【実施例】
【0025】
以下、本発明の一実施例を
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は本発明の取鍋からのスラグ流出検知方法に使用するセンサーの設置位置を説明する図、
図2はセンサーによるスラグ検知の測定原理を説明する図である。
【0026】
7aはカセット7を構成するスライド盤、7b,7cは前記スライド盤7aを両側面から挟むように配置した固定盤であり、固定盤7b,7cに設けた貫通孔7ba,7caが底ノズル2の孔2aと同軸芯となるように、カセット7が取鍋1の底面に取付けられている。
【0027】
そして、前記スライド盤7aを駆動シリンダー(図示省略)で例えば
図1(b)の紙面左右方向にスライドさせることで、固定盤7b,7cに設けた貫通孔7ba,7caとスライド盤7aに設けた貫通孔7aaの位置を調節して溶鋼4の通過面積を調整する。
【0028】
11は前記カセット7の、下流側の固定盤7cに設けた貫通孔7caと同軸芯となるように取付けられた接続用ノズルであり、この接続用ノズル11に取付けた接続用金物12によってロングノズル6を保持している。
【0029】
本発明は、取鍋1からタンディッシュ8に溶鋼4を注入する際のスラグ5の流出を検知するセンサー3を、前記底ノズル2と接続する、底ノズル2とは独立したロングノズル6を取り囲むように設置して、取鍋1からのスラグ5の流出を検知するのである。
【0030】
次に、取鍋1からタンディッシュ8に溶鋼4を注入する時に流出したスラグ5を、ロングノズル6を取り囲むように設置したセンサー3により検知する際の測定原理を、
図2を用いて説明する。
【0031】
図2に示すように、測定には電磁気法を利用しており、連続鋳造中、一次コイル3aで注入流中に渦電流を誘導させ、二次コイル3bに発生する誘導起電力を測定する。その際、スラグが溶鋼4に混入すると誘導起電力の測定電圧Vが変化し、この変化をもってスラグの流出を検知する。
【0032】
本発明では、ロングノズル6を取り囲むようにセンサー3を設置するので、1基のセンサー3を繰り返し複数の取鍋1に使用することが可能となる。従って、取鍋毎にセンサー3を設置する必要がなくなり、設備費を抑制することができる。また、取鍋補修時においてもセンサー3を取り外した状態で解体作業を行えるので、重機を用いた取鍋底部の耐火煉瓦解体時においても物理的損傷のリスクを回避することができる。
【0033】
上記本発明の効果を確認するために、発明者らは、取鍋底部の耐火煉瓦直下に設置したセンサーで底ノズル中を流れるスラグを検知した場合と(以下、従来方法と言う。)、ロングノズルを取り囲むように設置したセンサーでロングノズル中を流れるスラグを検知した場合(以下、発明方法という。)の検知精度及び耐久性の比較評価を行った。
【0034】
試験は、取鍋からタンディッシュに70〜90tonの溶鋼を注入することにより行った。試験に使用した溶鋼は、炭素鋼と、質量%で、C:0.08〜1.00%、Si:0.20〜1.0%、Mn:0.50〜1.50%、P:0.00〜0.030%、S:0.010〜0.8%、Cr:0.00〜1.60%、Mo:0.00%〜0.50%、Al:0.01〜0.06%、N:0.003〜0.03%、残部Fe及び不純物の合金鋼である。
【0035】
検知精度の比較試験は、従来方法と発明方法を併用し、オペレータが目視にてスラグの流出を確認して取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入を停止させた。
【0036】
この時の、それぞれのセンサーから検知信号が発生した時点の取鍋内残鋼重量及びオペレータによる溶鋼注入停止時の残重量を比較した。その際、取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入速度を1.0、1.5、3.0、4.5、6.0、7.5ton/minの6条件にて実施した。その結果をそれぞれ下記表1の試験例1〜6として示す。また、従来方法と発明方法によるスラグ検知が不良となるまでの使用回数についての比較も行った。
【0037】
下記表1には、試験例1〜6における、従来方法と発明方法におけるスラグ検知信号発生時の取鍋内残鋼重量及びオペレータが目視にてスラグ流出を確認し、取鍋からの注入停止をした時点での取鍋内残鋼重量を示す。表1中に記載した取鍋内残鋼重量とは、従来方法及び発明方法でスラグ検知信号を発した際の取鍋内残鋼重量を示す。また、取鍋からの注入を停止した際の取鍋重量と、残留物をスラグ排出鍋へ廃棄後の取鍋重量の差分より算出した値を取鍋内実残留物重量として示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1より、従来方法による取鍋内残鋼重量は、発明方法による取鍋内残鋼重量に比べて0.0〜0.3ton 多いことが分かる。これは、従来方法が発明方法と比較して、溶鋼が流れる上流側にセンサーを設置しているためであると考えられるが、溶鋼注入速度が1.0ton /min 時においてもノズル径から算出した通過量より0.0〜0.3ton の溶鋼が通過する時間差は1秒以下であることから、誤差範囲であるとみなすこともできる。
【0040】
また、表1より明らかなように、試験例1〜6において、従来方法、発明方法のいずれの方法も、目視によるスラグ検知の直前にスラグ検知信号を確認できた(取鍋内残鋼重量が多い)ことから、取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入速度が1.0〜7.5ton /min の試験範囲においては、特に制約はないと言える。
【0041】
従来方法、発明方法、オペレータの目視による取鍋スラグ流出検知時の取鍋内残鋼重量と、溶鋼注入速度の相関を
図3に示す。
図3より、溶鋼注入速度が速くなるに従って、発明方法と従来方法の差は縮小する傾向が認められる。これは、溶鋼注入速度が速くなるに従って、従来方法と発明方法に使用するセンサー間を通過する時間が短縮することによるものであると考えられる。
【0042】
また、
図3より、センサーを用いた従来方法や発明方法では、溶鋼注入速度が4.5ton /min 以上でスラグ流出検知時の取鍋内残鋼重量の上昇が認められる。しかしながら、オペレータの目視によるスラグ検知では、溶鋼の注入速度が速くなるに従い、スラグ検知時の取鍋内残鋼重量が減少しており、溶鋼注入速度が6.0ton /min となった時に最も取鍋内残鋼重量が少なかった。
【0043】
これは、溶鋼注入速度が速くなるのに伴って取鍋内の溶鋼に渦流が発生し、スラグの巻き込みが生じるためであると考えられる。この時、オペレータによる目視では、スラグ流出を視認し難く、結果的にオペレータの目視時は溶鋼注入速度が速くなるのに伴ってスラグ流出検知時の取鍋内残鋼重量が低下することになる。
【0044】
つまり、スラグの流出検知にセンサーを使用することにより、取鍋内溶鋼中に渦流が発生した場合においても、検知精度を悪化させることなくスラグの流出検知が可能であり、それは発明方法でも同様であると言える。
【0045】
次に、耐久性の比較のため、発明方法に使用したセンサーが2基故障するまでの使用回数を試験例7、8として、また、従来方法に使用した6基のセンサー全てが故障するまでの使用回数を試験例9〜14として下記表2に示す。
【0046】
下記表2の使用頻度欄に記載したように、従来方法ではセンサーを各取鍋に設置しているのに対し、発明方法では1基のセンサーを複数の取鍋に連続して使用した。また、下記表2には各センサーの故障理由についても記載した。ここで、故障とは、スラグの流出検知が不能となったことを示す。
【0047】
【表2】
【0048】
図4に従来方法を実施した際の、連続使用回数別のセンサーの故障発生頻度を示す。
図4より、従来方法におけるセンサーの故障は、101〜150回、251〜300回、401〜450回の範囲で特異的に発生頻度が高くなっていることがわかる。
【0049】
この周期は取鍋底部の耐火煉瓦解体周期(約140回毎)と重なっており、従来方法の場合は、取鍋補修における取鍋底部の耐火煉瓦解体時に、物理的接触によってセンサーが損傷して故障したことが主な要因であると考えられる。
【0050】
これに対して、発明方法の場合は、表2に記載したように、最大850回以上の使用が可能であった。これは、従来方法の場合の要因による損傷リスクを回避できたことが使用回数の増加につながったものと考えられる。
【0051】
また、表2の試験例13に示すように、従来方法では、取鍋下部の鉄皮内側にセンサーを取付けていたので、センサーへの電気配線を冷却することができず、450回前後で著しい配線劣化が発生していた。
【0052】
これに対して、発明方法では、取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入時に、センサーへの電気配線を取鍋外部から空冷したので、熱影響による電気配線の劣化を抑制でき、従来方法に比べて大幅に使用回数を増加することができた。
【0053】
上記試験結果より、本発明では、取鍋毎にセンサーを設置しないので設備費を抑制でき、また、取鍋から流出するスラグの検知精度を損わずに、かつ故障リスクを低減しつつ安価に安定したスラグ検知を行って、取鍋からのスラグ流出を抑制できることが分かる。
【0054】
本発明は上記した例に限らないことは勿論であり、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0055】
実施例では、取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入方式として、外部ノズルを用いた注入方法にて試験を実施したが、注入管方式であっても、取鍋下部にセンサー設置することで同様のスラグ検知は可能である。