【実施例1】
【0028】
図1は、2つの無線端末、すなわち無線制御端末10、無線補助端末20によって形成される、本発明に係る無線制御装置に相当するティーチペンダント1の概略構成を示す。
また、
図2は、ティーチペンダント1を形成するにあたり、無線制御端末10内に無線補助端末20が収容されていく状態を示している。ティーチペンダント1は、後述する
図3に示すように、産業ロボットR1に有線で接続された、該産業ロボットR1の制御装置30に対して、動作指示や非常停止指示を無線で送信することで、作業者にケーブルレスの状態で産業ロボットR1の操作を可能とする装置である。なお、制御装置30は、産業ロボットR1の近くに据え置かれており、その内部には産業ロボットR1のアクチュエータの駆動に要する電力を供給する電源装置やアンプ等が設置されている。したがって、ティーチペンダント1は、制御装置30の電源装置等に対する指示を発する制御装置と言うこともできる。
【0029】
ここで、ティーチペンダント1を形成する無線補助端末20は、近年、汎用的に利用されているタブレット端末であり、以下、タブレット端末20と称する。タブレット端末20は、内部に演算装置、メモリ等を有し、当該演算装置により所定の制御プログラムが実行されることで、様々な機能が発揮される。なお、タブレット端末20に関する機能については、後述する。また、タブレット端末20はその端末本体21にタッチパネル式のディスプレイ22が設けられている。このように構成されるタブレット端末20での駆動電力、すなわち上記の制御プログラムの実行やディスプレイ22の表示に必要な駆動電力は、タブレット端末20が内部に有するバッテリ(以下、「タブレット端末側バッテリ」と称する場合もある)から供給される。このタブレット端末側バッテリは、外部電源からの充電によりその蓄電残量を増加させることは可能であるが、そのように充電しない限りは有限の蓄電量を有することになる。
【0030】
また、無線制御端末10は、タブレット端末20が収容される収容空間14が、端末本体11内に形成されており、タブレット端末20は収容空間14の開口部15から挿入されることになる。そして、収容空間14の奥部には、無線制御端末10側のUSBコネクタ16が設けられ、開口部15を介して収容空間14に挿入されてきたタブレット端末20側のコネクタと係合するように、USBコネクタ16は収容空間14内に位置決めされている。更に、無線制御端末10は、制御対象である産業ロボットR1に対して非常停止指示を出す非常停止ボタン12が、端末本体11の前面に設けられている。この非常停止に関しては、作業者の安全性を確保するために、所定の規格、例えばISO 13850を遵守す
るのが好ましい。また、無線制御端末10も、内部に演算装置、メモリ等を有し、当該演算装置により所定の制御プログラムが実行されることで、様々な機能が発揮される。無線制御端末10に関する機能についても、後述する。
【0031】
そして、無線制御端末10での駆動電力、すなわち主に、上記産業ロボットR1の非常停止制御に要する駆動電力は、原則として、無線制御端末10が内部に有するバッテリ13から供給される。この無線制御端末側のバッテリ13も、タブレット端末側バッテリと同じように外部電源からの充電によりその蓄電残量を増加させることは可能であるが、そのように充電しない限りは有限の蓄電量を有することになる。
【0032】
このようにティーチペンダント1は、主に産業ロボットR1の非常停止制御を司る無線制御端末10に、産業ロボットR1を動作させるための制御プログラムが実行されるタブレット端末20が装着され、両端末が協調動作することで、ティーチペンダント1として全機能が揃うことになる。そこで、
図3に、ティーチペンダント1において無線制御端末10とタブレット端末20がUSBコネクタ16を介して電気的に接続され両端末が協調動作可能な状態(
図1に示す状態)にある場合の、各端末で発揮される様々な機能の一部をイメージ化した機能ブロック図を示す。また、
図3には、産業ロボットR1が接続されている据え置きの制御装置30における機能ブロックも簡潔に示している。
【0033】
先ず、無線制御端末10は、機能部として、非常停止制御部101、通信部102、蓄
電残量監視部103、出力部104、蓄電残量制御部105、受電部106、接続部107を有している。この非常停止制御部101は、ティーチペンダント1と制御装置30との間で行われる産業ロボット30の非常停止制御を司る機能部である。具体的には、非常停止制御部30は、正常時においては、後述する通信部102を介して無線制御端末10から制御装置30に所定信号を定期的に送信する。この所定信号は、制御装置30に定期的に到達していれば、制御装置30が、産業ロボットR1に関しては正常状態が形成されていると解釈するための信号である。そして、作業者が非常停止ボタン12を押下すると、この所定信号の送信が遮断される。制御装置30においては所定信号が届かなくなったため、産業ロボットR1に関して非常状態が発生したものと解釈し、後述する制御装置30の制御部301により産業ロボットR1の非常停止が実行されることになる。
【0034】
ここで、通信部102は、図示しない無線制御端末10側に設けられたアンテナを利用して非常停止制御部101による非常停止に関する信号の送信を司るものであり、上記の通り、非常停止制御のための所定信号が通信部102によって、後述する制御装置30の通信部302に対して送信される。ここで、産業ロボットR1の非常停止制御に関しては、作業者の安全性が大きく関係してくるため、通信部102による無線方式は、ケーブルレス制御を行う機械類の安全性に関する規格(IEC62745)を遵守したものであるのが好ましい。
【0035】
次に、蓄電残量監視部103は、無線制御端末10のバッテリ13の蓄電残量を監視する機能部である。そして、この蓄電残量監視部103によって取得されたバッテリ13の蓄電残量に関する情報(蓄電残量情報)は、出力部104によって、接続部107を介してタブレット端末20側に出力される。なお、当該出力部104が蓄電残量情報として出力する情報は、バッテリ13の蓄電残量に関する情報だけではなく、後述するタブレット端末20からの給電状態に関する情報や、その給電状態下でのバッテリ13の操作可能残時間に関する情報も出力する。
【0036】
また、蓄電残量制御部105は、バッテリ13の蓄電残量に応じて、タブレット端末20からの給電を制御する機能部である。蓄電残量制御部105は、接続部107を介してタブレット端末20側に給電要求を出し、当該給電要求を受けて開始された無線制御端末10への給電は、また接続部107を介して受電部106によって受電される。受電部106が受電した電力は、バッテリ13に蓄電されることになる。そして、接続部107は、USBコネクタ16を介して形成される無線制御端末10側の接続部であって、無線制御端末10とタブレット端末20との間の電気的な情報授受に加えてに、上記の通り、タブレット端末20から無線制御端末10への電力供給も可能とする。
【0037】
次に、タブレット端末20における機能部について説明する。タブレット端末20は、機能部として、ロボット制御部201、通信部202、接続部203、給電制御部204、蓄電残量監視部205、表示制御部206を有している。このロボット制御部201は、タブレット端末20において実行される所定の制御用プログラム(例えば、産業ロボットR1のティーチングを行うためのプログラム)が実行されることで形成される。所定の制御用プログラムが実行されると、
図1に示すようにディスプレイ22において、当該所定の制御用プログラムに対応するウィンドウ20bが表示され、作業者が、そのウィンドウにおいて所定の操作を行うことで、当該所定の操作に対応した、産業ロボットR1への所定の制御指示がロボット制御部201によって生成される。そして、その所定の制御指示は、通信部202を介して、制御装置30の通信部302へ送信され、その後、制御部301が当該所定の制御指示に従って、産業ロボットR1を駆動する。
【0038】
ここで、通信部202は、図示しないタブレット端末20側に設けられたアンテナを利用して、ロボット制御部201による所定の制御指示の送信や、産業ロボットR1から届
く所定信号(例えば、産業ロボットの各関節のアクチュエータの位置情報等)の受信を司るものである。ここで、これらの信号や情報は、上述した非常停止指示と比べて作業者の安全性を考慮する必要性は低いとされるものである。そこで、通信部202による無線形式は、通信部102による無線形式と異なり、特定の安全性に関する規格を遵守する必要はなく、汎用的に利用されているWi−Fiの規格に準ずる無線方式であってもよい。一般に、汎用的なタブレット端末は、何らかのWi−Fi規格を採用していることが多いため、そのようにタブレット端末20に既に設けられている無線方式の通信機能部を、通信部202として代用してもよい。
【0039】
次に、接続部203は、USBコネクタ16を介して形成されるタブレット端末20側の接続部であって、無線制御端末10とタブレット端末20との間の電気的な情報授受に加えてに、上記の通り、タブレット端末20から無線制御端末10への電力供給も可能とする。そして、給電制御部204は、上述した蓄電残量制御部105からの給電要求に応じて、タブレット端末20側のバッテリから無線制御端末10への給電を制御する機能部である。また、蓄電残量監視部205は、タブレット端末20側のバッテリの蓄電残量を監視する機能部である。そして、この蓄電残量監視部205によって取得された蓄電残量に関する情報は、後述する表示制御部206に渡される。
【0040】
そして、表示制御部206は、無線制御端末10側の出力部104によって出力された蓄電残量情報と、タブレット端末20の蓄電残量監視部205のよって取得されたタブレット端末20側のバッテリの蓄電残量に関する情報を、タブレット端末20のディスプレイ22上に表示させる機能部である。
図1において、表示されたこれらの情報は参照番号が20aが付された領域に示されるが、表示形態の詳細な形態については、後述する。
【0041】
また、産業ロボット30に接続されている制御装置30は、制御部301と通信部302を有している。通信部302は、無線制御端末10の通信部102及びタブレット端末20の通信部202との、各種信号、情報の送受信を司る機能部である。なお、上記の通り、通信部102と通信部202とでは異なる無線方式を採用しているため、通信部302は、これらの無線方式にそれぞれ対応可能となるように構成されている。そして、通信部302を介して制御装置30に届けられた各種信号、情報は、制御部301によって産業ロボットR1の駆動や非常停止等に利用される。
【0042】
このように産業ロボットR1の制御用に構成されるティーチペンダント1において実行される蓄電残量表示処理について説明する。当該蓄電残量表示処理は、ティーチペンダント1による産業ロボットR1の何らかの制御が行われている状態で、無線制御端末10とタブレット端末20のそれぞれで繰り返し実行される。そして、
図4には、無線制御端末10で実行される蓄電残量表示処理のフローが示され、
図5には、タブレット端末20で実行される蓄電残量表示処理のフローが示されている。
【0043】
先ず、
図4に示す無線制御端末10で実行される蓄電残量表示処理について説明する。S101では、蓄電残量監視部103によってバッテリ13の蓄電残量Vrが検知される。具体的には、バッテリ13の端子間電圧に基づいて蓄電残量Vrが算出される。S101の処理が終了すると、S102へ進む。S102では、S101で検知された蓄電残量Vrが、所定の基準値V0以下であるか否かの判定が行われる。当該所定の基準値V0は、バッテリ13の蓄電残量低下に起因する制御困難状態が発生しにくくなるように、タブレット端末20側のバッテリからバッテリ13に給電を行うか否かを判断するための閾値である。所定の基準値V0として、例えば、バッテリ13がフル充電された場合の蓄電残量の50%の残量に相当する値を設定してもよく、それ以外の値を設定しても構わない。S102で肯定判定されるとS106へ進み、否定判定されるとS103〜S105の処理が行われてからS106へ進む。なお、S102〜S105の処理は、蓄電残量制御部
105によって行われる。
【0044】
次に、S103では、バッテリ13の蓄電残量が所定の基準値V0以下となっていることを踏まえて、タブレット端末20による給電を要求する給電要求が該タブレット端末20に送信される。そして、S104では、上記給電要求を受けたタブレット端末20による給電状態が確認される。具体的には、タブレット端末20からの電力が受電部106によって受電されていること、又は、送信された給電要求に応じずに当該給電が行われなかったことについて、確認される。
【0045】
次に、S105では、タブレット端末20による給電が行われている状態において、無線制御端末10のバッテリ13がどの程度電力供給が可能なのか、換言すると、無線制御端末10において、どの程度非常停止制御部101による非常停止制御を正常に継続できるのかについて示す、無線制御端末10の操作可能残時間が算出される。具体的には、蓄電残量監視部103によって取得されるバッテリ13の蓄電残量と、蓄電残量監視部205によって取得される、給電元のタブレット端末20側のバッテリの蓄電残量の合計残量を、非常停止制御部101による非常停止制御を継続するために必要な単位時間当たりの消費電力で除することで、操作可能残時間を算出することができる。
【0046】
そして、S106では、出力部104により、蓄電残量情報が形成され、当該情報がタブレット端末20側に送信される。当該蓄電残量情報には、S101で検知されたバッテリ13の蓄電残量に関する情報と、S104で確認されたタブレット端末20からの給電状態に関する情報と、S105で算出された操作可能残時間に関する情報が含まれる。なお、送信された蓄電残量情報は、タブレット端末20の表示制御部206による表示処理に付されることになる。
【0047】
次に、
図5に示すタブレット端末20で実行される蓄電残量表示処理について説明する。先ず、S201では、無線制御端末10から給電要求を受信したか否かが判定される。S201で肯定判定されるとS202へ進み、否定判定されるとS203へ進む。そして、S202では、タブレット端末20側のバッテリからバッテリ13への給電が行われる。これらS201、S202の処理は、給電制御部204によって行われる。なお、S202の処理において、作業者に対して、タブレット端末20からの給電を行うべきか否かについてその選択ウィンドウをディスプレイ22上に表示し、作業者に選択させるようにしてもよい。ここで、作業者が給電を行うべきと判断するとS202の処理が行われ、作業者が給電を行うべきではないと判断すると、S202の処理が行われずにS203以降の処理が行われることになる。なお、後者の判断が行われた場合には、
図4に示すS104の処理で、「送信された給電要求に応じずにタブレット端末20からの給電が行われなかった」と確認されることになる。
【0048】
次に、S203では、蓄電残量監視部205によってタブレット端末20側のバッテリの蓄電残量が検知される。次に、S204では、無線制御端末10の出力部104から送信された上記蓄電残量情報を取得し、その後、S205で、表示制御部206によってタブレット端末20のディスプレイ22上に、その蓄電残量情報を表示させる。具体的には、
図1の領域20aに示すように、無線制御端末10のバッテリ13に対応する電池型のインジケータと、タブレット端末20のバッテリに対応する電池型のインジケータを並べ、電池残量が多いほどそれぞれのインジケータが塗りつぶされていくように表示される。この場合、バッテリの蓄電残量が少なくなると、対応する電池型インジケータで白抜きされた領域が広くなっていき、作業者は、インジケータの状態を見ることで、各バッテリの蓄電残量の状態を容易に把握することができる。
【0049】
また、ディスプレイ22の領域20aには、蓄電残量の状態だけではなく、出力部10
4によって送信された蓄電残量情報に含められた、S104で確認されたタブレット端末20からの給電状態に関する情報と、S105で算出された操作可能残時間に関する情報を表示する。例えば、作業者が、無線制御端末10がタブレット端末20からの給電を受けていることが把握できるように「給電中」の文字を領域20aに表示するとともに、給電中の場合の操作可能残時間が電池型インジケータの横に添付されて表示される。なお、表示の形態については、上記以外の表示形態を採用してもよい。
【0050】
このようにティーチペンダント1の稼働中において、組み込まれているタブレット端末20のディスプレイ22上に、蓄電残量情報が表示されることで、作業者は、特に、産業ロボットR1の非常停止制御を司る無線制御端末10が駆動電力不足の状態に陥るまでどの程度の時間が掛かるのか把握しやすくなる。その結果、作業者に対して予測的行動を促すことができ、駆動電力低下に起因する産業ロボットR1の非常停止を未然に回避することが可能となる。
【0051】
なお、上記の実施例では、操作可能残時間は、S105において無線制御端末10側で算出されたが、これに代えて、タブレット端末20側で当該操作可能残時間を算出してもよい。この場合、タブレット端末20が、蓄電残量監視部103によって取得されるバッテリ13の蓄電残量を受け取るとともに、蓄電残量監視部205によって取得される自己のバッテリの蓄電残量の合計残量を、非常停止制御部101による非常停止制御を継続するために必要な単位時間当たりの消費電力で除して、操作可能残時間を算出すればよい。
【0052】
<変形例1>
上記の実施例では、タブレット端末20のディスプレイ22上に蓄電残量情報が表示されたが、無線制御端末10側に何らかの表示装置が設けられている場合には、出力部104は当該表示装置に出力して、表示させてもよい。また、ディスプレイ22上での蓄電残量情報の表示に代えて、無線制御端末10又はタブレット装置20に設けられた複数のLEDライトを利用して、蓄電残量に応じたLEDライトの点灯量等を変化させることで、作業者に蓄電残量情報の内容を通知してもよい。また、線制御端末10又はタブレット装置20に設けられたブザー(スピーカー)を利用して、蓄電残量に応じてブザーから発生られる音を変化させることで、作業者に蓄電残量情報の内容を通知してもよい。
【0053】
<変形例2>
上記の実施例では、バッテリ13の蓄電残量が低下し、非常停止制御部101から定期的に送信されていた所定信号が遮断されることで発生する、産業ロボットR1の不意の非常停止を回避するために、タブレット端末20のディスプレイ22上に蓄電残量情報が表示された。ここで産業ロボットR1の非常停止に関する非常停止制御部101の別の構成として、作業者の非常停止ボタン12の押下を起点として産業ロボットR1を非常停止させるための非常停止信号を通信部102を介して制御装置に送信するように構成してもよい。この場合、バッテリ13の蓄電残量が低下すると、非常停止信号を送信することが困難となり、その結果、産業ロボットR1を意図的に非常停止させることができなくなる。そこで、このような場合においても、タブレット端末20のディスプレイ22上に蓄電残量情報を表示することで、作業者に注意を喚起することができる。
【0054】
<変形例3>
また、上記の実施例では、タブレット端末20側のバッテリからバッテリ13への給電が行われているが、タブレット端末20側のバッテリとバッテリ13の蓄電残量の状況に応じて、バッテリ13からタブレット端末20側のバッテリへの給電が行われてもよい。このような状況においては、バッテリ13の蓄電残量には幾分の余裕があると考えられるが、バッテリ13からの放電が継続すると、無線制御端末10の動作にもいずれ影響を及ぼし、産業ロボットR1の非常停止に関する制御を好適に行いにくくなり得る。そこで、
このような給電が行われる場合においても、当該給電状態を表す情報を蓄電残量情報に含めて、タブレット端末20に送信し、そのディスプレイ22上に表示するのが好ましい。なお、好ましくは、タブレット端末20側のバッテリからバッテリ13への給電状態と、その逆のバッテリ13からタブレット端末20側のバッテリへの給電状態は、ディスプレイ22上で区別できるように表示される。例えば、上述した表示される「給電中」の文言の表示色変える等することで、両給電状態を区別して表示できる。