもたらすことができることを見出したことで実現される。該超断熱性エアロゲルは、極めて小さい密度、大きい比表面積、及び高い機械的応力下で十分な圧縮強度を併せ持つとともに、溶媒交換及び超臨界流体による乾燥を省くことができる。
【0019】
本発明によるゲル化炭素系組成物はそのため、ポリヒドロキシベンゼンR及びH及びホルムアルデヒド(複数の場合もある)Fに少なくとも一部由来する樹脂を含み、該ポリヒドロキシベンゼンは、少なくとも1つの非置換ポリヒドロキシベンゼンR、及び1つ又は複数のアルキル基で置換される少なくとも1つのポリヒドロキシベンゼンを含む。該ゲル化炭素系組成物は、該ポリヒドロキシベンゼンが幾つかの上記非置換ポリヒドロキシベンゼンR及びR’を含み、また該組成物が水溶性カチオン性高分子電解質Pを含むようなものである。
【0020】
本発明によるこのような組成物は、40mW・m-1・K-1以下、より有益には30mW・m-1・K-1以下の熱伝導率を有し得ることが有益である。
【0021】
本発明の組成物は、ポリヒドロキシベンゼン前駆体であるレゾルシノールに専ら由来する先に述べたものと比較して、製造コストを低減させることに留意されたい。
【0022】
また、この樹脂をベースとし(すなわち、質量の点で主にこれからなる)、且つこのカチオン性高分子電解質を組み込む、本発明によるエアロゲル組成物は有益なことに、超臨界CO2による乾燥よりも遙かに実施し易く、且つゲルの製造コストに不利益をあまりもたらさない炉乾燥を用いることによって得ることができることに留意されたい。具体的に、本出願人は、この添加剤によって、この炉乾燥後に得られるゲルの高多孔度を保持し、大きい比表面積及び大きい細孔容積と併せて、極めて小さい密度を与えることが可能となることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0023】
「ゲル」という用語は、既知のように、コロイド溶液の凝集及び凝結により自然に又は触媒の作用下において形成する、コロイド材料と液体との混合物を意味する。
【0024】
「水溶性ポリマー」という用語は、水と混合すると分散液を形成し得る水分散性ポリマーと対照的に、添加剤(特に界面活性剤)を添加することなく水に溶解し得るポリマーを意味する。
【0025】
「より少ない質量」及び「より多くの質量」という用語はそれぞれ、50%未満及び50%より大きい質量分率を意味する。
【0026】
本発明の別の特徴によれば、本組成物は、水性溶媒W中における、
第1の上記非置換ポリヒドロキシベンゼンRと、
より少ない質量の、上記第1の非置換ポリヒドロキシベンゼンRと同一の又は異なる第2の上記非置換ポリヒドロキシベンゼンR’と、より多くの質量の、少なくとも1つの置換ポリヒドロキシベンゼンとを含むプリミックスHと
の混合反応の生成物を含むものであってもよい。
【0027】
好ましくは、上記混合反応の生成物中、上記プリミックスHが、上記第1の非置換ポリヒドロキシベンゼンR以上のモル量で存在する。言い換えれば、H/(R+H)モル比が、2つの不等式0.5≦H/(R+H)<1、すなわち、R/H≦1又はH≧Rを満たすことが優先される。
【0028】
また、上記プリミックスHが、上記第2の非置換ポリヒドロキシベンゼンR’を10%未満の質量分率で含み、幾つかの上記置換ポリヒドロキシベンゼンを80%より大きい質量分率で含むことも優先される。
【0029】
上記第1及び第2の非置換ポリヒドロキシベンゼンR及びR’が各々、レゾルシノールであり、且つ本組成物が、より多くの質量のメチルレゾルシノールと、より少ない質量のジメチルレゾルシノール及びエチルレゾルシノールとを含む幾つかの上記置換ポリヒドロキシベンゼンを含むことが更に優先される。
【0030】
上記メチルレゾルシノールが、より多くの質量の5−メチルレゾルシノールと、より少ない質量の4−メチルレゾルシノール及び2−メチルレゾルシノールとを含み、
上記ジメチルレゾルシノールが、2,5−ジメチルレゾルシノールと、4,5−ジメチルレゾルシノールとを含み、且つ、
上記エチルレゾルシノールが5−エチルレゾルシノールであることが、更に優先される。
【0031】
本組成物が、上記エアロゲルに関して、0.20以下の密度、及び、厚みを9mmとした該厚みを50%にしたときの、上記エアロゲルから形成される板の圧縮について規定される、0.15MPa以上、更には2MPa以上の圧縮強度を有し得ることが有益である。
【0032】
本発明の別の特徴によれば、本組成物は、有益には室温(すなわち、約22℃)における、水性溶媒W中での、該溶媒に溶解させた上記カチオン性高分子電解質P、及び具体的には酸性である触媒Cの存在下における、上記ポリヒドロキシベンゼンR及びHと、ホルムアルデヒド(複数の場合もある)Fとの重合反応の生成物を含むものであってもよく、この重合生成物は、0.2%〜2%(好ましくは0.3%〜1%)の極めて小さい質量分率でカチオン性高分子電解質Pを含む。
【0033】
上記少なくとも1つの高分子電解質は、水に完全に溶解し、且つ低いイオン強度を有する任意のカチオン性高分子電解質とすることができる。
【0034】
好ましくは、上記少なくとも1つの高分子電解質は、第四級アンモニウム塩、ポリ(ビニルピリジニウムクロライド)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(アリルアミンヒドロクロライド)、ポリ(トリメチルアンモニウムエチルメタクリレートクロライド)、ポリ(アクリルアミド−co−ジメチルアンモニウムクロライド)、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる有機ポリマーである。
【0035】
上記少なくとも1つの水溶性カチオン性高分子電解質Pは、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムハライド)から選ばれる第四級アンモニウムに由来の単位を含む塩であり、好ましくは、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)又はポリ(ジアリルジメチルアンモニウムブロマイド)であることが更に優先される。
【0036】
本発明で使用され得る上記樹脂の前駆体ポリマーの中でも、それぞれ、非置換であるポリヒドロキシベンゼンモノマーと、1つ又は複数のアルキル基で置換されるポリヒドロキシベンゼンモノマーと、少なくとも1つのホルムアルデヒドモノマーとの重縮合により得られるポリマーを挙げることができる。この重合反応は、ポリヒドロキシベンゼンタイプ又は他の更なるモノマーを伴うものであってもよい。使用され得るポリヒドロキシベンゼンは、ジ−又はトリ−ヒドロキシベンゼン、有益にはレゾルシノール(1,3−ジヒドロキシベンゼン)及び/又はカテコール(1,2−ジヒドロキシベンゼン)、ヒドロキノン(1,4−ジヒドロキシベンゼン)、又はフロログルシノール(ベンゼン−1,3,5−トリオール)であることが優先される。
【0037】
例えば、ポリヒドロキシベンゼン(複数の場合もある)R及びH及びホルムアルデヒド(複数の場合もある)Fを0.3〜0.7の(R+H)/Fモル比で利用することができる。
【0038】
本発明の別の特徴によれば、上記炭素系組成物は、400m2/g〜1200m2/gの比表面積、及び/又は0.1cm3/g〜3cm3/gの細孔容積、及び/又は3nm〜30nmの平均細孔直径、及び/又は0.04〜0.4、例えば0.1〜0.2の密度を有し得ることが有益である。
【0039】
エアロゲル等の本発明による有機ポリマー性モノリスゲルは、上記で規定したように炭素系組成物からなる。
【0040】
有益には、このゲル及びその熱分解により得られる炭素モノリスは、10mW・m-1・K-1〜40mW・m-1・K-1、例えば20mW・m-1・K-1〜35mW・m-1・K-1の熱伝導率を有することができ、このゲルは、建築物の断熱のために、又は炭素系電極前駆体若しくはスーパーコンデンサを形成するために使用することができる。
【0041】
エアロゲルを形成する、上記で規定したような炭素系組成物を製造する本発明による方法は、
a)水性溶媒W中において、該溶媒に溶解させた上記少なくとも1つのカチオン性高分子電解質P、及び酸触媒Cの存在下で、上記ポリヒドロキシベンゼン(複数の場合もある)Rと、ホルムアルデヒド(複数の場合もある)Fとを重合して、上記樹脂ベースの溶液を得ること、
b)a)で得られた溶液をゲル化して、上記樹脂のゲルを得ること、及び
c)b)で得られたゲルを乾燥させて、上記有機ポリマー性モノリスゲルを得ること、
を含む。
【0042】
多孔質炭素モノリスを得るために、c)で得られた乾燥させたゲルを熱分解する。
【0043】
工程a)は、
a1)水からなる上記水性溶媒中に、本組成物中0.2%〜2%の質量分率で用いられる、上記ポリヒドロキシベンゼンR及びH及び上記カチオン性高分子電解質Pを溶解させること、その後、
a2)得られる溶液に、上記ホルムアルデヒド(複数の場合もある)F、その後、上記酸性触媒Cを添加すること、
によって行うことが有益である。
【0044】
また、本発明のこの方法が、工程a)前に、第1の上記非置換ポリヒドロキシベンゼンRと、プリミックスHとの混合を含む工程a0)を含み、
上記プリミックスHが、より少ない質量の、上記第1の非置換ポリヒドロキシベンゼンと同一の又は異なる第2の上記非置換ポリヒドロキシベンゼンと、より多くの質量の少なくとも1つの置換ポリヒドロキシベンゼンとを含み、
工程a0)において、上記プリミックスHを、上記第1の非置換ポリヒドロキシベンゼンR以上の質量で用いることが有益である。
【0045】
好ましくは、このプリミックスHは、上記第2の非置換ポリヒドロキシベンゼンR’を10%未満の質量分率で含み、幾つかの上記置換ポリヒドロキシベンゼンを80%より大きい質量分率で含む。
【0046】
第1及び第2の非置換ポリヒドロキシベンゼンR及びR’が各々、レゾルシノールであり、且つプリミックスHが、
60%〜70%の質量分率で、より多くの質量の5−メチルレゾルシノールと、より少ない質量の4−メチルレゾルシノール及び2−メチルレゾルシノールとを含むメチルレゾルシノールと、
20%〜30%の質量分率で、
2,5−ジメチルレゾルシノール及び4,5−ジメチルレゾルシノールを含む、ジメチルレゾルシノール、及び、
5−エチルレゾルシノールであるエチルレゾルシノールと、
を含む幾つかの上記置換ポリヒドロキシベンゼンを含むことが更に優先される。
【0047】
工程c)は、上記エアロゲルを得るように、溶媒交換又は超臨界流体による乾燥を伴うことなく、湿った空気中、例えば炉内で乾燥させることによって行うことが有益である。
【0048】
有益には、また上述のように、工程a)は、上記少なくとも1つの高分子電解質Pを本組成物中0.2%〜2%、好ましくは0.3%〜1%の質量分率で用いることによって行うことができる。
【0049】
工程a)において使用され得る酸触媒Cとしては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、過塩素酸、シュウ酸、トルエンスルホン酸、ジクロロ酢酸又はギ酸の水溶液等の触媒を含む例を挙げることができる。
【0050】
工程a)では、好ましくは0.001〜0.07、例えば0.01〜0.05である、水性溶媒Wに対する上記ポリヒドロキシベンゼンR及び上記プリミックスHの(R+H)/W質量比が使用される。
【0051】
本発明によるこの水性相の製造方法はそのため、合成条件の関数として変化する制御された多孔質構造を得ることを可能とすることに留意されたい。そのため、完全にナノ多孔性である(すなわち、50nm未満の細孔直径を有する)、又は代替的にナノ細孔とマクロ細孔(すなわち、50nmより大きい細孔直径を有する)とが共存する、低密度の構造を得ることが可能である。
【0052】
本発明の他の特徴、利点及び詳細は、本発明の幾つかの実施例に従う記載を読むことで明らかとなり、これは、「対照」例及び「本発明によるものでない」例と比べて、非限定的な例示としてもたらされるものとする。
【実施例】
【0053】
「対照」エアロゲルG0、本発明による3つのエアロゲルG1、G2、G3、及び本発明によるものでないエアロゲルG4の調製例:
後述の例は、
本出願人名義の上述の特許出願(特許文献2)で得られるエアロゲルのような、ポリヒドロキシベンゼン前駆体であるレゾルシノールRに専ら由来する、「対照」有機モノリスゲルG0と、
各々、ポリヒドロキシベンゼン前駆体であるレゾルシノール、及びアルキル基で置換されるレゾルシノールをベースとするプリミックスHと混合させたレゾルシノール前駆体Rに由来する、本発明による3つの有機モノリスゲルG1〜G3と、
上述の非特許文献1におけるような、ポリヒドロキシベンゼン前駆体であるレゾルシノール、及びアルキル基で置換されるレゾルシノールをベースとするこのプリミックスHに専ら由来する、本発明によるものでない有機モノリスゲルG4と、
の製造を例示するものである。
【0054】
以下の開始試薬:
Acros Organicsのレゾルシノール(R)、純度98%、
Acros Organicsのホルムアルデヒド(F)、純度37%、
塩酸からなる酸触媒(C)、
(水Wに溶解させた)ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)(P)、純度35%、及び、
既知のように、レゾルシノールR’とアルキルレゾルシノール誘導体とのプリミックスであり、且つその配合が以下の表1に詳述される、VKG(Viru Keemia Grupp)社により販売されている、Honeyol(商標)(H)(このプリミックスHのモル質量Mは、その主成分の質量分率を用いて求めたため、約121g/mol-1のモル質量Mが得られた)、
を用いた。
【0055】
【表1】
【0056】
これらのゲルG0〜G4は以下のように調製した。
【0057】
レゾルシノールR及び/又はプリミックスH(ゲルG0では、Hに由来せずR単独、ゲルG1、G2、G3ではR+H、及びゲルG4では、Rに由来せずH単独)、また高分子電解質Pを、第1段階において、水Wを入れた容器内で溶解させた。次に、R及び/又はH並びにPを完全に溶解させた後、ホルムアルデヒドFを添加した。得られる各ポリマー溶液は、酸触媒Cを用いて適切なpHに調節し、これらの操作は全て室温(約22℃)で行ったことが指摘される。
【0058】
第2段階では、得られる各溶液を、テフロン(登録商標)型内に移した後、90℃の炉に24時間入れて、ゲル化させた。
【0059】
湿度90%、85℃の湿度室内における、得られる各ヒドロゲルの24時間の乾燥をその後行い、続いて、105℃で24時間乾燥させた。
【0060】
以下の表2は、触媒Cを添加することによって得られる各ポリマー溶液について測定したpHに加えて、各ゲルG0〜G4についての以下の比率を示すものである:
(R+H)/Fは、ホルムアルデヒド前駆体Fに対する、レゾルシノール前駆体(複数の場合もある)R及び/又はプリミックスHのモル比(R+H=エアロゲルG0ではR、及びR+H=エアロゲルG4ではH)であり、
H/(R+H)は、プリミックス前駆体Hと、レゾルシノール前駆体(複数の場合もある)R及び/又はプリミックスHとのモル比(H=エアロゲルG0では0、及びR=エアロゲルG4では0)であり、
(R+H)/Wは、レゾルシノール前駆体(複数の場合もある)R及び/又はプリミックスHと、水Wとの質量比であり、且つ、
Pは、各エアロゲル組成物G0〜G4中におけるカチオン性高分子電解質の質量分率を表す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2に見られるように、本発明によるエアロゲルのH/(R+H)モル比は有益なことに、0.5≦H/(R+H)<1、すなわち、H≧Rを満たす。
【0063】
以下の表3は、得られるエアロゲルG0〜G4の密度、それらの50%の相対的な圧縮において測定される抵抗率、及び熱線法に従い(Neotimの伝導率測定器を用いた)22℃で測定されるそれらの熱伝導率を照合するものである。
【0064】
エアロゲルG0〜G4からなる板の圧縮における機械的特性は、23℃において、1kNセンサ(I_62_02)を備えるDY35 No.I_62動力計を用いて、5mm/分の速度で、最大変形50%まで(すなわち、各板の初期の厚みの50%に相当する最大圧縮について)測定した。これらの測定には、約13mm×13mmの寸法を有するようにカッターを用いて切断した9mm厚の板を使用した。各板の実際の寸法は、スチール製の定規を用いて測定し、Testworksソフトウェアを用いて応力を算出した。
【0065】
【表3】
【0066】
この表3から、レゾルシノールRと、レゾルシノールR’とレゾルシノール誘導体とを含有するプリミックスHとの混合物から調製した本発明による3つのエアロゲルG1、G2及びG3が、第一に、レゾルシノールR単独により得られるエアロゲルG0のものに近い超断熱特性、第二に、この「対照」エアロゲルG0のものよりも良好な圧縮強度を有することが示されるため、本発明のこれらのエアロゲルは、高い機械的応力を受ける建築物における断熱に更に良好に適合するものである。
【0067】
とりわけ、特にH/(R+H)及び(R+H)/Fモル比がそれぞれおよそ0.6〜0.8及び0.30〜0.45であることを特徴とする本発明によるゲルG3は有益なことに、小さい熱伝導率(30mW・m-1・K-1未満)と、「対照」エアロゲルG0のものよりも極めて著しく良好な優れた圧縮強度(G3とG0とのそれぞれの強度間の比率が15倍近いことを参照されたい)とを同時に有する。
【0068】
本発明によるものでないエアロゲルG4が、レゾルシノールRを伴わずに得られることに起因して、乾燥時に破断したため、その密度、その圧縮強度又はその熱伝導率について特性決定することができなかったことに留意されたい。
【0069】
本発明に含まれるエアロゲル組成物は、ゲルG1、G2及びG3の3つの上述の実施例において試験したものに限定されるものでなく、第2の非置換ポリヒドロキシベンゼン前駆体R’及びそれらのアルキル誘導体のプリミックスと組み合わせた、ホルムアルデヒド前駆体F及び第1の非置換ポリヒドロキシベンゼン前駆体R(例えば、レゾルシノール又はカテコール)に由来するエアロゲルへとより包括的に拡大し得ることに留意されたい。