(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
図1は本発明に係るターボ分子ポンプ1の断面を示す図である。ターボ分子ポンプ1は、複数段の動翼12およびロータ円筒部13が形成されたポンプロータ10を備える。ポンプケーシング23の内側には、複数段の動翼12に対応して複数段の静翼21が積層されるように配置されている。ポンプ軸方向に積層された複数段の静翼21は、それぞれスペーサ29を介してベース20上に配置されている。動翼12および静翼21の各々は、周方向に配置された複数のタービン翼から成る。なお、ベース20は2つの部分に分かれ、図示上方の部分をベース上部20A、図示下方の部分をベース下部20Bと呼ぶことにする。
【0013】
ロータ円筒部13の外周側には、円筒状ステータ22が隙間を介して配置されている。ロータ円筒部13の外周面または円筒状ステータ22の内周面のいずれか一方にはネジ溝が形成されており、ロータ円筒部13と円筒状ステータ22とでネジ溝ポンプを構成している。動翼12および静翼21により排気された気体分子は、ネジ溝ポンプ部によりさらに圧縮され、最終的には、ベース20に設けられた排気口26から排出される。
【0014】
ポンプロータ10にはロータシャフト11が固定され、そのロータシャフト11はラジアル磁気軸受32およびアキシャル磁気軸受33により支持され、モータ34によって回転駆動される。磁気軸受32,33が非動作時には、ロータシャフト11はメカニカルベアリング35a,35bによって支持される。ラジアル磁気軸受32,アキシャル磁気軸受33,モータ34およびメカニカルベアリング35bは、ベース20に固定されるベース下部20Bに収納されている。
【0015】
ベース20には、ベース20を加熱するためのヒータ27、ベース20を冷却するための水冷パイプ50、ベース20の温度を検出する温度センサ203が設けられている。
【0016】
円筒状ステータ22は、円筒状の熱伝導抑制部材24を介してベース20のベース上部20Aにボルト222で取り付けられ、ベース20内に収容されている。具体的には、円筒状ステータ22のフランジ部220の下面220aとベース上部20Aに設けられた凹部201によって、熱伝導抑制部材24が挟持されている。その上で円筒状ステータ22が、フランジ部220を介して、ベース上部20Aにボルト222で固定されている。円筒状ステータ22とベース上部20Aとの間には、両者が直接接触しないようにするための空隙が設けられている。これは、円筒状ステータ22とベース上部20Aとの間で伝導による熱の移動が生じないようにするためである。また、ボルト222は熱伝導率の低い部材で作製されている。
【0017】
円筒状ステータ22の下部外周面には、円筒状ステータ22を加熱する専用のステータ加熱部28が固定されている。ステータ加熱部28は、ベース20の周面を内外に貫通するように設けられている。ステータ加熱部28は、本体として熱伝導率の高いブロック281(ヒータブロック281)を有している。ステータ加熱部28は、ブロック281に設けられた貫通孔にボルト282を挿設して、円筒状ステータ22にボルト282で上述のように固定されている。ステータ加熱部28のブロック281と円筒状ステータ22は、この固定によって、伝導による熱移動が容易に生じるようになっている。ブロック281内には、ヒータ280が設けられている。ヒータ280は、不図示の外部電源から供給される電力によって、発熱する。これによって、ステータ加熱部28は熱源となる。ステータ加熱部28で生じた熱は、円筒状ステータ22に伝導によって移動する。これによって、円筒状ステータ22の温度が上昇し、反応生成物の堆積が抑制される。
【0018】
上述したように、ステータ加熱部28は円筒状ステータ22を専用に加熱するものなので、ステータ加熱部28で発生した熱がベース20に伝導で移動しないような構成となっている。具体的には、ステータ加熱部28とベース上部20Aとの間には断熱部材41が設けられ、ステータ加熱部28とベース下部20Bとの間には断熱部材42が設けられている。
【0019】
このように、円筒状ステータ22は、ステータ加熱部28によって加熱され、また、熱伝導抑制部材24によってある程度冷却される他は、伝導による熱の移動は生じない。
【0020】
図2は、円筒状ステータ22、ロータ円筒部13、動翼12、静翼21、および、ベース20における、母材と、本発明の説明上対象となる外表面と、その外表面の表面処理と、放射率について示した表である。本発明の一の実施形態については、
図2(a)に示している。なお、
図2(b)は、後述する比較例1、2についてのものである。円筒状ステータ、ロータ円筒部、動翼、静翼、および、ベースの母材は、本実施形態、比較例1、2のいずれにおいても、アルミ合金である。
【0021】
図3(c)は、
図1に示すターボ分子ポンプ1の図示右方を示した模式図であり、本実施形態における熱の移動を示したものである。なお、
図3(a)、(b)は、それぞれ、後述する比較例1、2における熱の移動を示したものである。
【0022】
図2(a)と
図3(c)を用いて、本実施形態における外表面の状態と熱の移動を説明する。
【0023】
図2(a)は、円筒状ステータ22が、円筒状ステータ22の周辺部材であるロータ円筒部13、動翼12、静翼21、および、ベース20よりも高温となった場合に、円筒状ステータ22から周辺部材への放射による熱の移動が抑制されるような放射率になっている。円筒状ステータ22が周辺部材よりも高温になる場合とは、円筒状ステータ22を熱伝導抑制部材24によって、熱的に隔離した上で、ステータ加熱部28によって、円筒状ステータ22を加熱することで実現できる。「熱的に隔離」とは、熱伝導抑制部材24によって、
図3(c)のH11に示すような熱の伝導を抑制することを意味する。
【0024】
ここで、熱の放射について説明する。ある物体1からある物体2への放射による熱は、以下の式(1)で表される。なお、物体1の温度は、物体2の温度より高い。
【数1】
(ステファン・ボルツマンの式)
ただし、Qは放射熱(W)であり、ε’は平均放射率であり、Aは伝熱断面積(cm
2)であり、T
1は物体1の温度(°K)であり、T
2は物体2の温度(°K)である。物体1の温度は、物体2の温度より高いので、T
1はT
2より大きい値である。
平均放射率ε’は、物体1の放射率ε
1と、物体2の放射率ε
2と、物体1と物体2の位置関係から求められる。物体1と物体2の位置関係がどのようになっていても、放射率ε
1が低ければ低いほど、そして、放射率ε
2が低ければ低いほど、平均放射率ε’は低くなる。よって、このことと式(1)より、放射率ε
1が低ければ低いほど、そして、放射率ε
2が低ければ低いほど、物体1から物体2への放射による熱量は少なくなる。
【0025】
一例として、物体1と物体2が平行平面の位置関係にある場合は、以下の式(2)で平均放射率ε’は表される。
【数2】
以上の式(2)から理解されるように、物体1の放射率ε
1が低いほど、物体2の放射率ε
2が低いほど、平均放射率ε’は低くなる。
【0026】
なお、本明細書では、放射率ε=0.5を境界にして、ε=0.5以上であれば、「高放射率」、ε=0.5より低ければ、「低放射率」と呼ぶことにする。
【0027】
図2(a)に示すように、本実施形態において、円筒状ステータ22はアルミ合金で作製され、全ての外表面S3(
図3(c)参照)において表面処理がなされていない。すなわち、円筒状ステータ22の外表面は、アルミ合金そのものである。このようにすることで、円筒状ステータ22の放射率を0.1以下という低放射率にすることができる。なお、外表面S3は、円筒状ステータ22の外表面のうち、ロータ円筒部13と対向する外表面S3A、動翼12と対向する外表面S3B、静翼21と対向する外表面S3C、ベース20と対向する外表面S3Dを含んだ、円筒状ステータ22の全ての外表面である。
【0028】
本実施形態では、ロータ円筒部13の外表面であって円筒状ステータ22と対向する外表面S4(
図3(c)参照)には、Niメッキが施されている。Niメッキが施されることで、当該外表面の放射率を0.2という低放射率にすることができる。なお、Niメッキが施されることで、プロセスガスによる腐食を防止することができる。
【0029】
以上より、
図3(c)に示すように、外表面S3A、S4を低放射率にしたことで、円筒状ステータ22からロータ円筒部13への放射による熱H4の移動は抑制される。
【0030】
本実施形態では、ベース20の外表面であって円筒状ステータ22と対向する外表面S7には、表面処理が施されておらず、母材であるアルミ合金が外表面となっている。これによって、以上に示した当該外表面の放射率を0.1以下とすることができる。外表面S3D、S7を低放射率にしたことで、円筒状ステータ22からベース20への放射による熱H7〜H9の移動は抑制される。
【0031】
動翼12の最下端の動翼12S(下端動翼12S)の外表面であって円筒状ステータ22と対向する外表面S5(
図3(c)参照)には、表面処理が施されておらず、母材であるアルミ合金が外表面となっている。外表面S3B、S5を低放射率にしたことで、円筒状ステータ22から動翼12への放射による熱H5の移動は抑制される。下端動翼12Sは、静翼21と対向しない外表面を有するので、当該外表面を低放射率とすることが好ましい。
【0032】
静翼21の最下端の静翼21S(下端静翼21S)の外表面であって円筒状ステータ22と対向する外表面S6(
図3(c)参照)には、表面処理が施されておらず、母材であるアルミ合金が外表面となっている。外表面S3C、S6を低放射率にしたことで、円筒状ステータ22から静翼21への放射による熱H6の移動は抑制される。動翼21がポンプケーシング23の内周面まで設けられないために、下端静翼21Sは、動翼21と対向しない外表面を有するので、当該外表面を低放射率とすることが好ましい。
【0033】
このように、円筒状ステータ22の外表面S3の放射率と、円筒状ステータ22の周辺部材の外表面であって円筒状ステータ22と対向する外表面S4〜S7の放射率を、低放射率とすることで、円筒状ステータ22から周辺部材への放射による熱の移動を抑制することができる。
【0034】
円筒状ステータ22の外表面S3A〜S3Dの放射率を低くしたことで、本実施形態において、ポンプロータ10の熱は、
図3(c)の矢印H1、H2で示すように、主に動翼12から静翼21に向けて放熱されることで移動させる必要がある。
【0035】
そのため、本実施形態では、動翼12の外表面であって静翼21と対向する外表面S1には、黒色Niメッキが施されている。これによって、当該外表面の放射率を0.7という高放射率とすることができる。静翼21の外表面であって動翼12と対向する外表面S2には、アルマイト処理が施されている。これによって、以上に示した当該外表面の放射率を0.9という高放射率とすることができる。その結果、動翼12から静翼21への放射による熱H1の量が増加する。また、黒色Niメッキを用いたことで、プロセスガスによる動翼12の腐食を防止することができる。
【0036】
なお、動翼12から静翼21へ移動した熱H1は、熱H13で示すようにポンプケーシング23に伝導し、熱H10で示すようにポンプケーシング23からベース20に伝導し、水冷パイプ50に移動する。
【0037】
円筒状ステータ22から熱伝導抑制部材24を伝導してベース20に伝導する僅かな熱H11や、円筒状ステータ22からベース20へ放熱された僅かな熱H7〜H9も、ベース20内を伝導し、水冷パイプ50に移動する。
【0038】
以上、本発明によれば、以下の作用効果を奏する。
(1)ターボ分子ポンプ1は、動翼12およびロータ円筒部13を有するポンプロータ10と、動翼12と対向する静翼21と、ロータ円筒部13と対向する円筒状ステータ22と、円筒状ステータ22を収容するベース20と、円筒状ステータ22を加熱するステータ加熱部28と、を備える。
円筒状ステータ22の外表面S3の放射率、及び、円筒状ステータ22に対向する周辺部材であるロータ円筒部13、ベース20、動翼12、及び、静翼21の外表面であって円筒状ステータ22と対向する外表面S4、S7、S5、S6の放射率は、動翼12の外表面であって静翼21と対向する外表面S1の放射率より小さい。
【0039】
(1A)上記構成を有することで、円筒状ステータ22から周辺部材であるロータ円筒部13、ベース20、動翼12、及び、静翼21への熱放射を抑制でき、円筒状ステータ22を高温に維持できるので、円筒状ステータ22に反応生成物が堆積することを防止できる。
【0040】
(1B)周辺部材であるロータ円筒部13、動翼12、及び、静翼21に関する上記構成を有することで、円筒状ステータ22の温度が周辺部材であるロータ円筒部13、動翼12、及び、静翼21の温度よりも高い場合に、動翼12から静翼21への熱H1の移動を盛んにして、円筒状ステータ22から周辺部材であるロータ円筒部13、動翼12、及び、静翼21への放射による熱H4、H5、H6の移動を抑制して、ポンプロータ10の温度上昇を抑制できる。その結果、ポンプロータ10のクリープ変形によって、ポンプロータ10が静翼21や円筒状ステータ22と接触し、それらが破断することを防止することができる。
【0041】
(1C)周辺部材の1つであるベース20に関する上記構成を有することで、円筒状ステータ22が外部に余計な熱を放出することを抑制でき、ステータ加熱部28が余計な電力を消費しなくて済む。また、円筒状ステータ22からベース20が余計な熱を受けることを抑制できる。円筒状ステータ22からベース20への熱放射を抑制でき、円筒状ステータ22を高温に維持できるので、円筒状ステータ22に反応生成物が堆積することを防止できる。
【0042】
(2)ステータ加熱部28によって、円筒状ステータ22の温調温度は、ポンプロータ10の温調温度よりも高い場合が生じることがあるが、このような場合でも、円筒状ステータ22からの熱H4に起因するポンプロータ10の温度上昇を抑制することができる。その結果、ポンプロータ10のクリープ変形によって、ポンプロータ10が静翼21や円筒所ステータ22と接触し、それらが破断することを防止することができる。
【0043】
(3)母材をアルミ合金にして、表面処理を施さない場合は、その外表面の放射率は、0.1以下という低放射率にすることができる。
【0044】
(4)Niメッキを施した外表面の放射率は、0.2という低放射率にすることができる。また、Niメッキを施すと、プロセスガスによる腐食に対する耐食性が向上する。
【0045】
(5)黒色Niメッキを施した外表面の放射率は、0.7という高放射率にすることができる。また、黒色Niメッキを施すと、プロセスガスによる腐食に対する耐食性が向上する。
【0046】
(6)母材をアルミ合金にして、アルマイト処理を外表面に施すと、その外表面の放射率は0.9という高放射率にすることができる。
【0047】
(7)円筒状ステータ22は、熱伝導抑制部材24を介して、ベース20に取り付けられている。これによって、円筒状ステータ22を熱的に隔離することができ、円筒状ステータ22の温度変化を抑制することができる。その結果、ステータ加熱部28によって円筒状ステータ22が加熱されて円筒状ステータ22の温度が高くなった場合には、円筒状ステータ22の温度が高いというその状態を容易に維持することができる。
【0048】
ここで、本実施形態のターボ分子ポンプ1を、比較例1のターボ分子ポンプ1A、及び、比較例2のターボ分子ポンプ1Bと対比して、反応生成物への対策、及び、構成の違いからくる熱の移動について、
図2〜
図5を用いて説明する。
【0049】
比較例1のターボ分子ポンプ1Aは、
図3(a)に示すように、円筒状ステータ22とベース20が直接接続されている。すなわち、熱伝導抑制部材24を有していない。さらに、円筒状ステータ22を専用に加熱するステータ加熱部28を有していない。また、比較例1のターボ分子ポンプ1Aは、
図2(b)に示すように、円筒状ステータ22、ロータ円筒部13、動翼12、静翼21、および、ベース20の母材がアルミ合金で、本実施形態において対象とした外表面が黒色Niメッキされている。
【0050】
比較例2のターボ分子ポンプ1Bは、
図3(b)に示すように、本実施形態と同様に、円筒状ステータ22が熱伝導抑制部材24を介してベース20に取り付けられている。さらに、本実施形態と同様に、円筒状ステータ22を専用に加熱するステータ加熱部28を有している。また、比較例1のターボ分子ポンプ1Aは、
図2(b)に示すように、円筒状ステータ22、ロータ円筒部13、動翼12、静翼21、および、ベース20の母材がアルミ合金で、本実施形態において対象とした外表面が黒色Niメッキされている。
【0051】
図4は、反応生成物の一例である塩化アルミニウム(AlCl
3)の蒸気圧曲線を示している。この蒸気圧曲線よりも図示上方の領域では、塩化アルミニウムは気体となる。反対に、この蒸気圧曲線よりも図示下方の領域では、塩化アルミニウムは固体となり、堆積物として堆積する。
【0052】
図5は、
図4に示される蒸気圧曲線に追加して、比較例1、比較例2、本実施形態の、静翼12と円筒状ステータ21の各部位の温度の一例を示したものである。ヒータ27、水冷パイプ50によるベース20の温調温度は75℃とし、ステータ加熱部28による温調温度は130℃とし、ロータの許容温度は120℃とする。なお、最上段静翼とは、ターボ分子ポンプ1の吸気口に最も近い段の静翼21である。最下段静翼とは、ターボ分子ポンプ1の排気口に最も近い段の静翼21である。中間段静翼とは、最上段静翼と最下段静翼の中間に位置する段の静翼21である。円筒状ステータ入口とは、円筒状ステータ22の吸気口側端部を意味している。円筒状ステータ出口とは、円筒状ステータ22の排気口側端部を意味している。
【0053】
図5において、比較例1では、円筒状ステータ出口における圧力に対する温度が蒸気圧曲線に接近している。すなわち、比較例1のターボ分子ポンプ1Aの円筒状ステータ22の排気口側端部は、塩化アルミニウムが堆積しやすい状況にある。そこで、比較例2のように、円筒状ステータ22を熱的に隔離し、さらに、ステータ加熱部28を設けることで、円筒状ステータ22の温度を上昇させ、塩化アルミニウムを堆積しにくくすることができる。
【0054】
しかし、ここで問題が生じる。
図3(a)に示すように、比較例1のときは、ポンプロータ10が最も温度が高い。そのため、
図2(b)に示すように、円筒状ステータ22、ロータ円筒部13、動翼12、静翼21、および、ベース20の外表面S1〜S7を黒色Niメッキとすることで、ポンプロータ10の放射による熱H1、H4、H5、H6の移動を盛んにすることが好ましい。
【0055】
ところが、
図3(b)に示すように、比較例2においては、円筒状ステータ22が、ポンプロータ10よりも温度が高い場合がある。この場合、円筒状ステータ22が熱源となって、周辺部材の外表面S4〜S7に放射による熱H4〜H9の移動を盛んに行ってしまう。そのため、ポンプロータ10の温度が許容温度である120℃を超えるという問題が生じる。また、放射熱H4に起因するポンプロータ10内の伝導による熱の移動H3によって、動翼12から静翼21への放射による熱H1が増加することになり、動翼12から静翼21へ放熱できる許容熱量を超える虞もある。
【0056】
そこで、本実施形態では、
図3(c)に示すように、外表面S3〜S7の放射率を低くして、円筒状ステータ22から周辺部材への放射による熱H4〜H9を抑制し、かつ、外表面S1、S2の放射率は、依然として高くして、動翼12から静翼21へ放射によって移動する熱H1の量を多くすることで、ポンプロータ10の温度上昇を抑制し、かつ、反応生成物の堆積を防止できる。
【0057】
次のような変形(A)〜(D)も本発明の範囲内である。
【0058】
(A)以上に示したステータ加熱部28は、ステータ温調部としてもよい。すなわち、ブロック281にヒータ280だけでなく、水冷パイプまたは油冷パイプを設けるようにしてもよい。これによって、円筒状ステータ22の温度調整がより容易になる。
【0059】
(B)以上では、円筒状ステータ22の外表面(さらには、ベース20、動翼12、静翼21の各外表面であって円筒状ステータ22と対向する外表面)には表面処理を施さなかったが、Niメッキを施すようにしてもよい。Niの放射率は0.2程度と比較的低いため、円筒状ステータ22から周囲へ向けての放射による熱移動は抑制される。また、円筒状ステータ22の外表面にNiメッキを施すことで耐腐食性が付与され、プロセスガスによる腐食に対する耐久性が向上する。
【0060】
(C)以上では、ロータ円筒部13の外表面であって円筒状ステータ22と対向する外表面にはNiメッキを施したが、ロータ円筒部13の母材がアルミ合金であれば、表面処理を施さなくてもよい。この場合、ロータ円筒部13の外表面の放射率は0.1以下と比較的低いため、円筒状ステータ22からの放射による熱を受けにくくすることができる。
【0061】
(D)以上では、静翼21の外表面であって動翼12と対向する外表面にはアルマイト処理を施したが、アルマイト処理の代わりに黒色Niメッキを施してもよい。黒色Niメッキとすることで高放射率で且つ耐食性に優れた外表面となる。動翼12の外表面であって静翼21と対向する外表面には黒色Niメッキを施したが、アルマイト処理を施してもよい。
【0062】
本発明は以上に示した内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。