(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
窒化ケイ素粉末と、アルミニウム源となる物質と、カルシウム源となる物質と、ユーロピウム源となる物質とを混合し、不活性ガス雰囲気中、又は、還元性ガス雰囲気中、1500〜2000℃で焼成して中間物としての、Liを含有しないCa含有α型サイアロンを主成分とする酸窒化物蛍光体焼成物を得た後、該酸窒化物蛍光体焼成物をさらにLiが存在する条件下で、不活性ガス雰囲気中、又は、還元性ガス雰囲気中、1450℃以上であり、かつ、前記焼成温度未満の温度で熱処理することを特徴とするLiを50〜10000ppm含む酸窒化物蛍光体粉末の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、青色発光ダイオード(LED)が実用化されたことにより、この青色LEDを利用した白色LEDの開発が精力的に行われている。白色LEDは、既存の白色光源に較べ消費電力が低く、長寿命であるため、液晶パネル用バックライト、室内外の照明機器等への用途展開が進行している。
【0003】
現在、開発されている白色LEDは、青色LEDの表面にCeをドープしたYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)を塗布したものである。しかしながら、CeをドープしたYAGの蛍光ピーク波長は560nm付近にあり、この蛍光の色と青色LEDの光を混合して白色光にすると、やや青みの強い白色光となるため、この種の白色LEDは演色性が悪いという問題がある。
【0004】
これに対して、多くの酸窒化物蛍光体が研究されており、特に、Euにより賦活されたα型サイアロン蛍光体は、CeをドープしたYAGの蛍光ピーク波長より長い580nm前後のピーク波長の(黄〜橙色)蛍光を発生することが知られており(特許文献1参照)、前記のα型サイアロン蛍光体を用いて、または、CeをドープしたYAG蛍光体と組み合わせて、白色LEDを構成すると、CeをドープしたYAGのみを用いた白色LEDよりも、色温度の低い電球色の白色LEDを作製することができる。
【0005】
しかしながら、一般式:
Ca
xEu
ySi
12-(m+n)Al
(m+n)O
nN
16-n
で表されるEuにより賦活された、Ca含有α型サイアロン蛍光体は、実用に値する高輝度な蛍光体は開発されていなかった。
【0006】
特許文献2には、原料粉末中に予め合成したα型サイアロン粉末を粒成長の種結晶として添加することにより、従来よりも大きく、表面が平滑な粒子が得られ、しかもその合成粉末から粉砕処理することなく、特定粒度の粉末を得ることにより、発光効率の優れる595nm以上の波長に蛍光ピークを有する蛍光体とその製造方法が開示されている。
【0007】
具体的には、組成が(Ca
1.67、Eu
0.08)(Si、Al)
12(O、N)
16である(x+y=1.75、O/N=0.03)α型サイアロン蛍光体であって、455nmの青色光によって励起した場合に得られた蛍光スペクトルのピーク波長が599〜601nmの範囲であり、発光効率(=外部量子効率=吸収率×内部量子効率)が61〜63%であるα型サイアロン蛍光体が開示されている。
【0008】
しかしながら、同文献には、蛍光ピーク波長が599nmより小さな蛍光体及び601nmより大きな蛍光体で実用可能な発光効率を有する具体例は示されていない。
【0009】
特許文献3には、一般式:(Ca
α、Eu
β)(Si、Al)
12(O、N)
16(但し、1.5<α+β<2.2、0<β<0.2、O/N≦0.04)で示されるα型サイアロンを主成分とし、比表面積が0.1〜0.35m
2/gである蛍光体を用いることを特徴とする発光装置、それを用いた車両用灯具、およびヘッドランプが開示されている。
【0010】
同文献には、455nmの青色光によって励起した場合に得られた蛍光スペクトルのピーク波長が592、598及び600nmであるα型サイアロン蛍光体の実施例が開示されており、それらの発光効率(=外部量子効率)は、各々、61.0、62.7、及び63.2%となっている。
【0011】
しかしながら、同文献には、蛍光ピーク波長が592nmより小さな蛍光体及び600nmより大きな蛍光体で実用可能な発光効率を有する具体例は示されていない。
【0012】
特許文献4には、焼成することによりサイアロン蛍光体を構成しうる金属化合物混合物を、特定の圧力のガス中において、特定の温度範囲で焼成した後に、特定の粒径まで粉砕、分級し、さらに熱処理を施すことにより、従来のものに比し高輝度発光する特有な性質を有するサイアロン蛍光体とその製造方法が開示されている。
【0013】
しかしながら、同文献に具体的に開示されているのは、ピークの発光強度が開示されているのみであり、ピークの発光強度は測定装置、測定条件により変化するため、実用可能なまでの発光強度が得られているかは定かでない。
【0014】
特許文献5には、窒化ケイ素又は含窒素ケイ素化合物粉末と、AlNを含むアルミニウム源と、Li源と、Eu源とを混合し、常圧の窒素を含有する不活性ガス雰囲気中、又は、還元ガス雰囲気中、1500〜1800℃で焼成して出発原料となるリチウム含有α型サイアロン粉末を得て、その粉末に追加のリチウム源を添加混合し、常圧の窒素を含有する不活性ガス雰囲気中、又は、還元ガス雰囲気中、前記焼成温度よりも低い温度で又は1100℃以上1600℃未満で再焼成して、Li含有α型サイアロン蛍光体粒子を製造する製造方法とLi含有α型サイアロン蛍光体粒子が開示されている。
【0015】
しかしながら、同文献に具体的に開示されているのは、ピーク波長が572〜588nmのLi含有α型サイアロン蛍光体粒子であり、蛍光ピーク波長が588nmより大きな蛍光体の具体例は示されておらず、また、ピークの発光強度が開示されているのみであり、具体的な量子効率が示されておらず、実用可能な発光効率を有しているかは明らかでない。
【0016】
特許文献6には、一般式 Li
xCa
yEu
zSi
12-(m+n)Al
(m+n)O
nN
16-n(ただし、xが0<x≦0.8であり、0.3≦m<4.5、0<n<2.25である)で表されるα型サイアロン系蛍光体が示されている。
【0017】
しかしながら、同文献に具体的に開示されているのは、ピーク波長が560nm付近の(Ca、Li)含有α型サイアロン蛍光体粒子であり、蛍光ピーク波長が590nmより大きな蛍光体は示されておらず、また、具体的な量子効率は示されておらず、実用可能な発光効率を有しているかは明らかでない。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0032】
窒化ケイ素粉末と、アルミニウム源となる物質と、カルシウム源となる物質と、ユーロピウム源となる物質とを混合し、不活性ガス雰囲気中、又は、還元ガス雰囲気中、1500〜2000℃の温度範囲内で焼成して中間物としてのCa含有α型サイアロンを主成分とする酸窒化物蛍光体焼成物を得、さらにLiが存在する条件下で、不活性ガス雰囲気中、又は、還元ガス雰囲気中、1450℃〜前記焼成温度未満の温度範囲内で熱処理することで、ピーク波長が587nmから630nmの広い波長域で蛍光を発し、その際の外部量子効率が特に大きい、酸窒化物蛍光体粉末が得られる酸窒化物蛍光体粉末の製造方法に関するものである。
【0033】
特に、本発明では、Liを50〜10000ppm含むCa含有α型サイアロンを主成分とする酸窒化物蛍光体粉末とすることにより、450nmの波長の光により励起されることで、ピーク波長が587nmから630nmの広い波長域で蛍光を発し、その際の外部量子効率が特に大きい、酸窒化物蛍光体粉末が得られる。
【0034】
ピーク波長の下限は、587nm以上、好ましくは605nm以上である。ピーク波長の上限は、630nm以下、例えば、629nm以下、または626nm以下である。
【0035】
α型サイアロン、特に、Ca含有α型サイアロンとは、α型窒化ケイ素のSi−N結合の一部がAl−N結合およびAl−O結合に置換され、Caイオンが格子内に侵入固溶して電気的中性が保たれた固溶体である。
【0036】
本発明の酸窒化物蛍光体に含まれるα型サイアロン蛍光体は、前記Caイオンに加えてEuイオンが格子内に侵入固溶することで、Ca含有α型サイアロンが賦活されて、青色光によって励起され、前記一般式で表される黄色から橙色の蛍光を発する蛍光体となる。
【0037】
一般的な希土類元素を賦活させたα型サイアロン蛍光体は、特許文献1に記載されているとおり、MeSi
12-(m+n)Al
(m+n)O
nN
16-n(Meは、Ca、Mg、Y、又はLaとCeを除くランタニド金属の一種若しくは二種以上)で表され、金属Meは、(Si,Al)
3(N,O)
4の4式量を含むα型サイアロンの大きな単位胞3個当たり最低1個から、単位胞1個当たり最高1個まで固溶する。固溶限界は、一般に、金属元素Meが二価のとき、前述の一般式において、0.6<m<3.0、且つ、0≦n<1.5であり、金属Meが三価のとき、0.9<m<4.5、且つ、0≦n<1.5である。この範囲以外ではα型サイアロン単相とはならない。したがって、今までのα型サイアロン蛍光体の検討は、前述の組成範囲内に限られていた。
【0038】
発明者は、前述の一般的にα型サイアロン単相が得られる組成範囲、及びα型サイアロン単相が得られる組成範囲外についても鋭意検討した結果、一定量のLiが存在する条件下で熱処理を行うことにより、飛躍的に発光効率が向上することを見出したものである。また、前述のα型サイアロン単相が得られる組成範囲の蛍光体に比べ、従来、α型サイアロン単相が得られない組成領域において、より長波長の発光ピークが得られること、発光効率が向上することを見出したものである。
【0039】
次に、本発明の酸窒化物蛍光体粉末について具体的に説明する。
【0040】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、Liを50〜10000ppm含み、Ca含有α型サイアロンを主成分とする酸窒化物蛍光体粉末である。本発明においては、酸窒化物蛍光体粉末に含まれるLi含有量が50ppmより小さくなる、又、Li含有量が10000ppmより大きくなると、外部量子効率が44%より小さくなる。また、本発明においては、酸窒化物蛍光体粉末に含まれるLi含有量は、100ppm以上が好ましく、200ppm以上がより好ましく、240ppm以上がさらに好ましい。また、酸窒化物蛍光体粉末に含まれるLi含有量は8000ppm以下が好ましく、5000ppm以下がより好ましく、2000ppm以下がさらに好ましく、1000ppm以下がさらにより好ましい。例えば、Li含有量は100〜5000ppmの範囲内であってもよい。Li含有量が上記範囲内である場合には、外部量子効率がより大きく成り易い。
【0041】
外部量子効率は44%以上であり、好ましくは50%以上である。
【0042】
酸窒化物蛍光体粉末に含まれるLi含有量(全Li含有量)は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)を用いて定量分析することが出来る。酸窒化物蛍光体粉末をリン酸、過塩素酸、硝酸、及びフッ化水素酸にて加熱分解、純水にて定容し、ICP−AESにて定量分析することで、Li含有量を求めることができる。
【0043】
本発明では、Ca含有α型サイアロンを主成分とする酸窒化物蛍光体焼成物を作製した後、Liが存在する条件下で熱処理を行うことから、Liは酸窒化物蛍光体粉末の表面近傍に存在している。つまり、Liは、Ca含有α型サイアロンを主成分とする酸窒化物蛍光体の結晶格子内には殆ど存在しておらず、粒子表面に多く存在している。
【0044】
本明細書において、酸窒化物蛍光体粉末の内部に存在するLi量を、粒子内Li含有量といい、粒子表面近傍に存在するLi量を表面Li量という。表面Li量は、次のようにして求めることができる。酸窒化物蛍光体粉末について、20℃の1N硝酸中(蛍光体粉末に対して質量で50倍の1N硝酸)に5時間浸漬、濾過、及び純水洗浄を行う酸処理を実施することで、酸窒化物蛍光体の表面層を除去した後、表面層を除去した蛍光体について前記ICP−AES定量分析を行って、粒子内Li含有量を測定することができる。そして、前述の全Li含有量との差から、表面Li量の割合を式(1)にて算出することができる。
((全Li含有量―粒子内Li含有量)/全Li含有量)×100・・・式(1)
したがって、式(1)にて算出される値が、表面Li量と定義される。
【0045】
表面Li量は、蛍光体粉末中のLi含有量の50%以上、好ましくは60%以上である。本発明において、表面Li量が50%未満である場合には、発光ピーク波長が低下するとともに、外部量子効率が44%未満となる。理論に束縛されるものではないが、熱処理で加えられるLiは、主として、Ca含有α型サイアロンを主成分とする酸窒化物蛍光体の粒子表面の酸素リッチなアモルファス層中に存在すると考えられる。熱処理で加えられるLiが多く存在する酸素リッチなアモルファス層は上記酸処理によりエッチングされやすく、結晶性が高い酸窒化物蛍光体粉末の内部はエッチングが進みにくい。前記酸処理前後での重量変化から、エッチング量(深さ)を、酸窒化物蛍光体粉末を球形粒子と仮定して算出した場合、エッチング深さは1〜10nm程度であり、このエッチング深さが、熱処理で加えられるLiが多く存在する酸素リッチなアモルファス層の厚みに対応するものと考えられる。
【0046】
特に、本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、Liを50〜10000ppm含み、Ca含有α型サイアロンと窒化アルミニウムとから成る酸窒化物蛍光体粉末であることが好ましく、Ca含有α型サイアロンと窒化アルミニウムを含む場合には、発光ピーク波長が587nmから630nmの波長域という広い波長域で大きな外部量子効率を得ることができ、特に605nmより大きい波長域で、大きな外部量子効率を得ることができる。
【0047】
本発明においては、特に、前記Ca含有α型サイアロンと窒化アルミニウムの組成式が、Ca
x1Eu
x2Si
12-(y+z)Al
(y+z)O
zN
16-z
(ただし、式中、1.11≦x1+x2≦3.34、0.01≦x2/x1≦1.50、2.4≦y≦7.3、及び0≦z≦1.5、好ましくは1.60≦x1+x2≦3.00、0.10≦x2/x1≦1.20、4.0≦y≦7.0、0≦z≦0.5)で表されることが好ましく、本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、この組成式にさらにLiを50〜10000ppm含む酸窒化物蛍光体である。
【0048】
前記x1及びx2はサイアロンへのCaイオンおよびEuイオンの侵入固溶量を示す値であり、x1+x2が1.60より小さくなると、発光波長が605nmより小さくなり、または3.00より大きくなると、外部量子効率が50%より小さくなるため、x1+x2は、1.60以上3.00以下が好ましい。また、x2/x1が0.10より小さくなると、発光波長が605nmより小さくなり、1.20より大きくなると外部量子効率が50%より小さくなるため、x2/x1は、0.10以上1.20以下が好ましい。
【0049】
x1+x2の値の範囲は、さらに好ましくは1.60≦x1+x2<2.93、さらにより好ましくは1.60≦x1+x2≦2.90である。
【0050】
x2/x1の値の範囲は、さらに好ましくは0.10≦x2/x1<1.15、さらにより好ましくは0.10≦x2/x1≦0.95である。
【0051】
前記yはサイアロンへ金属元素が固溶する際に電気的中性を保つために決められる値で、前記酸窒化物蛍光体粉末では、y=2x1+3x2で表される。式中のx1の係数2はCa含有α型サイアロン蛍光体に固溶するCaイオンの価数から、式中x2の係数3はCa含有α型サイアロン蛍光体に固溶するEuイオンの価数から与えられる数値である。また、本発明の酸窒化物蛍光体では、α型サイアロンと窒化アルミニウムを含むことから、前記yは、窒化アルミニウムの生成量に関連した値である。つまり、α型サイアロン単相が得られる組成領域を超えるy値となる場合には、窒化アルミニウムやその他のアルミニウム含有酸窒化物が生成することになる。
【0052】
本発明においては、前記yの範囲は、4.0≦y≦7.0であることが好ましい。前記yが7.0より大きくなると生成する窒化アルミニウム結晶相の量が大きく成り、外部量子効率が50%より小さくなる。また、前記yが4.0より小さくなると、発光ピーク波長が605nmより小さくなる。したがって、yは4.0以上7.0以下が好ましい。前記yの値の範囲は、さらに好ましくは4.0≦y<7.0、さらにより好ましくは4.0≦y≦6.0、さらにより好ましくは4.6≦y≦7.0、さらにより好ましくは4.6≦y≦6.0である。
【0053】
さらに、前記zはα型サイアロンへの酸素の置換固溶量に関する値である。前記zの範囲は、好ましくは0.0≦z≦1.1、より好ましくは0.0≦z≦1.1、さらに好ましくは0.0≦z≦0.5である。zを0.5以下にすることによって、発光ピーク波長を605nm以上にすることができる。特に、前記yおよびzが、4.0≦y≦7.0且つ0.0≦z≦0.5の組成である場合、発光波長は605〜630nmであり、より実用的な外部量子効率を有する高効率な酸窒化物蛍光体粉末が提供される。また、0≦y<1.0且つ0≦z<1.5の範囲ではβ型サイアロンが生成し、外部量子効率が小さくなる。
【0054】
また、本発明においては、前記x1+x2、x2/x1、y及びzの範囲は、1.60≦x1+x2≦2.80、0.10≦x2/x1≦0.95、4.0≦y≦6.5、0.0≦z≦0.5で、Li含有量が100〜5000ppmであることがより好ましい。x1+x2、x2/x1、y、z及びLi含有量がこの範囲の組成である場合、発光ピーク波長が605nm以上となり、外部量子効率がより大きい高効率な酸窒化物蛍光体粉末が提供される。
【0055】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、CuKα線を用いたX線回折(XRD)装置により結晶相を同定すると、三方晶に分類されるα型サイアロン結晶相と六方晶に分類される窒化アルミニウム結晶相とからなる。酸窒化物蛍光体粉末がα型サイアロン結晶相の単相である場合には、発光ピーク波長が小さくなり、また、窒化アルミニウム結晶相が多くなりすぎると、外部量子効率が小さくなる。酸窒化物蛍光体粉末に含まれる窒化アルミニウム結晶相の含有量としては、0重量%より大きく36重量%より小さい範囲で含むことが好ましい。この範囲で窒化アルミニウム結晶相を含んだ場合には、外部量子効率が大きくなる。
【0056】
XRD測定における結晶相の同定および結晶相の定量化は、X線パターン解析ソフトを用いて行うことができる。解析ソフトとしては、リガク社製PDXL等が挙げられる。尚、酸窒化物蛍光体粉末のXRD測定、リートベルト法による結晶相の定量化は、リガク社製X線回折装置(Ultima IV Protectus)および解析ソフト(PDXL)を用いて行った。
【0057】
本発明においては、酸窒化物蛍光体粉末に含まれる窒化アルミニウム結晶相の含有量としては、0重量%より大きく38重量%以下の範囲で含むことが好ましい。窒化アルミニウム結晶相の含有量の下限はより好ましくは2重量%以上、さらに好ましくは3重量%以上である。窒化アルミニウム結晶相の含有量の上限はより好ましくは36重量%以下、さらに好ましくは33重量%以下である。酸窒化物蛍光体粉末がα型サイアロン結晶相の単相である場合には、発光ピーク波長が605nmより小さくなり、また、窒化アルミニウム結晶相が36重量%より多くなると、外部量子効率が小さくなる。
【0058】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末を白色LED用蛍光体として好適に使用するためには、粒度分布曲線における50%径であるD
50が10.0〜20.0μmであり、かつ、比表面積は0.2〜0.6m
2/gであることが好ましい。D
50が10.0μmより小さく、また、比表面積が0.6m
2/gより大きい場合は、発光強度が低くなることがあり、D
50が20.0μmより大きく、また、比表面積が0.2m
2/gより小さい場合は、蛍光体を封止する樹脂中に均一分散し難くなって、白色LEDの色調にバラツキを生じることがあるからである。
【0059】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末の粒子径および比表面積を制御する方法としては、原料となる窒化ケイ素粉末の粒子径を制御することで可能である。平均粒子径(D
50)が1.5μm以上の窒化ケイ素粉末を用いた場合には、酸窒化物蛍光体粉末のD
50は10μm以上で、且つ、比表面積が0.2〜0.6m
2/gとなり、外部量子効率がより大きくなるために好ましい。
【0060】
酸窒化物蛍光体粉末のD
50は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定した粒度分布曲線における50%径である。また、酸窒化物蛍光体粉末の比表面積は、島津社製フローソーブ2300型比表面積測定装置(窒素ガス吸着法によるBET法)で測定した。
【0061】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、450nmの波長域の光の励起によって、ピーク波長が587nmから630nmの波長域、好ましくは605nmから630nmの波長域にある蛍光を発することができ、その際の外部量子効率は44%以上、好ましくは50%以上を示す。これにより、本発明の酸窒化物蛍光体粉末では、青色の励起光により長波の橙色蛍光を効率的に得ることができ、また、励起光として用いる青色光との組み合わせで、演色性が良好な白色光を効率的に得ることができる。
【0062】
蛍光ピーク波長は、日本分光社製FP6500に積分球を組み合わせた固体量子効率測定装置により測定することができる。蛍光スペクトル補正は、副標準光源により行うことができるが、蛍光ピーク波長は、用いる測定機器や補正条件によって若干の差を生じることがある。
【0063】
また、外部量子効率は、日本分光社製FP6500に積分球を組み合わせた固体量子効率測定装置により、吸収率および内部量子効率を測定し、それらの積から算出することができる。
【0064】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、公知の発光ダイオード等の発光源と組み合わせられて、発光素子として各種照明器具に用いることができる。
【0065】
特に、励起光のピーク波長が330〜500nmの範囲にある発光源は、本発明の酸窒化物蛍光体粉末に好適である。紫外領域では、酸窒化物蛍光体粉末の発光効率が高く、良好な性能の発光素子を構成することが可能である。また、青色の光源でも発光効率は高く、本発明の酸窒化物蛍光体粉末の黄色〜橙色の蛍光と青色の励起光との組み合わせで、良好な昼白色〜昼光色の発光素子を構成できる。
【0066】
次に、本発明の酸窒化物蛍光体粉末の製造方法について具体的に説明する。
【0067】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、組成式:
Ca
x1Eu
x2Si
12-(y+z)Al
(y+z)O
zN
16-z
において、1.11≦x1+x2≦3.34、0.01≦x2/x1≦1.50、2.4≦y≦7.3、0≦z≦1.5で表される組成となるように、好ましくは1.60≦x1+x2≦3.00、0.10≦x2/x1≦1.20、4.0≦y≦7.0、0≦z≦0.5で表される組成となるように、窒化ケイ素粉末と、アルミニウム源となる物質と、カルシウム源となる物質と、ユーロピウム源となる物質とを混合し、不活性ガス雰囲気中、又は、還元ガス雰囲気中、1500〜2000℃の温度範囲で焼成することにより、中間物としてのCa含有α型サイアロンと窒化アルミニウムとを含む酸窒化物蛍光体焼成物を得た後、得られた焼成物をさらにLiが存在する条件下で、不活性ガス雰囲気中、又は、還元ガス雰囲気中、1450℃〜前記焼成温度未満の温度で熱処理することにより製造できる。
【0068】
原料の窒化ケイ素粉末としては、特に、結晶性窒化ケイ素が好ましく、結晶性窒化ケイ素を用いることにより、外部量子効率が高い酸窒化物蛍光体を得ることが出来る。
【0069】
原料のアルミニウム源となる物質としては、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、金属アルミニウムが挙げられ、これらの粉末の夫々を単独で使用しても良く、併用しても良い。
【0070】
原料のカルシウム源となる物質は、カルシウムの窒化物、酸窒化物、酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質から選択される。
【0071】
原料のユーロピウム源となる物質は、ユーロピウムの窒化物、酸窒化物、酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質から選択される。
【0072】
焼成においては、焼結を促進し、より低温でα型サイアロン結晶相を生成させることを目的に、焼結助剤となるLi含有化合物を添加することが好ましい。用いるLi含有化合物としては、酸化リチウム、炭酸リチウム、金属リチウム、窒化リチウムが挙げられ、これらの粉末の夫々を単独で使用しても良く、併用しても良い。また、Li含有化合物の添加量は、酸窒化物焼成物1molに対して、Li元素として0.01〜0.5molが適当である。焼成時に添加されるLi含有化合物は加熱分解し、さらに、生成したLi分解物は、融解、蒸発しやすく、生成した酸窒化物焼成物中には殆ど含まれていない。
【0073】
窒化ケイ素粉末と、アルミニウム源となる物質と、カルシウム源となる物質と、ユーロピウム源となる物質とを混合する方法については、特に制約は無く、それ自体公知の方法、例えば、乾式混合する方法、原料各成分と実質的に反応しない不活性溶媒中で湿式混合した後に溶媒を除去する方法などを採用することができる。混合装置としては、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミル、媒体攪拌ミルなどが好適に使用される。
【0074】
窒化ケイ素粉末と、アルミニウム源となる物質と、カルシウム源となる物質と、ユーロピウム源となる物質との混合物を、不活性ガス雰囲気中、又は、還元ガス雰囲気中、1500〜2000℃の温度範囲で焼成することで、前記組成式で表される酸窒化物焼成物を得ることができる。1500℃より低いとα型サイアロンの生成に長時間の加熱を要し、実用的ではない。2000℃より高いと窒化ケイ素およびα型サイアロンが昇華分解し遊離のシリコンが生成するため、外部量子効率が高い酸窒化物蛍光体粉末が得られなくなる。不活性ガス雰囲気中、又は、還元ガス雰囲気中、1500〜2000℃の範囲の焼成が可能であれば、焼成に使用される加熱炉については、特に制約は無い。例えば、高周波誘導加熱方式または抵抗加熱方式によるバッチ式電気炉、ロータリーキルン、流動化焼成炉、プッシャ−式電気炉などを使用することができる。混合物を充填する坩堝には、BN製の坩堝、窒化ケイ素製の坩堝、黒鉛製の坩堝、炭化珪素製の坩堝を用いることができる。焼成によって得られる酸窒化物焼成物は、凝集が少なく、分散性が良好な粉体である。
【0075】
上記の焼成により得られた酸窒化物焼成物は更にLiが存在する条件下で熱処理される。得られた酸窒化物焼成物を、不活性ガス雰囲気中、または還元性ガス雰囲気中、1450℃〜前記焼成温度未満の温度範囲で熱処理することで、Li含有量が50〜10000ppmの酸窒化物蛍光体粉末が得られ、450nmの波長の光により励起されることで、ピーク波長が587nmから630nmの波長域にある蛍光を発する際の外部量子効率が特に高い酸窒化物蛍光体粉末を得ることができる。
【0076】
Liが存在する条件下での熱処理としては、中間物の酸窒化物焼成物に、Li化合物を混合し熱処理する方法、さらには、熱処理に用いる坩堝中に事前にLi化合物を入れ、1200〜1600℃の温度範囲にて焼成し、その坩堝を用い、中間物の酸窒化物焼成物を熱処理する方法、さらには、酸窒化物焼成物を入れた坩堝と、Li化合物を入れた坩堝を同時に、不活性ガス雰囲気中、又は還元性ガス雰囲気中で熱処理する方法などが挙げられる。Li化合物としては、炭酸リチウム、酸化リチウム、窒化リチウムなどが挙げられ、これらの粉末の夫々を単独で使用してもよく、併用してもよい。例えば、中間物の酸窒化物焼成物にLi化合物としてLi
2Oを混合し熱処理する方法においては、添加するLi化合物の量としては、酸窒化物焼成物100gに対して、0.4g〜18.5gが適当である。さらに、熱処理に用いる坩堝中に事前にLi化合物を入れ、1200〜1600℃の温度範囲にて焼成し、その坩堝用い、中間物の酸窒化物焼成物を熱処理する方法においては、Li化合物の量としては、酸窒化物焼成物100gに対して、0.4g〜18.5gが適当である。
【0077】
より外部量子効率が高い酸窒化物蛍光体粉末を得るためには、熱処理温度を1450〜1600℃の範囲とすることが好ましい。熱処理温度はより好ましくは1500℃以上、さらに好ましくは1550℃以上である。熱処理温度が1450℃に満たない場合、または1600℃を超える場合は、得られる酸窒化物蛍光体粉末の外部量子効率の改善幅が小さくなる。熱処理を行う場合の最高温度での保持時間は、特に高い外部量子効率を得るには、0.5時間以上であることが好ましい。4時間を越えて熱処理を行なっても、時間の延長に伴った外部量子効率の向上は僅かに留まるか、殆ど変わらないため、熱処理を行う場合の最高温度での保持時間としては、0.5〜4時間の範囲であることが好ましい。
【0078】
不活性ガス雰囲気中、または還元性ガス雰囲気中、1450℃〜前記焼成温度未満の温度範囲で熱処理することが可能であれば、熱処理に使用される加熱炉については、特に制約は無い。例えば、高周波誘導加熱方式または抵抗加熱方式によるバッチ式電気炉、ロータリーキルン、流動化焼成炉、プッシャ−式電気炉などを使用することができる。混合物を充填するるつぼには、BN製の坩堝、窒化ケイ素製の坩堝、黒鉛製の坩堝、炭化ケイ素製の坩堝を用いることができる。
【0079】
本発明の酸窒化物蛍光体粉末は、前記記載の製造方法により得られる蛍光体粉末であり、より詳しくは、窒化ケイ素粉末と、アルミニウム源となる物質と、カルシウム源となる物質と、ユーロピウム源となる物質とを混合し、不活性ガス雰囲気中、又は、還元ガス雰囲気中、1500〜2000℃で焼成して中間物としてのCa含有α型サイアロンと窒化アルミニウムとを含む酸窒化物蛍光体焼成物を得、次いで、さらにLiが存在する条件下で、不活性ガス雰囲気中、又は、還元性ガス雰囲気中、1450℃〜前記焼成温度未満の温度で熱処理することにより得られる、Liを50〜10000ppm含むCa含有α型サイアロンと窒化アルミニウムを含む酸窒化物蛍光体粉末である。
【実施例】
【0080】
以下では、具体的例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。
【0081】
(実施例1)
窒化珪素、窒化ユーロピウム、窒化アルミニウム、及び窒化カルシウムを表1の酸窒化物蛍光体の設計組成となるように窒素パージされたグローブボックス内で秤量し、乾式の振動ミルを用いて混合して、混合粉末を得た。窒化珪素粉末の比表面積、平均粒子径および酸素量は、0.3m
2/g、8.0μm、および0.29質量%であった。得られた混合粉末を窒化珪素製の坩堝に入れて、黒鉛抵抗加熱式の電気炉に仕込み、電気炉内に窒素を流通させながら、常圧を保った状態で1725℃まで昇温させた後、1725℃で12時間保持して、酸窒化物焼成物を得た。
【0082】
得られた酸窒化物焼成物を解砕して粒子径が5〜20μmの粉末を分級によって得た後、得られた粉末100gに対して、Li含有量が表2の設計組成になるように、表1に示す量のLi
2Oの粉末(高純度化学研究所製、型番:LIO01PB、純度:2Nup)を添加し、乳鉢で混合した。この混合粉をアルミナ坩堝に入れて、黒鉛抵抗加熱式の電気炉に仕込み、電気炉内に窒素を流通させながら、常圧を保った状態で1550℃まで昇温させた後、1550℃で1時間保持して、酸窒化物蛍光体粉末を得た。
【0083】
また、得られた酸窒化物蛍光体粉末のXRD測定を行った。酸窒化物蛍光体粉末は、α型サイアロン結晶相と窒化アルミニウム結晶相からなっていた。それぞれの含有量は、94質量%と6質量%であった。
【0084】
さらに、得られた酸窒化物蛍光体粉末をリン酸、過塩素酸、硝酸、及びフッ化水素酸にて加熱分解、純水にて定容し、得られた酸窒化物蛍光体粉末のLi含有量をICP−AES分析法(測定装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー製SPS5100型)にて測定した。酸窒化物蛍光体粉末に含まれるLi量は241ppmであった。さらに、得られた酸窒化物蛍光体粉末について、20℃の1N硝酸中(蛍光体粉末に対して質量で50倍の1N硝酸)に5時間浸漬、濾過、及び純水洗浄を行い、酸窒化物蛍光体の表面層を除去した後、表面層を除去した蛍光体について同様にICP−AES定量分析を行って、粒子内Li含有量を測定した。そして、前述の全Li含有量との差から、表面Li量の割合を式(1):
((全Li含有量―粒子内Li含有量)/全Li含有量)×100・・・式(1)
にしたがって算出した。
【0085】
さらに、得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性を評価するために、日本分光社製FP−6500に積分球を組み合わせた固体量子効率測定装置を用いて、励起波長450nmにおける蛍光スペクトルを測定し、同時に吸収率と内部量子効率を測定した。得られた蛍光スペクトルから蛍光ピーク波長とその波長における発光強度を導出し、吸収率と内部量子効率から外部量子効率を算出した。また、輝度の指標になる相対蛍光強度は、市販品のYAG:Ce系蛍光体(化成オプトニクス社製P46Y3)の同励起波長による蛍光スペクトルの最高強度の値を100%とした場合の蛍光ピーク波長における発光強度の相対値とした。実施例1に係る酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性の評価結果、ICP分析によるLi含有量及び表面Li量、並びにXRD分析による酸窒化物蛍光体粉末の生成結晶相とその含有量を表2に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
(実施例2〜4)
熱処理時に添加するLi
2O粉末を表1に示す量で添加したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、Li含有量および表面Li量、並びに生成結晶相およびその含有量を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表2に記載した。
【0089】
(実施例5〜9)
酸窒化物蛍光体粉末が表1の設計組成になるように、原料粉末として、窒化ケイ素、窒化ユーロピウム、窒化アルミニウム、及び窒化カルシウムを秤量及び混合し、さらに、熱処理時に添加するLi
2O粉末を表1に示す量で添加したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、Li含有量および表面Li量、並びに生成結晶相およびその含有量を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を、表2に記載した。
【0090】
(実施例10〜27)
酸窒化物蛍光体粉末が表1の設計組成になるように、原料粉末として、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化カルシウム、炭酸カルシウム、窒化ユーロピウム、及び酸化ユーロピウムを用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、Li含有量および表面Li量、並びに生成結晶相およびその含有量を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表2に記載した。
【0091】
実施例1〜12、14〜17、19〜21、23、及び24のように前記一般式において、1.60≦x1+x2≦3.00、0.10≦x2/x1≦1.20、4.0≦y≦7.0、0≦z≦0.5の範囲内である酸窒化物蛍光体粉末は、熱処理時のLi
2O添加効果によって蛍光強度の改善が顕著に見られ、605〜626nmの発光ピーク波長域において外部量子効率が50%以上と大きな外部量子効率が得られている事が分かる。
【0092】
(参考例1〜3)
酸窒化物蛍光体粉末が表1の設計組成になるように、原料粉末として、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化カルシウム、窒化ユーロピウムを用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、Li含有量および表面Li量、並びに生成結晶相およびその含有量を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表2に記載した。
【0093】
(比較例1)
熱処理時にLi
2Oを添加しなかったこと以外は実施例5と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、生成結晶相および含有量を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表2に記載した。実施例5および比較例1の蛍光スペクトルを
図1に示す。熱処理時にLi
2Oを添加した実施例5の蛍光強度が、比較例1の蛍光強度よりも高い事が分かる。
【0094】
(比較例2、3)
窒化物蛍光体粉末が表1の設計組成になるように、原料粉末として、窒化ケイ素、窒化ユーロピウム、窒化アルミニウム、及び窒化カルシウムを秤量及び混合し、さらに熱処理時に添加するLi
2O粉末を表1示す量で添加したこと以外は、実施例5と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、生成結晶相および含有量を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表2に記載した。比較例2においては、熱処理時のLi
2O添加量が0.10gと少ないため、酸窒化物蛍光体粉末に含まれるLi量が50ppm未満となるため、相対蛍光強度が小さくなる。また、比較例3においては、熱処理時のLi
2O添加量が21.31gと多すぎ、酸窒化物蛍光体粉末に含まれるLi量が10000ppmを超えるため、相対蛍光強度が小さくなる。
【0095】
(比較例4)
Li
x1Eu
x2Si
12-(y+z)Al
(y+z)O
16-zの組成式において、x1=0.7、x2=0.10、y=1.0、z=0.3となるように、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭酸リチウム、及び酸化ユーロピウムを用い、窒素パージされたグローブボックス内で秤量し、乾式の振動ミルを用いて混合して、混合粉末を得た。窒化ケイ粉末の比表面積、平均粒子径および酸素量は、0.3m
2/g、8.0μm、および0.29質量%であった。得られた混合粉末を窒化ケイ素製の坩堝に入れて、黒鉛抵抗加熱式の電気炉に仕込み、電気炉内に窒素を流通させながら、常圧を保った状態で1725℃まで昇温させた後、1725℃で12時間保持して第1焼成を行い、酸窒化物焼成物を得た。
【0096】
得られた酸窒化物焼成物を解砕して粒子径が5〜20μmの粉末を分級によって得た後、得られた酸窒化物焼成物100gに対して、Li
2Oを2.03g添加し、乳鉢で混合した。この混合粉をアルミナ坩堝に入れて、黒鉛抵抗加熱式の電気炉に仕込み、電気炉内に窒素を流通させながら、常圧を保った状態で1550℃まで昇温させた後、1550℃で1時間保持して、比較例4の酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、生成結晶相およびその含有量、並びにLi含有量および表面Li量を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表2に記載した。比較例4の酸窒化物蛍光体粉末は、外部量子効率が低いことが分かる。
【0097】
(比較例5)
Li
x1Eu
x2Si
12-(y+z)Al
(y+z)O
16-zの組成式において、x1=2.89、x2=0.42、y=4.2、z=0.6となるように、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭酸リチウム、及び酸化ユーロピウムを秤量及び混合したこと以外は、比較例4と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、Li含有量および表面Li量、並びに生成結晶相およびその含有量を比較例4と同様の方法で測定した。その結果を表2に記載した。比較例5の酸窒化物蛍光体粉末は、外部量子効率が低いことが分かる。
【0098】
(比較例6)
得られた酸窒化物焼成物を解砕して粒子径が5〜20μmの粉末を分級によって得た後に、Li存在下での熱処理を行わなかったこと以外は、比較例5と同様の条件で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、Li含有量および表面Li量、並びに生成結晶相およびその含有量を比較例4と同様の方法で測定した。その結果を表2に記載した。比較例6の酸窒化物蛍光体粉末は、外部量子効率が低いことが分かる。
【0099】
(比較例7)
Li
2Oを添加せずに熱処理を行ったこと以外は、比較例5と同様の条件で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、Li含有量および表面Li量、並びに生成結晶相およびその含有量を比較例4と同様の方法で測定した。その結果を表2に記載した。比較例7の酸窒化物蛍光体粉末は、外部量子効率が低いことが分かる。
【0100】
(比較例8)
熱処理条件を1725℃で1時間とした以外は、実施例14と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、Li含有量および表面Li量、並びに生成結晶相およびその含有量を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表2に記載した。
【0101】
(比較例9)
熱処理条件を1750℃で1時間とした以外は、実施例14と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、Li含有量および表面Li量、並びに生成結晶相およびその含有量を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表2に記載した。酸窒化物蛍光体粉末の焼成温度と同じ、又は、それ以上の温度で熱処理を行った比較例8及び9では、実施例14に比べ表面Li量が減少し、発光ピーク波長が低下するとともに、外部量子効率が低下していることが分かる。
【0102】
(比較例10)
熱処理条件を1400℃で1時間とした以外は、実施例14と同様の方法で酸窒化物蛍光体粉末を得た。得られた酸窒化物蛍光体粉末の蛍光特性、Li含有量および表面Li量、並びに生成結晶相およびその含有量を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表2に記載した。外部量子効率が低いことが分かる。
本発明の実施態様の一部を以下の項目(1)〜(7)に記載する。
(1)窒化ケイ素粉末と、アルミニウム源となる物質と、カルシウム源となる物質と、ユーロピウム源となる物質とを混合し、不活性ガス雰囲気中、又は、還元性ガス雰囲気中、1500〜2000℃で焼成して中間物としての、Liを含有しないCa含有α型サイアロンを主成分とする酸窒化物蛍光体焼成物を得た後、該酸窒化物蛍光体焼成物をさらにLiが存在する条件下で、不活性ガス雰囲気中、又は、還元性ガス雰囲気中、1450℃以上であり、かつ、前記焼成温度未満の温度で熱処理することを特徴とするLiを50〜10000ppm含む酸窒化物蛍光体粉末の製造方法。
(2)Ca含有α型サイアロンを主成分とする酸窒化物蛍光体焼成物からなり、さらにLiを50〜10000ppm含み、表面Li量が50%以上である、酸窒化物蛍光体粉末。
(3)Ca含有α型サイアロンと窒化アルミニウムとからなり、さらにLiを50〜10000ppm含み、表面Li量が50%以上である、上記(2)記載の酸窒化物蛍光体粉末。
(4)前記Ca含有α型サイアロンと窒化アルミニウムの組成式が
Cax1Eux2Si12-(y+z)Al(y+z)OzN16-z
(ただし、式中、1.60≦x1+x2≦3.00、0.10≦x2/x1≦1.20、4.0≦y≦7.0、0≦z≦0.5)で表される上記(3)記載の酸窒化物蛍光体粉末。
(5)窒化アルミニウムの含有量が、0質量%より大きく36質量%より小さい範囲であることを特徴とする上記(3)または(4)に記載の酸窒化物蛍光体粉末。
(6)450nmの波長の光により励起されることで、ピーク波長が605nmから630nmの波長域にある蛍光を発光し、その際の外部量子効率が50%以上である上記(3)〜(5)のいずれかに記載の酸窒化物蛍光体粉末。
(7)上記(2)〜(6)のいずれかに記載の酸窒化物蛍光体粉末を用いた発光装置。