(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アルミニウム用エッチング液は、塩化鉄、塩化銅又は水酸化ナトリウムを主成分とする水溶液とされることを特徴とする請求項1又は2に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
この種のパワーモジュール用基板の製造方法として、例えば特許文献1又は特許文献2に記載されているように、複数のパワーモジュール用基板を形成可能な広い面積を有するセラミックス母材の表面にレーザ光を照射して、セラミックス母材を各基板の大きさに区画するようにスクライブライン(分割溝)を予め設けておき、このスクライブラインに沿ってセラミックス母材を分割することにより個片化し、個々のパワーモジュール用基板を製造する方法が知られている。
【0003】
また、特許文献2には、レーザ加工によりスクライブラインを形成した場合、そのスクライブライン上には、レーザ光の熱によってガラス化(アモルファス化)された熱変性層が形成されることが記載されている。また、このガラス化された熱変性層がレーザ加工後に冷却されることによって微小なクラックを生じさせ、パワーモジュール用基板の熱サイクル使用において、微小なクラックを起点とするセラミックス基板の割れを生じさせることが記載されている。
この場合、特許文献2では、フッ硝酸を用いてエッチング処理を施すことにより、ガラス化された熱変性層を除去することが提案されており、このように熱変性層を除去することにより、熱変性層に生じた微小なクラックを起点とするセラミックス基板の割れの発生を抑制できることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このようにパワーモジュール用基板において、セラミックス基板の割れの問題とは別に、回路層又は金属層が形成されたパワーモジュール用基板に無電解メッキ処理を行うと、スクライブライン上にメッキが析出し、その部分において放電が誘発されることによるパワーモジュール用基板の耐電圧性の低下、すなわち絶縁性能を損なうことが新たに問題となっている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、絶縁性能を良好に確保することができるパワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、パワーモジュール用基板の製造方法について鋭意研究した結果、以下の知見を得た。
レーザ加工によりスクライブラインを形成するパワーモジュール用基板の製造方法では、特許文献2に記載されるように、レーザ光の熱によってガラス化された熱変性層が形成される。この点、特許文献2では、ガラス化された熱変性層がフッ硝酸によるエッチング処理により除去可能であることが記載されているが、セラミックス母材と金属層とのろう付け接合前にセラミックス母材をフッ硝酸によりエッチング処理をした場合は、セラミックス母材にフッ素が残存することで、パワーモジュールの冷熱サイクル負荷時にセラミックス基板と金属層との剥離を生じさせ、接合信頼性を低下させることがわかった。
一方で、セラミックス母材と金属層(回路層)とをろう付け接合した後にエッチング処理をした場合には、熱変性層が完全に除去しきれないことがわかった。この場合においてパワーモジュール用基板に無電解メッキ処理を行うと、残存する熱変性層にメッキが付着することがあり、その付着したメッキによって絶縁距離が短縮されることにより、放電が誘発され、耐電圧性を低下させていることがわかった。
したがって、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法においては、以下の方法により問題を解決した。
【0008】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、
アルミニウムを含むセラミックス材料により形成されたセラミックス母材に形成されたスクライブラインに沿って該セラミックス母材を複数のセラミックス基板に分割して、該セラミックス基板に金属層が積層されたパワーモジュール用基板を複数製造する方法であって、前記セラミックス母材にレーザ光を照射して前記スクライブラインを形成するレーザ加工工程と、前記スクライブラインが形成された前記セラミックス母材をアルミニウム用エッチング液で洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程後の前記セラミックス母材に前記金属層を形成する金属板をろう付け接合する接合工程と、前記セラミックス母材に接合された金属板をエッチングすることによりパターンを形成するエッチング工程と、前記エッチング工程後に前記セラミックス母材を前記スクライブラインに沿って分割する分割工程と、前記分割工程後に前記金属層に無電解メッキを施すメッキ工程とを備える。
【0009】
セラミックス母材と金属板との接合工程の前に、すなわち、スクライブラインが形成されたセラミックス母材が高温に曝される前に、そのセラミックス母材をアルミニウム用エッチング液で洗浄する洗浄工程を設けることにより、スクライブラインに形成された熱変性層を容易に除去することができる。
したがって、パワーモジュール用基板に無電解メッキ処理を行った際に、セラミックス基板の端縁にメッキが付着することを回避することができるので、良好な絶縁性能を確保することができる。
なお、セラミックス母材と金属板とのろう付け接合後にセラミックス母材のスクライブラインに形成された熱変性層を除去しようとする場合には、熱変性層を完全に除去することが難しくなる。この場合、スクライブラインに形成された熱変性層の一部が、セラミックス母材と金属板とのろう付け接合の際に、高温に曝されることにより、より安定な酸化物へと変化し、処理液へ溶解しにくくなることが要因であると考えられる。
【0010】
また、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、
アルミニウムを含むセラミックス材料により形成されたセラミックス母材に形成されたスクライブラインに沿って該セラミックス母材を複数のセラミックス基板に分割して、該セラミックス基板に金属層が積層されたパワーモジュール用基板を複数製造する方法であって、前記セラミックス母材にレーザ光を照射して前記スクライブラインを形成するレーザ加工工程と、前記スクライブラインが形成された前記セラミックス母材を該スクライブラインに沿って分割して複数の前記セラミックス基板を形成する分割工程と、分割された前記セラミックス基板をアルミニウム用エッチング液で洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程後の前記セラミックス基板に金属板をろう付け接合して金属層を形成する接合工程と、前記接合工程後に前記金属層に無電解メッキを施すメッキ工程とを備える。
【0011】
このように、セラミックス母材を分割した後に、洗浄工程や金属板の接合工程を設けることも可能であり、この場合においても、セラミックス基板と金属板との接合工程の前に洗浄工程を設けることにより、スクライブラインに形成された熱変性層を容易に除去することが可能となる。
【0012】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法において、前記アルミニウム用エッチング液は、塩化鉄、塩化銅又は水酸化ナトリウムを主成分とする水溶液とされる。
アルミニウム用エッチング液に、塩化鉄、塩化銅又は水酸化ナトリウムを主成分とする水溶液を用いることで、スクライブラインに形成された熱変性層を容易に除去することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パワーモジュール用基板の絶縁性能を良好に確保することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図2は、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法により製造されるパワーモジュール用基板3を用いたパワーモジュール1を示している。
このパワーモジュール1は、パワーモジュール用基板3と、パワーモジュール用基板3の表面に搭載された半導体チップ等の電子部品4と、裏面に取り付けられたヒートシンク5とを備えている。
【0016】
また、パワーモジュール用基板3は、セラミックス基板2と、セラミックス基板2の一方の面に積層された回路層6と、セラミックス基板2の他方の面に積層された金属層7とを備え、これらセラミックス基板2と回路層6及び金属層7とは、ろう付け接合されている。そして、このパワーモジュール用基板3の回路層6の表面に電子部品4がはんだ付けされ、金属層7の表面にヒートシンク5が接合されている。
【0017】
セラミックス基板
2は、AlN(窒化アルミニウム)、Al
2O
3(アルミナ)等のアルミニウムを含むセラミックス材料により形成される。また、回路層6、金属層7及びヒートシンク5は、純アルミニウム又はアルミニウム合金、もしくは純銅又は銅合金により形成され、純度99.00質量%以上の純アルミニウム又はアルミニウム合金、無酸素銅やタフピッチ銅等の純銅又は銅合金により形成することが望ましい。そして、セラミックス基板2と回路層6及び金属層7とは、回路層6及び金属層7が純アルミニウム又はアルミニウム合金で形成される場合、Al−Si系、Al−Ge系、Al−Cu系、Al−Mg系またはAl−Mn系等の合金のろう材により、ろう付け接合される。また、回路層6及び金属層7が純銅又は銅合金である場合には、Ag‐Cu‐TiやAg‐Tiろう材を用いた活性金属ろう付けにより接合される。
【0018】
なお、ヒートシンク5は、平板状のもの、熱間鍛造等によって多数のピン状フィンを一体に形成したもの、押出成形によって相互に平行な帯状フィンを一体に形成したもの等、適宜の形状のものを採用することができる。
【0019】
次に、以上のように構成されるパワーモジュール用基板3の製造方法について説明する。第1実施形態のパワーモジュール用基板の製造方法は、
図1に示すように、複数の製造工程により構成される。
(レーザ加工工程)
まず、
図3(a)に示すように、板状のセラミックス母材20の表面にスクライブライン21を形成する。この
図3(a)に示すように、スクライブライン21は、レーザ光Lを照射することにより、セラミックス母材20の表面を切削加工して形成される。この際、スクライブライン21上には、レーザ光の熱によってガラス化された熱変性層22が形成される。この熱変性層22は、アモルファス状のアルミニウム酸化物やアルミニウムの遊離物等が混在して形成されたものであり、深さ1μm〜40μm程度に形成されている。
なお、レーザ加工工程では、例えばCO
2レーザ、YAGレーザ、YVO4レーザ、YLFレーザ等を使用してスクライブライン21の加工を行うことができる。
【0020】
(洗浄工程)
次に、図示は省略するが、スクライブライン21が形成されたセラミックス母材20を、アルミニウム用エッチング液に浸漬させることにより洗浄する。アルミニウム用エッチング液は、塩化鉄、塩化銅又は水酸化ナトリウムを主成分とする水溶液とされ、種々の添加剤が添加されるものを用いることもできる。なお、アルミニウム用エッチング液は、回路層6及び金属層7を純アルミニウム又はアルミニウム合金で形成する場合、後述するエッチング工程で用いられるエッチング液と同じものを用いることができる。
そして、セラミックス母材20をアルミニウム用エッチング液に浸漬させることで、
図3(b)に示すように、セラミックス母材20のスクライブライン21上に形成された熱変性層22が除去される。この際のアルミニウム用エッチング液の温度や浸漬時間は、深さ1μm〜40μm程度の熱変性層22が除去される条件に設定される。
【0021】
(接合工程)
そして、
図3(c)に示すように、洗浄工程後のセラミックス母材20に回路層6及び金属層7となる金属板60,70をろう付け接合する。具体的には、セラミックス母材20の両面に、それぞれろう材箔を介在させて金属板60,70を積層し、これらの積層体を加圧した状態のまま真空中で加熱することにより、セラミックス母材20と金属板60,70とをろう付け接合した接合体30を形成する。
【0022】
(エッチング工程)
次に、接合体30のセラミックス母材20に接合された金属板60,70をエッチングすることにより、回路層6及び金属層7のパターンを形成する。これにより、
図3(d)に示すように、セラミックス母材20には、スクライブライン21により区画された各領域に回路層6及び金属層7が設けられる。
【0023】
(分割工程)
そして、ダイシング装置や基板分割装置等の切断手段により、セラミックス母材20をスクライブライン21に沿って分割することで、
図3(e)に示すように、セラミックス母材20が個片化され、複数のパワーモジュール用基板3が製造される。
【0024】
(メッキ工程)
最後に、図示は省略するが、各パワーモジュール用基板3に金メッキ、銀メッキ、ニッケルメッキ等の無電解メッキ処理を施すことにより、回路層6及び金属層7に無電解メッキが形成されたパワーモジュール用基板3を製造することができる。
【0025】
このように、本実施形態のパワーモジュール用基板の製造方法では、セラミックス母材20と金属板60,70との接合工程の前に、すなわち、スクライブライン21が形成されたセラミックス母材20がろう付け接合時の高温に曝される前に、そのセラミックス母材20とアルミニウム用エッチング液で洗浄する洗浄工程を設けることにより、スクライブライン21に形成された熱変性層22を容易に除去することができる。
したがって、パワーモジュール用基板3に無電解メッキ処理を行った際に、セラミックス基板2の端縁(スクライブライン21であったところ)にメッキが付着することを回避することができ、良好な絶縁性能を確保することができる。
【0026】
なお、セラミックス母材20と金属板60,70とのろう付け接合後にセラミックス母材20のスクライブライン21に形成された熱変性層22をエッチング処理して除去しようとする場合には、熱変性層22を完全に除去することが難しくなる。この場合、スクライブライン21に形成された熱変性層22の一部が、セラミックス母材20と金属板60,70とのろう付け接合の際に高温に曝されることにより、より安定な酸化物に変化することが要因であると考えられる。
【0027】
図4は、本発明の第2実施形態のパワーモジュール用基板の製造方法の製造工程を示す。
第1実施形態のパワーモジュール用基板の製造方法(
図1参照)では、セラミックス母材20の分割工程の前に洗浄工程を設けることとしていたが、第2実施形態のパワーモジュール用基板の製造方法(
図2参照)では、セラミックス母材20をスクライブライン21に沿って分割する分割工程の後に、洗浄工程や金属板60,70の接合工程を設けることとしている。なお、第2実施形態においては、第1実施形態のものと同様の構成については、同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0028】
第2実施形態のパワーモジュール用基板の製造方法では、まず、
図5(a)に示すように、板状のセラミックス母材20の表面にスクライブライン21を形成した後(レーザ加工工程)、
図5(b)に示すように、セラミックス母材20をスクライブライン21に沿って分割することで、セラミックス母材20を複数のセラミックス基板2に個片化する(分割工程)。
【0029】
そして、各セラミックス基板2をアルミニウム用エッチング液に浸漬させることにより洗浄し、
図5(c)に示すように、セラミックス基板2から熱変性層22を除去する(洗浄工程)。この熱変性層22が除去されたセラミックス基板2に、プレス加工によりパターンを形成した金属板をろう付けすることにより、セラミックス基板2に回路層6及び金属層7が積層されたパワーモジュール用基板3を形成する(接合工程)。なお、回路層6及び金属層7となる金属層をセラミックス基板2にろう付け接合した後で、エッチングすることにより回路パターンを形成することもできる。
最後に、各パワーモジュール用基板3に無電解メッキを施すことにより、回路層6及び金属層7に無電解メッキが形成されたパワーモジュール用基板3を製造することができる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明の効果を確認するために行った本発明例及び比較例について説明する。
本発明例及び比較例として、厚み0.635mmのAlNからなるセラミックス基板2に、厚み0.6mmの4N‐Alからなる回路層6と、厚み0.6mmの4N‐Alからなる金属層7とを、Al‐Si系のろう材により接合したパワーモジュール用基板3の試料を作製した。
本発明例及び比較例の試料は、波長10μmのCO
2レーザを用いて深さ100μmのスクライブライン21(なお、熱変性層の厚さは30μmであった)を形成したセラミックス母材に、いずれも回路層6となる金属板60及び金属層7となる金属板70のろう付け接合前の段階で、表1に示す主成分の水溶液からなる洗浄液に浸漬させることにより洗浄を行った。各試料の洗浄条件を、表1に示す。
【0031】
そして、その洗浄工程後に、セラミックス母材20に金属板60,70をろう付け接合し、エッチング処理を施して回路層6及び金属層7のパターンを形成した。なお、スクライブライン21で区画されるセラミックス基板2の平面サイズ26.6mm×16.6mmに対して、回路層6及び金属層7の平面サイズを25mm×15mmとし、セラミックス基板2の端縁から回路層6及び金属層7の端縁までの距離が0.8mmとなるように矩形状のパターンを形成した。また、回路層6及び金属層7に無電解ニッケルメッキを施し、各試料のパワーモジュール用基板3を作製した。
なお、比較例2の試料に関しては、セラミックス母材20の洗浄を行わなかったため、表1の「洗浄液」及び「洗浄条件」の欄を「−」で示した。
【0032】
このようにして作製したパワーモジュール用基板3の各試料について、回路層6と金属層7との間に交流電圧を1kVから100Vずつ段階的に引き上げて印加していき、カットオフ電流に達した電圧値(耐電圧値)を測定した。測定機器には、耐電圧試験機(菊水電子工業製のTOS5050)を用い、カットオフ電流値を1mAとした。
表1に結果を示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1からわかるように、塩化鉄(FeCl
3)を主成分とするアルミニウム用エッチング液を用いて洗浄を行った本発明例1及び塩化銅(CuCl
2)主成分とするアルミニウム用エッチング液を用いて洗浄を行った本発明例2の試料においては、フッ硝酸(HNO
3+NH
4HF
2)により洗浄を行った比較例1や洗浄を行わなかった比較例2と比較して、耐電圧値が20%近く高くなる結果となり、パワーモジュール用基板の絶縁性能を良好に確保できることが確認できた。
【0035】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態においては、パワーモジュール用基板として、
図2に示すように、セラミックス基板2に回路層6及び金属層7が積層されたものについて説明を行ったが、これに限定されるものではない。本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板と回路層からなるパワーモジュール用基板にも適用可能であるし、
図6に示すように、回路層6Aが銅板61とアルミニウム板62とを接合した積層回路層6Aで形成されるパワーモジュール用基板3A等の種々の構成において適用可能である。
【0036】
また、セラミックス母材20へのスクライブライン21の加工は、本実施形態のようにセラミックス母材20の片面のみに行う場合に限定されるものではなく、セラミックス母材20の両面にスクライブライン21を設ける場合も含まれる。