(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398746
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】トレーリングアーム固定構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20180920BHJP
B60G 7/00 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
B62D25/20 H
B60G7/00
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-12285(P2015-12285)
(22)【出願日】2015年1月26日
(65)【公開番号】特開2016-137744(P2016-137744A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 泰威
【審査官】
川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−51497(JP,A)
【文献】
特開平3−143777(JP,A)
【文献】
特開2007−22292(JP,A)
【文献】
特開平3−16883(JP,A)
【文献】
特開昭58−214405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00 − 25/08
B62D 25/14 − 29/04
B60G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のリアサスペンションのトレーリングアームを含み、該トレーリングアームを車体に固定するトレーリングアーム固定構造において、
当該トレーリングアーム固定構造はさらに、
前記トレーリングアームの車幅方向外側の端部に配置され該トレーリングアームを車体へ固定するブッシュと、
下方から観察した際に車幅方向外側に開口したコの字形状であり前記ブッシュを車幅方向内側から挟み込むように該ブッシュに取り付けられるインサイドブラケットと、
下方から観察した際に車幅方向内側に開口したコの字形状であり前記ブッシュを車幅方向外側から挟み込むように該ブッシュに取り付けられるアウトサイドブラケットと、
前記インサイドブラケットおよび前記アウトサイドブラケットを結合するブレースとを含み、
前記インサイドブラケット、前記アウトサイドブラケットおよび前記ブレースは、車体の底面となるリアフロアパネルよりも下方であって、車体下部で前後方向に延びるサイドメンバと、該サイドメンバよりも車幅方向外側で前後方向に延びるサイドシルとの間に配置されていて、
前記インサイドブラケットは前記サイドメンバに接合されていて、
前記アウトサイドブラケットは前記サイドシルに接合されていて、
前記ブレースは、前記リアフロアパネルに接合されていることを特徴とするトレーリングアーム固定構造。
【請求項2】
前記インサイドブラケットの後端と前記サイドシルの後端とを結ぶ直線は当該車体の車幅方向とほぼ平行であり、
前記ブレースは、下方から観察した際に前記直線と重なるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のトレーリングアーム固定構造。
【請求項3】
前記インサイドブラケットおよび前記アウトサイドブラケットは、下方から観察した際に略四角形状を形成していて、
前記四角形状を形成する辺のうち、前記インサイドブラケットの車両前後方向に延びる辺は、前記アウトサイドブラケットの車両前後方向に延びる辺よりも長いことを特徴とする請求項1または2に記載のトレーリングアーム固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のリアサスペンションのトレーリングアームを含み、トレーリングアームを車体に固定するトレーリングアーム固定構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トレーリングアーム式サスペンションは車両のサスペンション形式の一種であり、これを採用している車両では、リアサスペンションであるトーションビーム(クロスビームとも称される)の左右にトレーリングアームが連結される。そして、このトレーリングアームが車両に取り付けられることで、それを介してトーションビームが車両に支持される(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−154971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両においてトレーリングアームの固定箇所には、コーナリング時等、サスペンションに横力がかかった際に横方向の荷重が負荷される。このとき、トレーリングアームの固定箇所の剛性が不十分であると、その箇所が振動し、振動が車体に伝播してしまう。また固定箇所の剛性が不十分であると、そこが変形しやすくなるためサスペンションが設計通りに機能せず、走行性能や搭乗時の快適性が低下してしまう。このため、トレーリングアームの固定箇所には高い剛性が必要であり、更なる改良が求められていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑み、トレーリングアーム固定箇所において高い剛性を得ることができ、走行性能や乗員の快適性の向上を図ること可能なトレーリングアーム固定構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明にかかるトレーリングアーム固定構造の代表的な構成は、車両のリアサスペンションのトレーリングアームを含み、トレーリングアームを車体に固定するトレーリングアーム固定構造において、当該トレーリングアーム固定構造はさらに、トレーリングアームの車幅方向外側の端部に配置されトレーリングアームを車体へ固定するブッシュと、下方から観察した際に車幅方向外側に開口したコの字形状でありブッシュを車幅方向内側から挟み込むようにブッシュに取り付けられるインサイドブラケットと、下方から観察した際に車幅方向内側に開口したコの字形状でありブッシュを車幅方向外側から挟み込むようにブッシュに取り付けられるアウトサイドブラケットと、インサイドブラケットおよびアウトサイドブラケットを結合するブレースとを含み、インサイドブラケット、アウトサイドブラケットおよびブレースは、車体の底面となるリアフロアパネルよりも下方であって、車体下部で前後方向に延びるサイドメンバと、サイドメンバよりも車幅方向外側で前後方向に延びるサイドシルとの間に配置されていて、インサイドブラケットはサイドメンバに接合されていて、アウトサイドブラケットはサイドシルに接合されていて、ブレースは、リアフロアパネルに接合されていることを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、ブッシュに取り付けられるインサイドブラケットおよびアウトサイドブラケットがブレースによって結合されることにより、それらの剛性、すなわちトレーリングアームのブッシュの固定箇所の剛性を高めることができる。そして、インサイドブラケットがサイドメンバに、アウトサイドブラケットがサイドシルに接合されている。これにより、ブッシュを介してインサイドブラケットおよびアウトサイドブラケットにかかったトレーリングアームからの荷重を車体の構造部材であるサイドメンバおよびサイドシルに好適に分散(伝達)することができる。したがって、ブッシュの固定箇所近傍の剛性を更に高めることが可能となる。
【0008】
またブレースはサイドメンバおよびサイドシルとの間に配置されることとなるため、それらの間にはブレースによる横壁(車幅方向に延びる壁)が設けられることとなる。これにより、サスペンションフレームからの荷重がかかった際のサイドメンバおよびサイドシルひいては車体の変形を好適に抑制することができる。
【0009】
上記インサイドブラケットの後端とサイドシルの後端とを結ぶ直線は当該車体の車幅方向とほぼ平行であり、ブレースは、下方から観察した際に前記直線と重なるように配置されているとよい。かかる構成によれば、ブレースが車幅方向において直線状となるため、荷重の集中が防がれ、横力がかかった際のブレースの変形を好適に抑制することができる。したがって、サイドメンバやサイドシルへの荷重分散性能をより高めることができ、ブッシュの固定箇所近傍の剛性の更に向上させることが可能となる。またブレースが延びる方向が車幅方向とほぼ平行となることにより、コーナリング時の横力によるトレーリングアームからの荷重を効率的に処理することができ、インサイドブラケットやアウトサイドブラケットにかかる応力を低減することも可能となる。
【0010】
上記インサイドブラケットおよびアウトサイドブラケットは、下方から観察した際に略四角形状を形成していて、四角形状を形成する辺のうち、インサイドブラケットの車両前後方向に延びる辺は、アウトサイドブラケットの車両前後方向に延びる辺よりも長いとよい。これにより、横力を受けた際のインサイドブラケットおよびアウトサイドブラケットの変形をより好適に抑制することができ、ブッシュの固定箇所近傍の剛性の更に高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トレーリングアーム固定箇所において高い剛性を得ることができ、走行性能や乗員の快適性の向上を図ること可能なトレーリングアーム取付部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態にかかるトレーリングアーム固定構造を示す図である。
【
図2】
図1(a)に示す車両を下方から観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
図1は、本実施形態にかかるトレーリングアーム固定構造(以下、アーム固定構造100と称する)を示す図であり、
図1(a)は車両100aを後方から観察した背面図であり、
図1(b)は
図1(a)の一点鎖線四角内の拡大図である。
図2は、
図1(a)に示す車両100aを下方から観察した図であり、
図2(a)は
図1(a)の車両100aの後部を下方から観察した状態を図示していて、
図2(b)は
図2(a)の一点鎖線四角内の拡大図である。
【0015】
なお、理解を容易にするために、
図1(b)および
図2(b)では、
図2(a)に示すトレーリングアーム104を不図示としている。また、本実施形態の各図中、矢印F、R、WL、WR、U、Dはそれぞれ車両100aの前後左右上下方向を示す。
【0016】
図1(a)に示す車両100aでは、
図2(a)に示すように下部にリアサスペンション102が配置されている。リアサスペンション102の車幅方向外側にはトレーリングアーム104が配置されていて、その車幅方向の端部には、かかるトレーリングアーム104を車体100bへと固定するブッシュ106が配置されている。本実施形態のアーム固定構造100では、ブッシュ106を介してトレーリングアーム104を車体100bに固定する。
【0017】
図2(a)に示すように、車両100aの下部では、サイドメンバ110が前後方向に延びていて、サイドメンバ110よりも車幅方向外側でサイドシル120が前後方向に延びている。
図1(b)に示すように、本実施形態のアーム固定構造100では、車体100bの底面となるリアフロアパネル130よりも下方であって、サイドメンバ110およびサイドシル120の間に、インサイドブラケット140、アウトサイドブラケット150およびそれらを結合するブレース160が配置されている。
【0018】
図2(b)に示すように、インサイドブラケット140は、下方から観察した際に車幅方向外側に開口したコの字形状であり、サイドメンバ110に接合されている。
図2(a)に示すように、インサイドブラケット140は、ブッシュ106を車幅方向内側から挟み込むようにブッシュ106に取り付けられる。
【0019】
図2(b)に示すように、アウトサイドブラケット150は、下方から観察した際に車幅方向内側に開口したコの字形状であり、サイドシル120に接合されている。
図2(a)に示すように、アウトサイドブラケット150は、ブッシュ106を車幅方向外側から挟み込むようにブッシュ106に取り付けられる。
【0020】
ブレース160は、上述したインサイドブラケット140およびアウトサイドブラケット150を結合する。本実施形態では、ブレース160は、リアフロアパネル130に接合されていて、リアフロアパネル130の下面からリアサイドメンバ110の下面まで至る高さを有する。
【0021】
上記説明したように、本実施形態のアーム固定構造100では、ブッシュ106に取り付けられるインサイドブラケット140およびアウトサイドブラケット150はブレース160によって結合されている。これにより、インサイドブラケット140およびアウトサイドブラケット150の剛性が高まり、それらの変形が抑制される。したがって、トレーリングアーム104のブッシュ106が固定される箇所の剛性の向上を図ることができ、走行性能や乗員の快適性を高めることが可能となる。
【0022】
またインサイドブラケット140はサイドメンバ110に接合されていて、アウトサイドブラケット150はサイドシル120に接合されている。これにより、ブッシュ106を介してかかったトレーリングアーム104からの荷重をサイドメンバ110およびサイドシル120に好適に伝達することができ、ブッシュ106固定箇所の剛性を更に高めることができる。更にインサイドブラケット140およびアウトサイドブラケット150を結合しているブレース160がリアフロアパネル130に接合されていることにより、インサイドブラケット140およびアウトサイドブラケット150からブレース160に伝達した荷重をリアフロアパネル130に分散することも可能となる。
【0023】
特に本実施形態では、
図1(b)に示すようにサイドメンバ110およびサイドシル120の間にブレース160が配置されることにより、ブレース160は、サイドメンバ110およびサイドシル120の間で車幅方向に延びる横壁となる。これにより、ロール時における車体100bの変形を好適に抑制することが可能となる。また側突時にサイドシル120にかかった荷重(衝撃)を、ブレース160を介してサイドメンバ110に伝達することも可能となる。
【0024】
更に本実施形態のアーム固定構造100では、
図2(b)に示すようにインサイドブラケット140の後端140aの近傍とサイドシル120の後端120aの近傍とを結ぶ直線Lは車体100bの車幅方向とほぼ平行である。そして、ブレース160は、下方から観察した際にその直線Lと重なるように配置されている。すなわちブレース160は、下方から観察した際に車体100bの車幅方向とほぼ平行な直線状となっている。
【0025】
本実施形態のようにブレース160が車幅方向において直線状となることにより、荷重の集中箇所が生じることがない。これにより、横力がかかった際のブレース160の変形を好適に抑制することができ、サイドメンバ110やサイドシル120への荷重分散性能をより高めることが可能である。したがって、ブッシュ106の固定箇所近傍の剛性が更に向上する。またブレース160が延びる方向が車幅方向とほぼ平行であることにより、コーナリング時の横力によるトレーリングアーム104からの荷重を効率的に処理することができる。したがって、インサイドブラケット140やアウトサイドブラケット150にかかる応力を低減することも可能が可能となる。
【0026】
更に本実施形態のアーム固定構造100では、
図2(b)に破線にて示すように、インサイドブラケット140およびアウトサイドブラケット150は、下方から観察した際に略四角形状を形成している。そして、特に本実施形態では、四角形状を形成する辺のうち、インサイドブラケット140の車両前後方向に延びる辺Aを、アウトサイドブラケット150の車両前後方向に延びる辺Bよりも長くなるように設計している。
【0027】
すなわち、インサイドブラケット140およびアウトサイドブラケット150によって形成される四角形状は、車幅方向内側に向かって広がった略台形状となっている。これにより、横力を受けた際のインサイドブラケット140およびアウトサイドブラケット150の変形をより好適に抑制することができ、ブッシュ106の固定箇所近傍の剛性の更に高めることが可能となる。
【0028】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、車両のリアサスペンションのトレーリングアームを含み、トレーリングアームを車体に固定するトレーリングアーム固定構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
100…アーム固定構造、100a…車両、100b…車体、102…リアサスペンション、104…トレーリングアーム、106…ブッシュ、110…サイドメンバ、120…サイドシル、120a…後端、130…リアフロアパネル、140…インサイドブラケット、140a…後端、150…アウトサイドブラケット、160…ブレース