(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6398034
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】ベルト式無段変速機におけるプライマリプーリ用の隔壁部材
(51)【国際特許分類】
F16H 9/18 20060101AFI20180913BHJP
【FI】
F16H9/18 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-534756(P2018-534756)
(86)(22)【出願日】2018年2月8日
(86)【国際出願番号】JP2018004348
【審査請求日】2018年7月9日
(31)【優先権主張番号】特願2017-28840(P2017-28840)
(32)【優先日】2017年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000178804
【氏名又は名称】ユニプレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088731
【弁理士】
【氏名又は名称】三井 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】古屋 暢彦
(72)【発明者】
【氏名】三輪 正道
(72)【発明者】
【氏名】市川 俊之
(72)【発明者】
【氏名】福本 克代
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】梶 奨
【審査官】
高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/146616(WO,A1)
【文献】
特開2015−183753(JP,A)
【文献】
特表2005−533227(JP,A)
【文献】
特開2017−015116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、回転軸と一体回転する固定シーブと、回転軸と一体回転しつつ固定シーブに対して軸方向移動可能にされて、固定シーブに対する間隔が油圧に応じて可変な可動シーブと、可動シーブにおける固定シーブとの離間側に形成される油圧室と、油圧室を形成すべく可動シーブに対して開口した全体として筒形状を呈しており、回転軸と一体回転し、可動シーブに対し油密を確保しつつ摺動可能な隔壁部材とから構成されるベルト式無段変速機のプライマリプーリにおいて、隔壁部材は、所定肉厚の鋼板からのプレス成形及びその後の仕上げ切削工程により仕上げられ、かつ隔壁部材は、回転軸への取付のための回転軸取付部と、回転軸取付部より半径外方に幾分延出し、かつ可動シーブとの対向当接面を形成する可動シーブ当接部と、固定シーブに対する可動シーブの軸方向移動を可能とするべく可動シーブ当接部より可動シーブ側に延出される延出部と、該延出部の可動シーブ近接端において可動シーブに対し油密を維持しつつ軸方向摺動可能に可動シーブと係合する可動シーブ摺動部とを備え、可動シーブ当接部は半径方向外側において、前記延出部に連接されるべく曲折される曲折部を備えており、曲折部の内周凹面は、その横断面が、夫々が曲率中心位置を異にしかつ夫々の曲率半径値を持つ少なくとも二つの円弧と、該少なくとも二つの円弧を滑らかに連接する連接部とから構成されることを特徴とするベルト式無段変速機のプライマリプーリにおける隔壁部材。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、前記連接部は前記少なくとも二つの円弧を連接させる接線若しくは接円である隔壁部材。
【請求項3】
請求項1もしくは2に記載の発明において、前記少なくとも二つの円弧における最内径側円弧は軸方向に逃げ面を形成するか若しくは最外径側円弧は径方向に逃げ面を形成するか又は最内径側円弧は軸方向に逃げ面を形成し最外径側円弧は径方向に逃げ面を形成する隔壁部材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の発明において、隔壁部材は曲折部の内周凹面の切削形成後の軟窒化処理を受けていない隔壁部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はベルト式無段変速機におけるプライマリプーリ用の隔壁部材の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車におけるベルト式無段変速機において、断面V型の幅可変のベルト溝を備えたエンジンの出力軸側のプライマリプーリと、同じく断面V型の幅可変のベルト溝を備えた車輪軸側のセカンダリプーリとを備え、プライマリプーリとセカンダリプーリ間にVベルトを巻き掛け、油圧によってプライマリプーリ及びセカンダリプーリに対するベルトの接触位置を連続的に変化させることにより無段変速を実現させる方式のものが周知である。このような変速方式のベルト式無段変速機におけるプライマリプーリであって、エンジンのクランク軸にトルクコンバータを介して連結される固定シーブと、固定シーブの対向面との間で駆動ベルトのための幅可変の断面V型ベルト溝を形成すると共に、固定シーブに連結された一体回転する回転軸上を軸方向に摺動可能な可動シーブと、可動シーブの固定シーブから離間側に可動シーブの移動に際して油密を維持しつつ可動シーブに対し相対移動可能に配置された隔壁部材と、隔壁部材と可動シーブとの間に形成された油圧室とを具備して成るものが公知である(特許文献1)。隔壁部材は、油圧室を形成すべく可動シーブに対して拡開しながら開口した全体として筒形状を呈しており、回転軸への取付のための回転軸取付部と、回転軸取付部より半径外方に幾分延出し、かつ可動シーブとの対向当接面を形成する可動シーブ当接部と、固定シーブに対する可動シーブの軸方向移動を可能とするべく可動シーブ当接部より可動シーブ側に軸方向に延出される軸方向延出部と、軸方向延出部の可動シーブ近接端において可動シーブに対し油密を維持しつつ軸方向摺動可能に可動シーブと係合する可動シーブ摺動部とを備えており、かつ可動シーブ当接部は半径方向外側において、丸みを帯びて略90度に曲折されて軸方向延出部に連接される曲折部を備えている。
【0003】
隔壁部材はコスト低減の観点から鋼板のプレス成形品とすることができるが、隔壁部材には油圧室における高油圧が加わり、かつVベルト溝幅の制御のためこの高油圧は隔壁部材に高頻度で繰返的に印加されることから、このような高頻度で繰返的に加わる高油圧に強度的に長時間にわたって耐えることが必要であるが、プレス加工が可能であることを考慮すると素材鋼板としては6mm程度のものになるのが通常である。隔壁部材をプレス成形品とした場合、肉厚の制限のため、局部的には強度的な弱点部位が生じ易く、長期の使用継続による強度低下の懸念に対して十分な対策が必要であることは技術常識であるところ、特許文献1の隔壁部材の構造上、可動シーブ当接部における軸方向延出部への接続部は略90度の角度で急峻に曲折された部位となっており、特に、内周面側では応力集中による局部的な加重増大に対する対策が肝要である。そして、特許文献1の技術では第1の環状円板部と筒状中間部との接続部である曲折部は内周を凹面とされており、凹面の機能に関しては明細書中に格別の記載は欠如しているが、応力集中に対する対策が施されたものであると見受けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−185702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
応力集中緩和のための曲折部における内周面を凹面とすることは周知であり、そのため、プレス成形品に旋盤等により所定半径の凹面に切削加工(所謂R加工)することはよく行われている技術である。しかしながら、本出願人による検討の結果、特許文献1のベルト式無段変速機のプライマリプーリの隔壁部材の場合は、繰返し荷重による各部の応力集中の挙動が複雑で、従来の技術常識である応力集中防止のための単一曲率半径値の凹面加工に依拠するものではユーザサイドが要求する耐応力集中防止性能の実現が困難である。そこで、切削工程後に、耐応力集中防止機能の増強のため、軟窒化処理処理を実施している。周知のように、軟窒化処理は、アンモニアガス中での加熱により鋼材表面に窒化物を形成することによる表面硬化技術であり、軟窒化処理の併用により応力集中に対する亀裂等の発生を効果的に防止することができる。しかしながら、軟窒化処理は工程コスト及び設備コストの加算要因であり、本発明は軟窒化処理を付すことなく所期の強度特性を得ることによりコスト低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明において、ベルト式無段変速機のプライマリプーリは、回転軸と、回転軸と一体回転する固定シーブと、回転軸と一体回転しつつ固定シーブに対して軸方向移動可能にされて、固定シーブに対する間隔が油圧に応じて可変な可動シーブと、可動シーブにおける固定シーブとの離間側に形成される油圧室と、油圧室を形成すべく可動シーブに対して開口した全体として筒形状を呈しており、回転軸と一体回転し、可動シーブに対し油密を確保しつつ摺動可能な隔壁部材とから構成されるベルト式無段変速機のプライマリプーリにおいて、隔壁部材は、所定肉厚の鋼板からのプレス成形及びその後の仕上げ切削工程により仕上げられ、かつ隔壁部材は、回転軸への取付のための回転軸取付部と、回転軸取付部より半径外方に幾分延出し、かつ可動シーブとの対向当接面を形成する可動シーブ当接部と、固定シーブに対する可動シーブの軸方向移動を可能とするべく可動シーブ当接部より可動シーブ側に延出される延出部と、該延出部の可動シーブ近接端において可動シーブに対し油密を維持しつつ軸方向摺動可能に可動シーブと係合する可動シーブ摺動部とを備え、可動シーブ当接部は半径方向外側において、前記延出部に連接されるべく曲折される曲折部を備えており、曲折部の内周凹面は、その横断面が、夫々が曲率中心位置を異にしかつ夫々の曲率半径値を持つ少なくとも二つの円弧と、該少なくとも二つの円弧を滑らかに連接する連接部とから構成されることを特徴とする。ここに滑らかに接続とは応力集中を生じさせる急峻な突起部や急峻な凹部のない接続を意味し、隣接する円弧を接円若しくは接線で接続するのが好ましい。そして、本発明においては、隔壁部材の切削仕上げ後の軟窒化処理がされていない。また、円弧とは幾何学的な円弧でなくても、幾何学的な円弧形状に概ね沿った形状をも含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、隔壁部材における可動シーブ当接部の延出部への接続部である曲折部の内面における断面凹面形状を、夫々の曲率半径値を持ち、曲率中心位置を異とする少なくとも二つの円弧の滑らかな接続の形状とすることにより、隔壁部材に荷重を加えたときの凹面での応力値を下げることができ(応力集中の緩和)、後述の有限要素法による仮想試験結果に示すように、繰返し荷重下での耐久性を飛躍的に高め、単一半径値の凹面では所期の耐久性確保のため必須であった軟窒化処理を省略することができる。これは対策手段の単純さに対して驚異的な効果といえる。その理論的根拠は必ずしも明らかではないが、隔壁部材における可動シーブ当接部の軸方向延出部への接続部である略90度の曲折部の内面における応力集中の発生メカニズムは相当に複雑で、応力集中の発生箇所は一箇所ではなく複数箇所に分散しており、また夫々の応力集中発生箇所における横断面の曲率半径の最適値は必ずしも同一ではなく、夫々の最適値が存在していることによるのではないかと推測することが可能である。そして、本発明による驚異的な応力集中低減効果により、従来は必要であった事後の補強処理である軟窒化処理の省略が可能であり、ベルト式無段変速機におけるプライマリプーリ用の隔壁部材として大巾なコスト低減を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、この発明のプライマリプーリの模式的断面図である。
【
図3】
図3(a)は
図2における曲折部の内周面の拡大断面図であり,(b)は内周凹面の構成の詳細説明図である。
【
図4】
図4は
図3の凹面の切削仕上げの工程(a)(b)を示す図である。
【
図5】
図5(a)は二つの円弧を接線で接続する別実施形態を示し,(b)は内周凹面の構成の詳細説明図である。
【
図6】
図6は三つの円弧を接円で接続する別実施形態を示す。
【
図7】
図7は逃げを外径側の円弧に形成する別実施形態を示す。
【
図8】
図8は逃げを内径側の円弧及び外径側の円弧の双方に形成する別実施形態を示す。
【
図9】
図9は有限要素法による隔壁部材における亀裂発生に至る繰返し荷重の回数と凹面での発生応力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1はこの発明のベルト式無段変速機のプライマリプーリの模式的断面図であり、基本的には、特許文献1(特開2014−185702号)と同様に構成されている。10はベルト式無段変速機の全体を収容するハウジングを模式的に示しており、ベルト式無段変速機のプライマリプーリ12は、図示しないセカンダリプーリと共に、ハウジング10内に密閉収容されている。プライマリプーリ12は、回転軸13と、固定シーブ14と、可動シーブ16と、隔壁部材18と、可動シーブ16と隔壁部材18間に形成される油圧室20とを備えている。油圧室20に作動油を導入するための通路等の手段が設置されているが、これらの手段自体は周知であり、また本発明の本旨とは関連性が薄いため図示及び説明は省略する。回転軸13は固定シーブ14と一体回転するように連結され又は一体形成され、回転軸13には、両端にローラベアリング22, 24が備えられ、ローラベアリング22, 24は、回転軸13を中心線Lの周りで回転自在にハウジング10に対して支持する。固定シーブ14と可動シーブ16とは、対向した逆向き傾斜の内周面14-1と16-1とを形成しており、内周面14-1, 16-1間に断面V型ベルト溝26が形成され、図示しないセカンダリプーリの同様な断面V型ベルト溝との間にVベルト28が巻き掛けられている。Vベルト28内部の補強用の芯鋼材を28-1にて模式的に示す。そして、油圧によってプライマリプーリ12及びセカンダリプーリに対するVベルト28の接触位置を連続的に変化させることにより無段変速を実現させることは周知の通りである。可動シーブ16は、簡明のため、模式的な構造にて示すが、固定シーブ14と離間側に延出するように中心筒状延出部16-2、外周筒状延出部16-3を備えている。
【0010】
プライマリプーリ12の更なる詳細構造について説明すると、回転軸13は、スプラインをその内周面に形成した入力軸連結孔13-1を形成しており、エンジンクランク軸側から大抵は流体式トルクコンバータを経由して延びてくる図示しない入力軸にスプライン嵌合されており、エンジンの回転をプライマリプーリ12に伝達し得るように構成されている。回転軸13は外周にスプライン13-2を形成しており、他方、可動シーブ16は、その中心筒状延出部16-2の内周にスプラインを備えており、スプライン嵌合により可動シーブ16は、回転軸13、即ち、固定シーブ14と一体回転しつつ、回転軸13上を軸方向に沿って左右に移動可能となり、V型ベルト溝26の溝幅を所望に変化させることができる。
【0011】
隔壁部材18について説明すると、隔壁部材18は、厚みが6mm前後の鋼板からのプレス成形品であり、軸方向移動している可動シーブ16を収容可能な空洞部を形成するべく、可動シーブ16に向けて拡開しつつ開口した全体として筒形状をなしており、
図2の単品図に示すように、回転軸13への可動シーブ16の取付けのための中心筒状部(本発明の回転軸取付部)30と、中心筒状部30より半径方向に延出された小径環状円板部(本発明の可動シーブ当接部)32と、小径環状円板部32の外周部に連接され、可動シーブに向けて軸方向に延出され、可動シーブ16に対する近接側が可動シーブ16に向けて内外周で丸みを帯びつつ拡開された中間本体部(本発明の延出部)34と、中間本体部34の可動シーブ16側端に滑らかに連接され、外周面において可動シーブ16に対し油密を維持しつつ軸方向摺動可能に可動シーブと係合する大径環状円板部(本発明の可動シーブ摺動部)36とを形成している。小径環状円板部32は、半径方向外側において丸みを帯びて略90度に曲折された曲折部38を備えており、小径環状円板部32はこの曲折部38を経由して中間本体部34に連接されている。そして、小径環状円板部32のこの曲折部38の内周凹面40は、無段変速機の変速動作の際の油圧室20の油圧制御により、隔壁部材18に生ずる応力集中の効果的な抑制のため、本発明により、後で詳述する横断面形状をなして構成されている。隔壁部材18の中心筒状部30は素材鋼板の肉厚より幾分大きな値の軸長aを有している。また、大径環状円板部36は、外周面の全周にシールリング収納のための凹溝36-1を形成している。
【0012】
次に、プライマリプーリ12における隔壁部材18の組立について
図1により説明すると、隔壁部材18は中心筒状部30の中心孔30-1(
図2)において、回転軸13の先端の小径部13-3に肩部13-4との当接位置まで嵌挿され、締結ナット42により中心筒状部30はローラベアリング24のインナレース24-1と肩部13-4との間に締結され、隔壁部材18は回転軸13に固定され、隔壁部材18は回転軸13と一体回転するようにされる。この状態において、隔壁部材18の中心筒状部30の可動シーブ側の端面30-2に面一にて連なる小径環状円板部32の端面32-1が回転軸13の外周から突出位置し、小径環状円板部32の端面32-1は可動シーブ16の最伸張位置を規定する本発明の当接部として機能することになる。即ち、可動シーブ16の最伸張状態においては、可動シーブ16の中心筒状延出部16-2の端面16-2Aが隔壁部材18の小径環状円板部32の端面32-1に当接することになる。また、隔壁部材18の大径環状円板部36は外周の凹溝36-1にシールリング44を装着した状態で可動シーブ16の外周筒状延出部16-3に嵌挿されており、シールリング44は可動シーブ16の外側筒状延出部16-3の対向面との油密、即ち、油圧室20の油密を確保しつつ可動シーブ16の隔壁部材18に対する相対移動を可能とする。
【0013】
次に、本発明の実施形態における小径環状円板部32における曲折部38の内周凹面40の断面形状について
図3(a)にて説明すると、内周凹面40は、中心位置をO
1とする曲率半径R
1の内径側円弧40-1と、第1の内径側円弧40-1とは異なる位置(可動シーブ側でかつ中心軸側に幾分ずれた位置)を中心O
2とし、内径側円弧40-1の曲率半径R
1とは値が異なる曲率半径R
2の外径側円弧40-2と、内径側円弧40-1と外径側円弧40-2とを滑らかに連接する中間部40-3とから構成される。凹面40における内径側円弧40-1は、端面32-1より少し後退(後退量=δ)した逃げ部を形成しており、外径側円弧40-2はこれに対し中間本体部34の内周面34-1にそのまま真っ直ぐに連接している。そして、凹面40における中間部40-3は内径側円弧40-1と外径側円弧40-2とに接円にて接続している。即ち、
図3(b)に示すように中間部40-3は、O
1を中心位置とする円弧C
1とO
2を中心位置とする円弧C
2との接円であるO
Mを中心位置とする円弧C
M上に乗っている。逃げ部δは、移動してくる可動シーブ16がその中心筒状延出部16-2において小径環状円板部32の端面32-1に当接させることで、可動シーブ16の最伸張位置を確実に規定することができるようにするため設置されたものである。
【0014】
本発明の凹面40の形成のための工程について説明すると、
図4の(a)において、プレス加工後の凹面40の未形成状態での曲折部の内面形状を実線Mにて示しており、後から切削を行なう内径側円弧40-1, 40-2の中心位置O
1及びO
2が示され、夫々の直径円が、それぞれ、想像線C
1及びC
2にて画かれている。また、直径円C
1とC
2とを接線方向にかつ滑らかに幾分の凹みをもって接続する曲線をNにて示す。
図4(b)は凹面40の切削仕上げのための切削工具先端の移動軌跡を示す。ワークは旋盤に取り付けられ、その中心線(
図1の中心軸Lに一致する)にチャック中心にて保持され、切削工具は先ず矢印f
1に沿って半径方向に送られ、先ず、隔壁部材18の中心筒状部30の可動シーブ側の端面30-2に相当する部位が切削される。次に、矢印f
2に示すように、切削工具は中心O
1、半径R
1で移動され、凹面40における第1の内径側円弧40-1の切削が行なわれる。そして、切削工具の移動軌跡は
図4(a)の直径円C
1とC
2とを滑らかに接続する曲線(
図3(b)で説明のように円C
1及びC
2に対する接円)Nに移行し、矢印f
3に示すように移動することにより、
図3に示す凹面40における中間部40-3の切削が行われる。凹面40における中間部40-3の切削完了後、切削工具先端の移動軌跡は矢印f
4に示すように、中心O
2、半径R
2に移行され、凹面40における外径側円弧40-2の切削が行なわれる。最後に切削工具先端の移動軌跡は軸方向の直線に沿って矢印f
5に移行され、素材の未切削部分が削られ、これは中間本体部の内周面34-1となる。
【0015】
図5(a)は
図3の変形例であり、内径側円弧40-1と外径側円弧40-2との中間部40-3’を接線としたものである。即ち、
図3(b)に示すように中間部40-3は、O
1を中心位置とする円弧C
1とO
2を中心位置とする円弧C
2との接線T上に乗っている。
【0016】
図6は更に別の第1の実施形態の変形実施形態であり、小径環状円板部32における曲折部38の内周凹面40の断面形状を3個の円弧の接続としたものである。即ち、内周凹面40は、中心位置をO
1とする曲率半径R
1の内径側円弧40-1と、中心位置をO
2とし、曲率半径R
2の中間側円弧40-2と、曲率半径R
3の外径側円弧40-3と、内径側円弧40-1と中間円弧40-2とを接線にて連接する第1の中間部40-4と、中間円弧40-2と外径側円弧40-3とを接線にて連接する第2の中間部40-5から構成される。この実施形態において、第1の中間部40-4と第2の中間部40-5との双方又は一方を
図3(b)で説明した接円とすることはもとより可能である。また、
図6の3個より更に基礎となる円弧の数を増加させる変形例も可能である。
【0017】
以上説明した本発明の実施形態においては、
図3に示すように逃げδは小径環状円板部32の端面32-1側に形成しているが、可動シーブ16をその最大伸張状態において端面32-1において当接させ位置決めすることに問題がない場合、円弧40-1の側に逃げδを作らないようにすることができ、即ち中間本体部34の内周面34-1の側に逃げを形成することも可能である。この変形実施形態を
図7に示しており、この実施形態においては、第1の実施形態と同様に、内周凹面40は、中心位置をO
1とする曲率半径R
1の内径側円弧40-1と、中心位置をO
2とし、曲率半径R
2の外径側円弧40-2と、内径側円弧40-1と外径側円弧40-2とを滑らかに連接する接円(中心O
M:半径R
M)上に位置する中間部40-3とから構成される。内径側円弧40-1は内周側は小径環状円板部32の端面32-1にそのままの延びており、小径環状円板部32には逃げ部が形成されない。他方、外径側円弧40-2については凹面40における内径側円弧40-1は、隔壁部材18の中間本体部34の内周面34-1に対して逃げδ´を形成している。更に、
図8は別の変形例を示し、この実施形態は
図7と類似しているが、内周凹面40における内径側円弧40-1と外径側円弧40-2との双方に逃げを形成したことが特徴である。即ち、内径側円弧40-1は内周側は小径環状円板部32の端面32-1に対してδの逃げを形成し、外径側円弧40-2は中間本体部34の内周面34-1に対して逃げδ´を形成している。また、別の変形実施形態として端面32-1側にも内周面34-1側にも逃げを作らず、しかし、横断面としては曲率半径値の異なる2つの凹面の滑らかな接続であればこれも本発明の思想に含まれるものである。
【実施例】
【0018】
素材として肉厚6.3mmの自動車用構造JIS鋼板よりプレス加工を行い、仕上げの切削加工(
図4の凹面切削加工を含む)を行い、以下の緒元(
図2)、即ち、中心筒状部30(軸長a=10.2mm);小径環状円板部32(外径2×b=82.5mm);大径環状円板部36(外径2×c=161.5mm及び162.5mm);中心筒状部30から大径環状円板部36までの全軸長(d=48.2mm);曲折部38の中心アール値(=10〜11mm);凹面40の曲率半径(R
1=5〜6mm:R
2=5〜6.5mm)、の隔壁部材18を得た。凹面40 の中心部にロードセルを貼着し、模擬的耐久性試験が行われた。この耐久性試験においては、中心筒状部30を治具により保持しつつ隔壁部材18の可動シーブ16側面を20Hzにてオンオフ的に6Mpaの圧力にて加圧したとき、凹面部40にて発生する応力をロードセルにより計測したところ、その計測値は564Mpaであった。
【0019】
比較例の隔壁部材としては、素材及び各部の寸法は実施例1と同一であるが、凹面40のみ従来の単一曲率半径値(R=2.0mm)として、比較例と同一の加圧試験を実施し、凹面部40にて発生する応力を計測したところ、ロードセルによる計測値は854Mpaであった。
【0020】
図9は本発明者が別途実施した有限要素法(FEM)による隔壁部材の仮想的繰返加圧試験結果を示し、横軸(対数目盛)は亀裂発生に至るまでの繰返加圧回数(cyc)、縦軸は隔壁部材18の小径環状円板部32の曲折部38の内周側凹面40における発生応力値を示しており、前記本発明実施例の応力値564Mpaの場合(P点)、1千万回の繰返し荷重に耐えることができることが分かる。これはユーザサイドの要求に適合した値である。これに対し、比較例の応力値=854Mpaの場合、10万回の耐久回数(Q点)が得られるのみである。本実施例により軟窒化処理無しでユーザサイドが要求する耐久回数(1千万回)を得ることができることが分かる。
【符号の説明】
【0021】
10…ハウジング
12…プライマリプーリ
13…回転軸
14…固定シーブ
16…可動シーブ16
18…隔壁部材
20…油圧室
26…断面V型ベルト溝
30…隔壁部材18の中心筒状部(本発明の回転軸取付部)
32…隔壁部材18の小径環状円板部(本発明の可動シーブ当接部)
34…隔壁部材18の中間本体部(本発明の軸方向延出部)
36…隔壁部材18の大径環状円板部(本発明の可動シーブ摺動部)
38…隔壁部材18の小径環状円板部の曲折部
40…隔壁部材18の曲折部38の内周凹面
40-1…隔壁部材18の曲折部38の内周凹面40の内径側円弧
40-2…隔壁部材18の曲折部38の内周凹面40の外径側円弧
40-3…隔壁部材18の曲折部38の内周凹面40の中間部
【要約】
本発明はベルト式無段変速機におけるプライマリプーリ用の隔壁部材の改良に関し、軟窒化処理を付すことなく所期の強度特性を得ることによりコスト低減することを目的とする。可動シーブとの間で油圧室を形成する隔壁部材は、回転軸に装着される中心筒状部より半径方向に延出された小径環状円板部32を備え、小径環状円板部32における、中間本体部34との接続部が略90度に曲折された曲折部38をなし、曲折部38の内周面は断面において、中心位置をO
1とする曲率半径R
1の内径側円弧40-1と、第1の内径側円弧40-1とは異なる位置を中心O
2とし、内径側円弧40-1の曲率半径R
1とは値が異なる曲率半径R
2の外径側円弧40-2と、内径側円弧40-1と外径側円弧40-2とを滑らかに連接する中間部40-3とから構成される。隔壁部材に対する荷重時の凹面40に生ずる応力値を低減し、隔壁部材に軟窒化処理を行うことなく、所期の耐久性を得ることができる。