(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398692
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】高電子移動度トランジスタ及び高電子移動度トランジスタの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/338 20060101AFI20180920BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20180920BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20180920BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20180920BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20180920BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20180920BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20180920BHJP
H01L 21/283 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L29/80 Q
H01L29/78 618E
H01L29/78 619A
H01L29/78 617M
H01L29/78 627F
H01L29/78 301B
H01L29/78 301N
H01L29/78 301G
H01L21/28 301A
H01L21/283 C
H01L21/28 B
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-256968(P2014-256968)
(22)【出願日】2014年12月19日
(65)【公開番号】特開2016-119349(P2016-119349A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 誠一
【審査官】
市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】
再公表特許第2014/185034(JP,A1)
【文献】
特開2009−218266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/338
H01L 21/28
H01L 21/283
H01L 21/336
H01L 29/778
H01L 29/78
H01L 29/786
H01L 29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に積層されたバッファ層と、
前記バッファ層の上に積層されたチャネル層と、
前記チャネル層の上に積層された障壁層と、
前記障壁層の上に形成された各電極である、ソース、ドレイン、ゲートと、を有し、前記チャネル層と前記障壁層とがヘテロ接合されている高電子移動度トランジスタであって、
前記ソースと前記ドレインと前記ゲートを含む前記障壁層の上には、絶縁膜が積層されており、前記絶縁膜が積層された後、所定の熱処理が施されて前記絶縁膜は積層時に対して収縮した状態とされており、
前記ゲートは、形成時ではアモルファスシリコンもしくはポリシリコンにて形成されており、前記所定の熱処理によって結晶化が進んで形成時に対して膨張した形状を有している、
高電子移動度トランジスタ。
【請求項2】
請求項1に記載の高電子移動度トランジスタであって、
前記絶縁膜は、SiN、またはSiON、のいずれかにより構成されている、
高電子移動度トランジスタ。
【請求項3】
基板の上に積層されたバッファ層と、
前記バッファ層の上に積層されたチャネル層と、
前記チャネル層の上に積層された障壁層と、
前記障壁層の上に形成された各電極である、ソース、ドレイン、ゲートと、を有し、前記チャネル層と前記障壁層とがヘテロ接合されている高電子移動度トランジスタの製造方法であって、
前記ソースと前記ドレインと前記ゲートを含む前記障壁層の上に絶縁膜を積層し、
前記絶縁膜を積層した後、所定の熱処理を施して前記絶縁膜を収縮させて、前記障壁層に、前記絶縁膜の収縮による応力を印加して当該応力による歪を蓄積させ、
前記ゲートの形成時において、前記ゲートをアモルファスシリコンもしくはポリシリコンにて形成し、前記所定の熱処理によって前記ゲートの結晶化が進むとともに膨張させ、前記障壁層に、前記ゲートの膨張による応力を印加して当該応力による歪を蓄積させる、
高電子移動度トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor、いわゆるHEMT)、及び高電子移動度トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チャネル層と障壁層をヘテロ接合し、ヘテロ接合界面に形成される電子のたまり場である二次元電子ガスをキャリアとする高電子移動度トランジスタが知られている。高電子移動度トランジスタは、高純度のチャネル層内でキャリアが不純物の邪魔を受けることなく高速で移動することが可能であり、雑音も少ないので、種々の用途に利用されている。
【0003】
例えば特許文献1には、GaNまたはInGaNからなるチャネル層と、AlNからなる障壁層とを含むヘテロ界面を構成する層と、トランジスタ素子表面に形成された絶縁膜を有する電界効果トランジスタ、及びこの電界効果トランジスタの製造方法が開示されている。特許文献1に記載の発明では、AlNからなる障壁層の膜厚を非常に薄くして分極効果をより大きくするとともに、障壁層の膜厚を薄くしたことによる障壁層の表面電荷の影響によって分極効果によって大きくした二次元電子濃度が小さくされることとチャネル層の抵抗が増大することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−234986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高電子移動度トランジスタにて制御する電流量をより増大させる方法としては、キャリア密度(二次元電子濃度)を増大させる方法と、移動度(移動速度)を増大させる方法の2通りが考えられ、本願ではキャリア密度の増大方法に着目している。例えばAlNからなる障壁層におけるAlの割合を増大させるとキャリア密度を増大させることができるが、Alの割合を増大させていくと、障壁層に欠陥が発生しやすくなるので、あまり好ましくない。またチャネル層と障壁層の各層の格子定数の不整合等に伴う歪をより大きくすると分極の効果をより大きくすることが可能であり、キャリア密度をより増大させることができる。
【0006】
特許文献1に記載の発明では、AlNからなる障壁層の膜厚を非常に薄くすることで、分極効果をより大きくしているが、障壁層の上面(ゲートが形成されている面)と下面(チャネル層との境界面)との距離が非常に接近してしまうので、障壁層の上面の電荷による二次元電子への影響が大きくなってしまっている。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、障壁層の膜厚を非常に薄くすることなく、キャリア密度をより増大させることができる高電子移動度トランジスタ、及び当該高電子移動度トランジスタの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る高電子移動度トランジスタ及び高電子移動度トランジスタの製造方法は、次の手段をとる。まず、本発明の第1の発明は、基板の上に積層されたバッファ層と、前記バッファ層の上に積層されたチャネル層と、前記チャネル層の上に積層された障壁層と、前記障壁層の上に形成された各電極である、ソース、ドレイン、ゲートと、を有し、前記チャネル層と前記障壁層とがヘテロ接合されている高電子移動度トランジスタである。そして、前記ソースと前記ドレインと前記ゲートを含む前記障壁層の上には、絶縁膜が積層されており、前記絶縁膜が積層された後、所定の熱処理が施されて前記絶縁膜は積層時に対して収縮した状態とされている。
【0009】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る高電子移動度トランジスタであって、前記ゲートは、形成時ではアモルファスシリコンもしくはポリシリコンにて形成されており、前記所定の熱処理によって結晶化が進んで形成時に対して膨張した形状を有している。
【0010】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明または第2の発明に係る高電子移動度トランジスタであって、前記絶縁膜は、SiN、またはSiON、のいずれかにより構成されている。
【0011】
次に、本発明の第4の発明は、基板の上に積層されたバッファ層と、前記バッファ層の上に積層されたチャネル層と、前記チャネル層の上に積層された障壁層と、前記障壁層の上に形成された各電極である、ソース、ドレイン、ゲートと、を有し、前記チャネル層と前記障壁層とがヘテロ接合されている高電子移動度トランジスタの製造方法であって、前記ソースと前記ドレインと前記ゲートを含む前記障壁層の上に絶縁膜を積層し、前記絶縁膜を積層した後、所定の熱処理を施して前記絶縁膜を収縮させて、前記障壁層に、前記絶縁膜の収縮による応力を印加して当該応力による歪を蓄積させる、高電子移動度トランジスタの製造方法である。
【0012】
次に、本発明の第5の発明は、上記第4の発明に係る高電子移動度トランジスタの製造方法であって、前記ゲートの形成時において、前記ゲートをアモルファスシリコンもしくはポリシリコンにて形成し、前記所定の熱処理によって前記ゲートの結晶化が進むとともに膨張させ、前記障壁層に、前記ゲートの膨張による応力を印加して当該応力による歪を蓄積させる、高電子移動度トランジスタの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、障壁層の上に積層した絶縁膜が、積層時に対して収縮した状態とされていることで、当該絶縁膜の残留応力をあえて大きく残している。この絶縁膜の収縮による残留応力にて、障壁層に応力を印加して歪を増大させることができる。そして障壁層の歪を増大させることで、キャリア密度をより増大させることができる。
【0014】
第2の発明によれば、障壁層の上に形成したゲートが、形成時に対して膨張した形状である。このゲートの膨張形状による応力を障壁層に印加して歪を増大させることができる。そして障壁層の歪を増大させることで、キャリア密度をより増大させることができる。
【0015】
第3の発明によれば、障壁層の材質等に応じて、より適切な絶縁膜を、より容易に積層することができる。
【0016】
第4の発明によれば、障壁層の上に積層した絶縁膜を、積層時に対して収縮した状態とすることで、当該絶縁膜の残留応力をあえて大きく残し、この絶縁膜の収縮による残留応力にて、障壁層に応力を印加して歪を増大させることができる。そして障壁層の歪を増大させることで、キャリア密度をより増大させる、高電子移動度トランジスタの製造方法を提供することができる。
【0017】
第5の発明によれば、ゲートの膨張形状による応力を障壁層に印加して、障壁層の歪をさらに増大させ、キャリア密度をさらに増大させる、高電子移動度トランジスタの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の高電子移動度トランジスタの各層を説明する断面図の例である。
【
図2】高電子移動度トランジスタを製造するための各工程を説明する図である。
【
図3】本発明の高電子移動度トランジスタの製造方法によって製造された高電子移動度トランジスタの障壁層の歪が増大される様子、及びキャリア密度が増大される様子を説明する図である。
【
図4】
図3に対して、従来の高電子移動度トランジスタ(残留応力を持つ絶縁膜を有していない高電子移動度トランジスタ)のキャリア密度の様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて順に説明する。
●[高電子移動度トランジスタの全体構造(
図1)]
図1に示すように、本発明の高電子移動度トランジスタ1は、基板11と、バッファ層12と、チャネル層13と、障壁層14と、各電極であるソース21とドレイン22とゲート23と、絶縁膜15、とを有している。
【0020】
基板11は、例えばサファイアやSiC(炭化ケイ素)を材質とした板状の部材であり、既存の基板が利用される。
【0021】
バッファ層12は、基板11の上に積層されて基板11とチャネル層13との間に配置され、チャネル層13を欠陥なく積層するための緩衝用の層である。バッファ層12の材質は、例えばAlN(窒化アルミニウム)である。
【0022】
チャネル層13は、バッファ層12の上に積層され、障壁層14との境界の近傍にヘテロ界面を形成する層である。またチャネル層13には不純物がドープされず、高純度な材質で形成されており、例えばGaN(窒化ガリウム)にて形成されている。またチャネル層13は、障壁層14にて発生したキャリアが移動する層であり、不純物がドープされていないので、キャリアは高速で移動することができる。チャネル層13の厚さは、例えば1[μm]に形成される。
【0023】
障壁層14は、チャネル層13の上に積層され、例えばエピタキシャル成長等にて形成されてチャネル層13とヘテロ接合された層である。例えばチャネル層13の材質がGaNである場合、障壁層14の材質にはAlGaN(アルミ窒化ガリウム)が用いられ、Al(アルミニウム)の割合は適宜選定される。このAlの割合を増加させることで、チャネル層13のキャリアの密度を増大させることができるが、Alの割合を増大させていくと、障壁層14に欠陥が発生しやすくなる。従って、Alの割合は、障壁層14を安全に形成できる割合に設定されている。障壁層14の厚さは、例えば30[nm]に形成される。
【0024】
ソース21、ドレイン22は、例えばAlを材質とした電極であり、スパッタリング法等にて形成されている。またソース21、ドレイン22の電極はオーミック電極として形成され、ゲート23の電極は、障壁層14の半導体に接合されたショットキー電極として形成される。このゲート23については、ショットキー電極ではなく、SiN(窒化ケイ素)、SiO
2(二酸化ケイ素)、SiON(酸窒化シリコン)、Al
2O
3(酸化アルミニウム)、AlN等の絶縁膜上にアモルファスシリコンもしくはポリシリコンを材質とした電極としてもよい。ゲート23をアモルファスシリコンもしくはポリシリコンにて形成した場合、比較的安価に、比較的容易にゲート23を形成することができる。
【0025】
絶縁膜15は、ソース21とドレイン22とゲート23を含む障壁層14の上に積層され、絶縁性を有する膜(層)であり、SiN(窒化ケイ素)、またはSiON(酸窒化シリコン)、のいずれかの材質にて構成されている。絶縁膜15の厚さは、例えば100[nm]に形成される。
【0026】
高電子移動度トランジスタは、高純度のチャネル層の上に障壁層をヘテロ接合にて積み重ねることで、格子定数の不整合に起因する引張歪を障壁層に印加してピエゾ分極を発生させている。そして、当該ピエゾ分極にて、チャネル層と障壁層との境界近傍のヘテロ界面に高移動度のキャリア(二次元電子ガス)を発生させている。この歪を増大させる方法として、障壁層の不純物(AlGaNの場合はAl)の比率を増加させる方法があるが、Alの比率を増大させていくと、上述したとおり、障壁層に欠陥を生じてキャリアの移動度が低下するので、あまり好ましくない。従って、障壁層の不純物の比率の増大による歪の印加には限度がある。
【0027】
本発明の高電子移動度トランジスタ1は、以上に説明したように
図1に示す各層が形成された後、絶縁膜15の残留応力をあえて大きく残すことで、障壁層14の歪を増大させ、キャリア密度を増大させる。具体的には、所定の熱処理を施して、絶縁膜15を、積層時に対して収縮した状態とすることで、絶縁膜15の残留応力を大きくする(
図3参照)。また、ゲート23を、形成時にアモルファスシリコンもしくはポリシリコンで形成した場合、上記の熱処理による結晶化によって、ゲート23は体積を増大させて膨張した形状となる。ゲート23が膨張すると、
図3に示すように、障壁層14の湾曲を助長する方向の力が働き、障壁層14の歪をさらに増大させ、キャリア密度をさらに増大させる。以下に、本発明の高電子移動度トランジスタ1の製造方法について説明する。
【0028】
●[高電子移動度トランジスタの製造方法(
図2)]
次に
図2を用いて、高電子移動度トランジスタ1の製造方法について説明する。最初の工程のステップS10では、用意した基板11の上に、バッファ層12を積層する。また次の工程であるステップS20では、バッファ層12の上にチャネル層13を積層する。また次の工程であるステップS30では、チャネル層13の上に障壁層14を積層する。以上の工程は、既存の工程と同様の工程である。
【0029】
次の工程であるステップS40では、障壁層14の上に、ソース21、ドレイン22、ゲート23、の各電極をスパッタリング法等にて形成する。ゲート23をAlにて形成する場合は、既存の工程と同様の工程にて形成することができる。またゲート23をアモルファスシリコンもしくはポリシリコンにて形成する場合は、ソース21及びドレイン22を形成した後、または形成する前に、CVD法等を用いてゲート23を形成する。
【0030】
次の工程であるステップS50では、ソース21、ドレイン22、ゲート23を含む障壁層14の上に、絶縁膜15を積層する。なお、絶縁膜15には、収縮量をより大きくするために、密度が比較的小さい(含有されている水素の量が多い)ものを採用することが、より好ましい。また製膜の温度は、例えば200[℃]〜400[℃]程度であり、製膜の方法には、スパッタリング法やプラズマCVD等を用いることができる。
【0031】
そして次の工程であるステップS60では、ダイシングにてウエハを切断して各チップ(各半導体素子)を切り出す。そして次の工程であるステップS70では、各チップを電気炉や熱風乾燥機等に入れて、所定時間の間、所定温度で加熱した後、徐々に常温まで温度を下げる熱処理を施す。例えば数[分]程度の時間、800[℃]〜1000[℃]程度の温度で加熱した後、常温雰囲気中で温度を下げる。この熱処理には、例えば樹脂成形品の歪を除去するための、いわゆるアニール処理を適用することができる。なお、樹脂成形品にアニール処理を施した場合は、樹脂成形品の残留歪を除去することができるが、本発明の高電子移動度トランジスタにアニール処理を施した場合では、障壁層14に積層した(貼り付けた)絶縁膜15を、障壁層14に貼り付いた状態を維持させながら熱によって収縮させ、絶縁膜15に残留応力(残留歪)を発生させる。なお、ステップS60の工程と、ステップS70の工程の順序を入れ替えてもよい。またチャネル層13と障壁層14とのヘテロ接合は、分子結晶どうしが結合されているので結合力が強く、絶縁膜15の残留応力によって、チャネル層13と障壁層14とが破断することはない。また、ゲート23がアモルファスシリコンもしくはポリシリコンで形成されている場合、上記のアニール処理を施すと、アモルファス状態であったゲートの結晶化が進んで体積が増大して膨張する。
【0032】
次の工程であるステップS80はパッケージングであり、チップをフレームにマウントし、各電極をワイヤボンディングで配線接続し、樹脂等にてモールドする。
【0033】
●[障壁層14の歪の蓄積が増大する様子と、キャリア密度が増大する様子(
図3、
図4)]
図2に示す製造方法にて製造した高電子移動度トランジスタ1の絶縁膜15は、
図2に示すステップS70の熱処理によって、積層時に対して収縮した状態とされるので、
図3に示すように、絶縁膜15には収縮方向の残留応力が蓄積されている。この絶縁膜15の残留応力は、
図3に示す障壁層14の上面を反り返らせる力として働き、障壁層14の下面にも反り返らせる力が働く。この絶縁膜15の残留応力による反り返らせる力が働いた状態のイメージを、
図3において点線で示した仮想障壁層イメージV14に示す。障壁層14の形状を仮想障壁層イメージV14の形状へと変形させようとする絶縁膜15の残留応力により、障壁層14の下面では、引張歪が増大する。さらに、ゲート23をアモルファスシリコンもしくはポリシリコンで形成した場合、ステップS70の熱処理によって、アモルファス状態から結晶化が進んで体積が増大して膨張する。
図3において、ゲート23の体積が増大して膨張すると、仮想障壁層イメージV14の上方向に反り返った形状の曲率をさらに大きくすることを助長する力(
図3において障壁層14を下方向に押し付ける力)が働くので、引張歪をさらに増大することができる。また、ゲート23は、通常、高電子移動度トランジスタ1のチップの中央近傍(
図3において、左右方向における中央近傍)に配置されているので、適切な位置で、膨張によって発生した応力を、障壁層14に印加することができる。
【0034】
図4に示す従来の高電子移動度トランジスタ100(残留応力を持つ絶縁膜を有していない高電子移動度トランジスタ)では、障壁層114の下面には、チャネル層113との格子定数の違いによる引張歪に起因するピエゾ分極によって、障壁層114の下面に正の固定電荷131が発生し、当該正の固定電荷131に誘起された自由電荷132(キャリア)が発生する。そして発生した自由電荷132は、チャネル層113内で高速移動することができる。しかし
図3に示す本願と比較して、障壁層114の引張歪が小さいので、発生するキャリア(自由電荷132)は、
図3に示す本願にて発生するキャリア(自由電荷32)よりも少ない。
【0035】
これに対して、
図3に示す本発明の高電子移動度トランジスタ1は、
図4に示す従来の高電子移動度トランジスタ100に対して、ソース21、ドレイン22、ゲート23を含む障壁層14の上に、収縮状態とされて残留応力が蓄積された絶縁膜15を有している。そして、この絶縁膜15の残留応力、及びゲート23の膨張による応力によって、障壁層14の下面の引張歪が増大(蓄積)されている。この増大(蓄積)された引張歪によって、障壁層14の下面に発生する正の固定電荷31が増大され、当該正の固定電荷31に誘起された自由電荷32(キャリア)が増大される。そして増大した自由電荷32は、チャネル層13内で高速移動することができる。
【0036】
以上、本発明の高電子移動度トランジスタ1は、障壁層14に、格子定数の不整合に起因する引張歪に加えて、絶縁膜15の収縮に伴う残留応力及びゲート23の膨張に伴う応力による機械的な引張歪を印加することで、障壁層14の引張歪を増大(蓄積)させている。つまり、障壁層14の上に積層した(貼り付けた)絶縁膜15を、所定の熱処理にて、貼り付いた状態を維持させながら収縮させて、絶縁膜15の収縮によって発生させた残留応力(及びゲート23の膨張によって発生させた応力)を障壁層14に伝達して障壁層14の歪を増大させることでキャリアを増大させることができる。従って、非常にシンプルな構造、及び非常にシンプルな製造方法にて、障壁層の膜厚を非常に薄くすることなく、高電子移動度トランジスタのキャリア密度を増大させることができる。
【0037】
本発明の高電子移動度トランジスタの構成、構造、材質、製造方法等は、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、基板の材質、バッファ層の材質、チャネル層の材質、障壁層の材質は、本実施の形態にて説明した材質に限定されるものではない。
【0038】
また、本実施の形態の説明に用いた数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0039】
1 高電子移動度トランジスタ
11 基板
12 バッファ層
13 チャネル層
14 障壁層
15 絶縁膜
21 ソース
22 ドレイン
23 ゲート
31 正の固定電荷
32 自由電荷
V14 仮想障壁層イメージ