(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、最初に担体に貴金属粒子を担持させる際に、貴金属錯イオンを静電的に担体表面に吸着させ、還元剤で化学的に還元する。この方法では、触媒金属を細孔内のみならず細孔内以外の表面にも多く担持できるかどうかは不明である。
【0009】
そこで、本発明では、サポート材の細孔内のみならず表面全体に高分散状態で触媒金属を担持させることにより、触媒金属の排気ガスとの接触性を高め、触媒材の触媒性能を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明では、触媒金属をカーボン粒子に担持させてから、これらをサポート材に担持させ、その後に非酸化性雰囲気中で焼成するようにした。
【0011】
すなわち、本発明に係る
排気ガス浄化用触媒材の製造方法は、触媒金属と、該触媒金属が担持された無機酸化物粒子とを含む
排気ガス浄化用触媒材の製造方法であって、上記触媒金属の塩を含む溶液と、50%以上の空隙率を有するカーボン粒子の分散液とを混合して混合液を得る混合工程と、上記混合液を撹拌する撹拌工程と、上記撹拌された混合液を上記無機酸化物粒子と接触させて無機酸化物粒子含有混合液を得る接触工程と、上記無機酸化物粒子含有混合液を乾燥後、非酸化性雰囲気中600℃以下の温度で焼成する焼成工程とを備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、触媒金属をカーボン粒子の表面又は内部に担持させてから無機酸化物粒子表面上に担持させ、非酸化性雰囲気中で焼成することにより、無機酸化物粒子表面にはカーボン粒子に由来するカーボン層が形成され、触媒金属はそのカーボン層に担持された状態となる。これにより、無機酸化物粒子表面の細孔内に触媒金属が入り込みにくく、細孔内のみならず表面全体に高分散状態で触媒金属を担持できる。なお、本発明においてカーボン粒子の「空隙率」とは、カーボン粒子の単位容積あたりの細孔容積(%)のことをいう。
【0013】
触媒金属は、Pt、Pd、及びRhの群から選ばれる少なくとも1種である。これらは単独で用いてもよいし、2種以上のものを用いてもよい。
【0014】
好ましい態様では、上記カーボン粒子の平均一次粒子径は、30nm以上50nm以下の範囲である。そして、カーボン粒子の平均二次粒子径は無機酸化物粒子の平均細孔径よりも大きいことが好ましい。これにより、触媒金属が担持されたカーボン粒子は無機酸化物粒子の細孔内に入りにくいことから、触媒金属が無機酸化物粒子の表面の細孔内に取り込まれにくくなり、上記細孔内のみならず表面全体に高分散状態で触媒金属を担持できる。
【0015】
無機酸化物粒子は、好ましくは、活性アルミナ粒子、Ce含有Zr系複合酸化物粒子、Ce非含有Zr系複合酸化物粒子などである。
【0016】
好ましい態様では、上記混合工程において混合される、上記カーボン粒子の質量に対する上記触媒金属の質量の割合(触媒金属/カーボン粒子)は、1/10以上1/2以下の範囲である。これにより、触媒金属は高分散状態でカーボン粒子上に担持され得る。
【0017】
本発明に係る
排気ガス浄化用触媒材は、上記製造方法により製造された
排気ガス浄化用触媒材であって、上記無機酸化物粒子表面に、上記触媒金属が担持されたカーボン層が形成されていることを特徴とする。カーボン層はカーボン粒子が凝集した状態で焼成されて形成されたものである。カーボン粒子は多孔質であることから、触媒金属の分散性が高く、排気ガスとの接触性が高まり、触媒性能が向上する。
【0018】
本発明に係る
排気ガス浄化用触媒材は、上記製造方法により製造されたものであって、上記触媒金属はPtであり、非酸化性雰囲気中600℃で2時間の焼成を行った後の、上記Ptの結晶子径が30nm以上50nm以下の範囲であることを特徴とする。これにより、排気ガスとの接触性が高まり、触媒性能が向上する。
【0019】
本発明に係る
排気ガス浄化用触媒材は、上記製造方法により製造されたものであって、上記触媒金属はPdであり、非酸化性雰囲気中600℃で2時間の焼成を行った後の、上記Pdの結晶子径が40nm以上50nm以下の範囲であることを特徴とする。これにより、排気ガスとの接触性が高まり、触媒性能が向上する。
【0020】
本発明に係る
排気ガス浄化用触媒材は、上記製造方法により製造されたものであって、上記触媒金属はRhであり、非酸化性雰囲気中600℃で2時間の焼成を行った後の、上記Rhの結晶子径が5nm以上20nm以下の範囲であることを特徴とする。これにより、排気ガスとの接触性が高まり、触媒性能が向上する。
【0021】
本発明に係る排気ガス浄化用触媒は、基材と、該基材の排気ガス通路壁上に設けられた触媒層とを備えたものであって、上記触媒層は、上記いずれかの
排気ガス浄化用触媒材を含むことを特徴とする。これにより、排気ガス中に含まれるHCを効果的に浄化することができる。
【0022】
好ましい態様では、本発明に係る排気ガス浄化用触媒は、予混合圧縮自己着火(Homogeneous Charge Compression Ignition:HCCI)燃焼を行うエンジンの排気ガス成分の浄化に好適に用いられる。特に好ましい態様では、エンジンの低負荷側から高負荷側までの全域でHCCI燃焼を行うエンジンの排気ガス成分の浄化に好適に用いられる。HCCI燃焼を行うエンジンでは、排気ガス温度が低く、その排気ガスには炭素数5の飽和炭化水素(n−ペンタン、i−ペンタン)やCOが大量に含まれる。本発明に係る排気ガス浄化用触媒では、触媒金属はカーボン粒子上に担持されている。カーボン粒子は高い比表面積を有しており、触媒金属は高分散状態で存在している。また、上記カーボン粒子は焼失しにくく触媒金属の分散性を保ってこれを保持している。これにより、排気ガスが低温であっても触媒金属が活性化しやすく、上記飽和炭化水素について優れた浄化性能を示す。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、触媒金属をカーボン粒子の表面又は内部に担持させてから無機酸化物粒子表面上に担持させ、非酸化性雰囲気中で焼成することにより、無機酸化物粒子表面にはカーボン粒子に由来するカーボン層が形成され、触媒金属はそのカーボン層に担持された状態となる。これにより、無機酸化物粒子表面の細孔内に触媒金属が入り込みにくく、細孔内のみならず表面全体に高分散状態で触媒金属を担持できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0026】
図1は本実施形態に係るエンジンの排気ガスの浄化に適した排気ガス浄化用触媒Dの触媒層の基本構成を示す。
【0027】
同図において、担体(基材)Sのセル壁(排気ガス通路壁)1には、触媒層2が形成されている。
【0028】
<触媒層>
図1に示すように、触媒層2は、触媒材11を含有する。触媒材11は、無機酸化物粒子3を含有する。上記無機酸化物粒子3の表面には、カーボン粒子4’に由来するカーボン層4が形成されており、そのカーボン層4に触媒金属5が担持されている。そして、触媒材11の粒子間にバインダ材6が介在している。
【0029】
無機酸化物粒子3は、触媒金属5を担持させるサポート材としての役割を有し、具体的には例えば、活性アルミナ粒子、Ce含有Zr系複合酸化物、Ce非含有Zr系複合酸化物などを用いることができる。
【0030】
活性アルミナ粒子は、耐熱性・耐久性に優れるとともに、比表面積が大きく触媒金属の分散性が高い。活性アルミナ粒子に触媒金属5を担持することにより、触媒金属5の分散性が向上し、排気ガスとの接触面積が増えて触媒性能が向上する。アルミナとしては、La
2O
3を4質量%含有するLa含有アルミナ、Zrを含むZr系複合酸化物を担持したLa含有アルミナであるZr−La含有アルミナなどを用いることができる。なお、活性アルミナ粒子の平均細孔径は、10nm〜60nm程度である。
【0031】
Ce含有Zr系複合酸化物は、酸素吸蔵放出材であり、Ceの価数変化を伴う可逆反応に基づく優れた酸素吸蔵放出能を有しているため、排気ガスの空燃費(A/F)が変動しても、Ce含有Zr系複合酸化物が酸素を吸蔵・放出することによって空燃費の変動を吸収する。このようなCe含有Zr系複合酸化物に触媒金属5を担持することにより、触媒金属5がHC等の浄化に有効に働く空燃費ウインドウが拡大する。Ce含有Zr系複合酸化物は、Ceに加え、さらにCe以外の希土類金属を含有してもよい。Ce以外の希土類金属は、例えばNd、Y、La、Scなどであり、特に好ましくは、Ndである。なお、Ce含有Zr系複合酸化物の平均細孔径は、10nm〜100nm程度である。
【0032】
Ce非含有Zr系複合酸化物は、酸素イオン交換反応が可能であり、金属イオンの価数変化を伴うことなく活性な酸素を放出する。このようなCe非含有Zr系複合酸化物に触媒金属5を担持することにより、触媒金属5の触媒性能が向上する。Ce非含有Zr系複合酸化物は、Ceに加え、さらにCe以外の希土類金属を含有してもよい。Ce以外の希土類金属は、例えばNd、Y、La、Scなどであり、特に好ましくは、La、Yである。なお、Ce非含有Zr系複合酸化物の平均細孔径は、20nm〜80nm程度である。
【0033】
触媒金属5は、Pt、Pd、及びRhの群から選ばれる少なくとも1種である。これにより排気ガス中のHCを効果的に浄化することができる。
【0034】
バインダ材6としては、例えば酸素吸蔵放出能を有するCe含有Zr系複合酸化物や、酸素イオン伝導性を有するCe非含有Zr系複合酸化物の微細粒子等を使用することができる。これにより、排気ガス雰囲気がリーン及びリッチのいずれに傾いたときでも、バインダ材6が活性酸素を放出し、又はバインダ材6が周りから酸素を取り込んで活性な酸素を放出するから、これらの酸素によって排気ガスの浄化促進が図れる。また、これらの微粒子に触媒金属を担持・固溶したものを用いてもよい。これにより、バインダ材も触媒性能を有することとなるため、排気ガスと触媒金属との接触性が向上し、触媒性能が効果的に向上する。
【0035】
本実施形態に係る触媒材11では、
図2に示すように、無機酸化物粒子3表面に、カーボン粒子4’に由来するカーボン層4が形成されている。そして、そのカーボン層4に、触媒金属5が担持されている。カーボン層4は無機酸化物粒子3表面について、全面的に形成されていてもよく、部分的に形成されていてもよい。
【0036】
カーボン粒子4’としては、触媒金属5を高分散状態で保持する観点から、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上の空隙率を有するものを使用することが望ましい。また、カーボン粒子4’は、触媒金属5の分散性向上の観点から、好ましくは中空粒子である。カーボン粒子4’は、具体的には例えば、カーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等を用いることができ、特に好ましくはケッチェンブラック(KB)を用いることができる。
【0037】
カーボン粒子4’は、排気ガスとの接触性向上の観点から、好ましくは略球状である。カーボン粒子4’の平均一次粒子径は、好ましくは20nm以上100nm以下、より好ましくは25nm以上80nm以下、特に好ましくは30nm以上50nm以下の範囲である。また、カーボン粒子4’は、通常複数の粒子が凝集して二次粒子として存在しており、カーボン粒子4’の平均二次粒子径は、無機酸化物粒子3の平均細孔径よりも大きいことが好ましい。これにより、カーボン粒子4’が無機酸化物粒子3の細孔内に取り込まれにくく、ひいてはカーボン粒子4’に担持された触媒金属5が無機酸化物粒子3の細孔内に取り込まれにくくなる。
【0038】
<触媒材の製造方法>
次に、本実施形態に係る触媒材11の製造方法について説明する。
【0039】
−触媒金属塩溶液の調製−
まず、触媒金属塩溶液を準備する。触媒金属5の塩としては、具体的には例えば、触媒金属5のジニトロジアミン錯体などのアミン系錯体の硝酸溶液などが挙げられる。
【0040】
−カーボン粒子分散液の調製−
カーボン粒子分散液は、カーボン粒子に硝酸水溶液と溶媒とを加え、撹拌を行うことにより調製することができる。
【0041】
−無機酸化物粒子の調製−
活性アルミナ粒子は、市販されているものを用いることができる。
【0042】
Ce含有Zr系複合酸化物粒子及びCe非含有Zr系複合酸化物粒子は、共沈法を用いて調製することができる。共沈法は、複合酸化物に含有される金属塩、好ましくは硝酸塩の酸性溶液に、塩基性溶液を添加し、水酸化物の共沈物を得た後、当該水酸化物を乾燥、粉砕、焼成することにより所望の複合酸化物粒子を調製する方法である。
【0043】
−触媒材の調製−
本実施形態に係る触媒材11は、
図3に示す工程により調製することができる。
【0044】
まず、
図3に示すように、触媒金属塩溶液とカーボン粒子分散液とを混合する(S1)。
【0045】
その後、これらの混合液を、所定の温度で所定時間加熱・撹拌する(S2)。これにより、カーボン混合触媒金属溶液を得る。
【0046】
混合工程S1において、カーボン粒子4’の質量に対する触媒金属5の質量の割合(触媒金属/カーボン粒子)は、好ましくは1/10以上1/2以下、より好ましくは1/10以上2/5以下、特に好ましくは1/10以上3/10以下の範囲である。これにより、触媒金属5は高分散状態でカーボン粒子4’上に担持され得る。
【0047】
加熱・撹拌工程S2において、加熱温度は、好ましくは65℃〜95℃、より好ましくは70℃〜90℃、特に好ましくは75℃〜85℃である。また、撹拌時間は、好ましくは30分〜3時間、より好ましくは45分〜2時間、特に好ましくは1時間〜1.5時間である。これにより、触媒金属塩は高分散状態でカーボン粒子4’上に担持され得る。
【0048】
そして、このカーボン混合触媒金属溶液を無機酸化物粒子3と接触させる(S3)。具体的には、例えばこのカーボン混合触媒金属溶液に、無機酸化物粒子を加え、混合・撹拌する(S3)。なお、本工程S3として、蒸発乾固法や、含浸担持法を用いることができる。
【0049】
本工程S3において、無機酸化物粒子3の混合割合は、無機酸化物粒子3の質量に対するカーボン粒子4’の質量の割合(カーボン粒子4’/無機酸化物粒子3)で、好ましくは1/50以上3/10以下、より好ましくは1/50以上2.5/10以下、特に好ましくは1/50以上1/10以下の範囲である。これにより、触媒金属5が担持されたカーボン粒子4’が無機酸化物粒子3の表面上に高分散状態で担持され、カーボン粒子4’の層が形成される。
【0050】
撹拌時間は、好ましくは5分〜30分、より好ましくは10分〜25分、特に好ましくは10分〜20分である。これにより、触媒金属5が担持されたカーボン粒子4’が無機酸化物粒子3の表面上に高分散状態で担持され、カーボン粒子4’の層が形成される。
【0051】
この混合物を乾燥後、非酸化性雰囲気中で所定温度において所定時間焼成を行うことにより(S4)、本実施形態に係る触媒材11である触媒金属担持無機酸化物粒子を得ることができる。
【0052】
なお、非酸化性雰囲気中とは、例えばAr、N
2中などである。これにより、カーボン粒子が酸化反応により焼失するのを抑制することができる。
【0053】
焼成温度は、カーボン粒子4’の層を保持してカーボン層4を形成しつつ焼成工程中の触媒金属の凝集を効果的に抑制する観点から、好ましくは600℃以下、より好ましくは550℃以下、特に好ましくは500℃以下である。
【0054】
また、上記焼成温度に至るまでの昇温速度(℃/時間)は、触媒金属の凝集を抑制する観点から、好ましくは150℃/時間以下、より好ましくは120℃/時間以下、特に好ましくは100℃/時間以下である。
【0055】
上記焼成温度における焼成時間は、カーボン粒子4’の層を保持してカーボン層4を形成しつつ焼成工程中の触媒金属の凝集を効果的に抑制する観点から、好ましくは1時間以上4時間以内、より好ましくは1.5時間以上3時間以内、特に好ましくは1.5時間以上2.5時間以内である。
【0056】
焼成工程S4後のカーボン層4の厚さや、カーボン層4による無機酸化物粒子3上の表面被覆率は、現時点では特定することが困難であるが、カーボン粒子4’に担持された触媒金属5の排気ガスとの接触性向上の観点から、カーボン層4の厚さは、好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、特に好ましくは200nm以下であると考えられる。
【0057】
以上述べたように、本実施形態に係る触媒材11の製造方法は、カーボン粒子4’に触媒金属5を担持したものを、サポート材である無機酸化物粒子3に担持した後、非酸化性雰囲気中、所定条件下で乾燥・焼成を行うことにより、無機酸化物粒子3の表面上に、触媒金属5が担持されたカーボン粒子4’に由来するカーボン層4を形成することを特徴とする。
【0058】
これにより、触媒金属5は、カーボン粒子4’の表面上及び細孔内に担持された状態で、無機酸化物粒子3表面上に担持される。このとき、カーボン粒子4’の平均二次粒子径は、無機酸化物粒子3表面の平均細孔径に比べて大きいことから、カーボン粒子4’の多くは無機酸化物粒子3の細孔内に取り込まれにくく、無機酸化物粒子3表面上にカーボン粒子4’の層が形成される。よって、カーボン粒子4’に担持された触媒金属5は、無機酸化物粒子3表面の細孔内に取り込まれにくく、無機酸化物粒子3表面上に形成されたカーボン粒子4’の層に担持された状態で保持される。そして、上記焼成を行うことにより、無機酸化物粒子表面に形成されたカーボン層4に触媒金属が高分散状態で担持された触媒材11を得ることができる。
【0059】
従って、本構成によれば、サポート材である無機酸化物粒子3の細孔内だけでなく表面全体に、なるべく多くの触媒金属5が担持され、これにより、排気ガス成分との接触性が高まり、触媒材11の浄化性能が向上する。
【0060】
<排気ガス浄化用触媒の製造方法>
−バインダ材の調製−
バインダ材6は、例えばZr系複合酸化物を湿式粉砕して得ることができる。
【0061】
−触媒材11の担体への担持−
触媒層2に含有される、上記触媒材11及びバインダ材6を溶媒に懸濁させてスラリーを調整し、このスラリーに担体Sを浸漬した後に、この担体Sを乾燥させることにより、触媒層2を担体Sのセル壁1上に形成することができる。
【0062】
本実施形態に係る排気ガス浄化用触媒Dは、HCCI燃焼を行うエンジンの排気ガス成分の浄化に好適に用いることができ、特にエンジンの低負荷側から高負荷側までの全域でHCCI燃焼を行うエンジンの排気ガス成分の浄化に好適に用いることができる。
【0063】
HCCI燃焼は、エンジンの運転状態に応じて、燃焼室内のガソリンをリーン雰囲気で圧縮自己着火させて燃焼させる燃焼方式である。HCCI燃焼は、燃料のガソリンを低温で燃焼させ、その排気ガスには炭素数5の飽和炭化水素(n−ペンタン、i−ペンタン)やCOが大量に含まれている。特に、エンジンの低負荷側から高負荷側までの全域でHCCI燃焼を行うエンジンでは、排気ガス温度が100℃〜200℃程度にまで低下する。このような低温状態では、従来の排気ガス浄化用触媒は凝集した触媒金属が未だ活性化しておらず、上記飽和炭化水素等が十分に酸化浄化されずに排出されてしまう。
【0064】
この点、本実施形態に係る排気ガス浄化用触媒Dに含まれる触媒材11では、触媒金属5はカーボン粒子4’上に担持されている。カーボン粒子4’は高い比表面積を有しており、触媒金属5は高分散状態で保持されている。また、HCCI燃焼を行うエンジンでは、排気ガス温度が低いため、カーボン粒子4’は焼失しにくく触媒金属5の分散性を保ってこれを保持しており、これにより、排気ガスが低温であっても触媒金属5が活性化しやすく優れた触媒性能を示す。
【0065】
なお、触媒材11の担体Sへの担持量(担体1L当たりの担持量。以下同じ。)は、好ましくは50g/L以上300g/L以下、より好ましくは70g/L以上250g/L以下、特に好ましくは100g/L以上200g/L以下である。触媒金属5の担体Sへの担持量は、好ましくは1g/L以上15g/L以下、より好ましくは2g/L以上10g/L以下、特に好ましくは4g/L以上7g/L以下である。これにより、排気ガスのHCを効果的に浄化することができる。
【実施例】
【0066】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0067】
表1に、実施例1〜3及び比較例1〜3に使用した触媒材の構成を示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示すように、実施例1及び比較例1では、触媒金属5としてPt、無機酸化物粒子として活性アルミナ粒子を用いた。また、実施例2及び比較例2では、触媒金属5としてPd、無機酸化物粒子として活性アルミナ粒子を用いた。そして、実施例3及び比較例3では、触媒金属5としてRh、無機酸化物粒子としてNdを含有するCe含有Zr系複合酸化物であるCeZrNdOxを用いた。なお、実施例1〜3では、カーボン層4が存在しているのに対し、比較例1〜3では、カーボン層4は存在していない。
【0070】
−触媒材の調製−
[実施例1]
触媒金属塩溶液として、5質量%のジニトロジアミンPt硝酸溶液を用いた。
【0071】
カーボン粒子分散液として、ケッチェンブラック(KB)2.5gに0.1N硝酸水溶液25mLとエタノール25mLとを加え撹拌したものを用いた。
【0072】
上記カーボン粒子分散液に上記ジニトロジアミンPt硝酸溶液4.70gを加え、70〜90℃に加熱しながら3時間撹拌し、カーボン混合Pt溶液を得た。
【0073】
上記カーボン混合Pt溶液に、無機酸化物粒子としてのLa含有アルミナ粉末10.0gを加え、混合・撹拌した後、得られた混合物を乾燥し、Ar雰囲気中100℃/時間で昇温後600℃で2時間焼成して触媒材としてのPt/カーボン担持アルミナを得た。
【0074】
[比較例1]
アルミナ粉末に対して5質量%のジニトロジアミンPt硝酸溶液を用いて蒸発乾固法によりPtを担持し、乾燥後大気中800℃で2時間焼成してPt担持アルミナを得た。
【0075】
[実施例2]
触媒金属塩溶液として、5質量%のジニトロジアミンPd硝酸溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、触媒材としてのPd/カーボン担持アルミナを調製した。
【0076】
[比較例2]
アルミナ粉末に対して5質量%のジニトロジアミンPd硝酸溶液を用いて蒸発乾固法によりPdを担持し、乾燥後大気中800℃で2時間焼成してPd担持アルミナを得た。
【0077】
[実施例3]
触媒金属塩溶液として、5質量%のジニトロジアミンRh硝酸溶液を用いた。
【0078】
無機酸化物粒子として、Ce含有Zr系複合酸化物であるCeZrNdOxを用いた。CeZrNdOxは、次のようにして調製した。すなわち、硝酸セリウム6水和物、オキシ硝酸ジルコニウム、及び硝酸ネオジム6水和物をイオン交換水に溶かし、この硝酸塩溶液に28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより、共沈物を得た。この共沈物を遠心分離法で水洗した後、空気中において150℃の温度で一昼夜乾燥させ、粉砕した後、空気中において500℃の温度で2時間焼成することにより、CeZrNdOx粉末を得た。
【0079】
実施例1と同様の方法により、カーボン混合Rh溶液を得た後、この溶液に上記CeZrNdOx粉末を加えて混合した。そして、実施例1と同様の条件により乾燥・焼成して、触媒材としてのRh/カーボン担持CeZrNdOxを調製した。
【0080】
[比較例3]
実施例3で調製したCeZrNdOx粉末に対して5質量%のジニトロジアミンRh硝酸溶液を用いて蒸発乾固法によりRhを担持し、乾燥後大気中800℃で2時間焼成してRh担持CeZrNdOxを得た。
【0081】
−触媒材における触媒金属の分散性について−
[触媒金属の結晶子径]
上記実施例1〜3の各触媒材におけるAr雰囲気中600℃で2時間焼成後の触媒金属の結晶子径の測定結果、及び比較例1〜3の各触媒材における大気中800℃で2時間焼成後の触媒金属の結晶子径の測定結果を表1に示す。なお、「結晶子径」はX線回折装置を用い、シェラーの式(結晶子径(hkl)=0.9λ/(β
1/2・cosθ),ここで、hklはミラー指数、λは特性X線の波長(オングストローム)、β
1/2は(hkl)面の半価幅(ラジアン)、θはX線反射角度である。)により求めた。
【0082】
表1に示すように、カーボン粒子を用いて触媒金属を担持した実施例1〜3の触媒材では、従来の蒸発乾固法により触媒金属を担持した比較例1〜3の触媒材に比べて、いずれも触媒金属の結晶子径(nm)は小さい値となっていることが判る。従って、これらの結果から、Pt、Pd、及びRhのいずれの触媒金属を担持させる場合であっても、カーボン粒子を用いて担持した実施例1〜3の触媒材のほうが、蒸発乾固法により担持した比較例1〜3の触媒材に比べて、触媒金属が高分散状態でサポート材粒子表面のカーボン層に担持されていることが判る。
【0083】
[透過型電子顕微鏡観察]
触媒金属5の担持状態を評価するため、触媒金属5としてPtを担持させた実施例1及び比較例1の触媒材について、非酸化性雰囲気中における焼成の代わりに、大気雰囲気中800℃で2時間の焼成を行なうことによりカーボン粒子4’を焼失させた後の、無機酸化物粒子3表面について透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行った。TEM観察は、触媒材をメタノールに分散させ、TEMグリッドに滴下してサンプルを作成し測定した。観察結果を各々
図4及び
図5に示す。なお、
図4及び
図5において、黒い部分がPt粒子を示している。
【0084】
まず、
図5に示すように、従来の蒸発乾固法によりPtを担持した比較例1の触媒材では、アルミナ粒子表面にPt粒子が散在しているが、各々のPt粒子の大きさは実施例1のものに比べて大きなものとなっていることが判る。これは、蒸発乾固法によりアルミナの細孔内にジニトロジアミンPt硝酸溶液が液溜まりとなる結果、細孔内にPtが凝集して析出し、Pt粒子が大きくなっていると考えられる。
【0085】
一方、
図4に示すように、カーボン粒子を用いてPtを担持した実施例1の触媒材では、アルミナ粒子表面に複数のPt粒子が集まりつつ散在していることが判る。カーボン粒子は通常複数の粒子が凝集して二次粒子として存在しているが、この二次粒子はアルミナの細孔よりも大きいため、カーボン粒子に担持されたPt塩がアルミナの細孔内に取り込まれにくいと考えられる。従って、カーボン粒子に担持されたPt塩はカーボン粒子の細孔等に保持されたままアルミナ表面全体に分散担持され、大気中で焼成を行った場合にカーボンが焼失しても、ある程度その位置を維持してアルミナ表面全体に析出するためと考えられる。
【0086】
従って、これらの結果から、実施例1の触媒材の方が、比較例1の触媒材に比べて、Pt粒子がより高分散状態でカーボン粒子表面に担持されていることが示唆される。
【0087】
なお、現時点において、焼成工程後の触媒材について、無機酸化物粒子表面の細孔内、細孔内以外の表面又はカーボン粒子上に担持されているPt粒子等の触媒金属の割合等を特定することは困難である。
【0088】
−触媒材の触媒性能−
[ハニカム触媒の調製]
触媒層を形成する担体Sとして、セル壁厚さ3.5mil(8.89×10
−2mm)、1平方インチ(645.16mm
2)当たりのセル数600のセラミックス製ハニカム担体(容量25mL)を用いた。
【0089】
実施例1〜3及び比較例1〜3の触媒材に、イオン交換水及びバインダ材としてのZrYOを加えて、得られたスラリーを上記ハニカム担体にコーティングし、その後、150℃で乾燥及び500℃で2時間焼成することにより、触媒層を担体上に設けた。なお、担体には、担体1L当たりの担持量として、150g/Lの触媒材(10g/Lの触媒金属)が含まれるように触媒層を設けた。
【0090】
[ハニカム触媒の飽和炭化水素燃焼性能]
ハニカム触媒のi−ペンタン(i−C
5H
12)の燃焼性能を測定するために、以下の試験を行った。
【0091】
まず、作製した各ハニカム触媒を、モデルガス流通反応装置に取り付け、i−C
5H
12を含むモデルガスを導入した。モデルガスの組成は、i−C
5H
12が3000ppmC、COが1700ppm、O
2が10.5%、CO
2が13.9%、H
2Oが10%、残部がN
2である。また、ガスの流量を26.1L/minとし、空間速度をSV=60000h
−1とした。触媒に流入するモデル排気ガスの温度を常温から漸次上昇させていき、その触媒から流出するガスのi−C
5H
12の濃度変化を検出し、流出するi−C
5H
12量に基づいて、各ハニカム触媒のi−C
5H
12浄化率を測定した。この測定結果のうち、排気ガス温度350℃におけるi−C
5H
12浄化率を表1に示す。
【0092】
表1に示すように、実施例1〜3の全てのハニカム触媒において、各々比較例1〜3のハニカム触媒よりも高いi−C
5H
12浄化率を示した。この結果から、本実施形態に係る製造方法を用いて触媒金属を担持させることにより、触媒材の触媒性能が効果的に向上するとともに、ペンタン等の飽和炭化水素の浄化性能も向上することが判った。