(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、上記従来の遊星ローラ式トラクションドライブに次の問題が存在することを見いだした。
【0006】
すなわち、上記遊星ローラ式トラクションドライブでは、遊星ローラで、リングローラと太陽ローラとの間を圧接して転がり伝達を行うので、この転がり伝達では、隙間が存在しなくて、バックラッシュが存在しにくい一方、遊星ローラの内径と、遊星軸との間には、隙間が存在する。したがって、この隙間に起因して、遊星ローラと、遊星軸との間にバックラッシュが発生し、そのバックラッシュによって位置決め精度が悪くなる。
【0007】
ここで、その問題を解決する手法として、上記隙間がなくなるように、遊星ローラ軸受が負隙間の状態で、遊星ローラ軸受を、遊星ローラと遊星軸との間に配置する手法がある。しかしながら、この手法では、遊星ローラ軸受を負隙間にして組む際、その負隙間を、高精度に管理することが必須となる。というのは、トルク伝達を行うため、環状の遊星ローラを圧接して組み立てる必要があるため、遊星ローラの内径が収縮するが、この収縮量のバラツキも考慮した上で、遊星ローラに圧痕が発生しない範囲の負隙間とする必要があるからである。したがって、バックラッシュを簡易に低減できないという問題がある。
【0008】
また、
図6、すなわち、従来の遊星ローラ式トラクションドライブの径方向の模式断面図に示すように、遊星ローラ223には、リングローラ221と、太陽ローラ222とから、
図6に矢印A、Bで示す径方向の圧接力が付与される。したがって、
図6に示すように、遊星ローラ223は、公転方向を長半径とする楕円形に変形し易い。したがって、遊星ローラ223と遊星軸(駆動ピン)226との間に真円の軸受(
図6では、一の領域で示す)225を配置すると、公転方向に隙間が発生し易くなって、その隙間に起因するバックラッシュが発生し易くなる。
【0009】
そこで、本発明の課題は、簡易かつ効率的にバックラッシュを低減できる遊星ローラ式トラクションドライブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、この発明の遊星ローラ式トラクションドライブは、
リングローラと、
リングローラの径方向の内方側に位置する太陽ローラと、
上記リングローラの内周面に内接すると共に、上記太陽ローラの外周面に外接する環状の遊星ローラと、
上記遊星ローラの内径側に配置される断面C形で弾性を有する棒状弾性部材を有する遊星キャリアと
を備えることを特徴としている。
【0011】
尚、遊星ローラと、棒状弾性部材との間に転がり軸受を配置することにより、遊星ローラを、棒状弾性部材に対し自在に自転させることができる。また、適正な潤滑剤の使用等により、摩擦力が存在しても、遊星ローラを、転がり軸受を使用せずに、棒状弾性部材の外径面で、すべりで受けることもできる。また、遊星ローラと、棒状弾性部材との間のいずれかの位置に、適宜、ブッシュを配置することもできる。
【0012】
本発明によれば、上記遊星ローラの内径側に断面C形の棒状弾性部材を配置するから、遊星ローラの内周面を棒状弾性部材で直接押圧できるか、または、遊星ローラの内側に内嵌される内嵌部(内嵌部は、例えば、転がり軸受のみで構成でき、または、転がり軸受とブッシュとで構成できる)の内周面を棒状弾性部材で押圧できて、この押圧によりその内嵌部を遊星ローラ側に膨張させることができる。したがって、遊星ローラと棒状弾性部材との間の隙間を低減できて、その隙間に起因するバックラッシュを効率的に低減できる。
【0013】
また、本発明によれば、遊星ローラの内径側に配置されるのが、切欠きを有して変形し易い断面C形の棒状弾性部材であるから、棒状弾性部材を容易に遊星ローラの内径側に配置できる。また、遊星ローラの内径側に配置されるのが、切欠きを有して変形し易い断面C形の棒状弾性部材であるから、棒状弾性部材を遊星ローラの内径側に配置した後、その棒状弾性部材の外径面を、その棒状弾性部材が接触している内周面の形状にならうように変形させることができて、棒状弾性部材の外径面が、その内周面により密接している状態で、棒状弾性部材の外径面で、その内周面を押圧することができる。したがって、隙間を簡易かつ効率的に低減することができる。したがって、簡易かつ効率的にバックラッシュを低減できて、簡易により高い位置決め精度を実現できる。
【0014】
また、一実施形態では、
上記遊星ローラの内周面に内嵌された外輪と、内輪と、転動体とを有する転がり軸受を備え、
上記棒状弾性部材は、上記内輪の内周面に圧入されている。
【0015】
上記実施形態によれば、遊星ローラの内径側に転がり軸受が配置されるから、この転がり軸受で棒状弾性部材に対する遊星ローラの円滑な自転を実現できる。また、転がり軸受の内輪の内径側に圧入された断面C形の棒状弾性部材で内輪を効率的に膨張させることができる。したがって、その内輪の膨張で軸受隙間を低減できて、バックラッシュを低減できる。
【0016】
また、一実施形態では、
上記太陽ローラの中心軸と、上記遊星ローラの中心軸とを含む平面が、上記断面C形の棒状弾性部材の切欠きを通過している。
【0017】
上記実施形態によれば、棒状弾性部材の切欠きが遊星ローラ式トラクションドライブの径方向に向いているから、棒状弾性部材をより効率的に遊星ローラの公転方向に膨張させることができる。したがって、遊星ローラの圧接に基づく遊星ローラの公転方向の楕円形の変形に起因して発生する公転方向の隙間を、棒状弾性部材の変形でより効率的に塞ぐことができる。したがって、効果的にバックラッシュを低減できる。
【0018】
また、一実施形態では、
上記遊星キャリアは、上記棒状弾性部材の一端部が挿通されたピン挿通穴を有するキャリア本体を有し、
上記棒状弾性部材の一端部の内径側に圧入された止めピンを備える。
【0019】
上記実施形態によれば、棒状弾性部材の一端部の内径側に圧入された止めピンによって、棒状弾性部材の一端部をピン挿通穴の内面側に膨張させることができる。したがって、キャリア本体と棒状弾性部材との圧入面に大きな圧力を発生させることができて、棒状弾性部材がキャリア本体から抜けにくくできる。
【0020】
また、一実施形態では、
上記棒状弾性部材は、スプリングピンである。
【0021】
上記実施形態によれば、棒状弾性部材が、スプリングピンであるから、ばね作用を利用して遊星ローラの内周側に確実かつ安定的に力を付与することができる。したがって、確実かつ効果的にバックラッシュを低減できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡易にバックラッシュを低減できて、簡易により高い位置決め精度を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態の二段減速遊星機構の軸方向の断面図である。
【0026】
図1に示すように、この二段減速遊星機構は、ハウジング1と、第1遊星ローラ式トラクションドライブ2と、第2遊星ローラ式トラクションドライブ3と、出力軸4とを備え、ハウジング1は、円筒カップ状のハウジング本体10と、円板状の蓋部11とを有する。
【0027】
上記第1遊星ローラ式トラクションドライブ(以下、単に、第1ドライブという)2は、第1リングローラ21と、太陽ローラとしての第1中間軸22と、複数の第1遊星ローラ23と、第1遊星キャリア24と、転がり軸受の一例としての第1複列玉軸受25とを有する。
【0028】
上記第1リングローラ21は、ハウジング本体10の円筒内周面に内嵌されている。また、上記第1中間軸22は、ハウジング本体10の中心軸線上に延在している。上記第1中間軸22は、軸継手90によってステッピングモータ40のモータ軸41に接続され、ステッピングモータ40が回転駆動すると、回動するようになっている。
【0029】
上記複数の第1遊星ローラ23は、第1リングローラ21の周方向に互いに間隔をおいて位置している。上記第1遊星ローラ23は、第1リングローラ21の円筒内周面に面圧が存在する状態で内接すると共に、第1中間軸22の円筒外周面に面圧が存在する状態で外接している。
【0030】
図1に示すように、第1リングローラ21の円筒内周面の幅は、第1遊星ローラ23の軸長よりも短くなっており、第1リングローラ21の円筒内周面の全面が、第1遊星ローラ23の外周面に接する一方、第1遊星ローラ23の外周面の全面は、第1リングローラ21の円筒内周面に接しないようになっている。このようにして、第1リングローラ21と、第1遊星ローラ23とが十分な面圧で接するようにしている。
【0031】
上記第1遊星キャリア24は、円板状の第1キャリア本体28と、第1駆動ピン29とを有し、第1キャリア本体28は、第1ピン挿通穴30を有している。上記第1駆動ピン29の軸方向の一方側の端部は、第1キャリア本体28の第1ピン挿通穴30に内嵌されて固定されている。また、上記第1キャリア本体28は、以下で説明する第2中間軸52の外周面の軸方向の他方側の端部に固着されている。
【0032】
上記第1複列玉軸受25は、第1遊星ローラ23の内周面と、第1駆動ピン29の外径面との間に配置されている。上記第1複列玉軸受25は、第1遊星ローラ23を、第1駆動ピン29に対して自転自在(回動自在)に支持している。
【0033】
上記第2遊星ローラ式トラクションドライブ(以下、単に、第2ドライブという)3は、第2リングローラ51と、太陽ローラとしての第2中間軸52と、複数の第2遊星ローラ53と、第2遊星キャリア54と、転がり軸受の一例としての第2複列玉軸受55とを有する。
【0034】
上記第2リングローラ51は、ハウジング本体10の円筒内周面に内嵌されている。上記第2リングローラ51は、第1リングローラ21に隣接配置され、第1リングローラ21に軸方向に当接している。上記第2中間軸52は、ハウジング本体10の中心軸線上に延在している。上記第2中間軸52の軸方向の他方側の端面は、センタ穴38を有し、玉96を、センタ穴38に嵌挿している。上記玉96の一部は、センタ穴38から突出している。上記センタ穴38から突出している玉96の一部は、第1中間軸22の軸方向の他方側の端面に接触している。上記第1中間軸22と第2中間軸52との間に玉96を介在させる構造により、第1中間軸22の回転を、直接、第2中間軸52に伝達しないようにしている。
【0035】
上記複数の第2遊星ローラ53は、第2リングローラ51の周方向に互いに間隔をおいて位置している。上記第2遊星ローラ53は、第2リングローラ51の円筒内周面に面圧が存在する状態で内接すると共に、第2中間軸52の円筒外周面に面圧が存在する状態で外接している。
【0036】
図1に示すように、第2リングローラ51の円筒内周面の幅は、第2遊星ローラ53の軸長よりも短くなっており、第2リングローラ51の円筒内周面の全面が、第2遊星ローラ53の外周面に接する一方、第2遊星ローラ53の外周面の全面は、第2リングローラ51の円筒内周面に接しないようになっている。このようにして、第2リングローラ51と、第2遊星ローラ53とが十分な面圧で接するようにしている。
【0037】
上記第2遊星キャリア54は、円板状の第2キャリア本体58と、第2駆動ピン59とを有し、第2キャリア本体58は、第2ピン挿通穴60を有する。
図1に示すように、上記第2駆動ピン59の軸方向の一方側の端部は、第2キャリア本体58の第2ピン挿通穴60に内嵌されて固定されている。また、上記第2キャリア本体58の軸方向の他方側の端部は、出力軸4に固着されている。
【0038】
上記出力軸4の外端部には、図示しない回転機器の軸、例えば、印刷機の製版用スキャナの軸が結合されている。上記出力軸4は、ハウジング本体10の中心軸線上に延在している。上記出力軸4の軸方向の他方側の端面は、センタ穴39を有し、玉97を、そのセンタ穴39に嵌挿している。上記玉97の一部は、センタ穴39から突出している。上記センタ穴39から突出している玉97の一部は、第2中間軸52の軸方向の他方側の端面に接触している。上記第2中間軸52と出力軸4との間に玉97を介在させる構造により、第2中間軸52の回転を、直接、出力軸4に伝達しないようにしている。
【0039】
上記第2複列玉軸受55は、第2遊星ローラ53と、第2駆動ピン59の外径面との間に配置されている。上記第2複列玉軸受55は、第2遊星ローラ53を、第2駆動ピン59に対して自転自在(回動自在)に支持している。
【0040】
図1に示すように、上記円筒カップ状のハウジング本体10の円板部70の内周面と、出力軸4との間には、玉軸受75が配置されている。この玉軸受75で、ハウジング本体10に対して出力軸4を回転自在に支持している。上記ハウジング1の円板状の蓋部11の外径端部を、ハウジング本体10の軸方向の円板部70側とは反対側の端面に、締付ボルト98で締め付けて固定している。
【0041】
また、この締付ボルト98による締め付けの際、上記ハウジング1の円板状の蓋部11と、ハウジング本体10の円板部70とで、第1リングローラ21と第2リングローラ51とを軸方向に挟圧して、締め付けている。このようにして、上記第1リングローラ21および第2リングローラ51を、軸方向に位置決めすると共に、第1リングローラ21および第2リングローラ51がハウジング1に対して相対回転しないようにしている。
【0042】
図2は、上記第1ドライブ2を詳細に示す第1ドライブ2の模式断面図である。尚、第2ドライブ3は、第1ドライブ2と同一である。第2ドライブ3の説明は、第1ドライブ2の説明をもって省略する。
【0043】
図2に示すように、上記第1遊星ローラ23の内周面は、軸方向の中心部に円周溝を有し、その円周溝には、位置決め止め輪77が嵌着されている。上記複列玉軸受25は、第1遊星ローラ23の内周面に内嵌されている。上記複列玉軸受25は、第1遊星ローラ23の内周面に当接している。上記複列玉軸受25は、一対のアンギュラ玉軸受80,81からなっている。一方のアンギュラ玉軸受80は、外輪82と、内輪83と、複数の玉84とを有する一方、他方のアンギュラ玉軸受81は、外輪86と、内輪87と、複数の玉88とを有する。上記一対のアンギュラ玉軸受80,81は、位置決め止め輪77を挟んで当接するように、第1遊星ローラ23の内周面に嵌挿されている。
【0044】
上記第1ドライブ2の駆動ピン29は、
図3の斜視図に示す断面C形のスプリングピンからなっている。この断面C形のスプリングピンは、断面C形で弾性を有する棒状弾性部材を構成している。このスプリングピンの材質は、JIS(日本工業規格)で規定されるスプリングピンのいずれの材質であっても良い。上記駆動ピン29は、一方のアンギュラ玉軸受80の内輪83の内径側に圧入されると共に、他方のアンギュラ玉軸受81の内輪87の内径側に圧入されている。上記駆動ピン29は、内輪83と内輪87とを径方向の外方側に押圧している。上記駆動ピン29によって、内輪83と内輪87とを径方向の外方側に膨張させている。上記内輪83の膨張により、一方のアンギュラ玉軸受80の軸受隙間をなくし、内輪87の膨張により、他方のアンギュラ玉軸受81の軸受隙間をなくしている。
【0045】
図2に示すように、第1ドライブ2は、止めピン79を備え、その止めピン79は、第1キャリア本体28の第1ピン挿通穴30に挿通された駆動ピン29の軸方向の一方側の端部の内径側に圧入されている。このようにして、駆動ピン29の軸方向の一方側の端部の外径面を、第1ピン挿通穴30の内周面側に膨張させて、駆動ピン29の軸方向の一方側の端部の外径面と、第1ピン挿通穴30の内周面との間に大きな圧力が発生するようにしている。
【0046】
図4は、第1ドライブ2の一部におけるアンギュラ玉軸受80の玉84の中心を通過する径方向の模式断面図である。尚、
図4では、
図4に矢印A,Bで表す圧接力に基づいて生じる第1遊星ローラ23の周方向(公転方向)の楕円状の変形が、誇張して描かれている。
【0047】
図4に示すように、各第1駆動ピン29において、太陽ローラとしての第1中間軸22の中心軸P1と、第1駆動ピン29を取り囲む第1遊星ローラ23の中心軸P2とを含む平面P3が、断面C形のスプリングピンからなる第1駆動ピン29の切欠き48を通過している。
【0048】
上記構成において、この二段減速遊星機構では、ステッピングモータ40が回転駆動されると、軸継手90を介して太陽ローラとしての第1中間軸22が回転する。すると、第1中間軸22の回転動力は、上述のように、玉96により第2中間軸52に伝達されない一方、第1中間軸22に外接する第1遊星ローラ23に伝達される。すると、上記第1遊星ローラ23は、第1駆動ピン29の回りを減速自転する。すると、上記第1遊星ローラ23は、ハウジング1に対して静止している第1リングローラ21の円筒外周面に外接しているので、その自転により第1駆動ピン29と共に第1中間軸22の回りを公転する。すると、上記第1駆動ピン29が第1キャリア本体28に固定され、第1キャリア本体28が第2中間軸52に固着されているので、上記第1駆動ピン29の公転の動力が、第1キャリア本体28を介して第2中間軸52に伝達され、第1遊星ローラ23の公転速度が、第2中間軸52の回転速度として出力される。このようにして、第2中間軸52が第1中間軸22に対して減速回転するようになっている。
【0049】
次に、第1中間軸22の回転に対して減速回転する第2中間軸52の回転動力は、上述のように、玉97により出力軸4に伝達されない一方、第2中間軸52に外接する第2遊星ローラ53に伝達される。すると、上記第2遊星ローラ53は、第2駆動ピン59の回りを減速自転する。すると、上記第2遊星ローラ53は、ハウジング1に対して静止している第2リングローラ51の円筒外周面に外接しているので、その自転により第2駆動ピン59と共に第2中間軸52の回りを公転する。すると、上記第2ピン59が第2キャリア本体58に固定され、第2キャリア本体58が出力軸4に固着されているので、第2駆動ピン59の公転の動力が、第2キャリア本体58を介して出力軸4に伝達され、第2遊星ローラ53の公転速度が、出力軸4の回転速度として出力される。このようにして、出力軸4が第2中間軸52に対して減速回転するようになっている。このようにして、出力軸4に結合された回転機器は、ステッピングモータ40の回転に対して二段階に減速されて回転するようになっている。
【0050】
上記実施形態によれば、遊星ローラ23,53の内側に内嵌された内嵌部としてのアンギュラ玉軸受80,81の内周面を断面C形のスプリングピンからなる駆動ピン29,59で押圧できて、この押圧によりその内嵌部を遊星ローラ23,53側に膨張させることができる。したがって、遊星ローラ23,53と駆動ピン29,59との間の隙間を低減できて、その隙間に起因するバックラッシュを効率的に低減できる。
【0051】
また、上記実施形態によれば、遊星ローラ23,53の内径側に配置されるのが、切欠き48を有して変形し易い断面C形のスプリングピンからなる駆動ピン29,59であるから、駆動ピン29,59を容易にアンギュラ玉軸受80,81の内径側に配置できる。また、上記アンギュラ玉軸受80,81の内径側に配置されるのが、切欠き48を有して変形し易い断面C形のスプリングピンからなる駆動ピン29,59であるから、駆動ピン29,59をアンギュラ玉軸受80,81の内径側に配置した後、その駆動ピン29,59の外径面を、その駆動ピン29,59が接触しているアンギュラ玉軸受80,81の内周面の形状にならうように変形させることができて、駆動ピン29,59の外径面が、その内周面により密接している状態で、駆動ピン29,59の外径面で、その内周面を押圧することができる。したがって、隙間を簡易かつ効率的に低減することができる。したがって、簡易かつ効率的にバックラッシュを低減できて、簡易により高い位置決め精度を実現できる。
【0052】
また、上記実施形態によれば、遊星ローラ23,53の内径側に複列玉軸受25,55が配置されるから、この複列玉軸受25,55で駆動ピン29,59に対する遊星ローラ23,53の円滑な自転を実現できる。また、複列玉軸受25,55の内輪83,87の内径側に圧入された断面C形の駆動ピン29,59で内輪83,87を効率的に膨張させることができる。したがって、その内輪83,87の膨張で軸受隙間を低減できて、バックラッシュを低減できる。
【0053】
また、上記実施形態によれば、太陽ローラとしての中間軸22,52の中心軸P1と、駆動ピン29,59を取り囲む遊星ローラ23,53の中心軸P2とを含む平面P3が、断面C形のスプリングピンからなる駆動ピン29,59の切欠き48を通過している。したがって、駆動ピン29,59の切欠き48がトラクションドライブ2,3の径方向に向いているから、駆動ピン29,59をより効率的に遊星ローラ23,53の公転方向に膨張させることができる。したがって、上記遊星ローラ23,53の圧接に基づく遊星ローラ23,53の公転方向の楕円形の変形に起因して発生する公転方向の隙間を、遊星ローラ23,53の変形でより効率的に塞ぐことができる。したがって、効果的にバックラッシュを低減できる。
【0054】
また、上記実施形態によれば、上記駆動ピン29,59の軸方向の一方側の端部の内径側に圧入された止めピン79によって、駆動ピン29,59の上記端部をピン挿通穴30,60の内面側に膨張させることができる。したがって、キャリア本体28,58と駆動ピン29,59との圧入面に大きな圧力を発生させることができて、駆動ピン29,59がキャリア本体28,58から抜けにくくできる。
【0055】
また、上記実施形態によれば、上記駆動ピン29,59が、断面C形のスプリングピンからなっているから、ばね作用を利用して遊星ローラ23,53の内周側に確実かつ安定的に力を付与することができる。したがって、確実かつ効果的にバックラッシュを低減できる。
【0056】
尚、上記実施形態では、太陽ローラとしての中間軸22,52の中心軸P1と、駆動ピン29,59を取り囲む遊星ローラ23,53の中心軸P2とを含む平面P3が、断面C形のスプリングピンからなる駆動ピン29,59の切欠き48を通過していた。また、駆動ピン29,59の切欠き48が、太陽ローラとしての中間軸22,52側を向き、リングローラ21,51側を向いていなかった。しかしながら、この発明では、全てのC形のスプリングピンからなる駆動ピンに関し、太陽ローラの中心軸と、その駆動ピンを取り囲む遊星ローラの中心軸とを含む平面が、その駆動ピンの切欠きを通過していて、更に、少なくとも一つのC形のスプリングピンからなる駆動ピンの切欠きが、リングローラ側を向き、太陽ローラ側を向いていなくても良い。また、この発明では、少なくとも一つのC形のスプリングピンからなる駆動ピンに関し、太陽ローラの中心軸と、その駆動ピンを取り囲む遊星ローラの中心軸とを含む平面が、駆動ピンの切欠きを通過しなくても良い。
【0057】
また、上記実施形態では、リングローラ21,51をハウジング1に対して固定して、リングローラ21の固定速度を0とし、太陽ローラとしての中間軸22,52の回転速度を入力回転速度とし、遊星キャリア24,54の公転速度を出力回転速度として、中間軸22,52の回転速度を、減速するようにした。しかしながら、この発明では、リングローラの回転速度と、太陽ローラの回転速度と、遊星キャリアの回転速度(遊星ローラの公転速度)の三つの要素の内、一つを静止(速度0)、一つを入力回転速度、一つを出力回転速度とすれば良い。静止(固定)は、上記三つの要素のいずれでも良く、入力も、上記三つの要素のいずれでも良く、出力も、上記三つの要素のいずれでも良い。
【0058】
また、上記実施形態では、C形のスプリングピンからなる駆動ピン29,59のキャリア本体28,58側の軸方向の一方側の端部の内径側に、止めピン79を圧入することによって、駆動ピン29,59の上記端部をピン挿通穴30,60の内面側に膨張させるようにした。しかしながら、この発明では、C形のスプリングピンからなる駆動ピンの軸方向のキャリア本体側の端部の内径側に、止めピンが存在しなくても良い。
【0059】
また、上記実施形態では、遊星ローラ23,53と、C形のスプリングピンからなる駆動ピン29,59との間に、二列にアンギュラ玉軸受80,81を配置した。しかしながら、この発明では、遊星ローラと、C形のスプリングピンからなる駆動ピンとの間に、転がり軸受を、一列または三列以上に配置しても良い。また、この発明では、遊星ローラと、C形のスプリングピンからなる駆動ピンとの間に配置される少なくとも一つの軸受は、アンギュラ玉軸受でなくて、深溝玉軸受でも良く、アンギュラ玉軸受および深溝玉軸受以外の玉軸受であっても良い。また、この発明では、遊星ローラと、C形のスプリングピンからなる駆動ピンとの間に配置される少なくとも一つの軸受は、玉軸受でなくて、ころ軸受(円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、凸面(球面)ころ軸受、ニードルころ軸受等)であっても良く、玉軸受およびころ軸受以外の如何なる転がり軸受であっても良い。
【0060】
また、上記実施形態では、C形のスプリングピンからなる駆動ピン29,59を、遊星ローラ23,53の内周面に複列玉軸受25,55を介して間接的に取り付けたが、この発明では、遊星ローラの内周面にC形のスプリングピンからなる駆動ピンを直接取り付けても良い。適正な潤滑剤の使用により、摩擦力が存在したとしても、遊星ローラを、C形のスプリングピンからなる駆動ピンの外径面で、すべりで受けることも可能であるからである。
【0061】
また、上記実施形態では、遊星ローラ23,53と、C形のスプリングピンからなる駆動ピン29,59との間に、ブッシュが存在しなかった。しかしながら、この発明では、遊星ローラと、C形のスプリングピンからなる駆動ピンとの間に、環状のブッシュが存在しても良い。
【0062】
また、上記実施形態では、リングローラ21,51の円筒内周面の幅は、遊星ローラ23,53の軸長よりも短かったが、この発明では、リングローラの円筒内周面の幅は、遊星ローラの軸長と同一であっても良く、または、遊星ローラの軸長よりも長くても良い。
【0063】
また、上記実施形態では、ステッピングモータ40の回転動力が入力されたが、DCモータ、交流モータ、スイッチトリラクタンスモータ、または、超音波モータの回転動力が入力されても良く、または、それ以外の回転動力駆動装置で生成された回転動力が入力されても良い。また、上記実施形態では、出力軸4が、印刷機の製版用スキャナの軸に結合されたが、この発明では、出力軸は、如何なる機械の回転軸に結合されても良い。
【0064】
また、上記実施形態では、
図3に示すように、断面C形のスプリングピンからなる駆動ピン29,59のスリットが、直線状であった。しかしながら、この発明では、断面C形のスプリングピンからなる駆動ピンのスリットは、波形の形状等、直線状以外の形状であっても良い。
【0065】
また、上記実施形態では、二つのトラクションドライブ2,3を用いて、入力側の第1中間軸22の回転速度に対して、出力軸4の回転速度を二段階に減速したが、二つの本発明の遊星ローラ式トラクションドライブを用いて、入力軸の回転速度に対して、出力軸の回転速度を二段階に増速しても良い。また、三以上の本発明のトラクションドライブを用いて、入力軸の回転速度に対して、出力軸の回転速度を三段階以上に減速または増速しても良い。また、一つのみのトラクションドライブを用いて、入力軸の回転速度に対して、出力軸の回転速度を一段階に増速しても良く、以下のように、一つのみのトラクションドライブを用いて、出力軸の回転速度に対して、入力軸の回転速度を一段階に減速しても良い。
【0066】
図5は、本発明の一実施形態の一段減速遊星機構の軸方向の断面図である。
【0067】
この一段減速遊星機構は、
図1に示す二段階減速遊星機構との比較において、遊星ローラ式トラクションドライブ102のキャリア本体128を、第2遊星ローラ式トラクションドライブの第2中間軸(太陽ローラ)の外周面に固着するのではなく、出力軸104の外周面に固着している点が、
図1に示す二段減速遊星機構と異なる。
【0068】
この一段減速遊星機構では、入力軸141の回転動力を軸継手190を介して受けた太陽ローラとしての中間軸122が回動すると、中間軸122の回転動力は、玉196により出力軸104に伝達されない一方(この玉196による動力非伝達構造は、二段減速遊星機構で説明した構造と同一である)、中間軸122に外接する遊星ローラ123に伝達されるようになっている。すると、上記遊星ローラ123は、断面C形のスプリングピンからなる駆動ピン129の回りを減速自転する。すると、上記遊星ローラ123は、ハウジング101に対して静止しているリングローラ121の円筒外周面に外接しているので、その自転により駆動ピン129と共に中間軸122の回りを公転する。すると、上記駆動ピン129がキャリア本体128に固定され、キャリア本体128が出力軸104に固着されているので、駆動ピン129の公転の動力が、キャリア本体128を介して出力軸104に伝達され、遊星ローラ123の公転速度が、出力軸104の回転速度として出力される。このようにして、上記出力軸104が、中間軸122に対して一段階に減速回転するようになっている。
【0069】
尚、上述の実施形態および変形例では、断面C形で弾性を有する棒状弾性部材の全てが、断面C形のスプリングピンであった。しかしながら、この発明では、断面C形で弾性を有する棒状弾性部材の少なくとも一つは、スプリングピンに使用される材質以外の弾性を有する材質からなっていても良く、例えば、断面C形で弾性を有する棒状弾性部材の少なくとも一つは、ゴムや、エラストマー等からなっていても良い。本発明では、断面C形で弾性を有する棒状弾性部材の少なくとも一つは、公知の弾性を有する如何なる材質からなっていても良い。また、本発明の遊星ローラ式トラクションドライブを、印刷機の送り機構、ラベラー、自動化装置、昇降装置及びその他位置決めを必要とする装置、粉砕機械、破砕機、高速カッター、ジャッキ、攪拌機、カム駆動やクランク駆動の駆動装置等、如何なる機械に使用しても良いことは、言うまでもない。また、上記実施形態および変形例で説明した全ての構成のうちの二以上の構成を組み合わせて新たな実施形態を構築できることは、勿論である。