特許第6398587号(P6398587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6398587高炉原料装入制御装置、高炉原料装入制御方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398587
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】高炉原料装入制御装置、高炉原料装入制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   C21B 7/20 20060101AFI20180920BHJP
【FI】
   C21B7/20 306
   C21B7/20 301
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-211896(P2014-211896)
(22)【出願日】2014年10月16日
(65)【公開番号】特開2016-79455(P2016-79455A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】羽田野 裕朗
(72)【発明者】
【氏名】坂本 愛一郎
(72)【発明者】
【氏名】高坂 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】玉木 康介
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−345220(JP,A)
【文献】 特開平11−158518(JP,A)
【文献】 特開2013−053352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 7/00−7/24
C21B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルレス式高炉の炉頂側に配置されたホッパーに装入された原料を、当該ホッパーの下方に配置されたゲートと、高炉本体内の炉頂側に配置された旋回シュートとを介して高炉本体内の炉底側の領域に装入するための制御を行う高炉原料装入制御装置であって、
傾動方向の初期位置にある前記旋回シュートの傾動の開始を指示する傾動開始指示手段と、
回方向の初期位置にある前記旋回シュートの旋回の開始を指示する旋回開始指示手段と、
傾動方向の初期位置にある前記旋回シュートの傾動角が指定値になるのに要する時間に基づいて定められる傾動動作時間が、前記旋回シュートの旋回速度が0(ゼロ)から指定値になるのに要する時間に基づいて定められる旋回加速時間以上であるか否か、または、前記旋回加速時間を上回るか否かを判定する時間大小判定手段と、
前記傾動開始指示手段による指示により傾動が開始された前記旋回シュートの傾動角が現在値から前記指定値になるのに要する時間に基づいて定められる傾動残り時間が、前記旋回加速時間になったか否か、または、前記旋回加速時間を下回ったか否かを判定する傾動残り時間判定手段と、を有し、
前記旋回開始指示手段は、前記時間大小判定手段により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間以上であると判定された場合、または、前記時間大小判定手段により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間を上回ると判定された場合であって、前記傾動残り時間判定手段により、記傾動残り時間が、前記旋回加速時間になったと判定された場合、または、前記傾動残り時間判定手段により、前記傾動残り時間が、前記旋回加速時間を下回ったと判定された場合に、前記旋回シュートの旋回速度が前記指定値になってから、前記旋回シュートが予め設定された落下開始位置を最初に通過するタイミング、または、当該タイミングよりも前のタイミングに、前記旋回シュートの傾動角が前記指定値になるように、前記旋回シュートの旋回の開始を指示し、
前記旋回開始指示手段は、前記傾動残り時間判定手段により、前記傾動残り時間が、前記旋回加速時間になっていないと判定された場合、または、前記傾動残り時間判定手段により、前記傾動残り時間が、前記旋回加速時間を下回っていないと判定された場合には、前記旋回シュートの旋回の開始を指示せず、
前記時間大小判定手段により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間以上であると判定されなかった場合、または、前記時間大小判定手段により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間を上回ると判定されなかった場合、前記旋回開始指示手段、前記傾動開始指示手段は、それぞれ、前記旋回シュートの旋回速度が前記指定値になってから、前記旋回シュートが予め設定された落下開始位置を最初に通過するタイミングよりも前のタイミングに、前記旋回シュートの傾動角が前記指定値になり、且つ、前記旋回シュートの旋回速度が前記指定値になる前に前記旋回シュートの傾動角が前記指定値になるように、前記旋回シュートの旋回の開始、傾動の開始を指示することを特徴とする高炉原料装入制御装置。
【請求項2】
前記旋回シュートの傾動角の指定値を取得し、当該指定値に応じた前記傾動動作時間を導出する傾動動作時間導出手段を更に有することを特徴とする請求項に記載の高炉原料装入制御装置。
【請求項3】
前記時間大小判定手段により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間以上であると判定されなかった場合、または、前記時間大小判定手段により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間を上回ると判定されなかった場合、前記旋回開始指示手段、前記傾動開始指示手段は、傾動方向の初期位置にある前記旋回シュートの傾動の開始と、旋回方向の初期位置にある前記旋回シュートの旋回の開始と、を同時に指示することを特徴とする請求項またはに記載の高炉原料装入制御装置。
【請求項4】
前記旋回シュートの旋回速度が前記指定値になってから前記旋回シュートが予め設定された落下開始位置に最初に到達するタイミングよりも、予め設定された落下開始遅れ時間だけ前のタイミングになると、前記旋回シュートへの原料の装入の開始を指示する原料装入指示手段を更に有することを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の高炉原料装入制御装置。
【請求項5】
ベルレス式高炉の炉頂側に配置されたホッパーに装入された原料を、当該ホッパーの下方に配置されたゲートと、高炉本体内の炉頂側に配置された旋回シュートとを介して高炉本体内の炉底側の領域に装入するための制御を行う高炉原料装入制御方法であって、
傾動方向の初期位置にある前記旋回シュートの傾動の開始を指示することを傾動開始指示手段により行う傾動開始指示工程と、
回方向の初期位置にある前記旋回シュートの旋回の開始を指示することを旋回開始指示手段により行う旋回開始指示工程と、
傾動方向の初期位置にある前記旋回シュートの傾動角が指定値になるのに要する時間に基づいて定められる傾動動作時間が、前記旋回シュートの旋回速度が0(ゼロ)から指定値になるのに要する時間に基づいて定められる旋回加速時間以上であるか否か、または、前記旋回加速時間を上回るか否かを判定することを時間大小判定手段により行う時間大小判定工程と、
前記傾動開始指示工程による指示により傾動が開始された前記旋回シュートの傾動角が現在値から前記指定値になるのに要する時間に基づいて定められる傾動残り時間が、前記旋回加速時間になったか否か、または、前記旋回加速時間を下回ったか否かを判定することを傾動残り時間判定手段により行う傾動残り時間判定工程と、を有し、
前記旋回開始指示工程は、前記時間大小判定工程により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間以上であると判定された場合、または、前記時間大小判定工程により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間を上回ると判定された場合であって、前記傾動残り時間判定工程により、記傾動残り時間が、前記旋回加速時間になったと判定された場合、または、前記傾動残り時間判定工程により、前記傾動残り時間が、前記旋回加速時間を下回ったと判定された場合に、前記旋回シュートの旋回速度が前記指定値になってから、前記旋回シュートが予め設定された落下開始位置を最初に通過するタイミング、または、当該タイミングよりも前のタイミングに、前記旋回シュートの傾動角が前記指定値になるように、前記旋回シュートの旋回の開始を指示し、
前記旋回開始指示工程は、前記傾動残り時間判定工程により、前記傾動残り時間が、前記旋回加速時間になっていないと判定された場合、または、前記傾動残り時間判定工程により、前記傾動残り時間が、前記旋回加速時間を下回っていないと判定された場合には、前記旋回シュートの旋回の開始を指示せず、
前記時間大小判定工程により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間以上であると判定されなかった場合、または、前記時間大小判定工程により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間を上回ると判定されなかった場合、前記旋回開始指示工程、前記傾動開始指示工程は、それぞれ、前記旋回シュートの旋回速度が前記指定値になってから、前記旋回シュートが予め設定された落下開始位置を最初に通過するタイミングよりも前のタイミングに、前記旋回シュートの傾動角が前記指定値になり、且つ、前記旋回シュートの旋回速度が前記指定値になる前に前記旋回シュートの傾動角が前記指定値になるように、前記旋回シュートの旋回の開始、傾動の開始を指示することを特徴とする高炉原料装入制御方法。
【請求項6】
請求項1〜の何れか1項に記載の高炉原料装入制御装置の各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉原料装入制御装置、高炉原料装入制御方法、およびプログラムに関し、特に、ベルレス式高炉の高炉本体内に原料(コークスや鉱石等)を装入するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業における製銑工程において、コークスや鉱石等の原料は、ベルトコンベアでベルレス式高炉の炉頂部に運ばれ、炉頂ホッパーに装入される。ベルレス式高炉では、炉頂ホッパーに装入された原料は、下部流調ゲートを介して、高炉本体内にある旋回シュートに装入され、旋回シュートから高炉本体内の炉底側に堆積される。
【0003】
旋回シュートは、その先端が予め設定された初期位置(炉内上部)で待機する。そして、原料を装入する際に、旋回シュートを初期位置から移動させる。このとき、旋回シュートを、鉛直方向(または水平方向)に対して指定角度だけ傾動させる。また、旋回シュートを、旋回速度が指定値になるまで加速する。このようにした後、旋回シュートの旋回位置が所望の落下開始位置になるタイミングで旋回シュートから原料が装入されるように、下部流調ゲートが開放される。このようにして原料を装入した後、旋回シュートを初期位置に戻し、次の原料の装入に備える。ここで、初期位置は、傾動角の初期値(傾動方向の初期位置)と旋回角の初期値(旋回方向の初期位置)とにより定められる。一般に、傾動角の初期値は待機位置、旋回角の初期値はガレージ位置とそれぞれ呼ばれている。
【0004】
旋回シュートを初期位置から動作させる技術として特許文献1に記載の技術がある。特許文献1には、サウンジング装置により、高炉本体の内部の原料の表面の高さ位置の測定が終了し、サウンジング装置の重錘の巻き上げが完了した後、旋回シュートの旋回と傾動とを同時に開始することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−162131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、旋回シュートの旋回と傾動とを同時に開始する。したがって、例えば、旋回シュートの傾動角が指定値になるまでの時間の方が、旋回シュートの旋回速度が指定値になるまでの時間よりも長い場合には、以下のような課題が生じる。
【0007】
すなわち、旋回シュートの旋回速度が指定値になり、且つ、旋回シュートの周方向における位置が落下開始位置に対応する位置になっても、旋回シュートの傾動角が指定値にならない場合がある。この場合、旋回シュートの傾動角が指定値になるまで旋回シュートを余分に回転させる必要がある。したがって、原料の装入が待たされることになる。
【0008】
そこで、本発明は、ベルレス式高炉の炉底側への原料の装入を早期に開始できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の高炉原料装入制御装置は、ベルレス式高炉の炉頂側に配置されたホッパーに装入された原料を、当該ホッパーの下方に配置されたゲートと、高炉本体内の炉頂側に配置された旋回シュートとを介して高炉本体内の炉底側の領域に装入するための制御を行う高炉原料装入制御装置であって、傾動方向の初期位置にある前記旋回シュートの傾動の開始を指示する傾動開始指示手段と、回方向の初期位置にある前記旋回シュートの旋回の開始を指示する旋回開始指示手段と、傾動方向の初期位置にある前記旋回シュートの傾動角が指定値になるのに要する時間に基づいて定められる傾動動作時間が、前記旋回シュートの旋回速度が0(ゼロ)から指定値になるのに要する時間に基づいて定められる旋回加速時間以上であるか否か、または、前記旋回加速時間を上回るか否かを判定する時間大小判定手段と、前記傾動開始指示手段による指示により傾動が開始された前記旋回シュートの傾動角が現在値から前記指定値になるのに要する時間に基づいて定められる傾動残り時間が、前記旋回加速時間になったか否か、または、前記旋回加速時間を下回ったか否かを判定する傾動残り時間判定手段と、を有し、前記旋回開始指示手段は、前記時間大小判定手段により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間以上であると判定された場合、または、前記時間大小判定手段により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間を上回ると判定された場合であって、前記傾動残り時間判定手段により、記傾動残り時間が、前記旋回加速時間になったと判定された場合、または、前記傾動残り時間判定手段により、前記傾動残り時間が、前記旋回加速時間を下回ったと判定された場合に、前記旋回シュートの旋回速度が前記指定値になってから、前記旋回シュートが予め設定された落下開始位置を最初に通過するタイミング、または、当該タイミングよりも前のタイミングに、前記旋回シュートの傾動角が前記指定値になるように、前記旋回シュートの旋回の開始を指示し、前記旋回開始指示手段は、前記傾動残り時間判定手段により、前記傾動残り時間が、前記旋回加速時間になっていないと判定された場合、または、前記傾動残り時間判定手段により、前記傾動残り時間が、前記旋回加速時間を下回っていないと判定された場合には、前記旋回シュートの旋回の開始を指示せず、前記時間大小判定手段により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間以上であると判定されなかった場合、または、前記時間大小判定手段により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間を上回ると判定されなかった場合、前記旋回開始指示手段、前記傾動開始指示手段は、それぞれ、前記旋回シュートの旋回速度が前記指定値になってから、前記旋回シュートが予め設定された落下開始位置を最初に通過するタイミングよりも前のタイミングに、前記旋回シュートの傾動角が前記指定値になり、且つ、前記旋回シュートの旋回速度が前記指定値になる前に前記旋回シュートの傾動角が前記指定値になるように、前記旋回シュートの旋回の開始、傾動の開始を指示することを特徴とする。
【0010】
本発明の高炉原料装入制御方法は、ベルレス式高炉の炉頂側に配置されたホッパーに装入された原料を、当該ホッパーの下方に配置されたゲートと、高炉本体内の炉頂側に配置された旋回シュートとを介して高炉本体内の炉底側の領域に装入するための制御を行う高炉原料装入制御方法であって、傾動方向の初期位置にある前記旋回シュートの傾動の開始を指示することを傾動開始指示手段により行う傾動開始指示工程と、回方向の初期位置にある前記旋回シュートの旋回の開始を指示することを旋回開始指示手段により行う旋回開始指示工程と、傾動方向の初期位置にある前記旋回シュートの傾動角が指定値になるのに要する時間に基づいて定められる傾動動作時間が、前記旋回シュートの旋回速度が0(ゼロ)から指定値になるのに要する時間に基づいて定められる旋回加速時間以上であるか否か、または、前記旋回加速時間を上回るか否かを判定することを時間大小判定手段により行う時間大小判定工程と、前記傾動開始指示工程による指示により傾動が開始された前記旋回シュートの傾動角が現在値から前記指定値になるのに要する時間に基づいて定められる傾動残り時間が、前記旋回加速時間になったか否か、または、前記旋回加速時間を下回ったか否かを判定することを傾動残り時間判定手段により行う傾動残り時間判定工程と、を有し、前記旋回開始指示工程は、前記時間大小判定工程により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間以上であると判定された場合、または、前記時間大小判定工程により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間を上回ると判定された場合であって、前記傾動残り時間判定工程により、記傾動残り時間が、前記旋回加速時間になったと判定された場合、または、前記傾動残り時間判定工程により、前記傾動残り時間が、前記旋回加速時間を下回ったと判定された場合に、前記旋回シュートの旋回速度が前記指定値になってから、前記旋回シュートが予め設定された落下開始位置を最初に通過するタイミング、または、当該タイミングよりも前のタイミングに、前記旋回シュートの傾動角が前記指定値になるように、前記旋回シュートの旋回の開始を指示し、前記旋回開始指示工程は、前記傾動残り時間判定工程により、前記傾動残り時間が、前記旋回加速時間になっていないと判定された場合、または、前記傾動残り時間判定工程により、前記傾動残り時間が、前記旋回加速時間を下回っていないと判定された場合には、前記旋回シュートの旋回の開始を指示せず、前記時間大小判定工程により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間以上であると判定されなかった場合、または、前記時間大小判定工程により、前記傾動動作時間が、前記旋回加速時間を上回ると判定されなかった場合、前記旋回開始指示工程、前記傾動開始指示工程は、それぞれ、前記旋回シュートの旋回速度が前記指定値になってから、前記旋回シュートが予め設定された落下開始位置を最初に通過するタイミングよりも前のタイミングに、前記旋回シュートの傾動角が前記指定値になり、且つ、前記旋回シュートの旋回速度が前記指定値になる前に前記旋回シュートの傾動角が前記指定値になるように、前記旋回シュートの旋回の開始、傾動の開始を指示することを特徴とする。
【0011】
本発明のプログラムは、前記高炉原料装入制御装置の各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、傾動方向の初期位置にある旋回シュートの傾動の開始を指示した後に、旋回方向の初期位置にある旋回シュートの旋回の開始を指示する。その際、旋回シュートの傾動角が現在値から指定値になるのに要する時間に基づいて定められる傾動残り時間が、旋回シュートの旋回速度が0(ゼロ)から指定値になるのに要する時間に基づいて定められる旋回加速時間になった場合、または、傾動残り時間が、旋回加速時間を下回った場合に、旋回シュートの旋回の開始を指示する。したがって、旋回シュートが余分な旋回を行うことを抑制することができる。よって、ベルレス式高炉の炉底側への原料の装入を早期に開始することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ベルレス式高炉の概略構成の一例を模式的に示す図(ベルレス式高炉をその側方から透視して見た場合の図)である。
図2】ベルレス式高炉の概略構成の一例を模式的に示す図(ベルレス式高炉の高炉本体の内部を炉頂から炉底の方向に沿って見た図)である。
図3】高炉原料装入制御装置の機能的な構成の一例を示す図である。
図4】傾動速度、旋回速度、およびゲート開速度のタイムチャートの一例を示す図である。
図5】高炉原料装入制御装置の処理の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。尚、説明および表記の都合上、各図では、説明に必要な部分のみを示し、また、各部分を必要に応じて簡略化して示す。
【0015】
(高炉の概要)
図1および図2は、ベルレス式高炉の概略構成の一例を模式的に示す図である。図1は、ベルレス式高炉(の下部流調ゲートよりも炉底側)を、その側方から透視して見た図である。図2は、ベルレス式高炉の高炉本体の内部を炉頂から炉底の方向に沿って見た図である。尚、図1および図2に示すX−Y−Z座標は、各図の向きの関係を示すものであり、各座標の原点は同じである(図1および図2に示す位置に限定されない)。
【0016】
図1において、下部流調ゲート弁110が開放されると、原料は、垂直シュート120の内部を通過して、高炉本体130内の炉頂側(例えば、高炉本体130内の頂部付近)にある旋回シュート140に導かれる。その後、原料は、旋回シュート140の動作に従って、高炉本体130内の炉底側の領域に堆積される(例えば図1に示す白抜きの矢印線を参照)。
【0017】
尚、原料としては、コークスおよび鉱石が用いられる。鉱石に少量のコークスを混ぜてもよい。下部流調ゲート弁110の上方には、例えば、2つのホッパー(不図示)が配置される。ホッパーには、コークスおよび鉱石の何れかが装入される。2つのホッパーを配置する場合、例えば、これら2つのホッパーを交互に選択し、当該選択したホッパーに装入されている原料を、下部流調ゲート弁110、垂直シュート120、および旋回シュート140を介して高炉本体130内に装入する。これにより、コークスおよび鉄鉱石は、所定の順番で繰り返し高炉本体130内に装入される。尚、1回の原料の装入(1つのホッパーからの原料の装入)をダンプといい、原料の装入の繰り返しの単位をチャージという。
【0018】
旋回シュート140は、高炉本体130の鉛直方向の中心軸150に対して傾動することができる(図1に示す矢印線160を参照)。高炉本体130の鉛直方向の中心軸150に対する旋回シュート140の傾き角を傾動角という。尚、高炉本体130の水平方向に対する旋回シュート140の傾き角を傾動角として定義しても、高炉本体130の鉛直方向の中心軸150に対する旋回シュート140の傾き角を傾動角と定義した場合と同義である。
また、旋回シュート140は、高炉本体130の周方向に旋回させることができる(図1に示す矢印線170を参照)。
【0019】
旋回シュート140は初期位置にあり、初期位置から動作を開始する。前述したように、初期位置は、傾動角の初期値(傾動方向の初期位置である待機位置)と旋回角の初期値(旋回方向の初期位置であるガレージ位置)とにより定まる。
待機位置は、例えば、旋回シュート140が水平方向(高炉本体130の炉壁)に近くなるように予め定められる。図1に示す例では、実線で示す旋回シュート140が待機位置にある旋回シュートであるものとする。尚、図1において、破線で示す旋回シュート140は、初期位置から移動して旋回している様子を示すものである。
【0020】
ガレージ位置は、例えば、高炉本体130の周方向における、基準位置からの角度として予め定められる。例えば、図2に示す例において、高炉本体130の内壁面上の基準位置131を0°とする。また、高炉本体130の内壁面上の位置132をガレージ位置とする。この場合、ガレージ位置132は、例えば、高炉本体130の鉛直方向の中心軸150と基準位置131とを相互に結ぶ仮想線と、高炉本体130の鉛直方向の中心軸150とガレージ位置132とを相互に結ぶ仮想線との、時計方向(図2の基準位置131の傍らに付している矢印線の方向)回りにおいてなす角度φである。このように、図2に示す例では、実線で示す旋回シュート140がガレージ位置にある旋回シュートであるものとする。
【0021】
尚、ガレージ位置を、反時計方向回りにおける角度として定義しても、時計方向回りにおける角度として定義した場合と同義である。
また、図2では、ガレージ位置を1つだけ示すが、複数のガレージ位置を設定してもよい。
【0022】
本実施形態では、旋回シュート140は、初期位置から一定の加速度で加速しながら旋回し、旋回速度が指定値になると当該指定値で旋回を継続する。この際、本実施形態では、旋回シュート140の旋回速度が指定値になった後、操業条件等に応じて指定される落下開始位置を旋回シュート140が最初に通過するタイミングで原料が旋回シュートから高炉本体130内に装入されるようにする。
【0023】
図2に示す例では、高炉本体130の内壁面上の位置133と、高炉本体130の鉛直方向の中心軸150を相互に結ぶ仮想線上の、傾動角の指定値に対応する位置が落下開始位置であるものとする。具体的に、図2に示す例では、破線で示す旋回シュート140が落下開始位置にある旋回シュートである。
また、本実施形態では、旋回シュート140の旋回速度が指定値になってから、旋回シュート140が落下開始位置を最初に通過するタイミング(または、当該タイミングよりも前)に、旋回シュート140の傾動角が指定値になるようにする。旋回シュートの旋回速度及び傾動角の指定値は、操業条件等に応じて定められる。
【0024】
図1の説明に戻り、マイクロ波レベル計180は、高炉本体130の内壁面の領域のうち、旋回シュート140の動作と干渉しない領域に取り付けられる。マイクロ波レベル計180は、例えば、以下のようにして、高炉本体130に堆積している原料190の表面の高さ位置を測定する。まず、マイクロ波レベル計180は、高炉本体130の鉛直下方に向けてマイクロ波を送信する。マイクロ波は、高炉本体130に堆積している原料190の表面で反射する。マイクロ波レベル計180は、この反射波を受信する。そして、マイクロ波レベル計180は、マイクロ波の送受信間隔に基づいて、高炉本体130に堆積している原料190の表面の高さ位置を測定する。マイクロ波レベル計180は、このような測定を常時または予め決められたタイミングで行う。マイクロ波レベル計180は、公知の技術で実現することができるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0025】
尚、図1に示す例では、マイクロ波レベル計180を1つだけ示すが、複数のマイクロ波レベル計を設けてもよい。例えば、高炉本体130の周方向に、複数のマイクロ波レベル計を設けることができる。
また、高炉本体130に堆積している原料190の表面の高さ位置を、原料190に非接触で測定することができれば、マイクロ波レベル計180を用いる必要はない。例えば、超音波レベル計をマイクロ波レベル計180の代わりに用いてもよい。また、旋回シュート140の動作と干渉しない領域に取り付けることができれば、サウンジング装置を用いてもよい。
【0026】
(高炉原料装入制御装置300)
図3は、高炉原料装入制御装置300の機能的な構成の一例を示す図である。尚、高炉原料装入制御装置300のハードウェアの構成は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、および各種のインターフェースを備える情報処理装置や、PLC(Programmable Logic Controller)や、専用のハードウェアを用いることにより実現される。図3に示す高炉原料装入制御装置300の各ブロック301〜310は、例えば、CPUがROMに記憶されたプログラムを実行すること等によって実現される。
【0027】
図4は、傾動速度、旋回速度、およびゲート開速度のタイムチャートの一例を示す図である。図4では、主に、初期位置にある旋回シュート140の動作を開始してから、下部流調ゲート弁110を開放する(ダンプを開始する)までの部分について示す。
ここで、傾動速度とは、旋回シュート140を傾動させる方向(図1の矢印線160の方向)における旋回シュート140の速度をいう。図4において、傾動速度が下向きになっているのは、旋回シュート140を下降させることを表す。
【0028】
旋回速度とは、旋回シュート140を旋回させる方向(図1および図2の矢印線170の方向)における旋回シュート140の速度をいう。
ゲート開速度とは、下部流調ゲート弁110が開放する際の下部流調ゲート弁110の移動速度をいう。
以下、必要に応じて図4を参照しながら、図3に示す高炉原料装入制御装置300が有する機能の一例を説明する。
【0029】
[傾動動作時間導出部301]
傾動動作時間導出部301は、待機位置にある旋回シュート140の傾動の開始を指示してから、旋回シュート140の傾動角が指定値になるまでに要する時間T0[s]を導出する。尚、以下の説明では、待機位置にある旋回シュート140の傾動の開始を指示してから、旋回シュート140の傾動角が指定値になるまでに要する時間T0を、必要に応じて傾動動作時間T0と称する。
【0030】
以下に、傾動動作時間導出部301の処理の具体例を説明する。
まず、傾動動作時間導出部301は、傾動角の指定値を取得する。具体的に傾動動作時間導出部301は、上位のコンピュータから送信された、傾動角の指定値の情報を受信することにより、傾動角の指定値の情報を取得する。この他、傾動動作時間導出部301は、オペレータによる高炉原料装入制御装置300のユーザインターフェースの入力操作に基づいて、傾動角の指定値の情報を取得してもよい。
【0031】
尚、以下の説明では、待機位置にある旋回シュート140の傾動角を指定値にするために、旋回シュート140を傾動させる角度(待機位置(傾動角の初期値)と指定値との差)を、必要に応じて、傾動目標移動角度L[°]と表記する。
【0032】
図4の傾動速度のタイムチャートのように、本実施形態では、一定の加速度で加速しながら傾動、指定値Vt[°/s]で傾動、一定の減速度(負の加速度)で減速しながら傾動、傾動の停止を、この順で行う。このような傾動動作により、旋回シュート140は、その傾動角が、待機位置(傾動角の初期値)から指定値になるまで傾動する。
旋回シュート140が傾動する際の加速時間Tt1[s]と減速時間Tt2[s]は、旋回シュート140の傾動方向における性能に基づいて予め定めることができる。以下の説明では、旋回シュート140が傾動する際の加速時間Tt1、旋回シュート140が傾動する際の減速時間Tt2を、必要に応じて、それぞれ、傾動加速時間Tt1、傾動減速時間Tt2と称する。また、旋回シュート140が傾動速度の指定値Vtで傾動する時間を、必要に応じて、傾動定速時間Tt3と称する。
【0033】
前述したように本実施形態では、旋回速度は、初期位置から一定の加速度で加速しながら旋回し、旋回速度が指定値Vr[°/s]になると当該指定値で旋回を継続する(図4の旋回速度のタイムチャートを参照)。
旋回シュート140の加速時間(すなわち、旋回シュート140の旋回速度が0(ゼロ)から指定値になるのに要する時間)Tr1[s]は、旋回シュート140の旋回方向における性能に基づいて予め定めることができる。以下の説明では、旋回シュート140が旋回する際の加速時間Tr1を、必要に応じて、旋回加速時間Tr1と称する。
【0034】
以上の傾動目標移動角度L[°]、傾動加速時間Tt1[s]、傾動減速時間Tt2[s]、および傾動速度の指定値Vt[°/s]を用いると、傾動動作時間T0[s]は、以下の(1)式で表される。
T0=Tt1+{L−Vt×(Tt1+Tt2)/2}/Vt+Tt2 ・・・(1)
【0035】
ここで、原料の装入を開始するタイミングを早めるためには、旋回速度が指定値Vrに達する前に、傾動動作の完了を確実にすることが好ましい。発明が解決しようとする課題の欄で説明したように、旋回シュート140の旋回を余分に行う場合が生じるからである。
そこで、本実施形態では、以下の(2)式に示すように、前記(1)式に余裕時間Tα[s]を加算した時間を傾動動作時間T0とする。
T0=Tt1+{L−Vt×(Tt1+Tt2)/2}/Vt+Tt2+Tα ・・・(2)
【0036】
本実施形態では、傾動動作時間導出部301は、前記(2)式の計算を行うことにより、傾動動作時間T0を導出する。尚、余裕時間Tαは正の値である。余裕時間Tαを考慮しない場合には、余裕時間Tαを0(ゼロ)とすればよい。
(2)式に示す例では、傾動動作時間T0に、余裕時間Tαが含まれる。このように、待機位置にある旋回シュート140の傾動角が指定値になるのに要する時間に、余裕時間Tαを加算した時間も、傾動動作時間T0と等価なものであり、傾動動作時間T0の概念に含まれる。一方、余裕時間Tαは0(ゼロ)であってもよい。この場合には、待機位置にある旋回シュート140の傾動角が指定値になるのに要する時間が傾動動作時間T0になる。
【0037】
[時間大小判定部302]
時間大小判定部302は、傾動動作時間導出部301で導出された傾動動作時間T0が、旋回加速時間Tr1を上回るか否かを判定する。尚、傾動動作時間導出部301で導出された傾動動作時間T0が、旋回加速時間Tr1以上であるか否かを判定してもよい。
【0038】
[傾動開始指示部303]
傾動開始指示部303は、時間大小判定部302により、傾動動作時間T0が旋回加速時間Tr1を上回ると判定された場合に起動する。
傾動開始指示部303は、旋回シュート140の傾動方向の動作を行うためのモータまたは当該モータの制御装置に対し、待機位置にある旋回シュート140の傾動の開始を指示する傾動開始指示信号を出力する。
【0039】
[傾動残り時間導出部304]
傾動残り時間導出部304は、傾動開始指示部303により、旋回シュート140の傾動の開始が指示されると、旋回シュート140の旋回を開始する以前の各時刻(例えば、図4に示す時刻tc1)から前述した傾動動作が完了するまでの残り時間(すなわち、旋回シュート140の傾動角が現在値から指定値になるのに要する時間)Ttr[s]を導出する。以下の説明では、この旋回シュート140の旋回を開始する以前の各時刻を、必要に応じて、旋回開始前時刻tc1と称する。また、旋回開始前時刻tc1から前述した傾動動作が完了するまでの残り時間Ttrを、必要に応じて、傾動残り時間Ttrと称する。尚、図4において、旋回開始前時刻tc1の下に示す白抜きの矢印線は、旋回開始前時刻tc1が時々刻々と更新されること(加速時間Tt1が終了し、傾動定速時間Tt3になっても旋回開始前時刻tc1が設定されること)を示す。
【0040】
ここで、旋回シュート140の傾動を開始させてから、旋回開始前時刻tc1までの間に、待機位置(傾動角の初期値)から旋回シュート140を傾動させた角度(待機位置(傾動角の初期値)と旋回開始前時刻tc1における傾動角との差)を、必要に応じて、傾動現在移動角度L0[°]と称する。また、この傾動現在移動角度L0の位置にある旋回シュート140の傾動角を指定値にするために、旋回シュート140を傾動させるのに必要な残りの角度を、必要に応じて、目標残傾動角度L1[°]と称する。
【0041】
目標残傾動角度L1は、傾動目標移動角度Lと傾動現在移動角度L0とを用いると、以下の(3)式で表される。
L1=L−L0 ・・・(3)
前述した傾動残り時間Ttrは、目標残傾動角度L1だけ旋回シュート140を傾動させるのに要する時間である。
【0042】
傾動残り時間導出部304は、旋回シュート140の傾動角を検出する傾動角検出器311から、旋回開始前時刻tc1における旋回シュート140の傾動角の情報を入力する。次に、傾動残り時間導出部304は、旋回開始前時刻tc1における旋回シュート140の傾動角と、旋回シュート140の待機位置(傾動角の初期値)とから、傾動現在移動角度L0を導出する。次に、傾動残り時間導出部304は、(3)式の計算を行って、目標残傾動角度L1を導出する。
傾動角検出器311は、例えば、旋回シュート140の傾動方向の動作を行うためのモータの減速機に取り付けられている。尚、傾動角検出器311は、公知の技術で実現することができるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0043】
尚、本実施形態では、図4に示す傾動速度と時間との関係を示す関数は、予め定められている。
また、傾動残り時間Ttrは、旋回開始前時刻tc1から傾動動作が完了するまでの時間に、余裕時間Tαを加算した時間となる。
本実施形態では、傾動加速時間Tt1が経過する前(傾動方向の加速が終了する前)においては、傾動残り時間導出部304は、以下の(4)式の計算を行うことにより、傾動残り時間Ttrを導出する。一方、傾動加速時間Tt1が経過した後(傾動方向の加速が終了した後)においては、傾動残り時間導出部304は、以下の(5)式の計算を行うことにより、傾動残り時間Ttrを導出する。
Ttr=(Tt1−Ttc)+[L1−{Vt+(Vt×Ttc)/Tt1}×(Tt1−Ttc)/2−Vt×Tt2/2]/Vt+Tt2+Tα ・・・(4)
Ttr=(L1−Vt×Tt2/2)/Vt+Tt2+Tα ・・・(5)
【0044】
(4)式において、Ttcは、図4に示すように、旋回シュート140の傾動を開始させた時刻ts1から、旋回開始前時刻tc1までの期間である。すなわち、旋回シュート140の傾動を開始させた時刻ts1を、傾動開始時刻ts1と称するとすると、Ttcは、旋回開始前時刻tc1から傾動開始時刻ts1を減算した時間である。
(4)式および(5)式に示す例では、傾動残り時間Ttrに、余裕時間Tαが含まれる。このように、旋回開始前時刻tc1から前述した傾動動作が完了するまでの残り時間に、余裕時間Tαを加算した時間も、傾動残り時間Ttrと等価なものであり、傾動残り時間Ttrの概念に含まれる。一方、余裕時間Tαは0(ゼロ)であってもよい。余裕時間Tαが0(ゼロ)である場合には、旋回開始前時刻tc1から前述した傾動動作が完了するまでの残り時間が傾動残り時間Ttrになる。
尚、旋回シュート140の傾動動作が減速している最中における(図4のTt2を示す両矢印線の中の期間における)傾動残り時間Ttrは、(5)式では表されない。実際の操業においては、傾動減速時間Tt2は、短時間である。そこで、ここでは、このような短時間の傾動減速時間Tt2よりも、旋回加速時間Tr1が短いことは想定されない(すなわち、傾動残り時間Ttrが傾動減速時間Tt2よりも短くなることはない)ものとした。ただし、旋回シュート140の傾動動作が減速している最中においても、傾動残り時間Ttrを計算してもよい。
【0045】
[旋回開始判定部305]
旋回加速時間Tr1と傾動残り時間Ttrとが一致したときに旋回シュート140の旋回を開始すれば、旋回シュート140の傾動動作が完了したときに旋回シュート140の旋回速度が指定値Vrになる。ただし、前述したように、旋回速度が指定値Vrに達する前に、傾動動作の完了を確実にすることが好ましい。
そこで、本実施形態では、旋回開始判定部305は、旋回シュート140の旋回の開始ができるタイミングであるか否かを判定するために、傾動残り時間Ttrが旋回加速時間Tr1を下回るか否かを判定する。
【0046】
尚、旋回開始判定部305は、傾動残り時間Ttrが旋回加速時間Tr1以下であるか否かを判定してもよい。また、旋回開始判定部305は、旋回加速時間Tr1に余裕時間を加算した上で、前記判定を行ってもよい。すなわち、旋回シュート140が旋回する際の加速時間に余裕時間を加算した時間も、旋回加速時間Tr1と等価なものであり、旋回加速時間Tr1の概念に含まれる。
【0047】
[旋回開始指示部306]
旋回開始指示部306は、旋回開始判定部305により、傾動残り時間Ttrが旋回加速時間Tr1を下回ると判定された場合に起動する。
旋回開始指示部306は、旋回シュート140の旋回方向の動作を行うためのモータまたは当該モータの制御装置に対し、ガレージ位置にある旋回シュート140の旋回の開始を指示する旋回開始指示信号を出力する。
【0048】
[傾動・旋回開始指示部310]
傾動・旋回開始指示部310は、時間大小判定部302により、傾動動作時間T0が旋回加速時間Tr1を上回らないと判定された場合に起動する。この場合には、旋回シュート140の傾動と旋回を同時に開始しても、旋回速度が指定値Vrに達する前に、前述した傾動動作が完了する。
【0049】
そこで、本実施形態では、傾動・旋回開始指示部310は、前述した傾動開始指示信号および旋回開始指示信号の双方を出力する。傾動開始指示部303の欄で説明したように、傾動開始指示信号は、旋回シュート140の傾動方向の動作を行うためのモータまたは当該モータの制御装置に出力される。また、旋回開始指示部306の欄で説明したように、旋回開始指示信号は、旋回シュート140の旋回方向の動作を行うためのモータまたは当該モータの制御装置に出力される。
尚、旋回速度が指定値Vrに達する前に、前述した傾動動作が完了するようにしていれば、旋回シュート140の傾動と旋回を同時に開始させなくてもよい。
【0050】
[旋回残り時間導出部307]
旋回残り時間導出部307は、旋回開始指示部306または傾動・旋回開始指示部310により、旋回シュート140の旋回の開始が指示されると、旋回シュート140の旋回を開始した以降の各時刻(例えば、図4に示す時刻tc2)から前述した旋回加速が完了するまでの残り時間(すなわち、旋回シュート140の旋回速度[°/s]が現在値V0から指定値Vrになるのに要する時間)Tgr[s]を導出する(図4の旋回速度のタイムチャートを参照)。
以下の説明では、旋回シュート140の旋回を開始した以降の各時刻を、必要に応じて、旋回開始後時刻tc2と称する。また、旋回開始後時刻tc2から前述した旋回加速が完了するまでの残り時間Tgrを、必要に応じて、旋回残り時間Tgrと称する。また、旋回シュート140の旋回速度の現在値V0を必要に応じて旋回現在速度V0と称する。
【0051】
図1を参照しながら説明したように、下部流調ゲート弁110が開放してから、原料が、垂直シュート120および旋回シュート140を介して高炉本体130内に装入されるまでの間に時間が生じる。したがって、下部流調ゲート弁110の開放を指示するタイミングと原料が高炉本体130内に装入されるタイミングとにタイムラグが生じる。そこで、本実施形態では、このタイムラグに対応する時間を落下開始遅れ時間Td[s]として予め設定しておく(図4のゲート開速度のタイムチャートを参照)。
【0052】
ここで、旋回シュート140の旋回を開始させた時刻ts2を、必要に応じて、旋回開始時刻ts2と称する。
また、旋回開始時刻ts2から、旋回開始後時刻tc2までの間に、ガレージ位置(旋回角の初期値)から旋回シュートを旋回させた角度(ガレージ位置(旋回角の初期値)と旋回開始後時刻tc2における旋回角との差)を、必要に応じて、旋回現在移動角度φ0[°]と称する。
また、旋回開始時刻ts2から、旋回開始後時刻tc2までの間に、旋回シュート140が旋回する時間を、必要に応じて、旋回現在移動時間Trc[s]と称する。
また、旋回残り時間Tgrの間に、旋回シュート140が旋回する角度(旋回開始後時刻tc2)における旋回角と、加速完了時における旋回角との差)を、必要に応じて旋回残り移動角度φR[°]と称する。尚、図4において、旋回開始後時刻tc2の下に示す白抜きの矢印線は、旋回開始後時刻tc2が時々刻々と更新されることを示す。
【0053】
尚、本実施形態では、図4に示す旋回速度と時間との関係を示す関数は、予め定められている。
また、旋回残り時間Tgrは、旋回開始後時刻tc2から旋回動作が完了するまでの時間となる。
具体的に、本実施形態では、旋回残り時間Tgrは、旋回現在速度V0と旋回残り移動角度φRとを用いると、以下の(6)式で表される。
Tgr=2×φR/(Vr+V0) ・・・(6)
【0054】
ここで、旋回シュート140が加速しているときに旋回現在速度V0の瞬時値を導出することは容易ではない。そこで、本実施形態では、旋回現在移動角度φ0と旋回現在移動時間Trcとから、以下の(7)式により、旋回現在速度V0が定められるものとする。
V0=2×φ0/Trc ・・・(7)
(7)式を(6)式に代入すると、旋回残り時間Tgrは、以下の(8)式で表される。
Tgr=2×φR/(Vr+2×φ0/Trc)・・・(8)
旋回残り時間導出部307は、旋回シュート140の旋回角を検出する旋回角検出器312から、旋回開始後時刻tc2における旋回シュート140の旋回角の情報を入力する。次に、旋回残り時間導出部307は、旋回開始後時刻tc2における旋回シュート140の旋回角と、旋回シュート140のガレージ位置(旋回角の初期値)とから、旋回現在移動角度φ0を計算する。
旋回角検出器312は、例えば、旋回シュート140の旋回方向の動作を行うためのモータの減速機に取り付けられている。尚、旋回角検出器312は、公知の技術で実現することができるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0055】
次に、旋回残り時間導出部307は、旋回開始時刻ts2と、旋回開始後時刻tc2とから、旋回現在移動時間Trcを導出する。次に、旋回残り時間導出部307は、旋回現在移動角度φ0と、旋回シュート140の加速度と、旋回速度の指定値Vrとから、旋回残り移動角度φRを導出する。そして、旋回残り時間導出部307は、(8)式の計算を行うことにより、旋回残り時間Tgrを導出する。
尚、旋回残り時間導出部307は、(8)式の計算を行わずに、簡略化した以下の(9)式の計算を行うことにより、旋回残り時間Tgrを導出してもよい。
Tgr=Tr1−Trc ・・・(9)
【0056】
[ゲート開判定部308]
ゲート開判定部308は、下部流調ゲート弁110の開放を指示するタイミングであるか否かを判定する。
以下に、ゲート開判定部308の処理の具体例を説明する。
【0057】
図4に示すように、ここでは簡単のため、旋回加速時間Tr1が経過したタイミングで、旋回シュート140が落下開始位置に到達するものとする。この場合、旋回残り時間Tgrが落下開始遅れ時間Tdと一致したときに、下部流調ゲート弁110を開放すれば、旋回シュート140が落下開始位置に到達したタイミングで旋回シュート140から高炉本体130内への原料の装入を開始することができる。ただし、旋回シュート140から高炉本体130内への原料の装入される際に、旋回速度が指定値Vrに確実に達していることが好ましい。
そこで、本実施形態では、ゲート開判定部308は、下部流調ゲート弁110の開放を開始するタイミングであるか否かを判定するために、旋回残り時間Tgrが落下開始遅れ時間Tdを下回るか否かを判定する。
【0058】
尚、旋回シュート140から高炉本体130内への原料の装入される際に、旋回速度が指定値Vrに確実に達するようにするための余裕時間を前述したタイムラグに加味して落下開始遅れ時間Tdを設定してもよい。
また、ゲート開判定部308は、旋回残り時間Tgrが落下開始遅れ時間Td以下であるか否かを判定してもよい。
【0059】
また、旋回加速時間Tr1が経過したタイミングで、旋回シュート140が落下開始位置に到達しない場合には、例えば、落下開始遅れ時間Tdに対し、旋回加速時間Tr1が経過したタイミングから、旋回シュート140が落下開始位置に最初に到達するまでのタイミングまでの時間を減算した上で、前記判定を行えばよい。
この他、旋回残り時間Tgrが落下開始遅れ時間Tdを下回るか否かを判定する代わりに、旋回現在移動時間Trcが、旋回加速時間Tr1から落下開始遅れ時間Tdを減算した時間を上回るか否かを判定してもよい。
【0060】
[ゲート開指示部309]
ゲート開指示部309は、ゲート開判定部308により、旋回残り時間Tgrが落下開始遅れ時間Tdを下回ると判定された場合に起動する。
ゲート開指示部309は、下部流調ゲート弁110または下部流調ゲート弁110の制御装置に対し、下部流調ゲート弁110の開放の開始を指示するゲート開指示信号を出力する。
【0061】
(動作フローチャート)
次に、図5のフローチャートを参照しながら、高炉原料装入制御装置300の処理の一例を説明する。尚、ここでは、簡単のため、旋回加速時間Tr1が経過したタイミングで、旋回シュート140が落下開始位置に到達すると仮定した場合を例に挙げて説明する。
【0062】
まず、ステップS501において、傾動動作時間導出部301は、(2)式の計算を行うことにより、傾動動作時間T0を導出する。
次に、ステップS502において、時間大小判定部302は、ステップS501で導出した傾動動作時間T0が旋回加速時間Tr1を上回るか否かを判定する。
【0063】
この判定の結果、傾動動作時間T0が旋回加速時間Tr1を上回らない場合には、後述するステップS511に進む。
一方、傾動動作時間T0が旋回加速時間Tr1を上回る場合には、ステップS503に進む。
ステップS503に進むと、傾動開始指示部303は、旋回シュート140の傾動方向の動作を行うためのモータまたは当該モータの制御装置に対し、待機位置にある旋回シュート140の傾動の開始を指示する傾動開始指示信号を出力する。
【0064】
次に、ステップS504において、傾動残り時間導出部304は、(3)式の計算と、(4)式または(5)式の計算とを行うことにより、傾動残り時間Ttrを導出する。
次に、ステップS505において、旋回開始判定部305は、ステップS504で導出された傾動残り時間Ttrが、旋回加速時間Tr1を下回るか否かを判定する。この判定の結果、傾動残り時間Ttrが旋回加速時間Tr1を下回らない場合には、ステップS504に戻る。そして、傾動残り時間Ttrが旋回加速時間Tr1を下回るまで、ステップS504、S505を繰り返し行う。
【0065】
傾動残り時間Ttrが旋回加速時間Tr1を下回ると、ステップS506に進む。ステップS506に進むと、旋回開始指示部306は、旋回シュート140の旋回方向の動作を行うためのモータまたは当該モータの制御装置に対し、ガレージ位置にある旋回シュート140の旋回の開始を指示する旋回開始指示信号を出力する。
次に、ステップS507において、旋回残り時間導出部307は、(8)式の計算を行うことにより、旋回残り時間Tgrを導出する。
次に、ステップS508において、ゲート開判定部308は、ステップS507で導出された旋回残り時間Tgrが落下開始遅れ時間Tdを下回るか否かを判定する。この判定の結果、旋回残り時間Tgrが落下開始遅れ時間Tdを下回らない場合には、ステップS507に戻る。そして、旋回残り時間Tgrが落下開始遅れ時間Tdを下回るまで、ステップS507、S508を繰り返し行う。
【0066】
旋回残り時間Tgrが落下開始遅れ時間Tdを下回ると、ステップS509に進む。ステップS509に進むと、ゲート開指示部309は、下部流調ゲート弁110または下部流調ゲート弁110の制御装置に対し、下部流調ゲート弁110の開放の開始を指示するゲート開指示信号を出力する。
【0067】
その後、ステップS510において、高炉原料装入制御装置300は、例えば、上位のコンピュータからの指示に基づいて、旋回シュート140および下部流調ゲート弁110等の制御を行う。ステップS509でゲート開指示信号を出力した後の高炉原料装入制御装置300の動作は、公知の技術で実現できるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。そして、図5のフローチャートによる処理を終了する。
【0068】
前述したように、ステップS502の判定の結果、傾動動作時間T0が旋回加速時間Tr1を上回らない場合には、ステップS511に進む。ステップS511に進むと、傾動・旋回開始指示部310は、旋回シュート140の傾動方向の動作を行うためのモータまたは当該モータの制御装置に傾動開始指示信号を出力すると共に、旋回シュート140の旋回方向の動作を行うためのモータまたは当該モータの制御装置に旋回開始指示信号を出力する。そして、前述したステップS507に進む。
【0069】
尚、図5のフローチャートは、高炉本体130に堆積している原料190の表面の高さ位置の測定のタイミングに影響を受けずに実行される。
また、図5では、ステップS502、S511の処理を行うようにしたが、必ずしもこれらの処理を行う必要はない。例えば、図5のフローチャートを採用した場合、傾動動作時間T0が旋回加速時間Tr1を上回らない場合には、最初のステップS505の判定においてステップS506に進む(ステップS505でYESと判定される)。したがって、傾動の開始と旋回の開始は略同時に行われるからである。
【0070】
(まとめ)
以上のように本実施形態では、待機位置にある旋回シュート140の傾動の開始を指示した後、傾動残り時間Ttrが旋回加速時間Tr1を下回ると、ガレージ位置にある旋回シュート140の旋回の開始を指示する。したがって、傾動動作時間T0が旋回加速時間Tr1より長い場合でも、旋回シュート140を余分に旋回させる必要がなくなる。したがって、初期位置にある旋回シュート140の動作を開始してから旋回シュート140を介して高炉本体130に原料を装入できるようになるまでに要する時間を短縮することができ、原料の装入を早期に開始できる。
【0071】
また、本実施形態では、高炉本体130に堆積している原料190の表面の高さ位置を測定する装置が、旋回シュート140の動作と干渉しないようにする。したがって、高炉本体130に堆積している原料190の表面の高さ位置の測定を待たずに、初期位置にある旋回シュート140の動作を開始することができる。特に、本実施形態では、マイクロ波レベル計180のように、高炉本体130に堆積している原料190の表面の高さ位置を、原料190に非接触で測定するレベル測定装置を用いる。したがって、初期位置にある旋回シュート140の動作を、高炉本体130に堆積している原料190の表面の高さ位置の測定に影響されずに開始することを容易に行うことができる。
【0072】
(変形例)
本実施形態では、旋回シュート140が旋回する際の加速度や、旋回シュート140が傾動する際の加速度および減速度を一定とする場合を例に挙げて説明した。しかしながら、これらは一定でなくてもよい。また、例えば、操業によって、旋回シュート140が旋回する際の加速度や、旋回シュート140が傾動する際の加速度および減速度が変更される場合には、変更後の値に基づいて旋回加速時間Tr1や傾動動作時間T0を導出することができる。
【0073】
また、本実施形態では、傾動残り時間Ttrが、旋回加速時間Tr1を下回るか否かを判定する場合を例に挙げて説明した(ステップS505)。また、前述したように、傾動残り時間Ttrが、旋回加速時間Tr1以下であるか否かを判定してもよい。さらに、必ずしも、これらのようにして判定しなくもてよい。例えば、傾動動作時間T0から旋回加速時間Tr1を減じた値が、現在傾動経過時間Ttc(旋回シュート140の傾動を開始した時刻から、旋回開始前時刻tc1までの経過時間)以下であるか否か、または、現在傾動経過時間を下回るか否かを判定しても、前記の判定と同義の判定を行うことになるので、これらのようにしてもよい。
【0074】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0075】
110:下部流調ゲート弁、120:垂直シュート、130:高炉本体、140:旋回シュート、300:高炉原料装入制御装置
図1
図2
図3
図4
図5