特許第6398413号(P6398413)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6398413取鍋からのスラグ流出検知方法及びスラグ流出抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398413
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】取鍋からのスラグ流出検知方法及びスラグ流出抑制方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/16 20060101AFI20180920BHJP
   B22D 37/00 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
   B22D11/16 104E
   B22D37/00 C
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-147843(P2014-147843)
(22)【出願日】2014年7月18日
(65)【公開番号】特開2016-22499(P2016-22499A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年3月3日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(74)【代理人】
【識別番号】100204021
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】四橋 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 信輔
【審査官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−533270(JP,A)
【文献】 特表2006−527089(JP,A)
【文献】 特開昭61−030271(JP,A)
【文献】 特開昭59−206151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/16
B22D 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の連続鋳造時、取鍋からタンディッシュへ溶鋼を注入する際に、電磁誘導方式センサーを用いて取鍋からのスラグ流出を検知する方法であって、
取鍋の底部に設置した溶鋼吐出ノズルの下方で、この溶鋼吐出ノズルと接続する、溶鋼吐出ノズルとは独立した外部ノズルを取り囲むように設置した、前記溶鋼の注入流中に渦電流を誘導する一次コイル及び誘導起電力を発生する二次コイルであって、前記一次コイル及び前記二次コイルからなり、電気配線を取鍋外部に有する前記電磁誘導方式センサーを用いて取鍋からのスラグ流出を検知する際に、前記取鍋から前記タンディッシュへ溶鋼を注入している間、前記電磁誘導方式センサーへの電気配線を取鍋外部空冷することを特徴とする取鍋からのスラグ流出検知方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により取鍋からのスラグ流出を検知した時、取鍋からタンディッシュへの溶鋼の注入を停止することを特徴とする取鍋からのスラグ流出抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造時に、取鍋からタンディッシュに溶鋼を注入する際にスラグが流出するのを検知する方法、及びこの検知方法を用いてスラグの流出を抑制する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、取鍋からタンディッシュに溶鋼を注入する際のスラグ流出を抑制するために、電磁誘導方式センサー(以下、単にセンサーと言う。)を用いたスラグ流出検知技術が知られている。
【0003】
このセンサーによる従来のスラグ検知は、図5に示すように、取鍋1の底部に設置した溶鋼吐出ノズル(以下、底ノズルと言う。)2を取り囲むようにセンサー3を設置し、取鍋1からタンディッシュ8に溶鋼4を注入する際に、底ノズル2を流れる溶鋼4中に混入するスラグ5を検知する方法である(例えば特許文献1)。
【0004】
なお、図5中の1aは取鍋1を構成する鉄皮、1bは同じく耐火物を示す。また、6は前記底ノズル2の吐出側に取付けられるカセット7を介して連結されるロングノズルである。
【0005】
このスラグ流出検知の場合、取鍋毎にセンサーを設置する必要があり、設備費が莫大になる上、センサーが故障した時には、当該センサーを設置している取鍋をオフラインにて整備する必要があり熱損失が発生する。また、取鍋補修の際の底部煉瓦解体を重機によって行う場合、解体時の物理的衝撃によってセンサーが損傷するリスクが高く、損傷した場合はスラグ検知精度が不十分となることから交換を余儀なくされ、ランニングコストが過大となる。
【0006】
また、センサーを用いたスラグ検知技術の他に、取鍋からタンディッシュに溶鋼を排出する際の振動を検出してスラグ検知を行う技術が開示されている。
【0007】
このような取鍋からタンディッシュに溶鋼を排出する際の振動を検出してスラグ検知を行う技術において、特許文献2では、クレーンの振動等の外乱因子を抑制し、検出精度を高める方法が提案されている。この特許文献2で提案された方法は、取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入に用いるロングノズルの浸漬深さを予め定めた浸漬深さの3%以内に制御することで、振動センサーを用いたスラグ流出検知精度を向上している。
【0008】
この特許文献2の技術では、ロングノズルの浸漬深さは、タンディッシュ形状(容積)を元にロードセルで測定したタンディッシュ内溶鋼重量から逆算したタンディッシュ内の溶鋼湯面位置と取鍋の取合いから算出した値を用いている。そのため、タンディッシュの補修量や耐火物の状態によってバラツキが生じ、検知精度の低下を引き起こすおそれがある。また、振動センサーを用いたスラグ検知には、ロングノズルの支持装置が必要であり、設備費及び維持費が莫大となる。
【0009】
ここで、ロングノズルの支持装置とは、取鍋からタンディッシュへ溶鋼を注入する間、ロングノズルを取鍋に圧着する装置を指し、その支持装置に振動センサーを取付けることにより、取鍋からスラグが流出した際の振動を検知することが可能になる。
【0010】
一方、接続用金物にてロングノズルと取鍋を接続した場合、ロングノズルを取鍋に圧着する必要がないため、圧着するための設備を必要としない。但し、接続用金物を使用した場合、ロングノズルは取鍋に対しフリーな状態であるため、ロングノズルの下端をタンディッシュ内溶鋼に浸漬した状態でロングノズルを稼働した場合、スラグ流出時の振動を検知することが難しい。
【0011】
その他、特許文献3では、取鍋スラグと溶鋼の比重差により、溶鋼中にスラグが懸濁した状態で取鍋からタンディッシュへ吐出する際に生じる振動を用いたスラグ検知技術が提案されている。この特許文献3の技術は、取鍋からの溶鋼排出量を5.0ton /min 以下にした条件にて、サンプリング出力が任意回数連続して予め設定した閾値を下回った時にスラグ流出と判断するものである。
【0012】
特許文献3の技術において、溶鋼排出量を5.0ton /min 以下としているのは、溶鋼排出量が5.0ton /min を超える場合は取鍋内に渦流が生じて振動が発生し、溶鋼とスラグの比重差に起因する振動との見分けが難しくなって、スラグ流出検知精度が低下するからである。つまり、特許文献3の技術の場合、溶鋼排出量による制約がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3032937号公報
【特許文献2】特開2005−59016号公報
【特許文献3】特許第4102332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする問題点は、特許文献1で開示された技術は、設備費が莫大になる上、故障時には熱損失が発生し、また、取鍋の底部煉瓦解体時の物理的衝撃によってセンサーが損傷した場合はスラグ検知精度が不十分となるという点である。
【0015】
また、特許文献2で開示された技術は、タンディッシュの補修量や耐火物の状態によってバラツキが生じ、検知精度の低下を引き起こすおそれがある一方、特許文献3で開示された技術は、溶鋼排出量による制約があるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、高額なセンサーを全ての取鍋に使用できるようにして初期投資を抑え、かつ、取鍋をオフラインにすることなくセンサーの補修を可能とし、更に、取鍋の底部煉瓦解体作業時においてもセンサー損傷のリスクを回避してセンサーの長寿命化を図り、低ランニングコストでスラグの流出検知を可能とすることを目的としている。
【0017】
すなわち、本発明は、
鋼の連続鋳造時、取鍋からタンディッシュへ溶鋼を注入する際に、センサーを用いて取鍋からのスラグ流出を検知する方法であって、
取鍋の底部に設置した底ノズルの下方で、この底ノズルと接続する、底ノズルとは独立した外部ノズルを取り囲むように設置した、前記溶鋼の注入流中に渦電流を誘導する一次コイル及び誘導起電力を発生する二次コイルであって、前記一次コイル及び前記二次コイルからなり、電気配線を取鍋外部に有する前記センサーを用いて取鍋からのスラグ流出を検知する際に、前記取鍋から前記タンディッシュへ溶鋼を注入している間、前記センサーへの電気配線を取鍋外部空冷することを最も主要な特徴としている。
【0018】
本発明では、取鍋スラグの流出を検知するセンサーを取鍋の底部に設置した底ノズルの下方に接続する外部ノズルを取り囲むように設置するので、検知精度を損なうことなく、1基の電磁誘導方式センサーを繰り返し複数の取鍋に使用して、取鍋から流出するスラグの検知を行うことができる。
【0019】
また、取鍋補修時においてもセンサーを取り外した状態で解体作業を行うことができるので、重機を用いた取鍋底部の耐火煉瓦解体時においても物理的損傷のリスクを回避することが可能となる。
さらに、取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入時に、センサーへの電気配線を取鍋外部空冷するので、熱影響による電気配線の劣化を抑制できる。
【0020】
そして、本発明方法で、取鍋からのスラグの流出を検知した時には、取鍋からタンディッシュへの溶鋼の注入を停止することで、連続鋳造時に鋳片内へのスラグの混入を抑制して高品質な鋳片を製造することができる。これが本発明の取鍋からのスラグ流出抑制方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、取鍋毎にセンサーを設置する必要がなくなり、設備費を抑制することができる。また、取鍋からのスラグ流出を抑制するために、取鍋から流出するスラグの検知精度を損なうことなく、かつ故障リスクを極めて低減することが可能となり、安価に安定してセンサーを用いたスラグ検知を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(a)は本発明の取鍋からのスラグ流出検知方法に使用するセンサーの設置位置を説明する図、(b)は(a)のA部を拡大して示した図である。
図2】センサーによるスラグ検知の測定原理を説明する図である。
図3】取鍋からのスラグ流出時の取鍋内残鋼重量と溶鋼注入速度の関係を示した図である。
図4】特許文献1で開示された方法に使用するセンサーの連続使用回数別の故障発生頻度を示した図である。
図5】(a)は特許文献1で開示された方法に使用するセンサーの設置位置を説明する図、(b)は(a)のB部を拡大して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、取鍋をオフラインにすることなくセンサーの補修を可能とし、更に、取鍋補修時の底部煉瓦解体作業時においてもセンサー損傷のリスクを回避してセンサーの長寿命化を図ることを目的としている。
【0024】
そして、その目的を、センサーを、取鍋の底部に設置した底ノズルの下方で、この底ノズルと接続する、底ノズルとは独立した外部ノズル、例えばロングノズルを取り囲むように設置し、取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入時に、センサーへの電気配線を取鍋外部空冷することで実現した。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の一実施例を図1及び図2を用いて説明する。
図1は本発明の取鍋からのスラグ流出検知方法に使用するセンサーの設置位置を説明する図、図2はセンサーによるスラグ検知の測定原理を説明する図である。
【0026】
7aはカセット7を構成するスライド盤、7b,7cは前記スライド盤7aを両側面から挟むように配置した固定盤であり、固定盤7b,7cに設けた貫通孔7ba,7caが底ノズル2の孔2aと同軸芯となるように、カセット7が取鍋1の底面に取付けられている。
【0027】
そして、前記スライド盤7aを駆動シリンダー(図示省略)で例えば図1(b)の紙面左右方向にスライドさせることで、固定盤7b,7cに設けた貫通孔7ba,7caとスライド盤7aに設けた貫通孔7aaの位置を調節して溶鋼4の通過面積を調整する。
【0028】
11は前記カセット7の、下流側の固定盤7cに設けた貫通孔7caと同軸芯となるように取付けられた接続用ノズルであり、この接続用ノズル11に取付けた接続用金物12によってロングノズル6を保持している。
【0029】
本発明は、取鍋1からタンディッシュ8に溶鋼4を注入する際のスラグ5の流出を検知するセンサー3を、前記底ノズル2と接続する、底ノズル2とは独立したロングノズル6を取り囲むように設置して、取鍋1からのスラグ5の流出を検知するのである。
【0030】
次に、取鍋1からタンディッシュ8に溶鋼4を注入する時に流出したスラグ5を、ロングノズル6を取り囲むように設置したセンサー3により検知する際の測定原理を、図2を用いて説明する。
【0031】
図2に示すように、測定には電磁気法を利用しており、連続鋳造中、一次コイル3aで注入流中に渦電流を誘導させ、二次コイル3bに発生する誘導起電力を測定する。その際、スラグが溶鋼4に混入すると誘導起電力の測定電圧Vが変化し、この変化をもってスラグの流出を検知する。
【0032】
本発明では、ロングノズル6を取り囲むようにセンサー3を設置するので、1基のセンサー3を繰り返し複数の取鍋1に使用することが可能となる。従って、取鍋毎にセンサー3を設置する必要がなくなり、設備費を抑制することができる。また、取鍋補修時においてもセンサー3を取り外した状態で解体作業を行えるので、重機を用いた取鍋底部の耐火煉瓦解体時においても物理的損傷のリスクを回避することができる。
【0033】
上記本発明の効果を確認するために、発明者らは、取鍋底部の耐火煉瓦直下に設置したセンサーで底ノズル中を流れるスラグを検知した場合と(以下、従来方法と言う。)、ロングノズルを取り囲むように設置したセンサーでロングノズル中を流れるスラグを検知した場合(以下、発明方法という。)の検知精度及び耐久性の比較評価を行った。
【0034】
試験は、取鍋からタンディッシュに70〜90tonの溶鋼を注入することにより行った。試験に使用した溶鋼は、炭素鋼と、質量%で、C:0.08〜1.00%、Si:0.20〜1.0%、Mn:0.50〜1.50%、P:0.00〜0.030%、S:0.010〜0.8%、Cr:0.00〜1.60%、Mo:0.00%〜0.50%、Al:0.01〜0.06%、N:0.003〜0.03%、残部Fe及び不純物の合金鋼である。
【0035】
検知精度の比較試験は、従来方法と発明方法を併用し、オペレータが目視にてスラグの流出を確認して取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入を停止させた。
【0036】
この時の、それぞれのセンサーから検知信号が発生した時点の取鍋内残鋼重量及びオペレータによる溶鋼注入停止時の残重量を比較した。その際、取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入速度を1.0、1.5、3.0、4.5、6.0、7.5ton/minの6条件にて実施した。その結果をそれぞれ下記表1の試験例1〜6として示す。また、従来方法と発明方法によるスラグ検知が不良となるまでの使用回数についての比較も行った。
【0037】
下記表1には、試験例1〜6における、従来方法と発明方法におけるスラグ検知信号発生時の取鍋内残鋼重量及びオペレータが目視にてスラグ流出を確認し、取鍋からの注入停止をした時点での取鍋内残鋼重量を示す。表1中に記載した取鍋内残鋼重量とは、従来方法及び発明方法でスラグ検知信号を発した際の取鍋内残鋼重量を示す。また、取鍋からの注入を停止した際の取鍋重量と、残留物をスラグ排出鍋へ廃棄後の取鍋重量の差分より算出した値を取鍋内実残留物重量として示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1より、従来方法による取鍋内残鋼重量は、発明方法による取鍋内残鋼重量に比べて0.0〜0.3ton 多いことが分かる。これは、従来方法が発明方法と比較して、溶鋼が流れる上流側にセンサーを設置しているためであると考えられるが、溶鋼注入速度が1.0ton /min 時においてもノズル径から算出した通過量より0.0〜0.3ton の溶鋼が通過する時間差は1秒以下であることから、誤差範囲であるとみなすこともできる。
【0040】
また、表1より明らかなように、試験例1〜6において、従来方法、発明方法のいずれの方法も、目視によるスラグ検知の直前にスラグ検知信号を確認できた(取鍋内残鋼重量が多い)ことから、取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入速度が1.0〜7.5ton /min の試験範囲においては、特に制約はないと言える。
【0041】
従来方法、発明方法、オペレータの目視による取鍋スラグ流出検知時の取鍋内残鋼重量と、溶鋼注入速度の相関を図3に示す。図3より、溶鋼注入速度が速くなるに従って、発明方法と従来方法の差は縮小する傾向が認められる。これは、溶鋼注入速度が速くなるに従って、従来方法と発明方法に使用するセンサー間を通過する時間が短縮することによるものであると考えられる。
【0042】
また、図3より、センサーを用いた従来方法や発明方法では、溶鋼注入速度が4.5ton /min 以上でスラグ流出検知時の取鍋内残鋼重量の上昇が認められる。しかしながら、オペレータの目視によるスラグ検知では、溶鋼の注入速度が速くなるに従い、スラグ検知時の取鍋内残鋼重量が減少しており、溶鋼注入速度が6.0ton /min となった時に最も取鍋内残鋼重量が少なかった。
【0043】
これは、溶鋼注入速度が速くなるのに伴って取鍋内の溶鋼に渦流が発生し、スラグの巻き込みが生じるためであると考えられる。この時、オペレータによる目視では、スラグ流出を視認し難く、結果的にオペレータの目視時は溶鋼注入速度が速くなるのに伴ってスラグ流出検知時の取鍋内残鋼重量が低下することになる。
【0044】
つまり、スラグの流出検知にセンサーを使用することにより、取鍋内溶鋼中に渦流が発生した場合においても、検知精度を悪化させることなくスラグの流出検知が可能であり、それは発明方法でも同様であると言える。
【0045】
次に、耐久性の比較のため、発明方法に使用したセンサーが2基故障するまでの使用回数を試験例7、8として、また、従来方法に使用した6基のセンサー全てが故障するまでの使用回数を試験例9〜14として下記表2に示す。
【0046】
下記表2の使用頻度欄に記載したように、従来方法ではセンサーを各取鍋に設置しているのに対し、発明方法では1基のセンサーを複数の取鍋に連続して使用した。また、下記表2には各センサーの故障理由についても記載した。ここで、故障とは、スラグの流出検知が不能となったことを示す。
【0047】
【表2】
【0048】
図4に従来方法を実施した際の、連続使用回数別のセンサーの故障発生頻度を示す。図4より、従来方法におけるセンサーの故障は、101〜150回、251〜300回、401〜450回の範囲で特異的に発生頻度が高くなっていることがわかる。
【0049】
この周期は取鍋底部の耐火煉瓦解体周期(約140回毎)と重なっており、従来方法の場合は、取鍋補修における取鍋底部の耐火煉瓦解体時に、物理的接触によってセンサーが損傷して故障したことが主な要因であると考えられる。
【0050】
これに対して、発明方法の場合は、表2に記載したように、最大850回以上の使用が可能であった。これは、従来方法の場合の要因による損傷リスクを回避できたことが使用回数の増加につながったものと考えられる。
【0051】
また、表2の試験例13に示すように、従来方法では、取鍋下部の鉄皮内側にセンサーを取付けていたので、センサーへの電気配線を冷却することができず、450回前後で著しい配線劣化が発生していた。
【0052】
これに対して、発明方法では、取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入時に、センサーへの電気配線を取鍋外部から空冷したので、熱影響による電気配線の劣化を抑制でき、従来方法に比べて大幅に使用回数を増加することができた。
【0053】
上記試験結果より、本発明では、取鍋毎にセンサーを設置しないので設備費を抑制でき、また、取鍋から流出するスラグの検知精度を損わずに、かつ故障リスクを低減しつつ安価に安定したスラグ検知を行って、取鍋からのスラグ流出を抑制できることが分かる。
【0054】
本発明は上記した例に限らないことは勿論であり、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0055】
実施例では、取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入方式として、外部ノズルを用いた注入方法にて試験を実施したが、注入管方式であっても、取鍋下部にセンサー設置することで同様のスラグ検知は可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 取鍋
2 底ノズル
3 センサー
4 溶鋼
5 スラグ
6 ロングノズル
8 タンディッシュ
図1
図2
図3
図4
図5