特許第6398704号(P6398704)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398704
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】インバータ装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20180920BHJP
【FI】
   H02M7/48 Z
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-262934(P2014-262934)
(22)【出願日】2014年12月25日
(65)【公開番号】特開2016-123235(P2016-123235A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】倉持 怜士
(72)【発明者】
【氏名】六浦 圭太
【審査官】 小林 秀和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−335625(JP,A)
【文献】 特表2014−529192(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/145919(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/146993(WO,A1)
【文献】 特開2008−078844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流と交流との間で電力を変換する電力変換回路と、前記電力変換回路を制御する制御ユニットと、前記電力変換回路及び前記制御ユニットを収容する収容室を内部に形成するケースと、直流電源の正極及び負極にそれぞれ接続される正極端子及び負極端子を備えた直流電源コネクタと、を備えて、直流と交流との間で電力を変換するインバータ装置であって、
前記直流電源の正極及び負極とは異なる電位であるフレームグラウンドに接続されたシールド部材と、
前記正極端子と前記フレームグラウンドとの間に接続されたバイパスコンデンサ、及び、前記負極端子と前記フレームグラウンドとの間に接続されたバイパスコンデンサを有して構成されたコモンモードバイパスコンデンサと、
前記コモンモードバイパスコンデンサとは別体で構成され、前記電力変換回路の直流側の電圧である直流リンク電圧を平滑化する直流リンクコンデンサと、をさらに備え、
前記ケースは、前記収容室と外部とを仕切る隔壁部を備え、
前記直流電源コネクタは、前記隔壁部において、前記電力変換回路が配置された配置面に直交する方向に見て前記制御ユニットと重複する位置に取り付けられ、
前記収容室内に、前記直流電源コネクタの側から、前記制御ユニット、前記電力変換回路、前記直流リンクコンデンサが、順に前記配置面に直交する方向に沿って配置され、
前記シールド部材は、前記コモンモードバイパスコンデンサと一体化され、前記直流電源コネクタと前記制御ユニットとの間に配置されると共に、前記配置面に直交する方向に見て、前記直流電源コネクタと前記制御ユニットとが重複する領域を覆うように配置されているインバータ装置。
【請求項2】
前記シールド部材は、少なくとも2層の配線層を有する基板を備え、
前記配線層の内の1層には、基板面に沿って面状に広がる同電位の均一パターンが形成されて、当該均一パターンが前記フレームグラウンドに接続され、
前記配線層の内の別の1層には、前記コモンモードバイパスコンデンサの部品実装ランド、及び、前記正極端子、前記負極端子、並びに前記フレームグラウンドと前記コモンモードバイパスコンデンサとを電気的に接続する回路配線パターンが形成され、
前記コモンモードバイパスコンデンサは、前記部品実装ランドが形成された基板面に表面実装されている請求項1に記載のインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流と交流との間で電力を変換するインバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第5051456号公報(特許文献1)には、ハイブリッド駆動装置におけるインバータ装置(制御ユニット(4))が開示されている。尚、背景技術の説明において、括弧内の符号は、特許文献1の引用符号を示す。制御ユニット(4)は、インバータケース(10)と、カバー(39)とにより内包される空間に、インバータ(5)を構成するスイッチングモジュール(31,32)や、インバータ(5)を制御する制御基板(33)を収容して構成されている(特許文献1:図3図4等)。具体的には、図示の上方から順に、カバー(39)、制御基板(33)、直流リンクコンデンサ(平滑コンデンサ(34))、スイッチングモジュール(31,32)が配置されている。直流電源(バッテリ(71))と制御ユニット(4)とは、制御ユニット(4)の上下方向の中央付近の側方において接続されている。具体的には、バスバー(46)及びノイズフィルタ(35)を介して、制御ユニット(4)とバッテリ(71)とが接続されている(特許文献1:図4図5等)。
【0003】
バッテリとハイブリッド駆動装置とを結ぶ電力配線は、ハイブリッド駆動装置に設けられたコネクタに接続される。特許文献1の場合には、このコネクタは、制御ユニット(4)の上下方向の中央付近の側方に配置されているバスバー(46)に対応して、制御ユニット(4)の側面に設けられると解される。しかし、ハイブリッド駆動装置の車両内における搭載位置や搭載スペースなどの制約から、コネクタを側面に設けることが好ましくない場合がある。例えば、制御ユニット(4)の上面(特許文献1におけるカバー(39)の上)に、コネクタを配置することが望まれる場合がある。特許文献1の構造の場合には、高電圧・大電流のコネクタが制御基板(33)の近傍に配置されることとなり、コネクタの直下の制御基板(33)に強い電磁ノイズが浴びせられる可能性がある。また、ノイズフィルタ(35)のようなフィルタ(例えば、コモンモードノイズを除去するためのコモンモードバイパスコンデンサなど)を、特許文献1のノイズフィルタ(3)と同等の場所に設置したり、平滑コンデンサ(34)と併設したりすると、コネクタからの配線距離が長くなり、ノイズの低減効果が低下する。また、このフィルタ(コモンモードバイパスコンデンサ)をコネクタと共に制御ユニット(4)の上面に配置すると、ハイブリッド駆動装置やインバータ装置の小型化が損なわれる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5051456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景に鑑みて、インバータ装置を構成するに際して、電力変換回路が配置された配置面に直交する方向に沿って、直流電源コネクタ、電力変換回路の制御回路、電力変換回路が順に並ぶ場合に、直流電源による制御回路への電磁ノイズの影響を低減させると共に、装置規模の大型化を抑制することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた、インバータ装置の特徴構成は、
直流と交流との間で電力を変換する電力変換回路と、前記電力変換回路を制御する制御ユニットと、前記電力変換回路及び前記制御ユニットを収容する収容室を内部に形成するケースと、直流電源の正極及び負極にそれぞれ接続される正極端子及び負極端子を備えた直流電源コネクタと、を備えて、直流と交流との間で電力を変換するインバータ装置であって、
前記直流電源の正極及び負極とは異なる電位であるフレームグラウンドに接続されたシールド部材と、
前記正極端子と前記フレームグラウンドとの間に接続されたバイパスコンデンサ、及び、前記負極端子と前記フレームグラウンドとの間に接続されたバイパスコンデンサを有して構成されたコモンモードバイパスコンデンサと、をさらに備え、
前記ケースは、前記収容室と外部とを仕切る隔壁部を備え、
前記直流電源コネクタは、前記隔壁部に取り付けられ、
前記収容室内に、前記直流電源コネクタの側から、前記制御ユニット、前記電力変換回路が、順に配置され、
前記シールド部材は、前記コモンモードバイパスコンデンサと一体化され、前記直流電源コネクタと前記制御ユニットとの間に配置されると共に、前記電力変換回路が配置された配置面に直交する方向に見て、前記直流電源コネクタと前記制御ユニットとが重複する領域を覆うように配置されている点にある。
【0007】
この構成によれば、直流電源コネクタと制御ユニットとの間にシールド部材が配置され、且つ、このシールド部材は、電力変換回路が配置された配置面に直交する方向に見て直流電源コネクタと制御ユニットとが重複する領域を覆うように配置される。従って、高電圧が印加され、大電流が流れる直流電源コネクタから振幅やエネルギーの大きい電磁ノイズが放射されても、その電磁ノイズが制御ユニットに伝播して、制御ユニットに影響を与えることを、シールド部材による遮蔽効果により抑制することができる。また、コモンモードバイパスコンデンサは、電力変換回路の直流側の正負両極に共通する同相ノイズ(コモンモードノイズ)の抑制に効果的なフィルタとして機能する。このコモンモードバイパスコンデンサは、シールド部材と一体化されることによって、直流電源コネクタの近傍に配置される。コモンモードバイパスコンデンサは、回路網の入り口或いは出口に配置されることが好ましく、直流電源コネクタの近傍への配置は非常に適切である。また、シールド部材と一体的にコモンモードバイパスコンデンサが構成されることによって、コモンモードバイパスコンデンサの小型化や、設置空間の抑制も実現される。このように、本構成によれば、インバータ装置を構成するに際して、電力変換回路が配置された配置面に直交する方向に沿って、直流電源コネクタ、電力変換回路の制御回路、電力変換回路が順に並ぶ場合に、直流電源による制御回路への電磁ノイズの影響を低減させると共に、装置規模の大型化を抑制して、インバータ装置を構成することができる。
【0008】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する本発明の実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】車両用駆動装置の概略構成を示すブロック図
図2】回転電機を駆動する電気系統の模式的回路ブロック図
図3】車両用駆動装置におけるインバータ装置の搭載箇所の模式的な拡大断面図
図4】車両用駆動装置をインバータ装置の側より見た模式的な透視図
図5】シールド部材の模式的な拡大断面図
図6】比較例に係るインバータ装置の搭載箇所の模式的な拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態では、図1に示すように、車両の車輪Wの駆動力源として内燃機関E及び交流の回転電機MGの双方を備えた車両(ハイブリッド車両)における車両用駆動装置100(ハイブリッド車両用駆動装置)に搭載されるインバータ装置1(図2参照)を例として説明する。インバータ装置1は、図2等に示すように、高圧直流電源BH(直流電源)に接続されると共に交流の回転電機MGに接続されて、直流と交流との間で電力を変換する装置である。このため、インバータ装置1は、直流と交流との間で電力を変換するインバータ3(電力変換回路)と、インバータ3を制御するインバータ制御ユニット2(制御ユニット)とを備えている。構造的には、図3等に示すように、インバータ3及びインバータ制御ユニット2を収容するインバータ収容室6(収容室)を内部に形成するインバータケース5(駆動装置ケース4)と、高圧直流電源BH(直流電源)の正極BP及び負極BNにそれぞれ接続される正極端子TP1及び負極端子TN1を備えた直流電源コネクタCNと、を備えている。尚、以下の説明において、各部材についての方向や位置等は、製造上許容され得る誤差による差異を有する状態をも含むものである。また、各部材についての方向は、それらが車両用駆動装置100或いはインバータ装置1として、組み付けられた状態での方向を表す。
【0011】
車両用駆動装置100は、いわゆる1モータパラレル方式のハイブリッド車両用の駆動装置として構成されている。内燃機関Eは、ガソリンや軽油、エタノール、天然ガスなどの炭化水素系の燃料や水素などの爆発燃焼により動力を出力する熱機関である。本実施形態において、回転電機MGは、複数相の交流(例えば3相交流)により動作する回転電機(Motor/Generator)であり、電動機としても発電機としても機能することができる。回転電機MGは、図2を参照して後述するように、高圧直流電源BHから電力の供給を受けて力行し、又は、内燃機関Eのトルクや車両の慣性力により発電した電力を高圧直流電源BHに供給する(回生する)。共に車輪Wの駆動力源となり得る内燃機関Eと回転電機MGとは、駆動力源連結装置としてのクラッチCLを介して駆動連結されている。
【0012】
尚、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指す。具体的には、「駆動連結」とは、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等が含まれていてもよい。
【0013】
本実施形態では、車両用駆動装置100は、さらに変速装置TM、カウンタギヤ機構CG、差動歯車装置DFを備えている。即ち、図1に示すように、車両用駆動装置100には、内燃機関Eと車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に(即ち、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路に)、内燃機関Eの側から順に、クラッチCL、回転電機MG、変速装置TM、カウンタギヤ機構CG、差動歯車装置DF(出力用差動歯車装置)が設けられている。本実施形態では、クラッチCLから差動歯車装置DFまでの装置が、後述する駆動装置ケース4内に収容されている。
【0014】
図1に示すように、入力軸Iは、回転電機MGと共に車輪Wの駆動力源として機能する内燃機関Eに駆動連結される。例えば、内燃機関Eの出力軸(クランクシャフト等)に、入力軸Iが駆動連結される。内燃機関Eの出力軸と入力軸Iとは、ダンパ等を介して駆動連結されても良い。駆動力源連結装置としてのクラッチCLは、入力軸I(内燃機関E)と回転電機MGとを選択的に駆動連結する。即ち、クラッチCLは、2つの駆動力源、内燃機関Eと回転電機MGとを駆動連結したり、切り離したりする。例えば、クラッチCLは、油圧駆動式の摩擦係合装置や、電磁駆動式の摩擦係合装置、噛み合い式の係合装置等によって構成される。また、クラッチCLは、例えばトルクコンバータのロックアップクラッチであってもよい。
【0015】
回転電機MGは、入力軸Iと同軸に配置されている。回転電機MGは、駆動装置ケース4に固定されたステータと、当該ステータの径方向内側に回転自在に支持されたロータとを有する。ステータは、ステータコアとステータコアに巻き回されたステータコイルとを含み、ロータは、ロータコアとロータコアに配置された永久磁石を含む。回転電機MGのロータは、中間軸Mと一体回転するように駆動連結されている。この中間軸Mは、変速装置TMの入力軸(変速入力軸)でもある。
【0016】
変速装置TMは、入力軸I及び回転電機MGと同軸に配置されている。変速装置TMは、複数の変速段を形成するために、遊星歯車機構等の歯車機構及び複数の係合装置(クラッチやブレーキ等)を備えた有段変速機構を有するものとして構成することができる。或いは、変速装置TMは、2つのプーリー(滑車)にベルトやチェーンを通し、プーリーの径を変化させることで連続的な変速を可能にする変速機構(無段変速機構(CVT:Continuously Variable Transmission))を有するものでもよい。また、変速装置TMは、変速比が固定されたギヤ機構であってもよい。即ち、変速装置TMは、入力軸の回転を変速して出力軸に伝達すると共に、変速比が可変の場合には、その変速比が変更可能に構成された変速機構を有していれば、その方式はどのようなものでもよい。尚、変速比は、変速装置TMにおいて各変速段が形成された場合の、出力軸の回転速度に対する入力軸の回転速度の比(=入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)である。変速装置TMは、中間軸Mに入力される回転及びトルクを、各時点における変速比に応じて変速するとともにトルク変換して、当該変速装置TMの出力部材(変速出力部材)である変速出力ギヤGoに伝達する。
【0017】
変速出力ギヤGoは、カウンタギヤ機構CGに駆動連結されている。カウンタギヤ機構CGは、入力軸I等と回転軸心が平行状であって別軸に配置されている。尚、「平行状」とは、平行な状態、又は実質的に平行とみなせる状態(例えば5°以下の角度で並行する状態)を意味する。例えば、カウンタギヤ機構CGは、共通の軸部材にそれぞれ形成された2つのギヤを有する。一方のギヤは、変速装置TMの変速出力ギヤGoに噛み合い、他方のギヤは、差動歯車装置DFの差動入力ギヤGiに噛み合っている。
【0018】
差動歯車装置DFは、入力軸I等及びカウンタギヤ機構CGと回転軸心が平行状であって別軸に配置されている。差動歯車装置DFは、出力部材としての出力軸Oを介して車輪Wに駆動連結されている。差動歯車装置DFは、互いに噛合する複数の傘歯車を含んで構成され、差動入力ギヤGiに入力される回転及びトルクを、左右2つの出力軸O(即ち、左右2つの車輪W)に分配して伝達する。これにより、車両用駆動装置100は、内燃機関E及び回転電機MGの少なくとも一方のトルクを車輪Wに伝達させて車両を走行させることができる。
【0019】
図2に示すように、複数相の交流(ここでは3相交流)により動作する回転電機MGは、インバータ3を介して高圧直流電源BHに電気的に接続されている。高圧直流電源BHの電源電圧は、例えば200〜400[V]である。高圧直流電源BHは、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタなどである。高圧直流電源BHは、インバータ3を介して回転電機MGに電力を供給可能であると共に、回転電機MGが発電して得られた電力を蓄電可能である。インバータ3と高圧直流電源BHとの間には、インバータ3の直流側の正負両極間電圧(直流リンク電圧Vdc)を平滑化する平滑コンデンサ(直流リンクコンデンサCdc)が備えられている。直流リンクコンデンサCdcは、回転電機MGの消費電力の変動に応じて変動する直流電圧(直流リンク電圧Vdc)を安定化させる。
【0020】
本実施形態では、直流リンクコンデンサCdcは、正極端子TP1と負極端子TN1との間に接続されている。また、本実施形態では、直流リンクコンデンサCdcは、例えば複数のコンデンサを接続したコンデンサモジュール50として構成されている。コンデンサモジュール50は、高圧直流電源BHの側の正負両極、及びインバータ3の側の正負両極に接続されるように構成されている。つまり、コンデンサモジュール50は、高圧直流電源BHの側の正負両極端子である正極端子(第1正極端子)TP1及び負極端子(第1負極端子)TN1、並びに、インバータ3の側の正負両極端子である正極端子(第2正極端子)TP2及び負極端子(第2負極端子)TN2を備えて構成されている。図2に示すように、第1正極端子TP1と第2正極端子TP2とは同電位であり、第1負極端子TN1と第2負極端子TN2とは同電位である。
【0021】
本実施形態では、さらに、高圧直流電源BHと直流リンクコンデンサCdcとの間に、コモンモードバイパスコンデンサ(以下、Yコンデンサと称する)Cyが備えられている。YコンデンサCyは、インバータ3の直流側の正極とフレームグラウンドFGとの間に接続されたバイパスコンデンサ(正極側バイパスコンデンサCp)、及び、負極とフレームグラウンドFGとの間に接続されたバイパスコンデンサ(負極側バイパスコンデンサCn)を有して構成されている。フレームグラウンドFGは、インバータ3の直流側の正極及び負極の何れとも絶縁され、これらとは異なる電位である。好適には、フレームグラウンドFGは大地の電位と等価であり、車体や車台の電位とも等価である。YコンデンサCyは、インバータ3の正極側及び負極側の同相ノイズ(コモンモードノイズ)を除去する上で有効なフィルタとして機能する。具体的には、YコンデンサCyは、コモンモードノイズの要因となるコモンモード電流を、仕様上の容量が等価な2つのバイパスコンデンサ(Cp,Cn)を介してフレームグラウンドFGに逃がすことによって、コモンモードノイズを低減させる。YコンデンサCyは、その機能上、インバータ装置1の内部における最も外部側に配置されることが好ましい。換言すれば、YコンデンサCyは、回路網の入り口或いは出口に配置されることが好ましい。つまり、正極端子TP1及び負極端子TN1を備えた直流接続端子TDC(直流電源コネクタCN)の近傍に配置されることが好ましい。
【0022】
直流電力と交流電力との間で電力を変換するインバータ3は、直流電力を複数相(ここでは3相)の交流電力に変換して回転電機MGに供給すると共に、回転電機MGが発電した交流電力を直流電力に変換して高圧直流電源BHに供給する。インバータ3と回転電機MGとは、交流接続端子TACを介して接続されている。インバータ3は、複数のスイッチング素子3Sを有して構成される。スイッチング素子3Sには、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やSiC−MOSFET(Silicon Carbide - Metal Oxide Semiconductor FET)やSiC−SIT(SiC - Static Induction Transistor)などのパワー半導体素子を適用すると好適である。図2に示すように、本実施形態では、スイッチング素子3SとしてIGBTが用いられる。
【0023】
インバータ3は、よく知られているように複数相のそれぞれに対応するアームを有するブリッジ回路により構成される。つまり、図2に示すように、インバータ3の直流正極側と直流負極側との間に2つのスイッチング素子3Sが直列に接続されて1つのアームが構成される。3相交流の場合には、この直列回路(1つのアーム)が3回線(3相)並列接続される。つまり、回転電機MGのU相、V相、W相に対応するステータコイルのそれぞれに一組の直列回路(アーム)が対応したブリッジ回路が構成される。尚、各スイッチング素子3Sには、負極から正極へ向かう方向(下段側から上段側へ向かう方向)を順方向として、並列にフリーホイールダイオードが備えられている。
【0024】
例えば、スイッチング素子3S及びフリーホイールダイオードを有して構成される3相アームのインバータ3が、IPM(Intelligent Power Module)として1つのパッケージにモジュール化されている。或いは、1つのIPMが、上段側スイッチング素子3Hと下段側スイッチング素子3Lとの直列回路により構成された1つの相のアームを形成し、そのIPMを基板上で並列接続することによって、インバータ3としてのパワーモジュールが構成されていてもよい。本実施形態では、これらのように、パワーモジュール30の形態としてインバータ3が構成されている。
【0025】
インバータ3は、インバータ制御ユニット2により制御される。インバータ制御ユニット2は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として構築されている。本実施形態では、インバータ制御ユニット2は、各構成部品が基板上に実装されて構成されたECU(Electronic Control Unit)20の形態である。このECU20(インバータ制御ユニット2)は、パワーモジュール30(インバータ3)と共にインバータ収容室6(図3参照)に収容されている。図2に示すように、車両には、上述した高圧直流電源BH(第1直流電源)の他に、高圧直流電源BH(第1直流電源)よりも遙かに低圧の(例えば12〜24[V]程度の)電源電圧の低圧直流電源BL(第2直流電源)も備えられている。インバータ制御ユニット2は、低圧直流電源BLから電力を供給される。
【0026】
例えば、インバータ制御ユニット2は、車両制御ユニット90等の他の制御装置等からCAN(Controller Area Network)などを介して要求信号として提供される回転電機MGの目標トルクに基づいて、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ3を介して回転電機MGを制御する。インバータケース5(駆動装置ケース4)の外部空間に配置されている電気装置(低圧直流電源BL、車両制御ユニット90等)と、インバータ制御ユニット2とは、制御系配線端子TLVを介して接続されている。即ち、制御系配線端子TLVは、低圧直流電源BLからの電源供給配線及び通信配線を接続する機能を有している。インバータ制御ユニット2は、電流フィードバック制御のために種々の機能部を有して構成されており、各機能部は、マイクロコンピュータ等のハードウエアとソフトウエア(プログラム)との協働により実現される。電流フィードバック制御については、公知であるのでここでは詳細な説明は省略する。
【0027】
尚、回転電機MGの各相のステータコイルを流れる実電流は電流センサ39により検出され、インバータ制御ユニット2はその検出結果を取得する。3相の交流電流は平衡しており、瞬時値は常にゼロ(振幅中心)となるので3相の内の2相の電流のみを検出し、残りの1相は演算によって取得してもよい。また、回転電機MGのロータの各時点での磁極位置や回転速度は、例えばレゾルバなどの回転センサ38により検出され、インバータ制御ユニット2はその検出結果を取得する。
【0028】
図3は、車両用駆動装置100の模式的な断面図、より具体的には、車両用駆動装置100におけるインバータ装置1の搭載箇所の模式的な拡大断面図である。また、図4は、車両用駆動装置100を図3における上方より見た模式的な上面透視図、より具体的には車両用駆動装置100をインバータ装置1の側から見た模式的な透視図である。以下に説明するように、車両用駆動装置100(或いはインバータ装置1)は、インバータ装置1を構成する電気的な部材をインバータ収容室6に収容する形態に関して特徴的な構造を有している。従って、駆動装置ケース4の中に収容されるインバータ装置1以外の装置の収容の形態等については、本実施形態に限定されるものではない。
【0029】
図3に示すように、本実施形態の車両用駆動装置100の駆動装置ケース4は、少なくとも回転電機MGを収容する本体ケース41と、本体ケース41に接合されたインバータケース5とを備えている。インバータケース5は、ハウジング43とカバー45とを備えている。ハウジング43は、本体ケース41に接合されると共に、カバー45に接合されている。本体ケース41とカバー45とハウジング43との接合によって形成される空間に、インバータ収容室6が形成されている。インバータ収容室6には、電気部品が配置されるので、インバータ収容室6の内部に冷却油、潤滑油、水、その他の液体が浸入しないように、適切に封止されている。具体的には、ハウジング43は、封止部材Sを介して本体ケース41に接合されると共に、封止部材Sを介してカバー45に接合されている。封止部材Sには、ニトリルゴム、スチロールゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴム材料により構成されたOリングやXリング等を用いることができる。本体ケース41には、少なくとも回転電機MGを含み、クラッチCL、変速装置TM、カウンタギヤ機構CG、差動歯車装置DF等が収容されている。
【0030】
本実施形態では、インバータケース5のハウジング43に、仕切壁部44が形成されている。この仕切壁部44によって、インバータ収容室6内の空間は2つに仕切られている。ハウジング43の仕切壁部44とカバー45との間には、第1インバータ収容室6aが形成され、ハウジング43の仕切壁部44と本体ケース41との間には、第2インバータ収容室6bが形成されている。図3に示すように、インバータ装置1を構成する部材は、これら2つの仕切られたインバータ収容室(6a,6b)にそれぞれ分かれて配置されていてもよい。本実施形態では、第1インバータ収容室6a内に、シールド部材10、ECU20、パワーモジュール30が収容され、第2インバータ収容室6b内にコンデンサモジュール50が収容されている。当然ながら、このようにインバータ収容室6が仕切られることなく、1つの連続した空間にインバータ装置1を構成する部材が一同に配置されていてもよい。
【0031】
回転電機MGとインバータ3とを電気的に接続する交流接続端子TAC(図2参照)は、インバータ収容室6内に配置されている。例えば、本体ケース41の側から延伸して、インバータ3に接続される交流接続端子TACが、インバータ収容室6内に配置され、インバータ収容室6内においてボルト等の締結部材によって接続される。また、好適には、交流接続端子TACに対して本体ケース41の側、及び、交流接続端子TACに対してインバータ3の側の少なくとも一方の側の配線は、いわゆるバスバーとして構成されている。そして、このバスバーに近接して非接触で電流を検出する電流センサ39が配置されている。電流センサ39は、交流接続端子TACに対して本体ケース41の側、及び、交流接続端子TACに対してインバータ3の側の何れの側に設けられていてもよい。当然ながら、接触型の電流センサ39が、何れかのバスバーの途中に備えられていてもよい。また、図2に示した位置に限定されることなく、インバータ3を構成する各アームにシャント抵抗を用いた電流センサが構成されていてもよい。
【0032】
直流接続端子TDCを備えた直流電源コネクタCNは、インバータ収容室6と外部とを仕切る外囲部4aに配置されている。図3に示すように、外囲部4aは、インバータケース5の側面を覆う周壁部4bと、インバータケース5の天面に対応して周壁部4bから連続し、図3における矢印Yに沿う方向においてインバータ収容室6と外部とを仕切る隔壁部4tとを有している。矢印Yは、インバータ3が配置された配置面に直交する方向である。隔壁部4tは、本実施形態においては、カバー45の一部である。カバー45は、天井部が平らな形状、概ね伏せたトレイ状の形状を有しており、当該天井部が隔壁部4tに対応する。或いは、カバー45は、平板状の蓋部材に膨出部を設けた形状で、当該膨出部が隔壁部4tに対応するということもできる。本実施形態では、直流電源コネクタCNは、外囲部4aの中でも特に、隔壁部4tに取り付けられている。つまり、矢印Y方向に沿った位置に、直流電源コネクタCNを配置することによって、矢印Yに直交する方向への広がり、即ちインバータ装置1や車両用駆動装置100の幅方向の広がりが抑制される。
【0033】
図3に示すように、インバータ収容室6の中には、直流電源コネクタCNの側から(矢印Y方向に)、シールド部材10、ECU20(インバータ制御ユニット2)、パワーモジュール30(インバータ3)、コンデンサモジュール50(直流リンクコンデンサCdc)が、順に配置されている。シールド部材10は、直流電源コネクタCNからの電磁ノイズを遮蔽するための部材であり、直流電源コネクタCNとECU20(インバータ制御ユニット2)との間に配置されている。また、図4に示すように、シールド部材10は、矢印Yの方向に見て、直流電源コネクタCNとECU20とが重複する領域を覆うように配置されている。シールド部材10は、矢印Yの方向に見て、直流電源コネクタCNとECU20とが重複する領域を少なくとも覆うことが可能な面積を有していればよい。図4は、車両用駆動装置100をインバータ装置1の側より見た(矢印Y方向に見た)模式的な透視図である。尚、矢印Yの方向は、上述したようにインバータ3が配置された配置面に直交する方向である。
【0034】
また、シールド部材10は、YコンデンサCyと一体化されている。図5は、シールド部材10の模式的な拡大断面図を示している。尚、図5は模式図であり、配線層10hと絶縁物である基板層10s(絶縁層)との厚みが同等であるが、実際には、配線層10hは基板層10Sに比べて遙かに薄層である。本実施形態では、シールド部材10は、4層の配線層10h(10a,10b,10c,10d)を有する基板を備えて構成されている。これらの配線層10hの内の1層(ここでは第1配線層10a)には、基板面に沿って面状に広がる同電位の均一パターン(いわゆるベタパターン(Solid Pattern))によりグラウンドパターン10gが形成されている。このグラウンドパターン10gは、図2にも示すように、フレームグラウンド接続端子TFGを介してフレームグラウンドFGに接続されている。
【0035】
第1配線層10aは、2つの表面配線層(10a,10d)の内の1層である。2つの表面配線層(10a,10d)の内の他方の配線層10h(4層の配線層10hの内、第1配線層10aとは別の配線層10h)である第4配線層10dには、後述するようにYコンデンサCyが形成される。また、4層の配線層10hの内、2層の内層配線層(10b,10c)には、それぞれインバータ3の直流側の正極及び負極のパターン(10p,10n)が形成される。これらの内層パターン(10p,10n)も、基板面に沿って面状に広がる同電位の均一パターンとして形成される。正極パターン10pは、正極端子(第1正極端子)TP1に接続され、負極パターン10nは、負極端子(第1負極端子)TN1に接続されている。
【0036】
本実施形態では、スルーホールを介して第1配線層10aに対して裏面側の配線層である第4配線層10dにも部分的にグラウンドパターン10gが設けられ、第1配線層10aのグラウンドパターン10gと電気的に接続されている。このスルーホールは、導電性材料により構成されたボルト(締結部材)49の貫通孔も兼ねている。ボルト49は、第4配線層10dの側から貫通孔に挿入され、基板11は、スペーサ48を介してカバー45の隔壁部4tの内面側にボルト49によって締結固定される。導電性のボルト49の頭部は、第4配線層10dのグラウンドパターン10gと電気的に接続され、ボルト49の螺合部は、同様に導電性材料により構成されたカバー45と電気的に接続される。ハウジング43及び本体ケース41も導電性材料により構成されており、駆動装置ケース4の任意の1箇所又は複数箇所がフレームグラウンドFGに接続されている。これにより、グラウンドパターン10gは、フレームグラウンドFGに接続される。つまり、シールド部材10が、フレームグラウンドFGに接続される。尚、ボルト49は、図2におけるフレームグラウンド接続端子TFGに対応する。
【0037】
上述したように、シールド部材10は、YコンデンサCyと一体化されている。本実施形態において、YコンデンサCyは、例えばチップセラミックコンデンサCCなどの表面実装部品を複数個接続することによって構成されている。図5に示すように、本実施形態では、配線層10hの内、第1配線層10aとは別の1層(ここでは第4配線層10d)に、YコンデンサCyを構成するチップセラミックコンデンサCCが、表面実装されている。具体的には、第4配線層10dに、YコンデンサCyの部品実装ランド10m、及び、正極端子TP1、負極端子TN1、並びにフレームグラウンドFGとYコンデンサCyとを電気的に接続する回路配線パターンが形成されている。部品実装ランド10mとして、上述した正極パターン10pに導通するように正極ランドが形成され、負極パターン10nに導通するように負極ランドが形成され、グラウンドパターン10gと導通するようにグラウンドランドが形成される。YコンデンサCyは、部品実装ランド10mが形成された第4配線層10dを構成する基板面11dに表面実装されている。
【0038】
尚、図5では、模式的に複数のチップセラミックコンデンサCCが実装されている形態を示している。図5では、グラウンドランド(グラウンドパターン10g)と正極ランド(正極パターン10p)との間、及び、グラウンドランド(グラウンドパターン10g)と負極ランド(負極パターン10n)との間に、チップセラミックコンデンサCCが直列接続されているように見えるが、特に直列接続されている形態を示しているものではない。複数のチップセラミックコンデンサCCを接続してバイパスコンデンサ(Cp,Cn)、並びにYコンデンサCyを形成する形態は、直列接続、並列接続、これらの複合接続を利用する形態など、種々の形態を適用することができる。
【0039】
本実施形態では、図3に示すように、インバータ収容室6の中に、矢印Y方向に、シールド部材10(グラウンドパターン10g及びYコンデンサCy)、ECU20、パワーモジュール30、コンデンサモジュール50(直流リンクコンデンサCdc)の順に各部材が配置されている。従って、直流リンクコンデンサCdcとYコンデンサCyとは離間して配置されており、直流リンクコンデンサCdcは、YコンデンサCyとは別体で構成されて、インバータ収容室6内に配置されている。つまり、コンデンサモジュール50には、YコンデンサCyは含まれない。
【0040】
直流リンクコンデンサCdcは、直流リンク電圧Vdcを平滑化するという機能上、インバータ3の近傍に配置されることが好ましい。一方、上述したように、YコンデンサCyは、回路網の入り口或いは出口に配置されることが好ましく、直流電源コネクタCNの近傍への配置が適切である。このため、YコンデンサCyに適切な配置場所と、直流リンクコンデンサCdcに適切な配置場所とは、必ずしも一致しない。また、多くの場合、YコンデンサCyを構成する各バイパスコンデンサ(Cp,Cn)に比べて、直流リンクコンデンサCdcの静電容量は大きく、また、YコンデンサCyと直流リンクコンデンサCdcとでは、要求される周波数特性も異なる。このため、多くの場合、直流リンクコンデンサCdcは電解コンデンサを用いて、YコンデンサCyはフィルムコンデンサを用いて構成される。従って、直流リンクコンデンサCdcとYコンデンサCyとは、同じようにコンデンサ素子により構成されていても、両者はそれぞれ独立して構成され、それぞれ適切な場所に配置されていることが好ましい。
【0041】
以下、特に図3から図5を参照して上述したように、インバータ装置1を構成する各部材を配置したことによる利点について、図6に示す比較例と対比させながら説明する。図6は、比較例としてのインバータ装置1Bの模式的な拡大断面図である。比較例のインバータ装置1Bのインバータケース5や、インバータ収容室6の構成については、本実施形態のインバータ装置1と同様である。また、比較例のインバータ装置1Bも、本実施形態のインバータ装置1と同様に、直流電源コネクタCNが、隔壁部4tに取り付けられている。比較例のインバータ装置1Bのインバータ収容室6の中には、直流電源コネクタCNの側からECU20(インバータ制御ユニット2)、パワーモジュール30(インバータ3)、コンデンサモジュール50(直流リンクコンデンサCdc)が、順に配置されている。
【0042】
この順序については、比較例のインバータ装置1Bも、本実施形態のインバータ装置1と同様であるが、比較例のインバータ装置1Bでは、シールド部材10が備えられていない。このため、ECU20(インバータ制御ユニット2)は、隔壁部4tを挟んで直流電源コネクタCNと対向することになる。つまり、高電圧が印加され、大電流が流れる直流電源コネクタCNがインバータ制御ユニット2の近傍に配置されることとなる。その結果、直流電源コネクタCNの近傍のインバータ制御ユニット2に強い電磁ノイズNZが浴びせられる可能性がある。
【0043】
また、比較例のインバータ装置1Bでは、シールド部材10が存在せず、YコンデンサCyをシールド部材10に一体化できないため、別途、YコンデンサCyを配置する必要がある。YコンデンサCyは、多くの場合、フィルムコンデンサによって構成され、その体格は比較的大きい。即ち、フィルムコンデンサによって構成されるYコンデンサCyが占める空間は比較的大きくなる。例えば、図6に破線で示すように、コンデンサモジュール50が収容されている第2インバータ収容室6bに、YコンデンサCyを配置しようとすると、第2インバータ収容室6bを拡張する必要が生じる可能性がある。これは、インバータ装置1(1B)並びに車両用駆動装置100の大型化につながり、好ましくない。また、第2インバータ収容室6bは、直流電源コネクタCNから離間しているため、YコンデンサCyによるコモンモードノイズの低減効果が低下する。YコンデンサCyの他の配置場所として、同様に図6に破線で示すように、直流電源コネクタCNに隣接して隔壁部4tに取り付けることが考えられる。この場合、直流電源コネクタCNとYコンデンサCyとは近接するが、インバータ装置1B並びに車両用駆動装置100の外形が大きくなることは好ましくはない。
【0044】
一方、図3等を参照して上述した本実施形態のインバータ装置1では、直流電源コネクタCNとECU20(インバータ制御ユニット2)との間にシールド部材10が配置される。従って、直流電源コネクタCNの近傍にECU20が配置されても、電磁ノイズNZをシールド部材10に吸収させて、フレームグラウンドFGに逃がすことができる。また、YコンデンサCyを、表面実装部品も豊富に存在し、安価且つ供給も安定している部品(例えばセラミックコンデンサ等)を利用して構成することで、小型化が実現されている。さらに、本実施形態では、YコンデンサCyをシールド部材10と一体的に形成しているので、インバータ収容室6の空間をさらに有効に利用することができる。その結果、インバータ装置1や車両用駆動装置100の小型化に貢献できる。
【0045】
〔その他の実施形態〕
以下、本発明のその他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0046】
(1)上記においては、インバータ収容室6に収容される部材として、YコンデンサCyを含むシールド部材10、ECU20(インバータ制御ユニット2)、パワーモジュール30(インバータ3)、コンデンサモジュール50(直流リンクコンデンサ)を例示した。しかし、これ以外の部材がインバータ収容室6に収納されることを妨げるものではない。例えば、インバータ3を構成するスイッチング素子3Sは、大きな発熱を伴うので、パワーモジュール30には不図示のヒートシンクが取り付けられていてもよい。つまり、ヒートシンクが、インバータ収容室6に配置されていてもよい。ヒートシンクは、液体冷媒によって冷却されるように構成されており、インバータ3は、ヒートシンクを介して液体冷媒と熱交換することによって冷却される。従って、さらに、ヒートシンクの冷却機構が、インバータ収容室6に配置されていてもよい。
【0047】
(2)図5に示したように、上記の説明では、シールド部材10が、4層の配線層10h(10a,10b,10c,10d)を有する基板を備えて構成されている例を用いた。しかし、シールド部材10は、少なくともほぼ基板面の全面に亘って均一パターンにより形成されたグラウンドパターン10gを有する配線層10hと、チップセラミックコンデンサなどのコンデンサ素子を実装して、YコンデンサCyを構成する配線層10hとの2つの配線層10hを有していればよい。即ち、シールド部材10は、少なくとも2層の配線層10hを有する基板11を備えて構成されていればよい。図5を参照した上記の説明では、第1配線層10aに均一パターンによるグラウンドパターン10gが形成され、第4配線層10dにYコンデンサCyが構成される形態を例示したが、配線層10hが2層しかない場合には、YコンデンサCyが構成される配線層10hが第2配線層(表面配線層)に対応する。
【0048】
〔本発明の実施形態の概要〕
以下、上記において説明した、本発明の実施形態におけるインバータ装置(1)の概要について簡単に説明する。
【0049】
本発明の実施形態におけるインバータ装置(1)の特徴的な構成は、
直流と交流との間で電力を変換する電力変換回路(3)と、前記電力変換回路(3)を制御する制御ユニット(2)と、前記電力変換回路(3)及び前記制御ユニット(2)を収容する収容室(6)を内部に形成するケース(5(4))と、直流電源(BH)の正極(BP)及び負極(BN)にそれぞれ接続される正極端子(TP1)及び負極端子(TN1)を備えた直流電源コネクタ(CN)と、を備えて、直流と交流との間で電力を変換するインバータ装置(1)であって、
直流電源(BH)の正極(BP)及び負極(BN)とは異なる電位であるフレームグラウンド(FG)に接続されたシールド部材(10)と、
前記正極端子(TP1)と前記フレームグラウンド(FG)との間に接続されたバイパスコンデンサ(Cp)、及び、前記負極端子(TN1)と前記フレームグラウンド(FG)との間に接続されたバイパスコンデンサ(Cn)を有して構成されたコモンモードバイパスコンデンサ(Cy)と、をさらに備え、
前記ケース(5(4))は、前記収容室(6)と外部とを仕切る隔壁部(4t(4a))を備え、
前記直流電源コネクタ(CN)は、前記隔壁部(4t(4a))に取り付けられ、
前記収容室(6)内に、前記直流電源コネクタ(CN)の側から、前記制御ユニット(2)、前記電力変換回路(3)が、順に配置され、
前記シールド部材(10)は、前記コモンモードバイパスコンデンサ(Cy)と一体化され、前記直流電源コネクタ(CN)と前記制御ユニット(2)との間に配置されると共に、前記電力変換回路(3)が配置された配置面に直交する方向(Y)に見て、前記直流電源コネクタ(CN)と前記制御ユニット(2)とが重複する領域を覆うように配置されている点にある。
【0050】
この構成によれば、直流電源コネクタ(CN)と制御ユニット(2)との間にシールド部材(10)が配置され、且つ、このシールド部材(10)は、電力変換回路(3)が配置された配置面に直交する方向(Y)に見て直流電源コネクタ(CN)と制御ユニット(2)とが重複する領域を覆うように配置される。従って、高電圧が印加され、大電流が流れる直流電源コネクタ(CN)から振幅やエネルギーの大きい電磁ノイズ(NZ)が放射されても、その電磁ノイズ(NZ)が制御ユニット(2)に伝播して、制御ユニット(2)に影響を与えることを、シールド部材(10)による遮蔽効果により抑制することができる。また、コモンモードバイパスコンデンサ(Cy)は、電力変換回路(3)の直流側の正負両極に共通する同相ノイズ(コモンモードノイズ)の抑制に効果的なフィルタとして機能する。このコモンモードバイパスコンデンサ(Cy)は、シールド部材(10)と一体化されることによって、直流電源コネクタ(CN)の近傍に配置される。コモンモードバイパスコンデンサ(Cy)は、回路網の入り口或いは出口に配置されることが好ましく、直流電源コネクタ(CN)の近傍への配置は非常に適切である。また、シールド部材(10)と一体的にコモンモードバイパスコンデンサ(Cy)が構成されることによって、コモンモードバイパスコンデンサ(Cy)の小型化や、設置空間の抑制も実現される。このように、本構成によれば、インバータ装置(1)を構成するに際して、電力変換回路(3)が配置された配置面に直交する方向に沿って、直流電源コネクタ(CN)、電力変換回路(3)の制御回路(2)、電力変換回路(3)が順に並ぶ場合に、直流電源による制御回路(2)への電磁ノイズ(NZ)の影響を低減させると共に、装置規模の大型化を抑制して、インバータ装置(1)を構成することができる。
【0051】
一般的に電力変換回路(3)の直流側には、直流電圧(直流リンク電圧(Vdc))を平滑化する直流リンクコンデンサ(Cdc)が備えられる。直流リンクコンデンサ(Cdc)は、直流リンク電圧(Vdc)を平滑化するという機能上、電力変換回路(3)の近傍に配置されることが好ましい。このため、上述したコモンモードバイパスコンデンサ(Cy)に適切な配置場所と、直流リンクコンデンサ(Cdc)に適切な配置場所とは、必ずしも一致しない。また、多くの場合、YコンデンサCyを構成する各バイパスコンデンサ(Cp,Cn)に比べて、直流リンクコンデンサ(Cdc)とコモンモードバイパスコンデンサ(Cy)とでは、要求される静電容量の大きさや周波数特性も異なる。従って、直流リンクコンデンサ(Cdc)とコモンモードバイパスコンデンサ(Cy)とは、同じようにコンデンサ素子により構成されていても、それぞれ独立して構成され、それぞれ適切な場所に配置されていることが好ましい。1つの態様として、前記電力変換回路(3)の直流側の電圧である直流リンク電圧(Vdc)を平滑化する直流リンクコンデンサ(Cdc)は、前記コモンモードバイパスコンデンサ(Cy)とは別体で構成されて、前記収容室(6)内に配置されていると好適である。
【0052】
コモンモードバイパスコンデンサ(Cy)は、多くの場合、フィルムコンデンサを用いて構成されるが、フィルムコンデンサは、フィルムを巻き回すという構造上、小型化が容易ではない。一方、一般的にコモンモードバイパスコンデンサ(Cy)に求められる周波数特性や、静電容量を考慮すると、例えば、多くの表面実装部品が実用化されているセラミックコンデンサ等を用いてコモンモードバイパスコンデンサ(Cy)を構成すると小型化が期待できる。例えば、シールド部材(10)をプリント配線用の基板(11)を利用して構成すると、当該基板(11)にコンデンサ素子を実装することによって、コモンモードバイパスコンデンサ(Cy)を、適切に、シールド部材(10)に一体化させることができる。1つの好適な態様として、前記シールド部材(10)が、少なくとも2層の配線層(10h)を有する基板(11)を備え、前記配線層(10h)の内の1層(10a)には、基板面に沿って面状に広がる同電位の均一パターン(10g)が形成されて、当該均一パターン(10g)が前記フレームグラウンド(FG)に接続され、前記配線層(10h)の内の別の1層(10d)には、前記コモンモードバイパスコンデンサ(Cy)の部品実装ランド(10m)、及び、前記正極端子(TP1)、前記負極端子(TN1)、並びに前記フレームグラウンド(FG)と前記コモンモードバイパスコンデンサ(Cy)とを電気的に接続する回路配線パターンが形成され、前記コモンモードバイパスコンデンサ(Cy)が、前記部品実装ランド(10m)が形成された基板面(11d)に表面実装されている構成とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、直流と交流との間で電力を変換するインバータ装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 :インバータ装置
2 :インバータ制御ユニット(制御ユニット)
3 :インバータ(電力変換回路)
4t :隔壁部
5 :インバータケース(ケース)
6 :インバータ収容室(収容室)
10 :シールド部材
10a :第1配線層(配線層の内の1層)
10d :第4配線層(配線層の内の別の1層)
10g :グラウンドパターン(基板面に沿って面状に広がる同電位の均一パターン)
10h :配線層
10m :部品実装ランド
11 :基板
11d :基板面(部品実装ランドが形成された基板面)
20 :ECU(制御ユニット)
30 :パワーモジュール(電力変換回路)
50 :コンデンサモジュール(直流リンクコンデンサ)
BH :高圧直流電源(直流電源)
CN :直流電源コネクタ
Cdc :直流リンクコンデンサ
Cn :負極側バイパスコンデンサ
Cp :正極側バイパスコンデンサ
Cy :Yコンデンサ(コモンモードバイパスコンデンサ)
FG :フレームグラウンド
MG :回転電機
TN1 :負極端子、第1負極端子
TP1 :正極端子、第1正極端子
Vdc :直流リンク電圧
Y :載置面に直交する方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6