(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記判断の基準となるエンジンの所定回転速度は、クランク位置のあらゆる位置に対応して定められる必要がある。この所定回転速度は、実験によって求められるため、開発工数が増加するという問題があった。また、各クランク位置に対応した所定回転速度をECU(Electronic Control Unit)内にマップデータとして格納しなくてはならないため、そのマップデータが膨大な量になってしまうという問題があった。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、開発工数を抑えると共に、ECU内に格納されるマップデータの量を増加させることなく、エンジンの再始動を実現することができるエンジン始動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエンジン始動制御装置は、スロットル弁を閉じた場合にエンジンを停止する一方、前記エンジンの停止後に前記スロットル弁を開いた場合に前記エンジンを始動するエンジン始動制御装置であって、エンジン回転速度を検出する検出手段と、前記スロットル弁を開いた後に
単一のクランク位置における前記エンジン回転速度が閾値以上である場合に前記エンジンを正転駆動する一方、当該エンジン回転速度が前記閾値より小さい場合に前記エンジンを逆転駆動した後に前記エンジンを正転駆動する制御手段と、を備え
、前記制御手段は、前記スロットル弁を開いた後に前記単一のクランク位置まで前記エンジンを正転駆動させる過程で前記エンジン回転速度が前記閾値を下回る場合には、前記エンジンを逆転駆動した後に前記エンジンを正転駆動し、スロットル開度の大きさに応じて、スロットル開度が大きくなるほど前記閾値を大きくすることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、エンジン停止後に再始動する際、エンジンの駆動方法(正転駆動又は逆転駆動)の判定を、
単一のクランク位置におけるエンジン回転速度のみで行うことができる。この場合、判定基準となる閾値を設定する上で、
単一のクランク位置におけるエンジン回転速度のみを調査すればよい。よって、閾値を決定する工数を削減することができる。このため、例えば、他機種のエンジンに同様のエンジン始動制御装置を適用する際に、その開発工数を削減することができる。また、
単一のクランク位置で上記判断が実施されるため、判定基準となる閾値を単一のデータで構成することができる。このため、従来の様に、あらゆるクランク位置に対応した閾値(所定回転速度)で構成されるマップデータに比べて、ECUに格納するデータ量を削減することができる。
また、エンジンが単一のクランク位置まで強制駆動された結果、単一のクランク位置でエンジンを再始動する際のエンジンの駆動方法を判定することができる。また、単一のクランク位置までエンジンが正転しなくても、強制的にエンジンが逆転駆動される。このため、エンジンの再始動に十分なエンジン回転速度が得られていなくても、確実にエンジンを再始動させることができる。さらに、スロットル開度の変化に応じて、より正確にエンジンの駆動方法を判定することができる。
【0012】
また、本発明の上記エンジン始動制御装置において、吸気温度に応じて、吸気温度が低くなるほど前記閾値を大きくすることが好ましい。この場合、吸気温度の変化に応じて、より正確にエンジンの駆動方法を判定することができる。
【0013】
また、本発明の上記エンジン始動制御装置において、エンジン水温に応じて、エンジン水温が低くなるほど前記閾値を大きくすることが好ましい。この場合、エンジン水温の変化に応じて、より正確にエンジンの駆動方法を判定することができる。
【0014】
また、本発明の上記エンジン始動制御装置において、前記制御手段は、前記エンジンを逆転駆動する前に前記エンジンのブレーキ制御を行うことが好ましい。この場合、エンジンの回転を停止するまでの時間を短縮することができ、エンジン再始動の応答性を高めることができる。
【0015】
また、本発明の上記エンジン始動制御装置において、前記制御手段は、前記エンジンを逆転駆動する場合、前記エンジンの回転がシリンダ内圧により停止するタイミングで逆転制御することが好ましい。この場合、エンジンの駆動負荷を低減することができ、消費電流を低減することができる。
【0016】
また、本発明の上記エンジン始動制御装置において、前記制御手段は、前記エンジンの駆動をスタータジェネレータにより実行することが好ましい。この場合、発電とエンジン駆動とを1つの機構で実現することができ、構成が簡略化される。
【0017】
また、本発明の上記エンジン始動制御装置において、前記制御手段は、前記
単一のクランク位置として、圧縮行程内のクランク位置におけるエンジン回転速度を判定することが好ましい。圧縮行程ではエンジンの駆動抵抗が高いため、エンジンを正転駆動するか逆転駆動するかの判定基準(閾値)を予測し易くすることができる。この結果、エンジンの駆動方法の判定精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のエンジン始動制御装置によれば、所定クランク位置のエンジン回転速度からエンジンの駆動方法を判定することにより、開発工数を抑えると共に、ECU内に格納されるマップデータの量を増加させることなく、エンジンの再始動を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本実施の形態に係るエンジン始動制御装置について説明する。なお、本実施の形態に係るエンジン始動制御装置は、以下に示す構成に限定されるものではなく、適宜変更が可能である。エンジン始動制御装置は、どのような車両に適用されてもよく、例えば、自動二輪車、バギータイプの自動三輪車又は自動四輪車にも適用可能である。
【0021】
先ず、
図1及び
図2を参照して、エンジンの一般的な概略構成について説明する。
図1は、本実施の形態に係るエンジンの模式図である。
図2は、本実施の形態に係るエンジンのクランク位置に対するシリンダ内圧力を示すグラフである。
図1に示すように、エンジン1は、例えば、直動式のDOHC(Double OverHead Camshaft)エンジンであり、不図示のクランクケース内にクランクシャフト10、シリンダ11及びシリンダヘッド12等を備えて構成される。シリンダ11内には、ピストン13が上下に往復可能に収容されている。クランクシャフト10とピストン13とはコンロッド14によって連結されており、ピストン13が上下方向に往復運動することで、クランクシャフト10がコンロッド14を介して回転される。
【0022】
シリンダヘッド12の内部空間は、燃焼室15を構成している。また、シリンダヘッド12には、吸気ポート及び排気ポートに対応して、吸気バルブ16及び排気バルブ17が設けられている。また、吸気バルブ16及び排気バルブ17に対応して、一対のカムシャフト18が設けられている。クランクシャフト10及び一対のカムシャフト18には、不図示のカムチェーンが架け渡されており、クランクシャフト10の回転は、カムチェーンを介して一対のカムシャフト18に伝達される。
【0023】
一対のカムシャフト18が回転されることで、吸気バルブ16及び排気バルブ17は燃焼室15に向けて往復動される。このようにして、吸気バルブ16及び排気バルブ17のそれぞれにおける開閉タイミングが調整される。また、燃焼室15の上方には、燃焼室15内の混合気に着火する点火装置19が設けられている。点火装置19は、ECU2から出力される点火信号に基づいて所定のタイミングで点火する。
【0024】
また、クランクシャフト10は、クランクシャフト10の同軸上に設けられたスタータジェネレータ20に接続されている。スタータジェネレータ20は、不図示のインバータ(コントローラ)を介してバッテリ(不図示)に接続されており、バッテリからの電力供給を受けてエンジン1を始動する。また、スタータジェネレータ20は、エンジン1の駆動中、その回転エネルギーから電気エネルギーを回収する。このように、スタータジェネレータ20は、エンジン1を始動させるスタータモータとしての機能と、エンジン1の駆動によって発電するジェネレータとしての機能とを兼ね備えている。
【0025】
また、詳細は後述するが、スタータジェネレータ20は、エンジン1を始動する際に、クランクシャフト10を正転又は逆転させることが可能になっている。クランクシャフト10を逆転させる際には、ブレーキ制御に切り替えることでクランクシャフト10の回転負荷を高め、正転中のクランクシャフト10に対してブレーキを効かせることが可能になっている。
【0026】
エンジン1内の各種動作は、ECU2によって制御される。ECU2は、エンジン1内の各種処理を実行するプロセッサやメモリ等により構成されている。メモリは、用途に応じてROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の記憶媒体で構成される。メモリには、エンジン1の各部を制御する制御プログラム等が記憶されている。ECU2は、車両内に設けられた各種センサから車両の状態を判断し、点火装置19の点火タイミングや、エンジン1のアイドリングストップ、及びアイドリングストップ後のエンジン1の再始動等の制御を実施する。
【0027】
例えば、アイドリングストップ制御の場合に、ECU2は、車両速度やスロットル操作量から車両の状態を判断する。そして、スロットル(不図示)の操作がなくスロットル弁(不図示)が閉じた場合に、ECU2は、燃料噴射や点火制御を停止する。また、後述するチェンジオブマインド制御の場合に、ECU2は、スロットルの操作量やクランクシャフト10の回転速度からエンジン1の状態を判断する。そして、スロットルが操作され、スロットル弁が開かれた場合に、ECU2は、スタータジェネレータ20を駆動させてエンジン1を始動させる。
【0028】
一般に、上記構成のエンジン1は、4ストロークで動作する。先ず、ピストン13が下降する際に吸気バルブ16が開き、吸気ポートを通じて混合気が燃焼室15に送り込まれる(吸気行程)。その後、吸気バルブ16が閉じ、ピストン13が上昇して混合気を圧縮する(圧縮行程)。ピストン13が上死点近傍に到達すると、点火装置19によって所定のタイミングで点火されることによって、圧縮された混合気が爆発する(爆発行程)。混合気の爆発によって燃焼室内の圧力が増大するとピストン13が下降する。ピストン13の下降運動は、コンロッド14を介してクランクシャフト10に伝達され、クランクシャフト10が回転する。その後、ピストン13が下死点まで下降して慣性によって再度上昇に転じる際に、排気バルブ17が開いて排気ポートから燃焼ガスが排出される(排気行程)。これらの行程が繰り返されることにより、エンジン1の回転が持続される。
【0029】
また、エンジン1の各行程において、シリンダ11内の圧力は、
図2に示すグラフの様に変化する。
図2に示すグラフにおいて、シリンダ11内の圧力は、排気及び吸気行程では一定の値を示しており、圧縮行程において急激に高められる。そして、圧縮上死点近傍で燃焼室15内の混合ガスが爆発して爆発行程に移行すると一気に圧力が低下する。
【0030】
次に、
図3を参照して、アイドリングストップ制御及びチェンジオブマインド制御について説明する。
図3は、本実施の形態に係るエンジンのアイドリングストップ時又は、再始動時のエンジン回転速度の変化を示すグラフである。先ず、アイドリングストップ制御について説明する。
図3Aに示すように、エンジン回転速度が一定に落ち着き、アイドリングストップの条件が成立したときに、ECU2(
図1参照)は、エンジン回転速度を下げるように制御する。
【0031】
具体的には、燃料噴射や点火制御が停止される。エンジン回転速度Nが徐々に下がってゼロになったら、クランクシャフト10(
図1参照)が逆転駆動又は正転駆動されてクランク位置が微調整される。これにより、クランクシャフト10が、エンジン1(
図1参照)の再始動に最適な位置に位置付けられる。この結果、エンジン1の再始動を容易に実施することができる。なお、アイドリングストップの成立条件は、例えば、車両速度やスロットル開度等によって設定される。
【0032】
次に、チェンジオブマインド制御について説明する。ここで、チェンジオブマインド制御とは、例えば、前方の信号が赤で車両が減速又は停止している最中に、信号が青に変化して再び走行しようと乗員がスロットルを開くとき、すなわち、気が変わって乗員の操作が変化したときのエンジン制御を表している。チェンジオブマインド制御は、気が変わるタイミング、すなわち、スロットル弁を開く際のエンジン回転速度Nによって、以下の
図3B又は
図3Cに示す2パターンの制御に分けられる。
【0033】
図3Bに示すように、エンジン回転速度Nが一定に落ち着いた後、アイドリングストップの条件が成立し、燃料噴射及び点火制御が停止される。これにより、エンジン1(
図1参照)は惰性回転し、エンジン回転速度Nが徐々に低下する。そして、スロットル弁が開かれた後、エンジン回転速度Nが所定回転速度NE2(閾値)より大きい場合、ECU2は、エンジン1を正転させて、回転速度を上げるように制御する。この結果、アイドリングストップの開始前までエンジン回転速度Nが回復し、燃料噴射及び点火制御が再開され、所定回転速度NE1(閾値)を超えると、エンジン1が再始動された状態になる。ここで、所定回転速度NE2(以下、単にNE2と記す)は、エンジンを正転駆動させるか逆転駆動させるかの判断基準となる正転継続判定回転速度を示し、所定回転速度NE1(以下、単にNE1と記す)は、エンジン1が始動完了したか否かを判断するための始動完了判定回転速度を示している。
【0034】
図3Cにおいても同様に、エンジン回転速度Nが一定に落ち着いた後、アイドリングストップの条件が成立し、燃料噴射及び点火制御が停止される。エンジン回転速度Nが徐々に低下し、スロットル弁が開かれた後、エンジン回転速度NがNE2より小さい場合、ECU2は、スタータジェネレータ20をブレーキ駆動してエンジン回転速度Nを下げようと制御する。そして、エンジン回転速度Nが所定回転速度NE3(閾値)を下回ると、ECU2は、クランクシャフト10を逆転させて所定位置まで位置付け、再びクランクシャフト10を正転させることによりエンジン回転速度Nを上げるように制御する。この結果、アイドリングストップの開始前までエンジン回転速度Nが回復し、エンジン回転速度Nが所定回転速度NE1を超えると、エンジン1が再始動された状態になる。ここで、所定回転速度NE3(以下、単にNE3と記す)は、エンジン1が停止したか否かを判断するためのエンジン停止判定回転速度を示している。
【0035】
図3B及び
図3Cに示すように、ECU2は、アイドリングストップの条件が成立してエンジン回転速度Nが低下している場合に、スロットル弁が開かれた後のエンジン回転速度Nに基づいて、エンジン1の正転を継続するか、エンジン1の回転を完全に停止させて逆転させるかを判断する。そして、ECU2は、その判断結果に基づいてスタータジェネレータ20を駆動させる。その結果、エンジン回転速度Nが所定値まで回復したところで、エンジン1が再始動された状態になる。
【0036】
次に、
図4を参照して、本実施の形態に係るエンジン始動制御装置のシステム構成について説明する。
図4は、本実施の形態に係るエンジン始動制御装置の機能ブロック図である。エンジン始動制御装置3は、スロットル弁(不図示)が閉じた場合にエンジン1(
図1参照)を停止し、スロットル弁が開かれた場合にエンジン1を再始動するように構成されている。また、エンジン始動制御装置3は、エンジン1を再始動する際に、所定クランク位置におけるエンジン回転速度に応じてクランクシャフト10(
図1参照)の駆動方法を変えるように構成されている。このため、エンジン1が低速で回転、又は回転が停止している場合においても、確実にエンジン1を再始動させることが可能になっている。
【0037】
スロットル弁の開き具合(開度)は、乗員のスロットル操作によって調整される。また、スロットル弁の開度は、スロットル弁に設けられるスロットル開度センサ31によって検出される。スロットル開度センサ31で検出されたスロットル開度は、ECU2に出力される。エンジン1(クランクシャフト10)の回転速度は、クランクシャフト10(
図1参照)の外周に設けられるクランク角センサ32によって検出される。クランク角センサ32は、例えば、ホール素子で構成され、クランクシャフト10からクランクパルスを取得する。クランク角センサ32が取得したクランクパルスは、ECU2に出力される。ECU2は、このクランクパルスから、クランク回転速度(エンジン回転速度)及びクランク位置を算出する。本実施の形態において、クランク角センサ32及びECU2の一部は検出手段を構成する。
【0038】
ECU2は、スタータジェネレータ20の駆動制御をする際の判定基準となる閾値(
図3で示すNE1、NE2、NE3)を記憶する記憶部21を備えている。なお、各閾値は、スロットル開度、吸気温度、エンジン水温に対応して変化させたマップデータで構成されてもよい。これにより、エンジン1の周囲環境に応じて閾値を選択することができ、より高精度なエンジン1の正転逆転の判断が可能になる。
【0039】
なお、スロットル開度が大きいほどエンジン1に吸気される空気量が多くなるため、圧縮行程でのシリンダ11内圧力が高くなる。このため、エンジン始動時に圧縮上死点を乗り越えるために必要なトルクも大きくなる。ここで、上記判定のためのデータとして、スロットル開度の大きさに応じて、スロットル開度が大きくなるほど所定回転速度NE2(閾値)を大きくすることで、より正確にスタータジェネレータ20の駆動方法を判定することができる。
【0040】
また、吸気温度が低いほどエンジン1に吸気される空気量が多くなるため、圧縮行程でのシリンダ11内圧力が高くなる。このためエンジン始動時に圧縮上死点を乗り越えるために必要なトルクも大きくなる。ここで、上記判定のためのデータとして、吸気温度の高さに応じて、吸気温度が低くなるほど所定回転速度NE2(閾値)を大きくすることで、より正確にスタータジェネレータ20の駆動方法を判定することができる。
【0041】
さらに、エンジン水温が低いほどエンジンオイルの粘性抵抗が高くなるため、エンジン始動時に圧縮上死点を乗り越えるために必要なトルクも大きくなる。ここで、上記判定のためのデータとして、エンジン水温に応じて、エンジン水温が低くなるほど所定回転速度NE2(閾値)を大きくすることで、より正確にスタータジェネレータ20の駆動方法を判定することができる。
【0042】
また、ECU2は、算出したエンジン回転速度と、記憶部21に記憶された各閾値とを比較して、スタータジェネレータ20の動作モードを判断する判断部22を備えている。判断部22は、判断結果に応じてスタータジェネレータ20の動作モードフラグMF(以下、単にMFと記す)を設定する。なお、設定されたMFは、一時的に記憶部21に記憶される。判断部22の判断方法及び各MFについては後述する。そして、ECU2は、その設定されたMFに基づいて、スタータジェネレータ20の動作を制御し、クランクシャフト10を駆動する。また、上記したように、ECU2は、車速や吸気圧等、各種パラメータに応じて燃料噴射装置33(燃料噴射量)や点火装置19(点火タイミング)の制御を実施する。なお、ECU2は、本実施の形態に係る制御手段を構成する。
【0043】
次に、
図5を参照して、チェンジオブマインド制御の方法について詳細に説明する。
図5は、本実施の形態に係るエンジンの
図3B又は
図3Cにおけるクランク位置に対するシリンダ内圧力を示すグラフである。
【0044】
図5に示すように、本実施の形態に係るチェンジオブマインド制御では、アイドリングストップ状態からスロットル操作が検知された後、クランクシャフト10(
図1参照)が、所定クランク位置(圧縮行程内の所定位置(より具体的には、圧縮行程の略中間地点))まで強制駆動される。そして、
図5Aに示すように、クランクシャフト10が所定クランク位置まで回転することができれば、その所定クランク位置で検出されたエンジン回転速度に基づいてエンジン1(
図1参照)を正転駆動させるか逆転駆動させるかが判断される。
【0045】
例えば、
図5Aでは、排気行程においてスロットル操作が実施された結果、クランクシャフト10が強制駆動され、クランクシャフト10は所定クランク位置まで到達する(矢印A参照)。このとき、エンジン回転速度が検出される。そして、検出されたエンジン回転速度が所定回転速度NE2(正転継続判定回転速度:
図3参照)より大きい場合には、判断部22(
図4参照)は、クランクシャフト10の正転駆動を継続すると判断する。そして、クランクシャフト10は、スタータジェネレータ20によってそのまま正転駆動される。この結果、エンジン回転速度が所定回転数NE1(始動完了判定回転速度:
図3参照)を超えたところで、エンジン1が再始動された状態になる(矢印B参照)。
【0046】
クランクシャフト10が所定クランク位置まで回転することができたとしても、検出されたエンジン回転速度がNE2より小さい場合には、クランクシャフト10は、圧縮上死点を乗り越えてエンジン1を始動するのに十分な回転速度を有していないと判断される。このとき、判断部22は、クランクシャフト10を逆転駆動すると判断する。このため、クランクシャフト10は、スタータジェネレータ20によって逆転駆動されて所定位置(
図5Aでは爆発行程開始位置付近)まで戻された後、再び正転駆動される(矢印C参照)。このように、クランクシャフト10を再始動のための準備位置まで戻した結果、圧縮上死点を乗り越えられるだけの回転速度を得ることができ、エンジン1が再始動される。
【0047】
一方、
図5Bに示すように、スロットル操作が検知されてクランクシャフト10が正転駆動されている過程において、エンジン回転速度が所定回転数NE3(エンジン停止判定回転速度:
図3参照)を下回る場合、クランクシャフト10が所定クランク位置までたどり着くことができず、所定クランク位置でエンジン回転速度を検出することができない(矢印D参照)。このとき、判断部22は、クランクシャフト10を逆転駆動すると判断する。クランクシャフト10は、スタータジェネレータ20によって強制的に逆転駆動される。そして、クランクシャフト10が所定位置まで戻された後に正転駆動された結果、上記したように、圧縮上死点を乗り越えられるだけの回転速度を得ることができ、エンジン1が再始動される(矢印E参照)。このように、スロットル操作が認識された後にエンジン1が正転駆動され、所定クランク位置のエンジン回転速度に応じて、スタータジェネレータ20の動作が制御される。
【0048】
このように、所定クランク位置を圧縮行程としたことで、エンジン1の駆動負荷が最も高い圧縮行程で、クランクシャフト10の正転継続と逆転駆動との判断をすることができる。これにより、クランクシャフト10を逆転させて準備位置まで位置付ける必要があるか否かの判断をより正確に判断することができる。また、この判断の基準となる所定回転数NE2を所定クランク位置のみで設定すればよく、所定回転数NE2を実験等で求める工数を削減することができる。この結果、所定回転数NE2を単一のデータで構成することができる。よって、従来の様に、あらゆるクランク位置に対応した閾値(所定回転速度)で構成されるマップデータに比べて、ECU2に格納するデータ量を削減することができる。
【0049】
以下、
図6を参照して本実施の形態に係るアイドリングストップ制御及びチェンジオブマインド制御のフローを説明する。
図6は、本実施の形態に係るエンジンの再始動制御の一例を示すフロー図である。先ず、本制御が開始される前提として、アイドリングストップ条件が成立し、燃料噴射及び点火制御が停止されているものとする。なお、以下に示す制御は、特に記載がない限り、ECU2が実施するものとする。
【0050】
図6に示すように、制御が開始されると、先ず、動作モードフラグMF=「無通電」が設定される(ステップST1)。ここで、動作モードとは、スタータジェネレータ20(
図1参照)の動作の種類を示している。以下の説明においては、「無通電」に加えて、「発電」、「正転駆動」、「逆転駆動」、の計4つの動作モードが存在する。
【0051】
ステップST1でMF=「無通電」が設定されると、スタータジェネレータ20の動作がオフされる。これにより、クランクシャフト10は惰性回転となり、機械的な負荷(クランクシャフト10の重量や各部品同士の摩擦等)によって、その回転速度が徐々に低下する。そして、クランク角センサ32(
図4参照)で取得されたクランクパルスが読み込まれ、クランクシャフト10の回転速度N(以下、単に回転速度Nと記す)及びクランク位置が算出される(ステップST2)。また、スロットル開度センサ31(
図4参照)の出力値が読み込まれ、スロットル開度が検出される(ステップST3)。
【0052】
次に、算出された回転速度Nが、所定回転速度NE1(始動完了判定回転速度(以下、単にNE1と記す))以上であるか否かが判定される(ステップST4)。ステップST4では、回転速度Nからエンジン1が始動完了しているかどうか、すなわち、エンジン1を再始動する必要があるか否かが判断される。エンジン回転速度がNE1以上である場合には(ステップST4:YES(Y))、MF=「発電」が立てられて(ステップST5)、制御終了となる。このとき、スタータジェネレータ20は発電を開始する。
【0053】
ステップST4において、回転速度NがNE1以上でない場合(ステップST4:NO(N))、回転速度Nが所定回転速度NE3(クランク停止判定回転速度(以下、NE3と記す))又はクランクシャフト10が逆転状態であるか否かが判定される(ステップST6)。回転速度NがNE3以下、又は逆転状態である場合(ステップST6:YES)、MF=「正転駆動」、又はMF=「逆転駆動」が設定されているか否かが判断される(ステップST7)。ステップST7では、設定されたMFに応じて、クランクシャフト10を再始動のための準備位置まで逆転させた後に正転させる制御(以下、スイングバック制御(SB制御)という)を実施するか否かが判断される。ここで、準備位置とは、クランクシャフト10が爆発行程を逆行することによってシリンダ11(
図1参照)内の圧力が上昇してクランクシャフト10の回転速度が低下した結果、クランクシャフト10が正転に転じる位置をいう。
【0054】
MF=「正転駆動」、又はMF=「逆転駆動」が設定されている場合(ステップST7:YES)、上記したスイングバック制御が実施される(ステップST8)。この結果、回転速度NがNE1まで高められ、制御終了となる。MF=「正転駆動」、又はMF=「逆転駆動」が設定されていない場合(ステップST7:NO)、通常のアイドリングストップ制御であると判断され、
図3Aに示す停止位置制御が実施される(ステップST9)。具体的には、クランクシャフト10が正転駆動又は逆転駆動され、クランクシャフト10がエンジン1の再始動に最適な位置に位置付けられる。そして、制御終了となる。
【0055】
ステップST6において、回転速度NがNE3以下、又はクランクシャフト10が逆転状態でない場合(ステップST6:NO)、MF=「正転駆動」、又はMF=「逆転駆動」が設定されているか否かが判断される(ステップST10)。MF=「正転駆動」、又はMF=「逆転駆動」が設定されていない場合(ステップST10:NO)、スロットル弁が開かれたか否かが判断される(ステップST14)。
【0056】
スロットル弁が開かれた場合(ステップST14:YES)、エンジン1を再始動する意志があるものとして、MF=「正転駆動」が設定される(ステップST15)。この結果、スタータジェネレータ20が正転駆動され、ステップ2に戻る。一方、スロットルが開かれていない場合(ステップST14:NO)、エンジン1を再始動する意志がないものとして、そのままステップST2に戻る。そして、再び回転速度Nが検出される。このように、ステップST14では、スロットル操作の有無で、エンジン1の再始動制御をするか否かが判断される。
【0057】
ステップST10において、MF=「正転駆動」、又はMF=「逆転駆動」が設定されている場合(ステップST10:YES)、クランクシャフト10が所定クランク位置を通過したか否かが判断される(ステップST11)。クランクシャフト10が所定クランク位置を通過しなかった場合(ステップST11:NO)、ステップST2に戻る。
【0058】
ステップST11において、クランクシャフト10が所定クランク位置を通過した場合(ステップST11:YES)、その所定クランク位置における回転速度NがNE2より小さいか否かが判断される(ステップST12)。ステップST12では、
図5Aに示すように、回転速度Nに応じてクランクシャフト10を正転駆動させるか逆転駆動させるかが判断される。
【0059】
ステップST12において、回転速度NがNE2より小さくない場合(ステップST12:NO)、クランクシャフト10を逆転する必要が無いと判断され、クランクシャフト10の正転駆動が継続される。そして、ステップST2に戻る。
【0060】
ステップST12において、回転速度NがNE2より小さい場合(ステップST12:YES)、MF=「逆転駆動」が立てられる(ステップST13)。すなわち、クランクシャフト10は、NE2より小さい回転速度Nでは圧縮上死点を超えられないと判断される。この場合、判断部22は、スタータジェネレータ20を駆動してブレーキを作動させた結果、回転速度Nが低減され、ステップST2に戻る。
【0061】
以上のように、ステップST11からステップST15の処理後にステップST2に戻ってきた場合、再び、上記した各処理が実施される。そして、そのときのMFに応じて、スタータジェネレータ20の動作が制御される。この制御は、エンジン1が再始動するまで、又は通常のアイドリングストップで完全にエンジン1が停止するまで繰り返される。
【0062】
例えば、ステップST11においてNOでステップST2に戻ってきた場合、再び回転速度Nが検出された結果、再び検出された回転速度NがNE3以下であれば(ステップST6:YES)、ステップST8でスイングバック制御が実施される。この結果、回転速度NがNE1まで高められ、制御終了となる。
【0063】
また、ステップST12においてNOでステップST2に戻ってきた場合、再び回転速度Nが検出される。この場合、正転駆動が継続されていることで回転速度Nが高められるため、ステップST2で再び検出された回転速度NがNE1以上になっていれば(ステップST4:YES)、エンジン1が再始動したと判断され、制御終了となる。
【0064】
また、ステップST13を経てステップST2に戻ってきた場合、再び回転速度Nが検出された結果、再び検出された回転速度NがNE3以下であれば(ステップST6:YES)、ステップST8でスイングバック制御が実施される。この結果、回転速度NがNE1まで高められ、制御終了となる。なお、ブレーキが制御されることにより、回転速度Nの低下が促進され、エンジン1の回転を停止するまでの時間を短縮することができる。よって、スイングバック制御への移行がスムーズになり、エンジン再始動の応答性を高めることができる。
【0065】
以上のように、本実施の形態によれば、エンジン1停止制御開始後に再始動する際、エンジン1の駆動方法(正転駆動又は逆転駆動)の判定を、所定クランク位置におけるエンジン回転速度のみで行うことができる。この場合、判定基準となるNE2を設定する上で、所定(単一の)クランク位置におけるエンジン回転速度のみを調査すればよい。よって、NE2を決定する工数を削減することができる。このため、例えば、他機種のエンジンに同様のエンジン始動制御装置3を適用する際に、その開発工数を削減することができる。また、所定クランク位置で上記判断が実施されるため、判定基準となるNE2を単一のデータで構成することができる。このため、従来の様に、あらゆるクランク位置に対応した閾値で構成されるマップデータに比べて、ECU2に格納するデータ量を削減することができる。
【0066】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0067】
例えば、上記実施の形態において、圧縮行程内の所定位置でエンジン回転速度を検出する構成としたが、この構成に限定されない。エンジン回転速度を検出する箇所は、例えば、圧縮上死点や圧縮上死点の前後でもよい。
【0068】
また、上記実施の形態において、スタータジェネレータ20でエンジン1を再始動する構成としたが、この構成に限定されない。スタータモータとジェネレータとを別で設け、スタータモータでエンジン1を再始動させてもよい。
【0069】
また、上記実施の形態において、クランクシャフト10をスタータジェネレータ20で逆転駆動させる場合、ECU2(制御手段)は、クランクシャフト10の正転がシリンダ11内圧力によって逆転に転じる(停止する)タイミングでスタータジェネレータ20を逆転制御するとよい。この場合、スタータジェネレータ20の駆動負荷を低減することができ、この結果、消費電流を低減することができる。