【文献】
Archives of Biochemistry and Biophysics,1996年,Vol. 326, No. 1,pp. 145-151
【文献】
Biochemistry,2000年,Vol. 39,pp. 15012-15021
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、従来、診断薬向け用途において比較的温和な条件で利用されてきたG6PDHであるが、非特許文献3に記載されている通り、酵素燃料電池のような工業用途への利用も模索されている。このような工業用途においては、高い耐熱性が要求される。
【0010】
特許文献7においては、ロイコノストック・メセンテロイデス由来G6PDHの部位特異的なアミノ酸置換による溶液安定化については紹介されているが、その耐熱性において、上記のような工業用途に適しているとは言い難い。
【0011】
また、非特許文献5が開示するG6PDHは、安定性については特筆すべき性能を有してはいるが、常温付近でのタンパク質重量あたりの触媒活性(以下、比活性ともいう)が数U/mgと、極端に低く、ほとんど触媒として機能しないので実用に供することはできない。
【0012】
更に、特許文献3が開示するG6PDHは、60℃の熱処理にも耐えうる耐熱性を有し、且つ30℃における比活性が200U/mg程度と比較的高く、これらの性質においては他の実用G6PDHに比べ工業用途に適するが、一方で、補酵素NADに対する親和性が低い(親和性の指標であるNADに対するKm値が高い)という欠点がある。補酵素NADに対する親和性が低い場合、反応系に高価なNADをより多く使用することが必要になり、コスト増につながるため、実用上、好ましくない。
【0013】
そこで、本発明は、補酵素NADへの親和性を向上させた耐熱性G6PDHを提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス由来の耐熱性G6PDHに変異を導入することにより補酵素NADへの親和性を向上させた変異型G6PDH、該変異型G6PDHをコードする遺伝子、該遺伝子を含む組換えベクター、該ベクターにより得られる形質転換体、及び該形質転換体を用いる変異型G6PDHの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス由来の耐熱性G6PDHのアミノ酸配列(配列番号4)において46番目のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、補酵素NADへの親和性を格段に向上させ得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0015】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 下記(A)〜(C)のいずれかに示すポリペプチド:
(A)配列番号4に示すアミノ酸配列における46番目のアミノ酸が、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、セリン、グルタミン、リジン、バリン、イソロイシン、及びグリシンよりなる群から選択されるいずれかのアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)配列番号4に示すアミノ酸配列における46番目のアミノ酸が、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、セリン、グルタミン、リジン、バリン、イソロイシン、及びグリシンよりなる群から選択されるいずれかのアミノ酸に置換されたアミノ酸配列において、46番目以外のアミノ酸の1個又は数個が置換、付加、挿入又は欠失されてなり、且つ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素活性を有し、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるグルコース−6−リン酸脱水素酵素と比較して補酵素NADに対する親和性が向上しているポリペプチド、
(C)配列番号4に示すアミノ酸配列における46番目のアミノ酸が、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、セリン、グルタミン、リジン、バリン、イソロイシン、及びグリシンよりなる群から選択されるいずれかのアミノ酸に置換されたアミノ酸配列において、配列番号4に示すアミノ酸配列に対する46番目のアミノ酸を除いた配列同一性が80%以上であり、且つ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素活性を有し、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるグルコース−6−リン酸脱水素酵素と比較して補酵素NADに対する親和性が向上しているポリペプチド。
項2. 下記(A)〜(C)のいずれかに示すポリペプチド:
(A)配列番号4に示すアミノ酸配列における46番目のアミノ酸がスレオニンに置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)配列番号4に示すアミノ酸配列における46番目のアミノ酸がスレオニンに置換されたアミノ酸配列において、46番目以外のアミノ酸の1個又は数個が置換、付加、挿入又は欠失されてなり、且つ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素活性を有し、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるグルコース−6−リン酸脱水素酵素と比較して補酵素NADに対する親和性が向上しているポリペプチド、
(C)配列番号4に示すアミノ酸配列における46番目のアミノ酸がスレオニンに置換されたアミノ酸配列において、配列番号4に示すアミノ酸配列に対する46番目のアミノ酸を除いた配列同一性が80%以上であり、且つ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素活性を有し、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるグルコース−6−リン酸脱水素酵素と比較して補酵素NADに対する親和性が向上しているポリペプチド。
項3. 下記(A)〜(C)のいずれかに示すポリペプチド:
(A)配列番号4に示すアミノ酸配列における46番目のアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)配列番号4に示すアミノ酸配列における46番目のアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列において、46番目以外のアミノ酸の1個又は数個が置換、付加、挿入又は欠失されてなり、且つ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素活性を有し、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるグルコース−6−リン酸脱水素酵素と比較して補酵素NADに対する親和性が向上しているポリペプチド、
(C)配列番号4に示すアミノ酸配列における46番目のアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列において、配列番号4に示すアミノ酸配列に対する46番目のアミノ酸を除いた配列同一性が80%以上であり、且つ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素活性を有し、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるグルコース−6−リン酸脱水素酵素と比較して補酵素NADに対する親和性が向上しているポリペプチド。
項4. 下記(A)〜(C)のいずれかに示すポリペプチド:
(A)配列番号4に示すアミノ酸配列における46番目のアミノ酸がアスパラギンに置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)配列番号4に示すアミノ酸配列における46番目のアミノ酸がアスパラギンに置換されたアミノ酸配列において、46番目以外のアミノ酸の1個又は数個が置換、付加、挿入又は欠失されてなり、且つ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素活性を有し、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるグルコース−6−リン酸脱水素酵素と比較して補酵素NADに対する親和性が向上しているポリペプチド、
(C)配列番号4に示すアミノ酸配列における46番目のアミノ酸がアスパラギンに置換されたアミノ酸配列において、配列番号4に示すアミノ酸配列に対する46番目のアミノ酸を除いた配列同一性が80%以上であり、且つ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素活性を有し、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるグルコース−6−リン酸脱水素酵素と比較して補酵素NADに対する親和性が向上しているポリペプチド。
項5. 項1〜4のいずれかに記載のポリペプチドをコードしているDNA。
項6. 下記(i)又は(ii)に示すDNAである、項5に記載のDNA。
(i)配列番号76、80、64、52、56、62、66、68、70、72、又は8
4に示す塩基配列からなるDNA、
(ii)グルコース−6−リン酸脱水素酵素活性を有し、配列番号4に示すアミノ酸配列か
らなるグルコース−6−リン酸脱水素酵素と比較して補酵素NADに対する親和性が向上しているポリペプチドをコードし、且つ、配列番号76、80、64、52、56、62、66、68、70、72、又は84に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列を含むDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
項7. 項5又は6に記載のDNAを含む組換えベクター。
項8. 項7に記載の組換えベクターにより宿主を形質転換して得られる形質転換体。
項9. 宿主が大腸菌である、項8に記載の形質転換体。
項10. 項8又は9に記載の形質転換体を培養する工程を含む、項1〜4のいずれかに記載のポリペプチドの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリペプチドは、G6PDH活性を備えつつ、耐熱性に優れ、且つ補酵素NADへの親和性が高いので、診断薬や燃料電池等の幅広い分野で利用することができる。特に、本発明のポリペプチドは、補酵素NADへの親和性が高く、反応系において高価なNADの使用量を低減できるので、従来のG6PDHよりも低コストで酵素反応を行うことが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、配列表以外では、アミノ酸配列における20種類のアミノ酸残基は、一文字略記で表現している。即ち、グリシン(Gly)はG、アラニン(Ala)はA、バリン(Val)はV、ロイシン(Leu)はL、イソロイシン(Ile)はI、フェニルアラニン(Phe)はF、チロシン(Tyr)はY、トリプトファン(Trp)はW、セリン(Ser)はS、スレオニン(Thr)はT、システイン(Cys)はC、メチオニン(Met)はM、アスパラギン酸(Asp)はD、グルタミン酸(Glu)はE、アスパラギン(Asn)はN、グルタミン(Gln)はQ、リジン(Lys)はK、アルギニン(Arg)はR、ヒスチジン(His)はH、プロリン(Pro)はPである。
【0018】
本明細書における「R46F」等の表現は、アミノ酸置換の表記法である。例えば「R46F」とは、ある特定のアミノ酸配列におけるN末端側から46番目のアミノ酸Rを、アミノ酸Fに置換されていることを意味する。
【0019】
また、本明細書において、「非極性アミノ酸」には、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、及びトリプチファンが含まれる。また、「非電荷アミノ酸」には、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、及びグルタミンが含まれる。また、「酸性アミノ酸」には、アスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれる。また、「塩基性アミノ酸」には、リジン、アルギニン、及びヒスチジンが含まれる。
【0020】
本明細書において、グルコース−6−リン酸脱水素酵素を「G6PDH」、グルコース−6−リン酸脱水素酵素活性を「G6PDH活性」と表記することもある。
【0021】
本明細書において、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるグルコース−6−リン酸脱水素酵素を「野生型G6PDH」と表記することもある。
【0022】
本明細書において、G6PDHの活性1Uとは、84mMのトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)中で、40mMの塩化マグネシウム、2.6mMのグルコース−6−リン酸水と4mMのNADの存在下で1分間に1マイクロモルのNADHを生成できる酵素量を指す。
【0023】
1.ポリペプチド
本発明のポリペプチドは、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドの変異体であって、G6PDH活性を有し、野生型G6PDHよりも補酵素NADに対する親和性が向上しているポリペプチドである。
【0024】
G6PDHは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NADともいう)又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を補酵素として使用するグルコース−6−リン酸脱水素酵素である。G6PDHは、補酵素に水素を添加する反応と共役してD−グルコース−6−リン酸の脱水素反応を触媒する酵素であり、EC1.1.49に分類される酵素である。
【0025】
本発明のポリペプチドの一態様として、(A)配列番号4に示すアミノ酸配列における46番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0026】
配列番号4に示すアミノ酸配列における46番目のアミノ酸が置換される「他のアミノ酸」とは、野生型G6PDHよりも補酵素NADに対する親和性を向上させ得ることを限度として特に制限されないが、具体的には、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、セリン、グルタミン、リジン、バリン、イソロイシン、及びグリシンが挙げられる。これらの中でも、補酵素NADに対する親和性をより一層向上させるという観点から、好ましくは、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、セリン、グルタミン、リジン、バリン、及びイソロイシン;更に好ましくはスレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、セリン、グルタミン、及びリジン;より好ましくはスレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、及びセリン;特に好ましくはスレオニン、システイン、及びアスパラギン;最も好ましくはスレオニンが挙げられる。
【0027】
前記(A)のポリペプチドのアミノ酸配列の具体例を、配列番号53、57、63、65、67、69、71、73、77、81及び85に示す。配列番号53に示すアミノ酸配列は、野生型G6PDHのアミノ酸配列(配列番号4)において、アミノ酸置換R46Iを導入したアミノ酸配列である。配列番号57に示すアミノ酸配列は、野生型G6PDHのアミノ酸配列(配列番号4)において、アミノ酸置換R46Vを導入したアミノ酸配列である。配列番号63に示すアミノ酸配列は、野生型G6PDHのアミノ酸配列(配列番号4)において、アミノ酸置換R46Qを導入したアミノ酸配列である。配列番号65に示すアミノ酸配列は、野生型G6PDHのアミノ酸配列(配列番号4)において、アミノ酸置換R46Nを導入したアミノ酸配列である。配列番号67に示すアミノ酸配列は、野生型G6PDHのアミノ酸配列(配列番号4)において、アミノ酸置換R46Kを導入したアミノ酸配列である。配列番号69に示すアミノ酸配列は、野生型G6PDHのアミノ酸配列(配列番号4)において、アミノ酸置換R46Dを導入したアミノ酸配列である。配列番号71に示すアミノ酸配列は、野生型G6PDHのアミノ酸配列(配列番号4)において、アミノ酸置換R46Eを導入したアミノ酸配列である。配列番号73に示すアミノ酸配列は、野生型G6PDHのアミノ酸配列(配列番号4)において、アミノ酸置換R46Sを導入したアミノ酸配列である。配列番号77に示すアミノ酸配列は、野生型G6PDHのアミノ酸配列(配列番号4)において、アミノ酸置換R46Tを導入したアミノ酸配列である。配列番号81に示すアミノ酸配列は、野生型G6PDHのアミノ酸配列(配列番号4)において、アミノ酸置換R46Cを導入したアミノ酸配列である。配列番号85に示すアミノ酸配列は、野生型G6PDHのアミノ酸配列(配列番号4)において、アミノ酸置換R46Gを導入したアミノ酸配列である。
【0028】
また、本発明のポリペプチドの他の様態として、下記(B)及び(C)に示すポリペプチドが挙げられる。
(B)配列番号4に示すアミノ酸配列における、46番目のアミノ酸が、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、セリン、グルタミン、リジン、バリン、イソロイシン、及びグリシンよりなる群から選択されるいずれかのアミノ酸に置換されたアミノ酸配列において、46番目以外のアミノ酸の1個又は数個が置換、付加、挿入又は欠失されてなり、且つ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素活性を有し、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるグルコース−6−リン酸脱水素酵素と比較して補酵素NADに対する親和性が向上しているポリペプチド。
(C)配列番号4に示すアミノ酸配列における、46番目のアミノ酸が、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、セリン、グルタミン、リジン、バリン、イソロイシン、及びグリシンよりなる群から選択されるいずれかのアミノ酸に置換されたアミノ酸配列において、配列番号4に示すアミノ酸配列に対する46番目のアミノ酸を除いた配列同一性が80%以上であり、且つ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素活性を有し、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるグルコース−6−リン酸脱水素酵素と比較して補酵素NADに対する親和性が向上しているポリペプチド。
【0029】
以下、前記(B)及び(C)のポリペプチドにおいて、配列番号4に示すアミノ酸配列における46番目以外のアミノ酸部位を「任意改変部位」と表記することもある。
【0030】
前記(B)及び(C)のポリペプチドにおいて、配列番号4に示すアミノ酸配列における46番目に導入されるアミノ酸置換の態様及び好適な具体例は、前記(A)のポリペプチドの場合と同様である。
【0031】
前記(B)のポリペプチドの任意改変部位に導入されるアミノ酸の改変は、置換、付加、挿入、及び欠失の中から1種類の改変(例えば置換)のみを含むものであってもよく、2種以上の改変(例えば、置換と挿入)を含んでいても良い。前記(B)のポリペプチドにおいて、任意改変部位に置換、付加、挿入又は欠失されるアミノ酸は、1個又は複数個若しくは数個であればよく、例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜3個、特に好ましくは1又は2個或いは1個が挙げられる。
【0032】
前記(C)のポリペプチドにおける「配列番号4に示すアミノ酸配列における、46番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、具体的には配列番号53、57、63、65、67、69、71、73、77、81及び85に示すアミノ酸配列において、前記アミノ酸置換部位を除いた配列同一性」は、80%以上であればよいが、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上が挙げられる。
【0033】
ここで、前記(C)のポリペプチドにおいて「配列番号4に示すアミノ酸配列に対する46番目のアミノ酸を除いた配列同一性」とは、配列番号4に示すアミノ酸配列から前記任意改変部位のみ(即ち、46番目のアミノ酸以外)を抜き出して、当該任意改変部位のみを比較して算出される配列同一性である。また、「配列同一性」とは、BLAST PACKAGE[sgi32 bit edition,Version 2.0.12;available from National Center for Biotechnology Information(NCBI)]のbl2seq program(Tatiana A.Tatsusova,Thomas L.Madden,FEMS Microbiol.Lett.,Vol.174,p247−250,1999)により得られるアミノ酸配列の同一性の値が例示される。パラメーターは、Matrix:BLOSUM62、Gap insertion Cost value:11、Gap extension Cost value:1に設定すればよい。
【0034】
また、前記(B)及び(C)のポリペプチドの任意改変部位に導入されるアミノ酸置換は、保存的置換であることが好ましい。即ち、前記任意改変部位における置換としては、例えば、置換前のアミノ酸が非極性アミノ酸であれば他の非極性アミノ酸への置換、置換前のアミノ酸が非荷電性アミノ酸であれば他の非荷電性アミノ酸への置換、置換前のアミノ酸が酸性アミノ酸であれば他の酸性アミノ酸への置換、及び置換前のアミノ酸が塩基性アミノ酸であれば他の塩基性アミノ酸への置換が挙げられる。
【0035】
前記(B)及び(C)のポリペプチドのアミノ酸配列において、活性に関与している任意改変部位(例えば、活性中心)は、改変されずに保持されていることが好ましい。
【0036】
前記(B)及び(C)のポリペプチドにおいて、「配列番号4に示すアミノ酸配列からなるグルコース−6−リン酸脱水素酵素と比較して補酵素NADに対する親和性が向上している」とは、下記[Km値の測定方法]において得られるNADに対するKm値が、野生型G6PDHのNADに対するKmに対して低いことを意味する。前記Kmとは、酵素の反応速度に関する以下の式(ミカエリス・メンテン式)で表される値である。
【数1】
【0037】
ここで、Vは反応速度、[S]は基質濃度、Vmaxは基質濃度が無限大のときの反応速度である。Kmは、一般にミカエリス・メンテン定数とも呼ばれ、VがVmaxの半分になるときの基質濃度と定義される。前記定義は、補酵素NADに対するKmにも採用される。即ち、前記式において、[S]をNAD濃度、VmaxをNAD濃度が無限大のときの反応速度として算出することにより、NADに対するKmが求められる。変異型G6PDHのNADに対するKm値が、野生型G6PDHのKmに比べて低ければ、より低濃度のNADに対して高い反応速度が得られる。本明細書において、NADに対するKm値が、野生型G6PDHに比べて低い場合を「補酵素NADに対する親和性が向上している」とする。
【0038】
[Km値の測定方法]
下記Km測定試薬を調製し、該測定試薬0.87mlを分光光度計用セルに入れ、30℃で5分間以上プレインキュベートする。下記酵素希釈液でG6PDHを希釈した酵素活性測定溶液0.03mLを分光光度計用セルに添加してよく混合し、30℃で予めインキュベートされた分光光度計で、340nmの吸光度変化を60秒間記録し、1分間あたりの吸光度変化(ΔOD/分)を測定する。ブランクは、酵素活性測定溶液の代わりに酵素希釈液を酵素活性測定試薬に混合して上記のように吸光度変化(ΔOD
blank/分)を測定する。前記反応速度VをΔOD/分からΔOD
blank/分を差し引いた値として算出し、各NAD濃度におけるVを記録する。
(Km測定試薬)
84mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)、40mM塩化マグネシウム、2.6mMグルコース−6−リン酸、及び0.78mM〜8.0mMのNADを含有する水溶液。
(酵素希釈液)
50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)
【0039】
各NAD濃度におけるVのデータから、SigmaPlotソフトウェア及びそのEnzyme Kinetics Wizardプログラム(株式会社ヒューリンクス)を用いて、下記計算モードによりミカエリス・メンテン定数(Km値)を算出する。
(測定モード)
Number of Substrate:1
Type of study:Single Substrate
Maximum Number of Velocity Replicates:2
Analysis:Fit to Model
Equation:Michaelis−Menten
Equation Code:Vmax*S/(Km+S)
【0040】
本明細書において、野生型G6PDHのNADに対するKm値の値を100としたときの変異型G6PDHのNADに対するKm値の相対値を算出し、該相対値が100よりも小さい値をとる変異型G6PDHは「補酵素NADに対する親和性が向上している」ことになる。即ち、前記(B)及び(C)のポリペプチドにおいて、「配列番号4に示すアミノ酸配列からなるグルコース−6−リン酸脱水素酵素と比較して補酵素NADに対する親和性が向上している」ポリペプチドの好適な具体例として、前記相対値が99以下のポリペプチド、更に好ましくは、80以下のポリペプチド、より好ましくは、65以下のポリペプチド、特に好ましくは、50以下のポリペプチド、最も好ましくは、35以下のポリペプチドが挙げられる。
【0041】
また、前記(B)及び(C)のポリペプチドは、野生型G6PDHと同等以上の耐熱性を維持していることが望ましい。具体的には、50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)に1.0mg/mlの濃度に希釈した状態にして60℃で60分間加熱処理した後に、G6PDH活性の残存率が50%以上、好ましくは90%以上、更に好ましくは96%以上であることが望ましい。ここで、G6PDH活性の残存率は、以下の式に従って算出される値である。
【数2】
【0042】
また、G6PDH活性は、下記試薬を用いて、下記測定条件で測定する。
(試薬)
100mM トリス−塩酸緩衝液(pH9.0)
22.5mM NADP
+水溶液
33.0mM グルコース−6−リン酸水溶液
1M 塩化マグネシウム水溶液
酵素活性測定試薬:上記トリス−塩酸緩衝液を25.20mL、NADP
+水溶液を1.20mL、グルコース−6−リン酸水溶液を2.40mL、および塩化マグネシウム水溶液を1.20mL混合して酵素活性測定試薬とする。
酵素活性測定溶液:ペプチド(G6PDH)を所望の濃度に希釈するための溶液(以下、「酵素希釈液」と表記することもある)として、50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)を使用し、以下の活性値が5〜10U/mLとなるように酵素の原液(以下、「酵素原液」ともいう)を希釈して酵素活性測定溶液とする。
【0043】
(測定条件)
酵素活性測定試薬3.00mLを分光光度計用セルに入れ、30℃で3分間以上プレインキュベートする。酵素活性測定溶液0.01mLを分光光度計用セルに添加してよく混合し、30℃で予めインキュベートされた分光光度計で、340nmの吸光度変化を60秒間記録し、1分間当たりの吸光度変化(ΔOD/分)を測定する。ブランクは、酵素活性測定溶液の代わりに酵素希釈液を酵素活性測定試薬に混合して上記のように吸光度変化(ΔOD
blank/分)を測定する。これらの値から、以下の式に従って1mL当たりのG6PDH活性を求める。
【数3】
【0044】
なお、前記式中、3.01は酵素活性測定試薬と酵素活性測定溶液の液量(mL)、6.22は本測定条件におけるNADP
+の分子吸光係数(cm
2/マイクロモル)、0.01は酵素活性測定溶液の液量(mL)、1.0は酵素活性測定に使用する分光光度計用セルの光路長(cm)を示す。
【0045】
2.DNA
本発明のポリペプチドをコードしているDNA(以下、「本発明のDNA」と表記することもある)は、例えば、野生型G6PDHをコードしているDNAに前記アミノ酸置換が導入されるように変異を導入することにより得ることができる。
【0046】
ここで、野生型G6PDHをコードしているDNAは、例えば、配列番号3に示される塩基配列を有する微生物、好ましくはジオバチルス属の菌株、更に好ましくはジオバチルス・ステアロサーモフィラス、特に好ましくはジオバチルス・ステアロサーモフィラスUK−563株からPCRを用いた定法により単離することができる。
【0047】
塩基配列の特定の部位に特定の変異を導入する方法は公知であり、例えばDNAの部位特異的変異導入法等が利用できる。DNA中の塩基を変換する具体的な方法としては、例えば、市販のキット(QuickChange Lightning Site−Directed Mutagenesis kit:Stratagene製、KOD−Plus−Mutagenesis kit:東洋紡製など)の利用等が挙げられる。
【0048】
このようにして得られたDNAは、DNAシーケンサーを用いて塩基配列を確認することができる。得られた塩基配列については、例えば、DNASIS(日立ソフトエンジニアリング社製)又はGENETIX(ソフトウェア開発社製)等の塩基配列解析ソフトによる解析を行うことにより、DNA中のG6PDH遺伝子のコード領域を特定することができる。
【0049】
一旦、塩基配列が確定されると、その後は化学合成、クローニングされたプローブを鋳型としたPCR、又は該塩基配列を有するDNA断片をプローブとするハイブリダイゼーションによって、前記ポリペプチドをコードするDNAを得ることができる。
【0050】
更に、部位特異的突然変異誘発法等によって前記ペプチドをコードするDNAの変異型であって変異前と同等の機能を有するものを合成することができる。なお、前記ペプチドをコードするDNAに変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法、メガプライマーPCR法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。
【0051】
本発明のDNAの塩基配列としては、前記ポリペプチドをコードしていることを限度として特に制限されないが、具体的には、配列番号52、56、62、64、66、68、70、72、76、80及び84に示す塩基配列が挙げられる。
【0052】
配列番号52は、配列番号53に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているDNAの塩基配列である。配列番号56は、配列番号57に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているDNAの塩基配列である。配列番号62は、配列番号63に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているDNAの塩基配列である。配列番号64は、配列番号65に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているDNAの塩基配列である。配列番号66は、配列番号67に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているDNAの塩基配列である。配列番号68は、配列番号69に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているDNAの塩基配列である。配列番号70は、配列番号71に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているDNAの塩基配列である。配列番号72は、配列番号73に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているDNAの塩基配列である。配列番号76は、配列番号77に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているDNAの塩基配列である。配列番号80は、配列番号81に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているDNAの塩基配列である。配列番号84は、配列番号85に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているDNAの塩基配列である。
【0053】
また、本発明のDNAの中でも、配列番号64、76及び80に示す塩基配列からなるDNA、とりわけ配列番号76に示す塩基配列からなるDNAは、補酵素NADに対する親和性が格段顕著に向上したG6PDHをコードしており、好適なDNAとして挙げられる。
【0054】
また、本発明のDNAには、G6PDH活性を有し、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるG6PDH(野生型G6PDH)と比較して補酵素NADに対する親和性が向上しているポリペプチドをコードし、且つ、配列番号52、56、62、64、66、68、70、72、76、80又は84に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列を含むDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが包含される。
【0055】
ここで、「ストリンジェントな条件下」とは、0.5%SDS、5×デンハルツ〔Denhartz’s、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコール400〕及び100μg/mlサケ精子DNAを含む6×SSC(1×SSCは、0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)中で、50℃〜65℃で4時間〜一晩保温する条件をいう。
【0056】
ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションは、具体的には、以下の手法によって行われる。即ち、DNAライブラリー又はcDNAライブラリーを固定化したナイロン膜を作成し、6×SSC、0.5% SDS、5×デンハルツ、100μg/mlサケ精子DNAを含むプレハイブリダイゼーション溶液中、65℃でナイロン膜をブロッキングする。その後、32Pでラベルした各プローブを加えて、65℃で一晩保温する。このナイロン膜を6×SSC中、室温で10分間、0.1%SDSを含む2×SSC中、室温で10分間、0.1%SDSを含む0.2×SSC中、45℃で30分間洗浄した後、オートラジオグラフィーをとり、プローブと特異的にハイブリダイズしているDNAを検出することができる。
【0057】
更に、本発明のDNAは、G6PDH活性を有し、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるG6PDH(野生型G6PDH)と比較して補酵素NADに対する親和性が向上しているポリペプチドをコードし、且つ配列番号52、56、62、64、66、68、70、72、76、80又は84に示す塩基配列からなるDNAに80%以上の相同性を有するDNAも包含される。該相同性として、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上が挙げられる。
【0058】
ここで、DNAの「相同性」とは、BLAST PACKAGE[sgi32 bit edition,Version 2.0.12;available from the National Center for Biotechnology Information(NCBI)]のbl2seq program(Tatiana A. Tatsusova,Thomas L.Madden,FEMS Microbiol.Lett.,Vol.174,247−250,1999)により得られる相同性の値を示す。パラメーターは、デフォルト設定で行う。
【0059】
本発明のDNAは、遺伝子の全合成法によって人工合成することもできる。その際、該DNAの塩基配列におけるコドン利用頻度を、使用する宿主のコドン利用頻度に最適化するよう設計したDNAを人工合成することもできる。
【0060】
コドン利用頻度を表す指標として、各コドンの宿主最適コドン利用頻度の総計を採択すればよい。最適コドンとは、同じアミノ酸に対応するコドンのうち利用頻度が最も高いコドンと定義される。コドン利用頻度は、宿主に最適化したものであれば特に限定されないが、例えば、大腸菌のコドン利用頻度の一例として以下のものが挙げられる。
F:フェニルアラニン(ttt)、L:ロイシン(ctg)、I:イソロイシン(att)、M:メチオニン(atg)、V:バリン(gtg)、Y:チロシン(tat)、終止コドン(taa)、H:ヒスチジン(cat)、Q:グルタミン(cag)、N:アスパラギン(aat)、K:リジン(aaa)、D:アスパラギン酸(gat)、E:グルタミン酸(gaa)、S:セリン(agc)、P:プロリン(ccg)、T:スレオニン(acc)、A:アラニン(gcg)、C:システイン(tgc)、W:トリプトファン(tgg)、R:アルギニン(cgc)、G:グリシン(ggc)。
【0061】
3.組換えベクター
本発明のポリペプチドをコードするDNAを含む組換えベクター(以下、本発明の組換えベクターと表記することもある)は、発現ベクターに本発明のDNAを挿入することにより得ることができる。
【0062】
本発明の組換えベクターには、本発明のDNAに作動可能に連結されたプロモーター等の制御因子が含まれる。制御因子としては、代表的にはプロモーターが挙げられるが、更に必要に応じてエンハンサー、CCAATボックス、TATAボックス、SPI部位等の転写要素が含まれていてもよい。また、作動可能に連結とは、本発明のDNAを調節するプロモーター、エンハンサー等の種々の制御因子と本発明のDNAが、宿主細胞中で作動し得る状態で連結されることをいう。
【0063】
発現ベクターとしては、宿主内で自律的に増殖し得るファージまたはプラスミドから遺伝子組換え用として構築されたものが適している。
【0064】
ファージとしては、例えば、後述する大腸菌を宿主とする場合には、Lambda gt10、Lambda gt11等が挙げられる。
【0065】
プラスミドとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、pBR322、pUC18、pUC118、pUC19、pUC119、pTrc99A、pBluescript、及びコスミドであるSuper Cos Iが挙げられる。
【0066】
宿主としてシュードモナスを用いる場合には、グラム陰性菌用広宿主域ベクターであるRSF1010、pBBR122、及びpCN51等が挙げられる。更に、レトロウイルス及びワクシニアウイルス等の動物ウイルス、並びにバキュロウイルス等の昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0067】
4.形質転換体
本発明の組換えベクターを用いて宿主を形質転換することによって形質転換体(以下、「本発明の形質転換体」と表記することもある)が得られる。
【0068】
形質転換体の製造に使用される宿主としては、組換えベクターが安定であり、且つ自律増殖可能で外来性遺伝子の形質を発現できるのであれば特に制限されないが、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属等に属する細菌;酵母;COS細胞等の動物細胞;Sf9等の昆虫細胞;アブラナ科等に属する植物体全体、植物器官(例えば、葉、花弁、茎、根及び種子等)、植物組織(例えば、表皮、師部、柔組織、木部および維管束等)、植物培養細胞等が挙げられる。これらの中でも大腸菌が好ましく、大腸菌DH5α、大腸菌BL21および大腸菌XL−1 Blue MRがより好ましい。
【0069】
本発明の形質転換体は、宿主に本発明の組換えベクターを導入することによって得ることができ、宿主に組換えベクターを導入する条件は、宿主の種類等に応じて適宜設定すればよい。宿主が細菌の場合であれば、例えば、カルシウムイオン処理によるコンピテントセル用いる方法及びエレクトロポレーション法等が挙げられる。宿主が酵母の場合であれば、例えば、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、スフェロプラスト法及び酢酸リチウム法等が挙げられる。宿主が動物細胞の場合であれば、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法及びリポフェクション法等が挙げられる。宿主が昆虫細胞の場合であれば、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法及びエレクトロポレーション法等が挙げられる。宿主が植物胞の場合であれば、例えば、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法及びPEG法等が挙げられる。
【0070】
本発明の組換えベクターが宿主に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法およびノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。
【0071】
PCR法よって本発明の組換えベクターが宿主に組み込まれたか否かを確認する場合、例えば、形質転換体から組換えベクターを分離・精製すればよい。
【0072】
組換えベクターの分離・精製は、例えば、宿主が細菌の場合、細菌を溶菌して得られる溶菌物に基づいて行われる。溶菌の方法としては、例えばリゾチームなどの溶菌酵素により処理が施され、必要に応じてプロテアーゼ及び他の酵素並びにラウリル硫酸ナトリウム(SDS)等の界面活性剤が併用される。
【0073】
更に、凍結融解及びフレンチプレス処理のような物理的破砕方法を組み合わせてもよい。溶菌物からのDNAの分離・精製は、例えば、フェノール処理およびプロテアーゼ処理による除蛋白処理、リボヌクレアーゼ処理、アルコール沈殿処理並びに市販のキットを適宜組み合わせることにより行うことができる。
【0074】
DNAの切断は、常法に従い、例えば制限酵素処理を用いて行うことができる。制限酵素としては、例えば特定のヌクレオチド配列に作用するII型制限酵素を用いる。DNAと発現ベクターとの結合は、例えばDNAリガーゼを用いて行う。
【0075】
その後、分離・精製したDNAを鋳型として、本発明のDNAに特異的なプライマーを設計してPCRを行う。PCRにより得られた増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウムおよびSYBR Green液等により染色し、そして増幅産物をバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。
【0076】
また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光および酵素反応等により増幅産物を確認する方法も採用してもよい。
【0077】
4.ポリペプチドの製造
本発明のポリペプチドは、本発明の形質転換体を培養することによって製造することができる。
【0078】
本発明の形質転換体の培養形態は、宿主の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよいが、好ましくは液体培養が挙げられる。工業的には通気攪拌培養を行うのが有利である。
【0079】
培地の栄養源としては、形質転換体の生育に必要とされるものが使用され得る。炭素源としては、資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、糖蜜、ピルビン酸等が挙げられる。
【0080】
窒素源としては、資化可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物が挙げられる。
【0081】
炭素源及び窒素源の他に、例えば、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガンおよび亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸並びに特定のビタミンなどを必要に応じて使用してもよい。
【0082】
培養温度は、本発明の形質転換体が生育可能であり、且つ本発明の形質転換体が本発明のポリぺプチドを産生する範囲で適宜設定し得るが、好ましくは15〜37℃程度である。培養は、本発明のポリペプチドが最高収量に達する時期を見計らって適当時期に完了すればよく、通常は培養時間が12〜48時間程度である。
【0083】
培地のpHは、宿主が発育し、宿主が変異型G6PDHを産生する範囲で適宜変更し得るが、好ましくはpH5.0〜9.0程度の範囲である。
【0084】
本発明の形質転換体を培養し、培養液を遠心分離などの方法により培養上清または菌体を回収し、菌体は超音波およびフレンチプレスといった機械的方法又はリゾチーム等の溶菌酵素により処理を施し、必要に応じてプロテアーゼ等の酵素やラウリル硫酸ナトリウム(SDS)等の界面活性剤を使用することにより可溶化し、本発明のポリペプチドを含む水溶性画分を得ることができる。
【0085】
また、適当な発現ベクターと宿主を選択することにより、発現した本発明のポリペプチドを培養液中に分泌させることもできる。
【0086】
上記のようにして得られた本発明のポリペプチドを含む水溶性画分は、そのまま精製処理に供してもよいが、該水溶性画分中の本発明のポリペプチドを濃縮した後に精製処理に供してもよい。
【0087】
濃縮は、例えば、減圧濃縮、膜濃縮、塩析処理、親水性有機溶媒(例えば、メタノール、エタノールおよびアセトン)による分別沈殿法等により行うことができる。
【0088】
本発明のポリペプチドの精製処理は、例えば、ゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の方法を適宜組み合わせることによって行うことができる。
【0089】
前記精製処理は既に公知であり、適当な文献、雑誌及び教科書等を参照することで進めることができる。このようにして精製された本発明のポリペプチは、必要に応じて、凍結乾燥、真空乾燥、スプレードライ等により粉末化して市場に流通させることができる。
【実施例】
【0090】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、以下、参考例及び実施例において、特に言及しない限り、G6PDH活性の測定、NADに対するKm値の測定等は、前述する条件にて行った。
【0091】
参考例1:野生型G6PDH遺伝子の取得および発現用組換えベクターの取得
(1−1)野生型G6PDH遺伝子の単離と配列解読
ジオバチルス・ステアロサーモフィラスUK−563株の水懸濁液、配列番号1及び配列番号2に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(オペロンバイオテクノロジー株式会社製)を準備した。表1に示すPCR反応溶液を調製し、98℃:10秒、54℃:30秒、68℃:90秒のPCR反応を30サイクル実施した。
【0092】
【表1】
【0093】
アガロースゲル電気泳動の結果、約1.5kbpのDNA断片が増幅されたことを確認した。0.5μlの該PCR反応液、及びZero Blunt(登録商標)TOPO(登録商標)PCR Cloning kit(インビトロジェン社製)に添付の試薬、及び取扱説明書の方法に従って、表2の反応溶液を調整した。
【0094】
【表2】
【0095】
該反応溶液を室温で5分間インキュベートし、PCR反応により増幅された約1.5kbpのDNA断片を、クローニングベクターのpCRII−Blunt−TOPO(登録商標)に結合させた。1μlの該反応溶液を10μlの大腸菌TOP10ケミカルコンピテントセルに添加し、42℃のヒートショックにより形質転換させ、LB寒天培地(1.0%トリプトン、0.5%酵母エキス、1.0%塩化ナトリウム、1.5%寒天、0.1g/mlアンピシリン)上で、37℃、18時間培養して形質転換体のコロニーを出現させた。単一コロニーをLB液体培地に植菌し、一晩培養した後、アルカリ−SDS法によりプラスミドを精製した。該プラスミドDNA、M13 Forward(−20)Primer、及びM13 Reverse Primerを材料にDNAシーケンスを実施し、上記1.5kbpのDNAの塩基配列を解読したところ、配列番号3の塩基配列であることが判明し、該DNAがコードするポリペプチドは配列番号4に示すアミノ酸配列からなることが確認された。
【0096】
配列番号4に示すアミノ酸配列をNational Center for Biotechnology Information(NCBI)のデータベースに照会したところ、完全に一致する配列データは存在しなかったものの、既に同定されているジオバチルス・ステアロサーモフィラス10株由来G6PDHのアミノ酸配列と6アミノ酸残基を除くすべてが一致しており、相同性が極めて高いことから、新規のG6PDHであることが推定された。
【0097】
以下、塩基配列の解読に使用したプラスミドをpTOPOG6PDHともいう。
【0098】
(1−2)発現用ベクター
発現用ベクターにはpTrc99A(Pharmacia Biotech製)を選択した。pTrc99Aはマルチクローニング部位(MCS)の上流にtrcプロモーター配列、MCSの下流に転写終了シグナル配列を含有する。MCS内には制限酵素NcoI認識配列、及び制限酵素BamHI認識配列が含まれ、NcoI認識配列はtrcプロモーター配列に並列しているため、翻訳開始コドンのATGをもつDNA断片を結合させることにより、直接発現させることができる。pTrc99Aのサイズは約4.2kbpである。
【0099】
(1−3)発現ベクターの前処理
以下の手順により、発現用組換えベクターを得るためのpTrc99Aの前処理を行なった。表3に示す反応溶液を調製し、37℃で3時間インキュベートすることにより、約2μgのpTrc99Aを制限酵素NcoI(タカラバイオ株式会社製)により切断した。
【0100】
【表3】
【0101】
該反応溶液をアガロースゲル電気泳動に供して約4.2kbpのDNA断片を切り出した。Wizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean−Up System(プロメガ株式会社製)を使用して該DNA断片を精製した。精製された該DNA断片の末端をBlunting high(東洋紡株式会社製)を用いて平滑化し、該DNA断片を精製した。表4に示す反応溶液を調整し、30℃で3時間インキュベートすることにより、約1μgの平滑化処理した該DNA断片を、制限酵素BamHI(タカラバイオ株式会社製)により切断した。
【0102】
【表4】
【0103】
該反応溶液を、上記の電気泳動及びゲル抽出の手順により精製し、以下の発現用組換えベクターの合成に使用した。
【0104】
(1−4)G6PDH遺伝子の前処理
以下の手順により、発現用組換えベクターを得るための前処理を行なった。配列番号5、配列番号6に記載のオリゴヌクレオチドDNAを準備した。表5に示すPCR反応溶液を調整し、98℃:10秒、52℃:30秒、68℃:90秒のPCR反応を18サイクル実施した。
【0105】
【表5】
【0106】
該PCR反応溶液の一部をアガロースゲル電気泳動に供して約1.5kbのDNA断片が増幅されたことを確認し、該PCR反応溶液をエタノール沈殿に供し、該DNA断片を精製した。精製された該DNA断片を、ベクターと同様に制限酵素BamHIで処理し、上記のアガロースゲル電気泳動ならびにゲル抽出の手順により精製し、以下の発現用組換えベクターの合成に使用した。
【0107】
(1−5)発現用組換えベクターの合成
上記のように前処理したpTrc99AのDNA断片とG6PDHのDNA断片を、Ligation high(東洋紡株式会社製)を用いてT4リガーゼの作用により結合させた。1μlの該反応溶液を10μlの大腸菌DH5αケミカルコンピテントセル(タカラバイオ株式会社製)に添加し、42℃のヒートショックにより形質転換させ、LB寒天培地上で、37℃、18時間培養して形質転換体のコロニーを出現させた。表5の鋳型DNA以外を混合したPCR反応溶液を使用したコロニーPCRにより、G6PDH断片を含む形質転換体のコロニーを選抜し、該コロニーをLB液体培地に植菌し、一晩培養した後、アルカリ−SDS法によりプラスミドを精製した。
【0108】
該プラスミドDNA、配列番号7、配列番号8、及び配列番号9に示すオリゴヌクレオチドを材料にDNAシーケンスした結果、配列番号3に示す配列からなるDNA断片が、pTrc99AのNcoI認識配列とBamHI認識配列の間に結合されていることを確認した。以下、該プラスミドをpTrcG6PDHともいう。
【0109】
参考例2:野生型G6PDHの組換え発現、耐熱性評価、及び精製
(2−1)形質転換体の作製と培養
pTrcG6PDHにより大腸菌BL21(タカラバイオ株式会社製)を形質転換した形質転換体のコロニーを用意した。比較用に、pTrc99Aにより大腸菌BL21を形質転換した形質転換体のコロニーも用意した。
【0110】
それぞれのコロニーを2mLの100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地に植菌して37℃で16時間振とう培養し、得られたLB培養液を予めオートクレーブ滅菌した100μg/mLのアンピシリン及び0.2mMのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(和光純薬工業株式会社製)を含む100mLのTerrific培養液(1.2%トリプトン、2.4%酵母エキス、0.4%グリセロール、0.23%リン酸二水素カリウム、1.25%リン酸水素二カリウム)へ植菌した。該培養液はそれぞれ37℃で22時間培養した。
【0111】
(2−2)活性測定と耐熱性評価
培養後の形質転換体を6,000×gで10分間、遠心分離して回収し、20mMトリス緩衝液(pH9.0)を40ml添加して菌体を懸濁し、超音波破砕により破砕した。該破砕液を10,000×gで20分間、遠心分離して上清を回収した。該上清を、粗酵素液として活性測定に使用した。
【0112】
同時に、該粗酵素液を60℃で60分間、熱処理し、熱処理後のサンプルの活性も測定した。比較例として、ロイコノストック・メセンテロイデス由来G6PDH(SIGMA製)の熱処理前後の酵素活性も測定した。活性測定の結果と耐熱性評価の結果を表6に示す。
【0113】
【表6】
【0114】
pTrc99Aを形質転換した形質転換体から調整した粗酵素液の酵素活性は0.1U/mLであった。一方でpTrcG6PDHを形質転換した形質転換体から調整した粗酵素液の酵素活性は28.9U/mLであり、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス由来G6PDH遺伝子に特異的なG6PDH活性が確認された。熱処理後の、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス由来G6PDH粗酵素液の酵素活性は28.0U/mLであり、活性を96.9%保持していた。一方で、比較例として使用したロイコノストック・メセンテロイデス由来G6PDHは完全失活した。
【0115】
以上の結果より、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス由来G6PDH(配列番号4)は、任意のベクターと宿主の組合せによる形質転換体を培養することにより製造でき、かつ上記製造法により製造されるG6PDHは60℃で60分間の熱処理にも95%以上の活性を保持する耐熱性G6PDHであることが明らかになった。この性質は、形質転換体からの酵素精製において、G6PDH活性を維持したまま熱処理による宿主タンパク質の変性と除去が可能であるので、精製工程の短縮に有利である。
【0116】
(2−3)精製
前記粗酵素液を用いてG6PDHを精製した。該粗酵素液を60℃で60分間、熱処理した後、急冷した。10,000×g、40分間の遠心分離により変性したタンパク質を含む宿主由来の共雑物を沈殿させ、上清を回収した。20mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)で平衡化したRESOURCE Qカラム(GEヘルスケア製)に吸着させた。0M〜1Mの塩化ナトリウムの濃度勾配によりG6PDH活性画分が溶出された。該G6PDH活性画分に40%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加し、40%飽和硫安を含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)で平衡化したRESOURCE PHEカラム(GEヘルスケア製)に吸着させた。40%〜0%飽和硫安の濃度勾配により、G6PDH活性画分が溶出された。該画分を回収してAmicon(登録商標)Ultra−15(ミリポア社製)により濃縮し、20mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)にバッファー交換した。得られたG6PDH活性画分をSDS−PAGEに供し、約55kDaの単一のバンドのみが観察されたので、精製G6PDHとした。以下、本酵素を単に野生型G6PDHと表記することもある。
【0117】
実施例1:野生型G6PDH遺伝子への部位特異的変異導入、組換え発現、及び変異型G6PDHの精製
(3−1)部位特異的変異導入
野生型G6PDHのアミノ酸配列(配列番号4に示すアミノ酸配列)の46番目のアルギニン(R)を別のアミノ酸残基に変更するように設計した表7に示すオリゴヌクレオチドを材料に、PCRによる部位特異的変異導入を行なった。オリゴヌクレオチドは、配列番号3に示す塩基配列の124番目から150番目の間において、アルギニンのコドン(CGC)を置換するように設計し、その相補鎖も設計した。例えば、R46F変異体の作成には、前記コドン(CGC)をフェニルアラニンのコドン(TTC)に置換した配列番号10に示すオリゴヌクレオチドと、その相補鎖の配列番号11に示すオリゴヌクレオチドを使用した。PCRの鋳型には前記pTrcG6PDHを用い、試薬には市販のQuikChange Lightning Site−Directed Mutagenesis Kit(アジレントテクノロジー社製)を使用し、方法はキットに添付の取扱説明書に従った。
【0118】
【表7】
【0119】
前記19種類の部位特異的変異導入反応溶液1μlを夫々10μlの大腸菌DH5αケミカルコンピテントセルに添加し、42℃のヒートショックにより形質転換させ、LB寒天培地上で、37℃、18時間培養して形質転換体のコロニーを出現させた。該コロニーをLB液体培地に植菌し、一晩培養した後、アルカリ−SDS法によりプラスミドを精製した。該プラスミドDNA、配列番号7、配列番号8、及び配列番号9に示すオリゴヌクレオチドを材料にDNAシーケンスした結果、19種類の変異が夫々導入され、PCRによる予期しない突然変異が含まれない塩基配列であることを確認した。すなわち、変異体R46F遺伝子は配列番号48に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号49に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46L遺伝子は配列番号50に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号51に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46I遺伝子は配列番号52に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号53に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46M遺伝子は配列番号54に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号55に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46V遺伝子は配列番号56に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号57に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46Y遺伝子は配列番号58に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号59に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46H遺伝子は配列番号60に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号61に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46Q遺伝子は配列番号62に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号63に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46N遺伝子は配列番号64に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号65に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46K遺伝子は配列番号66に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号67に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46D遺伝子は配列番号68に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号69に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46E遺伝子は配列番号70に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号71に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46S遺伝子は配列番号72に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号73に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46P遺伝子は配列番号74に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号75に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46T遺伝子は配列番号76に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号77に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46A遺伝子は配列番号78に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号79に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46C遺伝子は配列番号80に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号81に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46W遺伝子は配列番号82に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号83に示すアミノ酸配列をコードしていた。変異体R46G遺伝子は配列番号84に示す塩基配列であって、該塩基配列は配列番号85に示すアミノ酸配列をコードしていた。
【0120】
(3−2)変異型G6PDHの組換え発現と精製
前記19種類の変異体遺伝子を含む組換えベクターを夫々用いて、参考例2に記載した方法に従って形質転換体を取得し、培養することにより変異型G6PDHを発現させた。培養液を一部回収して遠心分離により形質転換体を回収し、1mlの20mMトリス緩衝液(pH9.0)に懸濁して超音波破砕し、遠心分離した上清を粗酵素液として活性測定に供した。いずれの変異体もG6PDH活性が検出されたので、参考例2に記載した方法に従って精製した。
【0121】
実施例2:変異型G6PDHの補酵素NADへの親和性、及び耐熱性の比較
(4−1)補酵素NADへの親和性の比較
参考例2で精製された野生型G6PDH、及び実施例1で精製された19種類の変異体G6PDHを用いて、補酵素NADへの親和性の指標である「NADに対するKm値」を求めた。
【0122】
Km値測定用試薬は84mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)、40mM塩化マグネシウム、2.6mMグルコース−6−リン酸、及び0.78mM〜8.0mMのNADとなるように夫々調整した。50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)で希釈した夫々の精製酵素を用いて、各NAD濃度に調整したKm値測定用試薬により酵素活性を測定した。縦軸に酵素活性、横軸にNAD濃度をプロットしたミカエリス−メンテンプロットを作成し、縦軸のVmaxが半分になるときのNAD濃度をNADに対するKm値として、SigmaPlot(ヒューリンクス社製)を用いてNADに対するKm値を求めた。野生型G6PDHのNADに対するKm値を100%としたときの変異体の相対値(Km
NAD相対値)を表8に示す。
【0123】
【表8】
【0124】
表8より、変異体R46I、変異体R46V、変異体R46Q、変異体R46N、変異体R46K、変異体R46D、変異体R46E、変異体R46S、変異体R46T、変異体R46C、及びR46GのKm値は、野生型G6PDHに対して低下しており、補酵素NADに対する親和性が向上したことが判明した。特に、R46N、R46T、及びR46Cの効果が顕著であった。
【0125】
(4−2)耐熱性の比較
前記野生型G6PDH及び19種類の変異型G6PDHを50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)でタンパク質濃度が1.0mg/mlとなるように希釈した。希釈した酵素液を60℃で60分間、加熱熱処理した。加熱処理後のG6PDH活性の残存率(%)を表9に示す。比較例として、ロイコノストック・メセンテロイデス由来G6PDH(SIGMA製)の測定結果も示す。
【0126】
【表9】
【0127】
表9に示すように、精製した野生型G6PDHの残存率は96%であり、19種の変異型G6PDHの残存率は野生型G6PDHと殆ど同じであった。これにより、46番目のアルギニンを変異させることが耐熱性に影響しないことが示された。また、比較例に使用したロイコノストック・メセンテロイデス由来G6PDHは同様の熱処理により完全に失活したことから、相対的に、本発明の野生型G6PDH、及び変異型G6PDHは耐熱性が高いことが示された。