(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記n個のバンドパスフィルタのうちk番目(2≦k≦n)のバンドパスフィルタについて、通過帯域の中心周波数をf(k)、前記共通端子から見た当該中心周波数におけるサセプタンス値をB(k)とすると、
前記1番目のバンドパスフィルタは、前記整合回路による整合のない状態で、前記2番目からn番目のバンドパスフィルタの各々について、以下の構成(iii)または構成(iv)を満たす
(iii)前記1番目のバンドパスフィルタが最も高域側のバンドパスフィルタの場合、
B(k)×{2×f(k)−f(1)}/f(1)<B(1)<B(k)
(iv)前記1番目のバンドパスフィルタが最も低域側のバンドパスフィルタの場合、
B(k)<B(1)<B(k)×{2×f(k)−f(1)}/f(1)
請求項1に記載の分波器。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続形態、製造方法、および製造方法の順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面に示される構成要素の大きさまたは大きさの比は、必ずしも厳密ではない。また、以下の実施の形態において、「接続される」とは、直接接続される場合だけでなく、他の素子等を介して電気的に接続される場合も含まれる。
【0023】
また、以下の実施の形態では、互いに異なるn以上(nは3以上の自然数)の通過帯域を有するn個のバンドパスフィルタと、n個のバンドパスフィルタに共通に設けられた共通端子とを有する分波器として、マルチプレクサを例に説明する。
【0024】
(実施の形態1)
[1.マルチプレクサの基本構成]
本実施の形態に係るマルチプレクサは、互いに異なるn以上(nは3以上の自然数)の通過帯域を有するn個のバンドパスフィルタと、n個のバンドパスフィルタに共通に設けられた共通端子とを有する。
【0025】
図1は、本実施の形態に係るマルチプレクサ1の全体構成図である。なお、同図には、マルチプレクサ1の共通端子21に接続されるアンテナ2及びインダクタ3も図示されている。
【0026】
同図に示すように、本実施の形態では、マルチプレクサ1は、互いに異なる4つの通過帯域を有する4つのバンドパスフィルタ10〜40と、共通端子21とを有する。このマルチプレクサ1は、例えば、Band2(送信通過帯域:1850−1910MHz、受信通過帯域:1930−1990MHz)およびBand4(送信通過帯域:1710−1755MHz、受信通過帯域:2110−2155MHz)に適用されるクワッドプレクサである。
【0027】
バンドパスフィルタ10は、送信回路(RFICなど)で生成されて送信入力端子11から入力された送信波を、Band4の送信通過帯域(1710−1755MHz)でフィルタリングして共通端子21に出力する非平衡入力−非平衡出力型の送信側フィルタである。
【0028】
バンドパスフィルタ20は、送信回路(RFICなど)で生成されて送信入力端子12から入力された送信波を、Band2の送信通過帯域(1850−1910MHz)でフィルタリングして共通端子21に出力する非平衡入力−非平衡出力型の送信側フィルタである。
【0029】
バンドパスフィルタ30は、共通端子21から入力された受信波を、Band2の受信通過帯域(1930−1990MHz)でフィルタリングして受信出力端子13に出力する非平衡入力−非平衡出力型の受信側フィルタである。
【0030】
バンドパスフィルタ40は、共通端子21から入力された受信波を、Band4の受信通過帯域(2110−2155MHz)でフィルタリングして受信出力端子14に出力する非平衡入力−非平衡出力型の受信側フィルタである。
【0031】
本実施の形態では、バンドパスフィルタ10〜40は、表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)を利用した弾性表面波フィルタによって構成されている。なお、バンドパスフィルタ10〜40の構成は、SAWを利用した弾性波フィルタに限定されず、バルク波(BAW: Bulk Acoustic Wave)を利用した弾性波フィルタであってもかまわない。また、弾性波フィルタに限定されず、チップインダクタ及びチップコンデンサ等を適宜組み合わせて構成されたフィルタであってもかまわない。
【0032】
[2.弾性表面波共振子の構造]
ここで、弾性表面波フィルタを構成する共振子の構造について説明する。
【0033】
図2は、本実施の形態に係る弾性表面波フィルタの共振子を模式的に表す平面図および断面図である。同図には、バンドパスフィルタ40を構成する複数の共振子のうち、後述する直列腕共振子141(
図3参照)の構造を表す平面摸式図および断面模式図が例示されている。なお、
図2に示された直列腕共振子401は、上記複数の共振子の典型的な構造を説明するためのものであって、電極を構成する電極指の本数や長さなどは、これに限定されない。
【0034】
バンドパスフィルタ10〜40の各共振子は、圧電基板421と、櫛形形状を有するIDT(InterDigital Transducer)電極411a、411bとで構成されている。
【0035】
図2の平面図に示すように、圧電基板421の上には、互いに対向する一対のIDT電極411a、411bが形成されている。IDT電極411aは、互いに平行な複数の電極指412aと、複数の電極指412aを接続するバスバー電極413aとで構成されている。また、IDT電極411bは、互いに平行な複数の電極指412bと、複数の電極指412bを接続するバスバー電極413bとで構成されている。複数の電極指412a、412bは、X軸方向と直交して延設されている。
【0036】
また、複数の電極指412a、412b、ならびに、バスバー電極413a、413bで構成されるIDT電極411a、411bは、
図2の断面図に示すように、密着層422と主電極層423との積層構造となっている。
【0037】
密着層422は、圧電基板421と主電極層423との密着性を向上させるための層であり、材料として、例えば、Tiが用いられる。主電極層423は、材料として、例えば、Cuを1%含有したAlが用いられる。
【0038】
なお、密着層422及び主電極層423を構成する材料は、上述した材料に限定されない。さらに、IDT電極411a、411bは、上記積層構造でなくてもよい。IDT電極411a、411bは、例えば、Ti、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Pdなどの金属又は合金から構成されてもよく、また、上記の金属又は合金から構成される複数の積層体から構成されてもよい。また、圧電基板421上に、電極保護または特性改善を目的として、密着層422および主電極層423を覆う誘電体膜が形成されていてもよい。
【0039】
このような直列腕共振子等の共振子で構成される弾性表面波フィルタの特性は、当該共振子のIDT電極の構造に依存する。このため、例えば、IDT電極の構造を調整することで、各周波数帯域(Band)における通過特性の要求仕様に応じたバンドパスフィルタ10〜40が構成される。
【0040】
ここで、IDT電極の構造について説明する。
【0041】
弾性表面波共振子の波長とは、
図2の中段に示すIDT電極411aおよび411bを構成する複数の電極指412a、412bの繰り返しピッチλで規定される。また、IDT電極の交叉幅Hは、
図2の上段に示すように、X軸方向から見た場合に、IDT電極411aの電極指412aとIDT電極411bの電極指412bとが重複する電極指長さである。X軸方向はIDT電極によって圧電基板421に励振される縦モードの弾性表面波の伝搬方向に平行に延びている。また、デューティー比は、複数の電極指412a、412bのライン幅占有率であり、複数の電極指412a、412bのライン幅とスペース幅との加算値に対する当該ライン幅の割合である。より具体的には、デューティー比は、IDT電極411a、411bを構成する電極指412a、412b各々のライン幅をWとし、隣り合う電極指412aと電極指412bとの間のスペース幅をSとした場合、W/(W+S)で定義される。
【0042】
[3.バンドパスフィルタの回路構成]
次に、バンドパスフィルタ10〜40の構成について、バンドパスフィルタ40を例に説明する。
【0043】
図3は、本実施の形態に係るバンドパスフィルタ40の回路構成を示したマルチプレクサ1の全体構成図である。
【0044】
同図に示すように、バンドパスフィルタ40は、直列腕共振子141、143と、並列腕共振子142と、縦結合型フィルタ部144とを有する。
【0045】
直列腕共振子141、143は、共通端子21と受信出力端子14との間で互いに直列に接続されている。並列腕共振子142は、直列腕共振子141と直列腕共振子143との接続ノードと基準端子(グランド)との間に設けられている。このように接続された直列腕共振子141、143および並列腕共振子142は、ラダー型のバンドパスフィルタを構成している。縦結合型フィルタ部144は、直列腕共振子143と受信出力端子14との間に設けられている。
【0046】
なお、バンドパスフィルタ40の回路構成としては、このような構成に限らず、Band4の受信通過帯域における通過特性の要求仕様を満足できる構成であればよい。ただし、インピーダンス設計の自由度を確保するために、共通端子21側に、直列腕共振子及び並列腕共振子が設けられていることが好ましい。つまり、バンドパスフィルタ40は、他の素子を介することなく、共通端子21と接続される直列腕共振子又は並列腕共振子を有することが好ましい。
【0047】
また、バンドパスフィルタ10〜30の詳細な回路構成としては、各周波数帯域における通過特性の要求仕様を満足できる構成であれば、適宜公知の配置構成を適用できる。配置構成とは、例えば、直列腕共振子および並列腕共振子の配置数であり、また、ラダー型および縦結合型などのフィルタ構成の選択である。
【0048】
[4.通過帯域中心周波数が最も離れたバンドパスフィルタの設計範囲]
ここで、本実施の形態では、通過ロス及び反射ロスを低減するために、通過帯域の中心周波数が最も離れたバンドパスフィルタが、以下で詳細に説明する所定の構成を満たす点に特徴を有する。具体的には、本実施の形態に係るマルチプレクサ1は、Band2及びBand4に適用されるため、Band4の受信側フィルタであるバンドパスフィルタ40が通過帯域の中心周波数が最も離れたバンドパスフィルタとなる。このため、バンドパスフィルタ40が所定の構成を満たすように設計されている。
【0049】
以下、通過帯域中心周波数が最も離れたバンドパスフィルタが満たす構成について、発明者らが本発明に至った経緯に基づいて説明する。
【0050】
図4は、一般的なマルチプレクサに共通の整合回路を接続した場合の問題について説明するための図である。具体的には、同図の上段には、比較例に係るマルチプレクサの構成が示されている。また、同図の下段には、当該比較例において共通の整合回路が接続されていない状態で共通端子921から見たインピーダンス(図中の「整合回路(Lp)未接続」)、及び、接続されている状態(図中の「整合回路(Lp)接続」)で共通端子921から見たインピーダンスを示すアドミタンスチャートである。
【0051】
なお、比較例に係るマルチプレクサは、互いに異なる3以上の通過帯域を有する3以上のバンドパスフィルタを有するが、同図には、第1の通過帯域(BPF91)の通過帯域を有するバンドパスフィルタ910、及び、第2の通過帯域(BPF94)の通過帯域を有するバンドパスフィルタ940が示されている。
【0052】
これらバンドパスフィルタ910、940は、共通端子921及び共通の整合回路であるインダクタ903に共通に接続されている。ここで、インダクタ903は、一端が共通端子921に接続され、他端がグランドに接続された、いわゆる並列インダクタである。
【0053】
同図に示されているように、バンドパスフィルタ910、940のインピーダンスは、整合回路としてインダクタ903が接続されることにより、等コンダクタンス円上を誘導性へと移動する。つまり、バンドパスフィルタ910、940は、インダクタ903が接続されることにより、サセプタンス値が小さくなる。
【0054】
このときのサセプタンス値の変化量ΔBは、インダクタ903のインダクタンス値をLpとし、通過帯域の中心周波数をfとすると、1/(2πfLp)で表される。
【0055】
このように、サセプタンス値の変化量ΔBは周波数に依存するため、整合回路が接続されていないときに同等のインピーダンスを有するバンドパスフィルタ910とバンドパスフィルタ940とでは次のような問題が生じる。すなわち、一方のインピーダンスを50Ω等の特性インピーダンスに整合するように調整すると、他方のインピーダンスが特性インピーダンスから外れることとなり、インピーダンスの不整合が生じる虞がある。
【0056】
このようなインピーダンスの不整合は、サセプタンス値の変化量ΔBが周波数に依存することにより、特に、他のフィルタと通過帯域が離れたフィルタにおいて顕著である。
【0057】
そこで、本発明者らは、共通の整合回路として並列インダクタが設けられるマルチプレクサにおいて、通過帯域が最も離れたバンドパスフィルタのサセプタンス値を所定の範囲内にすることによって、当該バンドパスフィルタのインピーダンス不整合を低減することを考え、以下で説明する構成を見出した。
【0058】
以下、本発明者らが見出したインピーダンス不整合を低減できる構成について説明する。
【0059】
図5A及び
図5Bは、本発明者らが見出した構成について説明するための図である。具体的には、
図5Aは、通過帯域が最も離れたバンドパスフィルタが最も高域側のバンドパスフィルタである場合に満たすべき構成について説明するための図である。
図5Bは、通過帯域が最も離れたバンドパスフィルタが最も低域側のバンドパスフィルタである場合に満たすべき構成について説明するための図である。また、
図5A及び
図5Bは、上段に4つのバンドパスフィルタ(以下、BPF1〜BPF4)の通過帯域が模式的に示され、下段にサセプタンス値の範囲を説明するためのアドミタンスチャートが示されている。
【0060】
なお、
図5Aに示すBPF1〜BPF4の通過帯域及び各通過帯域の中心周波数(f(1)〜f(4))と、
図5Bに示すBPF1〜BPF4の通過帯域及び各通過帯域の中心周波数(f(1)〜f(4))とは、後述する構成の説明を簡素化するために周波数の大小関係が異なっている。
【0061】
まず、通過帯域が最も離れたフィルタの定義について、
図5A及び
図5Bを用いて説明する。
【0062】
本実施の形態において、「通過帯域が最も離れたフィルタ」とは、n個のバンドパスフィルタのうち、通過帯域の中心周波数が最も低域側及び最も高域側のいずれか一方のバンドパスフィルタであり、かつ、他方のバンドパスフィルタと比べて隣接するバンドパスフィルタと通過帯域の中心周波数の差分が大きいまたは等しいバンドパスフィルタである。
【0063】
つまり、
図5Aに示す例では、「通過帯域が最も離れたフィルタ」として、BPF1〜BPF4(ただし、各バンドパスフィルタの中心周波数の関係はBPF4<BPF3<BPF2<BPF1を満たす)のうち、最も低域側のBPF4又は最も高域側のBPF1が候補に挙げられる。ここで、BPF1の中心周波数f(1)とBPF1に隣接するBPF2の中心周波数f(2)との差分f(1)−f(2)と、BPF4の中心周波数f(4)とBPF4に隣接するBPF3の中心周波数f(3)との差分f(3)−f(4)とを比較する。その結果、(f(1)−f(2))≧(f(3)−f(4))を満たす場合、通過帯域が最も離れたバンドパスフィルタとして最も高域側のBPF1が定義される。
【0064】
また、
図5Bに示す例では、「通過帯域が最も離れたフィルタ」として、BPF1〜BPF4(ただし、各バンドパスフィルタの中心周波数の関係はBPF1<BPF2<BPF3<BPF4を満たす)のうち、最も低域側のBPF1又は最も高域側のBPF4が候補に挙げられる。ここで、BPF4の中心周波数f(4)とBPF4に隣接するBPF3の中心周波数f(3)との差分f(4)−f(3)と、BPF1の中心周波数f(1)とBPF1に隣接するBPF2の中心周波数f(2)との差分f(2)−f(1)とを比較する。その結果、(f(2)−f(1))≧(f(4)−f(3))を満たす場合、通過帯域が最も離れたバンドパスフィルタとして最も低域側のBPF1が定義される。
【0065】
以下では、n個のバンドパスフィルタのうち、上記のように定義された通過帯域が最も離れたバンドパスフィルタを1番目のバンドパスフィルタとし、以降、通過帯域が隣接するバンドパスフィルタを順に、k番目のバンドパスフィルタ(2≦k≦n)として説明する。
【0066】
また、以下では、マルチプレクサの整合回路が、n個のバンドパスフィルタに共通に設けられる構成を想定して説明し、特に、当該整合回路として並列インダクタが適用される構成を想定して説明する。また、以下では、インピーダンスに関して特に断りのない場合、共通端子からマルチプレクサ側を見たインピーダンスを指す。
【0067】
[4−1.最も高域側のバンドパスフィルタが最も離れたバンドパスフィルタの場合]
まず、通過帯域が最も離れたバンドパスフィルタ(1番目のバンドパスフィルタ)が最も高域側のバンドパスフィルタである場合の、通過ロス及び反射ロスを低減するための所定の構成について説明する。
【0068】
整合回路として並列インダクタを用いる場合、当該並列インダクタを設けることによる1番目のバンドパスフィルタのサセプタンス(アドミタンスの虚数部)の変動量ΔB(1)は、次の式で表される。
【0069】
|ΔB(1)|=1/{2πf(1)Lp} 式(1)
【0070】
ただし、f(1)は、1番目のバンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数である。また、Lpは、n個のバンドパスフィルタに共通の整合回路として設けられる並列インダクタのインダクタンス値である。
【0071】
共通端子から見て、1番目のバンドパスフィルタのマッチングを最適化するためには、整合回路を設けた状態でサセプタンス値が0となることが最も好ましい。このため、整合回路を設けない状態における1番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値の最適値B(1_best)は、次の式で表される。
【0072】
B(1_best)=|ΔB(1)|
=1/{2πf(1)Lp} 式(2)
【0073】
同様に、整合回路として並列インダクタを用いる場合、当該並列インダクタを設けることによる2番目のバンドパスフィルタのサセプタンスの変動量ΔB(2)は、次の式で表される。
【0074】
|ΔB(2)|=1/{2πf(2)Lp} 式(3)
【0075】
ただし、f(2)は2番目のバンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数である。
【0076】
2番目のバンドパスフィルタについても、1番目のバンドパスフィルタと同様に、共通端子から見て、マッチングを最適化するためには、整合回路を設けた状態でサセプタンス値が0となることが最も好ましい。このため、整合回路を設けない状態における2番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値の最適値B(2)は、次の式で表される。
【0077】
B(2)=|ΔB(2)|
=1/{2πf(2)Lp} 式(4)
【0078】
上述したように、Lpは共通の整合回路として設けられる並列インダクタのインダクタンス値である。このため、式(4)をLpについて解き、式(1)に代入すると、1番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値の最適値B(1_best)は、2番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値の最適値B(2)を用いて、次の式で表される。
【0079】
B(1_best)={f(2)/f(1)}×B(2) 式(5)
【0080】
したがって、整合回路を設けない状態で、1番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値を{f(2)/f(1)}×B(2)とすることにより、次のような効果が奏される。すなわち、最もマッチングが取りにくい1番目のバンドパスフィルタ、及び、2番目のバンドパスフィルタの各々について、共通の整合回路である並列インダクタによって最適なマッチングをとることができる。
【0081】
ここで、1番目及び2番目のバンドパスフィルタ各々の通過帯域の中心周波数は、f(1)>f(2)の関係を満たすため、並列インダクタを設けることによるサセプタンスの変動量は、|ΔB(1)|<|ΔB(2)|となる。
【0082】
よって、整合回路を設けた状態における不整合の程度を低減する観点から、整合回路を設けない状態では、1番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値が2番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値の最適値B(2)より小さいことが好ましい。このため、整合回路を設けない状態における1番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値の最大値B(1_max)は、次の式で表される。
【0083】
B(1_max)<B(2) 式(6)
【0084】
つまり、整合回路を設けた状態における不整合の程度を低減する観点から、整合回路を設けない状態における1番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値B(1)の範囲は、最適値B(1_best)に対してB(2)−B(1_best)未満の許容値の範囲に定義される。
【0085】
よって、整合回路を設けない状態での1番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値の最小値B(1_min)は、次の式で表される。
【0086】
B(1_min)>B(1_best)−{B(2)−B(1_best)}
=2B(1_best)−B(2)
=2×{f(2)/f(1)}×B(2)−B(2)
=B(2)×{2×f(2)−f(1)}/f(1) 式(7)
【0087】
以上の式(6)及び式(7)から、本発明者らは、整合回路を設けない状態において、1番目のバンドパスフィルタが所定の構成を満たすことにより、不整合の程度を低減できることに気付いた。すなわち、通過ロス及び反射ロスを低減するために、通過帯域が最も離れたバンドパスフィルタ(1番目のバンドパスフィルタ)として、隣接するバンドパスフィルタ(2番目のバンドパスフィルタ)について以下の構成を満たすバンドパスフィルタを設ける、という着想を得た。
【0088】
つまり、n個のバンドパスフィルタのうち、通過帯域の中心周波数が最も低域側及び最も高域側のいずれか一方のバンドパスフィルタであって、他方のバンドパスフィルタと比べて隣接するバンドパスフィルタと通過帯域の中心周波数の差分が大きいまたは等しい1番目のバンドパスフィルタ(ここでは、BPF1)について、通過帯域の中心周波数をf(1)、整合回路を設けない状態で共通端子から見た当該中心周波数におけるサセプタンス値をB(1)とする。また、n個のバンドパスフィルタのうち1番目のバンドパスフィルタと通過帯域が隣接する2番目のバンドパスフィルタ(ここでは、BPF2)について、通過帯域の中心周波数をf(2)、整合回路を設けない状態で共通端子から見た当該中心周波数におけるサセプタンス値をB(2)とする。
【0089】
このとき、1番目のバンドパスフィルタは、2番目のバンドパスフィルタについて、次の構成(i)を満たす。
【0090】
構成(i):第1のバンドパスフィルタが最も高域側のバンドパスフィルタの場合、B(2)×{2×f(2)−f(1)}/f(1)<B(1)<B(2)
【0091】
この構成(i)を満たす第1のバンドパスフィルタを設けることにより、第1のバンドパスフィルタが最も高域側のバンドパスフィルタの場合、最もマッチングが取りにくい1番目のバンドパスフィルタ、及び、2番目のバンドパスフィルタの各々について、共通の整合回路によって良好なマッチングをとることができる。
【0092】
ここで、「良好なマッチング」または「良好なインピーダンス整合」とは、例えば、各周波数帯域(Band)におけるVSWR(電圧定在波比:Voltage Standing Wave Ratio)が小さいことを指し、本実施の形態では、通過特性の要求仕様に応じた値未満(例えば、2.0未満)となることを指す。
【0093】
また、本発明者らは、1番目のバンドパスフィルタが、n個のバンドパスフィルタのうちk番目(2≦k≦n)のバンドパスフィルタについて、以下の構成を満たすことにより、不整合の程度を一層低減できることに気付いた。
【0094】
つまり、n個のバンドパスフィルタのうちk番目(2≦k≦n)のバンドパスフィルタについて、通過帯域の中心周波数をf(k)、共通端子から見た当該中心周波数におけるサセプタンス値をB(k)とする。
【0095】
このとき、1番目のバンドパスフィルタは、2番目からn番目のバンドパスフィルタの各々について、次の構成(iii)を満たす。
【0096】
構成(iii):第1のバンドパスフィルタが最も高域側のバンドパスフィルタの場合、B(k)×{2×f(k)−f(1)}/f(1)<B(1)<B(k)
【0097】
この構成(iii)を満たす第1のバンドパスフィルタを設けることにより、第1のバンドパスフィルタが最も高域側のバンドパスフィルタの場合、n個のバンドパスフィルタの各々について、共通の整合回路によって良好なマッチングをとることができる。
【0098】
[4−2.最も低域側のバンドパスフィルタが最も離れたバンドパスフィルタの場合]
次に、通過帯域が最も離れたバンドパスフィルタ(1番目のバンドパスフィルタ)が、最も低域側のバンドパスフィルタである場合の、通過ロス及び反射ロスを低減するための所定の構成について説明する。
【0099】
なお、以下では、上述した最も高域側のバンドパスフィルタが最も離れたバンドパスフィルタである場合と比べて、バンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数の大小関係に関連する点を除いて同様であるため、適宜簡略化または省略して説明する。
【0100】
1番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値の最適値B(1_best)は、2番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値の最適値B(2)を用いて、次の式で表される。
【0101】
B(1_best)={f(2)/f(1)}×B(2) 式(8)
【0102】
ただし、f(1)は、1番目のバンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数である。また、f(2)は2番目のバンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数である。
【0103】
ここで、1番目及び2番目のバンドパスフィルタ各々の通過帯域の中心周波数は、f(1)<f(2)の関係を満たす。よって、整合回路として並列インダクタを設けることによる1番目のバンドパスフィルタのサセプタンスの変動量ΔB(1)及び1番目のバンドパスフィルタのサセプタンスの変動量ΔB(2)は、|ΔB(1)|>|ΔB(2)|となる。
【0104】
よって、整合回路を設けた状態における不整合の程度を低減する観点から、整合回路を設けない状態において、1番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値は、2番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値の最適値B(2)より大きいことが好ましい。このため、整合回路を設けない状態における1番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値の最小値B(1_min)は、次の式で表される。
【0105】
B(1_min)>B(2) 式(9)
【0106】
つまり、整合回路を設けた状態における不整合の程度を低減する観点から、整合回路を設けない状態における1番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値B(1)の範囲は、最適値B(1_best)に対してB(1_best)−B(2)未満の許容値の範囲に定義される。
【0107】
よって、整合回路を設けない状態での1番目のバンドパスフィルタのサセプタンス値の最大値B(1_max)は、次の式で表される。
【0108】
B(1_max)<B(1_best)+{B(1_best)−B(2)}
=2B(1_best)−B(2)
=2×{f(2)/f(1)}×B(2)−B(2)
=B(2)×{2×f(2)−f(1)}/f(1) 式(10)
【0109】
以上の式(9)及び式(10)から、本発明者らは、整合回路を設けない状態において、1番目のバンドパスフィルタが所定の構成を満たすことにより、不整合の程度を低減できることに気付いた。すなわち、通過ロス及び反射ロスを低減するために、通過帯域が最も離れたバンドパスフィルタ(1番目のバンドパスフィルタ)として、隣接するバンドパスフィルタ(2番目のバンドパスフィルタ)について以下の構成を満たすバンドパスフィルタを設ける、という着想を得た。
【0110】
つまり、n個のバンドパスフィルタのうち、通過帯域の中心周波数が最も低域側及び最も高域側のいずれか一方のバンドパスフィルタであって、他方のバンドパスフィルタと比べて隣接するバンドパスフィルタと通過帯域の中心周波数の差分が大きいまたは等しい1番目のバンドパスフィルタ(ここでは、BPF1)について、通過帯域の中心周波数をf(1)、整合回路を設けない状態で共通端子から見た当該中心周波数におけるサセプタンス値をB(1)とする。また、n個のバンドパスフィルタのうち1番目のバンドパスフィルタと通過帯域が隣接する2番目のバンドパスフィルタ(ここでは、BPF2)について、通過帯域の中心周波数をf(2)、整合回路を設けない状態で共通端子から見た当該中心周波数におけるサセプタンス値をB(2)とする。
【0111】
このとき、1番目のバンドパスフィルタは、2番目のバンドパスフィルタについて、次の構成(ii)を満たす。
【0112】
構成(ii):第1のバンドパスフィルタが最も低域側のバンドパスフィルタの場合、B(2)<B(1)<B(2)×{2×f(2)−f(1)}/f(1)
【0113】
この構成を満たす第1のバンドパスフィルタを設けることにより、第1のバンドパスフィルタが最も低域側のバンドパスフィルタの場合、最もマッチングが取りにくい1番目のバンドパスフィルタ、及び、2番目のバンドパスフィルタの各々について、共通の整合回路によって良好なマッチングをとることができる。
【0114】
また、本発明者らは、1番目のバンドパスフィルタが、n個のバンドパスフィルタのうちk番目(2≦k≦n)のバンドパスフィルタについて、以下の構成を満たすことにより、不整合の程度を一層低減できることに気付いた。
【0115】
つまり、n個のバンドパスフィルタのうちk番目(2≦k≦n)のバンドパスフィルタについて、通過帯域の中心周波数をf(k)、共通端子から見た当該中心周波数におけるサセプタンス値をB(k)とする。
【0116】
このとき、1番目のバンドパスフィルタは、2番目からn番目のバンドパスフィルタの各々について、次の構成(iv)を満たす。
【0117】
構成(iv):第1のバンドパスフィルタが最も低域側のバンドパスフィルタの場合、B(k)×{2×f(k)−f(1)}/f(1)<B(1)<B(k)
【0118】
この構成(iv)を満たす第1のバンドパスフィルタを設けることにより、第1のバンドパスフィルタが最も低域側のバンドパスフィルタの場合、n個のバンドパスフィルタの各々について、共通の整合回路によって良好なマッチングをとることができる。
【0119】
[5.実施例と比較例との特性比較]
次に、本実施の形態に係るマルチプレクサの特性について、本実施の形態の一例である実施例を、比較例と比べながら説明する。
【0120】
図6は、比較例に係るバンドパスフィルタ40Aの回路構成を示したマルチプレクサ1Aの全体構成図である。
【0121】
比較例に係るマルチプレクサ1Aは、Band2用デュプレクサとBand4用デュプレクサとが共通端子21で接続されたクワッドプレクサである。具体的には、
図6に示すように、比較例は、実施例とほぼ同様であるが、他のバンドパスフィルタと通過帯域が最も離れたバンドパスフィルタ40A(Band4の受信側フィルタ)の構成が異なる。具体的には、比較例に係るバンドパスフィルタ40Aは、実施例に係るバンドパスフィルタ40と比べて、並列腕共振子142及び直列腕共振子143を有していない。
【0122】
表1に、本実施例に係るバンドパスフィルタ40の直列腕共振子141、143及び並列腕共振子142の構造(交叉幅H、IDT対数N)、ならびに、比較例に係るバンドパスフィルタ40Aの直列腕共振子141Aの当該構造の詳細を示す。交叉幅Hの寸法は、μmと、IDT電極の電極指ピッチによって定まる波長λに対する倍率である波長比とで示す。具体的には、直列腕共振子141を構成するIDTにおいて、交叉幅Hが波長λの18.4倍に相応する約33μmであり、電極指の対数が100対ある。
【0124】
なお、ピッチλ及びデューティー比Dは、Band4の受信通過帯域における通過特性の要求仕様に応じて、適宜決定される。また、また、各共振子の容量は、表1に示された構造および圧電基板421の誘電率等により決定される。
【0125】
ここで、本実施の形態では、直列腕共振子141AのIDT電極の対数を増減することにより、バンドパスフィルタ40が上述の構成(i)を満たすように形成する。
【0126】
具体的には、バンドパスフィルタ40は、共通端子21に接続された直列腕共振子141を有する。この直列腕共振子141は、他の素子を介することなく共通端子21に接続されている。
【0127】
このような構成により、直列腕共振子141のIDT電極の対数を増減することで、共通端子21から見たバンドパスフィルタ40の容量成分を増減することができるため、サセプタンス値を調整することができる。
【0128】
なお、サセプタンス値を調整する手法としては、このような手法に限らず、例えば、バンドパスフィルタ40を構成する共振子にキャパシタを並列接続したり、当該共振子の電極膜厚やデューティー比を変更したりすることで調整してもかまわない。
【0129】
また、本実施の形態では、比較例における直列腕共振子141Aと比べて、実施例の直列腕共振子141ではIDT電極の対数が増加している。このような直列腕共振子141におけるIDT電極の対数の増加は、バンドパスフィルタ40の減衰量が低下する場合がある。そこで、本実施の形態では、直列腕共振子141の一方のノードと基準端子(グランド)との間に並列腕共振子142を設けている。これにより、減衰量の低下が抑制される。
【0130】
以下、このように構成された実施例に係るマルチプレクサ1の周波数特性について、比較例に係るマルチプレクサ1Aと比較しながら説明する。
【0131】
図7A〜
図10Bは、マルチプレクサの共通端子21に共通の整合回路を設けた状態において、共通端子21から見たマルチプレクサのインピーダンスを示すスミスチャートである。なお、実施例の整合回路としては、一端が共通端子21に接続され、他端がグランドに接続された、インダクタンス値1.6nHのインダクタ3を用いた。また、比較例の整合回路としては、一端が共通端子21に接続され、他端がグランドに接続された、インダクタンス値1.7nHのインダクタ3を用いた。
【0132】
具体的には、
図7Aには、Band4の送信通過帯域において、実施例に係るマルチプレクサ1の上記インピーダンスが示されている。また、
図7Bには、Band4の送信通過帯域において、比較例に係るマルチプレクサ1Aの上記インピーダンスが示されている。また、
図8Aには、Band2の送信通過帯域において、実施例に係るマルチプレクサ1の上記インピーダンスが示されている。また、
図8Bには、Band2の送信通過帯域において、比較例に係るマルチプレクサ1Aの上記インピーダンスが示されている。また、
図9Aには、Band2の受信通過帯域において、実施例に係るマルチプレクサ1の上記インピーダンスが示されている。また、
図9Bには、Band2の受信通過帯域において、比較例に係るマルチプレクサ1Aの上記インピーダンスが示されている。また、
図10Aには、Band4の受信通過帯域において、実施例に係るマルチプレクサ1の上記インピーダンスが示されている。また、
図10Bには、Band4の受信通過帯域において、比較例に係るマルチプレクサ1Aの上記インピーダンスが示されている。
【0133】
なお、これらの図には、4つの通過帯域を包含する帯域(例えば、1500MHz−2300MHz)におけるインピーダンスの軌跡が示されているが、各図では、当該図に示される通過帯域(Band)の軌跡については、太線で示されている。
【0134】
図7A〜
図9Bに示すように、実施例に係るマルチプレクサ1は、比較例と比べて、Band4の送信通過帯域及びBand2の送受信通過帯域において、良好なインピーダンス整合を維持していることがわかる。つまり、本実施例によれば、バンドパスフィルタ40が上記の構成(i)を満たすように構成された場合であっても、他のバンドパスフィルタ10〜30のインピーダンス整合が維持される。
【0135】
また、
図10A及び
図10Bに示すように、実施例に係るマルチプレクサ1は、比較例と比べて、Band4の受信通過帯域において、インピーダンス整合が良好になっていることがわかる。つまり、本実施例によれば、バンドパスフィルタ40が上記の構成(i)を満たすように調整されることにより、バンドパスフィルタ40のインピーダンス不整合を低減される。
【0136】
このように、実施例に係るマルチプレクサ1によれば、4つのバンドパスフィルタ10〜40のうち、通過帯域が最も離れたバンドパスフィルタ40について、他のバンドパスフィルタ10〜30のインピーダンス整合を維持しつつ、インピーダンス不整合を低減することができる。
【0137】
具体的には、比較例に係るマルチプレクサ1Aは、Band2用デュプレクサとBand4用デュプレクサとが共通端子21で接続されることで構成されている。ここで、一般的に、デュプレクサでは、2つの帯域(受信通過帯域及び送信通過帯域)に対して、自らの通過帯域のサセプタンス及び1つの相手の通過帯域のサセプタンスを合わせた状態で、共通の整合回路によってインピーダンス整合されるように設けられている。このため、このようなデュプレクサを組み合わせて構成されたマルチプレクサ1Aでは、インピーダンス不整合が生じてしまう。
【0138】
これに対し、実施例に係るマルチプレクサ1は、バンドパスフィルタ40が上記の構成(i)を満たすことにより、インピーダンス不整合を低減することができる。
【0139】
図11は、実施例及び比較例に係るマルチプレクサの共通端子21側のVSWRを示すグラフである。
【0140】
同図に示すように、比較例では、Band4の受信通過帯域において、VSWRが悪化していることがわかる。これは、比較例の構成では
図10Bに示すように、良好なインピーダンス整合が得られないためである。
【0141】
これに対し、実施例に係るマルチプレクサ1では、比較例と比べて、Band4の受信通過帯域においても、良好なVSWRが得られることがわかる。つまり、本実施例によれば、バンドパスフィルタ40が上記の構成(i)を満たすように設けられることでインピーダンス不整合が低減されるため、VSWRが改善する。
【0142】
表2に、各通過帯域(Band4の送信通過帯域:B4Tx、Band2の送信通過帯域:B2Tx、Band2の受信通過帯域:B2Rx、Band4の受信通過帯域:B4Rx)内におけるVSWRの最大値を示す。
【0144】
この表に示すように、本実施例では、VSWRが、4つの帯域全てにおいて2.0以下に抑えられている。また、本実施例では、比較例と比べて、Band4の受信通過帯域以外のVSWRについて同程度に維持しつつ、Band4の受信通過帯域のVSWRが改善されている。
【0145】
[6.まとめ]
以上、本実施の形態に係るマルチプレクサ1によれば、互いに異なるn以上(nは3以上の自然数)の通過帯域を有するn個のバンドパスフィルタ(本実施の形態では、4つの通過帯域を有する4つのバンドパスフィルタ10〜40)と、n個のバンドパスフィルタに共通に設けられた共通端子21とを有し、n個のバンドパスフィルタのうち、通過帯域の中心周波数が最も低域側及び最も高域側のいずれか一方のバンドパスフィルタであって、他方のバンドパスフィルタと比べて隣接するバンドパスフィルタと通過帯域の中心周波数の差分が大きいまたは等しい1番目のバンドパスフィルタが、上述の構成(i)または構成(ii)を満たす(本実施の形態では、最も高域側のバンドパスフィルタ40が構成(i)を満たす)。
【0146】
このような構成により、並列インダクタ等の共通の整合回路(本実施の形態ではインダクタ3)によって、1番目のバンドパスフィルタ、及び、当該1番目のバンドパスフィルタに通過帯域が隣接する2番目のバンドパスフィルタの各々(本実施の形態ではバンドパスフィルタ40及びバンドパスフィルタ30)について、良好なインピーダンス整合をとることができる。よって、本実施の形態に係るマルチプレクサ1によれば、通過ロス及び反射ロスの低減が図られる。
【0147】
一般的に、n以上の通過帯域を有するマルチプレクサでは、最も低域側または最も高域側の通過帯域において、通過ロス及び反射ロスが大きくなりやすい。このため、最も低域側または最も高域側のバンドパスフィルタのサセプタンス値が上述の構成(i)または構成(ii)を満たすことにより、共通の整合回路で良好インピーダンス整合をとることができるため、通過ロス及び反射ロスが大きくなりやすい通過帯域において、当該通過ロス及び反射ロスを効果的に低減することができる。
【0148】
また、本実施の形態に係るマルチプレクサ1によれば、1番目のバンドパスフィルタが2番目からn番目のバンドパスフィルタの各々について、上述の構成(iii)または構成(iv)を満たす(本実施の形態では、最も高域側のバンドパスフィルタ40がバンドパスフィルタ10〜30について構成(iii)を満たす)。
【0149】
このような構成により、並列インダクタ等の共通の整合回路によって、1番目からn番目のバンドパスフィルタの各々(本実施の形態ではバンドパスフィルタ10〜40)について、良好なインピーダンス整合をとることができる。よって、本実施の形態に係るマルチプレクサ1によれば、通過ロス及び反射ロスのさらなる低減が図られる。
【0150】
また、本実施の形態に係るマルチプレクサ1によれば、1番目のバンドパスフィルタ(本実施の形態ではバンドパスフィルタ40)は、共通端子21に接続された直列腕共振子141を有する弾性波フィルタ(本実施の形態では弾性表面波フィルタ)である。
【0151】
このように、共通端子21に接続された直列腕共振子141を設けることにより、マッチングの設計自由度の向上が図られる。具体的には、直列腕共振子141のIDT電極の対数を調整することにより、1番目のバンドパスフィルタ(本実施の形態ではバンドパスフィルタ40)の直列容量成分を調整できるため、上述の構成(i)または構成(ii)を満たす1番目のバンドパスフィルタを容易に作製することができる。
【0152】
また、本実施の形態に係るマルチプレクサ1によれば、直列腕共振子141の一方のノードと基準端子(グランド)との間に並列腕共振子142が設けられている。
【0153】
ここで、一般的に、弾性波フィルタは、直列腕共振子の容量成分が変わることにより、通過帯域における減衰量及び抑圧帯域等の特性が変動する場合がある。そこで、本実施の形態では、並列腕共振子142を設けることにより、変動する特性の抑制等が可能になるため、マッチングと減衰量との安定化が図られる。
【0154】
なお、本実施の形態では、マルチプレクサの一例として、Band2及びBand4に適用されるマルチプレクサを例に説明したが、適用される帯域はこれに限らず、例えばBand1(送信通過帯域:1920−1980MHz、受信通過帯域:2110−2170MHz)及びBand3(送信通過帯域:1710−1785MHz、受信通過帯域:1805−1880MHz)であってもかまわない。
【0155】
また、マルチプレクサは、通過帯域の中心周波数が最も離れたバンドパスフィルタが最も低域側のバンドパスフィルタであってもよい。この構成の場合、最も低域側のバンドパスフィルタ40が上述の構成(ii)、さらには構成(iv)を満たすことにより、本実施の形態と同様の効果が奏される。
【0156】
また、マルチプレクサは、3以上の通過帯域を有するフィルタに適用されてもよい。
図12は、本実施の形態の変形例に係るマルチプレクサ1Bの全体構成図である。例えば、
図12に示すように、Band3およびBand4の信号を取り扱うマルチプレクサ1Bにおいて、Band3,Band4の送信通過帯域でフィルタリングするバンドパスフィルタ10B、Band3の受信帯域でフィルタリングするバンドパスフィルタ30B、Band4の受信帯域でフィルタリングするバンドパスフィルタ40を備えるトリプレクサを構成することが望ましい。
【0157】
また、n個のバンドパスフィルタ各々(本実施の形態では、4つのバンドパスフィルタ10〜40の各々)のコンダクタンス(アドミタンスの虚数部)については、特に限定されないが、正規化コンダクタンスが0.7以上1.4以下の範囲であることが好ましい。正規化コンダクタンスをこの範囲にすることにより、マルチプレクサ1の共通端子21側のVSWRを1.7以下にすることができる。
【0158】
(実施の形態2)
上記実施の形態1では、マルチプレクサ1はインダクタ3等の外付けの整合回路に接続されるとして説明したが、マルチプレクサは整合回路を備えてもよい。つまり、整合回路を内蔵したマルチプレクサとして構成されてもよい。
【0159】
図13は、本実施の形態に係るマルチプレクサ101の外観の一例を示す斜視図である。
図14は、本実施の形態に係るマルチプレクサ101の断面構造の一例を概念的に示す図である。なお、
図13では、封止樹脂60を透視して示している。また、
図14では、バンドパスフィルタ10〜40について、側面視して示している。
【0160】
図13及び
図14に示すように、マルチプレクサ101は、インダクタ3が内蔵された多層基板50の一方主面に、例えば圧電体チップとして構成されたバンドパスフィルタ10〜40が設けられて構成されている。つまり、バンドパスフィルタ10〜40は、多層基板50の上に実装されている。
【0161】
バンドパスフィルタ10〜40の各々の入力端子及び出力端子の一方は、多層基板50に設けられた配線により、例えば、多層基板50の表面電極として形成された共通端子21に接続される。本実施の形態では、バンドパスフィルタ10〜40は、熱硬化性または光硬化性等の封止樹脂60によって封止されている。なお、封止樹脂60の材料は絶縁性を有するものであれば特に限定されない。また、バンドパスフィルタ10〜40は、封止樹脂60によって封止されていなくてもかまわない。
【0162】
多層基板50には、インダクタ3及びマルチプレクサ101の回路を形成するための各種の導体が設けられている。当該導体には、マルチプレクサ101をプリント基板等のマザー基板に実装するための表面電極、バンドパスフィルタ10〜40を多層基板50に実装するための表面電極、ならびに、インダクタ3を形成するループ状の面内導体、及び、各層を厚み方向に貫通して形成された層間導体等が含まれる。
【0163】
本実施の形態によれば、マルチプレクサ101が整合回路(本実施の形態ではインダクタ3)を備えることにより、外付けの整合回路を設けることなく、通過ロス及び反射ロスの低減が図られる。
【0164】
また、本実施の形態では、インダクタ3が内蔵された多層基板50にバンドパスフィルタ10〜40が実装されているため、小型化、ならびに、通過ロス及び反射ロスの低減が図られる。
【0165】
なお、整合回路を内蔵したマルチプレクサは、プリント基板等に実装された整合回路と、当該プリント基板等に実装されたバンドパスフィルタ10〜40とによって構成されていてもかまわない。
【0166】
(その他の実施の形態)
以上、本発明の実施の形態及びその変形例に係るマルチプレクサについて説明したが、本発明は、個々の実施の形態及びその変形例には限定されない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態及びその変形例に施したものや、異なる実施の形態及びその変形例における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の一つ又は複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0167】
また、上記説明では、マルチプレクサを例に説明したが、本発明は、互いに異なるn以上(nは3以上の自然数)の通過帯域を有するn個のバンドパスフィルタと、n個のバンドパスフィルタに共通に設けられた共通端子21とを有する分波器に適用してもかまわない。つまり、全てのバンドパスフィルタが、共通端子21から入力された受信波を、所定の受信通過帯域でフィルタリングして受信出力端子に出力する受信側フィルタであってもかまわない。
【0168】
図15は、その他の実施の形態に係る分波器201の全体構成図である。なお、同図には、分波器201の共通端子121に接続されるアンテナ2及び整合回路103も図示されている。
【0169】
同図に示す分波器201は、互いに異なる3つの通過帯域(Rx1〜Rx3)を有する3つのバンドパスフィルタ110〜130を有する。バンドパスフィルタ110〜130の各々の入力端子は共通端子121に接続されている。
【0170】
このような分波器201においても、3つのバンドパスフィルタ110〜130のうち、通過帯域の中心周波数が最も低域側及び最も高域側のいずれか一方のバンドパスフィルタであって、他方のバンドパスフィルタと比べて隣接するバンドパスフィルタと通過帯域の中心周波数の差分が大きいまたは等しい1番目のバンドパスフィルタが上述の構成(i)または構成(ii)を満たすことにより、実施の形態と同様の効果が奏される。つまり、分波器201は、通過ロス及び反射ロスを低減することができる。
【0171】
また、上記説明では、共通端子21に接続される整合回路として、一端が共通端子21に接続され、他端がグランドに接続されたインダクタ3を例に説明した。しかし、整合回路は、この構成に限らず、例えば、
図15に示されるように、一端が共通端子121に接続され他端がグランドに接続されたインダクタ103aと、アンテナ2と共通端子121との間に直列に設けられたコンデンサ103bとで構成されてもかまわない。
【0172】
また、本発明は、分波器の製造方法として実現されてもよい。
図16は、分波器の製造方法を示すフローチャートである。
【0173】
すなわち、当該分波器の製造方法は、互いに異なるn以上(nは3以上の自然数)の通過帯域を有するn個のバンドパスフィルタと、n個のバンドパスフィルタに共通に接続された共通端子とを備える分波器の製造方法であって、n個のバンドパスフィルタのうち、通過帯域の中心周波数が最も低域側及び最も高域側のいずれか一方のバンドパスフィルタであって、他方のバンドパスフィルタと比べて隣接するバンドパスフィルタと通過帯域の中心周波数の差分が大きいまたは等しい1番目のバンドパスフィルタについて、通過帯域の中心周波数をf(1)、共通端子から見た当該中心周波数におけるサセプタンス値をB(1)とし、n個のバンドパスフィルタのうち1番目のバンドパスフィルタと通過帯域が隣接する2番目のバンドパスフィルタについて、通過帯域の中心周波数をf(2)、共通端子から見た当該中心周波数におけるサセプタンス値をB(2)とすると、2番目のバンドパスフィルタを形成する工程(S10)と、1番目のバンドパスフィルタが2番目のバンドパスフィルタについて以下の構成(i)または構成(ii)を満たすように、1番目のバンドパスフィルタを設ける工程(S20)とを含む。
【0174】
(i)第1のバンドパスフィルタが最も高域側のバンドパスフィルタの場合、
B(2)×{2×f(2)−f(1)}/f(1)<B(1)<B(2)
(ii)第1のバンドパスフィルタが最も低域側のバンドパスフィルタの場合、
B(2)<B(1)<B(2)×{2×f(2)−f(1)}/f(1)
【0175】
具体的には、2番目のバンドパスフィルタを形成する工程(S10)では、n個のバンドパスフィルタのうちk番目(2≦k≦n)のバンドパスフィルタの各々を設計し、k番目(2≦k≦n)のバンドパスフィルタについて、通過帯域の中心周波数をf(k)、共通端子から見た当該中心周波数におけるサセプタンス値をB(k)とすると、1番目のバンドパスフィルタを形成する工程では、1番目のバンドパスフィルタが2番目からn番目のバンドパスフィルタの各々について、以下の構成(iii)または構成(iv)を満たすように設計する。
【0176】
(iii)第1のバンドパスフィルタが最も高域側のバンドパスフィルタの場合、
B(k)×{2×f(k)−f(1)}/f(1)<B(1)<B(k)
(iv)第1のバンドパスフィルタが最も低域側のバンドパスフィルタの場合、
B(k)<B(1)<B(k)×{2×f(k)−f(1)}/f(1)
【0177】
また、具体的には、1番目のバンドパスフィルタは、共通端子に接続される直列腕共振子を有する弾性波フィルタであり、1番目のバンドパスフィルタを形成する工程(S20)では、直列腕共振子のIDT電極の対数を増減することにより、1番目のバンドパスフィルタが上記の構成(i)または上記の構成(ii)を満たすように設計する。
【0178】
このような分波器の製造方法は、例えばCAD装置等のコンピュータにおいて実行される。また、当該製造方法は、設計者によるコンピュータとの対話的な操作によって、当該コンピュータにおいて実行されてもかまわない。
【0179】
なお、2番目のバンドパスフィルタを形成する工程(S10)と、1番目のバンドパスフィルタを形成する工程(S20)とは、順次実行されてもかまわないし、順序が入れ替わって実行されてもかまわないし、同時に実行されてもかまわない。
【0180】
例えば、EDA等の自動ツールによって、各周波数帯域(Band)における通過特性の要求仕様に応じたIDT電極の対数等の構造が考慮されることにより、これらの工程(S10及びS20)が同時に実行されてもかまわない。