(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
耐熱元素と粒径が45μm以下のCr粉末を混合し、加熱して得られる固溶体を粉砕して得た固溶体粉末と、Cu粉末と、を混合した混合粉末を成形して得られる成形体を焼結した電極材料の製造方法であって、
前記電極材料は、当該電極材料に対して重量比で
Cuを40〜80%、
Crを2〜30%、
耐熱元素を10〜54%、含有し、
前記耐熱元素の含有量は、重量比でCrの含有量より多く、
前記固溶体粉末は、該固溶体粉末のX線回折測定においてCr元素に対応するピークが消失している
ことを特徴とする電極材料の製造方法。
【背景技術】
【0002】
真空インタラプタ(VI)等の電極に用いられる電極材料には、(1)遮断容量が大きいこと、(2)耐電圧性能が高いこと、(3)接触抵抗が低いこと、(4)耐溶着性が高いこと、(5)接点消耗量が低いこと、(6)裁断電流が低いこと、(7)加工性に優れること、(8)機械強度が高いこと、等の特性を満たすことが求められる。
【0003】
銅(Cu)−クロム(Cr)電極は、遮断容量が大きく、耐電圧性能が高く、耐溶着性が高い等の特性を有し、真空インタラプタの接点材料として広く用いられている。Cu−Cr電極では、Cr粒子の粒径が細かい方が、遮断電流や接触抵抗の面において良好であるとの報告がある(例えば、非特許文献1)。
【0004】
Cu−Cr電極材料の製造方法として、一般に固相焼結法と溶浸法の2通りが良く知られている(例えば、特許文献1−4)。固相焼結法は、導電性の良好なCuと耐アーク性に優れるCrとを一定の割合で混合し、その混合粉末を加圧成形してから、真空中等の非酸化雰囲気で焼結して焼結体を製造する。固相焼結法は、CuとCrの組成を自由に選ぶことができる長所がある。
【0005】
一方、溶浸法は、Cr粉末を加圧成形して(若しくは、成形せずに)、容器に充填し、真空中等の非酸化雰囲気でCuの融点以上に加熱することによりCr粒子間の空隙にCuを溶浸して電極を製造する。溶浸法は、CuとCrの組成比を自由に選ぶことができないが、固相焼結法よりもガス・空隙の少ない素材が得られ、機械強度が高いという長所がある。
【0006】
近年、真空インタラプタの使用条件が厳しくなるとともにコンデンサ回路への真空インタラプタの適用拡大が進んでいる。コンデンサ回路では、通常の2〜3倍の電圧が電極間に印加されるため、電流遮断時や電流開閉時のアークによって接点表面が著しく損傷し再点弧が発生しやすくなると考えられる。そのため、従来のCu−Cr電極より優れた耐電圧性能及び電流遮断性能を有する電極材料が求められている。
【0007】
電流遮断性能や耐電圧性能等の電気的特性の良好なCu−Cr系電極材料の製造方法として、基材であるCu粉末に、電気的特性を向上させるCr粉末と、Cr粒子を微細にする耐熱元素(モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)等)粉末とを混合した後、混合粉末を型に挿入して加圧成形し焼結体とする電極の製造方法がある(例えば、特許文献1,2)。
【0008】
具体的には、200〜300μmの粒子サイズを有するCrを原料としたCu−Cr系電極材料に耐熱元素を添加し、微細組織技術を通してCrを微細化する。つまり、Crと耐熱元素の合金化を促進させ、Cu基材組織内部に微細なCr−X(Xは耐熱元素)粒子の析出を増加させている。その結果、直径20〜60μmのCr粒子が、その内部に耐熱元素を有する形態で、Cu基材組織内に均一に分散されることとなる。
【0009】
また、複数種類の耐熱元素を固相拡散させ、複数種類の耐熱元素を含有する固溶体を形成し、この固溶体を粉砕した粉末と銅粉末とを混合し、加圧成形後に焼結する電極製造方法がある(例えば、特許文献4)。この製造方法では、微細組織技術を適用せずに、電極組織内にCrとMo等の耐熱元素を含有させている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態に係る電極材料について、図を参照して詳細に説明する。なお、実施形態の説明において、特に断りがない限り、平均粒子径(メディアン径d50)、粒径、及び体積相対粒子量は、レーザー回折式粒度分布測定装置(シーラス社:シーラス1090L)により測定された値を示す。
【0018】
本発明は、銅(Cu)、クロム(Cr)、耐熱元素(Mo等)を含有する電極材料において、Crと耐熱元素の固溶体を電極材料中に微細分散させた組織を有するよう組成制御する技術に関するものである。このように組成制御することで、遮断性能及び耐電圧性能に優れ、かつ量産性に優れた電極材料を得るものである。
【0019】
特に、本発明の電極材料は、耐熱元素とCrの固溶体形成時に、耐熱元素とCrの重量比を、耐熱元素>Crの割合で混合することで、工業的に実施が可能な条件で耐熱元素とCrの固溶体粉末を得ることができるものである。また、耐熱元素とCrの固溶体粉末のX線回折測定において、Cr元素のピークが実質上消失するまで耐熱元素とCrとを反応させることで、機械強度や加工性を損なうことなく電極材料の耐電圧性能及び電流遮断性能を向上させることができる。
【0020】
Cu粉末は、例えば、市販の電解銅粉末を用いる。Cu粉末の形状は、必ずしも樹枝状である必要はなく、例えば、アトマイズ粉のような球状でも、不規則形状であってもよい。また、Cu粉末の粒径は、特に限定されるものではなく、焼結法に一般的に用いられる粒径のCu粉末を用いればよい。Cuは、電極材料に対して40〜80重量%含有させることで、耐電圧性能や電流遮断性能を損なうことなく、電極材料の接触抵抗を低減することができる。Cuの含有率が80%を超えると、電極材料の機械強度が低下するおそれがあり、Cuの含有率が40%未満とすると、電極材料の導電率が低下することによる電流遮断性能の低下のおそれがあるためである。なお、電極材料に対して添加されるCu、Cr及び耐熱元素の合計は100重量%を超えることはない。
【0021】
耐熱元素は、例えば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ベリリウム(Be)、ハフニウム(Hf)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、ロジウム(Rh)及びルテニウム(Ru)等の元素から選択される元素を単独若しくは組み合わせて用いることができる。特に、Cr粒子を微細化する効果が顕著であるMo、W、Ta、Nb、V、Zrを用いることが好ましい。耐熱元素を粉末として用いる場合、耐熱元素粉末の平均粒子径を、例えば、2〜20μm、より好ましくは2〜10μmにすることで、電極材料にCrを含有する粒子(耐熱元素とCrの固溶体を含む)を微細化して均一に分散させることができる。耐熱元素は、電極材料に対して10〜54重量%含有させることで、機械強度や加工性を損なうことなく、電極材料の耐電圧性能及び電流遮断性能を向上させることができる。
【0022】
Crは、電極材料に対して2〜30重量%含有させることで、機械強度や加工性を損なうことなく、電極材料の耐電圧性能及び電流遮断性能を向上させることができる。Cr粉末を用いる場合、Cr粉末の粒径を、例えば、−325メッシュ(粒径45μm以下)とすることで、耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を得ることができ、また原料に用いたCr粉末の粒径が小さいため、残留したCr粒子は本焼結時にMoやCuにより微細化されて粒子径が十分小さくなり電極表面の接触抵抗は低くなる。また、電極材料中に微細化したCrを含有する粒子を分散させる点では、粒径が小さいCr粉末を用いることが好ましいが、Cr粒子を細かくするほど電極材料に含有される不純物量が増加して電流遮断性能が低下する。Cr粒子の粒径を小さくすることによる電極材料の不純物の増加は、Crを微細に粉砕する際に回避できないものである。しかし、Crが酸化しない条件、例えば、不活性ガス中でCrを微細な粉末とすることができるのであれば、粒径が−325メッシュ未満のCr粉末を用いてもよく、電極材料中に微細化したCrを含有する粒子を分散させる点では、粒径が小さいCr粉末を用いることが好ましい。
【0023】
本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法について、
図1のフローチャートを参照して詳細に説明する。なお、以下の説明では、耐熱元素としてMoを例示して説明するが、他の耐熱元素の粉末を用いた場合も同様である。
【0024】
混合工程S1では、耐熱元素粉末(例えば、Mo粉末)とCr粉末とを混合する。例えば、Cr粉末の粒径を、Mo粉末の粒径よりも大きく、かつ−325メッシュとすることで、量産性に優れた熱処理温度及び熱処理時間で、MoCr固溶体を形成することができる。また、混合粉末において、Moの重量がCrの重量よりも多く、より好ましくはCrの重量1に対してMoの重量が3以上、さらに好ましくはCrの重量1に対してMoの重量が7以上となるようにMo粉末とCr粉末とを混合することで、後の粉砕工程S3において、粉砕にかかる力が軽減され、より微細な粉末を得ることができる。
【0025】
熱処理工程S2では、混合工程S1で得られたMo粉末とCr粉末の混合粉末を、Mo及びCrと反応しない容器(例えば、アルミナ容器)に充填して、非酸化性雰囲気(水素雰囲気や真空雰囲気等)にて所定の温度(例えば、1200℃〜1500℃)で熱処理を行う。熱処理を行うことで、MoとCrが相互に固溶拡散したMoCr固溶体が得られる。熱処理工程S2では、残存するCr元素が存在しないように熱処理を行うことが好ましい。例えば、熱処理工程S2では、MoCr固溶体のX線解析におけるCr元素ピーク(及びMo元素ピーク)が消失するように、熱処理の温度と時間が選択される。
【0026】
また、熱処理工程S2では、熱処理を行う前に混合粉末を加圧成形(プレス処理)しても良い。混合粉末を加圧成形することで、MoとCrとの相互拡散が促進され熱処理時間を短くしたり、熱処理温度を低減したりすることができる。加圧成形時の圧力は、特に限定するものではないが、0.1t/cm
2以下とすることが好ましい。混合粉体の加圧成形時の圧力が非常に大きい場合、熱処理後の焼結体が硬くなり、後の粉砕工程S3での粉砕作業が困難となるおそれがある。
【0027】
粉砕工程S3では、粉砕機(例えば、遊星ボールミル)を用いてMoCr固溶体の粉砕を行い、MoCr固溶体を含有する粉末(以下、MoCr粉末と称する)を得る。粉砕工程S3の粉砕雰囲気は、非酸化性雰囲気が望ましいが、大気中において粉砕しても構わない。粉砕条件は、MoCr固溶体粒子が相互に結合している粒子(2次粒子)を粉砕する程度の粉砕条件でよい。なお、MoCr固溶体の粉砕は、粉砕時間を長くすればするほど、MoCr固溶体粒子の平均粒子径が小さくなる。したがって、例えば、MoCr粉末において、粒径30μm以下の粒子(より好ましくは、粒径20μm以下の粒子)の体積相対粒子量が50%以上となるような粉砕条件を設定することで、MoCr粒子(MoとCrが相互に固溶拡散した粒子)及びCu組織が均一に分散した電極材料(すなわち、耐電圧性能に優れた電極材料)を得ることができる。
【0028】
Cu粉末混合工程S4では、粉砕工程S3で得られたMoCr粉末と、Cu粉末とを混合する。混合後、MoCr粉末とCu粉末の混合粉末(以後、MoCr−Cu粉末とする)を加圧成形する。成形時の成形圧力は、例えば、焼結法で一般的に用いられる成形圧力(例えば、1〜4t/cm
2)である。
【0029】
焼結工程S5では、成形されたMoCr−Cu粉末の焼結を行い、本発明の実施形態に係る電極材料を得る。焼結は、非酸化性雰囲気中(例えば、水素雰囲気中や真空雰囲気中)で、Cuの融点(1083℃)以下の温度で行う。
【0030】
なお、本発明の実施形態に係る電極材料を用いて真空インタラプタを構成することができる。
図2に示すように、本発明の実施形態に係る電極材料を有する真空インタラプタ1は、真空容器2と、固定電極3と、可動電極4と、主シールド10を有する。
【0031】
真空容器2は、絶縁筒5の両開口端部が、固定側端板6及び可動側端板7でそれぞれ封止されることで構成される。
【0032】
固定電極3は、固定側端板6を貫通した状態で固定される。固定電極3の一端は、真空容器2内で、可動電極4の一端と対向するように固定されており、固定電極3の可動電極4と対向する端部には、本発明の実施形態に係る電極材料である電極接点材8が設けられる。
【0033】
可動電極4は、可動側端板7に設けられる。可動電極4は、固定電極3と同軸上に設けられる。可動電極4は、図示省略の開閉手段により軸方向に移動させられ、固定電極3と可動電極4の開閉が行われる。可動電極4の固定電極3と対向する端部には、電極接点材8が設けられる。なお、可動電極4と可動側端板7との間には、ベローズ9が設けられ、真空容器2内を真空に保ったまま可動電極4を上下させ、固定電極3と可動電極4の開閉が行われる。
【0034】
主シールド10は、固定電極3の電極接点材8と可動電極4の電極接点材8との接触部を覆うように設けられ、固定電極3と可動電極4との間で発生するアークから絶縁筒5を保護する。
【0035】
[実施例1]
具体的な実施例を挙げて、本発明の実施形態に係る電極材料について詳細に説明する。実施例1の電極材料は、
図1に示すフローチャートにしたがって作製した電極材料である。
【0036】
Mo粉末は、粒径が0.8〜6μmのものを用いた。このMo粉末の平均粒子径をフィッシャー法により測定したところ3.3μmであった。Cr粉末は、−325メッシュ(ふるい目開き45μm)で分級した粉末、すなわち粒径が45μm以下の粉末を用いた。Cu粉末は、市販の電解銅粉末を用いた。
【0037】
実施例1の電極材料は、まずMo粉末とCr粉末を重量比率でMo:Cr=7:1の割合で混合し、V型混合器を用いて均一となるように十分に混合した。
【0038】
混合後、Mo粉末とCr粉末の混合粉末をアルミナ容器内に移し、真空加熱炉にて1250℃で3時間熱処理を行った。焼結後の真空加熱炉の真空度は、3.5×10
-3Paであった。なお、熱処理温度で所定時間維持した後の真空度が5×10
-3Pa以下であれば、得られた固溶体を用いて作製した電極材料中の酸素含有量が少なくなり、電極材料の電流遮断性能を損なうことがない。
【0039】
冷却後、真空加熱炉からMoCr固溶体を取り出し、遊星ボールミルを用いて10分間粉砕を行い、MoCr粉末を得た。粉砕後のMoCr粉末の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定により測定したところ、10μm以下であった。粉砕後、MoCr粉末のX線回折(XRD)測定を行った。測定結果を
図3に示す。
図3に示すように、実施例1の電極材料に係るMoCr粉末において、Mo(110)に対応するピークとCr(110)に対応するピークが消失しており、Cr原料粉末はMoCr粉末中に存在していないと考えられる。なお、
図3の図には、実施例1の電極材料に係るMoCr粉末のX線回折測定結果だけでなく、MoとCrの混合比率(重量比)を変化させて、実施例1の電極材料と同じ方法により作製されたMoCr粉末のX線回折測定結果も示している。
【0040】
図4は、MoとCrの混合比率(重量比)を変化させて、実施例1の電極材料と同じ方法により作製されたMoCr粉末のX線回折測定結果を示す図である。
図3及び
図4から明らかなように、Moの重量に対するCrの重量が増加すればするほど、Cr元素に対応するピークの値が大きくなっている。つまり、混合粉末において、Moの重量に対してCrの重量が多い場合、熱処理工程S2の熱処理後に残存するCr元素の量が多くなるものと考えられる。したがって、MoとCrとを重量比率で、Mo>CrとなるようにMoとCrとを混合することで、熱処理工程S2の熱処理後に、Cr元素に対応するピークがほぼ消失しているMoCr固溶体を得ることができる。
【0041】
また、MoCr粉末のX線回折測定の結果に基づいて、実施例1の電極材料に係るMoCr粉末、Mo粉末及びCr粉末の結晶定数を求めた。MoCr粉末(Mo:Cr=7:1)の格子定数aは、0.3107nmであった。また、Mo粉末の格子定数a(Mo)は0.3151nmであり、Cr粉末の格子定数a(Cr)は、0.2890nmであった。
【0042】
次に、Cu粉末とMoCr粉末とを、重量比率でCu:MoCr=4:1の割合で均一に混合し、プレス金型成形にて成形体を作製し、1070℃−2時間非酸化性雰囲気中で焼結して実施例1の電極材料を作製した。
【0043】
図5は、実施例1の電極材料の断面顕微鏡写真である。
図5において比較的白く見える領域(白色部分)がMoとCrが固溶体化した合金組織であり、比較的黒く見える部分(灰色部分)がCu組織である。つまり、実施例1の電極材料では、25μm以下の微細な合金組織(白色部分)がCu相に均一に微細化して分散している。
【0044】
[比較例1]
比較例1の電極材料は、Cu粉末とCr粉末とを混合し、得られた混合粉末をプレス金型成形にて成形後に焼結したものである。
【0045】
Cu粉末とCr粉末を重量比率でCu:Cr=4:1の割合で混合し、V型混合器を用いて均一になるまで十分に混合した。Cu粉末は、実施例1と同じものを用いた。Cr粉末は、粒径80μm以下(80μmの目のふるいで分級したもの)を使用した。混合後、Cu粉末とCr粉末の混合粉末をプレス圧4t/cm
2でプレス金型成形して成形体を作製し、この成形体を1070℃−2時間非酸化性雰囲気中で焼結して、比較例1の電極材料を作製した。
【0046】
図6は、比較例1の電極材料の断面を示す顕微鏡写真である。
図6より、比較例1の電極材料では、Cu相にCr粒子が点在していることがわかる。
【0047】
[比較例2]
比較例2の電極材料は、Mo粉末とCr粉末の混合比が異なること以外は、実施例1の電極材料と同じ方法で作製した電極材料である。
【0048】
具体的に説明すると、Mo粉末とCr粉末を重量比率でMo:Cr=1:4の割合で混合し、V型混合器を用いて均一となるように十分に混合した。
【0049】
混合後、Mo粉末とCr粉末の混合粉末をアルミナ容器内に移し、真空加熱炉にて1250℃で3時間混合粉末の熱処理を行った。1250℃で3時間焼結後の真空加熱炉の真空度は、3.5×10
-3Paであった。
【0050】
冷却後、真空加熱炉からMoCr固溶体を取り出し、遊星ボールミルを用いて10分間粉砕を行い、MoCr粉末を得た。粉砕後のMoCr粉末の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定により測定したところ、40μm程度であった。
【0051】
また、MoCr粉末のX線回折測定を行った結果を
図4に示す。
図4に示すように、比較例2の電極材料に係るMoCr粉末のX線回折測定では、Cr元素に対応するピークが存在していることが確認された。
【0052】
次に、Cu粉末とMoCr粉末とを、重量比率で、Cu:MoCr=4:1として均一に混合し、プレス金型成形にて成形体を作製し、1070℃−2時間非酸化性雰囲気中で焼結して比較例2の電極材料を作製した。比較例2の電極材料は、Crリッチなため、硬度が硬くなり粉砕にかかるエネルギーが高く、量産性に影響を及ぼすことがわかった。
【0053】
表1に、実施例1及び比較例1,2の電極材料処理条件及び電極特性を示す。
【0055】
表1に示すように、実施例1の電極材料は、従来の焼結法では困難であった耐アーク成分の微細化が実現できる。
【0056】
また、実施例1と比較例2とを比較すると、比較例2では粉砕性が困難となっている。これは、仮焼結時に、Cr同士が焼結することに起因するものと考えられる。また、実施例1の電極材料では、粉砕後の平均粒子径が10μmであるのに対して、比較例2の電極材料では、粉砕後の平均粒子径が40μmとなっている。これは、比較例2では、MoとCrの混合粉末において、Cr粉末の重量がMo粉末の重量より多いため、Cr粒子の拡散量が少なくなり、残存するCr元素の量が多いためと考えられる。そして、残存するCr元素の量が多くなることにより、比較例2の電極材料では、電極表面の接触抵抗が高くなるものと考えられる。また、Cr粉末とCu粉末の混合性が悪いため、Cr粒子を微細にしたとしても、電極組織内のCrの分散性は低くなるものと考えられる。なお、比較例2において、原料のCr粉末の粒径をできるだけ小さく(例えば、10μm以下)とすることで、電極材料に分散されるCr粒子の粒径を小さくすることが考えられるが、Cr粉末の粒径を小さくすると、電極材料の酸素含有量が増加し、電極材料の電流遮断性能が低下するおそれがある。
【0057】
[比較例3]
比較例3の電極材料は、粒径が80μm以下のCr粉末(80μmの目のふるいで分級したCr粉末)を用いて作製した電極材料である。なお、Mo粉末やCu粉末は、実施例1の電極材料と同じものを用いた。
【0058】
具体的に説明すると、Mo粉末とCr粉末を重量比率でMo:Cr=9:1の割合で混合し、V型混合器を用いて均一となるように十分に混合した。
【0059】
混合後、Mo粉末とCr粉末の混合粉末をアルミナ容器内に移し、真空加熱炉にて1150℃で6時間混合粉末の熱処理を行った。1150℃で6時間焼結後の真空加熱炉の真空度は、3.5×10
-3Paであった。
【0060】
冷却後、真空加熱炉からMoCr固溶体を取り出し、遊星ボールミルを用いて10分間粉砕を行い、MoCr粉末を得た。粉砕後のMoCr粉末の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定により測定したところ、10μm程度であった。
【0061】
また、MoCr粉末のX線回折測定を行った結果、比較例3の電極材料に係るMoCr粉末のX線回折測定では、Cr元素に対応するピークが存在していることが確認された。
【0062】
次に、Cu粉末とMoCr粉末とを、重量比率で、Cu:MoCr=4:1として均一に混合し、プレス金型成形にて成形体を作製し、1070℃−2時間非酸化性雰囲気中で焼結して比較例3の電極材料を作製した。比較例3の電極材料は、Moリッチなため、充填率が85%以下と低くなり、ロウ付け性に影響を及ぼし、VIの電極材料としては適用できないことがわかった。
【0063】
比較例3の電極材料は、Cr粉末と混合されるMo粉末の重量が多いにもかかわらず、得られたMoCr固溶体粉末において、残存Cr粒が確認された。つまり、Mo粉末と混合されるCr粉末の粒子径が大きい場合(例えば、80μm)、Cr粉末に混合するMo粉末の重量を多くしても、残留Cr元素が少ないMoCr粉末を得ることができないおそれがある。なお、比較例3の電極材料は、実施例や他の比較例とMo粉末とCr粉末の混合粉末の焼結温度が異なっているが、実施例や他の比較例と同様の焼結条件(1250℃−3h)で焼結した場合もCrピーク確認されており、Cr粒子が残存していた。
【0064】
以上のような、本発明の実施形態に係る電極材料によれば、MoCr固溶体を形成するMo粉末とCr粉末の含有量(重量比)を、Mo>Crとすることで、電極組織内におけるMoCr固溶体粒子を微細かつ均一に分散させることができる。その結果、電極材料の電流遮断性能や耐電圧性能等の電気的特性が向上する。また、高導電成分相であるCu部と、耐アーク成分であるMoCr合金相の両相が均一に微細分散された構造となっているので、電極表面の接触抵抗が低下する。
【0065】
すなわち、電極材料に対する耐熱元素の含有量を多くすることで、耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を得ることができる。Moの重量をCrの重量よりも多くすることで、残留Cr元素が少ないMoCr粉末を得られるだけでなく、MoCr固溶体形成時におけるCr粒子同士の焼結反応を抑制し、MoCr固溶体の粉砕が容易となり、より小さい力でMoCr固溶体を粉砕することができる。
【0066】
また、Cr粉末の粒径を45μm以下とすることで、熱処理により、完全に(実質的に)Cr粒子をMoに固溶させることができる。例えば、X線回折測定において、Cr元素に対応するピークが実質上消失しているMoCr粉末(すなわち、Cr元素が残留していないMoCr粉末)を得ることができる。その結果、微細な粒径を有するMoCr固溶体粒子が電極表面に分散された組織を有する電極材料を得ることができる。なお、Cr粉末の粒径を45μm以下とすることで、熱処理によりCr粒子が残留したとしても、本焼結工程(焼結工程S5)時に、MoやCuによりCr粒子はさらに微細化されるので、電極表面の接触抵抗の増加を抑制することができる。これに対して、Cr粉末の粒径が45μmより大きい場合、Mo粉末とCr粉末の含有量が、Mo>Crであったとしても、Cr粒子がMoに完全に固溶せず、Cr元素として残留することとなる。このように粒径の大きなCr粒子が電極表面に存在することで、電極同士の接触抵抗が高くなるおそれがある。よって、残留するCr元素が無くなるまで熱処理を行うことや、電極径を大きくすることで電極同士の接触抵抗を低減しなくてはならなくなる。
【0067】
また、耐熱元素(Mo等)の平均粒子径の大きさは、耐熱元素とCrの固溶体粉末の粒子径の大きさを決定する一つの要因となり得る。すなわち、Cr粒子が耐熱元素粒子によって微細化され、拡散機構によって耐熱元素粒子にCrが拡散して耐熱元素とCrとが固溶体組織を形成することから、耐熱元素の粒径は、熱処理によって大きくなる。また、仮焼結によって大きくなる度合いは、Crの混合割合にも依存する。そのため、耐熱元素粉末の平均粒子径を、例えば、2〜20μm、より好ましくは、2〜10μmとすることで、耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を形成するための耐熱元素とCrの固溶体粉末を得ることができる。
【0068】
また、本発明の実施形態に係る電極材料を、例えば、真空インタラプタ(VI)の固定電極及び可動電極の少なくとも一方に設けることで、真空インタラプタの電極接点の耐電圧性能を向上させることができる。電極接点の耐電圧性能が向上すると、従来の真空インタラプタよりも固定電極と可動電極との間のギャップ長を短くでき、かつ固定電極並びに可動電極と主シールドとの間のギャップを狭めることができるため、真空インタラプタの構造を小さくすることが可能となる。その結果、真空インタラプタを小型化することができる。また、真空インタラプタを小型化することで、真空インタラプタの製造コストが低減する。
【0069】
なお、本発明の実施形態の説明は、特定の望ましい実施例を例として説明したが、本発明は、実施例に限定されるものではなく、発明の特徴を損なわない範囲で、適宜設計変更が可能であり、設計変更された形態も本発明の技術範囲に属する。
【0070】
例えば、本発明の実施形態の説明において、熱処理工程S2における熱処理温度は、1250℃−3時間の条件であるが、熱処理工程S2における熱処理温度は、1250℃以上かつCrの融点以下、より好ましくは1250℃〜1500℃の範囲で行うことで、MoとCrの相互拡散が充分に進行し、かつその後の粉砕機を用いたMoCr固溶体の粉砕が比較的容易に行え、さらには耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を製造することができる。また、熱処理時間は、熱処理温度によって異なるものであり、例えば、1250℃では3時間の熱処理を行っているが、1500℃では、0.5時間の熱処理で十分である。
【0071】
また、MoCr粉末は、実施形態に記載されている製造方法により製造されたものに限定されず、公知の製造方法(例えば、ジェットミル法、アトマイズ法)で製造されたMoCr粉末を用いてもよい。
【0072】
また、本発明の電極材料は、耐熱元素、Cr、Cuのみを構成要素としたものに限定されるものではなく、電極材料の特性を向上させる元素を添加してもよい。例えば、Teを添加することにより電極材料の耐溶着性を向上することができる。