(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電圧と電流とには常に変動する位相差があり、電流位相を常時的確に検出することは困難である。そのため、特許文献1では、リアルタイムに発生する電流の歪みに応じて、適切にデッドタイム補償を行うことは難しい。また、交流電流を直接検出し、高速フーリエ変換(FFT)を行いながら電流位相を調節する方法も考えられるが、演算処理が膨大であり、プロセッサにかかる負担も大きいため、現実性が低い。
【0006】
そこで、本発明の目的は、精度よくデッドタイム補償を行える電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、直流電圧を三相交流電圧に変換して、電力系統に出力する電力変換装置において、ハイサイドスイッチング素子及びローサイドスイッチング素子が直列接続された3つの直列回路を含むインバータ回路と、前記直列回路のハイサイドスイッチング素子とローサイドスイッチング素子とが同時にオンとならないデッドタイムを設け、前記ハイサイドスイッチング素子と前記ローサイドスイッチング素子とをPWM電圧指令値に基づいてスイッチングさせるPWM制御部と、前記デッドタイムを設けることにより発生する歪みを抑制するためのデッドタイム補償量を算出する算出部と、前記デッドタイム補償量を、前記三相交流電圧の位相からみなし位相差分ずらして、前記PWM電圧指令値に加算するデッドタイム補償部と、前記3つの直列回路それぞれからの出力電流をdq変換して得られる回転座標系のd軸電流又はq軸電流の振幅値を検出する電流振幅値検出部と、前記電流振幅値検出部が検出する振幅値が減少するよう、前記みなし位相差を変更する変更部とを備えることを特徴とする。
【0008】
この構成では、三軸座標系をdq変換した回転座標系のd軸電流又はq軸電流の振幅値を見てデッドタイム補償を行うため、演算処理が膨大となることなく、リアルタイムで精度よくデッドタイム補償を行える。
【0009】
前記電力変換装置は、前記電力系統の系統電圧が閾値を超えた場合に、前記電力系統に無効電力を出力する無効電力出力制御部と、前記無効電力出力制御部が無効電力を出力する場合に、前記変更部によるみなし位相差の変更を停止する構成でもよい。
【0010】
無効電力を電力系統へ出力することでd軸電流(又はq軸電流)は変動する。この変動するd軸電流(又はq軸電流)の振幅値に基づいて、デッドタイム補償を行うと、電力変換装置の出力が安定化しない。このため、電力系統に無効電力を出力する場合、みなし位相差の変更を停止することで、電力変換装置の出力を安定化できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、演算処理が膨大となることなく、リアルタイムで精度よくデッドタイム補償を行える。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本実施形態に係る電力変換装置1の回路図である。電力変換装置1は、例えばHEMS(Home Energy Management System)に用いられる。電力変換装置1は、太陽光発電装置、ガス発電装置、又は風力発電装置等から出力される直流電圧を、入力部IN1,IN2から入力して三相交流電圧に変換し、出力部OUT1,OUT2,OUT3から電力系統へ出力するPWMインバータである。ここで、電力系統は電力会社の配電変電所から電力を伝送する配電系統である。
【0014】
入力部IN1,IN2にはキャパシタC1,C2の直列回路が接続されている。また、入力部IN1,IN2にはスイッチング回路が接続されている。スイッチング回路(インバータ回路)は、三相交流のうちU相、V相、W相それぞれの交流電圧を出力する直列回路2u,2v,2wが並列接続されて構成されている。直列回路2u,2v,2wは、ハイサイドスイッチング素子Q11,Q21,Q31とローサイドスイッチング素子Q12,Q22,Q32とが直列接続されて構成されている。各スイッチング素子は、ドライバ回路10で生成されたPWM信号がゲートに入力され、オンオフする。これら各スイッチング素子は、MOSFET、IGBT等である。なお、IGBTとする場合、各スイッチング素子に還流ダイオードが必要である。
【0015】
ハイサイドスイッチング素子Q11,Q21,Q31とローサイドスイッチング素子Q12,Q22,Q32との接続点は、インダクタLu,Lv,Lwを介して、出力部OUT1,OUT2,OUT3へ接続されている。インダクタLu,Lv,Lwは、スイッチング回路から出力される交流電流に重畳される高調波成分を除去する。
【0016】
U相、V相、W相それぞれのラインには、直列回路2u,2v,2wそれぞれの相電流Iu,Iv,Iw及び相電圧Vu,Vv,Vwを検出する電流検出回路12U,12V,12W、及び電圧検出回路13U,13V,13Wが設けられている。電流検出回路12U,12V,12Wの検出信号、及び、電圧検出回路13U,13V,13Wの検出信号はマイコン11に入力される。
【0017】
マイコン11は、本発明に係る「PWM制御部」、「算出部」、「デッドタイム補償部」、「電流振幅値検出部」及び「変更部」に相当する。
【0018】
マイコン11は、検出された相電圧Vu,Vv,Vwが、電圧指令値(PWM電圧指令値)Vu*,Vv*,Vw*と一致するよう、ドライバ回路10へ指令信号Pu,Pv,Pwを出力し、ドライバ回路10を通じてスイッチング回路をスイッチング制御する。このとき、マイコン11は、直列回路2u,2v,2wそれぞれの相電圧の位相が120°ずつずれるように、直列回路2u,2v,2wをスイッチング制御する。
【0019】
また、マイコン11は、ハイサイドスイッチング素子Q11,Q21,Q31とローサイドスイッチング素子Q12,Q22,Q32とが同時にオンとならないデッドタイムを設けて、交互にオンオフする。
【0020】
図2は、ハイサイドスイッチング素子(HS)Q11,Q21,Q31とローサイドスイッチング素子(LS)Q12,Q22,Q32とに印加するPWM信号の波形を示す図である。
【0021】
マイコン11は、ハイサイドスイッチング素子Q11,Q21,Q31とローサイドスイッチング素子Q12,Q22,Q32とに出力するPWM信号に、デッドタイムtdを設ける。これにより、ハイサイドスイッチング素子Q11,Q21,Q31とローサイドスイッチング素子Q12,Q22,Q32とが共にオフする期間(デッドタイム)が設けられ、瞬間的に同時にオンとならない。
【0022】
デッドタイムtdを設けた場合、相電流Iu,Iv,Iwの連続性が失われる為、相電流Iu,Iv,Iwには歪みが発生し、相電流Iu,Iv,Iwは正弦波状とならない。このデッドタイムが原因の歪みは主に6倍高調波成分として現れる。
【0023】
そこで、マイコン11は、デッドタイムによって生じる誤差電圧を補償するデッドタイム補償を実行する。デッドタイム補償を行うことで、THD(Total Harmonic Distortion:全高調波歪)の値は小さくなる。THDは、高調波成分全体の基本波成分に対する比(歪率)である。このTHDが小さくなるほど、デッドタイムによる歪みは小さく、より正弦波状に近い相電流Iu,Iv,Iwが得られることを意味する。
【0024】
なお、本実施形態に係る電力変換装置1は、出力部OUT1,OUT2,OUT3が電力系統に接続されている。電力変換装置1から電力系統に電流を出力する場合には、THDが約5%以下であることが要求されている。
【0025】
以下に、マイコン11が行うデッドタイム補償について説明する。
【0026】
マイコン11は、直列回路2u,2v,2wのスイッチング周波数fcと、入力部IN1,IN2から入力される直流電圧Vdcと、デッドタイムtdとからデッドタイム補償量ΔVを算出する。デッドタイム補償量ΔVは以下の式で表せる。
【0027】
ΔV[V]=td[ms]×fc[kHz]×Vdc[V]×sign(i)
この算出されたデッドタイム補償量ΔVを、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に加算することで、デッドタイム補償がなされる。
【0028】
ここで、sign(i)は、インダクタLu,Lv,Lwの電流の極性を示し、i>0の場合、sign(i)=1であり、i<0の場合、sign(i)=−1である。デッドタイム期間中は、電流極性に応じてスイッチング素子のボディーダイオード又は還流ダイオードを通ってインダクタLu,Lv,Lwの電流が還流する。すなわち、デッドタイム期間中に直列回路2u,2v,2wから出力される電圧は電流極性による。したがって、相電圧Vu,Vv,Vwが負の場合、正のデッドタイム補償量ΔVが加算され、相電圧Vu,Vv,Vwが正の場合、負のデッドタイム補償量ΔVが加算される。
【0029】
また、相電圧Vu,Vv,Vwと相電流Iu,Iv,Iwとには位相差Δθがある。この位相差Δθは電力系統に接続される負荷によってリアルタイムで変動する。このため、マイコン11は、三相交流電圧の位相から、リアルタイムで変動する位相差Δθ分だけずらして、デッドタイム補償量ΔVを電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に加算しないと、より正弦波状に近い相電流Iu,Iv,Iwが得られない。位相差Δθは、本発明に係る「みなし位相差」に相当する。
【0030】
そこで、マイコン11は、以下に説明する最適な位相差Δθを探索する制御を行う。
【0031】
マイコン11は、取得した相電流Iu,Iv,Iwの複素数を用いてdq変換を行い、回転座標系のd軸電流(又はq軸電流)を算出する。マイコン11は、d軸電流(又はq軸電流)の振幅値を検出する。d軸電流及びq軸電流は、三相電動機の回転子が受けるトルク成分の直交2成分に相当するものであるので、三相電流が完全な正弦波であればd軸電流及びq軸電流の変動幅は0である。すなわち、d軸電流及びq軸電流は相電流の高調波歪みと強い相関関係がある。したがって、d軸電流(又はq軸電流)の振幅値が小さくなるように制御すると、相電流Iu,Iv,Iwの歪みは小さくなる。
【0032】
図3は、相電流とd軸電流との波形を示す図である。d軸電流は系統周波数の6倍の周波数で脈動している。
図3の上図及び下図を比べると、d軸電流の振幅が小さくなると、相電流の波形は正弦波状に近似することが読み取れる。
【0033】
マイコン11は、d軸電流(又はq軸電流)の振幅値が小さくなるように、系統電圧の1周期(50Hz又は60Hz)毎に、位相差Δθを、例えば0.1°単位で遅れ方向又は進み方向にずらして調整する。マイコン11は、調整後の位相差Δθ分だけずらして、デッドタイム補償量ΔVを電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に加算する。その結果、d軸電流の振幅値はより小さくなっていく。
【0034】
図4及び
図5は、d軸電流(又はq軸電流)の振幅値が小さくなるように、位相差Δθを調整する方法を説明するための図である。
【0035】
図4に示す例では、期間(A)の開始時に、マイコン11が位相差Δθの初期値として15°を設定し、デッドタイム補償を行った結果、d軸電流の振幅値が5Aとなったものとする。そして、マイコン11は、期間(A)の終わり(期間(B)の始め)に、位相差Δθを進み方向に0.1°ずらし、位相差Δθ=15.1°とする。
【0036】
その結果、期間(B)でのd軸電流の振幅値は、期間(A)での振幅値5Aよりも小さくなっている。マイコン11は、期間(B)の終わり(期間(C)の始め)に、直前の調整時にずらした方向と同方向(進み方向)に位相差Δθをさらに0.1°ずらし、位相差Δθ=15.2°とする。その結果、期間(C)でのd軸電流の振幅値は、期間(B)での振幅値よりもさらに小さくなっている。
【0037】
マイコン11は、前記処理を繰り返す。
【0038】
また、位相差Δθをずらした結果、d軸電流の振幅値が大きくなる場合がある。この場合、直前に位相差Δθをずらした方向と同方向にさらに位相差Δθをずらすと、d軸電流の振幅値はさらに大きくなる可能性が高い。そこで、この場合には、マイコン11は、直前に位相差Δθをずらした方向と反対方向に位相差Δθをずらす。
【0039】
図5に示す例では、期間(D)の開始時に、マイコン11が位相差Δθの初期値として15°を設定し、デッドタイム補償を行った結果、d軸電流の振幅値が3Aとなったものとする。そして、マイコン11は、期間(D)の終わり(期間(E)の始め)において、位相差Δθを進み方向に0.1°ずらし、位相差Δθ=15.1°とする。
【0040】
その結果、期間(E)でのd軸電流の振幅値は、期間(D)での振幅値3Aよりも大きくなっている。この場合には、マイコン11は、直前の調整時でずらした方向と反対方向(遅れ方向)に位相差Δθを0.1°ずらし、位相差Δθ=15°とする。その結果、期間(F)でのd軸電流の振幅値は、期間(E)での振幅値よりも小さくなっている。
【0041】
このように、位相差Δθをずらした結果、d軸電流の振幅値が大きくなった場合、マイコン11は、位相差Δθを、直前にずらした方向と反対方向にずらす。これにより、マイコン11はd軸電流の振幅値が小さくなるように調整する。
【0042】
なお、マイコン11は、検出するd軸電流(又はq軸電流)の振幅値が急峻に変化している場合には、その振幅値をノイズとして除去し、再度振幅値を検出するようにしてもよい。
【0043】
また、
図4及び
図5では位相差Δθを0.1°単位でずらしているが、ずらす単位はこれに限定されない。位相差Δθのずらす単位を小さくすると制御の分解能が高まるが、位相差Δθのずらす単位を小さくする程、フィードバックゲインが小さくなって、応答性が低下するので、位相差Δθのずらす単位は、分解能と応答性を勘案して定めればよい。
【0044】
また、位相差Δθに最適な初期値を設定しておいてもよい。例えば、最適な位相差Δθが10°であって、位相差Δθの初期値を0°としてデッドタイム補償を開始した場合、位相差Δθが最適値となるまでの位相調整を行うため、制御時間が長くなる。そこで、電力系統に応じて、又は電力変換装置1の特性に応じて位相差Δθの初期値を設定すれば、制御時間は短くなる。
【0045】
図6は、デッドタイム補償時の位相差Δθの調整処理を示すフローチャートである。
図6に示す処理はマイコン11により実行される。なお、
図6においては、後述する通り、検出した振幅値が閾値以下であるか否かを判定するフロー(S4やS9)を設けているが、これは本発明における必須構成要素ではない。
【0046】
マイコン11は、直列回路2u,2v,2wのスイッチング周波数fcと、直流電圧Vdcと、デッドタイムtdとからデッドタイム補償量ΔVを算出する(S1)。マイコン11は、位相差Δθ分だけずらして、算出したデッドタイム補償量ΔVを電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に加算する(S2)。このときの位相差Δθは予め設定された初期値である。
【0047】
マイコン11は、検出した電流Iu,Iv,Iwの複素数を用いてdq変換を行い、回転座標系のd軸電流(又はq軸電流)を算出し、d軸電流(又はq軸電流)の振幅値を検出する(S3)。マイコン11は、検出した振幅値が閾値以下であるか否かを判定する(S4)。
図4及び
図5の例では、閾値は1Aである。
【0048】
d軸電流(又はq軸電流)の振幅値が閾値以下である場合(S4:YES)、マイコン11は、S2での位相差Δθを保持する(S5)。マイコン11は、S2の処理に移行する。
【0049】
d軸電流(又はq軸電流)の振幅値が閾値以下でない場合(S4:NO)、マイコン11は、進み方向に位相差Δθを0.1°ずらす(S6)。このときの方向は遅れ方向であってもよい。
【0050】
マイコン11は、調整後の位相差Δθで、S1で算出したデッドタイム補償量ΔVを電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に加算する(S7)。そして、マイコン11は、S3と同様に、d軸電流(又はq軸電流)の振幅値を検出する(S8)。マイコン11は、検出した振幅値が閾値以下であるか否かを判定する(S9)。
【0051】
d軸電流(又はq軸電流)の振幅値が閾値以下である場合(S9:YES)、マイコン11は、S7で用いた位相差Δθを保持する(S5)。d軸電流(又はq軸電流)の振幅値が閾値以下でない場合(S9:NO)、マイコン11は、d軸電流(又はq軸電流)の振幅値が、直前の検出した振幅値よりも小さくなったか否かを判定する(S10)。
【0052】
小さくなった場合(S10:YES)、マイコン11は、S6と同じ進み方向に位相差Δθを0.1°ずらし(S11)、S7の処理を再実行する。小さくなっていない場合(S10:NO)、すなわち振幅値が大きくなった場合、マイコン11は、S6とは反対方向の遅れ方向に位相差Δθを0.1°ずらし(S12)、S7の処理を再実行する。
【0053】
マイコン11は以上の処理を実行することで、最適な位相差Δθを検出でき、精度よくデッドタイム補償を行える。このデッドタイム補償を行うマイコン11は、三軸座標系をdq変換した回転座標系で処理を行うため、演算処理が膨大となることはない。このため、マイコン11へかかる負担は大きくなく、リアルタイムに変化する位相差Δθに追従して、精度よくデッドタイム補償を行える。
【0054】
なお、逆潮流により、電力系統の系統電圧が閾値(例えば107V)を超えた場合、電力系統に無効電力を出力する制御を行う場合がある。詳しくは、マイコン11は、系統周波数を検出し、系統周波数の偏差に基づいて、電力系統へ注入すべき無効電力を算出する。そして、電力変換装置1から出力される電圧が、算出された無効電力に応じたパルス幅となるよう、スイッチング回路をPWM制御する。
【0055】
無効電力を出力することで、d軸電流(又はq軸電流)は変動する。この変動するd軸電流(又はq軸電流)の振幅値に基づいて、デッドタイム補償を行うと、電力変換装置1の出力が安定化しない。このため、電力系統に無効電力を出力する場合、マイコン11は、無効電力を出力する前の位相差Δθを保持し、位相差Δθの調整を停止することが好ましい。これにより、電力変換装置1の出力を安定化できる。この場合、マイコン11は、本発明に係る「無効電力出力制御部」に相当する。