(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397984
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】乾燥粉末ペプチド医薬
(51)【国際特許分類】
A61K 38/08 20060101AFI20180913BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20180913BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20180913BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20180913BHJP
A61K 31/215 20060101ALI20180913BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20180913BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20180913BHJP
A61P 7/10 20060101ALI20180913BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20180913BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20180913BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20180913BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20180913BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20180913BHJP
C07K 7/08 20060101ALN20180913BHJP
C07K 7/64 20060101ALN20180913BHJP
【FI】
A61K38/08
A61K38/10
A61K9/14
A61K9/72
A61K31/215
A61K31/352
A61K45/00
A61P7/10
A61P9/00
A61P11/00
A61P31/16
A61P43/00 121
!C07K7/06ZNA
!C07K7/08
!C07K7/64
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-500407(P2017-500407)
(86)(22)【出願日】2015年3月17日
(65)【公表番号】特表2017-510633(P2017-510633A)
(43)【公表日】2017年4月13日
(86)【国際出願番号】EP2015055481
(87)【国際公開番号】WO2015140125
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2017年12月15日
(31)【優先権主張番号】14160540.2
(32)【優先日】2014年3月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511214668
【氏名又は名称】アペプティコ・フォルシュング・ウント・エントヴィックルング・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】APEPTICO FORSCHUNG UND ENTWICKLUNG GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ベルンハルト・フィッシャー
【審査官】
鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】
特表2014−501718(JP,A)
【文献】
特表2012−519188(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/001177(WO,A1)
【文献】
特表2008−509107(JP,A)
【文献】
特表2013−530970(JP,A)
【文献】
J. Clin. Pharmacol.,2013年,Vol.54, No.3,pp.341-350
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/08
A61K 38/10
A61K 9/14
A61K 9/72
A61K 31/215
A61K 31/352
A61K 45/00
A61P 7/10
A61P 9/00
A61P 11/00
A61P 31/16
A61P 43/00
C07K 7/06
C07K 7/08
C07K 7/64
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥粉末医薬であって、
医薬が、活性剤としてTIPペプチドを含み、該ペプチドは、7-17個のアミノ酸からなり、六量体 TX1EX2X3E(ここで、X1、X2およびX3は、任意の天然または非天然アミノ酸であることができる)を含み、該ペプチドは、TNF受容体結合活性を示さず;および
医薬中の炭水化物濃度(w/w)が、5%未満、好ましくは1%未満、より好ましくは0.1%未満、特に0.01%未満である;
乾燥粉末医薬。
【請求項2】
乾燥粉末医薬であって、
医薬が、単一活性剤としてTIPペプチドを含み、ペプチドは、7-17個のアミノ酸からなり、六量体 TX1EX2X3E(ここで、X1、X2およびX3は、任意の天然または非天然アミノ酸であることができる)を含み、ペプチドは、TNF受容体結合活性を示さず;および
医薬中の炭水化物濃度(w/w)が、5%未満、好ましくは1%未満、より好ましくは0.1%未満、特に0.01%未満である;
乾燥粉末医薬。
【請求項3】
医薬が、どのような賦形剤も含まない、請求項1または2に記載の医薬。
【請求項4】
炭水化物が、好ましくはラクトース、マルトース、スクロース、トレハロース、グルコース、ソルビトール、マルチトール、マンニトールおよびキシリトールから選ばれる糖類または糖アルコールである、請求項1〜3のいずれか1つに記載の医薬。
【請求項5】
ペプチドがアミノ酸六量体 TPEGAEを含む、および/またはペプチドが環状である、請求項1〜4のいずれか1つに記載の医薬。
【請求項6】
ペプチドが環状であり、
QRETPEGAEAKPWY;
PKDTPEGAELKPWY;
CGQRETPEGAEAKPWYC;
CGPKDTPEGAELKPWYC;および
六量体 TPEGAEを含む少なくとも7つのアミノ酸のフラグメント;
を含む群から選ばれる連続アミノ酸配列を含む、請求項1〜5のいずれか1つに記載の医薬。
【請求項7】
ペプチドが、アミノ酸配列 CGQRETPEGAEAKPWYCからなり、好ましくはC残基間のジスルフィド結合によって、C残基を介して環状化される、請求項1〜6のいずれか1つに記載の医薬。
【請求項8】
医薬が、平均直径0.5〜10マイクロメーター、好ましくは平均直径1〜5マイクロメーター、より好ましくは平均直径1〜3.5マイクロメーターの粉末粒子からなる、請求項1〜7のいずれか1つに記載の医薬。
【請求項9】
医薬が、疾患または病状の治療または予防における使用のためのものであり、医薬が、好ましくは乾燥粉末吸入器から吸入によって患者に投与される、請求項1〜8のいずれか1つに記載の医薬。
【請求項10】
医薬が、
浮腫、好ましくは肺浮腫;および
微小および大血管障害、心筋梗塞、心臓微小血管透過性亢進、脳卒中、神経障害、網膜症、腎症、または糖尿病性足部疾患などの糖尿病患者における血管合併症の治療;および
内皮および/または上皮層の傷害によって引き起こされる、透過性亢進の減少による浮腫、好ましくは、肺炎、急性肺傷害、ARDS、細菌またはウイルス性肺疾患の治療中に起こる浮腫、より好ましくは、リステリア菌、肺炎球菌、SARSウイルス、RSVまたはインフルエンザウイルスによる感染症中に起こる浮腫;および
肺型の高山病の予防;
から選ばれる疾患または病状の治療または予防に用いるためのものである、請求項9に記載の医薬。
【請求項11】
医薬が、ウイルスノイラミニダーゼの阻害剤、好ましくはザナミビルまたはオセルタミビルとともに投与され、阻害剤が、経口、非経口、鼻腔内、吸入、直腸および局所投与から選ばれる様式で患者に投与される、インフルエンザの治療または予防に使用するための、請求項9に記載の医薬。
【請求項12】
医薬が、好ましくは乾燥粉末吸入器から吸入によって患者に投与される、特にインフルエンザの治療または予防に使用するための、ウイルスノイラミニダーゼの阻害剤、好ましくはザナミビルまたはオセルタミビルをさらに含む、請求項1または3〜8のいずれか1つに記載の医薬。
【請求項13】
活性剤を液体に溶解または希釈して、溶液中の総固体の炭水化物含量が、5%(w/w)未満、好ましくは1%(w/w)未満、より好ましくは0.1%(w/w)未満、特に0.01%(w/w)未満である溶液を得ること;および
噴霧乾燥、噴霧凍結乾燥、超臨界流体沈殿、エアジェット粉砕、凍結乾燥またはロータリーエバポレーションによって、好ましくは噴霧乾燥によって、該溶液から溶媒を除去すること;
を含む、請求項1〜12のいずれか1つに記載の医薬の製造方法。
【請求項14】
炭水化物が、好ましくはラクトース、マルトース、スクロース、トレハロース、グルコース、ソルビトール、マルチトール、マンニトールおよびキシリトールから選ばれる糖類または糖アルコールである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
溶媒除去前の総固体濃度が、1-10%(w/v)、好ましくは 2-4%(w/v)であり;および/または
溶媒が、噴霧乾燥によって除去され、噴霧乾燥機の入口温度が、50〜110℃、好ましくは70〜90℃、より好ましくは75〜85℃であり、噴霧乾燥機の出口温度が、20〜80℃、好ましくは40〜60℃、より好ましくは45〜55℃である、請求項13または14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド医薬の吸入製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
TIPペプチドは、ヒト腫瘍壊死因子(TNF)レクチン様ドメイン(TIPドメイン)を含むペプチドである。TIPドメインは、たとえば、van der Gootら、1999 PMID(PubMed 一意識別名)10571070によって取り上げられている。本明細書で用いるTIPペプチドは、六量体 TX
1EX
2X
3E(配列番号:6)(ここで、X
1、X
2およびX
3は、任意の天然または非天然アミノ酸であることができ、ここで、ペプチドは、TNF特異的炎症作用を示さない)(Hribarら、1999、PMID 10540321; Eliaら、2003、PMID 12842853)などの7-17個のアミノ酸からなり、環状化されてもよい。Tzotzosら、2013、PMID 23313096に報告されているように、AP301(シクロ-CGQRETPEGAEAKPWYC; CGQRETPEGAEAKPWYCは、配列番号:1である)などのTIPペプチドの生物活性は、アミロライド感受性上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)の活性化を含む。
【0003】
TIPペプチドは、たとえば、欧州特許EP 1 247 531 B1およびEP 1 264 599 B1から、浮腫、特に肺水腫の治療における使用で知られている。このようなペプチドは、微小血管よび大血管障害、心筋梗塞、心臓微小血管透過性亢進、脳卒中、神経障害、網膜症、腎症または糖尿病足病変などの糖尿病患者における血管合併症の治療および予防における使用でも知られている(EP 2582385)。さらに、このようなペプチドは、内皮および/または上皮層の傷害によって引き起こされる、透過性亢進の減少による浮腫、好ましくは、肺炎、急性肺傷害、ARDS、細菌またはウイルス性肺疾患の治療中に起こる浮腫、より好ましくは、リステリア菌、肺炎球菌、SARSウイルス、RSVまたはインフルエンザウイルスによる感染症中に起こる浮腫の予防でも知られている(EP 2403519、WO 2010/099556 A1としても公開)。さらに、このようなペプチドは、肺型の高山病の治療および予防における使用で知られている(WO 2014/001177)。最後に、このようなペプチドは、ウイルスノイラミニダーゼの阻害剤、好ましくはザナミビルまたはオセルタミビルとともに投与される場合のインフルエンザの治療または予防における使用で知られている(WO 2012/065201 A1)。
【0004】
TIPペプチドは、EMA(EMA/OD/144/12)ならびにUS-FDA(12-3829)によって、肺型の高山病の治療および予防における使用のためのオーファンドラッグ指定を割り当てられている。
【0005】
本発明の目的は、活性薬剤としてTIPペプチドを含む安定で有効な吸入製剤(すなわち、1つ以上のTIPペプチドの新規な製剤)および該医薬の製造方法を提供することである。該医薬は、疾患または病状の治療または予防における使用に適しており、有効であり、該医薬は、吸入によって患者に投与される。
【0006】
したがって、本発明は、非典型的濃度の炭水化物賦形剤を含む乾燥粉末ペプチド医薬の新規な製剤、ならび疾患または病状の治療または予防における使用のための該医薬、ならびに該医薬の製造方法を開示する。
【0007】
本発明の過程において、乾燥粉末製剤などの、TIPペプチドのさまざまな吸入製剤が研究された。驚いたことに、当技術分野で最もよく用いられる賦形剤である糖または糖アルコールが、TIPペプチドの生物活性を有意に阻害することが見い出された。このことは、当技術分野で公知ではない。本発明は、炭水化物担体への依存を廃止することによって、本発明医薬の医薬活性が、炭水化物担体を通例含んでいる従来技術の医薬吸入製剤、特に乾燥粉末製剤と比較して増強されたことから、提起された問題に対する解決を提供する。
【0008】
本発明の特に好ましい実施態様において、乾燥粉末医薬は、単一活性薬剤としてペプチドAP301(シクロ-CGQRETPEGAEAKPWYC)を含み、どのような賦形剤も含まない。該実施態様を製造する好ましい方法は、噴霧乾燥を含む。
【0009】
本発明の乾燥粉末製剤は、吸入による投与が可能な本発明のペプチドの任意の適応症について使用することができる。本発明の乾燥粉末製剤、特にペプチドAP301を含む製剤は、糖尿病患者における浮腫、血管合併症から選ばれる疾患または病状の治療または予防;透過性亢進の減少、肺型の高山病、およびウイルスノイラミニダーゼ阻害剤とともに投与される場合のインフルエンザによる浮腫の予防において使用するためのものである。
【0010】
ペプチドおよびタンパク質治療薬のための非侵襲的デリバリー方策は、患者のコンプライアンスの低さに苦しみ、訓練された人材を必要とする非経口注射の魅力的な代替策とみなされている。(Patton & Bossard、Drug Development and Delivery 2004、“Drug Delivery Strategies for Proteins & Peptide From Discovery & Development to Life Cycle Management”; Tewesら、2010、PMID 20621184; Tiwariら、2012、PMID 23071954)。
【0011】
AP301は、現在、肺浮腫の治療薬として開発されている(Shabbirら、2013、PMID 24077967)。臨床試験第二相が、急性肺障害の肺胞液クリアランスにおけるAP301の反復経口吸入用量の臨床効果を研究するために、現在、集中治療患者で行なわれている(ClinicalTrials.gov Identifier: NCT01627613)。この臨床試験において、AP301が溶解される液体を、患者への薬物投与のためにエアロゾル化する。エアロゾルは、噴霧器によって生成されうる。確立された噴霧器製品として、たとえば、Aeroneb(登録商標)およびPari(登録商標)が挙げられる。Schwameisらは、ペプチドAP301を含む溶液が、噴霧器を用いて健康な男性被験者に投与される臨床試験を公開した(Schwameisら、2014、PMID: 24515273)。
【0012】
乾燥粉末吸入器(DPI)は、噴霧器およびその他の吸入器具よりも優れた利点を提供する(Geller、2005、PMID 16185367)。DPIは、患者による乾燥粉末製剤の吸入用器具である。このような器具は、たとえば、米国特許第4,995,385号および第4,069,819号に開示されている。確立されたDPI製品は、たとえば、SPINHALER(登録商標)、ROTAHALER(登録商標)、FLOWCAPS(登録商標)、INHALATOR(登録商標)、DISKHALER(登録商標)およびAEROLIZER(登録商標)である。
【0013】
乾燥粉末医薬(エアロゾルとしてデリバリーすることに代わる)としてTIPペプチドを製剤するもう1つの理由は、全身的吸入療法が依然として最適化されなければならないことである;大部分の存在するエアロゾルシステムは、小分子薬物のデリバリーのために設計されており、ペプチドおよびタンパク質などの不安定な巨大分子を保護しない。多くの製剤過程は、不安定なペプチドまたはタンパク質活性医薬成分(API、本明細書において“活性薬剤”とも称する)にとってストレスが多すぎ、生物活性が失われる可能性をもたらす。
【0014】
タンパク質薬物の安定化に向かう最も一般的なアプローチは、製剤から水を除去することである(ChangおよびPikal、2009、PMID 19569054)。脱水ストレスによるタンパク質のアンフォールディングを防止するために、二糖類などの特定の賦形剤が、通常存在する(Allisonら、1999、PMID 10328824)。ペプチドおよびタンパク質へのポリエチレングリコール(PEG)基の結合(PEG化)(Robertsら、2002、PMID 12052709)は、それらの二次構造を安定化させ(Morrisら、2012、PMID 22430978)、肺酵素によるタンパク質分解切断に対するそれらの耐性をより強くし(Leeら、2009、PMID 18951927; Baginskiら、2012、PMID 22322897)、ならびに分子量の増加による保持を改善する(Veronese & Pasut、2005、PMID 16243265; Patton & Byron、2007、PMID 17195033)。
【0015】
しかしながら、このような従来技術とは全く逆に、本発明のペプチドは、このような安定化剤なしで、特に炭水化物安定化剤なしで、安定性を保持する。
【0016】
これは、乾燥粉末医薬としてペプチドを製剤することは、困難であるという一般に認められた見解にも反している。既に市販されているのは、プルモザイムおよびエクスベラなどの少数の吸入可能なペプチド製剤のみであが、後者は、患者の使用および吸入装置の複雑さの問題により回収されている(Patton & Bossard、Drug Development and Delivery 2004、“Drug Delivery Strategies for Proteins & Peptide From Discovery & Development to Life Cycle Management”; Mack、2007、PMID 18066009; Tewesら、2010、PMID 20621184)。
【0017】
粒子の肺デリバリーのために、粒径分布および水分含量は、重要である(Patton & Byron、2007、PMID 17195033)。小さいペプチドにとっては、上部気道よりもむしろ最適吸収のために肺の深い位置に薬物沈着を達成することが重要であると思われる(Patton & Byron、2007、PMID 17195033)。全身的な効果を有するために、吸入された治療用粒子は、肺胞に到達しなければならず、それらの空気動力学的直径は、遠位肺における最適沈着のためには5マイクロメーターを超えてはならない(Maltesenら、2013、PMID 22585372)。エアロゾルの場合、空気動力学的直径が1-2マイクロメーターである粒子は、90%の効率で沈着することができ、大部分のエアロゾルが、肺胞が豊富な領域において沈着する(Patton & Byron、2007、PMID 17195033)。
【0018】
この挑戦もまた、噴霧乾燥を含みうる堅固かつ適切な乾燥粉末の製造プロセスを提供することによって、本発明によって解決されうる。
【0019】
最適な空気動力学的粒径を有する粒子は、エアジェット粉砕および噴霧乾燥などのいくつかの方法で製造されうる(Malcolmson & Embleton、PSTT、1998、doi: 10.1016/S1461-5347(98)00099-6)。噴霧乾燥は、吸入用粒子を製造するために医薬工業において用いられる。噴霧乾燥インスリンは、いくつかの製薬会社の開発候補であり、市販承認を受けるための最初の肺デリバリー用タンパク質治療剤であった(Mack、2007、PMID 18066009)。さまざまな市販の装置が、タンパク質およびペプチド治療薬のエアロゾル化された溶液を肺へデリバリーするために利用可能である(Brandら、2009、PMID 12952258)。
【0020】
しかしながら、最適な空気動力学的および沈着特性をもつ粒子を得るために、効果的なエアロゾルバイオアベイラビリティ特性を達成するための担体を加えることが、従来技術における一般的慣行であった(Ogainら、2011、PMID 21129458)。噴霧乾燥に用いられる担体の例は、ラクトース、マンニトールおよびスクロースなどの糖類または糖アルコール(Steckel & Bolzen、2004、PMID 14726144)、キトサンなどの多糖類(Sinsuebpolら、2013、PMID 24039397)およびポリエチレングリコール(PEG)(Patton & Bossard、Drug Development and Delivery 2004、“Drug Delivery Strategies for Proteins & Peptides From Discovery & Development to Life Cycle Management”; Jevsevarら、2010、PMID 20069580; Pisalら、2010、PMID 20049941)、ポリビニルピロリドン(PVP)(Tewesら、2010、PMID 20621184)、乳酸重合体(PLA)および乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)(Pisalら、2010、PMID 20049941; Piroozniaら、2012、PMID 22607686)などのさまざまなポリマーである。すでに市場に出回っているほとんどすべての乾燥粉末吸入製品が、担体材料として糖類であるラクトースを頼っており(Pilcer & Amighi、2010、PMID 20223286)、ここで、ラクトースは、唯一の賦形剤である(Edgeら、2008、PMID 18800257)。残念ながら、本発明の過程において、このような炭水化物担体が、本発明にしたがって投与されるペプチドの活性における有害作用を有することが見い出されている。したがって、このような標準製剤は、本発明のペプチドにとって使用可能ではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
結論として、吸入されたエアロゾルまたは乾燥粉末粒子としてデリバリーされたタンパク質薬物およびペプチド薬物の安定化が、生物学的安定性の維持に必須であることは、本発明より以前の維持された大多数の意見であった(Tewesら、2010、PMID 20621184)。DPI製品の大部分において、このことは、担体として糖ラクトースを用いて達成される。FDAによってこれまでに承認された唯一のDPIペプチド医薬であるエクスベラの場合、乾燥粉末製剤は、インスリン(約60%、w/w)および賦形剤、主として安定化剤としてのマンニトールからなる(Owensら、2003、PMID 14632713)。したがって、乾燥ペプチド医薬についての典型的な活性剤:担体比は、3:2(w/w)の比率である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この大多数の意見に代わって、本発明の過程において、乾燥粉末ペプチド医薬は、実のところ、賦形剤による安定化を必要とすることなく製剤されうることが見い出された(
図1および2)。驚いたことに、炭水化物安定化剤を必要としない、本発明のペプチドの使用可能な乾燥粉末製剤の提供という予期せぬ成功に加えて、該ペプチドを含む乾燥粉末ペプチド医薬が、減少された量の炭水化物賦形剤とともに、または賦形剤を全く含まないで、大多数の意見にしたがって安定化された該ペプチドの乾燥粉末製剤と比較して、該ペプチドのより高い生物活性という利点を提供することも判明した(
図3を参照)。
【0023】
本発明の乾燥粉末ペプチド医薬は、活性剤としてTIPペプチドを含む。該ペプチドは、本発明のペプチドである。本発明のペプチドは、7-17個のアミノ酸からなり、六量体 TX1EX2X3E(ここで、X
1、X
2およびX
3は、任意の天然または非天然アミノ酸であることができる)を含み、ここで、ペプチドは、TNF受容体結合活性を示さない。本発明のペプチドは、それ自体、たとえば、以下の特許文献から公知である:EP 1 264 599 Bl、US 2007/299003 A1、WO 94/18325 A1、WO 00/09149 A1、WO 2006/013183 A1およびWO 2008/148545 A1。
【0024】
本発明の乾燥粉末医薬が、5%未満、好ましくは1%未満、より好ましくは0.1%未満、特に0.01%未満の炭水化物濃度を有することが必須である。これは、と炭水化物がTIPペプチドの生物活性を阻害するという驚くべき発見による(
図3)。乾燥粉末医薬中の炭水化物の阻害作用は、炭水化物濃度1%(w/w)またはそれ以上(ただし、5%未満)において著しく有害になり(しかし特定の具体例では認容性がある)、炭水化物濃度5%(w/w)またはそれ以上では認容できない程度に有害である(実施例2および3を参照)。しかしながら、少量または痕跡量のこのような炭水化物は、要すれば、認容されうることは明らかである。
【0025】
本発明の好ましい実施態様において、医薬は、単一活性剤として本発明のペプチドを含む。多くの活性剤を加えることは、安全上のリスクを引き起こし、製造コストを増加させうるので、単一活性剤であることは、利点を提供することができる。
【0026】
本発明の特に好ましい実施態様において、医薬は、どのような賦形剤も含まない。任意の加えられた賦形剤が安全上のリスク(潜在的不純物などによる)を有し、製造コストを上昇させうる(規制上の要件などによる)ので、これは、他の実施態様のいずれをも超える利点でありえる。
図1および2は、スクロースまたはマンニトールと組合わせたAP301の乾燥粉末製剤と比較した場合の、該好ましい実施態様の材料特性を示す。それらは、賦形剤を含まない製剤が、DPIにおける使用に適しているという驚くべき発見を支持する。
【0027】
本発明のもう1つの好ましい実施態様において、医薬は、どのような炭水化物賦形剤も含まない。本発明のもう1つの好ましい実施態様において、医薬は、どのような糖類賦形剤も含まない。本発明のもう1つの好ましい実施態様において、医薬は、どのような糖アルコール賦形剤も含まない。本発明のもう1つの好ましい実施態様において、医薬は、ラクトース、マルトース、スクロース、トレハロース、グルコース、ソルビトール、マルチトール、マンニトールおよびキシリトールの1つ以上から選ばれるどのような炭水化物賦形剤も含まない。本発明のもう1つの好ましい実施態様において、医薬は、どのようなマンニトール賦形剤も含まず、どのようなスクロース賦形剤も含まない。
【0028】
本発明の好ましい実施態様において、本発明のペプチドは、元のTNF-アルファ配座をできるだけ保持するために、環状(または環状化)であり(Eliaら、2003、PMID 12842853)、そのことによって高い生物活性がもたらされうる。Marquardら、2007、PMID 17918767によれば、ペプチド環状化は、生物活性のために重要な炭水化物結合にとって必須でなくてもよいので、これは、任意の特徴である。
【0029】
好ましい実施態様において、本発明の医薬において、ラクトース、マルトース、スクロース、トレハロース、グルコース、ソルビトール、マルチトール、マンニトールおよびキシリトールなどの糖類または糖アルコールから選ばれる任意の化合物の濃度(w/w)は、5%未満、好ましくは1%未満、より好ましくは0.1%未満、特に0.01%未満である。糖(アルコール)が、本発明のペプチドの生物活性を阻害するという実験的証拠がある(
図3)。ラクトース、マルトース、スクロース、トレハロース、グルコース、ソルビトール、マルチトール、マンニトールおよびキシリトールは、すべて、吸入製剤における潜在的な担体として知られている(Pilcer & Amighi、2010、PMID 20223286)。
【0030】
本発明のペプチドが、潜在的な炭水化物結合モチーフであり(Marquardtら、2007、PMID 17918767)、生物活性を増加させることができる、アミノ酸六量体 TPEGAE(配列番号:2)を包含するのが好ましい。
【0031】
好ましい実施態様において、本発明のペプチドは、アミノ酸六量体 TPEGAE(配列番号:2)を包含する。該ペプチドが環状であり、
QRETPEGAEAKPWY(配列番号:3)
PKDTPEGAELKPWY(配列番号:4)
CGQRETPEGAEAKPWYC(配列番号:1)
CGPKDTPEGAELKPWYC(配列番号:5)および
六量体 TPEGAE(配列番号:2)を含む少なくとも7つのアミノ酸のフラグメントを含む群から選ばれる連続アミノ酸配列を含むのが好ましい。このようなペプチドまたはそのフラグメントは、たとえば、WO 2014/001177に示される生物活性を有することができる。
【0032】
特に好ましい実施態様において、本発明のペプチドは、ペプチドAP301(CGQRETPEGAEAKPWYC)であり、ここで、AP301は、好ましくはC残基間のジスルフィド結合によって、C残基を介して環状化される。該ペプチドは、すでに第二相臨床試験から知られており(ClinicalTrials.gov Identifier: NCT01627613)、本発明の該実施態様を用いることによって、すでに存在する安全性データなどの上に構築されうる。
【0033】
本発明の医薬が、平均直径0.5〜10マイクロメーター、好ましくは平均直径1〜5マイクロメーター、より好ましくは平均直径1〜3.5マイクロメーターの粉末粒子からなるのが好ましい。上記でも説明したように、これは、肺内での効率的な沈着を達成することである。
【0034】
好ましい実施態様において、本発明の医薬は、疾患または病状の治療または予防に使用するためのものであり、ここで、医薬は、好ましくはDPIからの吸入によって、患者に投与される。該疾患または病状は、以下から選ばれてもよい:
浮腫、好ましくは肺浮腫;および
微小および大血管障害、心筋梗塞、心臓微小血管透過性亢進、脳卒中、神経障害、網膜症、腎症、または糖尿病性足部疾患などの糖尿病患者における血管合併症の治療;および
内皮および/または上皮層の傷害によって引き起こされる、透過性亢進の減少による浮腫、好ましくは、肺炎、急性肺傷害、ARDS、細菌またはウイルス性肺疾患の治療中に起こる浮腫、より好ましくは、リステリア菌、肺炎球菌、SARSウイルス、RSVまたはインフルエンザウイルスによる感染症中に起こる浮腫;および
肺型の高山病の予防。
【0035】
医薬が、ウイルスノイラミニダーゼの阻害剤、好ましくはザナミビルまたはオセルタミビルとともに投与される場合、インフルエンザ。本発明のペプチドは、すべての上述の治療または予防における使用について、EP 1 264 599 B1、EP 2 403 519 A1、WO 2014/001177 A1、およびEP 2 640 410 A1から公知である。
【0036】
該実施態様において、本発明の乾燥粉末製剤の各投与では、活性剤を含む必要な有効量(または用量)が、投与を必要とする個人に投与される。そこで、「有効量」は、意図された治療的または予防的効果を引き起こす、たとえば、疾患または状態のさらなる悪化を抑制する、このような悪化を治療するか、または治療を助成するか、または疾患または病状を治療するのに十分に有効量である。通常、有効量は、平均的な患者用に製剤される。しかしながら、実際に有効な量(または用量)は、以下から選ばれる1つ以上に応じて製剤されうる:特定の投与様式;患者の年齢、体重、一般的な健康状態;疾患または状態の重症度および進行。
【0037】
もう1つの実施態様において、本発明の医薬は、インフルエンザの治療または予防に使用するためのものであり、ここで、医薬は、ウイルスノイラミニダーゼの阻害剤、好ましくはザナミビルまたはオセルタミビルとともに投与される。投与は、阻害剤を付加的に含む本発明の乾燥粉末製剤単独によるか、あるいは阻害剤を別々に投与することによるのが好ましい。
【0038】
後者の実施態様において、阻害剤は、経口、非経口、鼻腔内、吸入、直腸および局所投与から選ばれる様式で患者に投与されうる。適当なノイラミニダーゼ阻害剤の例は、WO 2012/065201 A1に列挙される。本発明によれば、ノイラミニダーゼ阻害剤は、阻害剤の塩、ラセミ体、鏡像異性的に純粋な無塩形態、ならびに鏡像異性体およびジアステレオマーなどのすべての有効な化学形態で含まれる。ヒト患者の治療において成功裏に用いられたので、ザナミビルまたはオセルタミビルが好ましい。
【0039】
もう1つの実施態様において、本発明の医薬は、インフルエンザの治療または予防に使用するために、さらに、ウイルスノイラミニダーゼの阻害剤、好ましくはザナミビルまたはオセルタミビルを含み(すなわち、医薬は、複合製剤である)、ここで、医薬は、好ましくは乾燥粉末吸入器からの吸入によって、患者に投与される。このような複合製剤は、患者への投与を単純にすることができる。ザナミビルは、DPI DISKHALER(登録商標)で使用するための乾燥粉末医薬(たとえば、米国FDAにより)としてすでに承認されている。したがって、ザナミビルは、複合製剤にとって特に魅力的である。さらに、オセルタミビルの乾燥粉末製剤は、肺投与に適していることが見い出された(Tangら.、2013、PMID 24299495、abstract)。
【0040】
もう1つの耐容によれば、本発明は、本発明の医薬の製造方法を提供する。
【0041】
本発明の方法は、以下のステップを含む:
活性剤を液体に溶解または希釈して、溶液中の総固体の炭水化物含量が、5%(w/w)未満、好ましくは1%(w/w)未満、より好ましくは0.1%(w/w)未満、特に0.01%(w/w)未満である溶液を得ること;最も好ましい実施態様において、該炭水化物含量は、0%である;
噴霧乾燥、噴霧凍結乾燥、超臨界流体沈殿、エアジェット粉砕、凍結乾燥またはロータリーエバポレーションによって、好ましくは噴霧乾燥によって、該溶液から溶媒を除去すること。
【0042】
実施例1は、本発明方法の特に好ましい実施態様を示す。
図1および2は、該実施態様によって製造された生成物の材料特性を示す。
【0043】
本発明方法における炭水化物の内容は、ラクトース、マルトース、スクロース、トレハロース、グルコース、ソルビトール、マルチトール、マンニトールおよびキシリトールなどの糖類または糖アルコールによって形成されうる。
【0044】
好ましい実施態様において、本発明方法では、溶媒除去前の総固体濃度は、1-10%(w/v)、好ましくは 2-4%(w/v)である。本発明の特に好ましい実施態様(実施例1参照)において、溶媒は、噴霧乾燥によって除去され、噴霧乾燥機の入口温度は、50〜110℃、好ましくは70〜90℃、より好ましくは75〜85℃であり、噴霧乾燥機の出口温度は、20〜80℃、好ましくは40〜60℃、より好ましくは45〜55℃である。
【0045】
定義:
本明細書で用いる、「TNF受容体結合活性が無い」または「TNF受容体結合活性を示さない」本発明ペプチドは、患者の成功的治療にとって有害な、TNF受容体結合活性が無い/TNF受容体結合活性を示さない該ペプチドを意味する。
【0046】
更に詳しくは、「患者の成功的治療にとって有害なTNF特異的炎症活性」は、以下の意味を有することができる:
該ペプチドの添加が、新鮮な全血由来の炎症促進性マーカーであるインターロイキン-6(IL-6)の放出をもたらすかどうかを評価するために行なわれた、
ヒト全血サンプルにおける該ペプチドのエクスビボ安全性薬理試験において、
該血液サンプルへの10mg/mlの濃度までの該ペプチドの添加は、0.5 pg/ml未満の放出されたIL-6をもたらす(EP 2 582 385 A1、実施例2を参照)。
【0047】
用語「担体」および「賦形剤」は、本明細書において互換的に用いられる。適当な担体または賦形剤は、当業者には公知である。このような賦形剤は、等張性および化学的安定性を増強する物質、緩衝剤および保存剤を含む。他の適当な担体は、それ自体は、患者にとって有害な抗体の産生を患者において誘導しない任意の担体を包含する。例は、十分に耐容性のタンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマーアミノ酸重合体およびアミノ酸共重合体である。噴霧乾燥に用いられる担体の例は、炭水化物、特に、ラクトース、マルトース、スクロース、トレハロース、グルコース、ソルビトール、マルチトール、マンニトールおよびキシリトールなどの糖類または糖アルコール、およびキトサンなどの多糖類である。ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、乳酸重合体(PLA)および乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)などのさまざまなポリマーも担体として用いることができる。
【0048】
本発明の炭水化物として、糖類(たとえば、グルコース、フルクトースおよびガラクトースなどの単糖類、スクロース、ラクトース、トレハロースおよびマルトースなどの二糖類、セルロースまたはその誘導体などの多糖類)およびマンニトールまたはソルビトールなどの糖アルコールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
表現「どのような賦形剤も含有しない(does not contain any excipient)」、「どのような賦形剤も含まない(not comprising any excipient)」および「賦形剤を有さない/含まない/含有しない(having/comprising/containing no excipient)」は、10ppm未満などの痕跡量の賦形剤の存在を排除するものではない。さらに、本発明の乾燥粉末医薬中の残留水分の存在は、前記表現によって排除されないことは明らかである。検出可能な低レベルの残留水分の存在は、医薬に含まれるペプチドの化学的特性の結果であり、いくつかの水分子は、乾燥しても、結合したままでありうるか、またはペプチドと配位されたままでありうる。本発明の乾燥粉末医薬の残留水分が、10%(w/w)を超えない、特に5%(w/w)を超えないのが好ましい。
【0050】
後記実施例および図面において、本発明をさらに説明するが、それらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】
ペプチドAP301は、賦形剤なしでも成功裏に噴霧乾燥されうる−体積サイズ分布。賦形剤なしで噴霧乾燥されたペプチドAP301の粉末(A)は、噴霧乾燥されたペプチドAP301/スクロース(4:1 w/w)の粉末(B)および噴霧乾燥されたペプチドAP301/マンニトール(4:1 w/w)の粉末(C)と比較して、非常に類似した粒径分布を有する。3つの粒径分布のすべてが、乾燥粉末吸入器を用いて投与される医薬に適している。
【
図2】
ペプチドAP301は、賦形剤なしでも成功裏に噴霧乾燥されうる−走査型電子顕微鏡写真。(A)賦形剤なしの)ペプチドAP30、(B)AP301/スクロース(4:1 w/w)および(C)AP301/マンニトール(4:1 w/w)の噴霧乾燥粉末の走査型電子顕微鏡写真。粒子特性は類似しており、すべての乾燥粉末が、乾燥粉末吸入器を用いて投与される医薬に適している。
【
図3】
典型的な濃度で存在する糖(-アルコール)賦形剤は、ペプチドAP301の生物活性を阻害する。AP301(ペプチド重量から200nM以下)の添加およびバス溶液へのアミロライド(100 μM以下)の最終添加後の、制御相中の内向き電流の平均値によって示されるように、A549細胞内のアミロライド感受性ナトリウム電流における、噴霧乾燥およびコントロールペプチドAP301の効果が示される。(A)ペプチドコントロール、n=5;(B)「製剤されない」(すなわち、賦形剤を含まないで製剤された)AP301、n=11;(C)20%(w/w)スクロースとともに製剤されたAP301、n=9;(D)20%(w/w)マンニトールとともに製剤されたAP301、n=9。細胞を全細胞モードでパッチした;内向き電流は-100 mVにて惹起された。電流は、スクロースまたはマンニトールの存在下で約30%に減少する。AP301/糖(-アルコール)の比率は、4:1(w/w)であった。***:p<0.0001、t検定によって決定される、示された実験との比較。(NS):有意でない。
【
図4】
用量を増やす試験でのペプチドAP301の生物活性における糖(-アルコール)の阻害効果。A549細胞内のアミロライド感受性ナトリウム電流における、マンニトール(
図4A)またはスクロース(
図4B)の濃度(%w/w)を増加させて製剤された噴霧乾燥AP301の効果が示される。コントロール(白い棒):制御相中の内向き電流の平均値。AP301(斜線の棒):X%(w/w)のマンニトール/スクロース(ペプチド重量から200nM以下)とともに製剤された噴霧乾燥AP301の添加後の内向き電流の平均値。AP301 +アミロライド(黒い棒):浴溶液へのアミロライド(100 μM以下)の最終添加後の内向き電流の平均値。細胞を全細胞モードでパッチした;内向き電流は-100 mVにて惹起された。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0053】
AP301製剤の乾燥粉末の製造
実施例1は、本発明の医薬の好ましい製造方法を開示する。簡単に述べると、噴霧乾燥装置を用いて、DPI用の投与に適した材料特性(最も重要なことは、DPIに適した体積分布の粒子)を有する該医薬を製造する。
【0054】
本試験の目的は、合成ペプチドAP301の乾燥粉末製剤の製造方法としての噴霧乾燥を調査することである。
【0055】
材料および方法
賦形剤なしでの噴霧乾燥AP301(サンプル番号1)
凍結AP301粉末を開封前に室温まで30分間暖めた。1.0gのAP301の粉末(862mgのペプチド含有)を33mlの脱イオン水に加え、総固体濃度3% w/vにした。これを完全に溶解するまでローラーミキサー上に置いた(〜15分間)。
【0056】
高性能サイクロンおよびBuchi 2流体ノズルを備えたBuchi B290噴霧乾燥機を用いて、溶液を噴霧乾燥した。
【0057】
50℃の安定した出口温度が維持されるまで、2ml/分の速度で脱イオン水を噴霧することによって噴霧乾燥機を平衡化した。次いで、供給をAP301溶液に切り替えた。
【0058】
噴霧乾燥後、装置を止め、生成物をガラスバイアルに回収した。大部分の生成物(〜80%)を収集瓶から回収し、残りをサイクロンから回収した。
【0059】
周囲温度(〜20℃)にて、18時間、800ミリバールの真空オーブン内にバイアルを置いた。バイアルを密封し、冷蔵保存した。
【0060】
第1表:噴霧乾燥条件
【表1】
【0061】
噴霧乾燥AP301+20%スクロース(w/w)(サンプル番号2)
800mgのAP301の粉末(690mgのペプチド含有)を32.4mlの脱イオン水に加え、完全に溶解するまでローラーミキサー上に置いた。溶液に172mgのスクロースを加えて、最終生成物中の総固体濃度を3% w/vにし、ペプチド:スクロース比を4:1 w/wにした。
【0062】
溶液を噴霧乾燥し、上述のように真空乾燥した。
【0063】
噴霧乾燥AP301+20%マンニトール(w/w)(サンプル番号3)
800mgのAP301の粉末(690mgのペプチド含有)を32.4mlの脱イオン水に加え、完全に溶解するまでローラーミキサー上に置いた。溶液に172mgのマンニトールを加えて、最終生成物中の総固体濃度を3% w/vにし、ペプチド:マンニトール比を4:1 w/wにした。
【0064】
溶液を噴霧乾燥し、上述のように真空乾燥した。
【0065】
第2表:噴霧乾燥されたAP301の要約
【表2】
*:AP301ペプチドは、1.16gの粉末が1.0gのペプチドを含有する粉末として供給された。
【0066】
本試験の目的は、合成ペプチドAP301の乾燥粉末製剤の製造方法としての噴霧乾燥を調査することである。
【0067】
粒径分析
RODOS分散器とともにSympaTec HELOS粒径分析器を用いて粒径分析を行なった。約50mgの微粒子を振動フィーダーに置き、ホッパーに供給した。2バール圧の圧縮空気を用いて分散を達成した。
【0068】
走査電子顕微鏡法
JEOL 6060LV可変圧力走査電子顕微鏡を用いて、噴霧乾燥粒子の表面モルホロジーを調査した。
【0069】
結果
「製剤されない」(すなわち、賦形剤なしで製剤された)AP301およびスクロースまたはマンニトールを添加して製剤されたAP301の両方を噴霧乾燥した。目標範囲2〜4μm内の粒子(
図1)は、高い噴霧化圧(6バール)および低い液体供給速度(2ml/分)にてBuchi B290噴霧乾燥機を用いてペプチド製剤を噴霧乾燥することによって容易に達成された。これらの粒子は、走査電子顕微鏡法によって、主として崩壊した球状形態を有することが観測された(
図2)。
【0070】
3つの供給溶液はすべて、成功裏に噴霧乾燥され、微細な白色粉末が得られた。回収率(歩留まり)は高かった:68〜78%。噴霧乾燥粉末は、良好な取扱い特性を有し、最小限の静電荷で回収容器から容易に回収することができた。
【0071】
第3表:粒径分析(要約)
【表3】
*:10%の微粒子が、体積で、この数字以下。
**:50%の微粒子が、体積で、この数字以下。
***:90%の微粒子が、体積で、この数字以下。
****:体積平均直径(本明細書において、体積平均直径は、「平均直径」とも呼ばれる。)
【0072】
SEMは、粒子が主として崩壊した球状形態を有することを示した(
図2)。中空の低密度粒子は、空気動力学的直径を低下させ、そのことによってデリバリー効率が改善されたので、この形態は、肺ドラッグデリバリーにとって一般的に有利である。くぼみのある粒子表面は、接触領域を最小化することによって粉末の分散性を補助することもできる。
【0073】
この試験で製造された3つのサンプルのすべてが、良好に噴霧乾燥され、目標粒径範囲内かつ肺デリバリーのための有望な形態にて、高収率で粉末が得られた。
【実施例2】
【0074】
AP301乾燥粉末製剤のインビトロ活性
実施例2は、インビトロアッセイにおいて本発明の医薬の生物活性を試験する方法を教示する。
【0075】
材料および方法
全細胞パッチクランプ
プレーティング後、室温(19℃)にて48時間の時点で、Axopatch 200B増幅器およびDigiData 1440AとpCLAMP10.2ソフトウェア(Axon Instruments、ユニオンシティUnion City、カリフォルニア)を用いてA549細胞から全細胞電流を得た。10 kHzにて電流を記録し、5 kHzにてろ過した。培養細胞を置いたカバーガラスを1-ml容量のチャンバーに移し、倒立顕微鏡(Axiovert 100;Carl Zeiss、オーバーコッヘン、ドイツ)の架台に載せた。チャンバーが含むバス溶液1 mlの組成(mM)は、以下のとおりである:145 NaCl、2.7 KCl、1.8 CaCl
2、2 MgCl
2、5.5 グルコース、および10 HEPES;1M NaOH溶液でpH 7.4に調整。DMZ ユニバーサルプラー(Zeitz Instruments、マルティンスリート、ドイツ)を用い、2MVの抵抗を有するホウケイ酸ガラスパッチピペット(Harvard Apparatus、ホリストン、マサチューセッツ)を引っ張り、ポリッシュした。ピペット溶液の組成(mM)は、以下のとおりである:135 メタンスルホン酸カリウム、10 KCl、6 NaCl、1 Mg2ATP、2 Na3ATP、10 HEPES、および0.5 EGTA、1M KOH溶液でpH 7.2に調整。GVシール形成後、5分間の平衡化期間の後、0 mVにて、保持電位を記録した。不適切な電圧クランプを回避するために、試験中、ギガシールを継続的にモニターした。対象の各AP301製剤に対して、ペプチド重量から200nM以下の該製剤をバス溶液に加えた。
【0076】
アミロライドをコントロール試験に加えて、総電流からアミロライド感受性Naイオン電流を同定した。ウォッシュイン相は、約1分間持続した。示した化合物それぞれが定常状態効果に到達した後、同じクランププロトコルをコントロール記録中に適用した。AP301の試験の最後に、ペプチド誘導性の電流増加がアミロライド感受性Naイオン電流によるものであるかどうかをあきらかにするために、アミロライドを加えた。ウォッシュアウト相では、定常状態ウォッシュイン相に到達した後、パッチされた細胞上にコントロール溶液を適用した。所定の濃度において、アミロライドの不在下で測定された全細胞電流から、アミロライドの存在下で測定された全細胞電流を減算することによって、アミロライド感受性電流を決定した。
【0077】
総合すると、AP301(ペプチド重量から200nM以下)の添加およびバス溶液へのアミロライド(100 μM以下)の最終添加後の、制御相中の内向き電流の平均値によって示されるように、A549細胞内のアミロライド感受性ナトリウム電流における噴霧乾燥およびコントロールペプチドAP301の効果を測定した。細胞を全細胞モードでパッチした;内向き電流は-100 mVにて惹起された。
【0078】
結果
乾燥粉末ペプチド製剤に典型的な濃度、この実施例では20% w/w(上述のエクスベラの40% w/wよりは低い)で存在する糖(-アルコール)賦形剤は、ペプチドAP301を含む乾燥粉末製剤の生物活性を著しく減少させた(
図3)。生物活性の指標としての電流は、 20%(w/w)スクロースまたは20%(w/w)マンニトールの存在下で、正常に誘導されるレベルの約30%まで減少した。
【実施例3】
【0079】
炭水化物用量を増やす試験におけるAP301乾燥粉末製剤のインビトロ活性
全細胞パッチクランプアッセイにおいて、AP301の乾燥粉末製剤+0%、0.1%、0.5%、1%、5%および25%(w/w)のマンニトール(
図4A)またはスクロース(
図4B)を、それらのインビトロ活性について試験した。アッセイの設定は、実施例2の材料および方法で記載したものと同様である。
【0080】
結果
実施例2から予想されるように、スクロースおよびマンニトールは、ペプチドAP301の生物活性において用量依存性阻害効果を有する。阻害効果は、スクロース/マンニトール濃度1%(w/w)にて著しく有害になり(約10%の活性低下)、スクロース/マンニトール濃度5%(w/w)にて特に有害になる(約30%の活性低下)。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]