(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398733
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】チェーン駆動車両のチェーンローラ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 7/18 20060101AFI20180920BHJP
【FI】
F16H7/18 B
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-4458(P2015-4458)
(22)【出願日】2015年1月13日
(65)【公開番号】特開2016-130551(P2016-130551A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔平
【審査官】
高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−020770(JP,A)
【文献】
特開2009−024730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームに揺動自在に軸支されたスイングアームの後端部に後輪が回転自在に軸支され、前記スイングアームの前方に配置したエンジンの駆動力がチェーンを介して前記後輪に伝達されるチェーン駆動車両において、前記後輪が下方に振れた場合に、前記車体フレームに取り付けたチェーンローラが前記チェーンに接触するようにしたチェーンローラ装置であって、
前記チェーンローラは、
硬質ラバー又は硬質樹脂により成形され、
車幅方向に貫通する貫通穴が中心に設けられた円筒状を呈し、
車幅方向の両端面には前記貫通穴のまわりに環状溝が形成されており、
前記両端面の環状溝のうち一方は、内側の溝側面が傾斜して溝幅が奥に向かって先細りとなる形状を有し、他方は、外側の溝側面が傾斜して溝幅が奥に向かって先細りとなる形状を有し、
前記両端面の環状溝間の壁が傾斜壁となっていることを特徴とするチェーン駆動車両のチェーンローラ装置。
【請求項2】
車体フレームに揺動自在に軸支されたスイングアームの後端部に後輪が回転自在に軸支され、前記スイングアームの前方に配置したエンジンの駆動力がチェーンを介して前記後輪に伝達されるチェーン駆動車両において、前記後輪が下方に振れた場合に、前記車体フレームに取り付けたチェーンローラが前記チェーンに接触するようにしたチェーンローラ装置であって、
前記チェーンローラは、
硬質ラバー又は硬質樹脂により成形され、
車幅方向に貫通する貫通穴が中心に設けられた円筒状を呈し、
車幅方向の両端面には前記貫通穴のまわりに環状溝が形成されており、
前記両端面の環状溝のうち一方は、テーパ形状で溝幅が奥に向かって先細りとなる形状を有し、他方は、先細りとなる形状を有しておらず、
前記両端面の環状溝間の壁が略くの字形状の壁となっていることを特徴とするチェーン駆動車両のチェーンローラ装置。
【請求項3】
前記チェーンローラのチェーン接触面である外周面の両端部が反り上がり形状を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のチェーン駆動車両のチェーンローラ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車等の車両に使用されて好適なチェーン駆動車両のチェーンローラ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等のチェーン駆動車両では、車体フレームに揺動自在に軸支されたスイングアームの後端部に後輪が回転自在に軸支され、スイングアームの前方に配置したエンジンの駆動力がチェーンを介して後輪に伝達される。この種のチェーン駆動車両には、後輪が下方に振れた場合に、車体フレームに取り付けたチェーンローラがチェーンに接触するようにしたチェーンローラ装置が搭載される。
【0003】
特許文献1には、チェーンローラは硬質ラバー若しくは硬質樹脂ローラであり、チェーンローラの中心に孔を開け、この孔を中心とした円上に複数の肉抜き孔を略等ピッチで貫通させた状態で、或いは貫通させないで、れんこんの様に開ける構成が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、歯付ベルト用のテンショナに関して、金属又は耐摩耗性の硬質合成樹脂よりなる外輪部の内側にゴム又は合成樹脂等の弾性材よりなるリブ部を有するプーリを固定支持板に軸支し、外輪部を歯付ベルトに圧接せしめる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3487540号公報
【特許文献2】実公昭58−17958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、複数の肉抜き孔をれんこんの様に開ける場合、チェーンローラの周方向において、肉抜き孔のある位置と、そうでない位置とで変形量にばらつきが生じてしまうおそれがある。
また、複数の肉抜き孔をれんこんの様に開ける場合、金型との接触面積が多くなるため離型性が悪くなるという課題がある。特に肉抜き孔を貫通させた状態で開ける場合、金型からの離型性が悪くなるだけでなく、チェーンローラの端面で金型タッチの割面となるため、肉抜き孔にバリが発生しやすくなる。
【0007】
また、特許文献2に開示されているように、外輪部の内側にリブ部を有する二層構造とする場合、生産性が悪く、コストアップの要因となるという課題がある。
【0008】
さらに、チェーンローラには、チェーンのずれを防止するホールド性が求められるが、従来の技術ではホールド性に優れているとはいえない。例えば特許文献2では、歯付ベルトと接触する外輪部を金属又は耐摩耗性の硬質合成樹脂とし、外輪部は変形しないことを想定しており、歯付ベルトが左右方向にずれてしまうおそれがある。
【0009】
本発明は上記の問題に鑑み、チェーンローラの変形量を適切に調整することができ、さらには生産性、チェーンのホールド性に優れたチェーン駆動車両のチェーンローラ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のチェーン駆動車両のチェーンローラ装置は、車体フレームに揺動自在に軸支されたスイングアームの後端部に後輪が回転自在に軸支され、前記スイングアームの前方に配置したエンジンの駆動力がチェーンを介して前記後輪に伝達されるチェーン駆動車両において、前記後輪が下方に振れた場合に、前記車体フレームに取り付けたチェーンローラが前記チェーンに接触するようにしたチェーンローラ装置であって、前記チェーンローラは、硬質ラバー又は硬質樹脂により成形され、車幅方向に貫通する貫通穴が中心に設けられた円筒状を呈し、車幅方向の両端面には前記貫通穴のまわりに環状溝が形成されて
おり、前記両端面の環状溝のうち一方は、内側の溝側面が傾斜して溝幅が奥に向かって先細りとなる形状を有し、他方は、外側の溝側面が傾斜して溝幅が奥に向かって先細りとなる形状を有し、前記両端面の環状溝間の壁が傾斜壁となっていることを特徴とする。
また、本発明のチェーン駆動車両のチェーンローラ装置は、車体フレームに揺動自在に軸支されたスイングアームの後端部に後輪が回転自在に軸支され、前記スイングアームの前方に配置したエンジンの駆動力がチェーンを介して前記後輪に伝達されるチェーン駆動車両において、前記後輪が下方に振れた場合に、前記車体フレームに取り付けたチェーンローラが前記チェーンに接触するようにしたチェーンローラ装置であって、前記チェーンローラは、硬質ラバー又は硬質樹脂により成形され、車幅方向に貫通する貫通穴が中心に設けられた円筒状を呈し、車幅方向の両端面には前記貫通穴のまわりに環状溝が形成されており、前記両端面の環状溝のうち一方は、テーパ形状で溝幅が奥に向かって先細りとなる形状を有し、他方は、先細りとなる形状を有しておらず、前記両端面の環状溝間の壁が略くの字形状の壁となっていることを特徴とする。
本発明のチェーン駆動車両のチェーンローラ装置の他の特徴とするところは、前記チェーンローラのチェーン接触面である外周面の両端部が反り上がり形状を有する点にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、チェーンローラの変形量を適切に調整することができ、さらには生産性、チェーンのホールド性に優れたチェーン駆動車両のチェーンローラ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係るチェーン駆動車両の一例としての自動二輪車を示す左側面図である。
【
図4】実施形態に係るチェーンローラを示す図であり、(a)が左側面図、(b)が
図2のIV−IV線断面図である。
【
図5】他の実施形態に係るチェーンローラを示す断面図である。
【
図6】他の実施形態に係るチェーンローラを示す断面図である。
【
図7】他の実施形態に係るチェーンローラを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
本発明はチェーン駆動車両に好適に適用され、この実施形態ではチェーン駆動車両として
図1に示すような自動二輪車100の例とする。
図1は、本実施形態に係るチェーンローラ装置を有する自動二輪車100の左側面図である。先ず、
図1を用いて自動二輪車100の全体構成について説明する。なお、以下の説明において
図1を含めた各図で、必要に応じて車両の前方を矢印Frにより、車両の後方を矢印Rrによりそれぞれ示し、また、車両の側方右側を矢印Rにより、車両の側方左側を矢印Lによりそれぞれ示す。
【0014】
図1の自動二輪車100は、典型的には所謂オフロード用であってよく、その車体前方上部にはステアリングヘッドパイプ101が配置されており、該ステアリングヘッドパイプ101内には不図示のステアリング軸が回動可能に挿通している。そして、このステアリング軸の上端にはハンドル102が結着されており、同ステアリング軸の下端にはフロントフォーク103が取り付けられ、該フロントフォーク103の下端には操向輪である前輪104が回転可能に軸支されている。
【0015】
また、ステアリングヘッドパイプ101からは左右一対構成でなるメインフレーム105が、車体後方に向かって斜め下方に傾斜して延出すると共に、ダウンチューブ106が略垂直下方に延びている。そして、ダウンチューブ106は下部付近でロアフレーム106Aとして左右に分岐し、これら一対のロアフレーム106Aは下方に延びた後に、車体後方に向かって略直角に曲げられ、その後端部は左右一対のボディフレーム107を介してメインフレーム105の各後端部に連結されている。
【0016】
左右一対のメインフレーム105とダウンチューブ106及びロアフレーム106Aとボディフレーム107とによって囲まれる空間には、駆動源である水冷式のエンジン108が搭載されている。エンジン108の上方には燃料タンク109が配され、燃料タンク109の後方にはシート110が配されている。また、エンジン108の前方にはラジエータ111が配置されている。
【0017】
車体の前後方向略中央の下部に設けられた左右一対のボディフレーム107には、スイングアーム112の前端部がピボット軸113によって上下に揺動自在に支持される。スイングアーム112の後端部には駆動輪である後輪114が回転可能に軸支されている。スイングアーム112は、リンク機構115とこれに連結されたショックアブソーバ116(後輪懸架装置)を介して車体に懸架されている。スイングアーム112の前方に配置したエンジン108の出力端にはドライブスプロケット117が取り付けられると共に、後輪114の車軸にはスプロケット118が軸着し、これらドライブスプロケット117及びスプロケット118にはチェーン119が巻回され、相互に接続される。
【0018】
このようにチェーン駆動車両である自動二輪車100において、エンジン108の駆動力がチェーン119を介して後輪114に伝達される。
ここで、ドライブスプロケット117の後方には(
図1、A部)、自動二輪車100のジャンプ着地時等においてスイングアーム112を介して後輪114が一定以上、下方に振れた場合に、チェーン119の撓みを調整するためのチェーンローラ装置10を備える。
図2は、
図1のA部を含む部分の拡大図である。チェーンローラ装置10は、車体フレームであるボディフレーム107の下端付近にて、チェーン119(ループ下側)の下方に、チェーン119が接触し得るように配置されるチェーンローラ11を備える。
【0019】
図3に示すように、車体フレーム(ボディフレーム107)の下部には、左右一対のブラケット部107Aが設けられている。これらブラケット部107A間を掛け渡すように車幅方向に延びる支軸12が取り付けられており、リンク機構115が上下に揺動可能に支持される。この支軸12が車幅方向左側に延出し、チェーンローラ11を回転自在に軸支する。なお、詳細図示を省略するが、支軸12に軸支されたチェーンローラ11は、支軸12の軸方向には移動しないようにワッシャ等によりスラスト方向の動きが規制される。
【0020】
図4に、実施形態に係るチェーンローラ11を示す。チェーンローラ11は、硬質ラバー又は硬質樹脂により成形され、車幅方向に貫通する貫通穴14が中心に設けられた円筒状を呈する。貫通穴14には、支軸12が挿通されるスリーブ13が高い結合強度で設けられている。
【0021】
チェーンローラ11の車幅方向の両端面には、貫通穴14のまわりに環状溝15が形成されている。環状溝15は、
図4(b)に示すように、テーパ形状で溝幅hが奥(溝底部)に向かって先細りとなる形状を有する。
【0022】
チェーンローラ装置10は上記のように構成されており、次にその主要な作用効果等について説明する。
チェーンローラ11は、耐摩耗性を考慮して硬質ラバー又は硬質樹脂により成形されるため、衝撃吸収力は乏しい。そこで、チェーンローラ11の形状に工夫をこらすより、衝撃吸収能力を発揮させる。この場合に、チェーンローラ11の車幅方向の両端面に環状溝15を形成するようにしたので、チェーンローラ11の周方向において変形量にばらつきが生じないようにすることができる。
そして、環状溝15の形状やサイズ(言い方を換えれば、環状溝15間の壁(リブ部)16の形状や厚み)を適宜に設定することにより、チェーンローラ11の変形量を調整でき、所望の衝撃吸収能力が得られ、各機種に適したチェーンローラの形状を提供することができる。このようにチェーンローラ11の変形量は環状溝15の形状やサイズで調整できるので、耐摩耗性を考慮して硬質樹脂又は硬質ラバー一体で形成が可能となり、生産性に優れ、コスト的に安価である。
【0023】
また、チェーンローラ11の車幅方向の両端面に環状溝15を形成するようにしたので、複数の肉抜き孔をれんこんの様に開ける場合と比べて、金型との接触面積が少なく、離型性に優れる。さらに溝幅hが奥に向かって先細りとなる形状を有するので、金型からの離型性に優れ、生産性を向上させることができる。離型性に優れるので、環状溝15にバリが発生しないように金型を設計することが可能になる。また、溝幅hが奥に向かって先細りとなる形状を有することにより、泥等が入ったときにも、その排出性を高めることができる。
【0024】
また、チェーンローラ11の車幅方向の両端面に環状溝15を形成することにより、チェーンローラ11の車幅方向中央部分が厚肉で、両端面に向かって薄肉となるので、製品の冷却時にチェーンローラ11の外周面(チェーン接触面)の中央部にヒケが発生し、両端部が反り上がり形状となる(
図4(b)において、チェーンローラ11の両端部の反り上がりを線lにより模式的に表わす)。しかも、チェーンローラ11の外周面に対してチェーン119が2点P
1、P
2で接触し、その荷重によりチェーンローラ11の両端部がさらに反り上がるように変形する。すなわち、チェーン119の左右両側においてチェーンローラ11の外周面の端部が反り上がり、チェーン119をホールドする形状となる。これにより、チェーン119の左右方向のずれを防止することができ、チェーン119の適正作動が保証される。
【0025】
以上のように、チェーンローラ11の変形量を適切に調整することができ、さらには生産性、チェーン119のホールド性に優れたチェーン駆動車両のチェーンローラ装置10を提供することができる。
【0026】
(他の実施形態)
上述したように、環状溝15の形状やサイズを適宜に設定することにより、チェーンローラ11の変形量を調整できるものであり、環状溝15の形状やサイズは限定されるものではない。
以下、いくつかの変形例を説明する。
図5に示すタイプは、環状溝15が、途中まで溝幅hが一定で、その後、テーパ形状で溝幅hが奥に向かって先細りとなる形状を有する。なお、
図5では、チェーン119がチェーンローラ11の外周面に接触した状態を示す。
【0027】
図6に示すタイプは、環状溝15のうち一方(
図6の右側の環状溝15)は、内側の溝側面15Iが傾斜して溝幅hが奥に向かって先細りとなる形状を有し、他方(
図6の左側の環状溝15)は、外側の溝側面15Oが傾斜して溝幅hが奥に向かって先細りとなる形状を有する。この場合、両端面の環状溝15間の壁16は傾斜壁となる。
【0028】
図7に示すタイプは、環状溝15のうち一方(
図7の左側の環状溝15)は、テーパ形状で溝幅hが奥(溝底部)に向かって先細りとなる形状を有し、他方(
図7の右側の環状溝15)は、先細りとなっておらず、溝幅hが一定である。この場合、両端面の環状溝15間の壁は中折れした略くの字形状(或いは、V又はUを横向きにした形状)の壁となる。
【0029】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
上記のように本発明の実施形態においてチェーン駆動車両として自動二輪車100の例を説明したが、所謂ATV(All Terrain Vehicle)等の車両や、さらにチェーンを介しての動力伝達機構を持つ各種の産業機械等に対しても本発明を有効に適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
10:チェーンローラ装置、11:チェーンローラ、12:支軸、13:スリーブ、14:貫通穴、15:環状溝、16:壁、100:自動二輪車