特許第6398851号(P6398851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6398851下地化成処理を行ったポリオレフィン被覆鋼材
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  • 特許6398851-下地化成処理を行ったポリオレフィン被覆鋼材 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398851
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】下地化成処理を行ったポリオレフィン被覆鋼材
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/04 20060101AFI20180920BHJP
   B32B 15/085 20060101ALI20180920BHJP
   B32B 15/092 20060101ALI20180920BHJP
   C23C 22/50 20060101ALI20180920BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
   B32B15/04 Z
   B32B15/085 Z
   B32B15/092
   C23C22/50
   C23C28/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-80108(P2015-80108)
(22)【出願日】2015年4月9日
(65)【公開番号】特開2016-198934(P2016-198934A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2017年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 信樹
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−209393(JP,A)
【文献】 特開2009−270137(JP,A)
【文献】 特開2009−209394(JP,A)
【文献】 特開2000−178760(JP,A)
【文献】 特開平02−015178(JP,A)
【文献】 特開昭58−048678(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/061705(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C23C 22/00−22/86,
28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラスト処理を施した鋼材の上に、順に化成処理被膜、粉体エポキシ樹脂を塗装したプライマー層、変性ポリオレフィン接着剤層、及びポリオレフィン樹脂層を有し、
前記化成処理被膜が、リン酸、シュウ酸と、シリカ微粒子を主成分とする化成処理液を塗布、乾燥することによって形成されたポリオレフィン被覆鋼材。
【請求項2】
前記化成処理液のシュウ酸添加量としてはリン酸に対するモル比として0.1〜1.0、シリカ微粒子の添加量がリン酸に対して0.6〜2.0のモル比で添加したことを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン被覆鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラスト処理後の鋼材に化成処理を施し、粉体エポキシ樹脂を塗装したプライマー層、変性ポリオレフィン接着剤層、ポリオレフィン被覆を積層したポリオレフィン被覆鋼材の化成処理に関する。本発明に係る化成処理被膜は、クロムを含んでいない。また、化成処理被膜が形成された後に水洗などの洗浄が不要である。本発明のポリオレフィン被覆鋼材は、疵部や端部からの、化成処理被膜の上にある被膜の剥離が少なく、長期の防食性に優れる。また、常温の陰極剥離性と被膜の熱応力に対する密着性に優れる。
【背景技術】
【0002】
従来、海洋構造物やラインパイプ等で長期防食性が要求される場合、鋼材表面に化成処理被膜を設けて、鋼材と被膜との密着性を確保する必要がある。鋼材の化成処理方法としては、従来は、ブラスト処理又は酸洗によってスケール除去し、その後、特開平07−195612号公報(特許文献1)に示されるように、クロム酸を含有するクロメート化成処理を施していた。このクロメート処理は、塗布して、その後乾燥するだけで鋼材とその上の防食被膜等との間に良好な密着性を提供し、腐食環境における耐剥離性を大幅に向上させることが出来るため、数mmの被覆厚を有するポリオレフィン被覆鋼材の下地処理として一般的である。しかしながら、クロメート化成処理被膜は環境負荷物質である6価クロムを含むことから、代替えの化成処理が望まれる。
【0003】
6価クロムを含まない代表的な化成処理としてリン酸亜鉛処理がある。リン酸亜鉛処理は約80℃に加温した亜鉛を含むリン酸塩処理浴中に鋼材を浸漬して、鋼材表面にリン酸亜鉛の結晶を析出させて化成処理被膜を形成した後、余分な成分を水洗する。このため、スラッジや大量の廃液が発生する等の環境負荷が大きい。また密着性や防食性も大きくクロメート処理に劣るという問題があった。
【0004】
6価のクロム酸を使用しない鋼材の化成処理が、特開2006−249459号公報(特許文献2)に記載されている。この化成処理は、鋼材表面にリン酸金属化合物に、水分散性シリカの微粒子を質量比で0.3〜4.0の割合で添加した水溶液を塗布し、水洗等の工程を必要とせず、塗布と乾燥のみで処理を行うことが可能であり、浸漬試験においてクロメート処理と同等の耐水密着性と耐剥離性を有する鋼材表面処理を提供する。
【0005】
また、特開2013−112863号公報(特許文献3)においては、硝酸の第1族元素を除いた金属化合物、リン酸第2族元素金属化合物、気相法シリカ微粒子を含有し、pHが3以下となるように調整された酸性処理液で処理した鋼管表面処理が提案されている。これはリン酸よりも強酸である硝酸化合物によって鉄との反応性を高め、塩水噴霧による湿潤状態での腐食剥離を防止する方法として提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−195612号公報
【特許文献2】特開2006−249459号公報
【特許文献3】特開2013−112863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ポリオレフィン被覆鋼材において、ブラスト処理を行った鋼材表面にリン酸を含む塗布型の化成処理及び粉体エポキシ樹脂を塗装したプライマーを施すことによって被覆鋼材に要求される常温での耐陰極剥離性と上層皮膜との密着性に優れたポリオレフィン被覆鋼材を提供するものである。
【0008】
ブラスト処理後の鋼面は表面にミクロの細かい凹凸や、鉄酸化物の残存があるために濡れ性が悪く、粘度の高い粉体塗料がなじみ難い性質がある。この表面特性を改質するには、化成処理液には反応性の高い酸性(低pH)が必要となる。一方で、酸性成分は可溶性であるので化成処理被膜中に酸成分が残存すると、被膜の疵部からの水侵入で被膜が溶解して剥離が生じやすい。塩酸や硫酸、硝酸等の一般無機酸と異なり、リン酸は金属化合物を形成し易い酸であるため、在る程度不溶性の被膜を形成するが、弱酸であるために高濃度にしなければ高い酸性を得ることが出来ない。ところが、高濃度リン酸を用いると、化成被膜の厚みが増すことから密着力低下が生じるという問題がある。これに対して特許文献3のリン酸成分に強酸の硝酸成分を少量添加する方法では、リン酸成分を減らしても反応性を確保出来る点では有効であるが、少量の硝酸が可溶成分として残存するという問題があった。ポリオレフィン被覆鋼材においては疵部の腐食を防止するために電気防食が施されるが、過防食になると疵からの被覆剥離(陰極剥離)が助長されて、重大な事故に繋がる恐れがあるため、重要な指標である。陰極剥離は温度によって剥離メカニズムが変化するが、常温陰極剥離では化成処理被膜の溶解性が性能を大きく支配するため、従来のリン酸、あるいはリン酸金属を処理成分として用いる方法では可溶成分が残存し易いという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、化成処理の酸成分としてリン酸にシュウ酸を組み合わせ、これにシリカ微粒子を加えた水溶液を適量塗布して乾燥させ、これに粉体エポキシ樹脂を塗装したプライマーを組み合わせることで耐陰極剥離性と密着性に優れた下地処理被膜が形成出来ることを見出した。
【0010】
ブラスト処理を施した鋼材表面は、鉄粉や鉄酸化物、有機汚染物質が表層に残存しており、処理液のpHが3以上では鉄との反応が十分に進行しない。このため、弱酸のリン酸で腐食反応を抑制するのに有効なpHを得るためにはリン酸濃度を高くする必要があるが、高濃度のリン酸は反応で生成するリン酸鉄量が過剰となって密着性が低下する。また、未反応の可溶性リン酸成分によって常温の陰極剥離試験性能が低下する。
【0011】
本発明では、化成処理液中の酸性分としてリン酸に、シュウ酸を加えることで上記の問題を解決した。シュウ酸は金属との化合性が強く、シュウ酸金属化合物は不溶性が非常に高い。ところが、シュウ酸による鋼材の表面処理被膜は脆いため、塑性加工用の下地処理としてのみ用いられ、塗装下地に用いられる事は無かった。そこで、リン酸とシュウ酸を組み合わせることで、鋼材表面との反応性を高め、かつ、リン酸金属とシュウ酸の不溶性複合化合物を表面に形成することで、リン酸の溶出を抑制することが可能となる。これに、シリカ微粒子を添加することでポーラスな化成処理表面が形成されて、上層のエポキシ樹脂との密着性を更に高めることが出来る。尚、処理液中への金属成分添加は本発明の主旨を損なうものでは無いが、金属塩はシュウ酸金属化合物を形成して沈殿が生じるため、極微量しか添加することは出来無い。
【0012】
また、プライマーは、従来の液状エポキシ樹脂を用いる場合は、30〜100μm程度であった。プライマーは膜厚が厚い方が防食性能に優れる一方で、内部応力が高くなるため、厚膜のプライマーを使用するためには化成処理による密着性が必要となる。本発明の化成処理被膜はリン酸金属とシュウ酸の複合化合物が、従来のリン酸金属のみの被膜に比べて強固に鋼材と密着することから、プライマーに厚膜の粉体エポキシ樹脂を使用することが出来る。すなわち、本発明の化成処理と粉体エポキシ樹脂で塗装した膜厚が150〜500μmの厚膜のプライマーの組み合わせによって、良好な防食性能が得られる。
【発明の効果】
【0013】
以上、塗布、乾燥のみで被膜を形成する本発明の化成処理は、ブラスト後の鋼材表面との高い反応性によって被膜と鋼材の密着性が優れると供に、不溶性の高い鉄化合物を形成することから化成被膜の溶出が主要因となる常温陰極剥離試験での剥離を抑制することが可能なポリオレフィン被覆鋼材を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一つの実施態様を示す有機樹脂被覆鋼材の被膜構成断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明につき詳細に説明を行なう。
図1は、本発明の一つの実施態様を示す有機樹脂被覆鋼材の被覆構成断面図である。本発明に使用する鋼材1の形態としては鋼管、鋼管杭を用いる。鋼材の成分種類としては普通鋼、あるいは高合金鋼などどのような鋼種でも適用可能である。
【0016】
鋼材1の表面のスケール、汚染物等を除去するため、ブラスト処理を行う。ブラスト処理後の表面に本発明のリン酸、シュウ酸、微粒子シリカを含有する化成処理液を塗布、乾燥して化成処理被膜層2を形成する。
次に粉体エポキシ樹脂を塗布して溶融硬化させてプライマー層3を形成し、変性ポリオレフィン接着剤層4,ポリオレフィン樹脂層5を順次積層する。
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリオレフィン被覆鋼材は化成処理を行う前に、鋼材表面の錆や汚れを除去するだけでなく、接着に必要な粗度を確保するためにブラスト処理を行う。ブラスト処理に用いる研掃材としては、鋼製の場合、高粗度が得られるグリッド粒が好ましい。更に清浄な表面が要求される場合には、アルミナ等のセラミック素材を用いても良い。また、サンドを用いることも出来る。ブラスト処理後に汚れが付着している場合、ブラシ、吸引、液体による洗浄等の処理を行っても良い。化成処理被膜の形成には、化成処理液を鋼材に塗布して乾燥する。その場合に、化成処理液を塗布した後の水洗は必要ない。以下に本発明で用いる化成処理について詳細に説明する。
【0018】
本発明に用いる化成処理液とは、主成分としてリン酸、シュウ酸、及びシリカ微粒子を含むものである。その他成分として沈殿しない程度の微量であれば金属成分を添加することも出来るが、微量では本発明の作用に影響は無く、添加は効果的ではない。
【0019】
化成処理被膜は、不溶性被膜を金属表面に形成する。塗布型では塗布出来る液量と時間に制限があり、短時間での鋼材との反応性を上げるために高い酸性(低pH)が必要である。酸としては鉄と反応して不溶性塩を生成するリン酸を使用する。リン酸以外の酸として、塩酸、硝酸、硫酸の様な無機酸は鋼材との反応性を高めるが、酸性成分が残存するため、本発明の処理液成分としては好ましくない。本発明では、このリン酸の機能を高める方法としてシュウ酸を加える。これによって、鉄との反応性が高まると同時にリン酸鉄とシュウ酸の複合化合物が形成されて、不溶性被膜が形成される。この時のシュウ酸添加量としてはリン酸に対するモル比として0.1〜1.0が良い。シュウ酸成分が0.1より少ない場合はシュウ酸の効果が十分では無い。シュウ酸成分が1.0を超えると、シュウ酸鉄が主たる被膜となって、ポリオレフィン被覆製造工程での加熱が160℃以上となることからして、分解して防食性が低下する。さらに、被膜との密着性を向上させる微粒子シリカを添加する。微粒子シリカは、酸と鉄の反応によって生じる水素発生に伴って粒状となって溶液中に分散する余剰スラッジ成分を取り込むと供に、上層のエポキシ樹脂が、ポーラスなシリカ粒子の隙間に流れ混むことで、一体となった硬化被膜を形成することで密着性が向上する。
【0020】
シリカ微粒子としては、乾式法により合成した5〜50nm径の1次粒子が2次凝集したものを用いる。そうすることによりシリカ微粒子が凝集合体しブドウ状になりポーラスな被膜を形成し、その上のプライマー層との密着性を向上させる。シリカ微粒子としては、例えば日本アエロジル社製のAEROSIL 130、AEROSIL 200、AEROSIL 200V、AEROSIL 200CF、AEROSIL 200FAD、AEROSIL 300、AEROSIL 300CF、AEROSIL 380、AEROSIL OX50、AEROSIL TT600、AEROSIL MOX等を用いることができる。この時のシリカ微粒子の添加量は、リン酸に対して0.6〜2.0のモル比で添加する。添加するシリカ微粒子のモル比が0.6未満では、生成する化成処理被膜中のリン酸鉄とシュウ酸の複合化合物の比率が高くなって、被膜が脆くなり、密着性が低下する。また、シリカ微粒子のモル比が2.0以上では、化成処理被膜中のポーラスなシリカ被膜が厚くなるために化成処理被膜の凝集力が低下して密着力が低下する。
【0021】
前述の処理液にはシランカップリング剤を添加することが出来るが、シランカップリング剤の分子構造中にアミノ基やイソシアネート基を有すると化成処理被膜の構造が変化するため、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0022】
本発明で使用する化成処理液は、鋼材との反応性を確保するため、鋼材温度を40〜80℃に調整する。40℃以下では鉄との反応性が低く、鋼材表面が反応被膜で覆われないために、鉄の酸化反応が優先されて錆が形成されて性能が低下する。また、80℃を超えると、塗布型では塗布後の処理液の乾燥時間が短くなって、水素発生や乾燥が局所的に生じて、均一な化成処理被膜が形成されない。
【0023】
鋼材を上記温度の加熱後、スプレー、刷毛、ロール、流し塗り後のしごき等の塗布方法で塗布する。この時、シリカ付着量として100〜800mg/m2の範囲で塗布する。付着量が100mg/m2未満では処理の効果が得られず、800mg/m2を超えると化成処理被膜の物理的強度が低下することにより密着力が低下する。
【0024】
次に、上記化成処理液を塗布して形成した化成処理被膜の上に施すエポキシプライマー層について説明する。これまで、日本国内ではプライマー層は硬化剤にアミン化合物を使用した2液の液体エポキシ樹脂が使用されてきたが、液体エポキシ樹脂をプライマーに使用した場合、50μm程度の膜厚が一般的であるのに対して、粉体エポキシ樹脂をプライマーとして用いると、100μm以上の膜厚が可能で高い防食性を確保することが出来る。このため、粉体エポキシ樹脂をプライマーとして用いる方法が世界的には標準となっており、本発明のプライマーには紛体エポキシ樹脂を用いる。粉体エポキシ樹脂は主成分のビスフェノールA型、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を単独、もしくは混合し、更に多官能性のフェノールノボラックやハロゲン化エポキシ樹脂を組み合わせたものに、フェノール系硬化剤を組み合わせたものが一般的である。硬化速度はアミン系やイミダゾール化合物、ジシアンジアミド等を添加して調整する。さらに無機顔料を全体積に対して3〜30vol%の範囲で添加してもよい。無機顔料として、シリカ、酸化チタン、ウォラストナイト、マイカ、タルク、カオリン、酸化クロム、硼酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、燐酸亜鉛等の顔料、もしくは亜鉛、Al等の金属粉、あるいはセラミック粉等、その他にバナジウムリン系化合物等の防錆顔料を適宜用いることができる。粉体エポキシ塗料は、国内では、日本ペイント株式会社、もしくは関西ペイント株式会社から入手できる。海外では、JOUTAN、KCC、Arsonnsisi、3M 等のメーカーで鋼材被覆用として販売されている銘柄を適宜用いることができる。
【0025】
本発明の鋼材では、粉体エポキシ樹脂を、化成処理後に160〜240℃に加熱した鋼材の外面に静電粉体塗装機を用いて塗布する。本発明のプライマー層の厚みは、150μm〜500μmである。150μm未満では防食性が低下し、500μmを超えると、被膜応力が大きくなって冷熱サイクル試験で剥離が大きくなるため好ましくない。粉体エポキシ樹脂は加熱した鋼材表面で一度溶融状態となることで、化成被膜のポーラスなシリカ被膜に浸透して、化成処理被膜と一体化する。これにより、高い密着力が得られる。
【0026】
粉体エポキシ樹脂プライマーを塗布後に、変性ポリオレフィン接着剤を介してポリオレフィン樹脂被膜を積層する。変性ポリオレフィン接着剤は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの公知のポリオレフィン類を無水マレイン酸で変性したもの、あるいはオレフィン類と無水マレイン酸との共重合体、オレフィン類とアクリル酸エステルと、無水マレイン酸との共重合体を用いる。
【0027】
熱可塑性の変性ポリオレフィン接着剤は、ペレットで供給される場合、押出機を用いて加熱溶融した樹脂をTダイス、あるいは丸ダイスを用いて、プライマー塗布後の鋼材外面に被覆する。その他の方法としては、変性ポリオレフィン接着剤を粉砕して粉体化し、この粉体塗布する方法もある。これらの方法により、0.1〜0.4mmの接着剤層を形成する。
【0028】
変性ポリオレフィン接着剤層の上に被覆するポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどの従来公知のポリオレフィン樹脂、並びにエチレン−プロピレンブロックまたはランダム共重合体、ポリアミド−プロピレンブロック又はランダム共重合体等の公知のポリオレフィン共重合体を含む樹脂を挙げることができる。
【0029】
ポリオレフィン樹脂層には、ポリオレフィン樹脂以外の成分として、耐熱性、耐候性対策として、カーボンブラック又はその他の着色顔料、充填強化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系の耐候剤等を任意に組み合わせで添加することができる。
【0030】
ポリオレフィン樹脂は、押出し被覆方法でJIS G3469−1に規定される最小全膜厚である1.2mm以上になるように被覆する。ポリオレフィン樹脂層は厚い程、耐疵性と防食性に優れるが、厚膜になると内部応力が大きくなるため5mm以下が望ましい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0032】
化成処理液の調製
・実施例1〜6の化成処理液
本発明の化成処理液のpHは、反応性を高めるために1.5以下となるよう調整した。リン酸としては市販の85%リン酸、シュウ酸としては市販の0.5モル/lのシュウ酸溶液を用いた。シリカ微粒子として気相法で合成された日本アエロジル社製のAEROSIL 200を、蒸留水に分散させて20%溶液を作製した後、これらを調合した。実施例1〜3では、リン酸の添加量を調整してシリカ微粒子のリン酸に対するモル比を変更し、本発明の0.6〜2.0の範囲が良好であることを確認した。実施例4〜6では、シュウ酸添加量を変えて、シュウ酸はリン酸に対するモル比で0.1〜1.0の範囲が良好であることを確認した。この時の塗布時の処理液のpHはいずれも1.5以下である。
【0033】
・比較例1〜5の化成処理液
実施例と同成分を用い、同様の方法で化成処理液を調整した。比較例1及び2は、シリカ微粒子のリン酸に対するモル比が本発明の範囲である0.6〜2.0を外れる。比較例3及び4は、シュウ酸のリン酸に対するモル比が本発明の範囲である0.1〜1.0の範囲を外れる。比較例5は本発明の実施例1の処理液に、リン酸金属として重リン酸カルシウムを添加した場合である。シュウ酸を使用する場合は、従来の化成処理で用いられてきた金属塩を添加するとシュウ酸金属沈殿が容易に生じる。本発明の処理液に対しては、有効量の金属成分添加は難しい。
【0034】
・比較例6〜8の化成処理液
本発明の実施例1の処理液からシュウ酸を除いた比較例4の処理液組成をベースとして、重リン酸カルシウムを特許文献2に用いられている重リン酸カルシウムを、リン酸金属化合物に対するシリカの重量比として、比較例13では4.0、比較例14では1.0となるように添加した。比較例15では比較例14の成分に硝酸銀をシリカに対する重量比で0.5の割合で添加して、特許文献3に相当する化成処理液とした。比較例6〜8の処理液の塗布液のpHは1.5以上となった。
【0035】
・比較例9のクロメート処理液
クロメート処理剤としては、特許文献1と同等の部分還元クロム酸とシリカの混合溶液を用いた日本パーカーライジング(株)製のパルクロム100を用いた。
【0036】
被覆鋼板の作製
鋼材には9×100×150mmの熱延鋼板を用いて、IKK社製のTGD−70番のグリッド粒を、インペラー方式を用いてブラスト処理を行って除錆した。鋼板を50℃に加温後、本発明の実施例1〜6及び比較例1〜8の化成処理液を塗布し、適量な付着量となるようにゴムべらでしごいて液量を調整した。付着量は蛍光X線装置を用いて測定した結果、シリカ付着量は400〜600mg/m2の範囲であった。
【0037】
化成処理後の鋼板をオーブンで200℃に加温後、粉体エポキシ樹脂プライマー(PE50−1081、Arsonsisi社製)を、目標膜厚250μmで静電粉体塗装を実施した。その後、変性ポリエチレン接着剤(ADMER NE065、三井化学社製)の200μm成形シートとポリエチレン(NOVATEC ER002S、日本ポリエチレン社製)の3mm厚シートを半溶融状態に加熱して被覆を行った。その後、水冷を行って本発明の実施例及び比較例の3層ポリオレフィン被覆鋼材を製造した。
【0038】
比較例9の特許文献1に相当する一般的なクロメート処理を組み合わせたポリオレフィン被覆鋼材を作製した。クロメートとしては日本パーカーライジング社製のパルクロム100を用いた。また、プライマー用樹脂としては、ビスフェノールA型樹脂を主剤とし、硬化剤にアミン系を用いた2液硬化型のエポキシ樹脂を用いた。ブラスト処理した鋼板にパルクロム100をクロム付着量が400mg/m2となるように刷毛で塗布した後に乾燥し、液体エポキシ樹脂をバーコーターで、平均膜厚で50μmとなるように塗装した。鋼板をヒーター加熱して180℃に加温後、変性ポリエチレン接着剤(ADMER NE065、三井化学社製)の200μm成形シートとポリエチレン(NOVATEC ER002S、日本ポリエチレン社製)の3mm厚シートを半溶融状態に加熱して被覆を行った。その後、水冷を行った。
【0039】
JISG3477に規定される陰極剥離性能を確認する方法としては、ポリオレフィン被覆鋼板の中心に6mmΦの貫通疵を設け、その疵を中心に3%食塩水を満たした円筒状セルを用いて電界試験を行った。電位としては飽和カロメル電極に対して、−1.5Vの電圧を欠陥部に設定し、23℃と60℃で、それぞれ28日間の試験を実施後、剥離距離を測定するため、人工疵からタガネで被覆を剥がした後、疵からの剥離距離の平均値を求めた。
【0040】
また、被膜の内部応力に対する接着力が確保されているかを確認する方法として冷熱サイクル試験(−30℃フリーザーに1時間保持と60℃オーブン中に1時間保持を100回繰り返す)を実施後、被膜の膨張収縮の応力によって生じる被覆端面からの剥離距離(mm)を測定した。
【0041】
比較例及び本発明の化成処理成分と試験結果を表1に示す。発明例の実施例1〜6のリン酸、シュウ酸及びシリカを適正な範囲で調合した場合、耐陰極剥離製と、冷熱サイクルで発生する内部応力に起因する剥離(応力剥離)に優れることがわかる。一方で、比較例1〜4の本発明の処理組を用いても適正な調合範囲を超える場合には、常温と高温の陰極剥離性能のバランスを保つ事が難しい。また、有効な複合化合物による被膜が形成されないために、密着力が低下して冷熱サイクル試験での剥離が大きくなる。また比較例5のように、金属成分を添加することは難しく、処理液を調合することが出来ない。
特許文献2に相当する比較例6〜8では、処理液のpHが上昇することもあって、密着に寄与しないリン酸金属化合物が増えるため、冷熱サイクルでの剥離が増加する。特に、シュウ酸によるリン酸の不溶解化作用が無いことから、常温での陰極剥離試験での剥離が5mmを超えて大きくなる。
特許文献1に相当する従来のクロメート処理液を用いた場合でも、従来の液体エポキシ樹脂をプライマーに用いた場合には良好な陰極剥離性能を得ることは難しく、本発明の化成処理液と粉体エポキシ樹脂の組み合わせによる実施例1〜6によって始めて良好な性能が得られる。
【0042】
【表1】
【符号の説明】
【0043】
1 鋼材
2 本発明のリン酸とシュウ酸、微粒子シリカを処理液主成分とする化成処理被膜
3 粉体エポキシ樹脂を塗装したプライマー層
4 変性ポリオレフィン接着剤層
5 ポリオレフィン樹脂層
図1