特許第6398093号(P6398093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398093
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】アテローム斑の検出
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20180920BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20180920BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
   A61B10/00 K
   G01N21/64 Z
   A61B10/00 E
   A61B1/00 550
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-504818(P2015-504818)
(86)(22)【出願日】2013年4月12日
(65)【公表番号】特表2015-516847(P2015-516847A)
(43)【公表日】2015年6月18日
(86)【国際出願番号】AU2013000373
(87)【国際公開番号】WO2013152395
(87)【国際公開日】20131017
【審査請求日】2016年4月11日
(31)【優先権主張番号】2012901476
(32)【優先日】2012年4月13日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】310021674
【氏名又は名称】ベイカー ハート アンド ダイアベーツ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カールハインツ,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】トゥン,ネイ ミン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ユン−チィ
【審査官】 後藤 孝平
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−257638(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/038006(WO,A1)
【文献】 特表2013−505468(JP,A)
【文献】 Calfon,M.A., Rosenthal,A., Mallas,G., Mauskapf,A., Nudelman,R.N., Ntziachristos,V., Jaffer,F.A.,In vivo Near Infrared Fluorescence (NIRF) Intravascular Molecular Imaging of Inflammatory Plaque, a Multimodal Approach to Imaging of Atherosclerosis,Journal of Visualized Experiments,米国,2011年 8月 4日,Issue 54,DOI: 10.3791/2257
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 9/00−10/06
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不安定なアテローム斑の検出に使用するための器械であって、
(a)第1赤外波長の照射光を発生させ、それにより前記第1赤外波長の照射光に動脈の少なくとも一部を曝露させるための照射光源であって、前記第1赤外波長が、
(i)650nm±50nm、
(ii)700nm±50nm、
(iii)750nm±50nm、および
(iv)800nm±50nm、
のうちの少なくとも1つである照射光源と、
(b)前記第1赤外波長の照射光に前記動脈の少なくとも一部が曝露したことにより自家蛍光が生じた結果、第2赤外波長で前記動脈の少なくとも一部から放出される照射光を感知するための検出装置であって、前記第2赤外波長は前記第1赤外波長とは異なるものであり、前記第2赤外波長の照射光は前記動脈の少なくとも一部の自家蛍光が原因で生じ、前記第2赤外波長が、
(i)700nm±50nm、
(ii)750nm±50nm、
(iii)800nm±50nm、および
(iv)850nm±50nm、
のうちの少なくとも1つである検出装置と、
(c)(i)前記第1赤外波長の照射光への前記動脈の第1部分の曝露に応答した、前記第2赤外波長で前記検出装置によって感知される自家蛍光の第1レベルを測定し、ここで前記第1部分が不安定なアテローム斑を有するおそれがあるものであり、
(ii)前記第1赤外波長の照射光への前記動脈の第2部分の曝露に応答した、前記第2赤外波長で前記検出装置によって感知される自家蛍光の第2レベルを測定し、ここで前記第2部分が健常部分であり、且つ、
(iii)(1)自家蛍光の前記第1レベルを自家蛍光の前記第2レベルと比較し、自家蛍光の前記第1レベルが自家蛍光の前記第2レベルよりも少なくとも2の係数だけ大きいかを判定し、且つ、
(2)前記比較の結果を用いて蛍光指標を決定することにより、
不安定なアテローム斑の存在、不在、または程度を表す蛍光指標を決定する電子処理装置、
を含む前記器械。
【請求項2】
前記照射光源がレーザーを含む、請求項1記載の器械。
【請求項3】
前記検出装置が赤外光検出器を含む、請求項1または2記載の器械。
【請求項4】
前記器械が照射光を集束させるための光学素子を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の器械。
【請求項5】
前記器械が近位末端と遠位末端の間に延びる1本以上の光ファイバーを含むカテーテルを含み、前記遠位末端が動脈への挿入のためのものであり、前記の照射光源と検出装置が前記近位末端に接続されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の器械。
【請求項6】
前記器械がバンドパスフィルタを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の器械。
【請求項7】
前記第1赤外波長が、
(a)685nm、および
(b)785nm
のうちの少なくとも1つである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の器械。
【請求項8】
前記第2赤外波長が、
(a)700nm、および
(b)800nm
のうちの少なくとも1つである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の器械。
【請求項9】
前記第1レベル及び第2レベルが前記の少なくとも1つの部分によって放出される照射光の強度に基づく、請求項1〜8のいずれか一項に記載の器械。
【請求項10】
前記動脈の少なくとも一部が脆弱なアテローム斑であると疑われる動脈の一部である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の器械。
【請求項11】
表示が、
(a)前記蛍光指標を表す数値、
(b)前記蛍光指標を表す符号値、
(c)前記蛍光指標を表す図解インジケーター、および
(d)少なくとも1つの閾値のインジケーター
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の器械。
【請求項12】
前記電子処理装置が、
(a)病態に関係して検出されるマーカーを、前記マーカーを検出する薬剤を前記動脈の前記の少なくとも一部に導入することにより測定し、且つ、
(b)前記の少なくとも1つの検出されたマーカーを少なくとも部分的に使用して前記蛍光指標を決定する、
請求項1〜11のいずれか一項に記載の器械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛍光分光光度法を用いるアテローム斑の検出に使用するための方法と器械に関し、一例では、アテローム斑の脆弱性の検出および/または定量に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書におけるあらゆる先行刊行物(またはそれから得られた情報)、または公知のあらゆる事項への参照が、本明細書が関連する試みの分野における共通一般知識の一部をその先行刊行物(またはそれから得られた情報)または公知の事項が形作るということへの同意、承認、またはあらゆる形態の示唆として受け取られることはなく、且つ、そのように受け取られるべきではない。
【0003】
アテローム性硬化症は現在のところ、死亡率と罹患率の世界中での主要な原因である。アテローム斑は身体の様々な部位の様々な動脈に影響を及ぼすことが可能であり、多数の臨床症状を引き起こす可能性がある。これらの病変は、何年もの間に全く症状を示さないことがあり得、労作性狭心症のような安定した症状を示すことがあり得、または、心筋梗塞や脳卒中のような重篤な合併症を突然に引き起こすことがあり得る。
【0004】
泡沫細胞(脂質で満たされたマクロファージ)から構成される脂肪線条はアテローム性硬化症の最初期の病変である。これらの脂肪線条は害が無く、充分に回復可能である。これらのうち、より進行したステージのアテローム性硬化症に進むものはわずかである。より進行したプラークは回復不能となり、様々な割合の細胞(平滑筋細胞、マクロファージ、およびT細胞を含む)、細胞外マトリックス(コラーゲン、エラスチン、およびプロテオグリカンを含む)および脂質(細胞内および細胞外)を含有する。様々な種類の形態のプラークがそれらの組成に応じて現れる。脂質に富むコアを含まず、線維性組織と石灰化物から成る線維性プラークもあれば、薄い線維性被膜により覆われた脂質に富むコアを有する線維性プラークに成るものもある。
【0005】
アテローム性硬化症は炎症性疾患と広く考えられている。炎症細胞はプラーク進行の発症ばかりでなく、プラークの不安定化にも重要な役割を果たす(炎症性サイトカインとタンパク質分解酵素が線維性被膜の破壊を引き起こし、プラークの破裂と合併症を引き起こす)。
【0006】
アテローム斑の発生は非常に多様である。何年もの間に休止状態であるプラークもあれば、複雑になってプラークの破裂またはプラークのびらんを引き起こすものもある。複雑プラークは血栓症と動脈の閉塞の原因であり、最悪になり得る結果を引き起こす。プラークの破裂は冠動脈血栓症の最も一般的な原因である。
【0007】
急速に進行しがちであり、且つ、血栓症になりやすく、または破裂しやすいプラークは一般に易破裂性プラークとして知られており、「高リスク/脆弱プラーク」と呼ばれる。薄い被膜を持つ線維性プラーク(TCFA)は脆弱プラークの証明であり、少数の古典的な形態的特徴、すなわち、65μm未満の薄い線維性被膜、大きな壊死性コア、プラーク炎症の増加、血管径の拡大、血管栄養血管の血管新生の増加、およびプラーク内出血の増加を有すると説明される。
【0008】
しかしながら、心臓血管医療の分野の広範な進歩にもかかわらず、合併症を起こしやすいプラーク(高リスク/脆弱プラーク)が破裂する前にそれらを早期検出する能力は分かりにくいままである。
【0009】
幾つかの侵襲的プラーク撮影技術がTCFAを検出するために開発されているところである。これらの方法は現状では理想からかけ離れており、脆弱プラークの特徴の全てではなく、幾つかを検出することができただけである。例えば、IVUS(血管内超音波)は血管径の拡大を検出することができるが、その解像度は100〜250μmであり、線維性被膜の厚み、またはプラーク炎症を検出することは不可能である。IVUS−VH(仮想組織診断)はIVUS後方散乱高周波信号を用いてプラークの組成、特に壊死性コアを検出する。一方、光干渉断層法(OCT)は高解像度(10〜15μm)を有し、薄い線維性被膜、マクロファージおよび壊死性コアの検出に提案されているが、血管径の拡大には適していない。
【0010】
他の新興の方法には血管内MRI(壊死性コアを検出するため)、血管内視鏡法(プラークの表面の外観を視覚化するため)、サーモグラフィー(プラークの代謝活性を検出するため)および分光光度法が含まれる。
【0011】
様々な種類の分光画像撮影法がアテローム斑の特徴解析と検出のために使用されてきた。様々な生体外のヒトアテローム斑においてラマン分光光度法とフーリエ変換赤外(FT−IR)分光光度法によりアテローム性硬化の化学組成を分析することに成功している。
【0012】
赤外反射分光光度法は、様々なプラーク成分をインビボとインビトロの両方でそれらの特徴的な吸収/反射特性に基づいて識別することができることが示されている。InfraReDx社(バーリントン、マサチューセッツ州、米国)は、後にIVUSと組み合わせられるこの技術(LipiScan IVUSシステム)を用いて冠動脈内プローブを開発した。SPECTACL(冠動脈脂質の分光的評価)治験は、生存している患者において血管内NIRS(近赤外線分光法)システムによる脂質コア含有プラークの検出の安全性と実行可能性を示した初めてのヒト多施設治験であった。
【0013】
UV(紫外)蛍光分光光度法は別の種類のアテローム斑の分光的評価として用いられる。コラーゲン、エラスチン、幾つかの細胞外脂質およびセロイド/リポフスチンなどのプラークの成分のうちの幾つかは、紫外光および紫と青の範囲の可視光(325〜475nm)により励起されると内部蛍光を有することが示されている。しかしながら、UV蛍光は、光子吸収および実質組織の自家蛍光を含む多数の欠点に悩まされており、この方式でのプラークの検出を不確かなものとする。
【0014】
国際公開第2005/052558号はラマンスペクトルとバックグラウンド蛍光スペクトルの特徴を用いて癌組織を分類するための方法と器械について記載している。それらのスペクトルは近赤外波長で取得され得る。基準スペクトルの主要成分分析と線形判別分析を用いて、試験組織に対するラマンスペクトルとバックグラウンド蛍光スペクトルの特徴を受け入れ、且つ、試験組織が異常である可能性についての指標を示す古典的な関数を得ることができる。それらの方法と器械は皮膚癌または他の疾患のスクリーニングに適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2005/052558号
【発明の概要】
【0016】
第1の広範な形態では、本発明は、不安定なアテローム斑の検出に使用するための器械であって、
(a)第1赤外波長の照射光を発生させ、それにより前記第1赤外波長の照射光に動脈の少なくとも一部を曝露させるための照射光源であって、前記第1赤外波長が、
(i)650nm±50nm、
(ii)700nm±50nm、
(iii)750nm±50nm、および
(iv)800nm±50nm、
のうちの少なくとも1つである照射光源と、
(b)前記第1赤外波長の照射光に前記動脈の少なくとも一部が曝露したことにより自家蛍光が生じた結果、第2赤外波長で前記動脈の少なくとも一部から放出される照射光を感知するための検出装置であって、前記第2赤外波長は前記第1赤外波長とは異なるものであり、前記第2赤外波長の照射光は前記動脈の少なくとも一部の自家蛍光が原因で生じ、前記第2赤外波長が、
(i)700nm±50nm、
(ii)750nm±50nm、
(iii)800nm±50nm、および
(iv)850nm±50nm、
のうちの少なくとも1つである検出装置と、
(c)(i)前記第1赤外波長の照射光への前記動脈の第1部分の曝露に応答した、前記第2赤外波長で前記検出装置によって感知される自家蛍光の第1レベルを測定し、ここで前記第1部分が不安定なアテローム斑を有するおそれがあるものであり、
(ii)前記第1赤外波長の照射光への前記動脈の第2部分の曝露に応答した、前記第2赤外波長で前記検出装置によって感知される自家蛍光の第2レベルを測定し、ここで前記第2部分が健常部分であり、且つ、
(iii)(1)自家蛍光の前記第1レベルを自家蛍光の前記第2レベルと比較し、自家蛍光の前記第1レベルが自家蛍光の前記第2レベルよりも少なくとも2の係数だけ大きいかを判定し、且つ、
(2)前記比較の結果を用いて蛍光指標を決定することにより、
不安定なアテローム斑の存在、不在、または程度を表す蛍光指標を決定する電子処理装置、を含む前記器械を提供することに努める。
【0018】
典型的には、照射光源はレーザーを含む。
【0019】
典型的には、検出装置は赤外光検出器を含む。
【0020】
典型的には、本器械は照射光を集束させるための光学素子を含む。
【0021】
典型的には、本器械は近位末端と遠位末端の間に延びる1本以上の光ファイバーを含むカテーテルを含み、その遠位末端は動脈への挿入のためのものであり、前記の照射光源と検出装置がその近位末端に接続されている。
【0022】
典型的には、本器械はバンドパスフィルタを含む。
【0024】
典型的には、第1赤外波長は、
(a)685nm、および
(b)785nm
のうちの少なくとも1つである。
【0025】
典型的には、第2波長は第1波長と異なる。
【0027】
典型的には、第2赤外波長は、
(a)700nm、および
(b)800nm
のうちの少なくとも1つである。
【0031】
典型的には、前記第1部分は不安定プラークを有するおそれがある領域である危険な状態の部分であり、前記第2部分は健常部分である。
【0034】
典型的には、前記第1レベル及び第2レベルは、前記の少なくとも1つの部分によって放出される照射光の強度に基づく。

【0035】
典型的には、本器械は、動脈の少なくとも一部が脆弱なアテローム斑であると疑われる動脈の一部である
【0036】
典型的には、表示は、
(a)蛍光指標を表す数値、
(b)蛍光指標を表す符号値、
(c)蛍光指標を表す図解インジケーター、および
(d)少なくとも1つの閾値のインジケーター
のうちの少なくとも1つを含む。
【0037】
典型的には、前記電子処理装置は、
(a)病態に関係して検出されるマーカーを、そのマーカーを検出する薬剤を前記動脈の少なくとも一部に導入することにより測定し、且つ、
(b)その検出されたマーカーを少なくとも部分的に使用して蛍光指標を決定する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
次に、添付されている図面を参照して本発明の例を説明する。
図1A】アテローム斑の検出に使用するための器械の第1例の模式図を示す図である。
図1B】アテローム斑の検出に使用するための器械の第2例の模式図を示す図である。
図2】アテローム斑の検出に使用するための処理の一例の流れ図を示す図である。
図3】アテローム斑の検出に使用するための処理の第2例の流れ図を示す図である。
図4A】組織学検査により明らかにされたマウスモデルの試料の画像を示す図である。
【0046】
図4B図4Aの試料のNIR(近赤外)蛍光の陽画と陰画を示す図である。
図5A】新たに摘出された頚動脈内膜摘除標本の一例の画像を示す図である。
図5B図5Aの標本のNIR蛍光の陽画と陰画を示す図である。
図5C】凍結切片作製した摘出された頚動脈内膜摘除標本のNIR蛍光の陽画と陰画を示す図である。
図5D】パラフィン包埋した摘出された頚動脈内膜摘除術の安定標本と脆弱標本のNIR蛍光の陽画と陰画を示す図である。
図6A】785nmの照射光で励起したときの脆弱プラーク領域の自家蛍光の画像例を示す図である(ラマンスペクトロメーター)。
【0047】
図6B】炎症細胞の浸潤といくらかのプラーク内出血(右)を示すH&E染色による脆弱プラークの画像例を示す図である。
図7A】精製されたヘム化合物、メトヘム化合物およびプロトポルフィリンIX化合物のラマンシグナルと比較した、脆弱プラーク区域内の蛍光領域からのラマンシグナルの一例のトレースを示す図である。
図7B】精製されたヘム化合物、メトヘム化合物およびプロトポルフィリンIX化合物のラマンシグナルと比較した、自家蛍光を有しない安定プラーク区域からのラマンシグナルの一例のトレースを示す図である。
図7C】プラーク中のプラーク内出血のトリクローム染色の一例の画像を示す図である。
図7D図7Cのプラーク内出血の自家蛍光の一例の画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
次に、図1Aおよび1Bを参照してアテローム斑の検出に使用するための器械の例を説明する。
【0049】
この例では、器械100は、第1赤外波長の照射光への動脈の少なくとも一部の曝露に応答した、第2赤外波長で検出装置によって感知される蛍光のレベルを測定し、且つ、その蛍光レベルを用いてアテローム斑の存在、不在、または程度を表す蛍光指標を決定する電子処理装置、例えばプロセッサ111を含む処理システム110を含む。
【0050】
したがって、上記の器械は検出装置によって測定される赤外蛍光のレベルを分析することが可能であり、アテローム斑の存在、不在、または程度を検出するためにこれを用いることが可能である。1つの特定の例では、検出されたアテローム斑の脆弱性の程度を確認するために医師が使用することができる指標を提供するためにこれを用いることができ、それ故に医師が適切な治療計画を特定することが可能になる。
【0051】
蛍光の感知は通常は第1波長の赤外照射光への疑わしいアテローム斑の曝露に応答して実施され、蛍光の検出は第2の異なる赤外波長で実施される。これは、組織を曝露させるために使用される照射光が蛍光と区別されるように、とりわけ、曝露照射光が偽の結果の原因となることを防ぐために実施される。しかしながら、曝露照射光と蛍光を他の方法で、例えば、時間分解技法を用いて区別することができる。特に、組織の曝露とその後の蛍光の発生との間には通常は数ナノ秒程度でわずかな時間差が存在する。よって、照射光源が照射光の放出を停止した後にだけ照射光を検出するように、例えば、ゲート付き検出装置を使用して検出装置を適合させることができ、その結果、検出された照射光が蛍光から生じた照射光のみを含むことが確実になる。
【0052】
曝露と感知が実施される方式は分析が実施される状況に依存し、例えば、これがインビボ、エクスビボ、またはインビトロで実施されるかどうかに依存する。
【0053】
一例では、インビボでの使用、例えば冠動脈での使用のために器械100は遠位末端と近位末端121、122の間に延びる2本の光ファイバー123、124を含むカテーテル120をさらに含み得る。照射光源131、例えばレーザーまたはレーザーダイオードは近位末端122に接続されており、とりわけ、光ファイバー123に光学的に接続されている。検出装置132、例えば光検出器、光電子増倍管、赤外線カメラなどが近位末端122に接続されており、とりわけ、光ファイバー124に光学的に接続されている。カテーテル120は遠位末端121に設置される光学素子を含んでもよく、それにより照射光が必要に応じて光ファイバー123、124から放出される、または光ファイバー123、124によって受信されることが可能になる。
【0054】
カテーテル120は、そのカテーテルの挿入を制御するためのマニピュレーターのような他の構成要素、およびカテーテルの配置を確認するための、または位置表示器を決定するための内視鏡、OCTセンサなどの1つ以上の画像撮影システムを含んでもよいことが理解され、このことを下でさらに詳しく説明する。
【0055】
カテーテル120は、そのカテーテルの対象への挿入を先導するためのガイドワイヤ、そのカテーテルの挿入深度を示すための近位および遠位マーカー、親水性被覆材のような挿入と操作を支援するための被覆材、任意によるコントラスト剤の注入、介入の実施などのための内腔、挿入を支援するためのテーパー形状のカテーテル先端部のうちのいずれか1つ以上をさらに含むことができてもよい。いずれにしても、追加のカテーテル構成要素は当技術分野において公知であることが理解され、これらをさらに詳しく説明することはない。
【0056】
この例では、検出器131と検出装置132のそれぞれが光ファイバー123と124に接続されており、それにより照射光が各伝達経路を介してカテーテル120に沿って各方向に伝達されることが可能になる。しかしながら、これは必須ではなく、当業者が理解するように、代わりに照射光源131と検出装置132が1本の光ファイバーを介して照射光を伝達および受信することができる。
【0057】
使用時に、遠位末端121は対象の動脈に挿入されるように適合させられる。照射光源131が第1赤外波長の照射光を発生し、それによりこの照射光が光ファイバー123を介して伝達されることが可能になり、その結果、動脈の少なくとも一部をその照射光に曝露させる。次に動脈が放出する蛍光照射光が光ファイバー124を介して検出装置132に伝達され、それにより動脈の少なくとも一部の第2赤外波長の蛍光が感知されることが可能になる。
【0058】
1つの特定の例では、カテーテル120は、遠位末端121に設置されるカテーテル先端部、カテーテル本体、およびコントローラーシステムを含むことができる。特に、そのカテーテル先端部は、1種類以上の第1赤外波長の照射光を動脈の少なくとも一部に最適な焦点深度で曝露し、且つ、1種類以上の第2赤外波長の蛍光のレベルを充分な感度で感知するように構成されており、その蛍光レベルを用いてアテローム斑の存在、不在、または程度を表す、例えば、破裂のリスクが高い、または破裂しやすいといったプラークの脆弱性を表す蛍光指標が決定される。
【0059】
カテーテル本体は下に記載するようにコントローラーシステムの制御下で制御された回転および長手方向の移動を行うことができ、本器械の回転素子と静止素子の間に光学的接続および/または電気的接続を提供することができる。加えて、そのコントローラーシステムは、カテーテル本体の制御された回転および長手方向の移動を行うために、実質的に上で記載された電子処理装置、電源装置、光源および光検出、および回転と可能性としては後退のための任意によるモータードライブを含み得る。
【0060】
これに関し、上記のもののような適切なカテーテル先端部、カテーテル本体、およびコントローラーシステム機能を含むカテーテルが冠動脈画像撮影法などの分野に存在する。しかしながら、この特定のカテーテルの構成は必須ではなく、記載されるように蛍光のレベルを測定するためのあらゆる適切な器械を使用することができる。
【0061】
当業者は、照射光に動脈の一部を曝露させるためであれば他の技術を用いることもできることも理解し、この点で、照射という用語は動脈の一部を照射すること、または照射光への曝露の他の適切な技法を含むと理解されるだろう。例えば、図1Bに示されるように、照射光源131と検出装置132をハウジング133内に設置することができ、それは使用時に対象の皮膚面141に配置される。この例では、照射光源131から放出される照射光は、矢印144によって示されるように皮膚とその下層の組織142を通り越し、動脈143に到達し、それにより、矢印145によって示されるように、蛍光照射光が検出装置132に戻ってくることが可能になる。この構成では、ハウジング133か照射光源131および検出装置132のどちらかの一部として適切な光学素子を提供することもでき、それにより照射光の集束が必要に応じて可能になる。
【0062】
よって、この構成が、対象の組織を通って照射光を伝達させることにより動脈の一部の曝露の実施を可能にすることが理解される。これにより、対象の侵襲を必要とすることなく、頚動脈などの対象の皮膚の近くの動脈に対してアテローム斑の検出を実施することが可能になる。
【0063】
上記の事例のいずれの場合においても処理システム110は通常は動脈において検出された蛍光レベルを表す検出装置132からのシグナルを受信するように作動し、下でさらに詳しく説明するように、蛍光指標の決定のためにこのシグナルを用いる。任意により処理システム110は、照射光源131を制御し、それによって照射光に動脈を選択的に曝露させるために使用されることもあり得る。
【0064】
一例では、その処理システムはプロセッサ111、メモリ112、キーボードおよびディスプレイなどの入力/出力(I/O)装置113、およびバス115を介して接続されている外部インターフェース114を含む。外部インターフェース114は処理システム110を照射光源131または検出装置132に、ならびに通信ネットワーク、データベース、他の記憶装置などの他の末端装置に接続させるために使用され得る。単一の外部インターフェースが示されているが、これは例示のみを目的とするものであり、実際には様々な方法(例えば、イーサーネットネットワーク、シリアルネットワーク、USBネットワーク、ワイヤレスネットワーク、モバイルネットワークなど)を用いる複数のインターフェースが提供され得る。特定の実装に応じて更なるハードウェア要素をコンピューターシステム110に組み込むことができることも理解される。
【0065】
使用時にプロセッサ111は入力コマンドおよび/またはメモリ112に保存されているアプリケーションソフトウェアの形態の命令に従って作動し、下でさらに詳しく説明するように、例えば、アテローム斑の脆弱性を検出または定量するために検出装置132からのシグナルを解釈し、任意により使用することを可能にする。よって、次の記載の目的のために処理システム110によって実施される作業は通常はメモリ112に保存されている命令の制御下でプロセッサ111により実施されることが理解される。それ故、このことを下でさらに詳しく説明することはない。
【0066】
コンピューターシステム110はあらゆる適切にプログラムされた処理システム、例えば適切にプログラムされたPC、インターネット端末、ラップトップ、ハンドヘルドPC、タブレットPC、スレートPC、iPad(商標)、モバイルフォン、スマートフォン、PDA(パーソナル・データ・アシスタント)、または他の処理装置から形成され得ることがさらに理解される。よって、プロセッサ111は、マイクロプロセッサ、マイクロチッププロセッサ、論理ゲート構成、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ)のような実装論理と任意により関連付けられたファームウェア、または検出装置132および任意により照射光源131と相互作用することが可能な他のあらゆる電子装置、システムもしくは構成などのあらゆる形態の電子処理装置であり得る。
【0067】
単一の物理的処理システムが示されているが、複数の処理システムを使用することもできることも理解され、例えば、幾つかの予備的な処理がカスタム構成されたハードウェア、例えばFPGAにおいて実施され、汎用コンピューターシステムを使用して蛍光指標の作成と提示が実施される。
【0068】
次に、図2を参照してアテローム斑の検出に使用するための器械100の操作を説明する。
【0069】
この例では、ステップ200において照射光源131が発生する第1赤外波長の照射光に動脈の一部が曝露され、カテーテル120を介してその動脈にその照射光が伝達される。ステップ210において検出装置132は、第1赤外波長と異なる第2赤外波長で動脈のその一部から放出される蛍光照射光を感知するように作動し、例えば、その第2赤外波長はその第1赤外波長よりも長いことがあり得る。
【0070】
ステップ220において処理システム110は検出装置132から取得したシグナルを使用して蛍光のレベルを測定し、次にそれを使用してステップ230において蛍光指標を決定する。あらゆる適切な技法を用いて蛍光指標を決定することができ、したがって、蛍光指標は蛍光の絶対強度、相対強度、または正規化強度に基づき得る。あるいは、下でさらに詳しく説明するように、検出された蛍光を閾値、例えば1つ以上の基準値との比較に少なくとも部分的に基づいて蛍光指標を決定することができる。
【0071】
ステップ240において蛍光指標の表示を任意により提示することができ、それにより医師が、例えば、アテローム斑の存在、不在、程度、または脆弱性の診断にこの蛍光指標を使用することが可能になる。
【0072】
蛍光指標の性質と、とりわけ、それが操作者に提示される方式は好ましい実行形態に応じて様々である。一例では、蛍光指標は数値の形態であり、蛍光の絶対レベルを表す。しかしながら、代わりに、その数値を表す、例えば文字または他の記号を含む符号値、または図解インジケーターが提示され得る。加えて、閾値、および任意によりその閾値との比較の結果の表示も提示することができ、それによりアテローム斑の存在、不在、または脆弱性の程度の診断を補助するために医師がこの蛍光指標を使用することが可能になる。
【0073】
上記の方法と器械構成はインビボでの使用について記載されているが、代わりにその器械と方法を対象から摘出された試料に対してインビトロで実施することもできることが理解される。この例では、カテーテルが必要とされず、処理システム110、照射光源131、および検出装置132が赤外線画像撮影システムの一部を形成することができ、下でさらに詳しく説明するように、切片試料から蛍光情報を取得するためのその赤外線画像撮影システムを使用することができる。
【0074】
いずれにしても、アテローム斑が赤外照射光に曝露される場合、それらはプラークの状態、とりわけ、プラークの安定性または脆弱性に応じて自家蛍光を発し得ることが発見されている。これに関し、プラークが安定である場合、自家蛍光のレベルは最小である。しかしながら、プラークが一般に「脆弱」と呼ばれる不安定である場合、自家蛍光の程度は顕著に増加する。結果として、蛍光指標を決定することによって、これがアテローム斑の存在、不在、または程度を表すことができ、例えば、破裂のリスクが高い、または破裂しやすいといったプラークの脆弱性を表すことができる。
【0075】
よって、赤外照射光による曝露に応答した、動脈の少なくとも一部の蛍光に基づいて蛍光指標を得ることを可能にするために上記の方法と器械を用いることができる。動脈のその一部は通常は病変を含む部分であり、その一部をその場で(インサイチュで)分析することができ、または対象から摘出し、離れて分析することができる。蛍光のレベルを用いて蛍光指標を得ることができ、その蛍光指標が次にアテローム斑の存在、不在または安定性の程度を表すことができる。
【0076】
よって、医師がアテローム斑を特定し、後に分類することを可能にし、次に医師がどんな治療でも必要とされ得るとしたらどうなるか評価することを可能にする簡単な方法がこれにより提供される。さらに、この処理はプラークの自家蛍光に依存し、プラーク中の幾つかの特定の分子(例えば、プロテアーゼ)を標的とするフルオロクロームなどの外部マーカーの導入の必要を回避する。
【0077】
次に、その他の多数の特徴を説明する。
【0078】
一例では、第1波長は通常は650nmと900nmの間である。1つの特定の例では、第1波長は685nmまたは785nmのどちらかであるが、他の波長を用いてよいことが理解される。同様に、第2波長は通常は650nm〜1144nmの範囲にあり、特に通常は700nmまたは800nmのどちらかであり、または800nm〜820nmの範囲にある。波長は、下でさらに詳しく説明するように、プラーク応答性蛍光を最大化するように選択される。
【0079】
いくつかの実施形態では、第1波長は、650nm〜850nm、700nm〜850nm、750nm〜850nm、800nm〜850nm、650nm〜800nm、700nm〜800nm、750nm〜800nm、650nm〜700nm、650nm〜750nm、650nm〜800nm、または700nm〜750nmから選択される範囲にある。
【0080】
いくつかの実施形態では、第2波長は、700nm〜1150nm、750nm〜1150nm、800nm〜1150nm、850nm〜1150nm、900nm〜1150nm、950nm〜1150nm、1000nm〜1150nm、1050nm〜1150nm、1100nm〜1150nm、700nm〜1100nm、750nm〜1100nm、800nm〜1100nm、850nm〜1100nm、900nm〜1100nm、950nm〜1100nm、1000nm〜1100nm、1050nm〜1100nm、700nm〜1050nm、750nm〜1050nm、800nm〜1050nm、850nm〜1050nm、900nm〜1050nm、950nm〜1050nm、1000nm〜1050nm、700nm〜1000nm、750nm〜1000nm、800nm〜1000nm、850nm〜1000nm、900nm〜1000nm、950nm〜1000nm、700nm〜950nm、750nm〜950nm、800nm〜950nm、850nm〜950nm、900nm〜950nm、700nm〜900nm、750nm〜900nm、800nm〜900nm、850nm〜900nm、700nm〜850nm、750nm〜850nm、800nm〜850nm、700nm〜800nm、750nm〜800nmまたは700nm〜750nmから選択される範囲にある。
【0081】
「間」という用語は、数値の範囲への言及において使用されるとき、その範囲の各終止点にある数値を包含することが理解される。例えば、650nmと900nmの間の波長は650nmの波長と900nmの波長を含む。
【0082】
ある範囲の値が提供される場合、その範囲の上限値と下限値の間にある各中間値であって、特に文脈から明確に指示されない限り、下限値の単位の10分の1までの中間値、およびその指示された範囲の他のいずれかの指示された値、または他のいずれかの中間値が本発明の範囲内に包含されることが理解される。これらのより狭い範囲の上限値と下限値はより狭い範囲に独立して含まれてよく、これらも本発明の範囲内に包含され、指示された範囲内のいずれかの具体的に除外された限度値の対象となる。指示された範囲がそれらの限度値の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限度値のうちの片方または両方を除外する範囲も本発明に含まれる。
【0083】
本明細書に記載される各実施形態は、特に具体的に指示されない限り、各実施形態および全実施形態に必要な変更を加えて適用されるものとする。
【0084】
上で述べたように、カテーテルは、動脈内での照射光の適切な集光およびその動脈からの検出を可能にするために光学素子を含み得る。加えて、本器械は、照射光源から放出される照射光または検出装置によって受信される照射光をフィルタリングし、それによって好ましくないバックグラウンドシグナルを制限するためのバンドパスフィルタを含み得る。
【0085】
蛍光指標を決定するため、処理システム110は、例えば、蛍光レベルを閾値と比較し、その蛍光レベルがその閾値を越えるのか、それともそれを下回るのか判定することにより、この蛍光レベルの部分的評価を実施し得る。アテローム斑の状態、とりわけ、アテローム斑の脆弱性の程度を示すためにこれを用いることができる。
【0086】
加えて、下でさらに詳しく説明するように、処理システム110は健常部位で検出された蛍光レベルを疑わしいアテローム斑が存在する部位で検出された蛍光レベルと比較するように作動することができ、その比較が次に、アテローム斑が存在するかどうか、および任意により脆弱性の程度を確認するために用いられ得る。
【0087】
次に、図3を参照してアテローム斑の検出に使用するための処理の第2例を説明する。この処理の間に処理システム110が照射光源131の制御と検出装置132からのシグナルの分析のためのアプリケーションソフトウェアを実行していることが考えられる。
【0088】
この例では、ステップ300においてカテーテルが対象の動脈に導入され、カテーテル120の遠位末端121が測定される動脈の部分に隣接して配置される。典型的には、この部分は脆弱プラークを有するおそれがあると考えられる動脈の部分である。
【0089】
ステップ305において動脈の第1部分が第1波長の照射光に曝露される。典型的には、これは、操作者に入力コマンドを処理システム110に入力させ、カテーテルが求められたように配置されていることを確認し、処理システム110に照射光源131を作動させることによって達成される。ステップ310において処理システム110は、動脈の第1部分における蛍光のレベル、とりわけ、蛍光の強度を表す検出装置132からのシグナルを取得する。
【0090】
ステップ315において処理システム110は、動脈の第2部分における蛍光が測定されるべきか判定する。これは選択された測定プロトコルに応じて、または操作者からの入力コマンドに従って達成され得る。これは通常は、動脈内の様々な位置での読み取り値の間で比較が実施されることを可能にするために、例えば、ある蛍光レベルが脆弱プラークを表すか立証することを支援するために、または健常組織における蛍光のバックグラウンドレベルを考慮するために実施される。
【0091】
これに関し、動脈の第2部分における蛍光は動脈のあらゆる適切な部分、または代わりに他の血管、または健常組織、安定プラークおよび/もしくは不安定プラークに類似する蛍光特性を含む模擬(phantom)血管において測定され得る。一例では、実質的に健常な組織または安定プラークを含む動脈の第2部分または他の血管の位置は画像などの位置表示器に基づいて決定され得る。この点で、その方法は位置表示器を決定すること、および少なくとも部分的にその位置表示器を用いて動脈の第2部分における蛍光を決定することを含む。この点で、その画像は、血管造影法、X線、ビデオ画像撮影、OCT、コンピューター断層影像法(CT)、磁気共鳴画像撮影法(MRI)、近赤外分光法(NIR)、ラマン分光光度法、UV蛍光などのようなあらゆる適切な種類の内部画像撮影法または外部画像撮影法に従って取得され得る。
【0092】
さらなる例では、動脈の第2部分は、例えば、試料集団、科学的推理などに基づいて脆弱プラークを示す低い、またはより低い可能性を通常は含む動脈または他の血管内の位置に対応し得る。例えば、心臓病を有する集団では、通常は腕の動脈の少なくとも幾つかにおいて生じる不安定プラークはほとんどない。
【0093】
加えて、蛍光レベルを表す複数の測定値に基づいて蛍光の第2レベルを決定してよく、その場合、それらの測定値は上記の例のうちのいずれか1つにおいて考察されたように取得される。この点で、それらの複数の測定値が動脈または別の血管の複数の部分に対応する場合があり得、したがって、蛍光の第2レベルはそれらの複数の測定値を表す平均値、中央値、最頻値、または他の適切な指標に基づき得る。一例では、それらの複数の測定値は大腿部の動脈の複数の部分において決定される。しかしながら、これは必須ではなく、それらの複数の測定値はあらゆる適切な血管の様々な部分において、または代わりに動脈もしくは他の血管の同じ部分で異なる時間において決定され得る。
【0094】
あるいは、その蛍光の強度は閾値と、例えば、健常組織または安定プラークの蛍光の強度を表し得る閾値と比較され得る。これについては下でさらに詳しく考察する。
【0095】
これらのステップ、例えば位置表示器の決定、複数の測定値の平均値の決定などは蛍光の第2レベルの測定に限定されない場合があり得、この点で、蛍光の第1レベルの測定など、上記の例のいずれにおいても適用され得ることが理解される。例えば、試験される動脈の第1部分の位置は位置表示器を用いて決定され得る。
【0096】
ステップ320において、他の部分が検査されない場合、蛍光の強度を閾値と比較することができる。その閾値は、組織学検査により特定された脆弱アテローム斑と安定アテローム斑の基準試料の測定値、試料集団の以前のインビボ測定値、動脈の第1部分の以前の測定値、同一または類似の対象の他の血管の以前の測定値、または他のあらゆる適切な技法に基づいて確立され得る。
【0097】
これにより、アテローム斑が脆弱であるかを表す閾値が確立し得る。脆弱性の程度を確証させるためであれば複数の閾値を確立することもできると理解される。あるいは、蛍光の強度は他のあらゆる適切なアプローチを用いて分析され得る。
【0098】
ステップ325において例えばI/O装置113を使用して蛍光指標の表示が提示される。その蛍光指標は蛍光の強度および/または閾値に対する比較の結果の数値または図解による表示であり得る。その閾値の表示を提示してもよく、それによりその結果を見た医師が、脆弱アテローム斑が存在するかどうか簡単に評価することが可能になる。前記検出装置が画像を取り込むことができるとすれば、蛍光画像の視覚的表示を提示してもよい。
【0099】
動脈の第2部分が検査される予定である事象では、処理システム110はステップ330においてカテーテルを操作している医師にカテーテルを再配置させる命令を発することができる。一旦、これが完了したら、ステップ335において医師は適切な入力コマンドを入力することにより処理システム110が照射光源131を作動させ、動脈の第2部分を照射光に曝露させることが可能になることを確認することができる。ステップ340において処理システム110は、動脈の第2部分における蛍光の第2レベル、とりわけ、蛍光の強度を表す検出装置132からのシグナルを取得する。
【0100】
ステップ345において前記処理システムは蛍光の第1レベルと第2レベルの差異を、例えば一方の値を他方の値から減算すること、蛍光の第1レベルと第2レベルの間の比率を決定することなどにより決定する。これにより、バックグラウンド蛍光を表す動脈の健常部分の蛍光の影響を考慮することが可能になる。これに関し、健常部分という用語は全くプラークを有しない動脈の部分および/または安定プラークや非脆弱プラークを含む動脈の部分を含むものとする。ステップ350において強度の差異を閾値と比較することができ、その閾値はまた、下でさらに詳しく説明するように、基準試料の測定値に基づいて確立され得る。
【0101】
ステップ325において実質的に上に記載されたように蛍光指標を提示することができ、それにより医師がその蛍光指標を解釈することが可能になり、とりわけ、医師があらゆるアテローム斑の脆弱性の程度を評価することが可能になり、それ故にあらゆる介入が必要であるか評価することが可能になる。
【0102】
上記の処理を様々に変化させたものを実施することができることが理解される。例えば、動脈の前記の部分または各部分を多数の異なる第1波長の照射光に曝露させることができ、対応する数の異なる第2波長で蛍光を測定する。あらゆるアテローム斑の性質をさらに分類することを支援するためにこれを用いることができる。さらに、プラークの脆弱性が正確に特定されることを可能にするために複数の異なる閾値を用いることができる。
【0103】
その方法は、例えば、病態と関係するマーカーを検出すること、およびその検出されたマーカーを、例えば、ガイドとして用いて動脈の少なくとも一部における蛍光指標を決定することをさらに含み得る。そのマーカーを検出する薬剤を動脈のその少なくとも一部に導入することによってそのマーカーを検出することが適切である。
【0104】
この点で、検出されたマーカーは、健常組織、1つ以上の安定プラーク、および/または1つ以上の不安定プラークのための位置指標、またはそれらの位置に対するガイドを提供し得る。加えて、または代わりに、検出されたマーカーを蛍光レベルと併用して、例えば、検出されたマーカーを表す数値に従って蛍光レベルに加重することにより、蛍光指標を決定することができる。
【0105】
一例では、病態は不安定プラークの存在またはリスクと関係し、これに関してマーカーは細胞、細胞破片、組織損傷、細胞成分、化学物質などのうちのいずれか1つ以上を含み得る。この点で、病態は活性化された血小板を含むことがあり得、マーカーは糖タンパク質IIb/IIIa受容体を含むことがあり得、薬剤は、例えば糖タンパク質IIb/IIIa受容体のLIBS(リガンド誘導結合部位)を標的とするための抗LIBS抗体または酸化鉄のマイクロパーティクル(MIPO)を含むことがあり得る。さらなる例では、病態は炎症を起こした内皮組織を含むことがあり得、この点で、薬剤は抗インターロイキン−1抗体を含むことがあり得、マーカーはインターロイキン−1を含むことがあり得る。しかしながら、これは必須ではなく、任意によりマーカーは安定プラークまたは健常組織と関係してもよく、または代わりに薬剤を使用しなくてもよい。
【0106】
加えて、検出されたマーカーの測定をあらゆる適切な方式で達成することができ、例えば、検出されたマーカーの特性に対応する種類の画像撮影法を用いて検出されたマーカーの画像を取得することができる。この点で、その種類の画像撮影法は蛍光、X線、コンピューター断層影像法(CT)、ガンマシンチグラフィー、陽電子放出断層撮影法(PET)、単光子放出コンピューター断層影像法(SPECT)、MRI、および複合撮影技術を含み得る。
【実施例】
【0107】
次に、脆弱プラークの上記の自家蛍光の有効性の実験的証拠を説明する。
【0108】
第1実験例の目的のためにヒトにおけるアテローム性硬化症の過程に極めて似ているマウスにおけるアテローム性硬化症の「タンデム狭窄モデル」を用いて動物データを得る。
【0109】
高脂質食を給餌したApoE−/−マウスの頚動脈にタンデム狭窄を作るために外科的結紮術(頚動脈区分の連続的結紮)を実施した。手術後から7週間および11週間の後に線維性被膜の破壊、プラーク内出血、腔内血栓症、血管新生、およびヒトにおける不安定な/破裂したプラークの他の特徴がこれらのマウスにおいて見られた。
【0110】
図4Aに示されるこれらのマウスに由来する新しい頚動脈標本を、685nm(700nmで検出)と785nm(800nmで検出)の2つの励起チャンネルを有するオデッセイ赤外線画像撮影システム(Odyssey Infrared Imaging System)の下で自家蛍光について検査した。脆弱プラークを組織学的検査により特定した。
【0111】
蛍光画像撮影の結果が図4Bに示されており、その図は大動脈弓と頚動脈401中の安定アテローム斑において最小の自家蛍光を示し、健常頚動脈402において自家蛍光を示さず、プラーク内出血を有する不安定頚動脈プラーク403において顕著な自家蛍光を示し、血管径の拡大を有する脆弱頚動脈プラーク404において顕著な自家蛍光を示す。このように、内部蛍光を示さなかった健常血管と安定プラーク401、402と対照的に、脆弱アテローム斑403、404は両方のチャンネルで顕著な自家蛍光を示す。
【0112】
第2実験例の目的のためにアルフレッド病院(メルボルン、オーストラリア)で頚動脈内膜摘除術を受けている患者からヒトデータを得る。本プロジェクトはアルフレッド倫理委員会により承認された。頚動脈内膜摘除標本は患者から摘出された直後に採取された。
【0113】
新たに摘出された頚動脈内膜摘除標本は、そのうちの一例が図5Aに示されており、スライドグラスに配置され、上記のようにオデッセイ赤外線画像撮影システムの下で自家蛍光について検査された。図5Bに示されているように、内部蛍光を示さなかった正常な血管内膜と安定プラーク領域と対照的に、脆弱アテローム斑501領域は両方のチャンネルで顕著な自家蛍光を示した。
【0114】
次に、新たな頚動脈内膜摘除標本を瞬間凍結し、−80℃に保った。その後、瞬間凍結された標本の部分を凍結切片の作製のための最適な切断温度の化合物に包埋した。5μmの組織切片を作製し、オデッセイ赤外線画像撮影システムの下で自家蛍光について検査した。図5Cに示されているように、安定で正常な領域512ではなく、脆弱プラーク領域511のみが、上記のように両方の励起と発光のチャンネルで顕著な自家蛍光を有することが分かった。
【0115】
瞬間凍結された標本の部分を10%ホルマリンで処理し、次にパラフィンに包埋した。5μmの組織切片を図5Dに示されているように自家蛍光について検査し、安定プラーク521の自家蛍光を脆弱プラーク522と比較した。
【0116】
第3実験例の目的のために、AFMラマン分光計を用いるアテローム斑の分析が図6Aおよび6Bに示される。この実験は2つのラマンレーザー源(532nmと785nmの励起光)を有するNT−MDTインテグラAFMラマンシステムを使用し、そこでそのシステムはこれらの脆弱プラークの自家蛍光を確認するために使用された。
【0117】
パラフィン包埋切片を785nmレーザー源で励起し、全検出範囲(800nmから1144nmまで)にわたって発光を調査した。最強シグナルの発光はAFMラマンシステムで800〜820nmの間に検出された。
【0118】
第4の実験例では、オデッセイ赤外線画像撮影システムを使用して健常組織と不安定プラークから検出された蛍光を定量した。この例では、使用された試料は新しい巨視的頚動脈内膜摘除組織であり、患者から取り出された直後にその組織をスキャンした。その画像撮影機を使用して、両方の700nmと800nm用の励起チャンネルと検出チャンネルを用い、21μmの解像度および「4」の強度設定で組織をスキャンした。撮影された画像を次にガンマ=1で正規化した。
【0119】
健常組織と不安定プラークについて測定された強度の例が下の表1に示されている。
【0120】
【表1】
【0121】
結果的に、20個のヒトプラークの上記試験は健常組織と不安定プラークの間で9.88±7.5(平均値±標準偏差)倍の強度の差異を示す。
【0122】
未知の状態のプラーク(未知プラーク)について測定された蛍光の強度を健常基準値と比較することにより未知プラークの安定性を評価することが可能になることがこのことより理解される。特に、未知プラークの蛍光の測定レベルが、プラークが無い動脈または安定プラークを有する動脈の蛍光レベルよりも一般には少なくとも2の閾値係数だけ、典型的には少なくとも3、少なくとも5、少なくとも10または少なくとも15の閾値係数だけ大きい場合、その未知プラークが不安定であるか判定し、もしそうなら安定性の程度を決定するためにこれを用いることができる。
【0123】
健常試料または不安定プラークの蛍光強度の増加係数の値を追加の試料データに基づいてさらに改良することができ、様々な程度の安定性を有する基準試料からデータを採取することにより様々な程度の安定性についての閾値が特定されることが可能になることが理解される。
【0124】
どのような理論または作用様式にも捉われるつもりはないが、不安定プラークにおける自家蛍光はヘム分解産物、例えば、ヘム、メトヘム、およびプロトポルフィリンIXを含む分子種によって少なくとも部分的に生じ得ることが実験後に発見された。このことを考慮すると、その実験的証拠はヘム分解産物と不安定プラークの自家蛍光の間の少なくとも部分的な相関を示唆する可能性があり、次にこのことを説明する。
【0125】
Innova Ar/Krイオンレーザー514/413nmラマンレーザー源を使用するRenishaw Invia共焦点マイクロラマンシステムを使用して脆弱プラーク区域における自家蛍光領域からのラマンシグナルを評価した。それらのラマンシグナルは、自家蛍光源が(顕微鏡レベルまたは肉眼レベルの)プラーク内出血領域に豊富にあるヘム分解産物であることを明らかにする。プラーク内出血はプラーク脆弱性のきっかけとしてよく立証されている (Jean-Baptise Michel et al. (2011) Eur Heart J. 32(16): 1977-85)。図7Aは、精製されたヘム714、メトヘム712からのラマンシグナルおよび同一試料のプロトポルフィリンIX化合物の2例のラマンシグナル713、715と比較した、脆弱プラーク区域内の蛍光領域711からのラマンシグナルの一例である。図7Bは、精製されたヘム724、メトヘム722からのラマンシグナルおよび同一試料のプロトポルフィリンIX化合物の2例のラマンシグナル723、725と比較した、自家蛍光が無い安定プラーク区域721からのラマンシグナルの一例である。図7Cは「プラークにおけるプラーク内出血」のトリクローム染色像の一例を示し、図7D図7Cの例の「プラークにおけるプラーク内出血」の自家蛍光像を示す。
【0126】
上記のことから、これらの分子種の最適な曝露波長および感知波長、すなわち、第1波長および第2波長をさらに特徴解析することは当業者にとっては日常的なことと考えられると理解される。
【0127】
よって、上記の方法はNIR範囲での脆弱アテローム斑の自家蛍光特性を用い、どんな外部フルオロクロームも使用することがない。NIR分光光度法は、冠動脈および頚動脈などの動脈における脆弱アテローム斑の検出を可能にする他の検出技法よりも優れた多数の利点を有する。
【0128】
本明細書とそれに続く特許請求の範囲を通して、特に文脈から必要とされない限り、「含む(comprise)」という用語および「含む(comprises)」または「含む(comprising)」などの変化形は、指示された完全体または完全体もしくは工程の群の包含を意味するが、他のあらゆる完全体または完全体の群の除外を意味しないと理解される。
【0129】
当業者は、多数の変更と改変が明らかになることを理解する。当業者に明らかになる全てのそのような変更と改変は、これまでに記載された広範に現れている本発明の趣旨と範囲に含まれると考えられるべきである。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D