特許第6398313号(P6398313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニプロ株式会社の特許一覧

特許6398313熱安定性アシルCoAオキシダーゼ及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398313
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】熱安定性アシルCoAオキシダーゼ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/04 20060101AFI20180920BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20180920BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20180920BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20180920BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20180920BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20180920BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
   C12N9/04 Z
   C12N15/53ZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12P21/02 C
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-102890(P2014-102890)
(22)【出願日】2014年5月16日
(65)【公開番号】特開2015-216876(P2015-216876A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】中村大祐
(72)【発明者】
【氏名】八尾 理文
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆
【審査官】 布川 莉奈
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/006733(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12N 9/00− 9/99
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(1)〜(23)に示すアミノ酸置換の群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換が導入されているアミノ酸配列からなるポリペプチド:
(1)配列番号1に示すアミノ酸配列における164番目がアスパラギンに置換、244番目がシステインに置換、及び459番目がスレオニンに置換、
(2)配列番号1に示すアミノ酸配列における164番目がアスパラギンに置換、244番目がシステインに置換、及び349番目がスレオニンに置換、
(3)配列番号1に示すアミノ酸配列における164番目がアスパラギンに置換、244番目がシステインに置換、及び325番目がアルギニンに置換、
(4)配列番号1に示すアミノ酸配列における164番目がアスパラギンに置換、244番目がシステインに置換、及び360番目がリジンに置換、
(5)配列番号1に示すアミノ酸配列における164番目がアスパラギンに置換、及び244番目がシステインに置換、
(6)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目がシステインに置換、及び459番目がスレオニンに置換、
(7)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目がシステインに置換、及び360番目がリジンに置換、
(8)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目がシステインに置換、及び421番目がグルタミンに置換、
(9)配列番号1に示すアミノ酸配列における614番目がチロシンに置換、
(10)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目がシステインに置換、及び253番目がバリンに置換
(11)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目がシステインに置換、及び557番目がヒスチジンに置換、
(12)配列番号1に示すアミノ酸配列における439番目がフェニルアラニンに置換、
(13)配列番号1に示すアミノ酸配列における122番目がフェニルアラニンに置換、及び244番目がシステインに置換、
(14)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目がシステインに置換、及び349番目がスレオニンに置換、
(15)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目がシステインに置換、及び398番目がグリシンに置換。
(16)配列番号1に示すアミノ酸配列における103番目がバリンに置換、及び244番目がシステインに置換、
(17)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目がシステインに置換、
(18)配列番号1に示すアミノ酸配列における421番目(アラニン)がグルタミンに置換、
(19)配列番号1に示すアミノ酸配列における349番目がスレオニンに置換、
(20)配列番号1に示すアミノ酸配列における588番目がプロリンに置換、
(21)配列番号1に示すアミノ酸配列における122番目がフェニルアラニンに置換、
(22)配列番号1に示すアミノ酸配列における103番目がバリンに置換、
(23)配列番号1に示すアミノ酸配列における253番目がバリンに置換。
【請求項2】
下記(A)又は(B)のいずれかに示す請求項1に記載のポリペプチド:
(A)前記アミノ酸置換部位以外のアミノ酸の1個又は数個が置換、付加、挿入又は欠失されてなり、且つ、アシルCoAオキシダーゼ活性を有し、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるアシルCoAオキシダーゼと比較して熱安定性が向上しているポリペプチド、
(B)配列番号1に示すアミノ酸配列に対する前記アミノ酸置換部位を除いた配列同一性が90%以上であり、且つ、アシルCoAオキシダーゼ活性を有し、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるアシルCoAオキシダーゼと比較して熱安定性が向上しているポリペプチド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリペプチドをコードしているDNA。
【請求項4】
配列番号4に示す塩基配列からなるDNAである、請求項3に記載のDNA。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のDNAを含む組換えベクター。
【請求項6】
請求項5に記載の組換えベクターにより宿主を形質転換して得られる形質転換体。
【請求項7】
請求項6に記載の形質転換体を培養する工程を含む、請求項1又は2に記載のポリペプチドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱安定性が改良された改変型アシルCoAオキシダーゼ(ACOD)に関し、詳しくはアシルCoAの酸化反応を触媒するACODの特定のアミノ酸を他のアミノ酸に変更することにより、熱安定性が改良された改変型ACODに関する。また、本発明は、該酵素のアミノ酸配列をコードする遺伝子、該遺伝子を含む組換えベクター、該ベクターにより得られる形質転換体、及び該形質転換体を用いる改変型ACODの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ACODは、以下の反応式で示されるように、アシルCo−Aを酸化してエノイルCoAと過酸化水素に変換する触媒作用を有し、酵素番号E.C.1.3.3.6として知られている(非特許文献1参照)。
【化1】
【0003】
ACODは、例えば、遊離脂肪酸の測定、脂肪酸のβ酸化系を利用する化学変換等が求められる分野において産業上利用されている。特に、臨床診断の分野では、血清中の遊離脂肪酸が様々な疾患の指標となることから、遊離脂肪酸の測定が極めて重要なものとなっている。具体的には、遊離脂肪酸が増加する疾患には、糖尿病、甲状腺機能亢進症、心筋梗塞、Von Gierke病、末端肥大症、急性膵炎、褐色細胞腫、Cushing症候群、肝不全等が知られており、また遊離脂肪酸が減少する疾患には、甲状腺機能低下症、アジソン病、汎下垂体機能低下症、インスリノーマ等が知られており(非特許文献2)、これらの疾患の診断には、血清中の遊離脂肪酸の測定が有効とされている。
【0004】
血清中の遊離脂肪酸の測定において酵素を使用する方法は、いくつか知られているが、ACODを用いる方法は、特異性が高く、簡便であることから広く一般的に用いられている(非特許文献3、特許文献1参照)。
ACODを用いて血清中の遊離脂肪酸を測定する原理は以下の通りである。血清中に、コエンザイムA(CoA)、アデノシン3リン酸(ATP)及びアシルCoAシンターゼ等を含有する第一試薬を添加し、血清中の遊離脂肪酸からアシルCoAを生成させる(第1反応)。これにアシルCoAオキシダーゼを含有する第二試薬を添加すると、アシルCoAが酸化されて過酸化水素が発生する(第2反応)。第二試薬にペルオキシダーゼと発色試薬を共存させると、発生する過酸化水素により発色するので、これを測定することにより遊離脂肪酸を定量できる。以下に反応式を示す。
【化2】
【0005】
また、ACODは、哺乳動物、植物、微生物等広く存在することが知られている。例えば、哺乳類由来のものとしては、マウス由来(非特許文献4参照)、ラット由来(非特許文献5参照)、ヒト由来(非特許文献6参照)等の報告がある。植物由来としては、カボチャ由来(非特許文献7参照)、大豆由来(非特許文献8参照)、シロイヌナズナ由来(非特許文献9参照)等が知られている。また微生物由来としては、Candida lipolytica(Yarrowia lipolytica)由来(非特許文献10参照)、Saccharomyces cerevisiae由来(非特許文献11参照)、Candida maltosa由来(非特許文献12参照)、アルスロバクター属由来(非特許文献13参照)等が知られている。これらのACODの中には既に遺伝子のクローニングに成功し、組み換え体によって生産されている例もある。特に、Arthrobacter ureafaciens由来のACODは、血清中の遊離脂肪酸の測定において使用されるSH試薬に対する安定性が優れた酵素として見出されている(特許文献1)。SH試薬は、血清中の遊離脂肪酸の測定において、過剰に加えられるCoAが発色を妨害することを回避するために添加される試薬である。
【0006】
一方、近年、先進国では質量分析器による多項目同時臨床検査による診断が増加しているが、発展途上国では質量分析器による臨床検査は費用が高いことから酵素法や色素法のように安価な診断薬が用いられている。発展途上国においては、診断薬の輸送の条件も高温にさらされるなど劣悪な環境での輸送となるため、診断薬用途の酵素は熱安定性が非常に重要となっている。
【0007】
上記の従来のACODは、常温由来であるが故に安定性の点で欠点があり、そのため、精製時に失活し易く、更には遊離脂肪酸測定用試薬として用いる場合には保存安定性の低さが問題であった。多くの2液系測定試薬が溶液状態で供給されているのに対し、現在広く用いられている遊離脂肪酸測定試薬は、ACODの溶液安定性の低さから凍結乾燥状態のACODとバッファーが別々に供給されており、測定前にACODをバッファーに溶解する必要がある上に、溶解後は長時間の保存ができないという欠点がある。例えば、市販品のACODは、pH7.0のphosphate buffer中で55℃、10分の熱処理により活性が殆どなくなってしまう。一方、保存安定性に優れた酵素を得る方法として、従来から最適生育温度が常温より著しく高い(65〜80℃)高度好熱性細菌や古細菌から目的酵素を探索する方法が知られている。しかしながら、ACODは高度高熱性細菌や古細菌には見出されておらず、これらの細菌ではアシルCoAデヒドロゲナーゼがβ酸化の役割を担っていることが知られているため、この手法による熱安定化ACODの取得は不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4257730号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】酵素ハンドブック[第3版]、 朝倉書店、2012年
【非特許文献2】日本臨床 53−増−611〜614(1995)
【非特許文献3】Anal. Biochem., 130(1):128-133(1983)
【非特許文献4】Eur J Biochem. 2000 Feb;267(4):1254−60.
【非特許文献5】J Biol Chem. 1984 Feb 25;259(4):2031−4.
【非特許文献6】Biochem J. 1984 Dec 15;224(3):709−20.
【非特許文献7】J Biol Chem. 1998 Apr 3;273(14):8301−7.
【非特許文献8】Plant Mol Biol. 2001 Nov;47(4):519−31.
【非特許文献9】Plant J. 1999 Oct;20(1):1−13.
【非特許文献10】J Biochem. 1980 Nov;88(5):1481‐6.
【非特許文献11】Eur J Biochem. 1988 Jun 1;174(2):297−302.
【非特許文献12】Nucleic Acids Res. 1988 Jan 11;16(1):365‐6.
【非特許文献13】Biochim Biophys Acta. 2007 Jan;1774(1):65−71.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、優れた安定性を備え、臨床検査において常用される温度(30〜37℃)でも十分活性が示されるACODを提供することである。更に、本発明の目的は、該ACOD生産に必要な遺伝子、該遺伝子を含む組換えベクター、該ベクターにより得られる形質転換体、該形質転換体を用いるACODの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、アルスロバクター・グロビフォルミス由来のACODのアミノ酸配列において特定のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、常温(30〜37℃程度)におけるACOD活性を備えつつ、熱安定性や溶液中での安定性を飛躍的に向上させ得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0012】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 下記(A)〜(C)のいずれかに示すポリペプチド:
(A)配列番号1に示すアミノ酸配列における、244番目、164番目、459番目、421番目、360番目、614番目、439番目、557番目、103番目、122番目、253番目、325番目、349番目、398番目及び588番目よりなる群から選択される少なくとも1つアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)配列番号1に示すアミノ酸配列における、244番目、164番目、459番目、421番目、360番目、614番目、439番目、557番目、103番目、122番目、253番目、325番目、349番目、398番目及び588番目よりなる群から選択される少なくとも1つアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列において、前記アミノ酸置換部位以外のアミノ酸の1個又は数個が置換、付加、挿入又は欠失されてなり、且つ、アシルCoAオキシダーゼ活性を有し、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるアシルCoAオキシダーゼと比較して安定性が向上しているポリペプチド、
(C)配列番号1に示すアミノ酸配列における、244番目、164番目、459番目、421番目、360番目、614番目、439番目、557番目、103番目、122番目、253番目、325番目、349番目、398番目及び588番目よりなる群から選択される少なくとも1つアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列において、配列番号1に示すアミノ酸配列に対する前記アミノ酸置換部位を除いた配列同一性が80%以上であり、且つ、アシルCoAオキシダーゼ活性を有し、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるアシルCoAオキシダーゼと比較して安定性が向上しているポリペプチド。
項2. 次の(1a)〜(15a)の群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換が導入されている、項1に記載のポリペプチド:
(1a)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目が、非電荷アミノ酸、アスパラギン酸以外の酸性アミノ酸、非極性アミノ酸又は塩基性アミノ酸に置換、
(2a)配列番号1に示すアミノ酸配列における164番目が、非電荷アミノ酸又は非極性アミノ酸に置換、
(3a)配列番号1に示すアミノ酸配列における459番目が、非電荷アミノ酸、アラニン以外の非極性アミノ酸又は塩基性アミノ酸に置換、
(4a)配列番号1に示すアミノ酸配列における421番目が、非電荷アミノ酸又はアラニン以外の非極性アミノ酸に置換、
(5a)配列番号1に示すアミノ酸配列における360番目が、塩基性アミノ酸又は非極性アミノ酸に置換、
(6a)配列番号1に示すアミノ酸配列における614番目が、非電荷アミノ酸、アルギニン以外の塩基性アミノ酸又は非極性アミノ酸に置換、
(7a)配列番号1に示すアミノ酸配列における439番目が、非極性アミノ酸、チロシン以外の非電荷アミノ酸、酸性アミノ酸又は塩基性アミノ酸に置換、
(8a)配列番号1に示すアミノ酸配列における557番目が、塩基性アミノ酸、非電荷アミノ酸又は非極性アミノ酸に置換
(9a)配列番号1に示すアミノ酸配列における103番目が、非極性アミノ酸に置換、
(10a)配列番号1に示すアミノ酸配列における122番目が、トリプトファン以外の非極性アミノ酸に置換、
(11a)配列番号1に示すアミノ酸配列における253番目が、イソロイシン以外の非極性アミノ酸に置換、
(12a)配列番号1に示すアミノ酸配列における325番目が、塩基性アミノ酸又はスレオニン以外の非電荷アミノ酸に置換、
(13a)配列番号1に示すアミノ酸配列における349番目が、非電荷アミノ酸又はアルギニン以外の塩基性アミノ酸に置換、
(14a)配列番号1に示すアミノ酸配列における398番目が、非電荷アミノ酸に置換、
(15a)配列番号1に示すアミノ酸配列における588番目が、非極性アミノ酸に置換。
項3. 次の(1a)〜(23a)の群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換が導入されている、項1又は2に記載のポリペプチド:
(1a)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目が、システインに置換、
(2a)配列番号1に示すアミノ酸配列における164番目が、アスパラギンに置換、
(3a)配列番号1に示すアミノ酸配列における459番目が、スレオニンに置換、
(4a)配列番号1に示すアミノ酸配列における421番目が、グルタミンに置換、
(5a)配列番号1に示すアミノ酸配列における360番目が、リジンに置換、
(6a)配列番号1に示すアミノ酸配列における614番目が、チロシンに置換、
(7a)配列番号1に示すアミノ酸配列における439番目が、フェニルアラニンに置換、
(8a)配列番号1に示すアミノ酸配列における557番目が、ヒスチジンに置換
(9a)配列番号1に示すアミノ酸配列における103番目が、バリンに置換、
(10a)配列番号1に示すアミノ酸配列における122番目が、フェニルアラニンに置換、
(11a)配列番号1に示すアミノ酸配列における253番目が、バリンに置換、
(12a)配列番号1に示すアミノ酸配列における325番目が、アルギニンに置換、
(13a)配列番号1に示すアミノ酸配列における349番目が、スレオニンに置換、
(14a)配列番号1に示すアミノ酸配列における398番目が、グリシンに置換、
(15a)配列番号1に示すアミノ酸配列における588番目が、プロリンに置換。
項4. 次の(1b)〜(23b)に示すアミノ酸置換の群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換が導入されている、項1〜3のいずれかに記載のポリペプチド:
(1b)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目、164番目、及び459番目が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(2b)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目、164番目、及び349番目が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(3b)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目、164番目、及び325番目が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(4b)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目、164番目、及び360番目が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(5b)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目、及び164番目が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(6b)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目、及び459番目が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(7b)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目、及び360番目が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(8b)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目、及び421番目が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(9b)配列番号1に示すアミノ酸配列における614番目が、他のアミノ酸に置換、
(10b)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目、及び253番目が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(11b)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目、及び557番目が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(12b)配列番号1に示すアミノ酸配列における439番目が、他のアミノ酸に置換、
(13b)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目、及び122番目が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(14b)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目、及び349番目が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(15b)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目、及び398番目が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(16b)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目、及び103番目が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(17b)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目が、他のアミノ酸に置換、
(18b)配列番号1に示すアミノ酸配列における421番目が、他のアミノ酸に置換、
(19b)配列番号1に示すアミノ酸配列における349番目が、他のアミノ酸に置換、
(20b)配列番号1に示すアミノ酸配列における588番目が、他のアミノ酸に置換、
(21b)配列番号1に示すアミノ酸配列における122番目が、他のアミノ酸に置換、
(22b)配列番号1に示すアミノ酸配列における103番目が、他のアミノ酸に置換、
(23b)配列番号1に示すアミノ酸配列における253番目が、他のアミノ酸に置換。
項5. 次の(1c)〜(14c)に示すアミノ酸置換の群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換が導入されている、項1〜4のいずれかに記載のポリペプチド:
(1c)配列番号1に示すアミノ酸配列における164番目がアスパラギンに置換、244番目がシステインに置換、及び459番目がスレオニンに置換、
(2c)配列番号1に示すアミノ酸配列における164番目がアスパラギンに置換、244番目がシステインに置換、及び349番目がスレオニンに置換、
(3c)配列番号1に示すアミノ酸配列における164番目がアスパラギンに置換、244番目がシステインに置換、及び325番目がアルギニンに置換、
(4c)配列番号1に示すアミノ酸配列における164番目がアスパラギンに置換、244番目がシステインに置換、及び360番目がリジンに置換、
(5c)配列番号1に示すアミノ酸配列における164番目がアスパラギンに置換、及び244番目がシステインに置換、
(6c)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目がシステインに置換、及び459番目がスレオニンに置換、
(7c)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目がシステインに置換、及び360番目がリジンに置換、
(8c)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目がシステインに置換、及び421番目がグルタミンに置換、
(9c)配列番号1に示すアミノ酸配列における614番目がチロシンに置換、
(10c)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目がシステインに置換、及び253番目がバリンに置換
(11c)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目がシステインに置換、及び557番目がヒスチジンに置換、
(12c)配列番号1に示すアミノ酸配列における439番目がフェニルアラニンに置換、
(13c)配列番号1に示すアミノ酸配列における122番目がフェニルアラニンに置換、及び244番目がシステインに置換、
(14c)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目がシステインに置換、及び349番目がスレオニンに置換、
(15c)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目がシステインに置換、及び398番目がグリシンに置換。
(16c)配列番号1に示すアミノ酸配列における103番目がバリンに置換、及び244番目がシステインに置換、
(17c)配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目がシステインに置換、
(18c)配列番号1に示すアミノ酸配列における421番目(アラニン)がグルタミンに置換、
(19c)配列番号1に示すアミノ酸配列における349番目がスレオニンに置換、
(20c)配列番号1に示すアミノ酸配列における588番目がプロリンに置換、
(21c)配列番号1に示すアミノ酸配列における122番目がフェニルアラニンに置換、
(22c)配列番号1に示すアミノ酸配列における103番目がバリンに置換、
(23c)配列番号1に示すアミノ酸配列における253番目がバリンに置換。
項6. 項1〜5のいずれかに記載のポリペプチドをコードしているDNA。
項7. 下記(i)又は(ii)に示すDNAである、項6に記載のDNA。
(i) 配列番号4に示す塩基配列からなるDNA、
(ii) アシルCoAオキシダーゼ活性を有し、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるACODと比較して安定性が向上しているポリペプチドをコードし、且つ配列番号4に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列を含むDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
項8. 項6又は7に記載のDNAを含む組換えベクター。
項9. 項8に記載の組換えベクターにより宿主を形質転換して得られる形質転換体。
項10. 項9に記載の形質転換体を培養する工程を含む、項1〜5のいずれかに記載のポリペプチドの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリペプチドは、常温(30〜37℃程度)における高いACOD活性を備えつつ、熱安定性や溶液中での保存安定性を備えており、臨床検査や食品分析等の分野において遊離脂肪酸の測定キットやセンサー等に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、配列表以外では、アミノ酸配列における20種類のアミノ酸残基は、一文字略記で表現している。即ち、グリシン(Gly)はG、アラニン(Ala)はA、バリン(Val)はV、ロイシン(Leu)はL、イソロイシン(Ile)はI、フェニルアラニン(Phe)はF、チロシン(Tyr)はY、トリプトファン(Trp)はW、セリン(Ser)はS、スレオニン(Thr)はT、システイン(Cys)はC、メチオニン(Met)はM、アスパラギン酸(Asp)はD、グルタミン酸(Glu)はE、アスパラギン(Asn)はN、グルタミン(Gln)はQ、リジン(Lys)はK、アルギニン(Arg)はR、ヒスチジン(His)はH、プロリン(Pro)はPである。
【0015】
本明細書における「G103V」等の表現は、アミノ酸置換の表記法である。例えば、「G103R」とは、特定のアミノ酸配列におけるN末端側から103番目のアミノ酸Gが、アミノ酸Rに置換されていることを意味する。また、本明細書における「W122F/D244C」等の表現は、多重変異を意味している。例えば、「W122F/D244C」とは、W122F及びD244Cのアミノ酸置換を同時に導入していることを意味する。
【0016】
また、本明細書において、「非極性アミノ酸」には、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、及びトリプトファンが含まれる。また、「非電荷アミノ酸」には、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、及びグルタミンが含まれる。また、「酸性アミノ酸」には、アスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれる。また、「塩基性アミノ酸」には、リジン、アルギニン、及びヒスチジンが含まれる。
【0017】
本明細書において、アシルCoAオキシダーゼ活性を「ACOD活性」と表記することもある。また、本明細書において、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるACODを「野生型ACOD」と表記することもある。
【0018】
1.ポリペプチド
本発明のポリペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド(アルスロバクター・グロビフォルミス由来のACOD、野生型ACOD)の変異体であって、ACOD活性を有し、野生型ACODよりも熱安定性が向上しているポリペプチドである。
【0019】
本発明のポリペプチドの一態様として、下記(A)に示すポリペプチドが挙げられる。
(A) 配列番号1に示すアミノ酸配列における、244番目、164番目、459番目、421番目、360番目、614番目、439番目、557番目、103番目、122番目、253番目、325番目、349番目、398番目及び588番目よりなる群から選択される少なくとも1つアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0020】
前記(A)のポリペプチドにおいて、配列番号1に示すアミノ酸配列の244番目、164番目、459番目、421番目、360番目、614番目、439番目及び557番目において置換するアミノ酸の種類については、特に制限されないが、好適な具体例として、下記の(1a)〜(8a)に示すアミノ酸置換の内、1つ又は複数が導入されているポリペプチドが挙げられる。
(1a)244番目(アスパラギン酸)が、非電荷アミノ酸、アスパラギン酸以外の酸性アミノ酸、非極性アミノ酸又は塩基性アミノ酸;好ましくはセリン、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、スレオニン、システイン、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、又はプロリン;更に好ましくはセリン、システイン、又はイソロイシン;特に好ましくはシステインへの置換、
(2a)164番目(アスパラギン酸)が、非電荷アミノ酸又は非極性アミノ酸;好ましくはアスパラギン、スレオニン又はトリプトファン;更に好ましくはアスパラギンへの置換、
(3a)459番目(アラニン)が、非電荷アミノ酸、アラニン以外の非極性アミノ酸、又は塩基性アミノ酸;好ましくはセリン、スレオニン、バリン、フェニルアラニン、リジン又はヒスチジン;更に好ましくはスレオニンへの置換、
(4a)421番目(アラニン)が、非電荷アミノ酸又はアラニン以外の非極性アミノ酸;好ましくはアスパラギン、チロシン又はグルタミン;更に好ましくはグルタミンへの置換、
(5a)360番目(スレオニン)が、塩基性アミノ酸又は非極性アミノ酸;好ましくはリジン、アルギニン、ロイシン又はイソロイシン;更に好ましくはリジンへの置換、
(6a)614番目(アルギニン)が、非電荷アミノ酸、アルギニン以外の塩基性アミノ酸又は非極性アミノ酸;好ましくはグリシン、システイン、チロシン、リジン、アラニン又はトリプトファン;更に好ましくはチロシンへの置換、
(7a)439番目(チロシン)が、非極性アミノ酸、チロシン以外の非電荷アミノ酸、酸性アミノ酸又は塩基性アミノ酸;好ましくはロイシン、フェニルアラニン、スレオニン、リジン、又はアスパラギン酸;更に好ましくはフェニルアラニンへの置換、
(8a)557番目(グルタミン酸)が、塩基性アミノ酸、非電荷アミノ酸又は非極性アミノ酸;好ましくはアルギニン、ヒスチジン、セリン、又はアラニン;更に好ましくはヒスチジンへの置換、
(9a)103番目(グリシン)が、非極性アミノ酸;好ましくはバリン、ロイシン、イソロイシン又はフェニルアラニン;更に好ましくはバリンへの置換
(10a)122番目(トリプトファン)が、トリプトファン以外の非極性アミノ酸;好ましくはフェニルアラニン、ロイシン又はイソロイシン;更に好ましくはフェニルアラニンへの置換、
(11a)253番目(イソロイシン)が、イソロイシン以外の非極性アミノ酸;好ましくはバリンへの置換、
(12a)325番目(スレオニン)が、塩基性アミノ酸又はスレオニン以外の非電荷アミノ酸;好ましくはアルギニン、ヒスチジン又はグリシン;更に好ましくはアルギニンへの置換、
(13a)349番目(アルギニン)が、非電荷アミノ酸又はアルギニン以外の塩基性アミノ酸;好ましくはセリン、スレオニン、チロシン又はリジン;更に好ましくはスレオニンへの置換、
(14a)398番目(アラニン)が、非電荷アミノ酸;好ましくはグリシンへの置換、
(15a)588番目(スレオニン)が、非極性アミノ酸;好ましくはバリン、ロイシン、イソロイシン又はプロリン;更に好ましくはプロリンへの置換。
【0021】
前記(A)のポリペプチドにおいて、配列番号1に示すアミノ酸配列の244番目、164番目、459番目、421番目、360番目、614番目、439番目、557番目、103番目、122番目、253番目、325番目、349番目、398番目及び588番目の中の少なくとも1つが置換されていればよいが、安定性をより一層向上させるという観点から、好ましくは244番目、164番目、459番目、421番目、360番目、614番目、439番目及び557番目の中の少なくとも1つ置換されているものが挙げられる。また、前記(A)のポリペプチドの好適な一態様として、配列番号1に示すアミノ酸配列の244番目が少なくとも他のアミノ酸に置換されているもの、より好ましくは配列番号1に示すアミノ酸配列の(i)244番目と、(ii)103番目、122番目、164番目、253番目、325番目、349番目、360番目、398番目、421番目、459番目、及び557番目よりなる群から選択される少なくとも1種とが、他のアミノ酸に置換されているもの;更に好ましくは、少なくとも244番目と164番目が他のアミノ酸置換されているものが挙げられる。
【0022】
前記(A)のポリペプチドにおいて、配列番号1に示すアミノ酸配列の244番目、164番目、459番目、421番目、360番目、614番目、439番目、557番目、103番目、122番目、253番目、325番目、349番目、398番目及び588番目の中のアミノ酸残基の1つが置換された変異体であればよいが、これらのアミノ酸残基の2つ以上が置換された多重変異体であってもよい。前記(A)のポリペプチドとして、安定性をより一層効果的に向上させるという観点から、好ましくは下記の(1b)〜(23b)に示す単変異又は多重変異を有するポリペプチドが挙げられる。
(1b)244番目(アスパラギン酸)、164番目(アスパラギン酸)及び459番目(アラニン)が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(2b)244番目(アスパラギン酸)、164番目(アスパラギン酸)及び349番目(アルギニン)が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(3b)244番目(アスパラギン酸)、164番目(アスパラギン酸)及び325番目(スレオニン)が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(4b)244番目(アスパラギン酸)、164番目(アスパラギン酸)及び360番目(スレオニン)が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(5b)244番目(アスパラギン酸)及び164番目(アスパラギン酸)が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(6b)244番目(アスパラギン酸)及び459番目(アラニン)が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(7b)244番目(アスパラギン酸)及び360番目(スレオニン)が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(8b)244番目(アスパラギン酸)及び421番目(アラニン)が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(9b)614番目(アルギニン)が、他のアミノ酸に置換、
(10b)244番目(アスパラギン酸)及び253番目(イソロイシン)が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(11b)244番目(アスパラギン酸)及び557番目(グルタミン酸)が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(12b)439番目(チロシン)が、他のアミノ酸に置換、
(13b)244番目(アスパラギン酸)及び122番目(トリプトファン)が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(14b)244番目(アスパラギン酸)及び349番目(アルギニン)が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(15b)244番目(アスパラギン酸)及び398番目(アラニン)が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(16b)244番目(アスパラギン酸)及び103番目(グリシン)が、それぞれ他のアミノ酸に置換、
(17b)244番目(アスパラギン酸)が、他のアミノ酸に置換、
(17b)421番目(アラニン)が、他のアミノ酸に置換、
(18b)349番目(アルギニン)が、他のアミノ酸に置換、
(20b)588番目(スレオニン)が、他のアミノ酸に置換、
(21b)122番目(トリプトファン)が、他のアミノ酸に置換、
(22b)103番目(グリシン)が、他のアミノ酸に置換、
(23b)253番目(イソロイシン)が、他のアミノ酸に置換。
【0023】
前記(1b)〜(23b)に示す各アミノ酸置換において、置換される他のアミノ酸の種類の具体例については、前記(1a)〜(15a)に示す通りである。
【0024】
前記(1b)〜(23b)の中でも、安定性をより一層向上させるという観点から、好ましくは(1b)〜(16b)の変異、より好ましくは(1b)〜(12b)の変異、更に好ましくは(1b)〜(9b)の変異、特に好ましくは(1b)〜(4b)の変異、最も好ましくは(1b)の変異が挙げられる。
【0025】
前記(A)のポリペプチドの好適な具体例として、以下の(1c)〜(23c)に示す変異のいずれかを有するポリペプチドが挙げられる:(1c)D164N/D244C/A459T、(2c)D164N/D244C/R349T、(3c)D164N/D244C/T325R、(4c)D164N/D244C/T360K、(5c)D164N/D244C、(6c)D244C/A459T、(7c)D244C/T360K、(8c)D244C/A421Q、(9c)R614Y、(10c)D244C/I253V、(11c)D244C/E557H、(12c)Y439F、(13c)W122F/D244C、(14c)D244C/R349T、(15c)D244C/A398G、(16c)G103V/D244C、(17c)D244C、(18c)A421Q、(19c)R349T、(20c)T588P、(21c)W122F、(22c)G103V、(23c)I253V。
【0026】
前記(1c)〜(23c)に示す変異の中でも、格段に優れた安定性の向上を実現するという観点から、好ましくは(1c)〜(16c)の変異、より好ましくは(1c)〜(12c)の変異、更に好ましくは(1c)〜(9c)の変異、特に好ましくは(1c)〜(4c)の変異、最も好ましくは(1c)の変異が挙げられる。
【0027】
また、本発明のポリペプチドの他の態様として、下記(B)及び(C)に示すポリペプチドが挙げられる。
(B) 配列番号1に示すアミノ酸配列における、244番目、164番目、459番目、421番目、360番目、614番目、439番目、557番目、103番目、122番目、253番目、325番目、349番目、398番目及び588番目よりなる群から選択される少なくとも1つアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列において、前記アミノ酸置換部位以外のアミノ酸の1個又は数個が置換、付加、挿入又は欠失されてなり、且つ、ACOD活性を有し、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるACODと比較して安定性が向上しているポリペプチド。
(C) 配列番号1に示すアミノ酸配列における、244番目、164番目、459番目、421番目、360番目、614番目、439番目、557番目、103番目、122番目、253番目、325番目、349番目、398番目及び588番目よりなる群から選択される少なくとも1つアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列において、配列番号1に示すアミノ酸配列に対する前記アミノ酸置換部位を除いた配列同一性が80%以上であり、且つ、ACOD活性を有し、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるACODと比較して安定性が向上しているポリペプチド。
【0028】
以下、前記(B)及び(C)のポリペプチドにおいて、配列番号1に示すアミノ酸配列における、244番目、164番目、459番目、421番目、360番目、614番目、439番目、557番目、103番目、122番目、253番目、325番目、349番目、398番目及び588番目以外のアミノ酸部位を「任意改変部位」と表記することもある。
【0029】
前記(B)及び(C)のポリペプチドにおいて、配列番号1に示すアミノ酸配列における、244番目、164番目、459番目、421番目、360番目、614番目、439番目、557番目、103番目、122番目、253番目、325番目、349番目、398番目及び588番目の中の少なくとも1つのアミノ酸に導入されるアミノ酸置換の態様、好ましいアミノ酸置換部位等は、前記(A)のポリペプチドの場合と同様である。
【0030】
前記(B)のポリペプチドの任意改変部位に導入されるアミノ酸の改変は、置換、付加、挿入、および欠失の中から1種類の改変(例えば置換)のみを含むものであってもよく、2種以上の改変(例えば、置換と挿入)を含んでいても良い。前記(B)のポリペプチドにおいて、任意改変部位に置換、付加、挿入又は欠失されるアミノ酸は、1個又は複数個若しくは数個であればよく、例えば1〜10個、好ましくは1〜6個、更に好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、特に好ましくは1又は2個或いは1個が挙げられる。
【0031】
また、前記(C)のポリペプチドにおける「配列番号1に示すアミノ酸配列に対する前記アミノ酸置換部位を除いた配列同一性」は、80%以上であればよいが、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上が挙げられる。
【0032】
ここで、前記(C)のポリペプチドにおいて「配列番号1に示すアミノ酸配列に対する前記アミノ酸置換部位を除いた配列同一性」とは、配列番号1に示すアミノ酸配列から前記任意改変部位のみを抜き出して、当該任意改変部位のみを比較して算出される配列同一性である。また、「配列同一性」とは、BLAST PACKAGE[sgi32 bit edition,Version 2.0.12;available from National Center for Biotechnology Information(NCBI)]のbl2seq program(Tatiana A.Tatsusova,Thomas L.Madden,FEMS Microbiol.Lett.,Vol.174,p247−250,1999)により得られるアミノ酸配列の同一性の値を示す。パラメーターは、Gap insertion Cost value:11、Gap extension Cost value:1に設定すればよい。
【0033】
また、前記(B)及び(C)のポリペプチドの任意改変部位に導入されるアミノ酸置換は、保存的置換であることが好ましい。即ち、前記任意改変部位における置換としては、例えば、置換前のアミノ酸が非極性アミノ酸であれば他の非極性アミノ酸への置換、置換前のアミノ酸が非荷電性アミノ酸であれば他の非荷電性アミノ酸への置換、置換前のアミノ酸が酸性アミノ酸であれば他の酸性アミノ酸への置換、及び置換前のアミノ酸が塩基性アミノ酸であれば他の塩基性アミノ酸への置換が挙げられる。
【0034】
前記(B)及び(C)のポリペプチドにおいて、「配列番号1に示すアミノ酸配列からなるACODと比較して安定性が向上している」とは、下記加熱処理条件1又は2にて加熱処理を行った場合、或いは下記保存条件3にて保存した場合に、ACOD活性の残存率が、同条件で加熱処理或いは保存を行った野生型ACODのACOD活性の残存率よりも高いことを意味する。より具体的には、下記加熱処理条件1にて加熱処理した後のACOD活性の残存率が、好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上、特に好ましくは30%以上であること;又は下記加熱処理条件2にて加熱処理した後のACOD活性の残存率が、好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上であること;或いは保存条件3にて保存した後のACOD活性の残存率が、好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上、特に好ましくは90%以上であることを意味する。
【0035】
〔加熱処理条件1〕
測定対象となるポリペプチドを10μM FADを含む20 mM KP Buffer(pH7.5)に添加して、55℃に設定したウォーターバスで5分間インキュベートすることにより加熱処理を行った後に、急冷する。
【0036】
〔加熱処理条件2〕
測定対象となるポリペプチドを10μM FADを含む20 mM KP Buffer(pH7.5)に添加して、55℃に設定したウォーターバスで10分間インキュベートすることにより加熱処理を行った後に、急冷する。
【0037】
〔保存条件3〕
測定対象となるポリペプチドを3mM ATP、10μM FADを含む50mM BES Buffer(pH7.0)に、2U/mlになるように希釈して37℃のインキュベーター内で31日間保存する。
【0038】
〔ACODの活性の測定〕
本発明において、ACOD活性の測定は、パルミトイル‐CoAの存在下、ACODの作用により生成する過酸化水素を酵素的に測定することにより求められる。即ち、200mMリン酸緩衝液(pH7.5)90μl、15mM 4−アミノアンチピリン45μl、6mM N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン45μl、50U/mlペルオキシダーゼ45μl、1%(重量%,以下全て同様)トリトンX−100溶液45μl、5mMパルミトイル‐CoA溶液45μl、水135μlよりなる反応液を37℃に5分置いた後に、測定対象となるポリペプチドを所定濃度に希釈した溶液10μlを加えて37℃で5分間反応させ、0.5%SDS150μlにより反応を停止させた後、555nmの吸光度を測定する。上記条件で、1分間に1μmoleのH22を生成する酵素量を1Uとする。
【0039】
上記で得られた吸光度の値から、下記の計算式に従ってACOD活性を求める。
【数1】
【0040】
次いで、上記で算出したACOD活性の値から、下記の計算式に従って、ACOD活性値の残存率(%)を求める。
【数2】
【0041】
2.DNA
本発明のポリペプチドをコードしているDNA(以下、「本発明のDNA」と表記することもある)は、例えば、変異前の野生型ACOD(配列番号1)をコードしているDNAに前記アミノ酸置換が導入されるように変異を導入することにより得ることができる。また、本発明のDNAは、遺伝子の全合成法によって人工合成することもできる。その際、該DNAの塩基配列におけるコドン利用頻度を、使用する宿主のコドン利用頻度に最適化したDNAを人工合成することもできる。
【0042】
ここで、野生型ACODをコードしているDNAは、例えば、配列番号2に示す塩基配列として知られており(gi359776996:75125−77203)アルスロバクター・グロビフォルミス(Althrobacter globiformis)菌体からPCRを用いた定法により単離することができる。また、野生型ACODをコードしているDNAは、遺伝子の全合成法によって人工合成することもできる。
【0043】
また、野生型ACODをコードしているDNAは、配列番号2に示される野生型ACODをコードしている塩基配列から、コドン利用頻度を使用する宿主のコドン利用頻度に最適化したDNAを設計して合成することもできる。例えば、配列番号2に示される野生型ACODをコードしている塩基配列から、コドン利用頻度を大腸菌(Escherichia coli)のコドン利用頻度に最適化した塩基配列として、配列番号3に示される塩基配列が挙げられる。
【0044】
塩基配列の特定の部位に特定の変異を導入する方法は公知であり、例えばDNAの部位特異的変異導入法等が利用できる。DNA中の塩基を変換する具体的な方法としては、例えば、市販のキット(QuickChange Lightning Site?Directed Mutagenesis kit:Stratagene製、KOD?Plus?Mutagenesis kit:東洋紡製等)の利用等が挙げられる。
【0045】
このようにして塩基配列に変異を導入したDNAは、DNAシーケンサーを用いて塩基配列を確認することができる。得られた塩基配列については、例えば、DNASIS(日立ソフトエンジニアリング社製)又はGENETIX(ソフトウェア開発社製)等の塩基配列解析ソフトによる解析を行うことにより、DNA中のACOD遺伝子のコード領域を特定することができる。
【0046】
一旦、塩基配列が確定されると、その後は化学合成、クローニングされたプローブを鋳型としたPCR、又は該塩基配列を有するDNA断片をプローブとするハイブリダイゼーションによって、前記ポリペプチドをコードするDNAを得ることができる。
【0047】
更に、部位特異的突然変異誘発法等によって前記ペプチドをコードするDNAの変異型であって変異前と同等の機能を有するものを合成することができる。なお、前記ペプチドをコードするDNAに変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法、メガプライマーPCR法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。
【0048】
本発明のDNAの一例として、配列番号4に示す塩基配列が挙げられる。配列番号4に示す塩基配列からなるDNAは、配列番号1に示すアミノ酸配列における164番目がアスパラギン、244番目がシステイン、及び459番目がスレオニンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているDNAである。
【0049】
また、本発明のDNAには、ACOD酵素活性を有し、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるACODと比較して安定性が向上しているポリペプチドをコードし、且つ、配列番号4に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列を含むDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが包含される。
【0050】
ここで、「ストリンジェントな条件下」とは、0.5%SDS、5×デンハルツ〔Denhartz’s、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコール400〕および100μg/mlサケ精子DNAを含む6×SSC(1×SSCは、0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)中で、50℃〜65℃で4時間〜一晩保温する条件をいう。
【0051】
ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションは、具体的には、以下の手法によって行われる。即ち、DNAライブラリー又はcDNAライブラリーを固定化したナイロン膜を作成し、6×SSC、0.5% SDS、5×デンハルツ、100μg/mlサケ精子DNAを含むプレハイブリダイゼーション溶液中、65℃でナイロン膜をブロッキングする。その後、32Pでラベルした各プローブを加えて、65℃で一晩保温する。このナイロン膜を6×SSC中、室温で10分間、0.1%SDSを含む2×SSC中、室温で10分間、0.1%SDSを含む0.2×SSC中、45℃で30分間洗浄した後、オートラジオグラフィーをとり、プローブと特異的にハイブリダイズしているDNAを検出することができる。
【0052】
更に、本発明のDNAには、ACOD活性を有し、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるACODと比較して安定性が向上しているポリペプチドをコードし、且つ配列番4に示す塩基配列からなるDNAに80%以上の相同性を有するDNAも包含される。該相同性として、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上が挙げられる。
【0053】
ここで、DNAの「相同性」とは、BLAST PACKAGE[sgi32 bit edition,Version 2.0.12;available from the National Center for Biotechnology Information(NCBI)]のbl2seq program(Tatiana A. Tatsusova,Thomas L.Madden,FEMS Microbiol.Lett.,Vol.174,247−250,1999)により得られる同一性の値を示す。パラメーターは、Gap insertion Cost value:11、Gap extension Cost value:1に設定すればよい。
【0054】
本発明のDNAは、コドン利用頻度を宿主に最適化したものが好ましく、コドン利用頻度を大腸菌に最適化させたDNAがより好ましい。
【0055】
コドン利用頻度を表す指標として、各コドンの宿主最適コドン利用頻度の総計を採択すればよい。最適コドンとは、同じアミノ酸に対応するコドンのうち利用頻度が最も高いコドンと定義される。コドン利用頻度は、宿主に最適化したものであれば特に限定されないが、例えば、大腸菌のコドン利用頻度の一例として以下のものが挙げられる。
F:フェニルアラニン(ttt)、L:ロイシン(ctg)、I:イソロイシン(att)、M:メチオニン(atg)、V:バリン(gtg)、Y:チロシン(tat)、終止コドン(taa)、H:ヒスチジン(cat)、Q:グルタミン(cag)、N:アスパラギン(aat)、K:リジン(aaa)、D:アスパラギン酸(gat)、E:グルタミン酸(gaa)、S:セリン(agc)、P:プロリン(ccg)、T:スレオニン(acc)、A:アラニン(gcg)、C:システイン(tgc)、W:トリプトファン(tgg)、R:アルギニン(cgc)、G:グリシン(ggc)。
【0056】
3.組換えベクター
本発明のペプチドをコードするDNAを含む組換えベクター(以下、「本発明の組換えベクター」と表記することもある)は、発現ベクターに本発明のDNAを挿入することにより得ることができる。
【0057】
本発明の組換えベクターには、本発明のDNAに作動可能に連結されたプロモーター等の制御因子が含まれる。制御因子としては、代表的にはプロモーターが挙げられるが、更に必要に応じてエンハンサー、CCAATボックス、TATAボックス、SPI部位等の転写要素が含まれていてもよい。また、作動可能に連結とは、本発明のDNAを調節するプロモーター、エンハンサー等の種々の制御因子と本発明のDNAが、宿主細胞中で作動し得る状態で連結されることをいう。
【0058】
発現ベクターとしては、宿主内で自律的に増殖し得るファージまたはプラスミドから遺伝子組換え用として構築されたものが適している。
【0059】
ファージとしては、例えば、後述する大腸菌を宿主とする場合には、Lambda gt10、Lambda gt11等が挙げられる。
【0060】
プラスミドとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、pBR322、pUC18、pUC118、pUC19、pUC119、pTrc99A、pBluescript、及びコスミドであるSuper Cos I等が挙げられる。
【0061】
宿主としてシュードモナスを用いる場合には、グラム陰性菌用広宿主域ベクターであるRSF1010、pBBR122、及びpCN51等が挙げられる。更に、レトロウイルス及びワクシニアウイルス等の動物ウイルス、並びにバキュロウイルス等の昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0062】
4.形質転換体
本発明の組換えベクターを用いて宿主を形質転換することによって形質転換体(以下、「本発明の形質転換体」と表記することもある)が得られる。
【0063】
形質転換体の製造に使用される宿主としては、組換えベクターが安定であり、且つ自律増殖可能で外来性遺伝子の形質を発現できるのであれば特に制限されないが、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属等に属する細菌;酵母;COS細胞等の動物細胞;Sf9等の昆虫細胞;アブラナ科等に属する植物体全体、植物器官(例えば、葉、花弁、茎、根及び種子等)、植物組織(例えば、表皮、師部、柔組織、木部および維管束等)、植物培養細胞等が挙げられる。これらの中でも大腸菌が好ましく、大腸菌DH5α、大腸菌BL21及び大腸菌JM109がより好ましい。
【0064】
本発明の形質転換体は、宿主に本発明の組換えベクターを導入することによって得ることができ、宿主に組換えベクターを導入する条件は、宿主の種類等に応じて適宜設定すればよい。宿主が細菌の場合であれば、例えば、カルシウムイオン処理によるコンピテントセル用いる方法及びエレクトロポレーション法等が挙げられる。宿主が酵母の場合であれば、例えば、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、スフェロプラスト法及び酢酸リチウム法等が挙げられる。宿主が動物細胞の場合であれば、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法及びリポフェクション法等が挙げられる。宿主が昆虫細胞の場合であれば、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法及びエレクトロポレーション法等が挙げられる。宿主が植物胞の場合であれば、例えば、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法及びPEG法等が挙げられる。
【0065】
本発明の組換えベクターが宿主に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法およびノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。
【0066】
PCR法よって本発明の組換えベクターが宿主に組み込まれたか否かを確認する場合、例えば、形質転換体から組換えベクターを分離・精製すればよい。
【0067】
組換えベクターの分離・精製は、例えば、宿主が細菌の場合、細菌を溶菌して得られる溶菌物に基づいて行われる。溶菌の方法としては、例えばリゾチームなどの溶菌酵素により処理が施され、必要に応じてプロテアーゼ及び他の酵素並びにラウリル硫酸ナトリウム(SDS)等の界面活性剤が併用される。
【0068】
更に、凍結融解及びフレンチプレス処理のような物理的破砕方法を組み合わせてもよい。溶菌物からのDNAの分離・精製は、例えば、フェノール処理およびプロテアーゼ処理による除蛋白処理、リボヌクレアーゼ処理、アルコール沈殿処理、及び市販のキットを適宜組み合わせることにより行うことができる。
【0069】
DNAの切断は、常法に従い、例えば制限酵素処理を用いて行うことができる。制限酵素としては、例えば特定のヌクレオチド配列に作用するII型制限酵素を用いる。DNAと発現ベクターとの結合は、例えばDNAリガーゼを用いて行う。
【0070】
その後、分離・精製したDNAを鋳型として、本発明のDNAに特異的なプライマーを設計してPCRを行う。PCRにより得られた増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウムおよびSYBR Green液等により染色し、そして増幅産物をバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。
【0071】
また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光および酵素反応等により増幅産物を確認する方法も採用してもよい。
【0072】
4.ポリペプチドの製造
本発明のポリペプチドは、前記形質転換体を培養することによって製造することができる。
【0073】
形質転換体の培養形態は、宿主の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよいが、好ましくは液体培養が挙げられる。工業的には通気攪拌培養を行うのが有利である。
【0074】
培地の栄養源としては、形質転換体の生育に必要とされるものが使用され得る。炭素源としては、資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、糖蜜、ピルビン酸等が挙げられる。
【0075】
窒素源としては、資化可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物が挙げられる。
【0076】
培地には、炭素源及び窒素源の他に、例えば、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガンおよび亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸並びに特定のビタミンなどを必要に応じて使用してもよい。
【0077】
培養温度は、本発明の形質転換体が生育可能であり、且つ本発明の形質転換体が本発明のポリペプチドを産生する範囲で適宜設定し得るが、好ましくは15〜37℃程度である。培養は、本発明のポリペプチドが最高収量に達する時期を見計らって適当時期に完了すればよく、通常は培養時間が12〜48時間程度である。
【0078】
培地のpHは、宿主が発育し、宿主が変異型ACODを産生する範囲で適宜変更し得るが、好ましくはpH5.0〜9.0程度の範囲である。
【0079】
本発明の形質転換体を培養し、培養液を遠心分離等の方法により培養上清又は菌体を回収し、菌体は超音波及びフレンチプレスといった機械的方法又はリゾチーム等の溶菌酵素により処理を施し、必要に応じてプロテアーゼ等の酵素やラウリル硫酸ナトリウム(SDS)等の界面活性剤を使用することにより可溶化し、本発明のポリペプチドを含む水溶性画分を得ることができる。
【0080】
また、適当な発現ベクターと宿主を選択することにより、発現した本発明のポリペプチドを培養液中に分泌させることもできる。
【0081】
上記のようにして得られた本発明のポリペプチドを含む水溶性画分は、そのまま精製処理に供してもよいが、該水溶性画分中の本発明のポリペプチドを濃縮した後に精製処理に供してもよい。
【0082】
濃縮は、例えば、減圧濃縮、膜濃縮、塩析処理、親水性有機溶媒(例えば、メタノール、エタノールおよびアセトン)による分別沈殿法等により行うことができる。
【0083】
本発明のポリペプチドの精製処理は、例えば、ゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の方法を適宜組み合わせることによって行うことができる。
【0084】
前記精製処理は既に公知であり、適当な文献、雑誌および教科書等を参照することで進めることができる。このようにして精製された本発明のポリペプチは、必要に応じて、凍結乾燥、真空乾燥、スプレードライ等により粉末化して市場に流通させることができる。
【実施例】
【0085】
次に、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
【0086】
参考例1:組換えベクターの作製及び形質転換体の調製
公知のアルスロバクター・グロビフォルミス(Althrobacter globiformis NBRC 12137)由来ACOD遺伝子配列(配列番号2)を、ゲノムDNAを元に、5'末端にXbaI認識配列を付加したフォワードプライマー(配列番号5)及び3'末端にHindIII認識配列を付加したリバースプライマー(配列番号6)を用いてPCRにより目的遺伝子を増幅した。精製したACOD遺伝子及びプラスミドベクターpTrc99aを制限酵素XbaI(宝酒造社製)及び制限酵素HindIII(宝酒造社製)にてそれぞれ切断し、両者をアガロースゲル電気泳動により分離して目的のDNA断片をGenElute Gel Extraction Kit(SIGMA−ALDRICH社製)を用いて回収した。次いでこれらのDNA断片をLigationhighキット(東洋紡績製)にて16℃で15分間反応させて連結し、アルスロバクター・グロビフォルミス由来のACOD遺伝子を含む組換えベクターを得た。
【0087】
その後、組換えベクターをEscherichia coli DH5αのコンピテントセル(東洋紡績製)に導入し、100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布後、37℃で終夜培養して形質転換体を取得した。この形質転換体からプラスミド抽出を行い、精製し、組換えベクターを取得した。得られた組換ベクターは、ACOD遺伝子本来の開始コドンの前に開始コドンを有するため、得られた組換ベクターを鋳型にインバースPCRを行うことで余分な配列を除去した。PCRに使用したプライマーの塩基配列は、配列番号7(Forward Primer)及び配列番号8(Reverse Primer)である。PCR反応は、熱変性98℃で10秒、アニール53℃で15秒、伸長反応72℃で4分を18サイクル行った。得られたPCR産物をDpnIで制限酵素処理することにより鋳型DNAを切断し、Escherichia coli DH5αのコンピテントセル(東洋紡績製)に導入し、前記と同様の方法により形質転換体を取得した。この形質転換体からプラスミド抽出を行い、精製することにより、組換えベクターを取得した。取得した組換えベクターが設計通りに作製できているかをシーケンシングにより確認した。これにより得られた組換えベクターをpTrc−ACODと命名した。
【0088】
実施例1:変異型ACODの発現用組換えベクターの作製
野生型ACODをコードするDNAを含む組換えプラスミドpTrc−ACOD、表1に示す合成オリゴヌクレオチド(変位導入プライマー)、当該合成オリゴヌクレオチドと相補的な合成オリゴヌクレオチドを基に、QuickChange T M Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、そのプロトコールに従って変異処理操作を行った。以上の操作を繰り返し、複数の変異を有する変異型ACOD酵素をコードする組換えプラスミド(pTrc−ACOD1〜23)を取得した。表2に、作成した変異体ACOD−1〜23と変異部位の詳細を示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
pTrc−ACOD及びpTrc−ACOD1〜23を大腸菌DH5αに導入した形質転換体を用いて、以下の方法で野生型ACOD及びACOD変異体を発現させ、野生型ACOD及びACOD変異体を得た。
【0092】
先ず、前記35種の形質転換体を100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天プレート培地で培養してコロニーを形成させた。それぞれの形質転換体の単一コロニーを100μg/mlのアンピシリンを含む2×YT培地2mlに植菌し、37℃で振とう培養した。その後、終濃度0.5mMになるようにIPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)を加え、37℃で5時間振とう培養し、菌液を回収した。回収した菌液を遠心分離し、それぞれの変異体酵素を発現させた大腸菌を回収した。
【0093】
次いで、回収した菌体を10μM FADを含む20 mM KP Buffer (pH7.5)に懸濁し、超音波により破砕した。後述する実施例3では、該破砕液を用いて安定性の評価を行った。
【0094】
実施例2:野生型ACOD及びACOD変異体の調製
(2−1)野生型ACOD及びACOD変異体の大量発現
前記pTrc−ACOD及びpTrc−ACOD1〜23を用いて大腸菌DH5αを形質転換した形質転換体を培養することにより、野生型ACOD及びACOD変異体を大量発現させた。
【0095】
即ち、それぞれの形質転換体の単一コロニーを2mLの100μg/mLのアンピシリンを含む2×YT培地に植菌して37℃で16時間振とう培養し、該2×YT培養液をあらかじめオートクレーブ滅菌して調整した100μg/mLのアンピシリンおよび0.1mMのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(和光純薬工業株式会社製)を含む100mLの培地へ植菌した。該培養液はそれぞれ37℃で16時間培養した。
【0096】
該培養液を15,000×gで20分間、遠心し、培養上清を除去して組換え大腸菌の菌体をそれぞれ得た。それぞれの菌体は以下の精製時まで−30℃のフリーザー内に保存した。
【0097】
(2−2)野生型ACODおよびACOD変異体の精製
前記で得られた組換え大腸菌の菌体に、30mLの20mM リン酸緩衝液(pH7.5)を添加して菌体を懸濁し、超音波破砕機により菌体を破砕した。破砕液を15,000×gで30分間、遠心して破砕液上清を得た。
【0098】
該破砕液上清に含まれるタンパク質を、予め20mM リン酸緩衝液(pH7.5)で平衡化した20mLのTOYOPEARL QAE−550C(東ソー株式会社製)に吸着させ、0.0Mから0.4Mの塩化カリウムの濃度勾配によりACOD活性画分を溶出させた。
【0099】
得られたACOD活性画分を20mM リン酸緩衝液(pH6.0)に対して透析後、20mM リン酸緩衝液(pH6.0)で予め平衡化した10mLのCM SepharoseTM Fast Flow(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)に吸着させ、0.0Mから0.4Mの塩化カリウムの濃度勾配によりACOD活性画分を溶出させた。
【0100】
該ACOD活性画分を20mM リン酸緩衝液(pH7.5)に対して透析し、Ultracel−30K(メルク株式会社製)を用いて濃縮した。以下、透析・濃縮されたACOD活性画分を精製酵素とした。
【0101】
実施例3:野生型ACOD及びACOD変異体の安定性評価
(3−1)ACOD変異体の耐熱性の評価1
実施例1で得られた破砕液(野生型ACOD又はACOD変異体含有)を0.2mLのプラスチックチューブに50μLずつ分注し、該プラスチックチューブを55℃に調節したウォーターバスに投入し、5分間、熱処理した。熱処理終了後、該プラスチックチューブを氷水に投入して急冷した。熱処理前後の活性を上述の方法により求め、熱処理前の活性値を100としたときの熱処理後のACOD活性の残存率(%)を算出し、安定性の指標とした。
【0102】
得られた結果を表3に示す。この結果から、変異体1〜9のACODは、野生型ACODに比べて安定性が向上していることが確認された。特に、単変異を導入した変異体では、D244C、R349T、A421Q、Y439F及びR614Yで特に安定性の向上が認められた。
【0103】
【表3】
【0104】
(3−2)ACOD変異体の耐熱性の評価2
実施例1で得られた破砕液(ACS変異体含有)を0.2mLのプラスチックチューブに50μLずつ分注し、該プラスチックチューブを55℃に調節したウォーターバスに投入し、10分間、熱処理した。熱処理前後の活性を上述の方法により求め、熱処理前の活性値を100としたときの熱処理後のACOD活性の残存率(%)を算出し、安定性の指標とした。
【0105】
得られた結果を表4に示す。この結果から、多重変異を導入した変異体10〜19のACODは、単変異を導入した変異体3(D244C)に比べて安定性が向上していることが確認された。また、変異体10〜19のACODは、いずれも、配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目のアミノ酸変異と組み合わせることで安定性がより安定化していることから、該アミノ酸の置換が安定性の向上に重要であることも明らかになった。
【0106】
【表4】
【0107】
実施例4:野生型ACOD及びACOD変異体の保存安定性の評価
実施例2で得られた精製酵素(野生型ACOD又はACOD変異体)を3mM ATP、10μM FADを含む50mM BES Buffer(pH7.0)に、2U/mlになるように希釈した。この酵素溶液を37℃で保存し、保存開始時の活性値を100とした時のACOD活性の残存率(%)を算出し、安定性の指標とした。
【0108】
得られた結果を表5に示す。この結果から、D244Cの単変異でも野生型ACODと比較すると格段に溶液中での保存安定性が向上していることが確認された。変異体20〜23のACODは、単変異を導入した変異体3や二重変異を導入した変異体12よりも更に安定性が向上しており、特に変異体20、21、及び23は37℃における31日の保存においても90%以上の残存活性を有していた。また、変異体3、12、及び20〜23のACODは、いずれも、配列番号1に示すアミノ酸配列における244番目のアミノ酸が置換を有していることから、244番目のアミノ酸置換を少なくとも含む多重変異が、ACODの安定性の向上の上で、特に有効であることが明らかになった。
【0109】
【表5】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]