特許第6398380号(P6398380)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6398380成形肉厚認識装置、成形肉厚認識システム、及び成形肉厚認識プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398380
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】成形肉厚認識装置、成形肉厚認識システム、及び成形肉厚認識プログラム
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20180920BHJP
   B29C 33/44 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
   B29C45/76
   B29C33/44
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-135249(P2014-135249)
(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-13619(P2016-13619A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士ゼロックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉塚 公則
【審査官】 越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−124555(JP,A)
【文献】 特開2002−063219(JP,A)
【文献】 特開2009−271781(JP,A)
【文献】 特開2014−069382(JP,A)
【文献】 特開2004−310668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 33/00−33/76
G06F 17/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる肉厚を有する成型品の形状を表す3次元形状情報に基づいて、前記成型品を構成する各面の表面積を肉厚毎に算出する算出部と、
前記算出部によって算出された肉厚毎の表面積を各々比較して、予め定めた条件を満たす表面積の肉厚を基本肉厚として決定する決定部と、
を備え
前記決定部は、
前記算出部の算出結果に基づいて、型抜き方向に対して平行な面を含めた面のうち1番目に表面積が大きい面Aの肉厚aの表面積が2番目に表面積が大きい面Bの肉厚bの表面積の予め定めた値倍以上の大きさか否かを判定する第1判定部と、
前記第1判定部によって前記肉厚aの表面積が前記肉厚bの表面積の予め定めた値倍以上の大きさであると判定された場合に、前記肉厚aを基本肉厚として決定する第1決定部と、
前記第1判定部によって前記肉厚aの表面積が前記肉厚bの表面積の予め定めた値倍の大きさに満たないと判定された場合に、前記算出部の算出結果に基づいて、型抜き方向に対して平行な面を除いた面のうち1番目に表面積が大きい面Dの肉厚dの表面積が2番目に表面積が大きい面Eの肉厚eの表面積の予め定めた値倍以上の大きさであるか否かを判定する第2判定部と、
前記第2判定部によって前記肉厚dの表面積が前記肉厚eの表面積の予め定めた値倍の大きさであると判定された場合に、前記肉厚dを基本肉厚として決定する第2決定部と、
前記第2判定部によって前記肉厚dの表面積が前記肉厚eの表面積の予め定めた値倍の大きさに満たないと判定された場合に、型抜方向に対して平行な面を含めた面のうち1番目に表面積が大きい面Aの肉厚a、2番目に表面積が大きい面Bの肉厚b、3番目に表面積が大きい面Cの肉厚cのうち最も薄い肉厚を基本肉厚として決定する第3決定部と、
を含む成形肉厚認識装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記3次元形状情報から面情報を抽出し、抽出した面に予め定めた法線演算点から法線方向に対して仮想的な投影ビームを照射し、前記投影ビームと交差する面を求めて、前記法線演算点から求めた面までの距離を肉厚として認識する肉厚認識部を含む請求項1に記載の成形肉厚認識装置。
【請求項3】
前記3次元形状情報及び前記決定部によって決定された基本肉厚に基づいて、前記3次元形状情報通りにならないと予測される肉厚部分を抽出して表示する表示部を更に備えた請求項1又は請求項2に記載の成形肉厚認識装置。
【請求項4】
異なる肉厚を有する成型品の形状を表す3次元形状情報を記憶する記憶部と、
請求項1〜3の何れか1項に記載の成形肉厚認識装置と、
を備えた成形肉厚認識システム。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1〜3の何れか1項に記載の成形肉厚認識装置を構成する各部として機能させるための成形肉厚認識プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形肉厚認識装置、成形肉厚認識システム、及び成形肉厚認識プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、成形品の変形形状の予測方法であって、変形形状の予測を行う前の準備段階において、予測の対象とされる成形品形状と類似する特定の形態における形状データに基づいて算出された形状特徴と、実測収縮率とを関連づけた収縮率テーブルデータを算出する工程と、前記予測の対象とされる成形品形状の形状データに基づいて形状特徴を算出し、これに対応する実測収縮率を前記準備段階の収縮率テーブルデータから読み込み、これらを元にして収縮歪データを算出する工程と、前記算出された収縮歪データを用い、成形品の変形形状を予測する工程と、を有する成形品の変形形状の予測方法が提案されている。
【0003】
特許文献2には、製品形状CADデータ設計手段と、製品形状を略反転させた金型形状CADデータを設計する金型形状CADデータ設計手段と、金型形状CADデータに基づいて製造された金型の形状を測定する金型形状測定手段と、製造された金型形状を用いて製造された製品形状を測定する製品形状測定手段と、{(金型形状CADデータ)−(金型形状測定値)}−{(製品形状測定値)−(製品形状CADデータ)}を製品形状CADデータに加算する製品形状CADデータ補正手段と、製品形状CADデータ補正手段による補正後の製品形状CADデータを反転させて、修正版金型形状CADデータを生成する、修正版金型形状CADデータ生成手段と、を備える金型修正システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−271781号公報
【特許文献2】特開2007−168424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、3次元形状情報から成形品の基本肉厚を認識することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の成形肉厚認識装置は、異なる肉厚を有する成型品の形状を表す3次元形状情報に基づいて、前記成型品を構成する各面の表面積を肉厚毎に算出する算出部と、前記算出部によって算出された肉厚毎の表面積を各々比較して、予め定めた条件を満たす表面積の肉厚を基本肉厚として決定する決定部と、を備え、前記決定部は、前記算出部の算出結果に基づいて、型抜き方向に対して平行な面を含めた面のうち1番目に表面積が大きい面Aの肉厚aの表面積が2番目に表面積が大きい面Bの肉厚bの表面積の予め定めた値倍以上の大きさか否かを判定する第1判定部と、前記第1判定部によって前記肉厚aの表面積が前記肉厚bの表面積の予め定めた値倍以上の大きさであると判定された場合に、前記肉厚aを基本肉厚として決定する第1決定部と、前記第1判定部によって前記肉厚aの表面積が前記肉厚bの表面積の予め定めた値倍の大きさに満たないと判定された場合に、前記算出部の算出結果に基づいて、型抜き方向に対して平行な面を除いた面のうち1番目に表面積が大きい面Dの肉厚dの表面積が2番目に表面積が大きい面Eの肉厚eの表面積の予め定めた値倍以上の大きさであるか否かを判定する第2判定部と、前記第2判定部によって前記肉厚dの表面積が前記肉厚eの表面積の予め定めた値倍の大きさであると判定された場合に、前記肉厚dを基本肉厚として決定する第2決定部と、前記第2判定部によって前記肉厚dの表面積が前記肉厚eの表面積の予め定めた値倍の大きさに満たないと判定された場合に、型抜方向に対して平行な面を含めた面のうち1番目に表面積が大きい面Aの肉厚a、2番目に表面積が大きい面Bの肉厚b、3番目に表面積が大きい面Cの肉厚cのうち最も薄い肉厚を基本肉厚として決定する第3決定部と、を含む。
【0010】
請求項に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記算出部は、前記3次元形状情報から面情報を抽出し、抽出した面に予め定めた法線演算点から法線方向に対して仮想的な投影ビームを照射し、前記投影ビームと交差する面を求めて、前記法線演算点から求めた面までの距離を肉厚として認識する肉厚認識部を含む。
【0011】
請求項に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記3次元形状情報及び前記決定部によって決定された基本肉厚に基づいて、前記3次元形状情報通りにならないと予測される肉厚部分を抽出して表示する表示部を更に備えている。
【0012】
請求項に記載の成形肉厚認識システムは、異なる肉厚を有する成型品の形状を表す3次元形状情報を記憶する記憶部と、請求項1〜の何れか1項に記載の成形肉厚認識装置と、を備えている。
【0013】
請求項に記載の成形肉厚認識プログラムは、コンピュータを、請求項1〜の何れか1項に記載の成形肉厚認識装置を構成する各部として機能させる。
【発明の効果】
【0016】
請求項に記載の発明によれば、肉厚毎の表面積以外を用いて基本肉厚を決定する場合に比較して基本肉厚を容易に決定することができる、という効果がある。
【0017】
請求項に記載の発明によれば、成型品の各面の肉厚を3次元形状情報から算出することができる、という効果がある。
【0018】
請求項に記載の発明によれば、3次元形状情報通りにならないと予測される肉厚部分を視覚的に明示することができる、という効果がある。
【0019】
請求項に記載の発明によれば、3次元形状情報から成形品の基本肉厚を認識可能な成形肉厚認識システムを提供することができる、という効果がある。
【0020】
請求項に記載の発明によれば、次元形状情報から成形品の基本肉厚を認識可能な成形肉厚認識プログラムを提供することができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施の形態に係る成形肉厚認識装置を含む成形肉厚認識システムの概略構成を示す図である。
図2】本実施の形態に係る成形肉厚認識装置が有する機能を表す機能ブロック図である。
図3】成型品の各面の肉厚の求め方を説明するための図である。
図4】成型品の表面のヒケの発生を説明するための図である。
図5】本実施の形態に係る成形肉厚認識装置の基本肉厚認識部で行われる基本肉厚認識処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図6】基本肉厚決定部による具体的な基本肉厚の決定方法を説明するための図である。
図7】本実施の形態に係る成形肉厚認識装置の肉厚確認部位導出部及び表示処理部で行われる肉厚確認部位導出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図8】表示処理部による表示例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施の形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施の形態に係る成形肉厚認識装置を含む成形肉厚認識システムの概略構成を示す図である。なお、成形肉厚認識装置12は、機械製品等の製品を構成する成型品の設計や金型の設定等を行う設計支援装置の一部を構成するものであり、該設計支援装置が有する成型品の基本肉厚を認識する機能を捉えたものである。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態に係る成形肉厚認識システム10は、CAD(Computer Aided Design)情報記憶装置14及び成形肉厚認識装置12を備えている。
【0024】
成形肉厚認識装置12には、CAD情報記憶装置14及びディスプレイ16が接続されている。CAD情報記憶装置14には、CADによって生成された、異なる肉厚を有する成型品の形状を表す3次元形状情報(以下、CAD情報という)が記憶されている。CAD情報記憶装置14は、例えば、成型品の各表面を示す表面情報や、成型品の各境界線の両端の座標等を示す境界線情報を記憶する。ディスプレイ16には、成型品の形状や、成型品の各面の境界線や肉厚等に関する情報が表示される。
【0025】
さらに、成形肉厚認識装置12は、ROM(Read Only Memory)12A、RAM(Random Access Memory)12B、CPU(Central Processing Unit)12C、HDD(Hard Disc Drive)12D、及びI/O(入出力)ポート12Eを備えている。これらROM12A、RAM12B、CPU12C、HDD12D、及びI/Oポート12Eは互いにバス12Fを介して各々接続されている。すなわち、成形肉厚認識装置12は、コンピュータの機能を有する。
【0026】
記憶媒体としてのROM12Aには、OS等の基本プログラムが記憶されている。また、本実施の形態のROM12Aには、後述の基本肉厚認識処理や、肉厚確認部位導出処理等の各種処理を実行するためのプログラムが記憶されている。
【0027】
CPU12Cは、各種プログラムをROM12Aから読み出してRAM12Bに展開して各処理を実行する。RAM12Bは、各種プログラムを実行する際に各種データを一時的に記憶する作業領域として機能する。I/Oポート12Eには、CAD情報記憶装置14及びディスプレイ16が接続され、CAD情報記憶装置14に記憶されたCAD情報をCPU12Cが取得して各種処理を行うと共に、処理結果等をディスプレイ16に表示する。
【0028】
続いて、本実施の形態に係る成形肉厚認識装置12が有する機能について説明する。図2は、本実施の形態に係る成形肉厚認識装置12が有する機能を表す機能ブロック図である。
【0029】
図2に示すように、成形肉厚認識装置12は、取得部18、基本肉厚認識部20、肉厚確認部位導出部28、及び表示処理部30の機能を有しており、各機能は、本実施の形態では上述のように各種プログラムを実行することにより実現される。
【0030】
取得部18は、CAD情報記憶装置14に記憶された表面情報や境界線情報を含むCAD情報を取得する。
【0031】
基本肉厚認識部20は、面抽出部22、肉厚認識部24、及び基本肉厚決定部26を含んでいる。
【0032】
面抽出部22は、取得部18で取得したCAD情報から成型品の各面を抽出する。面の抽出は、例えば、成型品の形状を表すCAD情報から面情報を取得して、各面上に予め定めた間隔のグリッドの交点を法線演算点として、該法線演算点の法線を演算する。そして、演算した各面の法線の方向と、成型品を成形するための金型を構成するキャビ型とコア型との予め設定された相対移動方向(型抜方向)とに基づいて、成型品を構成する各種面を抽出する。面抽出部22は、一例として、成型品を構成する面について、型抜方向に対して平行な面である立ち壁、キャビ型又はコア型と対向する面である対向面、及びキャビ型又はコア型のどちらか一方では成形できない面である両側アンダー面等を抽出する。なお、具体的な面の抽出方法については、例えば、特許第5187457号公報や、特許第4488060号公報、特許第4623134号公報、特許第501313号公報等に記載の技術を用いて抽出する。
【0033】
肉厚認識部24は、面抽出部22で抽出した各面の肉厚を認識する。例えば、図3に示すように、各面に対して予め定めた法線演算点の法線方向に沿って仮想的な投影ビームを照射し、投影ビームと交差する面を求め、法線演算点から求めた面までの距離を肉厚として認識する。なお、図3の各点が法線演算点を示す。
【0034】
基本肉厚決定部26は、肉厚認識部24で認識した各面の肉厚に基づいて、基本肉厚を決定する。本実施の形態では、肉厚毎の表面積を算出して、立ち壁を含めて全体のバランスを考慮して最も面積が大きい肉厚を基本肉厚とする。また、平面部と立ち壁であれば平面部の肉厚を基本として考える。具体的には、立ち壁を含めた各面の肉厚毎の表面積を算出する。そして、1番目に表面積が大きい肉厚が2番目に表面積が大きい肉厚の予め定めた値以上(本実施の形態では、2倍以上)の表面積である場合には、1番目に表面積が大きい肉厚を基本肉厚に決定する。また、1番目に表面積が大きい肉厚が2番目に表面積が大きい肉厚の2倍以上に満たない表面積の場合には、立ち壁を除いた各肉厚毎の表面積を算出する。そして、1番目に表面積が大きい肉厚が2番目に表面積が大きい肉厚の2倍以上の表面積である場合には、立ち壁を除いた面の中で、1番目に表面積が大きい肉厚を基本肉厚に決定する。一方、立ち壁を除いた面の中で1番目に表面積が大きい肉厚が2番目に表面積が大きい肉厚の2倍以上に満たない表面積の場合には、2番目に表面積が大きい肉厚を基本肉厚に決定する。ここで、肉厚が予め定めた値(例えば、2mm)を超える場合には、樹脂の充填性は確保されるので、コストや安全側を考慮して肉厚が小さい方の2番目に表面積が大きい肉厚を基本肉厚とする。
【0035】
なお、肉厚毎の表面積は、例えば、面抽出部22によって抽出した面のうち注目する面の面積Sとしたとき、S×(注目肉厚の部位に含まれる法線演算点の数)÷(注目面に含まれる法線演算点の数)を算出する。
【0036】
肉厚確認部位導出部28は、基本肉厚決定部26によって決定した基本肉厚に基づいて、成型品に変形が現れる可能性がある部位を確認部位として導出する。
【0037】
ところで、樹脂は、溶融時と固体時で体積が変化し、通常、溶融状態より固化すると収縮する。成型品を金型から取り出した直後の温度は、常温よりも高く、時間経過と共に常温となる。このとき、成型品は冷却するに従って収縮する。一般的に成型品の肉厚が増すと成形収縮率が大きくなる傾向があり、成型品の肉厚が大きくなると、表面にヒケができやすくなる。例えば、成型品に肉厚の異なる部分が存在する場合には、溶融した樹脂が成型品の表面から固化し、時間経過と共に、図4(A)。(B)、(C)の順で示すように、表面から順に固化して最後に内部が固化する。表面より後に内部が固化することにより、内部が固化することによる収縮によって表面にヒケ等の変形が発生する。そこで、肉厚確認部位導出部28は、基本肉厚に対してCAD情報通りにならず、ヒケ等の不具合が発生する可能性がある肉厚の部位を確認部位として導出する。本実施の形態では、肉厚確認部位導出部28は、基本肉厚×Aから基本肉厚×A+B(A、Bは各々予め定めた値)の範囲の肉厚の部位を導出する。
【0038】
表示処理部30は、肉厚確認部位導出部28によって導出した確認部位をディスプレイ16に表示する。例えば、基本肉厚×Aから基本肉厚×A+Bの範囲の肉厚を予め定めた範囲毎に異なる状態表示を行う。異なる状態表示としては、例えば、基本肉厚×Aから基本肉厚×A+Bの範囲の肉厚を予め定めた範囲毎に色分けして対応する確認部位を肉厚に対応する色で表示する。
【0039】
続いて、上述のように構成された本実施の形態に係る成形肉厚認識装置12で行われる具体的な処理について説明する。図5は、本実施の形態に係る成形肉厚認識装置12の基本肉厚認識部20で行われる基本肉厚認識処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0040】
ステップ100では、取得部18がCAD情報記憶装置14に記憶されたCAD情報を取得してステップ102へ移行する。
【0041】
ステップ102では、面抽出部22が、取得部18で取得したCAD情報から成型品の各面を抽出してステップ104へ移行する。例えば、面抽出部22は、上述したように、CAD情報から面情報を取得して、各面上の法線演算点の法線を演算する。そして、演算した各面の法線の方向と、成型品を成形するための金型を構成するキャビ型とコア型との予め設定された相対移動方向(型抜方向)とに基づいて、成型品を構成する各種面を抽出する。
【0042】
ステップ104では、肉厚認識部24が面抽出部22で抽出した各面の肉厚を認識してステップ106へ移行する。すなわち、肉厚認識部は、各面の法線演算点の法線方向に沿って仮想的な投影ビームを照射し、投影ビームと交差する面を求め、法線演算点から求めた面までの距離を肉厚として認識する。
【0043】
ステップ106では、基本肉厚決定部26が、各面の肉厚毎の表面積を算出してステップ108へ移行する。例えば、基本肉厚決定部26は、面抽出部22によって抽出した面のうち注目する面の面積Sとした場合に、S×(注目肉厚の部位に含まれる法線演算点の数)÷(注目面に含まれる法線演算点の数)を算出することにより表面積を算出する。
【0044】
ステップ108では、基本肉厚決定部26が、立ち壁を含めて1番目に大きい表面積の肉厚が2番目に大きい表面積の肉厚の2倍以上の表面積であるか否かを判定する。該判定が肯定された場合にはステップ110へ移行し、否定された場合にはステップ112へ移行する。
【0045】
ステップ110では、基本肉厚決定部26が、立ち壁を含めて1番目に大きい表面積の肉厚を基本肉厚として決定して一連の基本肉厚認識処理を終了する。例えば、図6に示すように、平面A、立ち壁B、平面C、立ち壁D、及び立ち壁Eとして、各々の表面積の大きさが平面A>立ち壁B>平面C>立ち壁D>立ち壁Eとし、かつ各々の肉厚をそれぞれ順にa、b、c、d、eとした場合に、立ち壁を含めて1番目に大きい表面積の肉厚a(平面A)が2番目に大きい表面積の肉厚b(立ち壁B)の2倍以上の表面積である場合には、平面Aの肉厚aを基本肉厚として決定する。すなわち、最も大きい表面積の肉厚が基本肉厚と考えられるので、1番表面積の大きい肉厚aを基本肉厚として決定する。
【0046】
一方、ステップ112では、基本肉厚決定部26が、立ち壁を除いて1番目に大きい表面積の肉厚が2番目に大きい表面積の肉厚の2倍以上の表面積であるか否かを判定する。該判定が肯定された場合にはステップ114へ移行し、否定された場合にはステップ116へ移行する。
【0047】
ステップ114では、基本肉厚決定部26が、立ち壁を除いて1番目に大きい表面積の肉厚を基本肉厚として決定して一連の基本肉厚認識処理を終了する。例えば、図6の例において、立ち壁を含めて1番目に大きい表面積の肉厚a(平面A)が2番目に大きい表面積の肉厚b(立ち壁B)の2倍以上の表面積に満たない場合、かつ立ち壁B、D、Eを除いて1番目に大きい表面積の肉厚a(平面A)が2番目に大きい表面積の肉厚c(平面C)の2倍以上の表面積の場合は、平面Aの肉厚aを基本肉厚として決定する。
【0048】
一方、ステップ116では、立ち壁を含めて表面積が大きい上位三面のうち最も肉厚が薄い肉厚を基本肉厚として決定して一連の基本肉厚認識処理を終了する。例えば、図6の例において、立ち壁を含めて1番目に大きい表面積の肉厚a(平面A)が2番目に大きい表面積の肉厚b(立ち壁B)の2倍以上の表面積に満たない場合、かつ立ち壁B、D、Eを除いて1番目に大きい表面積の肉厚a(平面A)が2番目に大きい表面積の肉厚c(平面C)の2倍以上の表面積に満たない場合は、立ち壁を含めた面のうち1番目に表面積が大きい面(平面A)の肉厚a、2番目に表面積が大きい面(平面B)の肉厚b、3番目に表面積が大きい面(平面C)の肉厚cのうち最も肉厚が薄い平面Cの肉厚cを基本肉厚として決定する。
【0049】
次に、基本肉厚認識処理で決定された基本肉厚を用いて行われる肉厚確認部位導出処理について説明する。図7は、本実施の形態に係る成形肉厚認識装置12の肉厚確認部位導出部28及び表示処理部30で行われる肉厚確認部位導出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0050】
ステップ200では、肉厚確認部位導出部28が、基本肉厚認識部20の上述の基本肉厚認識処理によって決定した基本肉厚を取得してステップ202へ移行する。
【0051】
ステップ202では、肉厚確認部位導出部28が、取得した基本肉厚に基づいてCAD情報によって示されるCADモデルから外れる肉厚範囲を算出してステップ204へ移行する。すなわち、肉厚確認部位導出部28は、基本肉厚に対してヒケ等の不具合が発生する可能性がある肉厚を算出する。本実施の形態では、基本肉厚×Aから基本肉厚×A+B(A、Bは各々予め定めた値)を算出する。
【0052】
ステップ204では、肉厚確認部位導出部28が、算出した肉厚範囲の部分をCAD情報から抽出してステップ206へ移行する。すなわち、肉厚確認部位導出部28は、基本肉厚×Aから基本肉厚×A+B(A、Bは各々予め定めた値)の範囲の肉厚の部位をCAD情報から抽出する。
【0053】
ステップ206では、表示処理部30が、ステップ204で抽出した部分に対して予め定めた肉厚毎にカラーマップ表示してステップ208へ移行する。例えば、成型品の形状が、図8(A)に示すように、筐体50にリブ52、54、56、58、及びエンボス形状60等が存在する例を説明する。それぞれの肉厚が、基本肉厚×Aから基本肉厚×A+Bの範囲の肉厚の場合に、図8(B)に示すように、基本肉厚×Aから基本肉厚×A+Bの範囲を予め定めた間隔で区切ってそれぞれの肉厚に応じて予め定めた異なる色のマーク62を表示する。これにより、成型品がCAD情報が表すモデル通りに成形されて、ヒケ等の変形がないかを確認する際には、表示されたマーク62の部分を確認すればよい。なお、異なる色ではなく、異なる形状のマーク等の異なる表示状態のマークを表示するようにしてもよい。
【0054】
ステップ208では、表示処理部30が表示部位の移動が指示されたか否かを判定する。例えば、キーボードやマウス等の操作部によって、現在されている表示部位を他の部位に移動する指示がなされたか否かを判定し、該判定が肯定された場合にはステップ210へ移行し、否定された場合にはステップ212へ移行する。
【0055】
ステップ210では、表示処理部30が、予め定めた肉厚毎のカラーマップ表示を指示された部位に移動してステップ212へ移行する。
【0056】
ステップ212では、表示処理部30が、表示終了か否かを判定する。該判定は、例えば、キーボードやマウス等の操作部によって表示終了を指示する操作が行われたか否かを判定する。該判定が否定された場合にはステップ210に戻って上述の処理が繰り返され、判定が肯定された場合には、一連の肉厚確認部位導出処理を終了する。
【0057】
なお、上記の実施の形態では、各種プログラムをコンピュータに実行させる例を説明したが、各プログラムによって実行される処理の一部または全てをハードウエアで行うようにしてもよい。
【0058】
また、上記の実施の形態に係る成形肉厚認識装置12によって行われる各処理は、プログラムとして記憶媒体に記憶して流通させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 成形肉厚認識システム
12 成形肉厚認識装置
14 CAD情報記憶部
16 ディスプレイ
18 取得部
20 基本肉厚認識部
22 面抽出部
24 肉厚認識部
26 基本肉厚決定部
28 肉厚確認導出部
30 表示処理部
図1
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図8