特許第6398170号(P6398170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6398170リチウムイオン二次電池、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398170
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20180920BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20180920BHJP
   C08F 214/28 20060101ALN20180920BHJP
【FI】
   H01M10/0565
   H01M10/052
   !C08F214/28
【請求項の数】6
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-213446(P2013-213446)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2015-76350(P2015-76350A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2015年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 愛子
(72)【発明者】
【氏名】窪田 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】武志 一正
(72)【発明者】
【氏名】杉田 修平
【審査官】 細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−098055(JP,A)
【文献】 特開2008−098054(JP,A)
【文献】 特開平11−312536(JP,A)
【文献】 特表2004−505432(JP,A)
【文献】 特表2002−522872(JP,A)
【文献】 特開平09−259890(JP,A)
【文献】 特開2011−048990(JP,A)
【文献】 特開2002−008723(JP,A)
【文献】 特開2006−114254(JP,A)
【文献】 特開2013−041756(JP,A)
【文献】 特開2006−286496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解液および高分子化合物を含む電解質層とを備え、
前記高分子化合物は、ブロック共重合体を含み、
前記ブロック共重合体は、重合単位として、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレンと、マレイン酸モノメチル、トリフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンのうちの少なくとも1つとを含み、
前記フッ化ビニリデンの共重合量は、前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量よりも大きいと共に、前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量は、前記マレイン酸モノメチル、前記トリフルオロエチレンおよび前記クロロトリフルオロエチレンのそれぞれの含有量の合計よりも大きく、
前記フッ化ビニリデンの共重合量は、74.6重量%以上96.6重量%以下であり、
前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量は、3重量%以上25重量%以下であり、
前記ブロック共重合体の重量平均分子量は、10万以上300万以下である、
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
リチウムイオン二次電池と、
そのリチウムイオン二次電池の動作を制御する制御部と、
その制御部の指示に応じて前記リチウムイオン二次電池の動作を切り換えるスイッチ部と
を備え、
前記リチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解液および高分子化合物を含む電解質層とを備え、
前記高分子化合物は、ブロック共重合体を含み、
前記ブロック共重合体は、重合単位として、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレンと、マレイン酸モノメチル、トリフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンのうちの少なくとも1つとを含み、
前記フッ化ビニリデンの共重合量は、前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量よりも大きいと共に、前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量は、前記マレイン酸モノメチル、前記トリフルオロエチレンおよび前記クロロトリフルオロエチレンのそれぞれの含有量の合計よりも大きく、
前記フッ化ビニリデンの共重合量は、74.6重量%以上96.6重量%以下であり、
前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量は、3重量%以上25重量%以下であり、
前記ブロック共重合体の重量平均分子量は、10万以上300万以下である、
電池パック。
【請求項3】
リチウムイオン二次電池と、
そのリチウムイオン二次電池から供給された電力を駆動力に変換する変換部と、
その駆動力に応じて駆動する駆動部と、
前記リチウムイオン二次電池の動作を制御する制御部と
を備え、
前記リチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解液および高分子化合物を含む電解質層とを備え、
前記高分子化合物は、ブロック共重合体を含み、
前記ブロック共重合体は、重合単位として、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレンと、マレイン酸モノメチル、トリフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンのうちの少なくとも1つとを含み、
前記フッ化ビニリデンの共重合量は、前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量よりも大きいと共に、前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量は、前記マレイン酸モノメチル、前記トリフルオロエチレンおよび前記クロロトリフルオロエチレンのそれぞれの含有量の合計よりも大きく、
前記フッ化ビニリデンの共重合量は、74.6重量%以上96.6重量%以下であり、
前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量は、3重量%以上25重量%以下であり、
前記ブロック共重合体の重量平均分子量は、10万以上300万以下である、
電動車両。
【請求項4】
リチウムイオン二次電池と、
そのリチウムイオン二次電池から電力を供給される1または2以上の電気機器と、
前記リチウムイオン二次電池からの前記電気機器に対する電力供給を制御する制御部と
を備え、
前記リチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解液および高分子化合物を含む電解質層とを備え、
前記高分子化合物は、ブロック共重合体を含み、
前記ブロック共重合体は、重合単位として、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレンと、マレイン酸モノメチル、トリフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンのうちの少なくとも1つとを含み、
前記フッ化ビニリデンの共重合量は、前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量よりも大きいと共に、前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量は、前記マレイン酸モノメチル、前記トリフルオロエチレンおよび前記クロロトリフルオロエチレンのそれぞれの含有量の合計よりも大きく、
前記フッ化ビニリデンの共重合量は、74.6重量%以上96.6重量%以下であり、
前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量は、3重量%以上25重量%以下であり、
前記ブロック共重合体の重量平均分子量は、10万以上300万以下である、
電力貯蔵システム。
【請求項5】
リチウムイオン二次電池と、
そのリチウムイオン二次電池から電力を供給される可動部と
を備え、
前記リチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解液および高分子化合物を含む電解質層とを備え、
前記高分子化合物は、ブロック共重合体を含み、
前記ブロック共重合体は、重合単位として、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレンと、マレイン酸モノメチル、トリフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンのうちの少なくとも1つとを含み、
前記フッ化ビニリデンの共重合量は、前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量よりも大きいと共に、前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量は、前記マレイン酸モノメチル、前記トリフルオロエチレンおよび前記クロロトリフルオロエチレンのそれぞれの含有量の合計よりも大きく、
前記フッ化ビニリデンの共重合量は、74.6重量%以上96.6重量%以下であり、
前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量は、3重量%以上25重量%以下であり、
前記ブロック共重合体の重量平均分子量は、10万以上300万以下である、
電動工具。
【請求項6】
リチウムイオン二次電池を電力供給源として備え、
前記リチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解液および高分子化合物を含む電解質層とを備え、
前記高分子化合物は、ブロック共重合体を含み、
前記ブロック共重合体は、重合単位として、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレンと、マレイン酸モノメチル、トリフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンのうちの少なくとも1つとを含み、
前記フッ化ビニリデンの共重合量は、前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量よりも大きいと共に、前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量は、前記マレイン酸モノメチル、前記トリフルオロエチレンおよび前記クロロトリフルオロエチレンのそれぞれの含有量の合計よりも大きく、
前記フッ化ビニリデンの共重合量は、74.6重量%以上96.6重量%以下であり、
前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量は、3重量%以上25重量%以下であり、
前記ブロック共重合体の重量平均分子量は、10万以上300万以下である、
電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、電解液および高分子化合物を含む電解質層を備えたリチウムイオン二次電池、ならびにそのリチウムイオン二次電池を用いた電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機および携帯情報端末機器(PDA)などの多様な電子機器が広く普及しており、その電子機器の小型化、軽量化および長寿命化が要望されている。これに伴い、電源として、電池、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。
【0003】
二次電池は、最近では、電子機器に限らず、他の用途への適用も検討されている。他の用途の一例は、電子機器などに着脱可能に搭載される電池パック、電気自動車などの電動車両、家庭用電力サーバなどの電力貯蔵システム、電動ドリルなどの電動工具である。
【0004】
この二次電池は、正極および負極と共に電解液を備えており、その電解液は、一般的に、セパレータに含浸された状態で二次電池に搭載されている。この他、電解液は、高分子化合物により保持された状態で二次電池に搭載される場合もある。この場合の二次電池は、いわゆるゲル状の電解質である電解質層を備えており、その電解質層を備えた二次電池では、電解液の漏液が防止される。
【0005】
電解質層に含まれる高分子化合物の構成は、二次電池の電池特性に大きな影響を及ぼし得るため、その高分子化合物の構成に関しては、さまざまな検討がなされている。
【0006】
具体的には、リチウムイオンの移動度を改善するために、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとを重合単位として含むランダム共重合体などを用いている(例えば、特許文献1参照。)。放電負荷特性を損なわせることなくエネルギー密度を向上させるために、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとを重合単位として含むブロック共重合体などを用いている(例えば、特許文献2参照。)。内部短絡などの発生時において急激な発熱を防止するために、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとを重合単位として含むランダム共重合体などに、変性物質としてマレイン酸モノメチルなどを加えている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5296318号明細書
【特許文献2】特開2000−123873号公報
【特許文献3】特開2006−286496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電解質層中の高分子化合物が二次電池の電池特性に与える影響に関しては、さまざまな検討がなされているが、未だ十分な電池特性が得られているとは言えないため、改善の余地がある。
【0009】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた電池特性を得ることが可能なリチウムイオン二次電池、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本技術のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解液および高分子化合物を含む電解質層とを備えるものである。高分子化合物は、ブロック共重合体を含み、そのブロック共重合体は、重合単位として、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレンと、マレイン酸モノメチル、トリフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンのうちの少なくとも1つとを含む。フッ化ビニリデンの共重合量は、ヘキサフルオロプロピレンの共重合量よりも大きいと共に、そのヘキサフルオロプロピレンの共重合量は、マレイン酸モノメチル、トリフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンのそれぞれの含有量の合計よりも大きい。フッ化ビニリデンの共重合量は、74.6重量%以上96.6重量%以下であり、ヘキサフルオロプロピレンの共重合量は、3重量%以上25重量%以下である。ブロック共重合体の重量平均分子量は、10万以上300万以下である。
【0011】
また、本技術の電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具または電子機器は、リチウムイオン二次電池を備え、そのリチウムイオン二次電池が上記した本技術のリチウムイオン二次電池と同様の構成を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本技術のリチウムイオン二次電池によれば、電解質層中の高分子化合物は、ブロック共重合体を含んでおり、そのブロック共重合体は、重合単位として、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレンと、マレイン酸モノメチル、トリフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンのうちの少なくとも1つとを含んでいる。フッ化ビニリデンの共重合量はヘキサフルオロプロピレンの共重合量よりも大きいと共に、そのヘキサフルオロプロピレンの共重合量はマレイン酸モノメチル、トリフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンのそれぞれの含有量の合計よりも大きい。フッ化ビニリデンの共重合量は、74.6重量%以上96.6重量%以下であると共に、ヘキサフルオロプロピレンの共重合量は、3重量%以上25重量%以下である。ブロック共重合体の重量平均分子量は、10万以上300万以下である。よって、優れた電池特性を得ることができる。また、本技術の電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具または電子機器においても、同様の効果を得ることができる。
【0013】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本技術中に記載されたいずれの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本技術の一実施形態の二次電池(ラミネートフィルム型)の構成を表す斜視図である。
図2図1に示したII−II線に沿った巻回電極体の断面図である。
図3】二次電池の適用例(電池パック)の構成を表すブロック図である。
図4】二次電池の適用例(電動車両)の構成を表すブロック図である。
図5】二次電池の適用例(電力貯蔵システム)の構成を表すブロック図である。
図6】二次電池の適用例(電動工具)の構成を表すブロック図である。
図7】試験用の二次電池(コイン型)の構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本技術の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.二次電池
1−1.二次電池の構成
1−1−1.正極
1−1−2.負極
1−1−3.セパレータ
1−1−4.電解質層
1−2.二次電池の動作
1−3.二次電池の製造方法
1−4.二次電池の作用および効果
2.二次電池の用途
2−1.電池パック
2−2.電動車両
2−3.電力貯蔵システム
2−4.電動工具
【0016】
<1.二次電池>
まず、本技術の一実施形態の二次電池(以下、単に「二次電池」または「本技術の二次電池」という。)について説明する。
【0017】
<1−1.二次電池の構成>
図1は、二次電池の斜視構成を表しており、図2は、図1に示したII−II線に沿った巻回電極体10の断面構成を表している。
【0018】
ここで説明する二次電池は、電極反応物質の吸蔵放出により負極14の容量が得られる二次電池であり、いわゆるラミネートフィルム型の電池構造を有している。
【0019】
「電極反応物質」とは、電極反応に関わる物質であり、例えば、リチウム(Li)の吸蔵放出により電池容量が得られる二次電池(リチウムイオン二次電池)では、リチウムである。以下では、本技術の二次電池がリチウムイオン二次電池である場合を例に挙げて説明する。
【0020】
この二次電池では、例えば、フィルム状の外装部材20の内部に巻回電極体10が収納されている。巻回電極体10は、例えば、セパレータ15および電解質層16を介して正極13と負極14とが積層されてから巻回されたものである。正極13には、正極リード11が取り付けられていると共に、負極14には、負極リード12が取り付けられている。巻回電極体10の最外周部は、保護テープ17により保護されている。
【0021】
正極リード11および負極リード12は、例えば、外装部材20の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード11は、例えば、アルミニウム(Al)などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上により形成されている。負極リード12は、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)およびステンレスなどの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上により形成されている。これらの導電性材料は、例えば、薄板状または網目状である。
【0022】
外装部材20は、例えば、融着層と、金属層と、表面保護層とがこの順に積層されたラミネートフィルムである。この外装部材20は、例えば、融着層が巻回電極体10と対向するように2枚のラミネートフィルムが重ねられたのち、各融着層の外周縁部同士が融着されたものである。ただし、2枚のラミネートフィルムは、接着剤などを介して貼り合わされていてもよい。融着層は、例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのうちのいずれか1種類または2種類以上のフィルムである。金属層は、例えば、アルミニウム箔などである。表面保護層は、例えば、ナイロンおよびポリエチレンテレフタレートなどのうちのいずれか1種類または2種類以上のフィルムである。
【0023】
中でも、外装部材20は、ポリエチレンフィルムと、アルミニウム箔と、ナイロンフィルムとがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムであることが好ましい。ただし、外装部材20は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムでもよいし、金属フィルムでもよい。
【0024】
外装部材20と正極リード11および負極リード12との間には、例えば、外気の侵入を防止するために密着フィルム21が挿入されている。この密着フィルム21は、正極リード11および負極リード12に対して密着性を有する材料により形成されている。この密着性材料は、例えば、ポリオレフィン樹脂などであり、より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンおよび変性ポリプロピレンなどのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0025】
<1−1−1.正極>
正極13は、例えば、正極集電体13Aの両面に正極活物質層13Bを有している。ただし、正極13は、正極集電体13Aの片面だけに正極活物質層13Bを有していてもよい。
【0026】
正極集電体13Aは、例えば、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)またはステンレスなどの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上により形成されている。
【0027】
正極活物質層13Bは、正極活物質として、リチウムを吸蔵放出可能である正極材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、正極活物質層13Bは、さらに、正極結着剤および正極導電剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0028】
正極材料は、リチウム含有化合物であることが好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物は、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物およびリチウム遷移金属リン酸化合物などである。リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムと1または2以上の遷移金属元素とを構成元素として含む酸化物であり、リチウム遷移金属リン酸化合物は、リチウムと1または2以上の遷移金属元素とを構成元素として含むリン酸化合物である。遷移金属元素は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)および鉄(Fe)などのうちのいずれか1種類または2種類以上であることが好ましい。より高い電圧が得られるからである。リチウム遷移金属複合酸化物の化学式は、例えば、Lix M1O2 で表されると共に、リチウム遷移金属リン酸化合物の化学式は、例えば、Liy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2のそれぞれは、1種類以上の遷移金属元素である。xおよびyのそれぞれの値は、充放電状態に応じて異なるが、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10を満たす。
【0029】
リチウム遷移金属複合酸化物の具体例は、LiCoO2 、LiNiO2 、および下記の式(1)で表されるリチウムニッケル系複合酸化物などである。リチウム遷移金属リン酸化合物の具体例は、LiFePO4 およびLiFe1-u Mnu PO4 (u<1)などである。高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。
【0030】
LiNi1-z z 2 …(1)
(Mは、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、バナジウム(V)、スズ(Sn)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、イッテルビウム(Yb)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、バリウム(Ba)、ホウ素(B)、クロム(Cr)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、リン(P)、アンチモン(Sb)およびニオブ(Nb)のうちの少なくとも1種であり、zは、0.005<z<0.5を満たす。)
【0031】
この他、正極材料は、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物および導電性高分子などのうちのいずれか1種類または2種類以上でもよい。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムおよび二酸化マンガンなどである。二硫化物は、例えば、二硫化チタンおよび硫化モリブデンなどである。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブなどである。導電性高分子は、例えば、硫黄、ポリアニリンおよびポリチオフェンなどである。ただし、正極材料は、上記以外の材料でもよい。
【0032】
正極結着剤は、例えば、合成ゴムおよび高分子化合物などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムおよびエチレンプロピレンジエンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリル酸およびポリイミドなどである。
【0033】
正極導電剤は、例えば、炭素材料などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この炭素材料は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケチェンブラックなどである。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料および導電性高分子などでもよい。
【0034】
<1−1−2.負極>
負極14は、例えば、負極集電体14Aの両面に負極活物質層14Bを有している。ただし、負極14は、負極集電体14Aの片面だけに負極活物質層14Bを有していてもよい。
【0035】
負極集電体14Aは、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)およびステンレスなどの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上により形成されている。この負極集電体14Aの表面は、粗面化されていることが好ましい。いわゆるアンカー効果により、負極集電体14Aに対する負極活物質層14Bの密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層14Bと対向する領域において、負極集電体14Aの表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法は、例えば、電解処理を利用して微粒子を形成する方法などである。この電解処理とは、電解槽中において電解法を用いて負極集電体14Aの表面に微粒子を形成することで、その負極集電体14Aの表面に凹凸を設ける方法である。電解法により作製された銅箔は、一般的に、電解銅箔と呼ばれている。
【0036】
負極活物質層14Bは、負極活物質として、リチウムを吸蔵放出可能である負極材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、負極活物質層14Bは、さらに、負極結着剤および負極導電剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。負極結着剤および負極導電剤に関する詳細は、例えば、正極結着剤および正極導電剤と同様である。
【0037】
ただし、充電途中において意図せずにリチウム金属が負極14に析出することを防止するために、負極材料の充電可能な容量は、正極13の放電容量よりも大きいことが好ましい。すなわち、リチウムを吸蔵放出可能である負極材料の電気化学当量は、正極13の電気化学当量よりも大きいことが好ましい。
【0038】
負極材料は、例えば、炭素材料のうちのいずれか1種類または2種類以上である。リチウムの吸蔵放出時における結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度および優れたサイクル特性が得られるからである。また、炭素材料は負極導電剤としても機能するからである。この炭素材料は、例えば、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素および黒鉛などである。ただし、難黒鉛化性炭素における(002)面の面間隔は0.37nm以上であることが好ましいと共に、黒鉛における(002)面の面間隔は0.34nm以下であることが好ましい。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭およびカーボンブラック類などである。このコークス類は、ピッチコークス、ニードルコークスおよび石油コークスなどを含む。有機高分子化合物焼成体は、フェノール樹脂およびフラン樹脂などの高分子化合物が適当な温度で焼成(炭素化)されたものである。この他、炭素材料は、約1000℃以下の温度で熱処理された低結晶性炭素でもよいし、非晶質炭素でもよい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状および鱗片状のいずれでもよい。
【0039】
また、負極材料は、例えば、金属元素および半金属元素のうちのいずれか1種類または2種類を構成元素として含む材料(金属系材料)である。高いエネルギー密度が得られるからである。この金属系材料は、単体、合金および化合物のうちのいずれでもよいし、それらの2種類以上でもよいし、それらの1種類または2種類以上の相を少なくとも一部に有していてもよい。なお、合金には、2種類以上の金属元素からなる合金に加えて、1種類以上の金属元素と1種類以上の半金属元素とを含む合金も含まれる。また、合金は、非金属元素を含んでいてもよい。合金の組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、およびそれらの2種類以上の共存物などがある。
【0040】
上記した金属元素および半金属元素は、例えば、リチウムと合金を形成可能である金属元素および半金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上である。具体的には、例えば、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)および白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのいずれか一方または双方が好ましい。リチウムを吸蔵放出する能力が優れているため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0041】
ケイ素およびスズのいずれか一方または双方を構成元素として含む材料は、ケイ素の単体、ケイ素の合金、ケイ素の化合物、スズの単体、スズの合金およびスズの化合物のうちのいずれでもよいし、それらの2種類以上でもよい。この他、上記したケイ素の単体などのうちのいずれか1種類または2種類以上の相を少なくとも一部に有する材料でもよい。ただし、ここで説明する単体とは、あくまで一般的な意味合いでの単体(微量の不純物を含んでいてもよい)であり、必ずしも純度100%を意味しているわけではない。
【0042】
ケイ素の合金は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、炭素(C)および酸素(O)などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。なお、ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、ケイ素の合金に関して説明した元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0043】
ケイ素の合金およびケイ素の化合物の具体例は、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 4 、Si2 2 O、SiOv (0<v≦2)、およびLiSiOなどである。なお、SiOv におけるvは、0.2<v<1.4でもよい。
【0044】
スズの合金は、例えば、スズ以外の構成元素として、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。スズの化合物は、例えば、スズ以外の構成元素として、炭素および酸素などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。なお、スズの化合物は、例えば、スズ以外の構成元素として、スズの合金に関して説明した元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0045】
スズの合金およびスズの化合物の具体例は、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 、LiSnOおよびMg2 Snなどである。
【0046】
特に、スズを構成元素として含む材料は、例えば、第1構成元素(スズ)と共に第2および第3構成元素を構成元素として含む材料であることが好ましい。第2構成元素は、例えば、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、インジウム(In)、セシウム(Ce)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)およびケイ素(Si)などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。第3構成元素は、例えば、ホウ素(B)、炭素(C)、アルミニウム(Al)およびリン(P)などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。第2および第3構成元素を含むことで、高い電池容量および優れたサイクル特性などが得られるからである。
【0047】
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として含む材料(SnCoC含有材料)が好ましい。炭素の含有量は、例えば、9.9質量%〜29.7質量%である。スズおよびコバルトの含有量の割合(Co/(Sn+Co))は、例えば、20質量%〜70質量%である。高いエネルギー密度が得られるからである。
【0048】
SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性または非晶質であることが好ましい。この相は、リチウムと反応可能な反応相であるため、その反応相の存在により優れた特性が得られる。この反応相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅(回折角2θ)は、特定X線としてCuKα線を用いると共に挿引速度を1°/minとした場合において、1°以上であることが好ましい。リチウムがより円滑に吸蔵放出されると共に、電解液との反応性が低減するからである。なお、SnCoC含有材料は、低結晶性または非晶質の相に加えて、各構成元素の単体または一部が含まれている相を含んでいる場合もある。
【0049】
X線回折により得られた回折ピークがリチウムと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較すれば容易に判断できる。例えば、リチウムとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、リチウムと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性または非晶質の反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。このような反応相は、例えば、上記した各構成元素を含んでおり、主に、炭素の存在に起因して低結晶化または非晶質化しているものと考えられる。
【0050】
SnCoC含有材料では、構成元素である炭素のうちの少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合していることが好ましい。スズなどの凝集または結晶化が抑制されるからである。元素の結合状態に関しては、例えば、X線光電子分光法(XPS)を用いて確認可能である。市販の装置では、例えば、軟X線としてAl−Kα線またはMg−Kα線などが用いられる。炭素のうちの少なくとも一部が金属元素または半金属元素などと結合している場合には、炭素の1s軌道(C1s)の合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる。なお、金原子の4f軌道(Au4f)のピークは、84.0eVに得られるようにエネルギー較正されているものとする。この際、通常、物質表面に表面汚染炭素が存在しているため、その表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとして、そのピークをエネルギー基準とする。XPS測定において、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形で得られる。このため、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析することで、両者のピークを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0051】
このSnCoC含有材料は、構成元素がスズ(Sn)、コバルト(Co)および炭素(C)だけである材料(SnCoC)に限られない。このSnCoC含有材料は、例えば、スズ(Sn)、コバルト(Co)および炭素(C)に加えて、さらにケイ素(Si)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、リン(P)、ガリウム(Ga)およびビスマス(Bi)などのうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含んでいてもよい。
【0052】
SnCoC含有材料の他、スズ(Sn)、コバルト(Co)、鉄(Fe)および炭素(C)を構成元素として含む材料(SnCoFeC含有材料)も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意である。一例を挙げると、鉄の含有量を少なめに設定する場合は、炭素の含有量が9.9質量%〜29.7質量%、鉄の含有量が0.3質量%〜5.9質量%、スズおよびコバルトの含有量の割合(Co/(Sn+Co))が30質量%〜70質量%である。また、鉄の含有量を多めに設定する場合は、炭素の含有量が11.9質量%〜29.7質量%、スズ、コバルトおよび鉄の含有量の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))が26.4質量%〜48.5質量%、コバルトおよび鉄の含有量の割合(Co/(Co+Fe))が9.9質量%〜79.5質量%である。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。なお、SnCoFeC含有材料の物性(半値幅など)は、上記したSnCoC含有材料の物性と同様である。
【0053】
この他、負極材料は、例えば、金属酸化物および高分子化合物などのうちのいずれか1種類または2種類以上でもよい。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムおよび酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンおよびポリピロールなどである。
【0054】
負極活物質層14Bは、例えば、塗布法、気相法、液相法、溶射法および焼成法(焼結法)などのうちのいずれか1種類または2種類以上の方法により形成されている。塗布法とは、例えば、粒子(粉末)状の負極活物質を負極結着剤などと混合したのち、その混合物を有機溶剤などの溶媒に分散させてから負極集電体14Aに塗布する方法である。気相法は、例えば、物理堆積法および化学堆積法などである。より具体的には、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長、化学気相成長(CVD)法およびプラズマ化学気相成長法などである。液相法は、例えば、電解鍍金法および無電解鍍金法などである。溶射法とは、溶融状態または半溶融状態の負極活物質を負極集電体14Aに噴き付ける方法である。焼成法とは、例えば、塗布法を用いて、溶媒に分散された混合物を負極集電体14Aに塗布したのち、負極結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。この焼成法としては、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法およびホットプレス焼成法などを用いることができる。
【0055】
この二次電池では、上記したように、充電途中において負極14にリチウム金属が意図せずに析出することを防止するために、リチウムを吸蔵放出可能である負極材料の電気化学当量は、正極の電気化学当量よりも大きいことが好ましい。また、完全充電時の開回路電圧(すなわち電池電圧)が4.25V以上であると、4.20Vである場合と比較して、同じ正極活物質を用いても単位質量当たりのリチウムの放出量が多くなる。これに伴い、高いエネルギー密度を得るために、正極活物質の量と負極活物質の量とが調整されている。
【0056】
<1−1−3.セパレータ>
セパレータ15は、正極13と負極14とを隔離することで、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ15は、例えば、合成樹脂およびセラミックなどの多孔質膜のうちのいずれか1種類または2種類以上であり、2種類以上の多孔質膜が積層された積層膜でもよい。合成樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンおよびポリエチレンなどである。
【0057】
特に、セパレータ15は、例えば、上記した多孔質膜(基材層)の片面または両面に高分子化合物層を有していてもよい。正極13および負極14に対するセパレータ15の密着性が向上するため、巻回電極体10の歪みが抑制されるからである。これにより、電解液の分解反応が抑制されると共に、基材層に含浸された電解液の漏液も抑制されるため、充放電を繰り返しても抵抗が上昇しにくくなると共に、二次電池が膨れにくくなる。
【0058】
高分子化合物層は、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。物理的強度に優れていると共に、電気化学的に安定だからである。この高分子化合物層を形成する場合には、例えば、高分子化合物が分散または溶解された溶液を準備したのち、その溶液を基材層に塗布する。なお、溶液中に基材層を浸漬させてから乾燥させてもよい。
【0059】
<1−1−4.電解質層>
電解質層16は、液状の電解質である電解液と、高分子化合物とを含んでおり、その電解液は、高分子化合物により保持されている。すなわち、ここで説明する電解質層16は、いわゆるゲル状の電解質である。高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に、電解液の漏液が防止されるからである。なお、電解質層16は、さらに、添加剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0060】
高分子化合物は、三種系ブロック共重合体のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この「三種系ブロック共重合体」とは、3種類に分類される重合単位(モノマー)を用いて重合された重合体(ポリマー)であり、その重合体の主鎖中では、同種類のモノマーが連続している。
【0061】
上記した3種類の重合単位のうち、1種類目の重合単位は、フッ化ビニリデン(VDF:Vinylidene Fluoride )である。2種類目の重合単位は、ヘキサフルオロプロピレン(HFP:Hexafluoropropene )である。3種類目の重合単位は、マレイン酸モノメチル(MMM:Monomethyl Maleate)、トリフルオロエチレン(TFE:Trifluoroethylene )およびクロロトリフルオロエチレン(CTFE:Chlorotrifluoroethylene )のうちのいずれか1種類または2種類以上である。以下では、「MMM、TFEおよびCTFEのうちのいずれか1種類または2種類以上」を総称して「MMM等」ともいう。
【0062】
三種系ブロック共重合体に含まれる重合単位の組み合わせは、上記した3種類の重合単位を含んでいれば、特に限定されない。すなわち、重合単位の組み合わせは、VDF、HFPおよびMMMでもよいし、VDF、HFPおよびTFEでもよいし、VDF、HFPおよびCTFEでもよい。この他、VDF、HFP、MMMおよびTFEでもよいし、VDF、HFP、MMMおよびCTFEでもよいし、VDF、HFP、TFEおよびCTFEでもよいし、VDF、HFP、MMM、TFEおよびCTFEでもよい。
【0063】
高分子化合物が三種系ブロック共重合体を含んでいるのは、その三種系ブロック共重合体を含んでいない場合と比較して、高分子化合物の物性が向上するからである。詳細には、第1に、高分子化合物の柔軟性が向上するため、その高分子化合物の機械的強度が低下しにくくなる。第2に、電解液に対する高分子化合物の親和性が向上するため、その高分子化合物が電解液を保持しやすくなる。第3に、上記した柔軟性と親和性との相乗作用により、高分子化合物の機械的強度の低下が最小限に抑えられつつ、その高分子化合物が電解液を保持しやすくなる。よって、電解質層16がリチウムイオンの伝導媒体として安定に機能するため、充放電を繰り返しても高分子化合物の物性低下に起因する放電容量の低下が抑制される。
【0064】
なお、上記した「高分子化合物が三種系ブロック共重合体を含んでいない場合」とは、例えば、高分子化合物がランダム共重合体を含んでいる場合や、高分子化合物が他のブロック共重合体を含んでいる場合などである。前者のランダム共重合体は、例えば、重合単位としてVDFとHFPとMMM等とを含んでいる三種系ランダム共重合体などである。後者の他のブロック共重合体は、例えば、重合単位としてVDFおよびHFPだけを含んでおり、MMM等を含んでいない二種系ブロック共重合体などである。
【0065】
ここで、三種系ブロック共重合体の化学的構造のうち、第1重合単位(VDF)が連続している部分をX、第2重合単位(HFP)が連続している部分をY、第3重合単位(MMM等)が連続している部分をZとする。この場合において、X、YおよびZが連結される順番は、特に限定されない。すなわち、三種系ブロック共重合体の化学的構造は、−X−Y−Z−でもよいし、それ以外でもよい。X、YおよびZが連結される順番に依存せずに、上記した利点が得られるからである。
【0066】
三種系ブロック共重合体中における各重合単位の含有量(共重合量:重量%)は、特に限定されない。中でも、VDFの共重合量は、HFPの共重合量よりも大きいことが好ましい。高分子化合物がゲル化しやすいからである。また、HFPの共重合量は、MMM、TFEおよびCTFEのそれぞれの含有量の合計よりも大きいことが好ましい。高分子化合物が電解液を保持しやすいからである。
【0067】
各重合単位の共重合量を調べるためには、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC:Gel Permeation Chromatography )を用いて高分子化合物を分析すればよい。この場合には、例えば、標準試料としてポリスチレンを用いる。
【0068】
なお、三種系ブロック共重合体は、1または2以上の側鎖を有していてもよい。言い替えれば、上記した3種類の重合単位のうちのいずれか1種類または2種類以上に、1または2以上の置換基が導入されていてもよい。また、第3重合単位のうちのいずれか1種類または2種類以上に、1または2以上の置換基が導入されていてもよい。この置換基の種類は、例えば、三種系ブロック共重合体に付与したい機能などに応じて、適宜選択可能である。
【0069】
一例を挙げると、VDFは、置換基として、ハロゲン基、および以下で説明する水素脱離基のうちのいずれか1種類または2種類以上を有していることが好ましい。この「水素脱離基」とは、例えば、HFP、MMM、TFE、CTFE、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、スチレン、ブタジエン、ヘキサフルオロアセトン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルのそれぞれから1つの水素基が脱離した基のうちのいずれか1種類または2種類以上である。高分子化合物中に結晶性部分と非晶質部分とが共存することになるため、高分子化合物が電解液を保持しやすくなると共に、その高分子化合物の機械的強度も向上するからである。
【0070】
また、TFEおよびCTFEのうちの一方または双方は、置換基として、ハロゲン基および上記した水素脱離基のうちのいずれか1種類または2種類以上を有していることが好ましい。VDFが置換基を有する場合と同様の理由による。このハロゲン基は、例えば、フッ素基(−F)、塩素基(−Cl)、臭素基(−Br)およびヨウ素基(−I)などである。
【0071】
三種系ブロック共重合体の分子量(重量平均分子量)は、特に限定されないが、例えば、10万〜300万程度であることが好ましい。溶解性などが確保されるからである。
【0072】
なお、高分子化合物は、上記した三種系ブロック共重合体を含んでいれば、さらに他の重合体のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。この他の重合体は、単独重合体でもよいし、共重合体(三種系ブロック共重合体に該当する重合体を除く。)でもよい。単独重合体は、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリフッ化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンおよびポリカーボネートなどである。共重合体は、例えば、VDFとHFPとを重合単位として含む共重合体などである。電気化学的に安定だからである。
【0073】
電解液は、溶媒および電解質塩を含んでいる。ただし、電解液は、さらに添加剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0074】
溶媒は、有機溶媒などの非水溶媒のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。非水溶媒を含む電解液は、いわゆる非水電解液である。
【0075】
非水溶媒は、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、ラクトン、鎖状カルボン酸エステルおよびニトリルなどである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。環状炭酸エステルは、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレンおよび炭酸ブチレンなどであり、鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルおよび炭酸メチルプロピルなどである。ラクトンは、例えば、γ−ブチロラクトンおよびγ−バレロラクトンなどである。カルボン酸エステルは、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチルおよびトリメチル酢酸エチルなどである。ニトリルは、例えば、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリルおよび3−メトキシプロピオニトリルなどである。
【0076】
この他、非水溶媒は、例えば、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチルおよびジメチルスルホキシドなどでもよい。同様の利点が得られるからである。
【0077】
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちのいずれか1種類または2種類以上が好ましい。より優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。この場合には、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルおよび炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0078】
特に、溶媒は、不飽和環状炭酸エステル、ハロゲン化炭酸エステル、スルトン(環状スルホン酸エステル)および酸無水物などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。電解液の化学的安定性が向上するからである。不飽和環状炭酸エステルとは、1または2以上の不飽和結合(炭素間二重結合または炭素間三重結合)を有する環状炭酸エステルであり、例えば、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレンおよび炭酸メチレンエチレンなどである。ハロゲン化炭酸エステルとは、1または2以上のハロゲンを構成元素として含む環状または鎖状の炭酸エステルである。環状のハロゲン化炭酸エステルは、例えば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンおよび4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。鎖状のハロゲン化炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)および炭酸ジフルオロメチルメチルなどである。スルトンは、例えば、プロパンスルトンおよびプロペンスルトンなどである。酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水エタンジスルホン酸および無水スルホ安息香酸などである。ただし、溶媒は、上記以外の材料でもよい。
【0079】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの塩のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、電解質塩は、例えば、リチウム塩以外の塩を含んでいてもよい。このリチウム以外の塩は、例えば、リチウム以外の軽金属の塩などである。
【0080】
リチウム塩は、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 5 4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)および臭化リチウム(LiBr)などである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0081】
中でも、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 およびLiAsF6 のうちのいずれか1種類または2種類以上が好ましく、LiPF6 がより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。ただし、電解質塩は、上記以外の塩でもよい。
【0082】
電解質塩の含有量は、特に限定されないが、中でも、溶媒に対して0.3mol/kg〜3.0mol/kgであることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0083】
<1−2.二次電池の動作>
この二次電池は、例えば、以下のように動作する。充電時には、正極13からリチウムイオンが放出されると、そのリチウムイオンが電解質層16を介して負極14に吸蔵される。一方、放電時には、負極14からリチウムイオンが放出されると、そのリチウムイオンが電解質層16を介して正極13に吸蔵される。
【0084】
<1−3.二次電池の製造方法>
電解質層16を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の手順により製造される。
【0085】
第1手順では、最初に、正極13および負極14を作製する。
【0086】
正極13を作製する場合には、最初に、正極活物質と、正極結着剤および正極導電剤などとを混合して、正極合剤とする。続いて、正極合剤を有機溶剤などに分散または溶解させて、ペースト状の正極合剤スラリーとする。最後に、正極合剤スラリーを正極集電体13Aの両面に塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させて、正極活物質層13Bを形成する。こののち、ロールプレス機などを用いて、正極活物質層13Bを圧縮成型してもよい。この場合には、正極活物質層13Bを加熱しながら圧縮成型処理を行ってもよいし、圧縮成型処理を複数回繰り返してもよい。
【0087】
負極14を作製する場合には、上記した正極13と同様の作製手順により、負極集電体14Aの両面に負極活物質層14Bを形成する。具体的には、負極活物質と負極結着剤および負極導電剤などとが混合された負極合剤を有機溶剤などに分散または溶解させて、ペースト状の負極合剤スラリーとする。続いて、負極合剤スラリーを負極集電体14Aの両面に塗布してから乾燥させて負極活物質層14Bを形成したのち、必要に応じてロールプレス機などを用いて負極活物質層14Bを圧縮成型する。
【0088】
続いて、電解液と、三種系ブロック共重合体を含む高分子化合物と、有機溶剤などの溶媒とを混合したのち、その混合物を撹拌して、ゾル状の前駆溶液を調製する。この三種系ブロック共重合体は、公知の重合反応のうちのいずれか1種類または2種類以上を用いて形成可能である。公知の重合反応とは、例えば、ラジカル重合反応、アニオン重合反応およびイオン共重合反応などである。続いて、前駆溶液を正極13および負極14に塗布したのち、その前駆溶液を乾燥させて、ゲル状の電解質層16を形成する。続いて、溶接法などを用いて正極集電体13Aに正極リード11を取り付けると共に、溶接法などを用いて負極集電体14Aに負極リード12を取り付ける。続いて、セパレータ15および電解質層16を介して正極13と負極14とを積層してから巻回させて巻回電極体10を作製したのち、その巻回電極体10の最外周部に保護テープ17を貼り付ける。続いて、2枚のフィルム状の外装部材20の間に巻回電極体10を挟み込んだのち、熱融着法などを用いて外装部材20の外周縁部同士を接着させて、その外装部材20の内部に巻回電極体10を封入する。この場合には、正極リード11および負極リード12と外装部材20との間に密着フィルム21を挿入する。
【0089】
第2手順では、正極13に正極リード11を取り付けると共に、負極14に負極リード12を取り付ける。続いて、セパレータ15を介して正極13と負極14とを積層してから巻回させて、巻回電極体10の前駆体である巻回体を作製したのち、その最外周部に保護テープ17を貼り付ける。続いて、2枚のフィルム状の外装部材20の間に巻回体を配置したのち、熱融着法などを用いて一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を接着させて、袋状の外装部材20の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、さらに重合禁止剤などの他の材料とを混合して、電解質用組成物を調製する。続いて、袋状の外装部材20の内部に電解質用組成物を注入したのち、熱融着法などを用いて外装部材20を密封する。続いて、モノマーを熱重合させて、高分子化合物を形成する。これにより、高分子化合物に電解液が含浸され、その高分子化合物がゲル化するため、電解質層16が形成される。
【0090】
第3手順では、高分子化合物層が両面に塗布されたセパレータ15を用いることを除き、上記した第2手順と同様に、巻回体を作製して袋状の外装部材20の内部に収納する。このセパレータ15に塗布する高分子化合物は、例えば、VDFを成分とする重合体(単独重合体、共重合体および多元共重合体)などである。具体的には、単独重合体は、例えば、ポリフッ化ビニリデンである。共重合体は、例えば、VDFとHFPとを成分とする二元系の共重合体などである。多元共重合体は、例えば、VDFとHFPとCTFEとを成分とする三元系の共重合体などである。なお、VDFを成分とする重合体と一緒に、他の1種類または2種類以上の高分子化合物を用いてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材20の内部に注入したのち、熱融着法などを用いて外装部材20の開口部を密封する。続いて、外装部材20に加重をかけながら加熱して、高分子化合物層を介してセパレータ15を正極13および負極14に密着させる。これにより、高分子化合物層中の高分子化合物に電解液が含浸され、その高分子化合物がゲル化するため、電解質層16が形成される。
【0091】
この第3手順では、第1手順よりも二次電池の膨れが抑制される。また、第3手順では、第2手順よりも高分子化合物の原料であるモノマーまたは溶媒などが電解質層16中にほとんど残らないため、高分子化合物の形成工程が良好に制御される。このため、正極13、負極14およびセパレータ15と電解質層16とが十分に密着する。
【0092】
<1−4.二次電池の作用および効果>
この二次電池によれば、電解質層16中の高分子化合物が三種系ブロック共重合体を含んでいる。この場合には、上記したように、高分子化合物の柔軟性が向上すると共に、電解液に対する高分子化合物の親和性が向上するため、両者の相乗作用により、高分子化合物の機械的強度の低下が最小限に抑えられつつ、その高分子化合物が電解液を保持しやすくなる。よって、充放電を繰り返しても高分子化合物の物性低下に起因する放電容量の低下が抑制されるため、優れた電池特性を得ることができる。
【0093】
<2.二次電池の用途>
次に、上記した二次電池の適用例について説明する。
【0094】
二次電池の用途は、その二次電池を駆動用の電源または電力蓄積用の電力貯蔵源などとして利用可能な機械、機器、器具、装置およびシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。なお、電源として使用される二次電池は、主電源(優先的に使用される電源)でもよいし、補助電源(主電源に代えて、または主電源から切り換えて使用される電源)でもよい。二次電池を補助電源として使用する場合には、主電源の種類は二次電池に限られない。
【0095】
二次電池の用途は、例えば、以下の通りである。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビおよび携帯用情報端末などの電子機器(携帯用電子機器を含む)である。電気シェーバなどの携帯用生活器具である。バックアップ電源およびメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルおよび電動鋸などの電動工具である。着脱可能な電源としてノート型パソコンなどに用いられる電池パックである。ペースメーカおよび補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)などの電動車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。もちろん、上記以外の用途でもよい。
【0096】
中でも、二次電池は、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器などに適用されることが有効である。優れた電池特性が要求されるため、本技術の二次電池を用いることで、有効に性能向上を図ることができるからである。なお、電池パックは、二次電池を用いた電源であり、いわゆる組電池などである。電動車両は、二次電池を駆動用電源として作動(走行)する車両であり、上記したように、二次電池以外の駆動源を併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車など)でもよい。電力貯蔵システムは、二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に電力が蓄積されているため、その電力を利用して家庭用の電気製品などを使用可能になる。電動工具は、二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリルなど)が可動する工具である。電子機器は、二次電池を駆動用の電源(電力供給源)として各種機能を発揮する機器である。
【0097】
ここで、二次電池のいくつかの適用例について具体的に説明する。なお、以下で説明する各適用例の構成はあくまで一例であるため、適宜変更可能である。
【0098】
<2−1.電池パック>
図3は、電池パックのブロック構成を表している。この電池パックは、例えば、プラスチック材料などにより形成された筐体60の内部に、制御部61と、電源62と、スイッチ部63と、電流測定部64と、温度検出部65と、電圧検出部66と、スイッチ制御部67と、メモリ68と、温度検出素子69と、電流検出抵抗70と、正極端子71および負極端子72とを備えている。
【0099】
制御部61は、電池パック全体の動作(電源62の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、中央演算処理装置(CPU)などを含んでいる。電源62は、1または2以上の二次電池(図示せず)を含んでいる。この電源62は、例えば、2以上の二次電池を含む組電池であり、それらの二次電池の接続形式は、直列でもよいし、並列でもよいし、双方の混合型でもよい。一例を挙げると、電源62は、2並列3直列となるように接続された6つの二次電池を含んでいる。
【0100】
スイッチ部63は、制御部61の指示に応じて電源62の使用状態(電源62と外部機器との接続の可否)を切り換えるものである。このスイッチ部63は、例えば、充電制御スイッチ、放電制御スイッチ、充電用ダイオードおよび放電用ダイオード(いずれも図示せず)などを含んでいる。充電制御スイッチおよび放電制御スイッチは、例えば、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)などの半導体スイッチである。
【0101】
電流測定部64は、電流検出抵抗70を用いて電流を測定して、その測定結果を制御部61に出力するものである。温度検出部65は、温度検出素子69を用いて温度を測定して、その測定結果を制御部61に出力する。この温度測定結果は、例えば、異常発熱時において制御部61が充放電制御を行う場合や、制御部61が残容量の算出時において補正処理を行う場合などに用いられる。電圧検出部66は、電源62中における二次電池の電圧を測定して、その測定電圧をアナログ−デジタル変換して制御部61に供給するものである。
【0102】
スイッチ制御部67は、電流測定部64および電圧検出部66から入力される信号に応じて、スイッチ部63の動作を制御するものである。
【0103】
このスイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過充電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部63(充電制御スイッチ)を切断して、電源62の電流経路に充電電流が流れないように制御する。これにより、電源62では、放電用ダイオードを介して放電のみが可能になる。なお、スイッチ制御部67は、例えば、充電時に大電流が流れた場合に、充電電流を遮断する。
【0104】
また、スイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過放電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部63(放電制御スイッチ)を切断して、電源62の電流経路に放電電流が流れないようにする。これにより、電源62では、充電用ダイオードを介して充電のみが可能になる。なお、スイッチ制御部67は、例えば、放電時に大電流が流れた場合に、放電電流を遮断する。
【0105】
なお、二次電池では、例えば、過充電検出電圧は4.20V±0.05Vであり、過放電検出電圧は2.4V±0.1Vである。
【0106】
メモリ68は、例えば、不揮発性メモリであるEEPROMなどである。このメモリ68には、例えば、制御部61により演算された数値や、製造工程段階で測定された二次電池の情報(例えば、初期状態の内部抵抗など)などが記憶されている。なお、メモリ68に二次電池の満充電容量を記憶させておけば、制御部61が残容量などの情報を把握可能になる。
【0107】
温度検出素子69は、電源62の温度を測定すると共にその測定結果を制御部61に出力するものであり、例えば、サーミスタなどである。
【0108】
正極端子71および負極端子72は、電池パックを用いて稼働される外部機器(例えばノート型のパーソナルコンピュータなど)や、電池パックを充電するために用いられる外部機器(例えば充電器など)などに接続される端子である。電源62の充放電は、正極端子71および負極端子72を介して行われる。
【0109】
<2−2.電動車両>
図4は、電動車両の一例であるハイブリッド自動車のブロック構成を表している。この電動車両は、例えば、金属製の筐体73の内部に、制御部74と、エンジン75と、電源76と、駆動用のモータ77と、差動装置78と、発電機79と、トランスミッション80およびクラッチ81と、インバータ82,83と、各種センサ84とを備えている。この他、電動車両は、例えば、差動装置78およびトランスミッション80に接続された前輪用駆動軸85および前輪86と、後輪用駆動軸87および後輪88とを備えている。
【0110】
この電動車両は、例えば、エンジン75またはモータ77のいずれか一方を駆動源として走行可能である。エンジン75は、主要な動力源であり、例えば、ガソリンエンジンなどである。エンジン75を動力源とする場合、そのエンジン75の駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80およびクラッチ81を介して前輪86または後輪88に伝達される。なお、エンジン75の回転力は発電機79にも伝達され、その回転力を利用して発電機79が交流電力を発生させると共に、その交流電力はインバータ83を介して直流電力に変換され、電源76に蓄積される。一方、変換部であるモータ77を動力源とする場合、電源76から供給された電力(直流電力)がインバータ82を介して交流電力に変換され、その交流電力を利用してモータ77が駆動する。このモータ77により電力から変換された駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80およびクラッチ81を介して前輪86または後輪88に伝達される。
【0111】
なお、図示しない制動機構を介して電動車両が減速すると、その減速時の抵抗力がモータ77に回転力として伝達され、その回転力を利用してモータ77が交流電力を発生させるようにしてもよい。この交流電力はインバータ82を介して直流電力に変換され、その直流回生電力は電源76に蓄積されることが好ましい。
【0112】
制御部74は、電動車両全体の動作を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源76は、1または2以上の二次電池(図示せず)を含んでいる。この電源76は、外部電源と接続され、その外部電源から電力供給を受けることで電力を蓄積可能になっていてもよい。各種センサ84は、例えば、エンジン75の回転数を制御したり、図示しないスロットルバルブの開度(スロットル開度)を制御するために用いられる。この各種センサ84は、例えば、速度センサ、加速度センサおよびエンジン回転数センサなどを含んでいる。
【0113】
なお、電動車両がハイブリッド自動車である場合について説明したが、その電動車両は、エンジン75を用いずに電源76およびモータ77だけを用いて作動する車両(電気自動車)でもよい。
【0114】
<2−3.電力貯蔵システム>
図5は、電力貯蔵システムのブロック構成を表している。この電力貯蔵システムは、例えば、一般住宅および商業用ビルなどの家屋89の内部に、制御部90と、電源91と、スマートメータ92と、パワーハブ93とを備えている。
【0115】
ここでは、電源91は、例えば、家屋89の内部に設置された電気機器94に接続されていると共に、家屋89の外部に停車された電動車両96に接続可能である。また、電源91は、例えば、家屋89に設置された自家発電機95にパワーハブ93を介して接続されていると共に、スマートメータ92およびパワーハブ93を介して外部の集中型電力系統97に接続可能である。
【0116】
なお、電気機器94は、例えば、1または2以上の家電製品を含んでおり、その家電製品は、例えば、冷蔵庫、エアコン、テレビおよび給湯器などである。自家発電機95は、例えば、太陽光発電機および風力発電機などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。電動車両96は、例えば、電気自動車、電気バイクおよびハイブリッド自動車などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。集中型電力系統97は、例えば、火力発電所、原子力発電所、水力発電所および風力発電所などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0117】
制御部90は、電力貯蔵システム全体の動作(電源91の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源91は、1または2以上の二次電池(図示せず)を含んでいる。スマートメータ92は、例えば、電力需要側の家屋89に設置されるネットワーク対応型の電力計であり、電力供給側と通信可能である。これに伴い、スマートメータ92は、例えば、外部と通信しながら、家屋89における需要・供給のバランスを制御することで、効率的で安定したエネルギー供給を可能とする。
【0118】
この電力貯蔵システムでは、例えば、外部電源である集中型電力系統97からスマートメータ92およびパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積されると共に、独立電源である自家発電機95からパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積される。この電源91に蓄積された電力は、制御部90の指示に応じて電気機器94および電動車両96に供給されるため、その電気機器94が稼働可能になると共に、電動車両96が充電可能になる。すなわち、電力貯蔵システムは、電源91を用いて、家屋89内における電力の蓄積および供給を可能にするシステムである。
【0119】
電源91に蓄積された電力は、任意に利用可能である。このため、例えば、電気使用料が安い深夜に集中型電力系統97から電源91に電力を蓄積しておき、その電源91に蓄積しておいた電力を電気使用料が高い日中に用いることができる。
【0120】
なお、上記した電力貯蔵システムは、1戸(1世帯)ごとに設置されていてもよいし、複数戸(複数世帯)ごとに設置されていてもよい。
【0121】
<2−4.電動工具>
図6は、電動工具のブロック構成を表している。この電動工具は、例えば、電動ドリルであり、プラスチック材料などにより形成された工具本体98の内部に、制御部99と、電源100とを備えている。この工具本体98には、例えば、可動部であるドリル部101が稼働(回転)可能に取り付けられている。
【0122】
制御部99は、電動工具全体の動作(電源100の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源100は、1または2以上の二次電池(図示せず)を含んでいる。この制御部99は、図示しない動作スイッチの操作に応じて、電源100からドリル部101に電力を供給する。
【実施例】
【0123】
本技術の具体的な実施例について、詳細に説明する。
【0124】
(実験例1〜14)
試験用の二次電池として、図7に示したコイン型のリチウムイオン二次電池を作製した。この二次電池は、試験極111と対極113とがセパレータ115を介して積層されると共に、試験極111を収容する外装缶112と対極113を収容する外装カップ114とがガスケット116を介してかしめられたものである。
【0125】
試験極111を作製する場合には、最初に、正極活物質(LiCoO2 )98質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)1.2質量部と、正極導電剤(黒鉛)0.8質量部とを混合して、正極合剤とした。続いて、正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン)に分散させて、ペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体(12μm厚の帯状アルミニウム箔)の片面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させて、正極活物質層を形成した。この場合には、正極活物質層の面積密度を26.5mg/cm2 とした。最後に、ロール型プレス機を用いて、正極活物質層を圧縮成型した。この場合には、正極活物質層の体積密度を3.8g/cm3 とした。
【0126】
対極113を作製する場合には、負極活物質(人造黒鉛)92.5質量部と、負極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)4.5質量部と、負極導電剤(気相成長炭素繊維)3質量部とを混合して、負極合剤とした。続いて、負極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン)に分散させて、ペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体(10μm厚の帯状銅箔)の片面に負極合剤スラリーを塗布したのち、その負極合剤スラリーを乾燥させて、負極活物質層を形成した。この場合には、負極活物質層の面積密度を13.6mg/cm2 とした。最後に、ロール型プレス機を用いて、負極活物質層を圧縮成型した。この場合には、負極活物質層の体積密度を1.6g/cm3 とした。
【0127】
電解質層を形成する場合には、最初に、溶媒(炭酸エチレン、炭酸プロピレンおよび炭酸ジメチル)に電解質塩(LiPF6 )を溶解させて、電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を重量比で炭酸エチレン:炭酸プロピレン:炭酸ジメチル=25:25:50、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。続いて、電解液95質量部と、高分子化合物5質量部とを混合して、混合溶液を調製した。この高分子化合物の組成(重合単位の種類および各重合単位の共重合量:重量%)および分類(ブロック共重合体またはランダム共重合体)は、表1に示した通りである。続いて、ホモジナイザを用いて混合溶液を処理して、電解液に高分子化合物を均一に分散させたのち、その混合溶液を加熱(75℃)しながら撹拌して、ゾル状の前駆溶液を得た。この場合には、混合溶液の色が無色に変化するまで撹拌を続けた。最後に、試験極111(正極活物質層)および対極113(負極活物質層)のそれぞれの表面に前駆溶液を塗布したのち、その前駆溶液が塗布された試験極111および対極113を乾燥(90℃×2分間)させて、電解質層を形成した。この場合には、前駆溶液の塗布速度を20m/分とした。
【0128】
二次電池を組み立てる場合には、最初に、電解質層が形成された試験極111をペレット状に打ち抜いたのち、その試験極111を外装缶112に収容した。続いて、電解質層が形成された対極113をペレット状に打ち抜いたのち、その対極113を外装カップ114に収容した。最後に、セパレータ115(7μm厚の多孔質ポリオレフィンフィルム)を介して、外装缶112に収容された試験極111と外装カップ114に収容された対極113とを積層させたのち、ガスケット116を介して外装缶112および外装カップ114をかしめた。この場合には、試験極111に形成された電解質層と対極113に形成された電解質層とがセパレータ115を介して対向するようにした。
【0129】
電解質層および二次電池のそれぞれの特性として、機械的強度特性、保液特性および容量劣化特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0130】
機械的強度特性を調べる場合には、最初に、ゾル状の前駆溶液10cm3 (=10ml)をカップ(直径60mm)に採取したのち、その前駆溶液を乾燥(45℃×3時間)させて、ゲル状の電解質である電解質層を形成した。続いて、プランジャ(直径12.7mm)を用いて電解質層に荷重をかけた。最後に、変形強度(×103 MPa)として、電解質層の表面が初期位置から4mm押し下げられた場合の荷重(応力)を求めた。
【0131】
保液特性を調べる場合には、最初に、機械的強度特性を調べた場合と同様の手順により電解質層を形成したのち、その電解質層の重量(荷重付与前重量:g)を測定した。続いて、フィルタ付きのシリンジの中に電解質層を充填した。続いて、電解質層に荷重(2MPa)をかけた状態で20分間放置したのち、その電解質層の重量(荷重付与後重量:g)を測定した。この結果から、保液率(%)=(荷重付与後重量−荷重付与前重量)×100を算出した。
【0132】
容量劣化特性を調べる場合には、以下の理論に基づいて、充放電を繰り返した場合において二次電池の放電容量が低下する傾向を表す指標である劣化速度を導き出した。充放電時には、負極活物質の表面においてリチウムイオンと電解液とが反応するため、その負極活物質の表面に被膜が形成される。ここでは、被膜の形成速度とその被膜の厚さとの関係を考慮すると、両者の関係は、「ルート則(形成速度は厚さに反比例するという規則)」に従うものと仮定する。この仮定により、被膜の厚さは(時間)1/2 に比例するため、容量劣化率も同様に(時間)1/2 に比例するという関係を導き出すことができる。この(時間)1/2 を二次電池の充放電(サイクル)に置き換えることで、その二次電池を低温(0℃)で充放電させた場合の(サイクル数)1/2 に対する容量劣化の傾きを劣化速度とした。
【0133】
なお、サイクル条件は、以下の通りである。充電時には、低温環境中(0℃)において電流=0.5Cとして上限電圧=4.3Vに到達するまで定電流充電し、さらに同環境中において電圧=4.3Vとして総充電時間=3時間に到達するまで定電圧放電した。放電時には、電流=0.5Cとして終止電圧=3Vに到達するまで定電流放電した。サイクル数は、50サイクルとした。
【0134】
【表1】
【0135】
機械的強度特性、保液特性および容量劣化特性は、以下で説明するように、高分子化合物の組成および分類に応じて大きく変動した。以下では、二種系ブロック共重合体を用いた場合(実験例10)の変形強度、保液率および劣化速度を比較基準とする。
【0136】
三種系ランダム共重合体を用いた場合(実験例11〜14)には、上記した基準と比較して、変形強度はほぼ同程度であったが、保液率が大幅に減少すると共に、劣化速度も増加した。
【0137】
これに対して、三種系ブロック共重合体を用いた場合(実験例1〜9)には、上記した基準と比較して、変形強度は場合によっては僅かに低下したが、保液率が大幅に増加すると共に、劣化速度も大幅に減少した。
【0138】
これらの結果は、以下の傾向を表している。ブロック共重合体を用いる場合には、VDFおよびHFPだけを重合単位として含んでいると、高い変形強度が得られる反面、保液率が十分に大きくならないと共に、劣化速度も十分に抑えられない。これに対して、VDFおよびHFPと共にMMM等を重合単位として含んでいると、変形強度の低下が最小限に抑えられつつ、保液率が十分に増加すると共に、劣化速度も十分に抑えられる。なお、VDFおよびHFPと共にMMM等を重合単位として含んでいても、ランダム共重合体である場合には、高い変形強度が得られる反面、保液率および劣化速度の双方が著しく劣化してしまう。よって、変形強度、保液率および劣化速度の全てを確保するためには、ブロック共重合体を採用すると共に、そのブロック共重合体がVDFおよびHFPと共にMMM等を重合単位として含んでいなければならない。
【0139】
表1に示した結果から、電解質層中の高分子化合物が三種系ブロック共重合体を含んでいると、機械的強度特性、保液特性および容量劣化特性がいずれも確保された。よって、電解質層を備えた二次電池において、優れた電池特性が得られた。
【0140】
以上、実施形態および実施例を挙げながら本技術を説明したが、本技術は、実施形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、電池構造がラミネートフィルム型およびコイン型であると共に、電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、これらに限られない。本技術の二次電池は、円筒型および角型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合に関しても、同様に適用可能である。
【0141】
また、実施形態および実施例では、リチウムの吸蔵放出により負極の容量が得られるリチウムイオン二次電池について説明したが、これに限られない。例えば、本技術の二次電池は、リチウムの析出溶解により負極の容量が得られるリチウム金属二次電池でもよい。また、本技術の二次電池は、リチウムを吸蔵放出可能な負極材料の容量を正極の容量よりも小さくすることで、リチウムの吸蔵放出による容量とリチウムの析出溶解による容量との和により負極の容量が得られる二次電池でもよい。
【0142】
また、実施形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、これに限られない。電極反応物質は、例えば、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)などの長周期型周期表における他の1族の元素でもよいし、マグネシウム(Mg)またはカルシウム(Ca)などの長周期型周期表における2族の元素でもよいし、アルミニウム(Al)などの他の軽金属でもよい。また、電極反応物質は、上記した一連の元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を含む合金でもよい。
【0143】
なお、本明細書中に記載された効果は、あくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【0144】
本技術は、以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
正極と、負極と、非水電解液および高分子化合物を含む電解質層とを備え、
前記高分子化合物は、ブロック共重合体を含み、
前記ブロック共重合体は、重合単位として、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレンと、マレイン酸モノメチル、トリフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンのうちの少なくとも1つとを含む、
二次電池。
(2)
前記フッ化ビニリデンの共重合量は、前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量よりも大きいと共に、
前記ヘキサフルオロプロピレンの共重合量は、前記マレイン酸モノメチル、前記トリフルオロエチレンおよび前記クロロトリフルオロエチレンのそれぞれの含有量の合計よりも大きい、
上記(1)に記載の二次電池。
(3)
リチウムイオン二次電池である、
上記(1)または(2)に記載の二次電池。
(4)
上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の二次電池と、
その二次電池の動作を制御する制御部と、
その制御部の指示に応じて前記二次電池の動作を切り換えるスイッチ部と
を備えた、電池パック。
(5)
上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の二次電池と、
その二次電池から供給された電力を駆動力に変換する変換部と、
その駆動力に応じて駆動する駆動部と、
前記二次電池の動作を制御する制御部と
を備えた、電動車両。
(6)
上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の二次電池と、
その二次電池から電力を供給される1または2以上の電気機器と、
前記二次電池からの前記電気機器に対する電力供給を制御する制御部と
を備えた、電力貯蔵システム。
(7)
上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の二次電池と、
その二次電池から電力を供給される可動部と
を備えた、電動工具。
(8)
上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の二次電池を電力供給源として備えた、電子機器。
【符号の説明】
【0145】
10…巻回電極体、13…正極、13A…正極集電体、13B…正極活物質層、14…負極、14A…負極集電体、14B…負極活物質層、15…セパレータ、16…電解質層、20…外装部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7