(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398158
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】円筒型タンクのプレストレストコンクリート屋根
(51)【国際特許分類】
E04H 7/20 20060101AFI20180920BHJP
E04B 1/32 20060101ALI20180920BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20180920BHJP
E04H 7/18 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
E04H7/20
E04B1/32 102H
E04G21/12 104A
E04H7/18 302
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-187391(P2013-187391)
(22)【出願日】2013年9月10日
(65)【公開番号】特開2015-55047(P2015-55047A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】出口 朋子
(72)【発明者】
【氏名】栗山 和秀
【審査官】
小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−004111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 7/20
E04B 1/32
E04G 21/12
E04H 7/18
E04B 7/08
B65D 88/06
F17C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒型タンクのプレストレストコンクリート屋根において:
円盤状の屋根の外周側に、それぞれが径方向に沿って延び、周方向に並んで配される複数のPC鋼材を有し、
前記複数のPC鋼材が、前記屋根の平面視において外周側に開放するように折り返した折り返しPC鋼材の両腕部で構成され、
前記PC鋼材が、径方向長さの異なる短PC鋼材と長PC鋼材とを含み、
前記折り返しPC鋼材が、前記短PC鋼材を構成する短折り返しPC鋼材と前記長PC鋼材を構成する長折り返しPC鋼材とを含み、
前記短折り返しPC鋼材の前記短PC鋼材を含む側部と、周方向で隣り合う短折り返しPC鋼材の前記短PC鋼材を含む側部とに囲まれた領域が短重なり部とされ、
前記長折り返しPC鋼材の前記長PC鋼材を含む側部と、周方向で隣り合う長折り返しPC鋼材の前記短PC鋼材を含む側部とに囲まれた領域が長重なり部とされ、
前記短重なり部と前記長重なり部とが、周方向で交互に並び、
前記短重なり部両側の短PC鋼材と前記長重なり部両側の長PC鋼材とを含む全てのPC鋼材が、周方向で等間隔に並ぶ
ことを特徴とする円筒型タンクのプレストレストコンクリート屋根。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒型タンクのプレストレストコンクリート屋根に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、LNG(Liquefied Natural Gas)やLPG(Liquefied Petroleum Gas)貯蔵用の地上タンクや地下タンク等の大型筒状コンクリート構造物では、プレストレスを導入するPC(プレストレストコンクリート)工法が用いられている。このPC工法には、PC鋼材としてボンドPC鋼材を用いるものとアンボンドPC鋼材を用いるものとがある。ボンドPC鋼材を用いるPC工法は、コンクリート打設前にシースを配筋し、コンクリートの硬化後または硬化前にPC鋼棒、PC鋼線、PC鋼撚り線(PCストランド)等のボンドPC鋼材を挿入し、コンクリートが望ましい強度になった時にボンドPC鋼材を緊張し、その後、防錆処理及びボンドPC鋼材とコンクリートを接着、一体化するためにセメントミルク等をシース内に圧入するものである。一方、アンボンドPC鋼材は、PC鋼材にグリースを塗布し、その周囲をシースでカバーしたものである。
そして、円筒型タンクのプレストレストコンクリート屋根としては、例えば特許文献1,2に示されるように、円盤状の屋根の外周側にPC鋼材を径方向で配することで、屋根の外周側に生じる曲げモーメントに抗する強度を持たせる技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−251741号公報
【特許文献2】特開平7−4111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の技術において、屋根の外周側では、PC鋼材による径方向の圧縮力が作用するのに対し、屋根におけるPC鋼材よりも内周側では、径方向の圧縮力ではなく逆に径方向の乖離力が作用することがある。このような力の逆転により、屋根におけるPC鋼材の屋根内周側の端部周辺には応力集中が生じ易い。この応力集中を緩和するために、周方向で並ぶ複数のPC鋼材の長さを長短異ならせてこれらを交互に並べる対応が考えられる。
しかし、各PC鋼材の屋根内周側の端部の定着部には依然応力集中が大きく、これに抗するべく大型の定着具を用いたり定着部周辺に肉厚部や補強部を形成する等の対応を行うと、屋根の重量や製造コストを増加させるという問題がある。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、円筒型タンクのプレストレストコンクリート屋根において、重量及びコストの増加を抑えた上で、屋根外周側に配したPC鋼材の定着部の応力集中を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、円筒型タンクのプレストレストコンクリート屋根において、円盤状の屋根の外周側に径方向に沿って配されるとともに周方向に並んで配される複数のPC鋼材を有し、前記複数のPC鋼材が、前記屋根の平面視で外周側に開放するように折り返した折り返しPC鋼材の両腕部で構成されることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、折り返しPC鋼材の両腕部の内周側端部間に渡る折り返し部を、折り返しPC鋼材の両腕部からなるPC鋼材の内周側端部の定着部として利用し、折り返し部全体にPC鋼材の緊張荷重を分散できる。このため、PC鋼材の内周側端部の定着部における応力集中を抑え、大型の定着具を用いたり定着部周辺に肉厚部や補強部を形成する等の対応を不要とし、屋根の重量や製造コストの増加を抑えることができる。
【0008】
本発明は、前記PC鋼材が、径方向長さの異なる短PC鋼材と長PC鋼材とを含み、前記折り返しPC鋼材が、前記短PC鋼材を構成する短折り返しPC鋼材と前記長PC鋼材を構成する長折り返しPC鋼材とを含むものであってもよい。
この場合、短PC鋼材の内周側端部の定着部(短折り返しPC鋼材の折り返し部)の径方向位置、及び長PC鋼材の内周側端部の定着部(長折り返しPC鋼材の折り返し部)の径方向位置を相互にずらし、PC鋼材の内周側端部の定着部における応力集中をより抑えることができる。
【0009】
本発明は、前記短折り返しPC鋼材の前記短PC鋼材を含む側部が、周方向で隣り合う短折り返しPC鋼材と重なる短重なり部とされ、前記長折り返しPC鋼材の前記長PC鋼材を含む側部が、周方向で隣り合う長折り返しPC鋼材と重なる長重なり部とされ、前記短重なり部と前記長重なり部とが、周方向で交互に並び、前記短重なり部両側の短PC鋼材と前記長重なり部両側の長PC鋼材とを含む全てのPC鋼材が、周方向で等間隔に並ぶものであってもよい。
この場合、短折り返しPC鋼材同士及び長折り返しPC鋼材同士が周方向で重なることで、周方向でもれなくプレストレスを付与できる。また、短重なり部と長重なり部とが交互に並ぶとともに全PC鋼材が周方向で等間隔に並ぶことで、プレストレスを均等に付与できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、円筒型タンクのプレストレストコンクリート屋根において、重量及びコストの増加を抑えた上で、屋根外周側に配したPC鋼材の定着部の応力集中を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態における円筒型タンクの垂直断面図である。
【
図3】上記円筒型タンクのプレストレストコンクリート屋根におけるPC鋼材の配置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態では、LNG(液化天然ガス)を貯蔵するPC(プレストレストコンクリート)二重殻貯槽としての円筒型タンクを例に説明する。
図1を参照し、本実施形態の円筒型タンク(プレストレストコンクリート構造物)の構築について説明すると、まず、円板状の基礎(外槽の底部)1を敷設し、この基礎1の外周縁部にPC壁(外槽の側壁)2を組み上げるための基礎部3を凸設する。
【0013】
次に、基礎部3の内側に沿って、基礎1上に側ライナー(外槽側板)2aを最上段まで組み上げ、組み上げた側ライナー2aに沿って基礎部3上にコンクリートを打設、養生し、PC壁2を側ライナー2aの段数に合わせて最下段から最上段へと順々に全段組み上げる。
そして、内槽側壁4及び内槽屋根5並びに外槽屋根6を適宜組み立てることで、金属製の内槽とプレストレストコンクリート製の外槽とを有する二重殻貯槽の円筒型タンクを構築する。図中符号2bはPC壁2の上端部に形成されたリング状の梁部、符号7は内外槽間に充填される保冷材をそれぞれ示す。
【0014】
図2に示すように、上方に膨出する概略円盤状の外槽屋根(以下、単に屋根という。)6は、その厚みを外周側ほど厚くし、自重による曲げモーメントに対する抗力を高めている。屋根6には、その径方向及び周方向に沿う鉄筋が適宜配筋されている。
図3を併せて参照し、屋根6における内周側の領域を除く外周側には、径方向に沿うPC鋼材11が周方向に複数並んで配筋される。これにより、屋根6の外周側には径方向で圧縮方向のプレストレスが付与される。各PC鋼材11は、屋根6の外周側の傾斜に沿うように、その厚さ方向の中間部を水平方向に対して傾斜して貫通する。なお、各PC鋼材11は、屋根6の上面寄りに配筋する方が、屋根6の自重による曲げモーメントに抗する圧縮方向のプレストレスを効率よく付与できる。
【0015】
各PC鋼材11の屋根内周側の端部11aは、後述する折り返し部12aによって定着される。各PC鋼材11の屋根外周側の端部11bは、PC壁2の梁部2bの外周側に定着具11cを用いて固定される。
PC鋼材11は、例えばシース内にPC鋼線を挿通してなり、屋根内周側に定着されたPC鋼線の屋根外周側の端部11bをジャッキ等で引いて緊張し、所定のテンションがかかった状態で定着具11cを用いてPC鋼線を緊張状態に保持、固定する。その後、シース内をグラウティングしてPC鋼線を屋根6に固着することで、屋根6に圧縮方向のプレストレスを付与する。なお、緊張材はPC鋼線に限らず、PC鋼棒、PC鋼より線等でもよい。
【0016】
各PC鋼材11は、屋根6の平面視で外周側に開放するように折り返した折り返しPC鋼材12の両腕部で構成される。折り返しPC鋼材12は、平面視でコ字状に屈曲し、両腕部としての一対のPC鋼材11と、これらの屋根内周側の端部11a間に渡る折り返し部12aと、を一体形成する。折り返し部12aは、これに連なる一対のPC鋼材11の屋根内周側の端部11aを定着させる。前記一対のPC鋼材11の屋根外周側の端部11bは、梁部2bを貫通しその外周側で片引きされて定着される。
【0017】
PC鋼材11は、径方向長さの異なる短PC鋼材11Sと長PC鋼材11Lとに分けられる。また、折り返しPC鋼材12は、短PC鋼材11Sを構成する短折り返しPC鋼材12Sと長PC鋼材11Lを構成する長折り返しPC鋼材12Lとに分けられる。長折り返しPC鋼材12L(長PC鋼材11L)の径方向長さは、短折り返しPC鋼材12S(短PC鋼材11S)の径方向長さの約2倍とされる。
【0018】
複数の短折り返しPC鋼材12Sの内、周方向で隣接するもの同士は、短PC鋼材11Sを含む側部を互いに重ねるように配置される。以下、周方向で隣接する短折り返しPC鋼材12Sの重なり部を短重なり部15Sという。
複数の短折り返しPC鋼材12Sの折り返し部12a(以下、折り返し部12aSという。)は、屋根6の平面視で同一円周上に並ぶように配置される。これにより、複数の短PC鋼材11Sの屋根内周側の端部位置に、複数の折り返し部12aSが連なった第一サークルC1が形成される。
【0019】
複数の長折り返しPC鋼材12Lの内、周方向で隣接するもの同士は、長PC鋼材11Lを含む側部を互いに重ねるように配置される。以下、周方向で隣接する長折り返しPC鋼材12Lの重なり部を長重なり部15Lという。
複数の長折り返しPC鋼材12Lの折り返し部12a(以下、折り返し部12aLという。)は、屋根6の平面視で同一円周上に並ぶように配置される。これにより、複数の長PC鋼材11Lの屋根内周側の端部位置に、複数の折り返し部12aSが連なった第二サークルC2が形成される。
【0020】
図4を併せて参照し、短重なり部15Sと長重なり部15Lとは、周方向で交互に並ぶように配置される。短重なり部15Sの周方向の幅(
図3、
図4では角度)H1、及び長重なり部15Lの周方向の幅(
図3、
図4では角度)H2はそれぞれ均一であり、かつこれら各幅H1,H2は互いに同一である。また、各幅H1,H2は、周方向で隣接する長重なり部15Lと短重なり部15Sとの間の間隔(
図3、
図4では角度)H3とも同一である。これにより、第二サークルC2よりも外周側では、全てのPC鋼材11が周方向で等間隔に並ぶように配置される。詳細には、短重なり部15S両側の短PC鋼材11Sと、長重なり部15L両側の長PC鋼材11Lの外周側と、が周方向で等間隔に並ぶように配置される。
【0021】
短重なり部15Sの内周側には、平面視で一対の短折り返しPC鋼材12Sの屈曲部が交差する第一交点P1があり、長重なり部15Lの内周側には、平面視で一対の長折り返しPC鋼材12Lの屈曲部が交差する第二交点P2がある。短折り返しPC鋼線の内周側には、平面視で折り返し部12aSと一対の長PC鋼材11Lとが交差する一対の第三交点P3がある。各交点P1,P2,P3では、それぞれ屋根6の厚さ方向で位置をずらした2本のPC鋼材11が交差する。
一対の第三交点P3は、その両側方の第一交点P1とは周方向でずれており、第二交点P2は、第一交点P1及び第三交点P3とは径方向でずれている。すなわち、各交点P1,P2,P3では3本以上のPC鋼材11が交差することがなく、当該部位の屋根6の厚さに対する影響が抑えられる。
【0022】
以上説明したように、本実施形態によれば、円盤状の屋根6の外周側に径方向に沿って配されるとともに周方向に並んで配される複数のPC鋼材11を有し、これら複数のPC鋼材11が、屋根6の平面視で外周側に開放するように折り返した折り返しPC鋼材12の両腕部で構成されることで、折り返しPC鋼材12の両腕部の内周側端部間に渡る折り返し部12aを、折り返しPC鋼材12の両腕部からなるPC鋼材11の内周側端部の定着部として利用し、折り返し部12a全体にPC鋼材11の緊張荷重を分散できる。このため、PC鋼材11の内周側端部の定着部における応力集中を抑え、大型の定着具を用いたり定着部周辺に肉厚部や補強部を形成する等の対応を不要とし、屋根6の重量や製造コストの増加を抑えることができる。
【0023】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した手段及び各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
例えば、上記実施形態では、LNGタンクへの適用を例に説明したが、本発明はLNGタンク以外にもLPGタンク等の各種のプレストレストコンクリート構造物に適用可能である。
【符号の説明】
【0024】
6…外槽屋根(屋根)、11…PC鋼材、11S…短PC鋼材、11L…長PC鋼材、12…折り返しPC鋼材、12S…短折り返しPC鋼材、12L…長折り返しPC鋼材、15S…短重なり部、15L…長重なり部