【実施例】
【0020】
実施例1 ヒト化抗IgE抗体の作成
CDRグラフティング(CDR grafting)
8D6由来のV
H(SEQ ID NO:1)及びVκ(SEQ ID NO:3)ドメインのアミノ酸配列と、それらのヒト生殖系列V
H1-69/JH4及びVκ1-39/Jκ1対立遺伝子とを整列させる。CDRグラフトを作成するために、4箇所のM48I、R66K、V67A及びS76Nのヒト生殖系列V
H1-69対立遺伝子とは異なるアクセプターV
Hフレームワークを使用した。8D6のアミノ酸配列第26-35番目(CDR-H1、SEQ ID NO:5)、第50-56番目(CDR-H2、SEQ ID NO:6)及び第93-104番目(CDR-H3、SEQ ID NO:7)のCDRをアクセプターV
Hフレームワークに操作して、
図1に示す8D6 V
Hの直接CDR移植片を作製した。Vκドメインでは、アミノ酸配列第27-34番目(CDR-L1、SEQ ID NO:8)、第50-56番目(CDR-L2、SEQ ID NO:9)及び第89-97番目(CDR-L3、配列番号NO:10)のCDRをアクセプターVκフレームワークに移植した。これは、位置M4Lのヒト生殖系列Vκ1-39対立遺伝子とは異なる(
図2)。8D6 V
Lの直接CDRgグラフトをhu8D6 V
L(SEQ ID NO:4)と言う。
【0021】
IgGの作成
ヒト化8D6(hu8D6)及びキメラ8D6(c8D6)抗体を得るために、Expi293
TM発現系(Invitrogen)を一過性発現のために使用した。ExpiFectamine
TM293試薬(Invitrogen)を125mLのフラスコに加え、30mLの培養物でランスフェクションを行った。トランスフェクションの前日、Expi293F
TM細胞をExppi293
TM発現培地(Invitrogen)で2×10
6細胞/mLの密度に希釈した。トランスフェクションの当日に、培養物を計数し、遠心分離し、2.5×10
6細胞/mLまで濃縮し、古い培地を除去し、新鮮な培地を追加した。80μLのExpiFectamine 293を1.5mLのOPTI-MEM(Invitrogen)で希釈してトランスフェクション複合体を得て、5分後に希釈したExpiFectamine 293
TM溶液を30μgのプラスミドDNA中に加える。続いて、3mLのDNAトランスフェクション試薬複合体溶液を、20分間室温でインキュベートし、フラスコを旋回しながら懸濁培養液中にゆっくり添加した。トランスフェクトされた細胞は、37℃のインキュベーター中でオービタルシェーカーに戻し、16時間インキュベートした。インキュベーション後、150μLのExpiFectamine 293
TMトランスフェクションエンハンサー1及び1.5mLのExpiFectamine 293
TMのトランスフェクションエンハンサー2を培養物に加えた。トランスフェクション後7日目にインキュベーションを終了し、抗体精製のために回収した。抗体は、rプロテインAセファロース
TMアフィニティークロマトグラフィー(GE Healthcare)を用いて上清から精製した。サイズ排除高速タンパク質液体クロマトグラフィー(size exclusion fast protein liquid chromatography)で測定したように、最終生成物は、>99%のタンパク質が相対分子量(Mr)が約150,000の単一ピークとして溶出し、均質であった。
【0022】
結合分析(EC50)
ヒトIgEのFc領域(ε.Fc2-4)をExpi293F
TM細胞に発現させ、オマリズマブ結合NHS活性化セファロース
TM樹脂(GE Healthcare)を用いた抗IgE免疫親和性クロマトグラフィーにより精製した。ここで、ヒトIgEのFc領域(ε.Fc2-4)は、以前Wanら(Nature Immunol., 2002,3:681-686)により記載されたナンバリングシステム(numbering system)に従うSer
226からGly
599までであり、2つの変異N265Q及びN371Qを含む。hu8D6のEC
50測定において、ε.Fc2-4タンパク質をコーティング緩衝液(15mMのNa
2CO
3、35mMのNaHCO
3、pH9.6)中に50ng/ウェルで96ウェルプレート上に固定化し、4℃で一晩インキュベートした。200μL/ウェルのアッセイ希釈剤(0.5%BSA、0.05%のTween-20、0.01%チメロサール含有PBS)を用い、コーティングされたウェルを室温で1時間ブロックした。200μL/ウェルの洗浄緩衝液(0.05% Tween-20を含むPBS)でプレートを3回洗浄した。100μLの抗体希釈剤(1:3のステップで0.1mg/mlから順次希釈)をコーティングされたウェルに加えた。室温で2時間インキュベーションを行った。全てのウェルを200μL/ウェルの洗浄緩衝液で6回吸引し、洗浄した。プレートを1:10,000で希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(horse radish peroxidase、HRP)結合ヤギ抗マウスIgG-Fc抗体(Jason ImmunoResearch)とともにインキュベートした(100μL/ウェル)。 次いで、すべてのウェルを200μL/ウェルの洗浄緩衝液で6回洗浄した。最後に、50μL/ウェルのNEA-Blue TMB基質(臨床研究製品)によってウェルを発色させ、反応を50μL/ウェルの1N HClを添加して停止させた。ELISAリーダーを用いOD
450の吸光度を測定した。Prismソフトウェア(GraphPad)を用いてEC
50を計算した。
図3に示すように、hu8D6及びc8D6のEC
50は、1.48×10
-10及び1.16×10
-10Mであった。この結果は、CDRグラフティング工程後にhu8D6の結合活性がほぼ完全に維持されたことを示す。
【0023】
競合分析(IC50)
hu8D6の結合特性を測定するために、hu8D6及びc8D6が、ヒトIgEとの結合においてHRP結合c8D6に競合して結合する効率を比較し、競合ELISA試験を行った。50ngのε.Fc2-4タンパク質を用い、コーティング緩衝液中でELISAプレートのウェルを4℃で一晩コーティングし、アッセイ希釈剤でインキュベートすることによりブロックした。また、HRP-c8D6原液をアッセイ希釈剤1:1000まで希釈し、アリコートを1:3のステップで0.1mg/mlから段階的に希釈した未結合c8D6又はhu8D6と混合した。2つの混合物をELISAウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。その後、ウェルをPBSTで洗浄し、TMBでインキュベートし、OD
450を測定した。Prismソフトウェアを用いてIC
50を計算した。
図4に示すように、未結合hu8D6及びc8D6のIC
50は、1.79x10
-9及び2.28×10
-9Mであった。この結果は、hu8D6及び8D6は同一のエピトープに結合することを示す。
【0024】
表面プラズモン共鳴(SPR)分析によるKD測定
hu8D6 Fabを生成するために、hu8D6抗体のV
H及びV
kのDNAセグメントのcDNAを、それぞれFab発現ベクターのヒトCγ1-CH1ドメイン及びヒトCk領域に接合した。該Fab発現ベクターは、全体のCγ1定常領域をCγ1-CH1ドメインで置換することにより、pIgG1(k)ベクターから変更して得られる(Chen et al. J Immunol. 184:1748-1756)。Expi293
TM発現系(Invitrogen)を一過性発現のために用いた。Hu8D6 FabはKappaSelectセファロース
TM親和性クロマトグラフィー(GE Healthcare)を用いて上清から精製した。サイズ排除高速タンパク質液体クロマトグラフィー(size exclusion fast protein liquid chromatography)で測定したように、最終生成物は、>99%のタンパク質が相対分子量(Mr)が約150,000の単一ピークとして溶出し、均質であった。
【0025】
u8D6のKD測定は、SPRアッセイはBiacore X機器(GE Healthcare)を用いて行った。アミンカップリングキット(GE Healthcare)を用い、Hu8D6 FabをCM5チップ(GEヘルスケア)に固定化した。カップリング密度は、<500共鳴単位に制限した。30μl/分の流速で、HBS-P緩衝液(GEヘルスケア)中の濃度が25、12.5、6.25及び3.125nMのε.Fc2-4タンパク質をセンサーチップに注入した。全てのサンプルを120秒間フローセルに注入し、25℃での解離時間は720秒である。センサー表面の再生は、10mMグリシン-HCl(pH2.5)の30秒間の注入を2回行うことによりに実施した。ε.Fc2-4が異なる濃度において、固定化されたhu8D6 Fabに結合する超音波画像を
図5に示す。親和性および速度定数は、BIAevalutionソフトウェア(GE Healthcare)を用いて計算し、ε.Fc2-4に対するhu8D6 FabのK
ON及びk
offは、1.23±0.17x10
6 M
-1 S
-1及び5.79±0.03x10
-5 S
-1であり、その結果、hu8D6のKDは4.8±0.7x10
-11Mであった。
【0026】
FACS分析
hu8D6の結合活性の測定には、Chenらによって作成された、mIgE.FcL(膜ε鎖のロング型CH2-細胞質尾部)またはmIgE.FcS(膜ε鎖のショート型CH2-細胞質尾部)でコード化された組換えDNAを導入したRamos細胞株(Chen et al. J Immunol. 184:1748-1756)を用いた。mIgE.FcLまたはmIgE.FcSを発現するRamos細胞を、2×10
6細胞/mLの細胞密度で、FACS緩衝液(1%FBS及び0.1%アジ化ナトリウムを含む1×PBS)に再懸濁した。100μLのFACS緩衝液中の2×10
5細胞を、10、1、0.1、0.01及び0.001μg/mLのhu8D6及びc8D6とともに氷上で30分間インキュベートし、FACS緩衝液で洗浄した。結合抗体を、ヒトIgG-Fcに対し特異性を有するFITC標識ヤギIgG(Caltag Laboratories)を用いて検出した。染色された細胞を、FACS Canto IIフローサイトメーター(BD Biosciences)を用いて分析した。ラモス細胞株に対する抗体結合の蛍光強度の幾何平均(geometric mean)を、FCSExpressソフトウェア(DeNono software)を用いて分析した。EC
50を、Prismソフトウェアを用いて計算した。
図6a及び
図6bに示すように、hu8D6及びc8D6がmIgE.FcL発現Ramos細胞に結合するEC
50は、2.21x10
-10及び2.0x10
-10であり、hu8D6及びc8D6がmIgE.FcS発現Ramos細胞に結合するEC
50は、3.86x10
-10及び3.0x10
-10であった。その結果は、hu8D6及びc8D6が2つのmIgEアイソフォームにに対する結合活性はほぼ同等であることを示す。
【0027】
実施例2 hu8D6はヒトFCεRI結合IgEに結合することができない。
Hu8D6はIgE-飽和組換えヒトFCεRIのα鎖に結合することができない。
ELISAを用いて、hu8D6が固相組換えFcεRIα融合タンパク質(huFcεRIα-huFcγ1、FcεRIα-Fcと言う)への結合を測定し、該タンパク質は、ヒトFcεRIαの細胞外領域(Val
26からLeu
204まで)及びヒトγ1のヒンジ-C
H2-C
H3部分から構成される(Shiung et al., Immunobiology, 2012, 217:676-683)。FcεRIα-Fcタンパク質はFreeStyl
TM 393F系(Invitrogen)で発現させ、プロテインAクロマトグラフィーによって精製した。ELISAプレートのウェルは、2μg/mLのFcεRIα-Fcによりコーティング緩衝液中において4℃で一晩コーティングし、アッセイ希釈剤(0.5%BSA、0.05% Tween-20、0.01% チメロサール含有PBS)を用いて室温で1時間処理した。次に、抗IgEクロマトグラフィーによってU266細胞の培地から精製した1μg/mlのIgEを用いて、コーティングされたFcεRIα-Fcタンパク質を飽和させた。その後、ウェルを洗浄緩衝液で6回洗浄した後、捕捉されたIgEは、10、1、0.1及び0.01mg/mlのヒトIgE(Sigma)、hu8D6、c8D6、オマリズマブ及びマウス抗ヒトIgEモノクローナル抗体5H2(AbD Serotec)とともにインキュベートした。結合したヒトIgE及びマウスIgGをHRP結合ヤギ抗ヒトκ軽鎖(GeneTex)及びHRP結合ヤギ抗マウスIgG.Fc(Jackson ImmunoResearch)を用いて検出した。
図7に示すとおり、ヒト化8D6、c8D6及びオマリズマブは、IgE-飽和組換えFcεRIα融合タンパク質に結合しないが、5H2は全ての濃度において結合していることが確認された。
【0028】
hu8D6は好塩基球上のIgEに結合できない。
RBL SX38細胞を細胞表面FcεRIのプールとして用い、該細胞は、ヒトFcεRIのα、β及びγ鎖をコードする遺伝子により転写されるラット好塩基球性白血病細胞である(Wiegand et al., J. Immunol., 1996, 157:221-230)。1mlのFACS緩衝液中の2×10
6のRBL SX-38細胞を3μg/mlのIgEとともに、氷上で30分間インキュベートした。FACS緩衝液で細胞を洗浄して未結合のIgEを除去し、次いで、100mLのFACS緩衝液中の2×10
5細胞を、10μg/mlのhu8D6、c8D6、オマリズマブ及び5H2抗体とともに、氷上で30分間インキュベートし、続いて、FACS緩衝液で洗浄した。結合した抗体を、ヒトIgG-Fcに対し特異性を有するFITC標識ヤギIgG或いはFITC標識F(ab)'2ウサギ抗マウスIgG(AbD Serotec)により検出した。染色した細胞は、FACSカントII(FACS Canto II)で分析した。
図8a〜8eに示すように、ヒト化8D6、c8D6及びオマリズマブは、IgE-飽和RBL SX-38細胞に結合することができないが、5H2はRBL SX-38細胞に結合できた。
【0029】
FcεRIα-Fcタンパク質に対する競合分析
競合ELISA試験は、hu8D6及びオマリズマブが、FcεRIα-Fcタンパク質への結合においてHRP結合IgEに競合して結合する効率を比較することにより行った(Shiungら)。ELISAプレートのウェルをコーティング緩衝液中において、100ngのU266 IgEタンパク質でコーティングし、アッセイ希釈剤(0.5% BSA、0.05% Tween-20、0.01% チメロサールを含むPBS)でインキュベートすることによりブロックした。また、HRP-IgEの原液をアッセイ希釈剤により1:6000に希釈し、1:3ステップで、アリコートを0.1mg/mlから順次希釈した未結合のhu8D6或いはオマリズマブと混合した。該2つの混合物をELISAウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。次いで、ウェルをPBSTでウェルを洗浄し、TMBでインキュベートし、それらのOD
450を測定した。IC
50は、Prismソフトウェアを用いて計算した。ネガティブコントロールとして用いたヒトHER2タンパク質を標的とするトラスツズマブ(Trastuzumab)(Herceptin
TM)は、IgEのFcεRIα-Fcへの結合を阻害しなかった。
図9に示すように、FcεRIα-Fcに対するIgE結合を阻害するhu8D6及びオマリズマブのIC
50は9.4及び25.9×10
-10Mであり、これは、hu8D6がオマリズマブに比べ、IgEがその受容体への結合を阻害する上で、より優れていることを示す。
【0030】
細胞表面のFcεRIに対する競合分析
0.1mLのFACS緩衝液中の2×10
5個のRBL SX-38細胞を、45、30、13.3、8.9、5.93、3.95、2.63、1.76、1.17、0.78、0.52及び0.35μg/mLの異なる濃度のhu8D6、オマリズマブ又はトラスツズマブを、FITC標識IgE(4.5μg/mL)とともに氷上で30分間インキュベートした。上記細胞をFACS緩衝液で洗浄し、未結合のIgEを除去した。染色された細胞を、FACS Canto IIで分析した。IC
50を、Prismソフトウェアを用いて計算した。トラスツズマブは、SX-38細胞に対するIgEの結合に影響しなかった。
図10に示すように、SX-38細胞へのIgE結合を阻害するhu8D6及びオマリズマブのIC
50は18.8x10
-9及び24.7x10
-9Mであった。これは、hu8D6がオマリズマブに比べ、FcεRI発現細胞に対するIgEの結合を阻害する上で、より優れていることを示している。
【0031】
実施例3 hu8D6はRBL SX-38細胞を感作できない。
脱顆粒の程度を、β-ヘキソサミニダーゼ(顆粒中に貯蔵されたリソソーム酵素)の培地への放出を測定することにより評価した。RBL SX-38細胞を、24ウェルプレートに3×10
5細胞/ウェルで0.5mLの培地にて37℃で一晩播種した。翌日、培地を除去し、1μg/mLのヒトIgEを含む予熱された培地0.25mLを各ウェルに添加した。37℃のインキュベーター中で2時間インキュベートした後、各ウェルを0.5mLのTyrode's緩衝液(135mM NaCl、5mM KCl、5.6mMグルコース、1.8mM CaCl
2、1mM MgCl
2、20mM HEPES及び0.5mg/mL BSAを含む、pH 7.3)により二回洗浄した後、10、1、0.1又は0.01μg/mLの抗体または1% Triton X-100を含む0.25mLの予熱されたTyrode's緩衝液を添加した。37℃のインキュベーターで30分間インキュベートした後、上清を集め、室温で5分間300xgで遠心分離し、各ウェルから50μLの透明な上清を新しい96ウェルのブラックOptiPlate
TM(Perkin-Elmer)に移した。0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.5)中の50mLの基質溶液(80μMの4-MUG(4-メチルウンベリフェリル-N-アセチル-d-グルコサミニド)、Sigma)を各ウェルに加え、プレートを37℃で1時間インキュベートした。100μLのグリシン緩衝液(0.2Mグリシン、0.2M NaCl、pH10.7)を加えることによって反応を停止した。得られた蛍光(励起355nm;発光460nm)をVictor
TM 3蛍光リーダー(Perkin-Elmer)により各ウェルの上部から測定した。測定値は、1% Triton X-100で細胞を溶解することによって得られた放出値(100%)に対するパーセンテージとして表した。ヒト化8D6、c8D6及びオマリズマブは、IgE感作RBL SX-38細胞の脱顆粒を誘導しなかったが、5H2は誘導した(
図11)。
【0032】
実施例4 hu8D6はヒトCD23結合IgEに結合できる。
hu8D6はIgE飽和組換え三量体ヒトCD23に結合できる。
hu8D6の固相組換えヒトCD23融合タンパク質(ILZ-CD23)への結合をELISAにより測定した。該固相組換えヒトCD23融合タンパク質は、ヒトCD23のN末端イソロイシンジッパー(ILZ)及び細胞外領域(Asp
48〜Ser
321)を含み、ILZモチーフ(ILZ motif)を通じて非共有結合三量体を形成する(Shiungら、Immunobiology、2012,217:676-683)。ポリヒスチジン標識(polyhistidine-tagged)ILZ-CD23は、FreeStyle
TM 293Fシステムにより発現し、NiSepharose
TM クロマトグラフィー(GE Healthcare)を用いてトランスフェクション培地から精製し、その後、2mM CaCl
2を含む1×HBSS緩衝液中に保存した。5μg/mLの精製ILZ-CD23をELISAプレートにコーティングした後、ブロックを行い、コーティングされたILZ-CD23を、Ca
2+/Mg
2+アッセイ希釈液(1mM CaCl
2, 0.5mM MgCl
2、0.5% BSA、0.05% Tween-20及び0.01% チメロサールを含むPBS)中の3μg/mLの精製ヒトIgEで飽和した。次に、ウェルを洗浄緩衝液で6回洗浄した後、Ca
2+/Mg
2+アッセイ希釈液中で、捕捉したIgEを10、1、0.1及び0.01μg/mLのhu8D6、c8D6、オマリズマブ及び5H2とともにインキュベートした。HRP結合ヤギ抗ヒトIgG.Fc及びHRP結合ヤギ抗マウスIgG.Fcを用いて、結合したヒトIgG及びネズミIgGを検出した。
図12に示すとおり、アイソタイプ・コントロール(isotype-control)ヒトIgG抗体に比べ、ヒト化8D6、c8D6及び5H2抗体は、固体表面上にコーティングされたヒトIgE飽和組換えCD23に結合することができるが、オマリズマブは、結合活性がなかった。
【0033】
hu8D6はIgEパルス(IgE-pulsed)SKW6.4 B細胞に結合できる。
高レベルのCD23を発現するヒトB細胞株(Pathanら、Blood,2008,111:1594-1602)を用いてIgEと共にインキュベートすることによりCD23をパルスした。1mLのCa
2+/Mg
2+ FACS緩衝液(1mM CaCl
2、0.5mM MgCl
2、1% FBS及び0.1% アジ化ナトリウムを含む1X PBS)中の2×10
6個のSKW6.4細胞を、濃度が3μg/mLのIgEとともに、30分間氷上でインキュベートした。Ca
2+/Mg
2+ FACS緩衝液で細胞を洗浄し、10μg/mLのhu8D6、c8D6、オマリズマブ及び抗CD23抗体(クローン:EBVCS2、eBioscience)を氷上で30分間インキュベートし、続いて、Ca
2+/Mg
2+ FACS緩衝液で細胞を洗浄する。ヒトIgG-FcまたはFITC標識F(ab)'
2ウサギ抗マウスIgGに特異的なFITC標識ヤギIgGにより、結合した抗体を検出した。染色した細胞をFACSCanto
TM IIフローサイトメーターで分析した。抗CD23が、陽性対照としてskw6.4B細胞に良好に結合できることが分かった。
図13a〜13dに示すように、オマリズマブは、CD23に結合したIgEへの結合を抑えたが、hu8D6及びc8D6はSKW6.4細胞上のIgEに効果的に結合することができた。
【0034】
実施例5 hu8D6及びIgEの免疫複合体はヒトFcεRIに結合できない。
hu8D6及びIgEの免疫複合体の調製
精製ヒトIgE(約190kDa)、hu8D6、c8D6、オマリズマブ及び5H2(約150kDa)を1X PBSで1mg/mLまで希釈した。95μLの1mg/mLのヒトIgE及び75μLの1mg/mLの抗IgE mAbを混合することにより、抗IgE:IgE免疫複合体を含む混合物を調製した。混合物を室温で2時間インキュベートし、さらなる使用に用いた。
【0035】
hu8D6及びIgEの免疫複合体がRBL SX-38細胞に結合できない。
100μLのFACS緩衝液中の2×10
5個のRBL SX-38細胞を、10μg/mLのhu8D6:IgE、c8D6:IgE、オマリズマブ:IgE及び5H2:IgE免疫複合体とともに、30分間氷上でインキュベートし、続いて、FACS緩衝液で洗浄した。ヒトIgG-FcまたはFITC標識F(ab)'
2ウサギ抗マウスIgGに特異的なFITC標識ヤギIgGにより、結合した抗体を検出した。染色した細胞をFACSCanto
TM IIフローサイトメーターで分析した。
図14a〜14eに示すように、hu8D6:IgE、c8D6:IgE及びオマリズマブ:IgE免疫複合体はRBL SX-38細胞には結合しなかったが、抗FcεRI及び5H2:IgEはRBL SX-38細胞に結合した。
【0036】
hu8D6及びIgEの免疫複合体はRBL SX-38細胞に結合できない。
0.5mLの培地中の3×10
5個のRBL SX-38細胞を24ウェルプレートに播種し、37℃のインキュベーター中で一晩インキュベートした。翌日、各ウェルを0.5mLのTyrode緩衝液で2回洗浄し、次いで、10μg/mLの抗IgE:IgE免疫複合体または1% Triton X-100を含む0.25mLの予熱されたTyrode緩衝液を添加した。37℃で30分間インキュベートした後、上清を回収し、室温で5分間300xgで遠心分離し、各ウェルから50μLの透明な上清を新しい96ウェルブラックOptiPlate
TM(Perkin-Elmer)のウェルに移した。50μLの4-MUG基質溶液を各ウェルに添加し、プレートを37℃で1時間インキュベートした。100μLのグリシン緩衝液を添加して反応を停止した。
図15に示すように、hu8D6:IgE、c8D6:IgE及びオマリズマブ:IgE免疫複合体はRBL SX-38細胞の脱顆粒を誘導しなかったが、5H2:IgEは誘導した。
【0037】
実施例6 hu8D6及びIgEの免疫複合体はヒトCD2に結合できる。
100μLのCa
2+/Mg
2+ FACS緩衝液中の2×10
5個のSKW6.4細胞を、hu8D6:IgE、c8D6:IgE、オマリズマブ:IgE免疫複合体及び抗CD23と共に、10μg/mLの濃度で氷上で30分間インキュベートし、続いてCa
2+/Mg
2+ FACS緩衝液で洗浄した。ヒトIgG-FcまたはFITC標識F(ab)'
2ウサギ抗マウスIgGに特異的なFITC標識ヤギIgGにより、結合した抗IgE:IgE免疫複合体を検出した。染色された細胞を、FACS Canto
TM IIフローサイトメーターで分析した。
図16a〜16dに示すように、オマリズマブ:IgE免疫複合体は表面CD23に結合することができなかったが、hu8D6:IgE、c8D6:IgE免疫複合体及び抗CD23はSKW6.4細胞に効果的に結合した。
【0038】
実施例7 hu8D6がPBMCsのIgE産生を阻害する。
Ficoll-Paque
TM PLUS(GE Healthcare)密度勾配による遠心分離により、健常ドナーまたはアトピー患者からの血液サンプルから末梢血単核細胞(PBMCs)を精製した。単離したPBMCsを、100ng/mLのヒトIL-4(R&Dシステム)及び100ng/mLのマウス抗CD40モノクローナル抗体(BioLegend、クローン:G28-5)を含む完全IMDM培地(Invitrogen)中で、10
6細胞/mLの量で懸濁させた。ヒト化8D6、オマリズマブ及びトラスツズマブを10μg/mlの濃度の培地に添加した。7日間、11日間及び14日間培養した後、無細胞の上清を採取し、-20℃で保存した。捕捉抗体としての抗ヒトIgE、HP6061(Abcam)、及び検出抗体としてのビオチン標識抗ヒトIgE及びHP6029(Abcam)を用い、ELISAにより上清に放出されたIgEを測定した。簡単に述べると、HP6061をコーティング緩衝液(15mM Na
2CO
3、35mM NaHCO
3、pH 9.6)中100ng/ウェルで96ウェルプレート上に固定し、4℃で一晩インキュベートした。コーティングされたウェルを200μL/ウェルのアッセイ希釈液(0.5% BSA、0.05% Tween-20、0.02% ProClin 300を含むPBS)によって室温で1時間ブロックした。プレートを200μL/ウェルの洗浄緩衝液(0.05% Tween-20を含むPBS)で3回洗浄した。精製したU266 IgEを用いて標準曲線(2倍連続希釈により800〜3.125ng/mlの範囲)を作成した。IgE資格の精度を向上させるために、IgE標準を完全IMDM培地で調製し、10μg/mlのhu8D6、オマリズマブ及びトラスツズマブに混合した。100μLの透明な上清および標準液をコーティングしたウェルに添加した。インキュベーションは室温で1時間行った。全てのウェルを吸引し、200μL/ウェルの洗浄緩衝液で6回洗浄した。捕捉したIgEを、100μLの検出抗体溶液(50ng/mlのビオチン標識HP6029を含むアッセイ希釈液)と共に、室温で1時間インキュベートした。次に、ストレプトアビジンポリ-HRP(1:10,000希釈、Thermo Pierce)を用いて1時間(100μL/ウェル)にかけて、結合ビオチン-HP6029を検出した。全てのウェルを吸引し、200μL/ウェルの洗浄緩衝液で6回洗浄した。最後に、ウェルを100μL/ウェルのNeA-Blue TMB基質(Clinical Science Products)で展開し、100μL/ウェルの1M H
2SO
4を加えて反応を停止させた。SoftMax Proソフトウェア(Molecular Devices)を用いて作成された4パラメータロジスティック曲線フィット(four parameter logistic curve-fit)により標準曲線を作成し、すべての試験サンプル中のIgE濃度を計算するために使用した。Prismソフトウェアを用い、スチューデントt検定(Student t test)によりデータを比較した。
図17a及び17bに示すように、7日、11日及び14日間のインキュベーションで、培養開始時の10mg/ml hu8D6は、培養IgEレベルをそれぞれ88.1%、93.4%及び88.6%まで減少させたが、オマリズマブはIgEレベルをそれぞれ21.3%、26.4及び30%まで減少させた。この結果から分かるように、デノボIgE合成を阻害する観点から、hu8D6が膜結合IgE及びB細胞上でCD23結合IgEに結合する能力は、オマリズマブより優れていることを示し、該オマリズマブは、既にCD23に結合したIgEとは結合しない。