(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記回生制動力制御手段は、上記充電規制状態において、上記操作手段が所定の回生レベルから回生制動力増方向の回生レベルに設定された場合に上記第二回生制動手段を作動させ、上記操作手段が上記所定の回生レベルまたは上記所定の回生レベルよりも回生制動力減方向の回生レベルに設定された場合に、上記第二回生制動手段の作動を停止させる
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の回生制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して、実施形態としての回生制御装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0019】
[1.車両]
本実施形態の回生制御装置が適用された車両20のパワートレーンに関する構造を
図1に例示する。この車両20は、駆動源としての走行用モータジェネレータ1とエンジン3とを搭載したシリーズ・パラレル併用方式のハイブリッド車両である。エンジン3は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であり、燃料(ガソリン,軽油等)を含む混合気を燃焼室内で燃焼させることで回転軸を駆動する。また、走行用モータジェネレータ1は、電動機としての機能(車両駆動機能)と発電機としての機能(回生発電機能)とを兼ね備えた交流電動発電機である。これらの走行用モータジェネレータ1,エンジン3は、車輪8に対して並列に接続され、各々が単独で(あるいは同時に)駆動力を車輪8へと伝達可能とされる。
【0020】
これらの二つの駆動源1,3と車輪8との間には、トランスアクスル7(変速装置)が介装される。トランスアクスル7は、ディファレンシャルギア(差動装置)を含むファイナルドライブ(終減速機)とトランスミッション(変速機)とが一体化された動力伝達装置であり、駆動源と被駆動装置との間の動力伝達を担う複数の機構を内蔵する。トランスアクスル7の内部には、減速比を変更するための変速機構や、エンジン3と車輪8との動力伝達経路を接続または切断するためのクラッチ4が内蔵される。クラッチ4の断接状態を制御することで、エンジン3が動力伝達経路に接続され、あるいは、動力伝達経路から遮断される。
【0021】
トランスアクスル7におけるクラッチ4よりもエンジン3側には、発電用モータジェネレータ2が連結される。この発電用モータジェネレータ2は、エンジン3の駆動力を利用して発電する発電機としての機能と、エンジン3を回転,始動させる電動機としての機能とを兼ね備えた交流電動発電機である。本実施形態の発電用モータジェネレータ2は、走行用モータジェネレータ1での回生発電に際し、エンジン3をモータリング駆動して回生電力の余剰分を消費する制御を実施する。
【0022】
走行用モータジェネレータ1,発電用モータジェネレータ2のそれぞれは、走行用のバッテリ5に接続される。バッテリ5のケース内部には、バッテリ空調装置6が設けられる。バッテリ空調装置6はケース内部の温度を調節するための装置であり、ケース内部を循環する空気の通路となるダクト部材や送風装置(ファン),ヒータ,エバポレータ,熱交換機等がこれに含まれる。このバッテリ空調装置6は、車両20の車室用空調装置から独立して、バッテリ5の専用空調装置として設けられる。
【0023】
また、走行用モータジェネレータ1及び発電用モータジェネレータ2とバッテリ5とを接続する電力供給回路上には、図示しないインバータが介装される。インバータは、走行用モータジェネレータ1及び発電用モータジェネレータ2側の交流電力とバッテリ5側の直流電力とを相互に変換する変圧器(変圧回路)である。インバータの動作を制御することで、例えばバッテリ5の電力が走行用モータジェネレータ1,発電用モータジェネレータ2の各々に対して個別に供給される。同様に、走行用モータジェネレータ1,発電用モータジェネレータ2の各々で発生する発電電力もインバータを介してバッテリ5に充電される。
【0024】
走行用モータジェネレータ1,発電用モータジェネレータ2,エンジン3,バッテリ空調装置6の作動状態は、電子制御装置10によって統括的に制御される。電子制御装置10は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両20に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインに接続される。この電子制御装置10には、パドルシフトセンサ21,車速センサ22(車速検出手段),バッテリ電圧センサ23,バッテリ温度センサ24,エンジン回転数センサ25,エンジン冷却水温センサ26が接続される。
【0025】
パドルシフトセンサ21(操作手段)は、パドルシフト装置9の操作位置を検出するものである。パドルシフト装置9とは、乗員が車両20の回生制動力の大きさを増減させるための入力装置であり、ステアリングの近傍に設けられる。ここでは、車両20の回生制動力に対応する回生レベルが設定される。回生レベルは、複数の段階の中から選択的に設定される。設定可能な段階数は任意であり、例えば6段設定の場合には、それぞれの段階が回生制動力の小さい順にB0,B1,…,B5と呼ばれる。
【0026】
パドルシフトセンサ21は、パドルシフト装置9の操作状態に基づいて現在の段階(回生レベル)を検出し、その情報を電子制御装置10に伝達する。このようにパドルシフトセンサ21は、乗員の操作に応じて車両20の回生制動力に対応する回生レベルを設定する操作手段として機能する。なお、その他のセンサ22〜26の検出対象はそれぞれ、車速,バッテリ5の電圧,バッテリ5の温度,エンジン回転数(エンジン回転速度),エンジン冷却水温である。
【0027】
[2.制御内容]
以下、電子制御装置10での制御内容のうち、走行用モータジェネレータ1での回生発電によって生成された回生電力の用途を制御する回生制御について説明する。ここでいう回生制御とは、走行用モータジェネレータ1の回生電力を回収または消費することで走行用モータジェネレータ1に回生制動力を発生させる制御のことを意味する。本実施形態では、回生電力を回収,消費するための制御として、第一回生制御,第二回生制御,第三回生制御の三種類が実施される。
【0028】
第一回生制御とは、回生電力をバッテリ5に充電して回収する制御である。第一回生制御で発生させる回生制動力の目標値は、パドルシフト装置9の操作位置に応じた大きさに設定される。例えば、パドルシフト装置9で設定された回生レベルがB5であるときに、最も大きな目標回生制動力が設定され、回生レベルが低下するほど小さな目標回生制動力が設定される。
【0029】
第一回生制御によって実際に発生する回生制動力の大きさは、バッテリ5に充電される充電電力の大きさに応じたものとなる。したがって、インバータの動作(インバータを介してバッテリ5へと供給される電力)を制御することで、回生制動力を増減させることが可能である。ただし、バッテリ5への充電が規制される充電規制状態では、第一回生制御は禁止または制限される。例えば、バッテリ5の充電率が満充電に近い状態であるときや、バッテリ温度が所定の作動温度範囲外にあるときには、バッテリ5を保護すべく、バッテリ5への充電量がゼロまたは所定の電力以下となるように充電が規制される。
【0030】
第二回生制御とは、クラッチ4が切断されていることを前提として、発電用モータジェネレータ2をモータリング駆動してエンジン3に駆動力を与えることによって、回生電力を消費させる制御である。第二回生制御で発生する回生制動力の大きさは、発電用モータジェネレータ2の消費電力の大きさに応じたものとなる。したがって、インバータ(発電用モータジェネレータ2)の動作を制御することで、回生制動力を増減させることが可能である。一方、第二回生制御は車両20の惰性走行中に発電用モータジェネレータ2,エンジン3を作動させるものであり、その振動,騒音が乗員に不快感や違和感を抱かせるおそれがある。そこで、乗員の回生意思を考慮して第二回生制御の開始,終了を制御する。また、乗員の回生意思は、パドルシフト装置9の操作に基づいて判断する。
【0031】
第三回生制御とは、バッテリ空調装置6を強制的に作動させる(強制駆動する)ことによって、回生電力を消費させる制御である。第三回生制御で発生する回生制動力の大きさは、バッテリ空調装置6の消費電力の大きさに応じたものとなる。したがって、バッテリ空調装置6の動作(例えば、送風装置の回転数,ヒータの設定温度,エバポレータの設定温度等)を制御することで、回生制動力を増減させることが可能である。一方、バッテリ空調装置6の動作を変化させると、バッテリ5の温度が変化してしまうおそれがある。そこで、第二回生制御と同様に乗員の回生意思を考慮して、あるいは第二回生制御との組み合わせを考慮して、第三回生制御の開始,終了を制御する。
【0032】
また、本実施形態では、第二回生制御に付随する副次的な制御として、エンジン3に燃料を供給してその燃料を燃焼させることで、エンジン3に回転駆動力を発生させる燃焼運転制御が実施される。つまり、発電用モータジェネレータ2でのモータリングとエンジン3のファイアリングとが並行して実施される。このとき、エンジン3から外部に与えられる仕事量が少なくとも負となるように、ファイアリングが実施される。したがってエンジン3は、ファイアリングが実施されているとはいえ、発電用モータジェネレータ2に対する負荷として作用する。
【0033】
本実施形態の燃焼運転制御では、エンジン3の目標トルクがアイドリングトルクよりも小さいトルク(負トルク)に設定され、より具体的には「可燃限界トルク」以上の大きさに設定される。可燃限界トルクとは、可燃限界(燃料と空気との混合気が燃焼しうる最小の濃度限界)での燃焼で発生するトルクである。例えば、エンジン3の目標トルクが可燃限界トルクに設定されているとき、エンジン3には自立回転を辛うじて維持する量の燃料及び空気が導入される。したがって、その燃料量または空気量の何れかを減少させた場合、あるいは負荷を増大させた場合には、エンジン3が自立回転を維持できなくなり、エンジン3が停止(エンスト)する。
【0034】
このように、可燃限界トルクは、エンジン3の無負荷状態における自立回転を維持するための最小トルクであり、エンジン3の機械的な摩擦損失,吸排気損失,冷却損失等の負荷損失(内部負荷)に相当する無負荷トルクを含む。一方、可燃限界トルクは、空調負荷,変速機負荷,補機負荷等、エンジン3の外部装置の負荷(外部負荷)に相当する外部負荷トルクを含まない。なお、エンジン3のアイドリング回転を維持するためのアイドリングトルクは、無負荷トルク及び外部負荷トルクの双方を含む。
【0035】
[3.電子制御装置]
電子制御装置10には、上記の各種制御を実施するための機能要素として、バッテリ状態判定部11,第一回生制動部12,第二回生制動部13,第三回生制動部14,燃焼運転制御部15,回生制動力制御部16が設けられる。これらの各要素は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、電子制御装置10内のRAM,ROM,補助記憶装置等に記録,保存されるソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0036】
バッテリ状態判定部11(バッテリ状態判定手段)は、バッテリ5への充電が規制される充電規制状態であるか否かを判定するものである。ここでは、例えば以下の規制条件1〜3の何れかが満たされる場合に「充電規制状態である」と判定される。ここでの判定結果は、回生制動力制御部16に伝達される。
規制条件1:バッテリ5の充電率が満充電に近い所定上限値以上である
規制条件2:バッテリ5の温度が所定温度以下(極低温)である
規制条件3:バッテリ5の温度が第二所定温度以上(高温)である
【0037】
第一回生制動部12(第一回生制動手段)は、第一回生制御を実施して、走行用モータジェネレータ1で発生した回生電力をバッテリ5に充電するものである。第一回生制動部12では、例えばインバータ,バッテリ5が制御対象とされる。
第二回生制動部13(第二回生制動手段)は、第二回生制御を実施して、発電用モータジェネレータ2をモータリング駆動してエンジン3に駆動力を伝達させるものである。第二回生制動部13では、例えばインバータ,発電用モータジェネレータ2が制御対象とされる。
【0038】
第三回生制動部14(第三回生制動手段)は、第三回生制御を実施して、バッテリ空調装置6を強制駆動するものである。また、燃焼運転制御部15は、燃焼運転制御を実施し、エンジン3に燃料を供給するとともにその燃料を燃焼させて、エンジン3に回転駆動力を発生させるものである。燃焼運転制御部15の制御対象はエンジン3(例えば燃料噴射弁,スロットル弁,排気還流弁等)である。
【0039】
回生制動力制御部16(回生制動力制御手段)は、バッテリ状態判定部11での判定結果に応じて各制動部12〜14及び燃焼運転制御部15の作動状態を管理し、車両20の回生制御を総合的に制御するものである。第一回生制御,第二回生制御,第三回生制御のそれぞれの開始条件及び終了条件は、ここで判定される。また、回生制動力の大きさもここで制御される。回生制御は、少なくとも走行用モータジェネレータ1が回生発電中であるときに実施される。回生発電中であるか否かは、走行用モータジェネレータ1が力行動作しているか(外部に対して仕事をしているか)否かで判定することができ、例えば走行用モータジェネレータ1の出力や車速等に基づいて判定される。
【0040】
第一回生制御は、充電規制状態以外の状態で完全に実施される。すなわち、充電規制状態では、第一回生制動部12の作動が禁止または制限される。ここでいう「制限」とは「充電量または回生制動力を制限すること」を意味する。例えば、充電規制状態以外の状態における回生制動力よりも小さな回生制動力が得られるように、バッテリ5の充電量を制限することを含む。
【0041】
一方、第二回生制御は、充電規制状態において、パドルシフト装置9の操作状態に基づいて以下の(A)〜(C)の何れかの指針に基づいて制御される。
(A)回生制動力が増大する方向に操作された場合に開始し、
回生制動力が減少する方向に操作された場合に終了する
(B)所定の回生レベルから、回生制動力が増大する方向に操作された場合に開始し、
所定の回生レベルへと、回生制動力が減少する方向に操作された場合に終了する
(C)所定の回生レベルから、回生制動力が増大する方向に操作された場合に開始し、
所定の回生レベルよりも回生制動力が減少する方向に操作された場合に終了する
【0042】
指針(A)は、回生発電中に回生レベルの変化方向が増大方向であるときに第二回生制御を開始し、減少方向であるときに第二回生制御を終了するものである。第二回生制御は、
図2(A)中に白矢印で示す操作がなされたときに開始され、黒矢印で示す操作がなされたときに終了する。指針(A)では、第二回生制御の実施,不実施が回生レベルの状態(回生レベルの位置)に必ずしも対応せず、回生レベルの変更操作(回生レベルを変更する動作)に応じて切り換えられる。
【0043】
指針(B)は、所定の回生レベルを基準としたものである。例えば、ここでいう「所定の回生レベル」をB2とすれば、
図2(B)中に白矢印で示すB2からB3への操作がなされたときに、第二回生制御が開始される。また、黒矢印で示すB3からB2への操作がなされたときに第二回生制御が終了する。指針(B)では、
図2(B)に示すように、第二回生制御の実施,不実施が回生レベルの状態(回生レベルの位置)に対応する。すなわち、「所定の回生レベル」を基準として、回生レベルが高ければ第二回生制御が実施され、回生レベルが低ければ第二回生制御が不実施となる。
【0044】
指針(C)も、所定の回生レベルを基準としつつ回生レベルの操作履歴(ヒステリシス特性)を考慮して第二回生制御の開始,終了を制御するものである。ここでいう「所定の回生レベル」をB2とすれば、
図2(C)中に白矢印で示すB2からB3への操作がなされたときに、第二回生制御が開始される。また、黒矢印で示すB2からB1への操作がなされたときに、第二回生制御が終了する。つまり、B1からB2への操作がなされた場合には第二回生制御が開始されず、B3からB2への操作がなされた場合には第二回生制御が終了しない。このように指針(C)では、第二回生制御の実施,不実施を切り分ける基準が単一の「所定の回生レベル」であるというわけではなく、操作方向によって異なる基準が与えられているといえる。
【0045】
なお、第二回生制御では、発電用モータジェネレータ2及びエンジン3が作動し、振動や騒音が生じうる。そこで、上記の指針(A)〜(C)だけでなく、車速条件が成立する場合に限って第二回生制御を実施することとしてもよい。すなわち、第二回生制御の実施条件として車速が所定車速以上であることを判定し、この条件が成立する場合に、第二回生制動部13を作動させることとしてもよい。
【0046】
第三回生制御は、充電規制状態で実施される。すなわち、第一回生制御が禁止または制限された状態において、第三回生制御が実施される。これにより、第一回生制御で回収されるべき電力が第三回生制御で消費されることになり、回生制動力が確保される。
また本実施形態では、回生制御中にパドルシフト装置9が操作され、その操作位置が所定の回生レベルよりも回生制動力の減少方向側にある場合には、第三回生制御を終了させることとする。また、パドルシフト装置9の操作位置が所定の回生レベルよりも回生制動力の増大方向側にある場合には、第三回生制御を開始することとする。
【0047】
第二回生制御が指針(A)に沿って実施される場合、ここでいう「所定の回生レベル」をB2とすれば、
図2(D)中に黒矢印で示す操作のうち、B3からB2への操作がなされたときには、第二回生制御が終了し、第三回生制御のみが継続される。一方、B2からB1への操作がなされたときには、第二回生制御及び第三回生制御がともに終了する。
また、B0からB1への操作がなされたときには、第三回生制御は停止したままであり、第二回生制御のみが開始される。その後、B1からB2への操作がなされると、第二回生制御,第三回生制御の双方が実施される。
【0048】
したがって、
図2(D)中のエリアIは第三回生制御のみが実施される操作に対応する領域となり、エリアIIは第二回生制御のみが実施される操作に対応する領域となる。また、エリアIIIは第二回生制御及び第三回生制御の双方が実施される操作に対応する領域となり、エリアIVは第二回生制御,第三回生制御の何れも実施されず、回生制動力が付与されない(ブレーキ制動力のみが付与される)操作に対応する領域となる。つまり回生制御の組み合わせは四通りとなり、各々の回生制御で付与される回生制動力が一定であったとしても、合計の回生制動力は四段階に変更可能となる。このように、充電規制状態では、充電規制状態以外の状態における回生レベルの段階数(六段階)よりも少ない多段階(ここでは四段階)で回生制動力が制御される。
【0049】
第二回生制御が指針(B)に沿って実施される場合、ここでいう「所定の回生レベル」をB2とすれば、
図2(E)中に黒矢印で示すB3からB2への操作がなされたときに、第二回生制御が終了し、第三回生制御のみが継続される。また、B2からB1への操作がなされると、第二回生制御及び第三回生制御がともに不実施となる。また、
図2(E)中に白矢印で示すB2からB3への操作がなされたときには、第二回生制御及び第三回生制御がともに開始される。回生制御の組み合わせは三通りとなり、各々の回生制御で付与される回生制動力が一定であったとしても、合計の回生制動力は三段階に変更可能となる。充電規制状態では、充電規制状態以外の状態における回生レベルの段階数(六段階)よりも少ない多段階(ここでは三段階)で回生制動力が制御される。なお、第三回生制御における「所定の回生レベル」は、第二回生制御における「所定の回生レベル」と同一の回生レベルでなくてもよい。
【0050】
[4.フローチャート]
図3は、回生制御の手順を示すフローチャートである。このフローは、予め設定された演算周期で繰り返し実施される。ステップA1では、回生制動力制御部16において、走行用モータジェネレータ1が回生発電中であるか否かが判定される。回生発電中であると判定された場合にはステップA2へ進み、そうでない場合にはこの演算周期での制御を終了する。
【0051】
ステップA2では、バッテリ状態判定部11において、バッテリ5への充電が規制される充電規制状態であるか否かが判定される。例えば、規制条件1〜3の何れかが満たされている場合にはこの条件が成立し、ステップA3に進む。ステップA3では、回生電力をバッテリ5に充電できないため、回生制動力制御部16が第一回生制動部12を制御して、第一回生制御を禁止または制限する。一方、ステップA2で規制条件1〜3の何れも満たされない場合にはこの条件が不成立となり、ステップA4に進む。ステップA4では、回生制動力制御部16が第一回生制動部12を制御して、第一回生制御を実施させる。
【0052】
続くステップA5では、パドルシフト装置9の操作状態に基づき、現在の回生レベルの情報が取得される。例えば、現在の回生レベルが六段階のレベルのうち、どの段階に属しているのかが把握される。また、ステップA6では、前回の演算周期で得られた回生レベルの情報と、今回の演算周期で得られた回生レベルの情報とが比較されて、回生レベルの変化情報が取得される。ここでは、回生レベルの設定が変更されたか否か(パドルシフト装置9が操作されたか否か)が把握されるとともに、パドルシフト装置9の操作方向が回生制動力の増加方向であるのか、減少方向であるのかが把握される。
【0053】
ステップA7では、回生制動力制御部16において、第二回生制御の実施条件(すなわち、開始条件,終了条件)が成立するか否かが判定される。例えば、指針(A)に基づく制御を実施する場合には、パドルシフト装置9の操作方向が回生制動力の増加方向であるか、減少方向であるかが判定される。また、指針(B)の場合には、開始条件,終了条件のそれぞれが判定されて、第二回生制御の実施条件が判断される。
ステップA7の実施条件が成立するときにはステップA8へ進み、回生制動力制御部16が第二回生制動部13を制御して、第二回生制御を開始させる。また、この実施条件が不成立のときにはステップA9へ進み、回生制動力制御部16が第二回生制動部13を制御して、第二回生制御を停止させる。
【0054】
ステップA10では、回生制動力制御部16において、第三回生制御の実施条件(すなわち、開始条件,終了条件)が成立するか否かが判定される。ここでは、パドルシフト装置9の操作位置が所定の回生レベルよりも回生制動力の増加方向側にあるのか、それとも減少方向側にあるのかが判断される。
ステップA10の実施条件が成立するときにはステップA11へ進み、回生制動力制御部16が第三回生制動部14を制御して、第三回生制御を開始させる。また、この実施条件が不成立のときにはステップA12へ進み、回生制動力制御部16が第三回生制動部14を制御して、第三回生制御を停止させる。
【0055】
[5.作用,効果]
(1)上記の回生制御装置では、バッテリ5の充電率が満充電に近いときやバッテリ温度が極低温であるときに「充電規制状態である」と判定され、第一回生制御が禁止,制限される。一方、この充電規制状態では、第三回生制御が実施される。これにより、第一回生制御で回収されるべき電力をバッテリ空調装置6で消費することができ、充電規制状態での回生制動力を確保することができる。また、バッテリ空調装置6は車両20の車室用空調装置から独立して設けられているため、車室内温度への影響や騒音が問題になりにくく、乗員への不快感や違和感を払拭することができる。
【0056】
また、この充電規制状態では、乗員の回生意思に応じて第二回生制御が実施され、発電用モータジェネレータ2がモータリング駆動される。このとき、エンジン3も回転駆動されて騒音が発生することになる。しかし、この第二回生制御は、乗員が積極的にパドルシフト装置9を操作して回生制動力の増加を望んだ場合に実施される制御となっているため、乗員が不快感,違和感を抱くこともない。また、乗員が回生制動力よりも静粛性を望む場合、パドルシフト装置9を操作しなければ、第二回生制御が不実施となる。
このように、上記の回生制御装置によれば、充電規制状態であっても乗員の好みに応じた回生制動力の設定を行うことができ、利便性を向上させることができるとともに、ドライブフィーリングを改善することができる。
【0057】
(2)エンジン3の燃費のみを考慮した場合、エンジン3のファイアリングを実施せずに発電用モータジェネレータ2によるモータリングのみを実施することも考えられる。しかしこの場合、燃焼状態にないエンジン3の筒内オイルが揮発して吸排気系に漏出しやすく、吸排気系センサの汚損を招くおそれが生じる。これに対して、上記の回生制御装置ではエンジン3のファイアリングが実施されるため、エンジン3の筒内オイルによる吸排気系センサの汚損を抑制することができ、センサ精度の低下を防止することができる。
【0058】
(3)上記の回生制御装置では、発電用モータジェネレータ2によるモータリングと並行して、エンジン3のファイアリングが実施される。このファイアリングにおけるエンジン3の目標トルクは、アイドリングトルクよりも小さい負トルクとされる。これにより、アイドリング状態よりも燃料消費量を減少させることができ、エンジン3の燃費を改善しつつ、吸排気系センサの汚損を抑制することができる。
【0059】
(4)なお、エンジン3の目標トルクを可燃限界トルク以上の大きさに設定すれば、最低限の燃料噴射量が確保され、少なくともエンジン3単体での自立回転を維持することが可能となる。したがって、エンジン3及び発電用モータジェネレータ2の全体での回転安定性を確保しつつ、吸排気系センサの汚損を確実に抑制することができる。
【0060】
(5)上記の指針(A)に基づく第二回生制御では、パドルシフト装置9の操作方向が制御の開始条件,終了条件となっているため、パドルシフト装置9が操作される度に制御の実施,不実施が切り換えられる可能性がある。これに対して、上記の指針(B)に基づく第二回生制御では、所定の回生レベルを基準としてパドルシフト装置9の操作位置が判断され、この操作位置に基づいて制御の開始条件,終了条件が判定される。したがって、制御が頻繁に開始,停止することを抑制することができ、騒音や回生制動力の変動を抑制することができる。
【0061】
(6)上記の回生制御装置では、第一回生制御が禁止,制限されているときに、第二回生制御及び第三回生制御の組み合わせを変更することで、複数段階の回生制動力が得られるように、回生制御が実施される。例えば、
図2(D)に示す例では、制御の組み合わせの数がエリアIからエリアIVまでの四通りとされ、合計の回生制動力は四段階に変更可能とされる。また、
図2(E)に示す例では、三段階に変更可能とされる。このように、制御対象の異なる回生制御を組み合わせることで、回生制動力の大きさを多段階に設定することができ、利便性を向上させることができる。
【0062】
(7)上記の回生制御装置では、第一回生制御での目標回生制動力が、パドルシフト装置9の操作位置に応じた大きさに設定される。一方、第一回生制御が禁止,制限された状態では、第一回生制御の代わりに第二回生制御,第三回生制御が実施される。これらの制御では、例えば
図2(D),(E)に示すように、回生レベルの段階数とは異なる複数段階の回生制動力が得られるように、回生制御が実施される。
つまり、充電規制状態での回生制動力は、充電規制状態以外の状態よりも少ない段数の多段切り換えとなる。このように、多段切り換えの段数を相違させることで、バッテリ5が充電規制状態であることを乗員に体感させることができ、通常時のようには回生制動が効かない状態であることを的確に認識させることができる。
【0063】
(8)上記の回生制御装置では、充電規制状態の判定条件として、バッテリ5の充電率が所定上限値以上であるか否かが判定される。これにより、バッテリ5への過充電を確実に防止しながら、乗員の回生意思に応じた大きさの回生制動力を確保することができ、ドライブフィーリングを改善することができる。
【0064】
(9)なお、第二回生制御の実施条件は、上記の指針(A)〜(C)の何れかに加えて、車速条件が成立することとしてもよい。この場合、例えば車速が所定車速以上である場合に限り、第二回生制御が実施されることとなる。車速がある程度高い高速走行時には、エンジン3の振動,騒音が乗員に煩わしさを感じさせにくく、違和感を与えることがない。また、車速が低い低速走行時には第二回生制御が不実施となるため、ドライブフィーリングを改善することができる。
【0065】
[6.変形例]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
【0066】
上述の実施形態では、ステアリングの近傍に設けられるパドルシフト装置9の操作状態に基づいて回生レベルが設定されているが、回生レベルを設定する操作手段はこれに限定されない。例えば、変速機のシフトレバーやセレクトレバーの操作位置に応じて、その操作位置に対応する回生レベルが設定されるような制御構成としてもよい。また、回生レベルを段階的に設定する代わりに、無段階設定とすることも可能である。例えば、ボリューム型スイッチの回転角に対応するように回生レベル(回生制動力)を設定することとしてもよい。
【0067】
また、上述の実施形態では、エンジン3のファイアリングとモータリングとが並行して実施されているが、エンジン3のファイアリングを停止して(燃料カットして)モータリングのみを実施してもよい。この場合、エンジン3の目標トルク(可燃限界トルク)が0であるものとみなせば、上述の実施形態と同様の制御で同様の効果を奏するものとなる。