(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第一実施形態>
(砥石車の構成)
以下、本発明の砥石車の第一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1Aに示すように、砥石車10は、円板状ベース13(本発明の円板状部材に相当する)と、円板状ベース13の外周面に配置される砥石層16と、を備える。円板状ベース13は、鉄、アルミニウム等の金属又は樹脂等で成形される。円板状ベース13は、砥石車10の回転軸線回り(以降、軸線回りとのみ称す)に回転駆動される。なお、以降、特別な説明なしに軸線といった場合、砥石車10の回転軸線のことをいう。砥石層16は、周方向に等分に分割される複数(本実施形態では16個)の周方向分割砥石チップA〜Pを備える。なお、砥石車10は、例えば自動車用クランクシャフトのクランクピン、ジャーナル等のような外周に設けられた凹溝を研削対象とする総形の砥石車である。
【0012】
各周方向分割砥石チップA〜Pは、円板状ベース13の外周面上周方向に、アルファベット順に並んで配置される。
図1B、
図2に示すように、各周方向分割砥石チップA〜Pは、2個の第一砥石チップ11,1個の第二砥石チップ12及び2個の混合部を備える。第一砥石チップ11,第二砥石チップ12及び混合部は、それぞれ性状の異なる砥石である。なお、各周方向分割砥石チップA〜Pが備える各2個ずつの混合部はそれぞれ同様の形状及び性状を有するが、判別するため、周方向分割砥石チップA〜Pがそれぞれ備える各混合部を混合部18a〜18pと称して説明する。つまり、周方向分割砥石チップAは、混合部18a,18aを備え、周方向分割砥石チップBは、混合部18b,18bを備える。各周方向分割砥石チップC〜Pについても同様に、それぞれ混合部18c,18c〜18p,18pを備える。そして2個の第一砥石チップ11、1個の第二砥石チップ12及び各混合部18a〜18pは、各周方向分割砥石チップA〜Pにおいて、それぞれ軸線方向に予め設定された順序で整列し配列される。
【0013】
上述の予め設定された順序について、周方向分割砥石チップAを代表として説明する。周方向分割砥石チップAにおいて、予め設定された順序は、第一砥石チップ11→混合部18a→第二砥石チップ12→混合部18a→第一砥石チップ11の順である。つまり、
図1Bに示すように各第一砥石チップ11は、円板状ベース13の外周面の軸線方向においてR形状で形成された両端の角部(R部)に配置される。第二砥石チップ12は、外周面の軸線方向において各第一砥石チップ11,11の間の中央部である円筒部(C部)に配置される。そして、混合部18a,18aは、各第一砥石チップ11と第二砥石チップ12との間にそれぞれ配置される。周方向分割砥石チップB〜Pについても同様である。なお、後に詳述するが、各周方向分割砥石チップA〜Pそれぞれにおいて、第一砥石チップ11と第二砥石チップ12との境界部は、軸線方向境界部と定義し、本実施形態においては、混合部18a〜18pが軸線方向境界部に相当する。
【0014】
図2に示すように、第一砥石チップ11は、CBN、ダイヤモンド等の超砥粒14(本発明の砥粒に相当)を結合材15で結合し形成されたものである。なお、
図2は、全周方向分割砥石チップA〜Pの表面状態を示す模式図である。第一砥石チップ11は、一例として、粒度#80のCBN砥粒が、ビトリファイド結合材15により、集中度200で例えば4〜8mmの厚さに矩形形状に結合されて成形される。従って、第一砥石チップ11は、砥石の粒径が大きな粗研削用であり、硬度が高く比較的摩耗しにくい砥石チップである。後に詳述するが、
図3に示すように、各周方向分割砥石チップA〜Pのうち、周方向で隣り合う4つずつの各周方向分割砥石チップA〜D、E〜H、I〜L、M〜Pがそれぞれ備える各4つの第一砥石チップ11の軸線方向の幅は異なる。
【0015】
図2に示すように、第二砥石チップ12は、CBN、ダイヤモンド等の超砥粒19(砥粒に相当)を結合材20で結合し形成されたものである。結合材20は、第一砥石チップ11の結合材15より弾性力のある結合材である。第二砥石チップ12は、一例として、粒度#800のCBN砥粒が、レジノイド結合材20により、集中度30で例えば4〜8mmの厚さに矩形形状に結合されて成形される。レジノイド結合材20としては、例えばフェノール樹脂が使用される。
【0016】
従って、第二砥石チップ12は、砥石の粒径が小さな仕上げ研削用であり、硬度が低く比較的摩耗しやすい砥石チップである。後に詳述するが、
図3に示すように、各周方向分割砥石チップA〜Pのうち、周方向で隣り合う4つずつの各周方向分割砥石チップA〜D、E〜H、I〜L、M〜Pがそれぞれ備える各4つの第二砥石チップ12の軸線方向の幅は異なる。
【0017】
図2に示すように、混合部18a〜18pは、第二砥石チップ12が有する粒度#800の例えばCBN砥粒(超砥粒19)と、第一砥石チップ11が有する粒度#80の例えばCBN砥粒(超砥粒14)とが、ほぼ均一に混在した砥石部分である。混合部18a〜18pでは、ビトリファイド結合材15及びレジノイド結合材20も混在している。よって、混合部18a〜18pは、第一砥石チップ11と第二砥石チップ12の両方の特性を有しており、摩耗のし易さは、第一砥石チップ11と第二砥石チップ12とのほぼ中間であるといえる。混合部18a〜18pの軸線方向の幅は、各超砥粒14、19が1〜2個分収容可能な幅であることが好ましい。なお、各混合部18a〜18pの各軸線方向幅La(
図3の展開図参照)は、ほぼ同じであるものとする。また、混合部18a〜18pの厚さは、第一砥石チップ11、及び第二砥石チップ12とほぼ同じであるものとする。
【0018】
このように形成された同じ厚さの各砥石チップ11、12,11及び混合部18a〜18pが、円板状ベース13の外周面に軸線方向に上記で説明した順番で並べられて周方向分割砥石チップA〜Pがそれぞれ形成される。
【0019】
(混合部18a〜18pのオーバーラップについて)
前述した
図3は、円板状ベース13の外周面の砥石層16を軸線周りに展開した展開図である。ここでは、周方向で隣り合う各混合部18a〜18pのオーバーラップについて説明するため、周方向分割砥石チップA〜Dを抜き出し代表として説明する。
図3のS部拡大図である
図4に示すように、周方向分割砥石チップAが備える
図1Bの右側の混合部18aと、周方向分割砥石チップAと周方向で隣接する周方向分割砥石チップBが備える軸線方向境界部のうち前記右側の混合部18aに対応する
図1Bの右側の混合部18bとは、各混合部18a、18bの軸線方向における幅Laの各中央位置(中心線CL参照)同士が、一致しないよう配置されている。また、
図4に示すように、混合部18aと混合部18bとは、円板状ベース13の軸線方向において所定量αだけオーバーラップするよう配置されている。
【0020】
また、周方向で隣り合う各混合部18bと18c、及び18cと18dの各混合部相互間の配置も、混合部18aと混合部18bとの間と同様の関係を有する。さらには、他の混合部18e〜18pも、周方向で隣り合う各混合部相互間の配置は、混合部18aと混合部18bとの間と同様の関係を有する。ただし、オーバーラップする所定量αの大きさは、同じでなくてもよい。
【0021】
なお、以降において、各周方向分割砥石チップA〜Pが、それぞれ2個ずつ有する各混合部18a〜18pを説明する場合、特別な断りがない限り、説明は、
図3における右側の混合部18a〜18pのみについて説明するものとする。
【0022】
また、
図3、
図4に示すように、本実施形態では、外周面の周方向に連続して配置された各4個(少なくとも3つに相当)の周方向分割砥石チップA〜D、及びI〜Lの各混合部18a〜18d、及び18i〜18lの軸線方向の各中央位置は、各4個の各周方向分割砥石チップA〜D、及びI〜Lが周方向に連続して配置された順に、
図3、
図4において軸線方向における左方向(所定の方向に相当)に向かって整列している。
【0023】
また、外周面の周方向に連続して配置された4個(少なくとも3つに相当)の各周方向分割砥石チップE〜H、及びM〜Pの各混合部18e〜18h、及び18m〜18pの軸線方向の各中央位置は、各4個の各周方向分割砥石チップE〜H、及びM〜Pが周方向に連続して配置された順に、
図3、
図4において軸線方向における右方向(所定の方向)に向かって整列している。このような周方向分割砥石チップA〜Pの配置によって、各混合部18a〜18pは軸線方向に大きな幅を有して連続的で曲線的な大きなうねり形状を形成することができる。
【0024】
このような曲線的なうねり形状は、外周面の周方向において隣り合う各混合部18a〜18p間の軸線方向のオーバーラップの各所定量αを調整することによって自在に得られる。うねりの形状は、実際に研削実験を行ない、混合部18a〜18pに発生する摩耗量が良好に抑制される形状を選択すればよく、その形状はどのようなものでもよい。この場合、各混合部18a〜18pの軸線方向の各中央位置(CL)における、例えば周方向中点同士を各混合部18a〜18pの添え字のアルファベット順に滑らかにつないだ場合、SINカーブとなるよう各混合部18a〜18pを配置してもよい。
【0025】
また、
図1Bに示すように、第一砥石チップ11と第二砥石チップ12との間に形成される各混合部18a〜18p(軸線方向境界部)は、円板状ベース13の外周面において、外周面の軸線方向における両端の各R部の一部に配置される。つまり、第一砥石チップ11,11は、各R部の一部に配置され、第二砥石チップ12は、円筒部(C部)及び各R部の残りの一部に配置される。
【0026】
なお、上記においては、各周方向分割砥石チップA〜Pがそれぞれ2個ずつ有する各混合部18a〜18pのうち、
図3における右側の混合部18a〜18pのみについて説明した。しかし、
図3における左側の混合部18a〜18pも同様に形成されている。
【0027】
(周方向分割砥石チップA〜Pの製造方法)
次に、周方向分割砥石チップA〜Pの製造方法について説明する。第一砥石チップ11を製造するため、まず超砥粒14および結合材15等を混合した粉体が、凹矩形形状のプレス下型上に均一厚さに充填される。その後、プレス下型上に充填された粉体が、第1上型によりプレスされて砥石チップが矩形状に成形される。そして、プレス成形された砥石チップが乾燥され、乾燥後に焼成されて第一砥石チップ11が完成する。なお、第二砥石チップ12についても、超砥粒14および結合材15が、超砥粒19および結合材20に変更されるだけであり、第一砥石チップ11と同様の方法によって製造される。
【0028】
混合部18a〜18pは、第一砥石チップ11と第二砥石チップ12との境界部を相互に接触させた状態で焼成することにより製作する。焼成した第一砥石チップ11,第二砥石チップ12の接触部分近傍では、結合材15及び結合材20が溶融する。このような状態で、各第一砥石チップ11,及び第二砥石チップ12の各超砥粒14、19が混ざり合い混合部18a〜18pが形成される。
【0029】
このように形成された各周方向分割砥石チップA〜Pは、前述した配置の規則に従って円板状ベース13の外周面の周方向全周に接着剤(図略)により連続的に貼付される。
【0030】
(研削盤25の構成)
次に、砥石車10が装着されて工作物Wを研削加工する研削盤25について
図5に基づいて説明する。
図5に示すように、ベッド26上には、テーブル27が摺動可能に載置され、サーボモータ28によりボールネジを介してZ軸方向に移動される。テーブル27上には、主軸台29と心押台30とが対向して取り付けられ、主軸台29と心押台30との間に工作物WがZ軸方向にセンタ支持される。主軸台29には主軸31が回転可能に軸承され、サーボモータ32により回転駆動される。工作物Wは主軸31にケレ回し等により連結されて回転駆動される。
【0031】
ベッド26上には、砥石台34が摺動可能に載置され、サーボモータ35によりボールネジを介してZ軸と直角に交差するX軸方向に移動される。砥石台34には砥石軸36が回転可能に軸承され、ビルトインモータ37により回転駆動される。砥石軸36の先端には砥石車10の円板状ベース13に穿設された中心穴38が嵌合されてボルトにより固定されている。
【0032】
CNC装置40は、サーボモータ28,32,35及びビルトインモータ37の駆動回路41乃至44に接続されている。CNC装置40は、研削加工時に研削加工用NCプログラムを順次実行して砥石車10に工作物Wを研削加工させる。
【0033】
(研削盤の作動について)
CNC装置40は、砥石車10に工作物Wを研削加工させるときは、研削加工用NCプログラムを実行し、砥石車10を高速回転速度で回転させる回転指令を、ビルトインモータ37の駆動回路44に出力する。また、CNC装置40は、工作物Wを研削加工に適した周速度で回転させる回転指令を、主軸31を回転駆動するサーボモータ32の駆動回路42に出力する。次に、工作物Wが砥石車10と対向する位置にテーブル27をZ軸方向に移動させる送り指令が、サーボモータ28の駆動回路41に出力される。
【0034】
砥石車10が工作物Wの研削箇所と対向すると、砥石台34をX軸方向に粗研削送り速度で前進移動させる指令が、サーボモータ35の駆動回路43に出力される。これにより、砥石車10は、図略のクーラントノズルからクーラントを供給されながら工作物Wを研削加工する。
【0035】
次に、砥石車10によって工作物Wを研削する場合について詳細に説明する。前述したとおり、工作物Wはクランクシャフトであり、研削する部位は、クランクシャフトの凹部である、例えば、
図6に示すクランクジャーナル45及びクランクジャーナルの回転軸方向両側面46,47である。以後、クランクジャーナル45及び回転軸方向両側面46,47は、凹部とのみ称す場合がある。
図6に示すように、砥石車10は、総形の研削砥石であり、凹部よりも軸線方向(Z軸方向)において若干大きな形状を有している。このため、砥石車10が、凹部内に切り込まれると、砥石車10は、摩耗のしにくい第一砥石チップ11を備えた軸線方向両端部(R部)で、凹部の両側面46,47(斜線部)を研削によって除去加工しながら切り込む。そして、砥石車10の外周面の円筒部(C部)が、凹部の底面であるクランクジャーナル45の外周面に到達すると、摩耗し易い第二砥石チップ12によって、凹部の底面(クランクジャーナル45の外周面)が研削され、仕上げ加工が行なわれる。
【0036】
このとき、周方向分割砥石チップA〜Pの混合部18a〜18pは、砥石車10の外周面の周方向において、曲線状のうねりを有して形成されている。つまり、混合部18a〜18pは、工作物Wの研削時に摩耗が抑制されやすい形状にて形成されている。このため、摩耗による、摩耗しにくい第一砥石チップ11と摩耗し易い第二砥石チップ12との間の混合部18a〜18pの段差の発生は、効果的に抑制される。
【0037】
また、
図1Bに示すように、第一砥石チップ11と第二砥石チップ12との間に形成される各混合部18a〜18p(軸線方向境界部)は、外周面において、外周面の軸線方向における両端の各R部の一部に配置される。つまり、第一砥石チップ11,11は、各R部の一部に配置され、第二砥石チップ12は、円筒部及び各R部の残りの一部に配置される。このため、円筒部(C部)には混合部18a〜18pが配置されない。従って、混合部18a〜18pに摩耗が発生し段差が生じても、円筒部(C部)に設けられる第二砥石チップ12によって研削される工作物Wの凹部の底面(クランクジャーナル45の外周面)には、前記段差は転写されず、良好な仕上げ精度を得ることができる。
【0038】
(実施形態における効果)
上記説明から明らかなように、第一実施形態によれば、砥石車10は、円板状ベース13(円板状部材)と、円板状ベース13の外周面に配置される砥石層16と、を備える砥石車10であって、砥石層16は、周方向に分割される複数(16個)の周方向分割砥石チップA〜Pを備え、各周方向分割砥石チップA〜Pのそれぞれは、性状の異なる第一砥石チップ11及び第二砥石チップ12が軸線方向に配列されて形成される。複数(16個)の周方向分割砥石チップA〜Pのそれぞれにおいて第一砥石チップ11と第二砥石チップ12との境界部は、軸線方向境界部と定義する。そして、複数(16個)の周方向分割砥石チップA〜Pのうち周方向に連続して配置される各4個(少なくとも3つ)の周方向分割砥石チップA〜D、及びI〜L、または周方向分割砥石チップE〜H、及びM〜Pにおける軸線方向境界部は、周方向に連続して配置された各4個(少なくとも3つ)の周方向分割砥石チップA〜D、及びI〜Lまたは周方向分割砥石チップE〜H、及びM〜Pの順に軸線方向の所定の方向に向かって整列している。
【0039】
これにより、各4個(少なくとも3つ)の各周方向分割砥石チップA〜D、及びI〜Lまたは周方向分割砥石チップE〜H、及びM〜Pの各軸線方向境界部は、周方向において常に2本の境界部が軸方向で互い違いに配置されるだけの従来技術に対し、外周面の周方向に向かって、軸線方向に大きな幅を有して連続的に配置される。このため、性状が異なるため発生する第一砥石チップ11と第二砥石チップ12との間の摩耗による段差は、従来技術における、性状が異なるため発生する2種類の砥石層の間の摩耗による段差より緩やかなものにでき、延いては工作物Wの仕上げ精度も良好なものとすることができる。
【0040】
また、第一、第二砥石チップ11、12の各性状(砥石の粒径、硬度、結合材の種類など)の異なり度合いによって、第一砥石チップ11と第二砥石チップ12との間に発生する摩耗による段差の度合いに差が生じる。このときには、砥石車10の周方向に連続して配置される分割砥石チップA〜Pの各軸線方向境界部の軸方向位置の変化量を段差の度合いに応じて変更すればよい。例えば、段差が大き過ぎるときには、各軸線方向境界部の軸方向位置の変化量、即ち、周方向で隣り合う各軸線方向境界部の軸線方向におけるオーバーラップの各所定量αを小さくし、かつ軸方向における軸線方向境界部の変化幅をより広げるよう変更すればよい。また、段差が小さいときには、各軸線方向境界部の軸方向位置の変化量である軸線方向のオーバーラップの各所定量αを大きくしてもよい。このようにすることで、摩耗による砥石層16の段差を効率的に分散でき、工作物Wの仕上げ精度をより良好なものとすることができる。
【0041】
また、第一実施形態によれば、第一砥石チップ11は、砥粒の粒径が大きくて硬度が高く、第二砥石チップ12は、砥粒の粒径が小さくて硬度が低く、第一砥石チップ11は、砥石層16の軸線方向の両端部に配置され、第二砥石チップ12は、砥石層16の軸線方向の中央部に配置されている。
【0042】
これにより、例えば、外周全周に凹部を備えた円柱状の工作物Wの凹部を研削する際、良好に研削できる。つまり、研削量が多く研削抵抗の大きな凹部の内側側面は、砥粒の粒径が大きく硬度が高い第一砥石チップ11による砥石層16によって研削するので、砥石層16の摩耗が抑制される。また、研削抵抗が小さな凹部の底面を砥粒の粒径が小さく硬度が低い第二砥石チップ12による砥石層16によって研削するので、仕上げ精度が向上する。
【0043】
また、第一実施形態によれば、砥石層16は、円筒部(C部)と、円筒部(C部)の両端に配置される各R部とを備え、第一砥石チップ11は、各R部の一部に配置され、第二砥石チップ12は、円筒部及び各R部の残りの一部に配置され、軸線方向境界部は、各R部の一部に配置される。このとき、各R部の一部は工作物Wの円筒外周面に直接接触しない。このため、各R部の一部に形成される軸線方向境界部に摩耗による段差が発生しても、工作物Wの円筒外周面には段差が転写されず、仕上げ精度が良好となる。
【0044】
また、第一実施形態によれば、各軸線方向境界部は軸線方向に所定の幅を有し、当該所定の幅の中には各軸線方向境界部の軸線方向両端に配置された性状の異なる第一、第二砥石チップ11、12の各砥粒が混在して混合部18a〜18pを形成する。
【0045】
混合部18a〜18pでは、性状の異なる2種の砥粒14、19が混在しているので、混合部18a〜18pの摩耗量は混合部18a〜18pの軸線方向両側の各第一、第二砥石チップ11、12の各摩耗量の間の大きさとなる。このため、摩耗後において、混合部18a〜18pは、混合部18a〜18pの両側の各第一、第二砥石チップ11、12を緩やかな傾斜で接続し、各第一、第二砥石チップ11、12間における急傾斜な段差の発生を効果的に抑制する。
【0046】
また、第一実施形態によれば、各混合部18a〜18pは円板状ベース13(円板状部材)の外周面の周方向において隣接する混合部との軸線方向におけるオーバーラップ量(所定量α)が変化される。
【0047】
このように、各混合部18a〜18p間のオーバーラップの所定量αを変化させることによって、軸線方向境界部を円板状ベース13の外周面の周方向に連続的に接続する形状を外周面の周方向に向かって所望の形状にできる。例えば、各混合部18a〜18pの軸線方向の各中央位置における周方向の各中点を各混合部18a〜18pの添え字のアルファベット順に滑らかにつないだ際、つないだ曲線がSINカーブを形成するようオーバーラップの所定量αを調整して各混合部18a〜18pを配置してもよい。これにより、摩耗によって、性状が異なる第一砥石チップ11と第二砥石チップ12との間で発生する段差を、所望の形状、大きさとすることができ、延いては工作物Wの仕上げ精度が非常に良好なものとなる。また、上記効果と、段差を緩やかな傾斜とする各混合部18a〜18p自体が有する効果とが複合されると、その効果はさらに大きくなる。
【0048】
<第二実施形態>
次に、第二実施形態について説明する。第二実施形態は、第一実施形態に対して砥石車の研削対象である凹部に対する相対的な大きさが異なるのみである。第一実施形態では、砥石車10は外周の凹部よりも大きな断面形状を有した総形の研削砥石とした。しかし、第二実施形態では、砥石車110は、
図7に示すように、凹部内に収容可能な大きさである。なお、砥石車110の構成は、第一実施形態の砥石車10と同様である。よって、同様の構成には、第一実施形態と同様の符号を付して説明する。
【0049】
砥石車110によって工作物Wを研削する場合について説明する。前述したとおり、工作物Wはクランクシャフトであり、研削対象はクランクシャフトの凹部である。
図7に示すように、砥石車110は、軸線方向において、凹部内に収容可能な大きさで形成されている。このため、砥石車110は、凹部の軸線方向両側面46,47を研削によって除去加工するため、
図7に示す矢印Ar1,矢印Ar2の方向にそれぞれ切り込む。つまり、砥石車110は、摩耗しにくい第一砥石チップ11を備えた軸線方向両端部(R部)で、凹部の両側面46、47を除去加工する。そして、両側面46、47の除去加工が終了すると、砥石車110の外周面が凹部の底面(外周面)に到達し、摩耗し易い第二砥石チップ12を備えた砥石車110の外周面の円筒部(C部)によって凹部の底面の仕上げ研削加工が行なわれる。上記以外は、すべて第一実施形態と同様である。このような態様によっても、第一実施形態と同様の効果が得られる。
【0050】
なお、上記第一および第二実施形態における砥石車10の製造方法では、円板状ベース13(円板状部材)の外周面に、すでに形成された16個(複数)の各周方向分割砥石チップA〜Pを配置することにより砥石層16を形成した。しかし、このような製造方法に限らず、各周方向分割砥石チップA〜Pを予め形成せず、周方向分割砥石チップA〜Pを構成する第一及び第二砥石チップ11,12を外周面に別々に貼り付けて製造してもよい。この場合、周方向分割砥石チップA〜Pは、混合部18a〜18pを備えず、幅及び実体を有さない軸線方向境界部のみを備えることとなる。つまり第一砥石チップ11と第二砥石チップ12とを混合部18a〜18pを介在させずに隣接させることとなる。これによっても、相応の効果は得られる。
【0051】
また、各周方向分割砥石チップA〜Pの混合部18a〜18pを本実施形態とは異なる製造方法で製造してもよい。つまり、混合部18a〜18pを単体でプレスし製造して、第一砥石チップ11と第二砥石チップ12との間に介在させてもよい。これによっても上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0052】
また、第一および第二実施形態においては、周方向分割砥石チップを周方向に16個配置したが、これより多くてもよいし、少なくてもよい。
【0053】
また、第一および第二実施形態においては、
図1Bに示すように、第一砥石チップ11と第二砥石チップ12との間に形成される各混合部18a〜18p(軸線方向境界部)は、砥石層16の両端の各R部の一部に設けられている。しかし、この態様には限らない。各混合部18a〜18pは、各R部の残りの一部、または円筒部に設けられていてもよい。これによっても相応の効果は得られる。
【0054】
また、第一および第二実施形態においては、1種類の材質で形成された工作物Wに対し、研削抵抗の異なる形状部位に応じて2種類の第一,第二砥石チップ11,12を組み合わせて砥石車10,110を構成した。しかし、この態様には限らず、複数の種類の材質が継ぎ合わされた工作物に対して、各材質に応じた各砥石チップを組み合わせて砥石車を構成してもよい。これによっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。