特許第6398263号(P6398263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シンフォニアテクノロジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6398263-インバータ試験装置 図000002
  • 特許6398263-インバータ試験装置 図000003
  • 特許6398263-インバータ試験装置 図000004
  • 特許6398263-インバータ試験装置 図000005
  • 特許6398263-インバータ試験装置 図000006
  • 特許6398263-インバータ試験装置 図000007
  • 特許6398263-インバータ試験装置 図000008
  • 特許6398263-インバータ試験装置 図000009
  • 特許6398263-インバータ試験装置 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398263
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】インバータ試験装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20180920BHJP
【FI】
   H02M7/48 E
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-71973(P2014-71973)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-195666(P2015-195666A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】小林 正
【審査官】 小林 秀和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−153546(JP,A)
【文献】 特表2011−528794(JP,A)
【文献】 特開2007−236169(JP,A)
【文献】 特開昭49−019225(JP,A)
【文献】 特開昭61−182879(JP,A)
【文献】 実開平05−043734(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 25/08
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチトリラクタンスモータの駆動に用いられ、各相に相当する一対の出力ラインを複数組備えるインバータを、試験するためのインバータ試験装置であって、
各相ごとに独立して前記一対の出力ラインの各々に接続されるコイルと、
各相ごとに独立して前記コイルのインダクタンスを変更するインダクタンス変更手段と、
各相ごとのインダクタンス変更手段を独立して制御するための制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記スイッチトリラクタンスモータの回転角度の検出信号を模擬した模擬角度検出信号を生成する模擬角度検出信号生成部をさらに備え、当該模擬角度検出信号生成部による模擬角度検出信号に基づいて前記コイルのインダクタンスを個々に変更するべく前記インダクタンス変更手段を各相ごとに独立して制御するように構成したことを特徴とするインバータ試験装置。
【請求項2】
前記制御手段は、模擬する前記スイッチトリラクタンスモータにおけるロータの回転角度と関連付けられたインダクタンス特性を記憶する記憶部をさらに備えており、当該記憶部に記憶されたインダクタンス特性と、前記模擬角度検出信号生成部による模擬角度検出信号とに基づいて、前記コイルのインダクタンスを変更するように構成したことを特徴とする請求項1記載のインバータ試験装置。
【請求項3】
前記コイルは鉄心に巻回された第1のコイルとして構成されており、前記インダクタンス変更手段は第2のコイルと、当該第2のコイルに供給する電流供給部とを備えており、
前記制御手段による制御によって前記電流供給部から前記第2のコイルに供給する電流量を変化させ、第2のコイルにより生ずる磁束を変化させることで、前記鉄心を通過する磁束を変更して前記第1のコイルのインダクタンスを変更するように構成したことを特徴とする請求項1又は2記載のインバータ試験装置。
【請求項4】
前記第2のコイルは、前記第1のコイルが巻回された同一の鉄心を巻回するように構成したことを特徴とする請求項3記載のインバータ試験装置。
【請求項5】
前記鉄心を環状に構成したことを特徴とする請求項4記載のインバータ試験装置。
【請求項6】
前記第2のコイルは、前記第1のコイルが巻回された鉄心に近接又は隣接して配置した異なる鉄心を巻回するように構成したことを特徴とする請求項3記載のインバータ試験装置。
【請求項7】
前記第2のコイルに供給する電流量をI2とし、前記第1のコイルの両端に印加する電圧をVとし、前記第1のコイルと前記第2のコイルによる相互インダクタンスをMとし、模擬角度検出信号に基づくインダクタンス特性をL(θ)として、
前記制御手段は、前記第2のコイルに供給する電流量を下式にしたがって変化させることを特徴とする請求項3〜6の何れかに記載のインバータ試験装置。
(dI2/dt)=V/M−V/L(θ)
【請求項8】
前記インバータは、前記スイッチトリラクタンスモータからの角度検出信号に基づき前記スイッチトリラクタンスモータに電圧供給を行うものであり、接続された前記インバータに対して前記角度検出信号に代えて前記模擬角度検出信号生成部による模擬角度検出信号を出力するように構成したことを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のインバータ試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを模擬する負荷を生じさせてインバータの試験を行うインバータ試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを駆動するインバータの試験を簡便に行うため、実際にモータを接続することなく、モータを模擬した負荷をインバータに与えることのできるインバータ試験装置が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に示すインバータ試験装置は、試験を行う対象となる被試験インバータを接続し、この被試験インバータに対して3相交流電源により駆動する永久磁石モータ(PMモータ)を模擬した負荷を与えることが可能となっている。
【0004】
このようなインバータ試験装置は、一般に図6に示すような構成となっている。すなわち、インバータ試験装置501は被試験インバータ509の出力ライン592にリアクトル593を介して接続される。インバータ試験装置501は、リアクトル593よりも上流側(被試験インバータ509側)で電圧検出器594により電圧を検出するとともに、電流検出器595によって出力ライン592を流れる電流を検出することができるようになっている。また、インバータ試験装置501は、模擬対象モータの特性を内部定数として設定されており、検出した電流値と上記の内部定数から、モータ電圧方程式にて導いた電圧となるように制御を行っている。さらには、モータの角度検出器からの信号を模擬した模擬角度検出信号Sθを出力し、被試験インバータ509に出力するようにしている。こうすることで、被試験インバータ509は、出力ライン592において電流検出器596により検出される電流値と角度検出器模擬信号Sθとを用いてフィードバック制御を行う等、モータを模擬した負荷を与えられながらモータを回転させる時と同様の制御を行うことが可能となる。
【0005】
ところで、近年、上記永久磁石モータやこれとともに一般的に使用される誘導モータとは原理の異なるスイッチトリラクタンスモータ(SRモータ)が注目を集めている。SRモータは、図7に模式的に示したように、突極性のロータ611とコイル623を伴うステータ621を備えており、ステータ621の突極622とロータ611の突極612が対向しつつ整列した突極対称状態において磁気インピーダンスが小さくなりコイル623のインダクタンスが最大になる。そのため、磁束が流れにくい突極非対称状態にある突極622のコイル623にインバータ609より励磁電流が供給されると、磁束が最も流れやすい突極対称状態になるようにロータ611が回転する。そして、ロータ611の回転角度に基づいて、インバータ609より励磁電流を供給するコイル623を順次切り替えることで、ロータ611を回転させることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−153547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記SRモータの開発と併行して、これを駆動するために用いられるインバータの開発も進められている。こうしたインバータの試験を効率よく進めるためには、実際のモータを用いることなく上述したようなインバータ試験装置を用いることが好適である。
【0008】
しかしながら、SRモータは、3相交流電圧を印加するものとは異なり、複数のステータのコイルに順に電圧を印加することで駆動するものであることから、従来のインバータ試験装置によりモータを模擬した負荷を生じさせることはできない。
【0009】
SRモータでは図8(a)に模式的に示すように、ロータ611の回転によって、ロータ611側の突極612とステータ621側の突極622との相対位置関係が変化する。これにより、図8(b)に示すように、コイル623におけるインダクタンスLが変化する。具体的には、双方の突極612,622が離間している場合にはインダクタンスLは小さくなり、突極612,622が対向した際には最もインダクタンスLが大きくなり、ロータ611の回転に伴ってインダクタンスLは増大と減小とを周期的に繰り返すことになる。
【0010】
従って、SRモータを駆動するためにインバータ609から電圧を供給している間であっても、その電圧に見合った一定の電流がコイル623に供給されるわけではなく、ロータ611の回転角度に依存するインダクタンスLの変化による影響を受けて、電流値が変化することになり、これに対応した負荷がインバータ609に与えられることになる。
【0011】
こうしたSRモータの特性を簡単に模擬するためには、インバータ試験装置を図9に示すような構成とすることが考えられる。なお、図9は一つの相のみを抜き出して模式的に示したものとなっている。被試験インバータ709の出力ライン792には、リアクトル793を介してインバータ試験装置701を接続する構成となっており、インバータ試験装置701では内部電源794の電圧V0を変更することができるようになっている。
【0012】
このようにすると、リアクトルの上流における電圧V1、下流における電圧V2、リアクトル793を流れる電流I、及びリアクトル793のインダクタンスLの関係は、次式のようになる。
dI/dt=(V1−V2)/L ・・・(数式1)
ここで、tは時間を示し、dI/dtは電流の変化率を示す。
【0013】
すなわち、被試験インバータ709からの出力電圧V1に応じて、インバータ試験装置701の内部電源794の電圧V0を変更してリアクトル793の下流の電圧V2を変更すれば、SRモータを回転させた時と同様に電流Iを変化させることが可能と考えられる。
【0014】
しかしながら、インバータ試験装置701のような構成とした場合、内部電源794の電圧変化を行うために内部素子のスイッチングを行うと、これに合わせてdI/dtが変化してしまうことから平滑化を行うことが必要となる。そのため、急峻な変化には対応を行うことが困難となり、電流の立ち上がりや立ち下がり等を正確に模擬することができず、被試験インバータ709の試験に足りる応答性が得られないおそれがある。
【0015】
本発明は、このような課題を有効に解決することを目的としており、具体的には、SRモータを模擬した高速応答性に優れた特性の負荷を生成して与えることができ、簡便に被試験インバータの試験を行うことが可能となるインバータ試験装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0017】
すなわち、本発明のインバータ試験装置は、スイッチトリラクタンスモータの駆動に用いられ、各相に相当する一対の出力ラインを複数組備えるインバータを、試験するためのインバータ試験装置であって、各相ごとに独立して前記一対の出力ラインの各々に接続されるコイルと、各相ごとに独立して前記コイルのインダクタンスを変更するインダクタンス変更手段と、各相ごとのインダクタンス変更手段を独立して制御するための制御手段とを備えており、前記制御手段は、前記スイッチトリラクタンスモータの回転角度の検出信号を模擬した模擬角度検出信号を生成する模擬角度検出信号生成部をさらに備え、当該模擬角度検出信号生成部による模擬角度検出信号に基づいて前記コイルのインダクタンスを個々に変更するべく前記インダクタンス変更手段を各相ごとに独立して制御するように構成したことを特徴とする。
【0018】
このように構成すると、制御手段が、模擬角度検出信号生成部においてスイッチトリラクタンスモータ(SRモータ)の回転角度に対応する模擬角度検出信号を生成し、この模擬角度検出信号を基にしてインダクタンス変更手段を制御することで、前記インバータからの出力ラインが接続されたコイルのインダクタンスを変更し、回転角度の変化に伴ってインダクタンスの変化が生じるSRモータを模擬した、高速応答性に優れた特性の負荷を生成して前記インバータに与えることができる。そのため、SRモータを駆動させるインバータの試験を簡便に行うことが可能となる。
【0019】
より正確にSRモータの特性を模擬して、実際のSRモータを使用する場合と変わりのない試験を実現するためには、前記制御手段は、模擬するSRモータにおけるロータの回転角度と関連付けられたインダクタンス特性を記憶する記憶部をさらに備えており、当該記憶部に記憶されたインダクタンス特性と、前記模擬角度検出信号生成部による模擬角度検出信号とに基づいて、前記コイルのインダクタンスを変更するように構成することが好適である。
【0020】
簡単な制御でSRモータと同じ特性をもつ負荷を与えることを可能とするためには、前記コイルは鉄心に巻回された第1のコイルとして構成されており、前記インダクタンス変更手段は第2のコイルと、当該第2のコイルに供給する電流供給部とを備えており、前記制御手段による制御によって前記電流供給部から前記第2のコイルに供給する電流量を変化させ、第2のコイルにより生ずる磁束を変化させることで、前記鉄心を通過する磁束を変更して前記第1のコイルのインダクタンスを変更するように構成することが好適である。
【0021】
漏れ磁束を低減することで制御の高精度化及び効率の向上を図るためには、前記第2のコイルは、前記第1のコイルが巻回された同一の鉄心を巻回するように構成することが好適である。
【0022】
さらに漏れ磁束を少なくして一層効率の向上を可能とするためには、前記鉄心を環状に構成することがより好適である。
【0023】
回路の構成及び組立を容易にするとともに、漏れ磁束を少なくして制御の高精度化を図るためには、前記第2のコイルは、前記第1のコイルが巻回された鉄心に近接又は隣接して配置した異なる鉄心を巻回するように構成することが好適である。
【0024】
また、インダクタンス特性を模擬するためには、前記第2のコイルに供給する電流量をI2とし、前記第1のコイルの両端に印加する電圧をVとし、前記第1のコイルと前記第2のコイルによる相互インダクタンスをMとし、模擬角度検出信号に基づくインダクタンス特性をL(θ)として、前記制御手段は、前記第2のコイルに供給する電流量を下式にしたがって変化させることが好適である。
(dI2/dt)=V/M−V/L(θ)
また、前記インバータとインバータ試験装置とを同期して制御し、より実際のSRモータの運転状況に近い正確な試験を行うことを可能とするためには、前記インバータは、SRモータからの角度検出信号に基づきSRモータに電圧供給を行うものであり、接続された前記インバータに対して前記角度検出信号に代えて前記模擬角度検出信号生成部による模擬角度検出信号を出力するように構成することが好適である。
【発明の効果】
【0025】
以上説明した本発明によれば、SRモータを模擬した高速応答性に優れた特性を有する負荷を生成でき、簡便に、SRモータを駆動させるインバータの試験を行うことが可能となるインバータ試験装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係るインバータ試験装置を示す回路構成図。
図2】同インバータ試験装置の一部を模式的に示したブロック図。
図3】同インバータ試験装置において第2のコイルに与える電流の考え方を示す説明図。
図4】同インバータ試験装置において第1のコイルに生ずるインダクタンス変化の一例を示す説明図。
図5】同インバータ試験装置の変形例を示す説明図。
図6】従来のインバータ試験装置を示す模式図。
図7】SRモータの構成の一例を示す模式図。
図8】SRモータの特性を説明するための説明図。
図9】従来のインバータ試験装置を基にしてSRモータを模擬したインバータ試験装置を構成した例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0028】
この実施形態のインバータ試験装置は、図1に示す回路構成図のように構成されている。このインバータ試験装置1は、SRモータを駆動させるためのインバータの試験に用いられるものであり、試験対象となる被試験インバータ9を接続され、この被試験インバータ9に対して、模擬対象となるSRモータの特性に応じた負荷を与えるように構成されている。本実施形態は、試験対象となるインバータが3相SRモータを駆動するための3相の電圧出力を行うものである場合を例として示している。
【0029】
インバータ試験装置1及び被試験インバータ9はともに商用交流電源61から得られる電力を基に動作を行う。商用交流電源61からの交流電圧はトランス62を介して整流回路63で直流電圧に変換される。整流回路63より得られる直流電圧は、電圧調整回路64によって調整された上で被試験インバータ9に入力される。電圧調整回路64では、被試験インバータ9の入力電圧を調整することで、電源電圧を変更した場合を模擬しながら被試験インバータ9の試験を行うことが可能となっている。被試験インバータ9は、電圧調整回路64より入力された電力を基に、内部に備えるスイッチング素子の切り替えを行うことによって、出力ライン91(91U,91V,91W)よりU相・V相・W相に対応する3相電圧を出力できる。
【0030】
インバータ試験装置1は、このような被試験インバータ9の試験を行うためのものであり、主として制御手段4と、3つの第1のコイルとしてのコイル31〜31と、各コイル31〜31のインダクタンスL1(図2参照)を変更するためのインダクタンス変更手段3〜3とから構成されている。各インダクタンス変更手段3は、後に詳述するように鉄心33、第2のコイルとしてのコイル32及び電流供給部21とから構成されている。さらに、3つの電流供給部21〜21によって模擬回路用インバータ2が構成されている。
【0031】
模擬回路用インバータ2には、整流回路63より得られる直流電圧が上記電圧調整回路64と並列に供給される。模擬回路用インバータ2を構成する3つの電流供給部21からは、3相のうちの各相に対応する電流I2が供給される。各電流供給部21は制御手段4からの電流指令Icに応じて内部に備える複数のスイッチング素子を切り替えることで、整流回路63より得られる電力を基にして電流I2の供給を行うことができる。
【0032】
上述した3つのコイル31〜31は、それぞれ対応する環状の鉄心33の一部に接続されているとともに、被試験インバータ9の出力ライン91(91U,91V,91W)がそれぞれ接続される。そのため、被試験インバータ9より各出力ライン91(91U,91V,91W)を通じて電流I1が流された場合、各コイル31によって各鉄心33に磁束φ1(図2参照)が生じる。
【0033】
各鉄心33には、第1のコイルであるコイル31とともに、第2のコイルとしてのコイル32が巻回されており、このコイル32には、模擬回路用インバータ2を構成する電流供給部21がそれぞれ接続されており、電流供給部21より各コイル32に電流I2を供給した場合でも、各鉄心33に磁束φ2(図2参照)を生じさせることができる。鉄心33及びコイル31,32はいわゆるトランスと同じ構造を備えており、こうしたトランスを利用して構成することもできる。
【0034】
また、本実施形態では、被試験インバータ9と制御手段4とを上位コントローラ7に接続を行っている。上位コントローラ7は内部に記憶した条件に基づき、被試験インバータ9及び制御手段4に動作を行わせることができる。
【0035】
図2は、上述したインバータ試験装置1を模式的に示したブロック図であり、1相分のみを抜き出して簡略化して表している。
【0036】
上述したように、被試験インバータ9からの出力ライン91は環状の鉄心33に巻回されたコイル31に接続され、模擬回路用インバータ2を構成する電力供給部21は同じ鉄心33に巻回されたコイル32に接続されている。制御手段4は上位コントローラ7から与えられる指令信号Sgに基づき動作を行い、同様に被試験インバータ9も上位コントローラ7との間で情報の伝達を行いながら上位コントローラ7により与えられる条件に従って動作を行う。
【0037】
制御手段4は、電流指令生成部41、記憶部42、模擬角度検出信号生成部43を備えている。ここで、制御手段4は、CPU,メモリ及びインターフェースを備えた通常のマイクロプロセッサ等により構成されるもので、メモリには予め処理に必要なプログラムが格納してあり、CPUは逐次必要なプログラムを取り出して実行し、周辺ハードリソースと協働して、所定の機能を実現するものである。
【0038】
記憶部42は、図示しない入力手段を通じてあらかじめ外部から入力されるインダクタンス特性L(θ)を記憶しておくものである。インダクタンス特性L(θ)は、模擬するモータの特性を示すものであり、ロータ角度θと関連づけられたインダクタンスLのデータ(図8参照)として記憶されている。本実施形態では、記憶されるインダクタンス特性L(θ)を離散的なデータを集合させ表形態にまとめたマップデータとしており、各データ間を直線補完して用いるようにしている。なお、こうしたデータを数式化して記憶させておいても同様に用いることができる。
【0039】
模擬角度検出信号生成部43は、上位コントローラ7による指令信号Sgに応じて模擬角度検出信号Sθを生成して出力する。一般に、SRモータではレゾルバ等の角度検出器を設けておき、こうした角度検出器からの角度検出信号を基にしてインバータは電流を供給するコイルの切り替えを行う。そのため、本実施形態でも被試験インバータ9を動作させるために、レゾルバからの信号を模した模擬角度検出信号Sθを生成して被試験インバータ9に出力するようにしており、被試験インバータ9は模擬角度検出信号Sθに応じて出力ライン91からの電流I1の供給及び供給停止のタイミングを変更するようになっている。こうすることで、被試験インバータ9と制御手段4とは同期した動作をなすことができ、より精度の高い試験を行うことができる。
【0040】
電流指令生成部41は、模擬角度検出信号生成部43により生成した模擬角度検出信号Sθに応じて、記憶部42に記憶されたインダクタンス特性L(θ)を参照しながら、コイル32に流す電流I2を変更すべく、電流供給部21に与える電流指令Icを生成する。電流供給部21は、電流指令生成部41より与えられる電流指令Icに従ってコイル32に電流I2を供給する。コイル32に与えられる電流I2は電流検出器22によって検出され、検出電流値Idは電流指令生成部41に入力される。電流指令生成部41は、検出電流値Idをフィードバックして電流指令Icの補正を行うことで、より精度の高い制御を行うことができるようになっている。
【0041】
電流供給部21よりコイル32に電流I2を供給することで、コイル32が巻回された鉄心33に磁束φ2を生じさせることができる。こうすることで、同じ鉄心33に巻回されたコイル31のインダクタンスL1を変化させることができる。さらには、鉄心33が環状に形成されていることから、漏れ磁束を少なくして効率を高めることができるとともに、少ない電流I2で鉄心33内部の磁束をより大きく変化させて、制御の高精度化を図ることも可能となっている。
【0042】
このように、制御手段4は、電流指令生成部41より電流供給部21に対して電流指令Icを与えることで、これに対応する電流I2を電流供給部21よりコイル32に供給させる。すなわち、制御手段4によってインダクタンス変更手段3の制御が行われる。
【0043】
ここで、電流供給部21より供給する電流I2の考え方について詳細に説明を行う。まず、コイル31のインダクタンスL1を、ロータ角度θに依存するインダクタンス特性L(θ)と同じにするため、次のような関係が得られる。
L1=L(θ) ・・・(数式2)
【0044】
そして、コイル31を流れる電流I1と、コイル31の両端に印加する電圧V1との関係は次のように表される。
V=(dI1/dt)・L(θ) ・・・(数式3)
【0045】
さらには、コイル31とコイル32による相互インダクタンスMを用いると、次のような関係が導かれる。
(dI1/dt)+(dI2/dt)=V/M ・・・(数式4)
【0046】
数式3及び数式4より次式の関係が得られる。
(dI2/dt)=V/M−V/L(θ) ・・・(数式5)
【0047】
すなわち、数式5の関係を用いて、コイル32に供給する電流I2を変化させることで、インダクタンス特性L(θ)を模擬することが可能といえる。
【0048】
上記のように構成した本インバータ試験装置1では、次のようにSRモータの特性を模擬した負荷を被試験インバータ9に対して与えることが可能となっている。以下、図2を参照しつつ図3を用いて説明を行う。なお模擬対象となるSRモータの構成要素は図7,8を用いて説明したものと同様であるため、同じ符号を付して説明を省略する。
【0049】
図3(a)は、ロータ611の回転に応じて、ステータ621に設けられたコイル623のインダクタンスLに変化が生じることを模式的に示したものである。すなわち、ステータ621の突極622に対してロータ611の突極612が十分に離れた位置(図中のP1の位置)にある場合にはインダクタンスLは小さく、ステータ621の突極622にロータ611の突極612が近づく過程でインダクタンスLは徐々に大きくなり、突極622,612同士が対向する位置(図中のP2の位置)にある場合にインダクタンスLが最大となる。さらにロータ611が回転して、ステータ621の突極622よりロータ611の突極612が離れていく過程でインダクタンスLは徐々に小さくなり、双方の突極622,612が十分に離れた位置(図中のP3の位置)になった場合にインダクタンスLは最小となる。
【0050】
こうしたSRモータの動作を制御する場合には、次の2つの制御方法が考えられる。
【0051】
第1の制御方法としては、図3(b)に示すように、SRモータに対してロータ611の回転方向に駆動力を与える力行時の制御を行う場合がある。この際には、ロータ611の突極612がステータ621の突極622より十分に離れたP1位置より、突極612,622同士が対向するP2位置に至るまでの間で、インバータ9のスイッチをオン(ON)状態にしてコイル623に電圧Vを印加する。こうすることで、突極612,622同士が対向するまでの間でコイル623には電流I1(図中のステータ電流)が流れ、ステータ621の突極622に向けてロータ611の突極612が吸引されることで回転駆動力が生ずる。この際、突極612,622同士が近づいていくことで徐々にコイル623のインダクタンスLが大きくなることから、電流I1の変化率、すなわち電流I1の傾きは徐々に小さくなる。
【0052】
そして、突極612,622同士が対向するP2位置より双方の突極612,622が十分に離れたP3位置に至るまでの間で、インバータ9のスイッチをオフ状態としてコイル623への電圧供給を停止する。こうすることで、突極612,622同士が離間していく間で、コイル623に流れる電流I1は小さくなり、ステータ621の突極62によるロータ611の突極612の吸引力を生じさせないようにする。なお、この場合には、通常、図示しない他のコイル623に電流を供給する。
【0053】
第2の制御方法としては、図3(c)に示すように、SRモータに対してロータの66回転方向とは逆向きに制動力を与える回生時の制御を行う場合がある。この際には、ロータ611の突極612がステータ621の突極622より十分に離れたP1位置より突極612,622同士が対向するP2位置に至るまでの間で、インバータ9のスイッチをオフ状態にしてコイル623に電圧を供給しない。
【0054】
そして、突極612,622同士が対向するP2位置より、双方の突極612,622が十分に離れたP3位置に至るまでの間で、インバータ9のスイッチをオン(ON)状態としてコイル623に電圧Vを供給する。こうすることで、突極612,622同士が離間していく間に、コイル623には電流I1(図中のステータ電流)が流れ、ステータ621の突極622に向けてロータ611の突極612が吸引されることで、制動力が生ずる。この際、突極612,622同士が離間していくことで、徐々にコイル623のインダクタンスLが小さくなることから、電流I1の変化率、すなわち電流I1の傾きは徐々に大きくなる。
【0055】
上記のように、SRモータは大きく分けて力行時と回生時の2種類の制御がなされる。こうした制御を行う中で、各コイル623に与えられる電流I1は、ともにロータ角度θに応じたインダクタンスL(θ)によって変化する。
【0056】
そこで、本実施形態では、上述した数式5に基づいた制御を行うことで、概ね図3(d)に示すような電流I2をコイル32に供給する。すなわち、双方の突極612,622が互いに離れたP1位置より、双方の突極612,622が対向するP2位置に至るまでの間では、電流I2を増加させる。そして、双方の突極612,622が対向するP2位置より、十分に離れるP3位置に至るまでの間では電流I2を減小させる。
【0057】
このような関係を持つ電流I2を設定した場合に、第1のコイルであるコイル31におけるインダクタンスL1は、図4に示すような特性を持つことになる。
【0058】
すなわち、第1のコイルであるコイル31に電圧Vを供給して電流I1が増大している際に、第2のコイルであるコイル32に電流I2を供給して、コイル31によって生成される磁束φ1と同じ方向の磁束φ2を生じさせた場合には、コイル31による磁束変化が見かけ上大きくなりインダクタンスL1が上がることになる。さらには、第1のコイルであるコイル31に電圧Vを供給して電流I1が増大している際に、第2のコイルであるコイル32に上記とは逆向きに電流I2を供給して、コイル31によって生成される磁束φ1と逆の方向に磁束φ2を生じさせた場合には、コイル31による磁束変化が見かけ上小さくなりインダクタンスL1が下がることになる。そのため、電圧Vの供給を行っている際のコイル31のインダクタンスL1は、図中にて実線で示したインダクタンスLonの特性を持つ。
【0059】
また、第1のコイルであるコイル31への電圧Vの供給を停止して電流I1が減小している際に、第2のコイルであるコイル32に電流I2を供給して、コイル31によって生成される磁束φ1と同じ方向の磁束φ2を生じさせた場合には、コイル31による磁束変化が見かけ上小さくなりインダクタンスL1が下がることになる。さらには、第1のコイルであるコイル31への電圧Vの供給を停止して電流I1が減小している際に、第2のコイルであるコイル32に上記とは逆向きに電流I2を供給して、コイル31によって生成される磁束φ1と逆の方向に磁束φ2を生じさせた場合には、コイル31による磁束変化が見かけ上大きくなりインダクタンスが上がることになる。そのため、電圧Vの供給を停止している際のコイル31のインダクタンスL1は、図中にて一点鎖線で示したインダクタンスLoffの特性を持つ。
【0060】
上記のように、コイル32に電流I2を流すことによって生じる磁束φ2の影響は、コイル31に電圧Vを供給している場合と電圧Vの供給を停止している場合とで逆向きになる。しかしながら、その影響度は互いに異なるため、両者を平均して得られるコイル31のインダクタンスL1は、図中にて破線で示したようなインダクタンスLaveの特性を持つ。
【0061】
従って、図1及び図2に示すように、被試験インバータ9は上位コントローラ7によって与えられる動作条件に沿って動作して出力ライン91を通じてコイル31に出力を行うとともに、インバータ試験装置1は上位コントローラ7からの指令信号Sgに応じて模擬角度検出信号生成部43により模擬角度検出信号Sθを生成し、この模擬角度検出信号Sθと記憶部42に記憶された模擬対象であるSRモータのインダクタンス特性L(θ)とを基に電流指令生成部41により電流指令Icを生成して電流供給部21に与えることで、コイル32に対応する電流I2を供給して磁束φ2を発生させ、コイル31のインダクタンスL1を変更する。そのため、コイル31には、SRモータと同様のL(θ)のインダクタンス特性が生じることで、これと接続された被試験インバータ9には模擬対象となるSRモータと同様の負荷が与えられることとなり、モータを接続した場合と同様の条件で試験を行うことが可能となる。
【0062】
以上のように、本実施形態におけるインバータ試験装置1は、被試験インバータ9からの出力ライン91が接続されるコイル31と、そのコイル31のインダクタンスL1を変更するインダクタンス変更手段3と、インダクタンス変更手段3を制御するための制御手段4とを備えており、制御手段4は、モータ601の回転角度θの検出信号を模擬した模擬角度検出信号Sθを生成する模擬角度検出信号生成部43をさらに備え、模擬角度検出信号生成部43による模擬角度検出信号Sθに基づいてコイル31のインダクタンスL1を変更するべくインダクタンス変更手段3を制御するように構成したものである。
【0063】
このように構成していることから、制御手段4は、モータ601を構成するロータ611の回転角度θに対応する模擬角度検出信号Sθを基にしてインダクタンス変更手段3を制御することで、被試験インバータ9からの出力ライン91が接続されたコイル31のインダクタンスL1を変更し、ロータ角度θの変化に伴ってインダクタンスLの変化が生じるSRモータ601を模擬した高速応答性に優れた負荷を被試験インバータ9に与えることができる。そのため、SRモータ601を駆動させるインバータ9の試験を簡便に行うことが可能となる。
【0064】
さらに、制御手段4は、模擬するモータ601におけるロータ611の回転角度θと関連付けられたインダクタンス特性L(θ)を記憶する記憶部42をさらに備えており、記憶部42に記憶されたインダクタンス特性L(θ)と、模擬角度検出信号生成部43による模擬角度検出信号Sθとに基づいて、コイル31のインダクタンスL1を変更するように構成していることから、制御手段4は、ロータ611の回転角度θに応じたコイル623のインダクタンスLの変化を正確に模擬して、実際のモータ601に近い負荷特性を実現することができ、実際のモータ601の運転状況とほぼ同じ状態で被試験インバータ9の試験を行うことが可能となる。
【0065】
また、コイル31は鉄心33に巻回された第1のコイル31として構成されており、インダクタンス変更手段3は第2のコイルであるコイル32と、コイル32に供給する電流供給部21とを備えており、制御手段4による制御によって電流供給部21からコイル32に供給する電流量I2を変化させ、コイル32により生ずる磁束φ2を変化させることで、鉄心33を通過する磁束φ1を変更してコイル31のインダクタンスL1を変更するように構成していることから、制御手段4によって電流供給部21を制御することで、コイル32に流れる電流量I2を制御して鉄心33を通過する磁束φ1を変更し、鉄心33を巻回するコイル31のインダクタンスL1を変更することが可能となり、コイル31に接続された被試験インバータ9に対して、簡単な制御でSRモータ601と同等の負荷を与えることが可能となる。
【0066】
さらに、コイル32は、コイル31が巻回された同一の鉄心33を巻回するように構成していることから、漏れ磁束を少なくして、制御の高精度化及び効率の向上が可能となる。
【0067】
加えて、鉄心33を環状に構成していることから、漏れ磁束を一層少なくして、より効率を向上させることが可能となっている。
【0068】
また、被試験インバータ9は、モータ601からの角度検出信号に基づきモータ601に電圧供給を行うものであり、接続された被試験インバータ9に対して角度検出信号に代えて模擬角度検出信号生成部43による模擬角度検出信号Sθを出力するように構成していることから、被試験インバータ9は模擬角度検出信号生成部43による模擬角度検出信号Sθを基に電圧供給を行い、インバータ試験装置1では同じ模擬角度検出信号Sθを基にインダクタンスL1を変更することで負荷を変更することから、双方が同期した制御がなされ、より実際のモータ601の運転状況に近い正確な試験を行うことが可能となる。
【0069】
なお、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0070】
例えば、上述した実施形態を基に、インダクタンス変更手段3を、図5(a)及び図5(b)のように変更することもできる。これらの図中では、上述した実施形態と同じ部分には同じ符号を付し、説明を省略する。図5(a)に記載したインダクタンス変更手段103は、コイル31とコイル32を巻回する鉄心133を円柱状に形成したものである。この場合には、上述した実施形態で示した環状の鉄心33(図2参照)と比較して、漏れ磁束はやや大きくなり効率はやや低下するものの、上記と同様の効果を得ることができる。また、環状の鉄心33を使用する場合に比べて鉄心133を小さくすることができることから、小型化を図ることができる。
【0071】
また、図5(b)に記載したインダクタンス変更手段203では、コイル31を巻回する鉄心233と、コイル32を巻回する鉄心234とを別体に構成している。鉄心233,234は、別体ではあるものの近接あるいは隣接して設けることにより、上記実施形態に準じた効果を得ることができる。さらには、第2のコイルであるコイル32は、第1のコイルであるコイル31が巻回された鉄心233に近接又は隣接して配置した異なる鉄心234を巻回するように構成していることから、回路の構成及び組立が容易になるとともに、漏れ磁束を少なくして制御を高精度に行うことが可能となる。
【0072】
さらには、上述した実施形態では、被試験インバータ9として3相のSRモータを駆動するための3相のインバータの例を記載していたが、SRモータは3相以外であってもよく、原理的には単相であっても駆動させることが可能である。そこで上述したインバータ試験装置1も、単相、あるいは3相とは異なる複数の相に対応したものとして構成することができ、相数に応じて電力供給部21、コイル32及び鉄心33を含むインダクタンス変更手段3の個数を変更することで足りる。
【0073】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1…インバータ試験装置
2…模擬回路用インバータ
3…インダクタンス変更手段
4…制御手段
9…被試験インバータ
21…電流供給部
31…コイル(第1のコイル)
32…コイル(第2のコイル)
33,133,233,234…鉄心
42…記憶部
43…模擬角度検出信号生成部
601…モータ(SRモータ)
611…ロータ
623…コイル
I,I1,I2…電流
L,L1…インダクタンス
L(θ)…インダクタンス特性
Sθ…模擬角度検出信号
θ…(ロータの)回転角度
φ,φ1,φ2…磁束
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9