特許第6397988号(P6397988)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6397988市場リスク評価システムおよび市場リスク評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397988
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】市場リスク評価システムおよび市場リスク評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/06 20120101AFI20180913BHJP
【FI】
   G06Q40/06
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-504473(P2017-504473)
(86)(22)【出願日】2015年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2015056926
(87)【国際公開番号】WO2016143054
(87)【国際公開日】20160915
【審査請求日】2017年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000155469
【氏名又は名称】株式会社野村総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 崇充
(72)【発明者】
【氏名】蒲谷 俊介
(72)【発明者】
【氏名】榛葉 清人
(72)【発明者】
【氏名】米川 修
(72)【発明者】
【氏名】朱 映奇
【審査官】 塩田 徳彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−062871(JP,A)
【文献】 特開2010−003194(JP,A)
【文献】 特開2002−183429(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0114757(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投資信託のリスク量を算出する市場リスク評価システムであって、
算出日におけるポートフォリオに含まれる全銘柄についての属性およびポジションの情報を取得する第1の取得部と
過去の所定の期間におけるポートフォリオに含まれる全銘柄についての価格情報および市場インデックスのヒストリカル・データを取得する第2の取得部と、
前記第1の取得部により取得された情報と、前記第2の取得部により取得された情報とに基づいて、所定のリスクモデルに従って前記ポートフォリオのリスク量を算出するリスク算出部と、
前記リスク算出部により算出された結果を出力する出力部と、
を有し、
前記リスクモデルは、
VaR方式により各銘柄のリスク量を算出して合算するものであり、
前記ポートフォリオに含まれる各銘柄を、
対象の銘柄のリスク・ファクター毎の感応度を用いた分散共分散法により、前記第1の取得部により取得された情報と、前記第2の取得部により取得された情報とを用いて、各リスク・ファクターに係るリスク量と、対象の銘柄の残差リスクのリスク量と、を算出する第1のレベルの銘柄と、
前記第1の取得部により取得された情報と、前記第2の取得部により取得された情報とを用いて、対象の銘柄の個別リスクと、時価金額もしくは想定元本額と、の乗算によりリスク量を算出する第2のレベルの銘柄と、
前記第1の取得部により取得された情報を用いて、対象の銘柄の時価金額もしくは想定元本額をリスク量とする第3のレベルの銘柄と、
に区別して、各銘柄が属する前記レベルの算出方法によって各銘柄のリスク量を算出するものであ
前記市場リスク評価システムで予め記憶している条件である設定条件により、各銘柄が、前記第1のレベルの銘柄、前記第2のレベルの銘柄、および前記第3の銘柄の何れに属するか定められている、
市場リスク評価システム。
【請求項2】
投資信託のストレス期におけるリスク量を算出する市場リスク評価システムであって、
過去の所定の期間における、ポートフォリオに含まれる全銘柄についての属性およびポジションの情報を取得する第1の取得部と
過去の所定の期間における、価格情報および市場インデックスのヒストリカル・データを取得する第2の取得部と、
前記第1の取得部により取得された情報と、前記第2の取得部により取得された情報とに基づいて、所定のリスクモデルに従って前記ポートフォリオのリスク量を算出するリスク算出部と、
前記リスク算出部により算出された結果を出力する出力部と、を有し、
前記リスクモデルは、
VaR方式により各銘柄のリスク量を算出して合算するものであり、
前記ポートフォリオに含まれる各銘柄を、
対象の銘柄のリスク・ファクター毎の感応度を用いた分散共分散法により、前記第1の取得部により取得された情報と、前記第2の取得部により取得された情報とを用いて、前記ストレス期のデータに基づいて得られる各リスク・ファクターに係るリスク量と、対象の銘柄の残差リスクに、対象の銘柄に対応する市場インデックスの前記ストレス期におけるデータと直近のデータとの比により算出するストレス乗数を乗算して得られるリスク量と、を算出する第1のレベルの銘柄と、
前記第1の取得部により取得された情報と、前記第2の取得部により取得された情報とを用いて、対象の銘柄の個別リスクと、時価金額もしくは想定元本額と、前記ストレス乗数と、の乗算によりリスク量を算出する第2のレベルの銘柄と、
前記第1の取得部により取得された情報を用いて、対象の銘柄の時価金額もしくは想定元本額をリスク量とする第3のレベルの銘柄と、
に区別して、各銘柄が属する前記レベルの算出方法によって各銘柄のリスク量を算出するものであ
前記市場リスク評価システムで予め記憶している条件である設定条件により、各銘柄が、前記第1のレベルの銘柄、前記第2のレベルの銘柄、および前記第3の銘柄の何れに属するか定められている、
市場リスク評価システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の市場リスク評価システムにおいて、
前記リスク算出部は、前記リスクモデルに従って前記ポートフォリオのリスク量を算出する際に、必要となるデータが前記ヒストリカル・データに蓄積されていない場合、当該データについて、ユーザからの入力を受け付ける、もしくは、所定の市場インデックスにおけるデータによって代替させる、市場リスク評価システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の市場リスク評価システムにおいて、
前記リスクモデルにおける前記第1〜第3のレベルでのリスク量を算出する方法は、前記ポートフォリオに含まれる各銘柄の商品種別に応じて異なる、市場リスク評価システム。
【請求項5】
投資信託のリスク量を算出する市場リスク評価システムとして機能するよう、コンピュータに処理を実行させる市場リスク評価プログラムであって、
算出日におけるポートフォリオに含まれる全銘柄についての属性およびポジションの情報を取得する第1の取得処理と
過去の所定の期間における、ポートフォリオに含まれる全銘柄についての価格情報および市場インデックスのヒストリカル・データを取得する第2の取得処理と、
前記第1の取得処理で取得した情報と、前記第2の取得処理で取得した情報と、に基づいて、所定のリスクモデルに従って前記ポートフォリオのリスク量を算出するリスク算出処理と、
前記リスク算出処理で算出した結果を出力する出力処理と、
を前記コンピュータに実行させ、
前記リスクモデルは、
VaR方式により各銘柄のリスク量を算出して合算するものであり、
前記ポートフォリオに含まれる各銘柄を、
対象の銘柄のリスク・ファクター毎の感応度を用いた分散共分散法により、前記第1の取得処理で取得した情報と、前記第2の取得処理で取得した情報とを用いて、各リスク・ファクターに係るリスク量と、対象の銘柄の残差リスクのリスク量と、を算出する第1のレベルの銘柄と、
前記第1の取得処理で取得した情報と、前記第2の取得処理で取得した情報とを用いて、対象の銘柄の個別リスクと、時価金額もしくは想定元本額と、の乗算によりリスク量を算出する第2のレベルの銘柄と、
前記第1の取得処理で取得した情報を用いて、対象の銘柄の時価金額もしくは想定元本額をリスク量とする第3のレベルの銘柄と、
に区別して、各銘柄が属する前記レベルの算出方法によって各銘柄のリスク量を算出するものであ
前記市場リスク評価システムで予め記憶している条件である設定条件により、各銘柄が、前記第1のレベルの銘柄、前記第2のレベルの銘柄、および前記第3の銘柄の何れに属するか定められている、
市場リスク評価プログラム。
【請求項6】
投資信託のストレス期におけるリスク量を算出する市場リスク評価システムとして機能するよう、コンピュータに処理を実行させる市場リスク評価プログラムであって、
過去の所定の期間における、ポートフォリオに含まれる全銘柄についての属性およびポジションを取得する第1の取得処理と、
過去の所定の期間における、価格情報および市場インデックスのヒストリカル・データを取得する第2の取得処理と、
前記第1の取得処理で取得した情報と、前記第2の取得処理で取得した情報とに基づいて、所定のリスクモデルに従って前記ポートフォリオのリスク量を算出するリスク算出処理と、
前記リスク算出処理で算出した結果を出力する出力処理と、
を前記コンピュータに実行させ、
前記リスクモデルは、
VaR方式により各銘柄のリスク量を算出して合算するものであり、
前記ポートフォリオに含まれる各銘柄を、
対象の銘柄のリスク・ファクター毎の感応度を用いた分散共分散法により、前記第1の取得処理で取得した情報と、前記第2の取得処理で取得した情報とを用いて、前記ストレス期のデータに基づいて得られる各リスク・ファクターに係るリスク量と、対象の銘柄の残差リスクに、対象の銘柄に対応する市場インデックスの前記ストレス期におけるデータと直近のデータとの比により算出するストレス乗数を乗算して得られるリスク量と、を算出する第1のレベルの銘柄と、
前記第1の取得処理で取得した情報と、前記第2の取得処理で取得した情報とを用いて、対象の銘柄の個別リスクと、時価金額もしくは想定元本額と、前記ストレス乗数と、の乗算によりリスク量を算出する第2のレベルの銘柄と、
前記第1の取得処理で取得した情報を用いて、対象の銘柄の時価金額もしくは想定元本額をリスク量とする第3のレベルの銘柄と、
に区別して、各銘柄が属する前記レベルの算出方法によって各銘柄のリスク量を算出するものであ
前記市場リスク評価システムで予め記憶している条件である設定条件により、各銘柄が、前記第1のレベルの銘柄、前記第2のレベルの銘柄、および前記第3の銘柄の何れに属するか定められている、
市場リスク評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金融商品取引を支援する技術に関し、特に、投資信託におけるデリバティブ取引のリスク量を評価するリスク評価システムおよびリスク管理方法に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2013年6月に改正され、2014年12月1日に施行される「投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)」、およびこれに合わせて改正された「金融商品取引業等に関する内閣府令」に基づいて、一般社団法人投資信託協会による「投資信託の運用に関する規則」に係る「デリバティブ取引に係る投資制限のガイドライン(以下では単に「ガイドライン」と記載する場合がある)」(http://www.toushin.or.jp/profile/article/)も一部改正されている。
【0003】
このガイドラインによれば、委託会社会員(資産運用会社などの投資信託委託会社)は、デリバティブ取引等に係る投資を管理する方法について、リスク管理方法を社内規則において予め定めるものとし、算出したリスク量が投資信託財産の純資産総額の一定割合以下となるよう保つことで、デリバティブ取引による投資により過度のリスクを取らないようにすることが求められる(以下ではこれを「デリバティブ取引規制」と記載する場合がある)。
【0004】
ガイドラインでは、リスク管理方法として、簡便法、標準的方式、およびVaR(Value at Risk)方式が例示されており、これに限らず、各投資信託委託会社が適当と認めるリスク管理方法を定めることができるとされている。一般的には、ファンドの性質に関わらず広く受け入れられ、リスクモデルに拡張性を持たせることが可能であることもあり、VaR方式の採用が検討される場合が多いようである。
【0005】
VaR方式によるリスク管理に関連する技術として、例えば、特表2009−528634号公報(特許文献1)には、証券ポジションとリアルタイム価格データとに関するバックグラウンドデータを獲得するステップと、証券の運用成績の中間尺度に関する計算を実行するステップと、証券のポートフォリオ構成データと1または複数のデータ要求とを受け取るステップであって、データ要求の少なくとも1つがポートフォリオのVaRレポート要求を含むステップと、パーキンソンのボラティリティ推定に基づきVaRレポートを提供するステップとを含むリスク管理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】、特表2009−528634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
デリバティブ取引規制に対応してVaR方式によるリスク管理方法を定めるにあたり、投資信託委託会社において、現在VaR方式によるリスク量の計算を実施していない場合は、新たにこれを計算する業務を構築しなければならない。また、現在VaR方式によるリスク量の計算を実施している場合であっても、その算出方法(リスクモデル)が適切か否か、算出結果が妥当か否かなどを、デリバティブ取引規制に対する適合という観点から確認・検証する必要がある。しかしながら、これらの作業は負荷が高くリソースも必要となる。
【0008】
一方、VaR方式によるリスク量の計算方法について、例えば、ファンド内の銘柄毎にその属性等に応じてそれぞれ詳細に計算することで、算出結果の精度を向上させることが可能であるが、この場合、計算処理の負荷が非常に高くなってしまう。また、VaR方式では、過去のヒストリカル・データから求めた予想変動率(ボラティリティ)を用いるため、例えば、上場して間もない銘柄や、継続的なデータ取得ができない銘柄など、ヒストリカル・データを取得できないような場合には、算出が困難になる場合が生じ得る。また、例えば、リーマンショック時等のような異常時(ストレス期)については、データ取得期間の特定の困難性やデータがない銘柄があるなどの問題で算出がさらに困難である。
【0009】
そこで本発明の目的は、デリバティブ取引規制に対する適合という観点から、リスクの過小評価とならないよう、簡略化したリスクモデルで容易かつ安定的にリスク量を算出することを可能とする市場リスク評価システムおよび市場リスク評価プログラムを提供することにある。
【0010】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0012】
本発明の代表的な実施の形態によるリスク評価システムは、投資信託のリスク量を算出する市場リスク評価システムであって、算出日に関するポートフォリオに含まれる全銘柄についての属性およびポジションの情報と、過去の所定の期間におけるポートフォリオに含まれる全銘柄についての価格情報および市場インデックスのヒストリカル・データと、に基づいて、所定のリスクモデルに従って前記ポートフォリオのリスク量を算出するリスク算出部を有するものである。
【0013】
前記リスクモデルは、VaR方式により各銘柄のリスク量を算出して合算するものであり、前記ポートフォリオに含まれる各銘柄を、対象の銘柄のリスク・ファクター毎の感応度を用いた分散共分散法により、各リスク・ファクターに係るリスク量と、対象の銘柄の残差リスクのリスク量と、を算出する第1のレベルの銘柄と、対象の銘柄の個別リスクと、時価金額もしくは想定元本額と、の乗算によりリスク量を算出する第2のレベルの銘柄と、対象の銘柄の時価金額もしくは想定元本額をリスク量とする第3のレベルの銘柄と、に区別して、各銘柄が属する前記レベルの算出方法によって各銘柄のリスク量を算出するものである。
【0014】
また、本発明は、上記のような市場リスク評価システムとして機能するよう、コンピュータに処理を実行させる市場リスク評価プログラムにも適用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0016】
すなわち、本発明の代表的な実施の形態によれば、デリバティブ取引規制に対する適合という観点から、リスクの過小評価とならないよう、簡略化したリスクモデルで容易かつ安定的にリスク量を算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施の形態におけるリスクモデルについて概要を示した図である。
図2】本発明の一実施の形態におけるストレス期間のリスクモデルについて概要を示した図である。
図3】本発明の一実施の形態である市場リスク評価システムを有する資産運用システムの構成例について概要を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0019】
<システム構成>
図3は、本発明の一実施の形態である市場リスク評価システムを有する資産運用システムの構成例について概要を示した図である。資産運用システム1は、例えば、ファンドを運用する資産運用会社等(投資信託委託会社)のユーザが、ユーザ端末2を利用してインターネット等のネットワーク3を介してアクセスして利用する情報処理システムであり、フロントオフィスシステム10、バックオフィスシステム20、市場リスク評価システム30や、その他の図示しないサブシステムの組み合わせによって構成される。資産運用システム1は、資産運用会社等が個別にサーバ機器等により構築・保持してもよいし、ITベンダー等がクラウドコンピューティング環境上の仮想サーバにより構築し、各資産運用会社等がサービスとしてこれを利用する構成であってもよい。
【0020】
フロントオフィスシステム10は、資産運用会社が運用するファンドについて、発注処理や指図等の処理を行ったり、約定情報を管理したりする機能や、銘柄や時価、格付等の市場データを外部のデータソースから取得するインタフェースなどを有する。また、バックオフィスシステム20は、各ファンドについてのポジションのデータや、外部のデータソースから取得した市場データを、それぞれ、ポジションデータ21や市場データ22のデータベースに記録して管理し、パフォーマンスの計測・分析を行ったり、各種計算や報告書の作成などの処理を行ったりする。これらのサブシステムは、例えば、ITベンダー等が提供する既存の資産運用ソリューションなどを適宜利用することができる。
【0021】
市場リスク評価システム30は、バックオフィスシステム20により取得・確定され、蓄積されたポジションデータ21や市場データ22のデータに基づいて、デリバティブ取引規制に対応するよう、ファンド毎のリスク量を算出・評価する機能を有する。図3の例では、説明の便宜上、バックオフィスシステム20とは独立したサブシステムとして表示しているが、バックオフィスシステム20の一機能として実装してもよい。
【0022】
市場リスク評価システム30は、例えば、図示しないOS(Operating System)やDBMS(DataBase Management System)などのミドルウェア上で稼働するソフトウェアとして実装されるリスク算出部31などの各部を有する。リスク算出部31は、ポジションデータ21や市場データ22に記録・蓄積されたデータを利用して、予め定義・設定されたリスクモデル32の計算式、および設定条件33の内容に基づいてファンド(ポートフォリオ)毎にリスク量を計算し、リスクデータ34として記録する機能を有する。ポジションデータ21には、算出日におけるポートフォリオに含まれる全銘柄の属性とポジションの情報が記録されている。また、市場データ22には、ポートフォリオに含まれる全銘柄の価格情報および市場インデックスについて、現在のデータおよび過去の所定の期間におけるヒストリカル・データが記録されている。
【0023】
なお、ポジションデータ21の確定、市場データ22の取得、およびリスク量の計算と、デリバティブ取引規制に対する適合状況(制限事項の順守状況)の確認などの一連の処理は、例えば、夜間バッチによる日次処理として行うことで、日中と夜間でのシステムリソースの有効利用を図るのが望ましい。バッチ処理により算出されたリスク量や、デリバティブ取引規制に対する適合状況などの情報は、例えば、翌営業日の日中に、資産運用会社のユーザがユーザ端末2を利用して資産運用システム1にアクセスし、閲覧・参照することができる。リスク量が所定の基準を超えそう、もしくは超えた場合など、所定の条件に合致する場合は、対象のユーザに対してアラート等の通知を行うようにしてもよい。
【0024】
<リスクモデルの概要>
本実施の形態では、市場リスク評価システム30におけるリスク管理方法として、まず、リスク量を計算するためのリスクモデル32について、ガイドラインにも例示されているVaR方式を採用するものとする。VaR方式は、上述したように、ファンドの性質に関わらず広く受け入れられる方式であり、リスクモデル32に拡張性を持たせることが可能であることによる。
【0025】
また、VaR値の計算方法として、一般的には、分散共分散法、ヒストリカルシミュレーション、モンテカルロシミュレーションなどの手法が存在するが、本実施の形態では、分散共分散法を採用するものとする。リスク評価の対象商品には、非線形性を持つものが少ないことや、VaR値の計算を効率的に行うことができること、複数の保有期間に係るVaR値の計算対応が容易であることなどの理由に基づく。
【0026】
保有期間については、ガイドラインでは「10営業日以上を基本とし、…流動性の高いものを主たる取引対象とする場合には、5営業日以上とする対応も考えられる。」とされている。これに対し、本実施の形態では、分散共分散法によって1営業日VaRを計算し、10営業日VaRや5営業日VaRなどは、いわゆるルートt倍法を用いることで対応するものとするが、これに限られない。
【0027】
また、ガイドラインではVaR方式について、「ストレス時の状況を適切に管理する」ものとし、「ストレス期間におけるヒストリカル・データを…適用して算出する…」ものとされており、銀行等の金融機関に採用される国際統一基準であるバーゼル規制(バーゼル3)のように、VaRにストレスVaRを加算するなどの方法についてはガイドラインに記載されていない。したがって、本実施の形態では、過去におけるストレス時と推定される期間を特定し、その期間の状況をVaRに反映させる(すなわち、ストレスVaRも算出する)ものとする。なお、本実施の形態では、ストレス期間の特定は、インデックスで構成されたモデルポートフォリオを使用して特定するものとするが、これに限られない。その際、ファンド毎に変えるのではなく、リーマンショック時を含むストレスシナリオを特定し、全てのファンドに適用するものとする。
【0028】
また、ガイドラインでは、「リスク計算モデルをバックテストするなど適切に管理する」ものとし、「乗数を3〜4とするという方法の他、…適切な管理方法を定める…」ものとされている。これに対し、本実施の形態では、乗数のデフォルト値を1とした上で、顧客が利用開始後にバックテストを行って検証し、検証結果に基づいて個々のファンドに対して適切な乗数を顧客が個別に設定できるようにする。このような顧客毎の個別設定は、例えば、図3に示した市場リスク評価システム30の設定条件33などに保持される。
【0029】
また、ガイドラインでは、「府令の禁止行為に該当することのないよう適切に管理・運営する」ものとされているところ、本実施の形態では、上述したように、基本的には日次のバッチ処理によって、後述するリスクモデル32に基づいてリスク量を計算する。また、多数のファンドに対して計算する必要があることから、リスクモデル32では、保守性を維持しつつ、すなわちリスクを過小評価しないようにしつつ、可能な範囲で計算を簡略化している。
【0030】
<リスクモデルの内容>
本実施の形態では、上述したように、リスク量をVaR方式により計算するものとする。VaR値は、1年間の日次リターンを計算データとし、信頼水準99%として計算し、日次リターンのVaR値をルートt倍して、保有期間が5営業日、10営業日でのVaR値を算出する。
【0031】
上述したように、VaR方式によるリスク量の計算について、例えば、ファンド内の銘柄毎にその属性等に応じて詳細に計算することで、算出結果の精度を向上させることが可能であるが、この場合、計算処理の負荷が非常に高くなってしまう。また、VaR方式では、過去のヒストリカル・データから求めたボラティリティを用いるため、例えば、上場して間もない銘柄や、継続的なデータ取得ができない銘柄など、ヒストリカル・データを取得できないような場合には、算出が困難になる場合が生じ得る。
【0032】
そこで、幅広い銘柄について少ないデータで必要十分な精度のリスク量を計算できるようにするため、本実施の形態のリスクモデル32は、ファンドに含まれる全銘柄について、市場データや個別銘柄属性の情報の充足性に基づいてレベルA〜レベルCの3つの階層に分け、階層毎に計算方法を変えてリスク量を計算した上でこれらを合算するものとする。これにより、計算を簡略化できる部分は簡略化するとともに、データ不足にも対応することを可能とする。
【0033】
リスクモデル32では、例えば、転換社債のように、詳細な分析にあたって属性情報が不足している銘柄については、転換後の株式として評価するなど、リスク量が最大となるように保守的に評価することで、リスクを過小評価しないようにしつつ計算を簡略化する。また、市場データがないなど、データが不足する場合において、ユーザが個別に値を補充・入力する際に、市場リスク評価システム30が代替インデックス等を用意することにより、ユーザの負担を軽減する。
【0034】
図1は、本実施の形態におけるリスクモデル32について概要を示した図である。ここでは、直近の情報を用いてVaRを計算する場合のモデルを示しており、バックテストの結果に応じた乗数P(3〜4程度)と、信頼係数K(信頼水準99%の場合は約2.33)、およびルートt(保有期間tは営業日数により設定)の各係数をそれぞれ乗算した値を、レベルAの銘柄の総リスク量と、レベルBの銘柄の総リスク量との和に乗算し、その値にさらにレベルCの銘柄の総リスク量を加算するという構成を有する。
【0035】
レベルAの銘柄については、一般的な分散共分散法により、個別銘柄のリスクをリスク・ファクター(例えば、株式市場指数、先物時価、金利や為替など)のエクスポージャーとしてVaR値を算出する方法をとる。すなわち、銘柄毎に、属性とヒストリカル・データからリスク・ファクターに対する感応度βを算出し、これに基づいて、銘柄の時価基準金額を基準としたリスク・ファクター毎のリスク・エクスポージャーBを計算する。このファクター毎のリスク・エクスポージャーBと、リスク・ファクターの共分散行列とを掛け合わせることでリスクを評価する。ここでは、同一のリスク・ファクターについて、対象の全ての銘柄のリスク・エクスポージャーを合算・相殺する。
【0036】
なお、リスク・ファクターに対する感応度βについては、VaR値の計算結果や、バックテストでの検証結果などに応じてユーザが個別に設定してもよい。また、リスク・ファクターの標準偏差σは、例えば、保有期間を1営業日とし、計算用のヒストリカル・データの期間(観測期間)を1年として計算するものとする。同様に、リスク・ファクターの相関ρについても、計算用のヒストリカル・データの期間を1年として計算するものとする。
【0037】
レベルAの銘柄については、さらに、リスク・ファクターとは独立したリスクとして、銘柄毎にヒストリカル・データに基づいて個別の残差リスクを算出して加算する。残差リスクは、銘柄毎の残差リスクu(例えば、保有期間を1営業日とし、回帰残差の標準偏差として求める)と、銘柄の時価金額とに基づいて求めるものとし、得られた残差リスクを対象の全銘柄について合算して積み上げるものとする。
【0038】
上述したように、レベルAの銘柄は、リスク・ファクター毎にリスク量を評価する方式をとることから、リスク・ファクター毎に分解したデータが市場データから取得可能な銘柄について適用することができる。一方で、銘柄によっては、リスク・ファクター毎に分解したデータの一部もしくは全部が取得できず、必要なデータを充足できない場合がある。例えば、いわゆるファンド・オブ・ファンズなどでは、リスク・ファクター毎の情報が開示されない場合がある。この場合、個別銘柄自体(例えば、ファンド・オブ・ファンズの場合はこれ自体)のリスク(一定期間での価格変動幅)が取得できる場合には、これらの銘柄をレベルBの銘柄として、レベルAの銘柄とは別にVaR値を計算する。
【0039】
レベルBの銘柄については、各銘柄について、当該銘柄の価格のヒストリカル・データに基づいて得られる個別銘柄リスクσの値に時価金額もしくは想定元本額(すなわち、当該取引の経済効果を反映した額)vを乗算することで個別銘柄VaRを算出し、これを相関1としてファンド全体のVaRに加算する。このような計算の簡略化により、計算コストを大幅に低減させることができる。また、レベルBの銘柄がレベルAの銘柄のリスク・ファクターとの間でリスクを相殺できないようにすることで、リスクを過小評価しないようにする。なお、レベルBのVaRの計算に必要となる個別銘柄の価格情報などが不足する場合には、当該銘柄に関連性のある指数やインデックス(以下では「代替インデックス」と記載する場合がある)の個別リスクを当該銘柄の個別銘柄リスクとして採用する。
【0040】
さらに、銘柄によっては、現在の時価は得られるものの、価格のヒストリカル・データが十分に得られず、個別銘柄自体のリスク(一定期間での価格変度幅)が把握できない場合がある。例えば、新規発行債券や新規上場株式などでは、ヒストリカル・データが十分に蓄積されていない場合があり、このような銘柄では、レベルBによる個別銘柄VaRも計算が困難である。本実施の形態では、これらの銘柄をレベルCの銘柄として、レベルA、レベルBの銘柄とは別にリスク量を評価できるようにする。
【0041】
レベルCの銘柄については、計算を簡略化しつつ、保守的にリスクを評価するため、時価金額等の全体を100%リスクとして、ファンド全体のVaRに加算する。なお、レベルCについては基本的にオプションとしての取り扱いとし、対象銘柄についてのデータの不足分をユーザが入力したり、代替インデックスを指定したりして可能な限り補充することで、レベルBの銘柄としてリスク量が計算できるようにするものとする。すなわち、レベルCの計算方法によりリスクの評価を行うのは、ユーザが明示的にレベルCの使用を設定した場合、および例外的にレベルCを用いる必要がある場合(例えば、株式、債券、為替、金利などのオプション取引におけるロングポジションでは、時価金額等全体をリスクと考え得る)に限定するものとする。
【0042】
なお、図1に示したレベルA、B、Cそれぞれのリスク量の評価式は、あくまでモデルであり、実際の計算においては、銘柄の商品種別(例えば、株式、転換社債、債券、為替予約、上場先物、円金利スワップ、その他など)毎に詳細な計算方法(リスクモデル32の各パラメータにどの属性等の値を対応させるか等)は異なり得る。また、商品種別毎に、各銘柄がレベルA、Bのいずれに該当するかの判定基準や条件も個別に設定・定義される。このような商品種別毎の詳細な内容は、例えば、業界慣行などに従って予め設定・定義されるものとする。
【0043】
例えば、レベルAでのリスク評価において、銘柄が株式の場合は、過去一定日数(例えば5営業日)以上の価格情報が取得可能な場合に当該銘柄をレベルAとし、最大1年間の当該国あるいは地域の株価指数に対して、リスク・ファクター毎の感応度βとリスク・エクスポージャーBを計算する、「1ファクター回帰型」の計算方法をとる。また、銘柄が為替予約の場合は、当該為替が為替のリスク・ファクターのリストに含まれる場合に当該銘柄をレベルAとし、感応度β=1として、想定時価金額等を当該銘柄(リスク・ファクター)のリスク・エクスポージャーとする、「100%ファクター換算型」の計算方法をとる。銘柄が転換社債の場合には、レベルAとしてリスク評価を行うことはない。
【0044】
このような銘柄の商品種別毎の詳細内容の相違は、リスクモデル32に埋め込んで固定的に定義・設定してもよいし、設定条件33として定義・設定し、ユーザがその一部または全部を設定・変更できるようにしてもよい。設定等された内容に基づいて、リスク算出部31は、各銘柄について商品種別毎の基準や条件に応じてレベルを自動的に決定し、決定されたレベルに応じてリスクモデル32によってリスク量を計算することができる。
【0045】
<ストレス期のリスクモデル>
上述したように、リスク量の計算においては、ストレス期を想定した場合のリスク量の計算を行うことも求められる。これに対し、本実施の形態では、過去におけるストレス時と推定される期間を特定し、その期間の状況をVaRに反映させるものとする。
【0046】
図2は、本実施の形態におけるストレス期間のリスクモデル32について概要を示した図である。レベルA〜Cの階層構造を含む基本的なモデルの構成は、図1に示したリスクモデル32と同様であるため、同一部分については再度の説明は省略する。図2に示すように、リスクモデル32において、レベルAのVaR値計算部分と、レベルBのVaR値計算部分において、ストレス期を考慮した補正が行われている。
【0047】
レベルAのVaR値計算部分において、リスク・ファクターに係る部分では、リスク・ファクター毎のエクスポージャーB(もしくは感応度β)については、図1に示したリスクモデル32の場合と同様に、直近のデータにより算出された値を用いる。一方で、分散共分散行列の計算の際には、過去のストレス期のデータで計算したリスク・ファクターのデータ(ρ’やσ’)を用いて行うことで、現時点のリスクに対して過去のストレス期の状況を反映させることができる。
【0048】
また、レベルAのVaR値計算部分における株式の個別残差リスクや、レベルBのVaR値計算部分における個別銘柄リスクに係る部分では、計算のベースとなる株式の個別残差リスクuや、個別銘柄リスクσについては、直近のデータにより算出された値を用いるが、これに対して、さらに銘柄毎のストレス乗数κを乗算することでストレス期を考慮する。
【0049】
ここで、ストレス乗数κは、本実施の形態では、対象の銘柄について、定性的に近いと考えられるリスク・ファクターや市場インデックス(代替インデックスを用いてもよい)で代替して、当該リスク・ファクターの過去のストレス期のデータで計算した標準偏差σ’と、直近のデータで計算した標準偏差σとの比として得るものとする。これにより、例えば、過去のストレス期のデータがない銘柄においても、市場インデックスであればデータが存在するためストレス乗数κを得ることができ、ストレス期を想定したシナリオでリスク量を計算することができる。
【0050】
なお、過去のストレス期の特定としては、上述したように、インデックスで構成されたモデルポートフォリオを使用して特定するものとする。例えば、典型的な公募ファンドの現在の商品種別割合を元に、著名なインデックスで構成される想定総合パフォーマンスインデックスを構成し、過去の所定の年数(例えば10年)のVaR値、および騰落状況を勘案して、1年間のストレス期間を特定する。これにより、例えば、リーマンショック時を含むストレス期間を特定することができる。なお、ここで特定されたストレス期間は、ファンド毎に変えるのではなく、全てのファンドに適用するものとする。
【0051】
以上に説明したように、本発明の一実施の形態である市場リスク評価システム30によれば、リスクモデル32に基づいて各ファンドのリスク量を計算する際に、幅広い銘柄について少ないデータで必要十分な精度のリスク量を計算できるようにするため、ファンドに含まれる全銘柄について、市場データや個別銘柄属性の情報の充足性に基づいてレベルA〜レベルCの3つの階層に分け、階層毎に計算方法を変えてリスク量を計算した上でこれらを合算する。これにより、計算を簡略化できる部分は簡略化するとともに、データ不足にも対応することが可能である。
【0052】
また、レベルB、Cの銘柄については、銘柄毎のリスク量を積み上げて、リスク・ファクターとの間でリスクを相殺できないようにして保守的に評価することで、リスクを過小評価しないようにしつつ計算を簡略化することが可能である。また、市場データがないなど、データが不足する場合において、ユーザが個別に値を補充・入力する際に、市場リスク評価システム30が代替インデックス等を用意することにより、ユーザの負担を軽減することが可能である。
【0053】
さらに、過去のストレス期の状況を考慮して、当該ストレス期のデータがない銘柄も含めて、ストレス期を想定したシナリオでのリスク量の計算を行うことが可能である。
【0054】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、上記の実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、上記の実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、投資信託におけるデリバティブ取引のリスク量を評価する市場リスク評価システムおよび市場リスク評価プログラムに利用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…資産運用システム、2…ユーザ端末、3…ネットワーク、
10…フロントオフィスシステム、
20…バックオフィスシステム、21…ポジションデータ、22…市場データ、
30…市場リスク評価システム、31…リスク算出部、32…リスクモデル、33…設定条件、34…リスクデータ
図1
図2
図3