(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398206
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】微量不純物を分析する方法、及び当該分析に用いるプラズマトーチ
(51)【国際特許分類】
G01N 21/73 20060101AFI20180920BHJP
【FI】
G01N21/73
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-14946(P2014-14946)
(22)【出願日】2014年1月29日
(65)【公開番号】特開2014-186026(P2014-186026A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2016年11月17日
(31)【優先権主張番号】特願2013-32174(P2013-32174)
(32)【優先日】2013年2月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100134566
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 和俊
(72)【発明者】
【氏名】山中 英治
(72)【発明者】
【氏名】宮地 ちひろ
【審査官】
伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−020136(JP,A)
【文献】
特表2005−526258(JP,A)
【文献】
実開昭58−145549(JP,U)
【文献】
特開2012−255675(JP,A)
【文献】
米国特許第04833322(US,A)
【文献】
特開平04−216440(JP,A)
【文献】
特開平11−153542(JP,A)
【文献】
特開2003−222593(JP,A)
【文献】
米国特許第04688935(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0242070(US,A1)
【文献】
特表2002−501661(JP,A)
【文献】
米国特許第06207924(US,B1)
【文献】
特開2004−108981(JP,A)
【文献】
特開2001−272349(JP,A)
【文献】
特開平08−005555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 −21/73
H05H 1/26−1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属化合物を不活性な有機溶媒で希釈した試料液体を霧化させた後、
プラズマガス管と、プラズマガス管の内側に配されたキャリアガス管と、プラズマガス管の外側に配された外管とにより構成された三重管構造を有し、キャリアガス管の先端部がプラズマガス管の先端部に対して後退しているプラズマトーチであって、
プラズマガス管の内径をR(mm)、
プラズマガス管の先端部とキャリアガス管の先端部とのプラズマガス管が延びる方向における距離をL(mm)
とした場合において、
(L/R)×100
が20%〜40%であるプラズマトーチに、
前記霧化させた試料をキャリアガスとともにキャリアガス管を通じてプラズマトーチに導入して、誘導結合型プラズマ発光分析法により試料液体中の微量不純物を分析する方法。
【請求項2】
有機金属化合物が、有機ガリウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機インジウム化合物、有機亜鉛化合物、有機マグネシウム化合物である、請求項1記載の微量不純物を分析する方法。
【請求項3】
有機溶媒が飽和脂肪族炭化水素類、不飽和脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類又はそれらの混合溶媒である請求項1又は2記載の微量不純物を分析する方法。
【請求項4】
キャリアガスの流速が0.4〜0.7L/min.である請求項1〜3のいずれか1項に記載の微量不純物を分析する方法。
【請求項5】
請求項1記載の分析方法に用いるプラズマトーチであって、
プラズマガス管と、プラズマガス管の内側に配されたキャリアガス管と、プラズマガス管の外側に配された外管とにより構成された三重管構造を有し、キャリアガス管の先端部がプラズマガス管の先端部に対して後退しており、
プラズマガス管の内径をR(mm)、
プラズマガス管の先端部とキャリアガス管の先端部とのプラズマガス管が延びる方向における距離をL(mm)
とした場合において、
(L/R)×100
が20%〜40%であるプラズマトーチ。
【請求項6】
有機金属化合物を不活性な有機溶媒で希釈した試料液体中の微量不純物分析のための請求項5記載のプラズマトーチの使用。
【請求項7】
請求項1記載の分析方法によって、有機金属化合物の品質を管理する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属化合物を不活性な有機溶媒で希釈した試料液体に含まれる微量不純物を分析する方法、及び当該分析に用いるプラズマトーチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機金属化合物の不純物の分析方法としては、例えば、有機金属化合物を炭化水素などで希釈させた後、酸を用いて有機金属化合物を分解させた上で、誘導結合型プラズマ発光分析法により分析する方法が知られている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0003】
ところで、誘導結合型プラズマ発光分析法により、有機溶媒を含む試料を分析する場合には、キャリアガス管の先端部分に不純物(例えば、黒鉛など)が付着して目詰まりを起こしてしまうなどの不具合が生じていた。
これを解決するために、プラズマガスの流量を調節することにより、プラズマ炎によりキャリアガス管先端部の黒鉛を燃焼させる方法(例えば、特許文献3参照)、脱溶媒機能を備えたプラズマトーチを使用する方法(例えば、特許文献4参照)やプラズマ炎に接する部分又はその近傍を保護具で覆う方法(例えば、特許文献5参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−10939号公報
【特許文献2】特開2011−196956号公報
【特許文献3】特開平11−153542号公報
【特許文献4】特開2010−14465号公報
【特許文献5】特開2003−232738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3の方法では、プラズマ炎とキャリアガス管先端部とが近づくことによりキャリアガス管先端部が融解、燃焼などしてしまうという問題があった。
また、特許文献4の方法では、脱溶媒機能として透過材を使用しているものの、溶媒に含まれる有機金属化合物の分解物が目詰まりを起こす恐れがあった。
また、特許文献5の方法では、改めて保護具を装着・脱着しなければならず、煩雑な操作が生じていた。
【0006】
以上のように、有機溶媒を含む試料を誘導結合型プラズマ発光分析法により分析する際の問題は完全には解決されておらず、より簡易な方法が求められていた。また、有機金属化合物を不活性な有機溶媒で希釈した試料液体の誘導結合型プラズマ発光分析法を用いた分析に関しては、何ら開示がなされていなかった。
【0007】
また、漠然とキャリアガス管の先端部がプラズマガス管の先端部に対して下部に位置するプラズマトーチが記載されている図面を有する公報が存在するものの、プラズマガス管の内径やプラズマガス管の先端部とキャリアガス管の先端部の長さに着目して、その比率を詳細に制御することは一切なされていなかった。
【0008】
本発明の課題は、即ち、誘導結合型プラズマ発光分析法により、プラズマ炎の位置やキャリアガスの流速の微調整をすることなく、簡便な操作にて、有機金属化合物を不活性な有機溶媒で希釈した試料液体に含まれる微量不純物を感度良く分析する方法、及び当該分析に用いるプラズマトーチを提供することにある。
【0009】
本発明の課題は、又、本発明の分析方法によって、有機金属化合物の品質を管理することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題は、有機金属化合物を不活性な有機溶媒で希釈した試料液体を霧化させた後、
プラズマガス管
と、プラズマガス管の内側に
配されたキャリアガス管
と、プラズマガス管の外側に配された外管とにより構成された三重管構造を有し、キャリアガス管の先端部がプラズマガス管の先端部に対して
後退しているプラズマトーチであるプラズマトーチであって、
プラズマガス管の内径をR(mm)、
プラズマガス管の先端部とキャリアガス管の先端部とのプラズマガス管が延びる方向における距離L(mm)
とした場合において、
(L/R)×100
が20%〜40%であるプラズマトーチに、
前記霧化させた試料をキャリアガスとともにキャリアガス管を通じてプラズマトーチに導入して、誘導結合型プラズマ発光分析法により試料液体中の微量不純物を分析する方法によって解決される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、プラズマ炎の位置やキャリアガスの流速の微調整をすることなく、簡便な操作にて、有機金属化合物を不活性な有機溶媒で希釈した試料液体に含まれる微量不純物を感度良く分析する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のプラズマトーチの側面・前面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(プラズマトーチ)
本発明において使用するプラズマトーチは、プラズマガス管
と、プラズマガス管の内側に
配されたキャリアガス管
と、プラズマガス管の外側に配された外管とにより構成された三重管構造を有し、キャリアガス管の先端部がプラズマガス管の先端部に対して
後退しているプラズマトーチであって、
プラズマガス管の内径をR(mm)、
プラズマガス管の先端部とキャリアガス管の先端部
とのプラズマガス管が延びる方向における距離L(mm)
とした場合において、
(L/R)×100
が20%〜40%であるプラズマトーチである(
図1)。
即ち、プラズマガス管の内径に対して20〜40%の長さ分だけキャリアガス管の先端部がプラズマガス管の先端部に対して下部に位置するプラズマトーチである。
【0014】
なお、本発明においては、前記プラズマトーチを備えた誘導結合型プラズマ発光分析装置を用いて試料液体中の微量不純物の分析を行う。
【0015】
(微量不純物の分析)
本発明の分析方法は、有機金属化合物を不活性な有機溶媒で希釈した試料液体を霧化させた後、前記のプラズマトーチを備えた誘導結合型プラズマ発光分析装置を用いて、霧化させた試料をキャリアガスとともにキャリアガス管を通じてプラズマトーチに導入することによって、試料液体中の微量不純物を感度良く分析することができる。このとき、プラズマ炎の位置やキャリアガスの流速の微調整は特段必要としない。
【0016】
本発明における有機金属化合物とは、金属と炭素とが直接化学結合している化合物(例えば、アルキル金属等)のみならず、酸素やリン等のヘテロ原子を介してできる広義の有機金属化合物(例えば、金属−アセチルアセトナト錯体、金属−アミド錯体、金属−アルコキシ錯体等)を含み、純度が99.9%以上である、例えば、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム等の有機ガリウム化合物;トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物;トリメチルインジウム等の有機インジウム化合物;ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物;ジエチルマグネシウム、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム、ビス(メチルシクロペンタジエニル)マグネシウム等の有機マグネシウム化合物が好適に適用される。
【0017】
本発明における不活性な有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の飽和脂肪族炭化水素類(各種異性体を含む);ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の不飽和脂肪族炭化水素類(各種異性体を含む);ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類(各種異性体を含む)が使用されるが、好ましくは芳香族炭化水素類、更に好ましくはトルエン、キシレンが使用される。なお、これらの有機溶媒は単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0018】
前記有機溶媒の使用量は、高純度有機金属化合物を実質的に溶解させる量ならば特に制限されず、有機溶媒の種類により適宜決定する。
【0019】
本発明の有機金属化合物を不活性な有機溶媒で希釈した試料液体とは、前記有機金属化合物と、有機金属化合物と不活性な有機溶媒とを混合した試料液体を示すが、有機金属化合物を不活性な有機溶媒で希釈したものに、酸に加えた後に有機金属化合物を分解させたものや、酸で分解した後に分液操作により水層を除いたものをも含むものとする。
【0020】
前記試料液体を霧化させる方法としては、誘導結合型プラズマ発光分析装置に付属している霧化・噴霧手段をそのまま適用できる。また、霧化させた試料はキャリアガスとともにキャリアガス管を通じてプラズマトーチに導入される。この際のキャリアガスの流速は適宜調節するが、好ましくは0.4〜0.7L/min.である。
【0021】
更に、誘導結合型プラズマ発光分析法に導入された試料液体はプラズマ炎により発光することにより、試料液体中の微量不純物を分析することができる。
【0022】
この方法で分析された有機金属化合物の微量不純物量は、感度良く分析されたものであるため、その分析値をもって有機金属化合物の品質管理が可能である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
実施例1(プラズマトーチの作成、及びトリメチルアルミニウムの分析)
誘導結合型プラズマ発光分析装置からプラズマトーチを取り外すことなく、プラズマガス管の内径を測定したところ14mm
(R)であった。次いで、キャリアガス管の先端部が、プラズマガス管の先端部より3mm
(L)下部となるように、キャリアガス管を設置した((
L/R)×100=21%)。
トリメチルアルミニウム5g及びキシレン30mlを混合した後、窒素雰囲気にて、塩酸60ml中にゆるやかに滴下して、トリメチルアルミニウムを分解した。その後、分液してトリメチルアルミニウム中の微量不純物を分析するための試料液体(キシレン層)を調製した。
次いで、この試料液体を前記誘導結合型プラズマ分析装置で分析したところ、キャリアガス管の先端部には何ら付着は観られなかった。
【0025】
比較例1(トリメチルアルミニウムの分析)
実施例1において、プラズマトーチにおけるキャリアガス管の位置を変更せず、キャリアガス管の先端部とプラズマガス管の先端部の位置が同じ高さのプラズマトーチを用いて、実施例1と同様にトリメチルアルミニウムの分析を行った((
L/R)×100=0%)。その結果、キャリアガス管先端部には黒色の不純物の付着が観られた。
当該不純物を分析した結果を以下に示す。
【0026】
(分析結果)
炭素;99.8%
ケイ素;0.2%
以上の結果より、不純物はキシレン由来の黒鉛を主成分とするものであった。また、ケイ素成分が検出されたことから、キシレン中のケイ素成分(分析対象)が分析されずに、黒鉛の発生とともに付着したと考えられる。
【0027】
比較例2(プラズマトーチの作成、及びトリメチルアルミニウムの分析)
実施例1において、プラズマトーチにおけるプラズマガス管の内径に対するキャリアガス管の先端部の位置を2mmに変えたこと以外、実施例1と同様に分析を行った((
L/R)×100=14%)。その結果、キャリアガス管の先端部には黒色の不純物の付着が僅かに観られた。
【0028】
実施例3(プラズマトーチの作成、及びトリメチルアルミニウムの分析)
実施例1において、プラズマトーチにおけるプラズマガス管の内径に対するキャリアガス管の先端部の位置を4mmに変えたこと以外、実施例1と同様に分析を行った((
L/R)×100=28%)。その結果、キャリアガス管の先端部には何ら付着は観られなかった。
【0029】
実施例4(プラズマトーチの作成、及びトリメチルアルミニウムの分析)
実施例1において、プラズマトーチにおけるプラズマガス管の内径に対するキャリアガス管の先端部の位置を5mmに変えたこと以外、実施例1と同様に分析を行った((
L/R)×100=36%)。その結果、キャリアガス管の先端部には何ら付着は観られなかった。
【0030】
比較例3(プラズマトーチの作成、及びトリメチルアルミニウムの分析)
実施例1において、プラズマトーチにおけるプラズマガス管の内径に対するキャリアガス管の先端部の位置を6mmに変えたこと以外、実施例1と同様に分析を行った((
L/R)×100=43%)。
その結果、キャリアガス管の先端部には不純物の付着はなかったものの、キャリアガス管の先端部に黒鉛が生じていた。また、霧化した試料がプラズマ炎まで十分に届かなかったため、試料液体中の微量不純物を分析が十分にできなかった(分析感度が低下した)。
【0031】
以上の結果より、[(
L/R)×100]が21%、29%、36%に位置する場合(おおよそプラズマガス管の内径に対して20〜40%)には、不純物の付着は観察されなかった。これに対して、0%、14%(20%未満)とした場合には、不純物の付着が観察され、43%(40%超)とした場合には、分析が十分にできなかった。
【0032】
実施例及び比較例(プラズマトーチの作成、及び有機金属化合物の分析)
実施例1において、プラズマトーチにおけるプラズマガス管の内径に対するキャリアガス管の先端部の位置と、分析対象物である有機金属化合物に変えたこと以外、実施例1と同様に分析を行った。
なお、記号、略語の意味は以下の通りである。
(記号)
○;不純物の付着なし、分析感度良好
△;不純物の僅かな付着及び/又は分析感度不良
×:不純物の付着及び分析感度不良
(略語)
TMA:トリメチルアルミニウム
TEA;トリエチルアルミニウム
TMG;トリメチルガリウム
TEG;トリエチルガリウム
TMI;トリメチルインジウム
DMZ;ジメチル亜鉛
DEZ;ジエチル亜鉛
Cp
2Mg;ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム
Al錯体;トリス(t−ブチルメチルアミド)アルミニウム
【0033】
【表1】
【0034】
以上の結果より、本発明のプラズマトーチを用いた分析方法により、不純物の付着を生じさせず、精度良く有機金属化合物の分析ができることが確認された。
また、本発明の分析により、有機金属化合物の品質管理能力が向上し、有機金属化合物を製品として出荷するのに適した態様となった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、プラズマ炎の位置やキャリアガスの流速の微調整をすることなく、簡便な操作にて、有機金属化合物を不活性な有機溶媒で希釈した試料液体に含まれる微量不純物を感度良く分析する方法、及び当該分析に用いるプラズマトーチに関する。
【符号の説明】
【0036】
1 プラズマガス管
2 キャリアガス管